G.RINA 『LIVE & LEARN』リリースインタビュー | トライ&エラーの先のポップネス

G.RINAが2015年リリースのアルバム『Lotta Love』以来となるニューアルバム『LIVE & LEARN』を1月にリリースした。前作から早いスパンでリリースされた新作は、前作の80'sブギー的なムードを引き継ぎ、よりサウンドはソリッドかつビートのバリエーションも豊かになりつつも、ポップさは失わない作品となっている。

 

鎮座DOPENESS、土岐麻子、yoshiro(underslowjams)、田我流、Kick A Showという多彩なゲストを配し、自分のルーツを振り返りながらもモダンなグルーヴを達成している新作について話を聞いた。

取材・構成 : 和田哲郎

- 前作『Lotta Love』は5年ぶりのアルバムで、今作はそこから短いスパンでのリリースとなりますが、リリースを考えたのはいつ頃からでしょうか?

G.RINA - 2016年の年始くらいで、ちゃんと動き出したのは春くらいかな。レーベルからお話をいただいたので、そこから制作が始まりました。

- 前作は架空のバンドがコンセプトで80'sのブギーテイストを展開した内容でしたが、今回は前作を受け継ぎつつもよりビートに重きが置かれているなと思ったんですがいかがでしょうか?

G.RINA - そうかもしれないですね。それとエレクトリックな色合いも増したと思います。

 

- Eyescreamの昨年のベストをあげるコーナーでKaytranadaをあげられていて、「ハウスのフォーマットでヒップホップをやっている」というコメントをされてたんですが、このアルバムでも言い表せる部分があるのかなと思ったのですが、そういった影響もありますか?

G.RINA - 影響という感じではないですが、Kaytranadaのアウトプットの仕方にシンパシーは感じました。

- G.RINAさんがいつも言ってるのは、ヒップホップやR&Bの影響は常にありつつ、それをそのままのフォーマットでやってもという葛藤みたいなものと戦っているのかなと。

G.RINA - 自分が尊敬しているアーティストたちは、自分のスタイルを模索して、葛藤したりトライ&エラーしてきた人たちだと思うので、自分もそれを怠っちゃいけないとは思っています。

- 自分のルーツ的なものに向き合えるようになったのは、そこから時間が経ったから振り返れるようになったということですか?

G.RINA - 単純に技術的に成長したのもありますし、テイストの大事なところをわかってくれるバンドメンバーと出会えたのも大きいので、ゆっくりしてるかもしれないけど、積み重ねがあっての今だと思います。

- ずっとダブステップをやっていたSkreamがいきなりディスコを出したときがあって、その後Skreamはずっとハウスを作っているんですけど、そういう転換に近いのかなとも思いました。

G.RINA - ああ…Skreamはダブステップをやってる時からすごくポップではあったんですよね。Skreamはどうかわからないですけど、デビューがとんがった作風でも、ルーツには親のディスコやソウルのレコードを聴いてたとか、そういうアーティストって意外と多いから。キャリアの中でそういうところに向かうのはわりとあることかなとも思います。さきほど話したように、技術が向上したり出会いがあったり、機材の進歩もあったりで、わたしもDJでしてきたこととソングライティングの合流地点として、日本語でダンスミュージックを作ろうっていうところに、今はフォーカスできている気がします。

G.RINA

- DJプレイとのギャップがなくなってきたんですね?

G.RINA - 最近は作品と近いプレイをしていますね。特別なオーダーがあれば、そうでないこともするんですけど。

ふと思い出したんですが、私が20代のときはアウトプットの選択肢が少なかったり、クラブミュージックの狭い中でさえ成功していく人へのアンチとか「あれはワック」とか、ポップ恐怖症?そういうのがすごくあったなあと思って。…CDが売れてた時代ってことかもしれないですけど。でもその時代には厳しい批判者だった人たちも今はアイドルが好きとか言ったりしてて、いまはなんてフラットなんだろうって。だから、ちょっと下の世代のためらわずに「ポップでなくちゃ」みたいな感覚、わたしも最初からそこに居たかったな、と感じたりします(笑)

- それは例えば前作に参加しているPUNPEEさんや、G.RINAさんをフィーチャーしたtofubeatsさんとかですかね?すごい考えてはいると思うんですけどアウトプットはポップで。

G.RINA - そうですね、本当はマニアックなのに、そういう人が作るポップなものって、気合いを感じますよね。

- 今作のフィーチャーアーティストもヒップホップアーティストが多いですが、この面子をチョイスしたのはなぜですか?

