【フォトレポート】ゆるふわギャング『Mars Ice House』リリースライブ at 渋谷WWW

派手な色の髪の毛。よれよれだけどポップな古着。YouTubeでゆるふわギャングを初めて観た時、映画「トゥルー・ロマンス」のクリスチャン・スレーターとパトリシア・アークエットを思い出した。これまでも男女のヒップホップデュオはシーンに存在してはいたが、リアルなステディ感をここまであけすけに打ち出したのはゆるふわギャングが初めてだろう。

取材・文 : 宮崎敬太

写真 : Yusuke Yamatani

ゆるふわギャングは、映画『トゥルー・ロマンス』の2人と同じく、最初は儚くて危うげな印象だった。それはスペースシャワーTVの番組『BLACK FILE』で行われたRYUGO ISHIDAのインタビューの影響もあるかもしれない。この時RYUGOは「この間、友達が首吊って死んじゃったんですけど。すぐ死んじゃうんですよ、みんな」と表情なく話して、乾いた笑顔を見せていた。彼の地元は茨城県の土浦だ。東京からさほど遠くない都市ではあるが、その世界観は物理的な距離感以上に異なっていた。

ゆるふわギャングが本格的にスタートしたのは昨年の夏。SOPHIEEがRYUGO ISHIDAと出会って、すぐに意気投合したことに端を発している。2人が"Fuckin' Car"のミュージックビデオをYouTubeで公開すると、RYUGOのソロアルバム『EverydayIsFlyday」がヒップホップファンの間で話題になっていたことも手伝って加速度的にゆるふわギャングの名前は広まっていった。

結成から1年も経たずに、1stアルバム『Mars Ice House』をリリースし、東京・WWWで初のワンマンライブ。この日もRYUGOとSOPHIEEの2人は目的地に向かう車の中で、アクセルを踏む力をゆるめることはなかった。会場はこのライブのために、アルバム『Mars Ice House』のジャケットを思わせるカラフルな照明と、VJ用のスクリーンにもなる前衛的なオブジェで彩られた。ゆるふわの世界観に染まったWWWに"Go! Outside"のイントロが爆音でかかると、場内には観客の熱狂的な歓声が響き渡る。

ゆるふわギャング

ゆるふわギャング

ゆるふわギャング

ゆるふわギャング

まずステージに現れたのはSOPHIEE。なんとブラックのスポーツブラにベルボトムのジャージのみのスタイルで場内の視線を一点に集める。引き締まった腹筋と腕にびっしりと入ったタトゥーに、光る金のグリル。セクシーとクールを全身で表現するSOPHIEEに、女性ファンから黄色い悲鳴があがる。彼女が1ヴァースを歌った後、サングラスをかけたRYUGOが登場して今度は男たちが野太く吠えた。RYUGOはインタビューなどではシャイな表情を見せるが、ステージ上だとヒップでいること、スターでいることになんのてらいも感じさせない。そして録音物だとキッチュなナンバーも、ライブではエモーショナルに生まれ変わる。

ゆるふわギャング

ゆるふわギャング

ゆるふわギャング

ゆるふわギャング

この日のライブは構成や演出も見事だった。前半の"Go! Outside"、"パイレーツ"、"Sad But Good"で場内を極彩色のライティングで染め上げて、まず自分たちの世界観を明確に提示する。続く"YRFW Shit"、"グラセフ"、"Dippin Shake"、では、ゆるふわ的B-BOYスタンスを打ち出す。SOPHIEEの「私をオカズにしてオナニー」("YRFW Shit")や、RYUGOの「優良不良少年だぜ」("Dippin Shake")などといったパンチラインを合唱する爽快感は、ヒップホップのライブでなければ味わうことができない。ゆるふわギャングの2人はかなり個性的だ。だが、2人はステージ上でそのかっこよさを明示的に表現するので、観客はその個性に戸惑うことなくすんなりとを楽しむことができた。

ゆるふわギャング

ゆるふわギャング

ゆるふわギャング

ゆるふわギャング

ライブは"Fuckin' Car"が転調する場面で大きく展開する。それまで閉じられていた正面の緞帳が開き、巨大スクリーンが登場。正面と側面の映像はシンクロしていて、観客は自分がドラッグの幻覚を観ながら車に乗っているような感覚を味わう。ゆるふわの2人は、いつもドライブしながら曲作りをするという。天地がひっくり返った荒涼とした大地。これがゆるふわギャングの原風景なのか? 続く"Hunny Hunt"、"High Time"でも、現実逃避の甘美さと危うさを見事にステージ上で表現していた。

ゆるふわギャング

ゆるふわギャング

ゆるふわギャング

ゆるふわギャング

ゆるふわギャング

ゆるふわギャング

アップテンポなトラップチューン"Stranger"から、ライブは終盤戦に突入する。SOPHIEEのヴォーカル力と、RYUGOの堅実なライミングスキルが完璧に調和したこの曲を歌いながら、2人は自身のテンションをさらに高めていく。そしてシューゲイザーのフィードバックギターとガバのビートがミックスしたスーパーカーの"Free Your Soul"のSEを挟み、"Escape To The Paradaise"になだれ込む。

