The Bug presents 'Sirens' . Photos c/o Gergely Csatari

【Interview】UKの鬼才The Bugが「俺の感情のピース」と語る新プロジェクト「Sirens」とは

FEATURED  2016.11.08

The Bugとして知られるイギリス人アーティストKevin Martinは、これまで主にGod, Techno Animal, The Bug, King Midas Soundとして活動し、変化しながらも、他の誰にも真似できない自らの音楽を貫いてきた、UK及びヨーロッパの音楽界の重要人物である。彼が今回新プロジェクトのSirensという名のショーケースをスタートさせた。彼が「感情のピース」と表現するSirensはどういった音楽なのか、ロンドンでのライブの前日に話を聞いてみた。

取材 : 高倉宏司

- The BugやKing Midas Soundとも違う新しいプロジェクトSirensとはどういったものか?

The Bug - Sirensは45分間の音楽作品で、俺の感情のピースなんだ。きっかけは2年前に俺の良き友人であるNick(Nick Nowak: ベルリン在住のアーティスト。サウンドシステムを搭載した戦車等のアートワークで知られる)に、彼の展示でのショーとその為の音楽を依頼されたことだ。その時期はちょうど俺の妻が臨月前後の時で、予定していたライブを全てキャンセルしなければいけなかったが、Nickからの仕事だけは断りたくなかった。そうやって書いた音楽がSirensだ。

-Nick Nowarkから依頼された時は、どういった音楽にして欲しいかリクエストがあったのか?

The Bug - 全くなかったね。でも今までに俺が書いた事が無いタイプの曲にしてくれという事だった。そして俺のサウンドシステムを使ってショーをしてくれという事だった。俺のサウンドシステムは倉庫に、14年間眠っていて、全く使ってなかったからね。初期のアイデアでは、リズムやビートがない、アンビエントな曲を作ろうと思ってた。アンビエントは普通静かなボリュームでBGM的に聞かれる事が多いが、俺はアンビエントという音色を中心とした、ビートの無い音楽をエクストリームな爆音で聞くのが好きだからな。

でも曲を書いた時期は、俺の人生の中でも、凄く難しい時間だったんだ。息子のフィンリーを生んだあとすぐに、妻は集中治療室に入って、命を失いかけた。息子も生まれてからの半年で、命に関わる手術を2回も受けなければいけなかったんだ。そんな時期に書いた曲だから、俺の感情がダイレクトに反映されている。集中治療室で4週間過ごした事もあったし、妻を亡くしてしまう可能性や、息子が手術を乗り越えられない可能性もあった。だからSirensはもの凄くパーソナルな曲なんだよ。ジェットコースターのように感情の起伏が激しい時期だった。

実際にSirensのショーの前日に、フィンリーの手術が終わり一旦容態が良くなったが、ショーの翌日に連絡があり、また容態が悪化し、再び大きな手術を受けなければならなくなった。そういった状況を経験した。だから今振り返って考えてみると、俺にとってのSirensは、命に対してのセレブレーションなんだ。困難な状況を戦い抜いて、生きるという決意をした、フィンリーと妻に対してのセレブレーションだ。俺が3度も直面した恐怖がSirensに含まれているから、凄く感情的で、普段のThe Bugのショーとは全く違うものになっている。もちろん普段のThe Bugらしさもあるけど、Poison DartやSkengを聞きにショーに来た人はがっかりするだろうな。この強烈なピースは観る人によって感じ方が違うと思う。

- 45分間1曲が続くという事?

The Bug - 曲ではない。フォグホーン、ダブサイレン、ドローンベース、ホワイトノイズとエフェクト等で構成された音楽のピースで、一つ一つの音を目的を持って選んでいる。俺の人生で最も起伏が激しかった時期の感情を音楽として反響させているから、美しくメロディックでヴォリュームの小さい展開から、今までの人生で聞いた事もないような強烈なホワイトノイズを浴びせるといった展開になっている。

俺は海のある街で育って、小さい頃に海辺をよく散歩したんだけど、沖に停まっている船から聞こえるフォグホーン(船舶から場所を知らせる汽笛)の音が好きだったんだ。浜辺に座ってずっとその音を聞いていた。そのフォグホーンの音をSirensでも使っている。したがって、Sirensは俺の過去、現在と未来でもあるんだ。

- その音楽のピースをどうやってライブで演奏するのか?