G.RINA - きっかけは色々ですけど、元々なにかしらの縁があって。ほとんど悩まずに声をかけました。一緒に作ってるってことを誰にも言ってなくても、イベントでブッキングが一緒になったり、何度か顔を合わせることがあって、作りながらあらためて必然性を感じたりして。そもそも、みんなどこかオルタナティブな要素を持ってるアーティストですよね。

- シンガーについては?

G.RINA - 前のアルバムと同じことがしたくなかったっていう点では、自分が歌わない曲があってもいいだろうと思ったんですね。私をシンガーだと思う人は意外だと思うかもしれませんが、プロデュース視点でアーティストを招きたかった。丸々歌ってもらう女性ボーカルとして土岐麻子さんはこれまでも縁がありましたし一番ふさわしい方だなと思いました。

- 土岐さんがボーカルで入ってる曲も作詞はG.RINAさんがやっていますよね、G.RINAさん自身が歌ってる曲に比べると土岐さんが歌っている曲は、甘い歌詞だなと思うんですが、そのあたりはいかがでしょうか?

G.RINA - 全曲そうなんですが、参加してもらえるってなったときにその人にあてて、そして私のアルバムに並ぶっていう全体のイメージの上で書きました。なので土岐さんにお会いして、タイ料理食べながらいろいろおしゃべりしつつインスピレーションをもらって。歌ってもらうんだったらご本人が書かないような歌詞の感じにしたいなと。

- なるほど、歌詞の世界観も統一感があるなと思って、恋愛を歌っている歌詞もすごい不安定な感じもあって、それは書いているとそうなってしまうんですか?

G.RINA - そう感じましたか?みなさん違う感想を伝えてくださるので、わたしも面白いです。アルバム全体としては人ははっきりしない感情・割り切れない感情に支配されているっていう感じがベースになっているかなとは思います。

- 割り切れなさがウェットになる人もいると思うんですけど、割り切れないんだけどポジティブになっているというか、前を向いているっていうのが印象的です。

G.RINA - Dam Funkがインタビューで「ファンクを一言でいうと?」という質問に「涙を流しながら微笑んでるのがファンクだ」って言っていて。こういった音楽にどうにもこうにも惹かれてしまうところは、まさにこれだなと、悔しいくらいに良い表現だなと思いました。わたしは背反する感情やウェットな気持ちほどカラっと、あるいは少し距離をとって表現したいなと思っています。

- yoshiro(underslowjams)さんとの曲では男性目線で歌詞を書いてるじゃないですか、そういう時はどういうものを想像して書くんですか?

G.RINA - yoshiroさんの声にはすごく色気を感じていたので、艶っぽいソウルミュージックにできたらなあと思っていました。

- ちょっと情けないけど、セクシーな世界ですよね。

G.RINA - 情けないくらいが、セクシーだなあと思って。男女たったふたりの世界を描いているんですけど、サウンドがドラマチックというのも、ちょっと哀しく可笑しいような人間味が出るといいなと思いました。

- 田我流さんと鎮座さんは歌詞は書いてもらっているんですよね、こういうテーマでというのを伝えたんですか?

G.RINA - 田我流くんの場合は先に自分のパートを入れてから入れてもらって、そこでそのあと微調整みたいなオーソドックスなやり方で、鎮座ドープネスくんの場合はトラックだけの状態から、どうしようかってミーティングをして、スタジオで合宿のような4日間くらい、ああでもないこうでもないっていうのをやってできました。この作業は超イレギュラーでした!

- それでああいうシンセ賛歌が出来上がったんですね。田我流さんの曲は、あれも一夏の刹那的なもので。

G.RINA - まだ答えは出てない、一夏で終わらない余韻を残していますよ(笑)。

- 相手が消えそうみたいな幽霊的な感じって常にG.RINAさんの歌詞にあったなって思い出したんですよね。

G.RINA - ふふふ、そうですか。恥ずかしくなってきましたね(笑)。

- 冒頭で話にでてきたK-Popのことも聴きたいんですけど、韓国のアーティストはUSのものをそのままやっていて、でもそれをG.RINAさんも楽しんでいるじゃないですか?

