【特集】三浦大知 『BEST』| 三浦大知のビートヒストリー

FEATURED  2018.03.07  FNMNL編集部

 ヴォーカル技術とダンス技術がますます安定してきた2011年のサードアルバム『D.M.』は、全体的に大味なサウンドになっている。音楽ライターの猪又孝は『D.M.』について、「ライヴ会場が日増しに拡大していったことで、ドラマティックでメリハリの利いた楽曲が増え、ライヴ・パフォーマンスとヴォーカリゼーションにも磨きがかかった時期」(前掲『ミュージック・マガジン』)だと指摘している。たしかに、"RUN WAY"、"SHOUT IT"などをはじめとする攻撃的なシンセサイザー音は、スタジアムにも対応しそうな派手なサウンドである。ラテンラウンジを現代的にシミュレートした"Illusion Show"のような曲も含め、舞台で魅せるパフォーマーとしての三浦大知を打ち出した作品とも言える。

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そんななかで特筆すべきは、ハードなダブステップの"Black Hole"とダンスホールレゲエの色味を少し持った"Turn Off The Light"だろう。ここには、2010年代のダンスミュージックを牽引するSkrillex、あるいはDiploなどが展開した変則的なビートを歌い/踊りこなすという試みがある。この試みは、次作『The Entertainer』収録の"I’m On Fire"で達成されることになる("I’m On Fire"のMVは、MTVのVMAJ2014でBEST R&B VIDEOを受賞した)。その『The Entertainer』(2013)は、派手なシンセサイザー音とめまぐるしく変化するリズムが特徴的な"I’m On Fire"を中心に構成されていると言える。派手なシンセサイザーのサウンドは、EDM調のリードシングル"Right Now"、"Elevator"とともに、アルバム全体のエネルギッシュで派手な印象を支えている。その一方で、"Spellbound"、"Baby Just Time"といったリズムに趣向を凝らした楽曲も忘れない。『D.M.』と『The Entertainer』がリリースされた2010年代前半、初の日本武道館公演も果たしたこの時期は、パフォーマーとしての躍進を見せた時期だった。

 
2015年のアルバム『FEVER』でまず注目すべきは、表題曲"FEVER"において、The Stereotypesを起用していることである。The Stereotypesは、同時代にはEXOやSHINeeといったKポップの曲を、直後の2016年にはBruno Marsの曲を手掛けた、アメリカのプロデューサーチームである。Robin ThickeやPharrell Williamsの活躍もあり、この時期、ヒップホップやR&Bなどのダンスミュージックが培ったさまざまな蓄積のうえで、ディスコやファンクをアップデートするような試みが展開されていた。現在も続く世界的な流れだろう。Bruno Marsの大ヒットは、そのことの表れとも言える。"FEVER"も西海岸ファンクのアップデート版の曲(Dam Funkを想起する)であり、これまで追求された先鋭的なR&Bと比べると、いくぶんシンプルな楽しいファンクである。この表題曲に顕著なように、アルバム全体に貫かれているのは、R&Bの追求を経たうえでポップスをアップデートするような感覚だ。だから、BACHLOGICが手掛けた"MAKE US DO"のようなサウス・ヒップホップを意識したノリの曲がある一方で、"Welcome!"のようなモータウンっぽくも感じるファンキーなポップスもある。あるいは"music"のような、王道のJポップと思える曲も存在する。ストイックにR&Bのパフォーマンスを追求することで多くの人の支持を得た三浦大知が、いよいよポップスターとしての存在感を示し始めたようにも思える。

最新のオリジナルアルバム『HIT』も、基本的には『FEVER』の延長にあると感じる。つまり、これまで培った方法論や技術はそのままに、多くの人が楽しめるポップスとして提示すること。耳馴染みの良い音楽と思いきや、よくよく聴くと非常に意欲的な挑戦に満ちている。そのような曲が揃っているのが『HIT』だ。冒頭、アコースティックギターから始まる"Darkest Before Dawn"は、さわやかなポップスからきらびやかなEDMになって、ダンスミュージックのスイッチが入る。続く"EXCITE"は、やはりところどころビートが止まって、かなりリズムが取りにくい曲である。しかし、そうと感じさせずに聞かせるのは、三浦大知のヴォーカルがしっかりとビートキープされているからだ。ポップな印象は、ヴォーカル技術に支えられている。

