【コラム】Childish Gambino - "This Is America" | アメリカからは逃げられない

Childish Gambinoの新曲"This Is America"が、大きな話題になっている。『Atlanta』やこれまでもChildish Gambinoのミュージックビデオを多く手がけてきたヒロ・ムライが制作した、同曲のミュージックビデオは公開から3日ですでに3000万回再生を突破している。

ソウルフルなサウンドとダークなトラップが折衷されたGambinoらしいサウンドは、もちろん素晴らしいが、この楽曲のインパクトの大きさは、主にミュージックビデオにあると言えるだろう。

まずはミュージックビデオのロケーションを見てみよう。

あるTwitterユーザーはロケーションとなった工場が、ほとんど白色のパーツや部品などで成り立っていることを指摘している。またすでに使い古された比喩ではあるが、工場とはまさにアメリカの大量生産型の資本主義を支えた、アメリカを象徴する場所だといえるだろう。

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またこの工場には所々窓はあり、光は差し込んでいるものの、出口のような場所をビデオ内では見つけることができない。一度この内部に入ってしまうと、一見自由ではあるものの外に出ることができない場所として設定されている。

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楽曲とビデオは、アコースティックギターのメロディーに乗ったコーラス隊の、「イエー、イエー、逃げろ」という陽気なコーラスで始まる。逃げ場のない場所で歌われるそのコーラスを不快に思ったのか、Gambinoはギターを弾く男を射殺し、トラックのムードは一気に不穏なトラップに転じる。またビデオの後半では、「逃げろ」というコーラスを歌うコーラス隊自身もGambinoはライフルで射殺してしまうことになる。

ビデオに戻るとGambinoは狂気すれすれの表情のまま、踊りながら「これがアメリカだ、ガードを緩めるな」と歌い出す。ここでの踊りに注目だ。Huffpostなどの記事で指摘されているように、南アフリカではポピュラーなダンスshokiとgwara gwaraをGambinoと黒人の学生たちが踊っている。

さらにあるTwitterユーザーはこのビデオでのGambinoの上半身裸で踊る姿はアフロビートの帝王Fela Kutiの姿を反映したものだと指摘もしており、Gambinoはこのビデオで自身の身体を、ルーツであるアフリカを感じさせるものへと寄せているのがわかる。これは自らのルーツを誇示することで、アフリカ系アメリカ人の力強さを見せるためのものだろうか。

一面ではそうとも言えるかもしれないが、狂気じみた顔で生真面目にダンスを踊るGambinoの姿からは規格化されたアフリカ性とでもいうべきものを感じ取れる。

あるTwitterユーザーはGambinoの動きに19世紀に白人コメディアンが差別的に黒人を演じたキャラクターJim Crowを模しているとツイートしており、Gambinoは自らのアイデンティティーを誇示しているのではなく、アメリカという社会で生きていくための黒人としての身体性を演じているとも言えるかもしれない。

ダンスの要素はこれだけではない、ビデオ内ではバズを起こしたBlocBoy JBによる"Shoot"ダンスなどもGambinoと黒人の学生たちによって踊られている。しかしその享楽的にみえるダンスの背後で何かが起こっているのがわかる。

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Gambinoたちの背後では、人々が逃げ惑うようなシーンも見ることができるし、何か非常事態のようなものが起こっているのはなんとなくわかるが、しかし具体的には何が起こっているかはわからない。ダンスに阻まれて背後で何が起こっているかわからないのはGambinoがビデオで狙ったことだとTwitterやGeniusのユーザーたちも指摘している。

ではこの狙いはなんだろうか。ここでGambinoは、アメリカにおける黒人の2つの身体のあり方を浮き彫りにしている。1つは"Shoot"ダンスのようにミームとなり、アメリカの大衆文化としてマジョリティーである白人に消費されるような身体性だ。Gambino自身も人気アーティストとして、同じような消費される身体を持っているといえるだろう。そのように消費されつつも、常に暴力の危険にさらされ続けている黒人の身体性が隠されたものだ。進まぬ銃規制により繰り返される大量殺人や、市民を守るはずの警察からの暴力によって、命を落とす黒人の身体については、"Shoot"ダンスなどとは違いSNSでは決して大きくは広まることはなく、常に背後に隠れたままだ。