G.RINA - 自分で作るときにはいろいろこだわりとか考えるところはありますけど、リスナーとして楽しむものに必ずしも同じことは求めていないというか、気楽に面白がっている部分もあります。K-Popもそうですね。K-Popは秒速でアメリカの流行を追ったR&Bやヒップホップを出してくるので、そのスピード感も面白いのと、その上でメロディにアジア系のダシが効いてるところがあって聴きやすいんですよ。 それとブラックミュージックの隆盛は世界的な動きだけど、日本がむしろ独特で、アイドルが沢山いる中でもR&Bや黒いサウンドの曲が少ないですよね。日本の中でもほぼK-Popの独壇場。なぜ日本にSHINeeのようなアイドルがいないんだろうっていうところにもすごく興味があって。それはフィジカルよりも、メンタルかなと思っていて、韓国の人はメンタリティでブラック文化ともしかして親和性が高いのかなと。そういうことを考えるのが好きなんですね。まあその話は長くなりそうなのでまた今度ゆっくりさせてください(笑)。

 

- では話を戻しますね。今作では前作をよりソリッドにというところがあって、その先というのは何か考えていますか?

G.RINA - 前作今作とじぶんでも予想外の早いペースでリリースになりましたが、どちらもいろいろ注ぎ込んで作ったものなので、それをどうやっていろんな人に聴いてもらうかをもっと考えたいです。

そのひとつとしてライヴも大切で。前作からMidnight Sunというバンド形態でやっているんですが、クールで踊れる、大人な音楽をショウタイムという感じでやりたいんです。個々にいろんな背景のあるメンバーを集めていますし、みんなの魅力を出してもらいながら、アルバムの曲を盤とは違う温度でサーブしたいですね。

 

- いま思いついたんですけど、The Internetとかとも近いのかなって。

G.RINA - いいバランスですよね。彼らは音はR&Bなんだけどヒップホップバンドだなって感じがする、佇まいも。

- 彼らのライヴはアルバムよりやんちゃな感じもありますね。

G.RINA - わたしの場合はアルバムは打ち込みで作っている部分が大きいので、生になれば大きな違いがでてくるけれど、それがまたあらためて面白いっていうところまで到達したいですよね。

衣装やダンスにもこだわって、それこそ80sディスコとヒップホップを折衷したようなショウをやりたいと思っています。観ているひとも、思い思いに踊りたくなったり、おしゃれして来たくなるような…。そういう空間を作れればと思います。

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LINE MUSICではG.RINAがアルバム『LIVE & LEARN』と一緒に楽しみたい曲をチョイスしたプレイリストを公開中。

Release Info

Live & Learn

●アーティスト:G.RINA (ジー・リナ)

●タイトル:LIVE & LEARN (リヴ・アンド・ラーン)

●発売:2017年1月11日(水)

●収録曲:

1.想像未来 feat. 鎮座DOPENESS

2.close2u

3.All Around The World feat. 土岐麻子

4.そばにおいで

5.フライデーラヴ feat. yoshiro(underslowjams)

6.街のレクイエム

7.memories

8.夏のめまい feat. 田我流

9.ヴァンパイア  ハンティング feat. Kick A Show

10.しあわせの準備

 

<ライヴ情報>

●タイトル:G.RINA & Midnight Sun LIVE & LEARN リリースワンマンショウ with Guests

●ゲスト /

鎮座DOPENESS

土岐麻子

yoshiro(underslowjams)

田我流

Kick A Show

(アルバム収録順)

Midnight Sun(KASHIF (guitar)、光永渉(drs)、Ig_arashi (kbd)、厚海義朗(b)、asuka ando(cho)、Yacheemi (dancer))
●日時:2017年3月2日(木)  19:00時開場 20:00時開演
●料金:前売 3,300円(1ドリンク別) *特典あり
●チケット:一般発売/1月14日(土)
●プレイガイド情報:e+ / ローソンチケット / WWW店頭
●問い合わせ:渋谷WWW TEL: 03-5458-7685

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