この曲が始まるとRYUGOは覚醒したかのようにサングラスを外す。そして「暗闇から手を伸ばしな / 暴力じゃもう抑えきれない / Escape To The Paradaise」というラインからラップに強い感情が込める。次のヴァースもまるでリリックを自分に言い聞かせるよう歌い、「これじゃもういけない / ぶっ壊しな / Escape To The Paradaise」というラインでエモーションを爆発させた。そしてSOPHIEEも場内の声援を力に変えて、1ラインごとにパフォーマンスを力強くして、RYUGOの思いに応えた。

ゆるふわギャング

ゆるふわギャング

 

ゆるふわギャング

ゆるふわの2人を含めて、会場にいる全員の総意だった"Don't Stop The Music"で本編を終えるが、RYUGOはすぐにアンコールに応えてステージに帰ってくる。「ここは東京渋谷センター街 / 人混みをかき分けるEvery Night」というフックがWWWというロケーションにぴったりな"東京 OneDay"をソロで歌った。

ゆるふわギャング

ゆるふわギャング

ゆるふわギャング

ゆるふわギャング

ゆるふわギャング

続いてSOPHIEEもステージに戻り、場内に"大丈夫"のイントロが響く。この曲は「何度も諦めたくなる / ほろ苦い経験 / つらいことは誰にでもある / けどよそ見しないで / 幸せならたくさん / また腕の中へ / 夜空を見上げてる / こんな田舎の町で」というRYUGOのフックから始まる。しかしRYUGOは感極まってしまい、このフックを歌うことができなかった。

「すぐ死んじゃうんですよ、みんな」と話していたのはわずか半年前。いまWWWのステージに立つ2人に当時の危うさは感じられない。声を詰まらせるRYUGOの肩をSOPHIEEが抱いて、再び2人で一緒に歌う姿は本当に感動的だった。観客は2人に温かい声援と拍手を送り続ける。そしてRYUGOは「君とならば僕はどこにでも行ける気がしてる」と振り絞るように歌った。

ゆるふわギャング

ゆるふわギャング

ゆるふわギャング

0457_31

ゆるふわギャングは大喝采の中で、最後の1曲"Sunset"を歌って初のワンマンライブを大成功で終えた。2人の目標はグラミー賞を獲ることらしい。今は夢みたいな話かもしれないが、この2人ならば実現してしまうかもしれない。そんな風に感じさせられる夜だった。

ゆるふわギャング

 

ゆるふわギャング「Mars Ice House Release Live」
2017年4月28日 WWW セットリスト
01. Go! Outside
02. パイレーツ
03. Sad But Good
04. YRFW Shit
05. グラセフ feat. Lunv Loyal
06. Dippin' Shake
07. Fuckin' Car
08. Hunny Hunt
09. High Time
10. Stranger
SE. Free Your Soul / スーパーカー
11. Escape To The Paradaise
12. Don't Stop The Music
<アンコール>
13. 東京 OneDay
14. 大丈夫
15. Sunset

RELATED

ゆるふわギャングと踊ってばかりの国によるコラボプロジェクトが7インチでリリース

ゆるふわギャングと下津光史を中心にしたバンド踊ってばかりの国が、昨年11月にリリースしたコラボ作が7インチとしてリリースされる。

『森、道、市場2024』第三弾でAwich、ゆるふわギャング、どんぐりずなどがアナウンス | CANTEENとのコラボステージにはJUMADIBA、lil soft tennis、Peterparker69、ralphなどが登場

愛知・蒲郡で5月に開催される『森、道、市場2024』の第三弾出演者が発表となった。

ゆるふわギャングと踊ってばかりの国が初のコラボEP『no.9』をリリース

ゆるふわギャングが親交の深いバンド踊ってばかりの国と初のコラボEP『no.9』を、明日11/29(水)にリリースする。

MOST POPULAR

【Interview】UKの鬼才The Bugが「俺の感情のピース」と語る新プロジェクト「Sirens」とは

The Bugとして知られるイギリス人アーティストKevin Martinは、これまで主にGod, Techno Animal, The Bug, King Midas Soundとして活動し、変化しながらも、他の誰にも真似できない自らの音楽を貫いてきた、UK及びヨーロッパの音楽界の重要人物である。彼が今回新プロジェクトのSirensという名のショーケースをスタートさせた。彼が「感情のピース」と表現するSirensはどういった音楽なのか、ロンドンでのライブの前日に話を聞いてみた。

【コラム】Childish Gambino - "This Is America" | アメリカからは逃げられない

Childish Gambinoの新曲"This is America"が、大きな話題になっている。『Atlanta』やこれまでもChildish Gambinoのミュージックビデオを多く手がけてきたヒロ・ムライが制作した、同曲のミュージックビデオは公開から3日ですでに3000万回再生を突破している。

Floating Pointsが選ぶ日本産のベストレコードと日本のベストレコード・ショップ

Floating Pointsは昨年11月にリリースした待望のデビュー・アルバム『Elaenia』を引っ提げたワールドツアーを敢行中だ。日本でも10/7の渋谷WWW Xと翌日の朝霧JAMで、評判の高いバンドでのライブセットを披露した。