The Bug - 基本的な音はNative InstrumentsのMachineに入っていて、ドラムマシーンやシンセからの音を重ねてプレイする。その上にデジタルディレイやリヴァーブのエフェクト•ペダルをかましていく。もちろんダブサイレンも。そうやって大きな音楽の壁を創るんだ。そして照明とスモークも大事なショーの一部だ。観客に体験して欲しいのは、テイト•モダン(ロンドン近代美術館)でマーク・ロスコの絵画が展示されている部屋に入った時の感覚だ。彼の色彩、トーン、雰囲気を再現したかった。何度訪れても、彼の作品の部屋に足を踏み入れる時は、何か宗教的な体験をしているように感じるんだ。

Sirensのショーも音楽というよりも一種の、スピリチュアルかつ残酷な体験なんだ。だから照明の使い方もエクストリームなんだ。ほとんどインスタレーションだね。観るというよりも感じて欲しい。現れては消える、音、光と、知覚、感情のショーなんだ。照明については、かなり細かく厳しく指示を出している。重要な部分だからね。明日(インタビューはショーの前日に行われた)のショーも照明の用意が十分にできてない状況だったから、昨日までキャンセルしようと思っていた。

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The Bug presents 'Sirens' . Photos c/o Gergely Csatari

- 今までどこでSirensのショーを演ったか?またどんな反応が返ってきているか?

The Bug - まだ4回だね。Sirensを書くきっかけとなったNick Nowakのエキシビジョンで、俺のサウンドシステムのお披露目にもなったショーが1回目、その後ドイツのハイデルバルクとLAで、最近ハンガリーのブダペストでもプレイした。初めて演った時は、まだ完成していなかったが、今はSirensは完成したと言えるだろう。LAのショーではLiz Harris(Grouper)を招いて即興で歌とサウンドを加えてもらったが、正直そのライブが上手くいったかは分からない。Sirensのピースは俺の個人的な経験からくる単数形の音楽だから、他のアーティストと絡んで良くなるかどうかはわからないんだ。

The BUG
The Bug presents 'Sirens' . Photos c/o Gergely Csatari

今のところ良いフィードバックが返ってきてて、そういった曲ができた背景を知らない人も楽しんでくれているみたいだ。ブダペストでのショーの後、癌を克服したばかりのファンが感想をくれて、彼女はショーの半分くらいを涙を流しながら見ていたらしい。ショーが終わった後、彼女は感動して、ショーが彼女のセラピーになったと言ってくれた。そういたリアクションは俺にとって重要だし心に響く。表現したかった事ができているって事だからな。

Sirensは一般的なエンターテイメントではない。以前から言っているが、俺は平均的な物が大嫌いなんだ。Sirensはつまらない一部のハウスやテクノのような音楽と、全く逆の音楽なんだ。リアルで不誠実で感情が反映された音楽の塊だ。そういう時期だったから、パニックや恐怖の要素が含まれている。もちろん美しさも。そのバランスを取ろうとした。俺は観客がショーの途中で席を離れても全く構わない。彼ら次第だ。

インタビューの翌日に同名のフェティバルが運営する東ロンドンのウェアハウスBlocでSirensのショーを観たのだが、The Bug本人が言っていた通りインスタレーションに近いという表現があてはまるライブであった。激しくたかれたスモークで50センチ先も見えない中、轟音で唸るダブサイレンでショーは幕を開け、反復するサイレン音によって彼の世界観の中へ引き込まれた後、誕生した生命の神秘と訪れた幸福を表現するようなアンビエントサウンドで空間が丸くなった後に、全身に衝突してくるかのような錯覚を引き起こす程の音量のノイズとベースをウェアハウス内の観客は浴びた。

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The Bug presents 'Sirens' . Photos c/o Gergely Csatari

そのノイズと、同時に強烈に点滅するライトにより、狂気や残酷さを感じるのだが、もし自身をその空間に委ねる事ができれば、深い瞑想的な空間にもなるという印象を受けた。その後も地獄と天国を行き来するような変化があり、個人的には45分間のライブはかなり短く感じられた。The Bug自身が「パーソナル」と言っていた通りの個人の意思や感情と世界観が凝縮された彼の新しいプロジェクトSirens。もしヨーロッパ又は日本で観る機会があればぜひ体験し、自身で判断して欲しい。

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