【インタビュー】butaji × Flower.far “True Colors” | クィアの私たちを祝福する

私が私らしく生きるために、私たちが私たちらしく生きていくための歌。6月のプライドマンスに合わせた、シンガーソングライターのbutajiとタイのシンガーFlower.farのコラボレーションシングル“True Colors”はそんな一曲だ。

バイセクシュアルであることをカミングアウトしているbutajiとタイのLGBTQコミュニティを積極的にサポートしているFlower.farの今回のコラボレーションは、国籍やジェンダー/セクシュアリティを超えて作り上げられたものだが、それ以前に個人と個人が深く共鳴して生まれたものでもあるだろう。「パレードが続くランウェイ」とbutajiが歌えば、Flower.farは「I wear my happiness as my pride」と宣言する。それぞれの「プライド」への想いが響き合うダンスアンセムだ。

“True Colors”が生まれた背景について、そして現代におけるプライドソングのあり方について、ふたりに話を聞いた。

取材・構成 : 木津毅

撮影 : 三浦大輝

- Flower.farさんは、東京は何度目ですか?

Flower.far - 2度目です。

- どんな印象がありますか?

Flower.far - 綺麗で整った街という印象がありますね。

- バンコクと似ているところは感じますか?

Flower.far - 街にいる人がファッションで自己表現をしているのが似ていると思います。日本らしさがありつつ、海外からの影響をうまく取り入れているのもタイと共通していると感じますね。マイナーではなく、インディペンデントな感覚というか。

- なるほど。では今回のコラボレーションについてお聞きしたのですが、プライドソングを制作する企画について最初にどのように感じましたか?

butaji - 正直に言うと、ついに来たか、って感じですね。2018年の『告白』というアルバムのリリース時にカミングアウトしてから、自分のなかにあるものを外側に向けて積み上げてきたことが結実したんだろうな、と思いました。嬉しかったですよ。

- 僕もbutajiさんがカミングアウトしてからの活動を見てきたので、感慨深いものがあります。

butaji - 今回のお話しが来たのと、自分がやりたいタイミングがここまで一致したのは奇跡だったかもしれないですね。もうちょっと若かったら自分の精神衛生みたいなものを優先していたかもしれないですが、いまは自分のやりたいことやエゴと外側にあるもののバランスが取れるんじゃないかと思えました。それも嬉しかったですね。

- Flower.farさんはいかがですか?

Flower.far - 私も以前からLGBTQコミュニティをサポートしたい気持ちがあったので、今回このコレボレーションができて嬉しく思っていますし、私らしいことができたなと感じています。それにクリエイティヴな意味でも繋がっていて、表現としても100パーセントやりたいことができました。この曲は私の気持ちをシンプルに表現したものなので、リスナーのみなさんにも同じ気持ちになってもらえたら嬉しいですね。

- Flower.farさんはプライドイベントにご出演される予定なんですよね。(※取材日は6月中旬)

Flower.far - 6月の29・30日におこなわれるサムイ島のプライドイベントに出ます。もともとレーベルの〈YUPP!〉自体がプライドイベントやLGBTQコミュニティをサポートしているんですよ。私自身、イベントをとても楽しみにしていますね。

- なるほど、そうだったんですね。butajiさんはこれまでイ・ランさんとライヴで共演していますし、Flower.farさんは3Houseさんと“U&I”でコラボレーションしていますよね。海外のアーティストとコラボレーションする面白さはどんなところにあると感じますか?

butaji - 前提として私はソロで活動しているので、他のひとと制作すること自体がメインではないんですよ。だからこそ、相手がどんな方であっても誰かといっしょに作っていくプロセスは毎回まったく違うものになる。まずそこが面白いと思っていますね。それから、コラボレーションにおいては、制作しながら相手の文化的なバックグラウンドを知っていく必要があると思います。その経験はその後の自分の作品に返ってくるだろうから、とても光栄な機会だと感じますね。

Flower.far - 私は海外の方とコラボレーションすると、それぞれの文化や考え方の違いが見えてくるのが興味深いですね。私自身、その経験から学ぶことが多くあります。