 
そもそも、紅白歌合戦でも歌われたシングル"Cry & Fight"自体、とても挑戦的な曲である。まず、リズムのパターンが非常に細かく、また変化に富んでいる。ハイハットで刻みを入れつつところどころズラしが入るようなビートは、"Black Hole"や"I’m On Fire"に通ずる。ウワモノの派手なサウンドとは裏腹に、とても精密なリズムパターンが作られている。また、アレンジをSeihoが担当していることもあってか、音響派/エレクトロニカの要素も感じる。このエレクトロニカ要素は、ラストを飾る"Hang In There"にも引き継がれ、アルバム全体をクールに締める。このようなエレクトロ的な微分されたリズムもまた、"Keep It Goin’ On"以降、少なからず追求されたもので、三浦大知は見事に歌い上げている。

個人的に驚いたのは、"Darkroom"という曲である。J Dilla的とも言えるもたついたビートにアンビエントなウワモノ。にもかかわらず、そこに絡んでいく三浦大知のヴォーカルの安定感。ビートとウワモノとヴォーカルがそれぞれ好き勝手に独立しているようでありながら、不思議と調和が取れている。このような不穏で魅力的な曲を中盤に入れてくるあたり、とても意欲的な作品作りの姿勢を感じた。多くの現役アーティストがそうであるように、いちばんの代表作は最新作である。『HIT』は、三浦大知の実力と魅力が同時に発揮された傑作だ。

Folderでのデビューからここまで、三浦はその足を止めることなく前進を続けてきた。それは、これまで書いてきたとおりである。その歩みは、おおざっぱに言えば、アメリカの最新モードのブラックミュージックを日本でおこなってきた、ということになる。しかし大事なことは、そんな三浦が、「日本人」の間尺に合わせるような姿勢を取っていない、ということだ。三浦大知は、おもにアメリカのブラックミュージックを参考にしながらパフォーマンスをしてきたが、そこに「日本」のお茶の間サイズにしようという配慮が少しでもあっただろうか。もちろん、「日本」の市場を通じて表現する以上、「日本」的な文脈に巻き込まれることはあるだろうし、それ自体がすぐに悪いというわけでもない。しかし三浦大知に関しては、「和製」という立場に甘んじないという意志によってこそ、自らのパフォーマンスを磨いてきた印象がある。とくに、正確な体内ビートに支えられた、リズムとアクセントを自在に操るようなヴォーカルとダンスは目を見張る。三浦大知のたしかな技術が、表現の幅を広げてきた。

三浦大知はデビューからずっと、自らのパフォーマンスを高めてきた。ごく当然のことのように聞こえるかもしれないが、それは意外と難しいことだ。とくに、「和製○○」にされてしまいがちな「日本」的文脈においては。2000年代、R&Bのシーンにはさまざまなモードの変遷があった。三浦大知は、その変遷と同じ速度でアップデートしようとしていた。それどころか、次のモードを作ろうという気概すら感じる。ポピュラー音楽の大きな渦のなかで、三浦はその体内ビートにしたがって、ひたすらに歌って踊っている。アメリカや日本といった地域性は関係なく、どちらが進んでいるとか遅れているとかも関係なく。その夢中さのさきで、デビューから20年後、三浦大知は屈指のエンターテイナーとして活躍しているのだ。

矢野利裕

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1983年生まれ。批評家/DJ。音楽と文芸を中心に批評活動をしている。著書に『ジャニーズと日本』(講談社現代新書)、共著に『村上春樹と二十一世紀』(おうふう)など。

Info

三浦大知_BEST_JK_2CD+DVD [1点使用の場合はこちら]

三浦大知 - 『BEST』

2018/3/7 Release

三浦大知、初となるベストアルバムが本日リリース
ソロデビュー曲"Keep It Goin’ On"から"U"までの全シングル24曲を網羅したシングルコレクション!
CD初収録となるDREAMS COME TRUE提供楽曲"普通の今夜のことを − let tonight be forever remembered −"、さらに新曲"DIVE!"も加えた全26曲収録!
DVD/Blu-ray付きには上記新曲2曲を含む全25曲のミュージックビデオを収録!

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