しかしここで疑問が生まれる。このビデオにおけるGambinoはどちらの身体性を保有しているのだろうか。Gambino自身はトップスターであり、消費されもしなければ、大多数の黒人たちに比べたら命を落とす危険性は少ない環境で暮らしているのは間違いない。ビデオでは彼は人を射殺する側であり、強者のように振舞っているが、しかしそれはあくまで消費される側であることを選択し続ける限りである。では消費するのは誰だろうか、それはもちろんマジョリティーであり、このビデオ内では危機に晒されることのない白人ともいえるし、このビデオを安全地帯から見ている人々とも言える。つまりGambinoはこのビデオ内では自由に振舞っているように思えるが、それも誰か見る人がいることを前提としている行動なのだ。アメリカという1つの構造の中で振舞う限りではGambinoは存在することが許される、しかし外には出ることはできない。

ただこのビデオは銃による暴力などアメリカの問題点を晒しており、意義がある内容だという意見もあるかもしれない。特に私たちのような日本人はそうした異議申し立てを言いやすい立場かもしれない。しかしこのビデオはそうした異議申し立てすら、アメリカはすでに取り込んでしまっているという内容にも見ることができる。

この楽曲には親友が射殺されており、日常的に銃による犯罪が身近で起こってきた21 Savageをはじめとして、Young Thugなどアトランタのラッパーが多く参加している。そうしたリアリティーを歌ってきた21 Savageの歌を消費するということは、アメリカにおける銃の身近さを消費するということである。Gambinoは楽曲の中で「これがアメリカだ、銃はおれのエリアにある」と歌う。アメリカが生む享楽の中に暴力は隠しきれないほど存在している。ビデオには登場しない21 Savageの声が、踊るGambinoとその背後で逃げ惑う人々の姿をつなげてしまう。"Shoot"ダンスを踊る人々と逃げ惑う人々の間には本当は分断などないのだ。

またビデオでは携帯電話を持った黒人の姿も見て取れるが、アメリカではStephon Clarkさん(もちろん黒人だ)が、携帯電話を手にしていたのを銃と間違われ警察に射殺される事件も起きている。それ程までに銃が生活の中に染み込んでしまっているアメリカの荒涼とした姿を映したビデオ。しかしこのビデオで銃規制が実現するだろうか、トランプ政権下のアメリカにおいて、レイシズムは解消されるだろうか。メディアなどはGambinoのビデオの意義を褒め称えることはするだろうが、本当に社会全体が動くかといえば、疑わしい。

ビデオにおけるGambinoはそれすらもわかっているようだ。ビデオの後半でそれまでのような、享楽的なダンスをやめたGambinoは、銃を撃つこともやめてその場を葉巻を吸いながら立ち去ろうとする。ここで見れるのは何をやっても変わらない、銃規制などへの異議申し立てすらも、すでに自身の中に取り込んでしまっているアメリカという壁の分厚さに、打ちひしがれた一人の男の姿にも見える。

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その後のシーンではGambinoは最後の力を振り絞るかのように、自らの力で踊り、抵抗を試みているようにも見える。そこにはミューズとしてSZAの姿もあり、冒頭で射殺されたはずの男も蘇っている。しかし直後にカメラは暗転し、何者かの集団に追われ必死の形相で、逃げるGambinoの姿を映し出す。ここで流れているYoung Thugによる歌詞こそがアメリカのむき出しの姿を見せつけている。「お前はただの1人の黒人だ。お前はただのバーコードだ」と自身が規格化された商品であることを告げ、さらに「お前はただの大型犬だ。裏庭で飼われている」と、どのような力を持ったところで逃れられない運命にあることを告げて曲は終わる。アメリカはアメリカに楯突く人間を許さない、特に黒人は追い続けるとでもいえる苛烈な終わり方だ。

"This is America"という楽曲はアメリカという国が持つ構造を、むき出しのままで見せつけてくる。ここはKanye Westが言うような融和や愛といったワードは、全く通用しないような世界だ。この映像自体はミュージックビデオというフィクションであることを私たちは知っているが、安直な批判をしても全く響かない、複雑に絡み合ったアメリカが音と映像になってドキュメンタリーよりもリアルに映しだされている。

この楽曲は来るべきChildish Gambinoのニューアルバムには収録されないようだが、これを作ってしまった後にGambinoはどういった世界について歌うことができるのだろうか。それほどまでに大きな1曲だといえるだろう。しかしこうした大きな達成をしたGambinoですらアメリカからは逃げることができないのだ。(和田哲郎)

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