- “TRUE COLORS”に関しては、明確にプライドソングとして意識して作られていますよね。butajiさんの作詞のパートではパレードのイメージが出てきますし。クィアカルチャーやコミュニティの結びつきというところはかなり意識されたのでしょうか。

butaji - もちろんです。そこが柱になっていないと作っても仕方ないというか。めちゃくちゃ些細なことを歌っているのになぜかわかる、というのがポップスの良さだと思うんですよ。そういう側面を私は信用しているので……歌詞については、私たちクィア以外のことはあまり考えていなかったかもしれないです。

- まずはクィアに届く歌であることが一番大切だったと。

butaji - そうですね。

- そこはFlower.farさんが担当された歌詞も呼応するものになっていると思います。とくに「I wear my happiness as my pride」というところが印象的ですが、これはどのように出てきたフレーズだったのでしょうか?

Flower.far - 今回の歌詞は別の方にも手伝ってもらっていたのですが、ふたりで決めたイメージがありました。それは、100パーセント自分が出せる色。それがはじめのコンセプトでした。そこを軸に今回の歌詞は書いたのですが、その部分も、そうしたマインドで生まれたものです。それから、自信を持つこと、前向きでいようということ、その精神でこの歌詞を書きました。

- 今回、歌詞に「私たち」という言葉もありますし、コーラスでみんなで歌ったり、ビートでみんなで踊ったりできる曲になっているのが印象的でした。そういう意味で、「みんなの歌」である、というのは意識されていましたか?

butaji - それはもちろんそうなんですけど、私は「私たち」という歌詞が苦手なんですよ。みんな個だから。

- なるほど。

butaji - だから「私たち」という言葉を使うときは自分が納得できる理由が必要なんですけど、今回は、同じ苦しみをくぐり抜けてきた「私たち」に向けて歌いたいと考えたんです。そこに向けての祝福や祝祭を描きたかった。ただ、その「私たち」は本当に「私たち」なのかな、とは思いました。

- というと?

butaji - どこまで「私たち」と呼んでいいのか……ただ、私が想定しているところで言うと、クィアなんですよ。クィアとしての「私たち」です。その私たちのための祝福ということを考えていました。

- なるほど。音楽的にはどうですか? 踊れるという意味で、アンセミックな側面もありますよね。

butaji - そこはMETさんのビートが大きいですよね。あと、Flower.farさんがラフの段階でメロディを送ってくださったときに全体を見て決めていったので、farさんが引っ張ってくれたところも大きいですね。

- Flower.farさんはそこはいかがですか?

Flower.far - はい、まさにそうですね。仲間といっしょに歩いていこうというイメージの歌なので、そのヴィジュアルを想像するところから音楽的な形になった部分もあります。

- この曲はデュエットならではの色気があるのもいいですよね。おふたりは完成したトラックを聴いて、お互いのシンガーあるいはミュージシャンとしての魅力はどういうところにあると思いますか?

butaji - 私はFlower.farさんの歌声の伸びやかなところがとても魅力的だと思っています。どんな音域でもずっと伸びやかなんですよね。重くなりすぎないところがこのトラックにもすごく合っているし。

Flower.far - butajiさんの歌詞や音楽を聴くと、壁を壊すようなエネルギーが感じられて、そこがまず魅力的だと思いました。自分もいっしょに壁を壊したいという気持ちにさせられるというか。

- おふたりはこの曲の魅力をどういうところに感じますか?

butaji - たくさん言いたいことがあるんですけど、もしかすると歌のフェイク(※歌のメロディを崩すテクニック)の部分がこの曲を象徴しているかもしれないですね。そこに伸びやかさがあるところが通底しているというか。

Flower.far - 私は、違う文化が背景にあるふたりが同じテーマやフィーリングを目指しているところがこの曲の魅力であり、面白さだと感じています。同じメッセージを叫び、同じように壁を壊すことができる。そのイメージを想像すると、素敵だなと思います。もともとは違う人間なんだけど、同じような部分があると感じながら今回作っていました。

- すごく共鳴する部分があったと。

Flower.far - そうですね。

- Flower.farさんにお聞きしたいんですけど、今年はタイで同性婚が法制化されるニュースもありましたし、外から見ていると、タイはLGBTQに対して寛容なイメージがあります。人権的な意味では日本より進んでいるところもあるのかな、と。Flower.farさんの目から見て、どんな風に感じていますか?

Flower.far - タイはLGBTQに関してもともと超オープンな国なので、基本的に寛容だとは思います。ただ、それでも攻撃してくるひとはいるので、コミュニティとして闘わないといけないところはまだまだ必要だし、コミュニティをサポートすることも大切だと感じます。

- なるほど。そこは日本もそうだし、世界的にも共通するところかもしれないですね。butajiさんは日本の現状をどう感じていますか?

butaji - まだ同性婚が達成していないので、そこはひとつの目標になるだろうなとは思います。だからそこはサポートしたいです。ただ、国内のアンケートを見ると、同性婚の話もそうだし、LGBTQに対して肯定的だという結果があるんですけど、翻ってみると、無関心という側面もあると思うんです。寛大であればクィアの人びとが傷つかないわけではない。知識が備わってないとつねに傷つける可能性はあるから。そこを学んでいくことの課題は最後まで残るだろうと思います。

- たしかに。そういったアンケート結果も、積極的に肯定しているというよりも、どこか他人事のような感じはあるかもしれないと僕も感じることがあります。だからタイに学ぶところはあるだろうなと個人的には感じています。だからこそ今回は国を超えたプライドソングであることに意味があると思うのですが、おふたりはなぜプライドソングというものが大切だと感じますか?

butaji - 私は今回の制作で考えたのは、マジョリティの人たちに認めてもらうためのアプローチではなくて……そもそも認める/認められる、という構図自体が間違っているので。だから、もうすでにクィアの人びとがここにいる、ということに向けて相づちを打つような曲になればいいと考えていました。そこで突き抜けてチアフルになると説得力がない。トラウマは消えないので。そうしたことを経験してきた「私たち」がいま、ここにいるということ。そこに向けた相づちのような曲にしたいと思っていました。

Flower.far - タイのアーティストは、まるで叫ぶように自分の想いを思いっきり表現しているんです。だからプライドについての表現も、タイのやり方でやることが大切だと考えていました。とくにいまはソーシャルメディアもあるので、アートが多くのひと、遠くのひとに届くことが大切だと思います。

- では最後に、今回の曲でアーティストとして達成できたと感じていることを教えてください。

butaji - 親密さをヴォーカルとして表現することはレコーディング芸術だと私は考えているんですけど、今回のヴォーカルはその理想を目指したところがあります。そのチャレンジが私にとって大きな経験になったと感じます。

- そうした親密さが今回のテーマでこそ出てきたというのは、butajiさんらしいところだと思います。

butaji - そうですね。

- Flower.farさんはいかですか?

Flower.far - 今回はとにかく自分らしいコミュニケーションができて、アーティストとして幸福なことだと感じています。

Info

butaji, Flower.far and MET
True Colors
SPACE SHOWER MUSIC
2024.6.26 Release
https://butaji.lnk.to/TrueColors

RELATED

【インタビュー】DYGL 『Cut the Collar』| 楽しい場を作るという意味でのロック

DYGLが先ごろ発表したニューEP『Cut the Collar』は、自由を謳歌するバンドの現在地をそのまま鳴らしたかのような作品だ。

【インタビュー】maya ongaku 『Electronic Phantoms』| 亡霊 / AI / シンクロニシティ

GURUGURU BRAIN/BAYON PRODUCTIONから共同リリースされたデビュー・アルバム『Approach to Anima』が幅広いリスナーの評価を受け、ヨーロッパ・ツアーを含む積極的なライブ活動で数多くの観客を魅了してきたバンド、maya ongaku

【インタビュー】Minchanbaby | 活動終了について

Minchanbabyがラッパー活動を終了した。突如SNSで発表されたその情報は驚きをもって迎えられたが、それもそのはず、近年も彼は精力的にリリースを続けていたからだ。詳細も分からないまま活動終了となってから数か月が経ったある日、突然「誰か最後に活動を振り返ってインタビューしてくれるライターさんや...

MOST POPULAR

【Interview】UKの鬼才The Bugが「俺の感情のピース」と語る新プロジェクト「Sirens」とは

The Bugとして知られるイギリス人アーティストKevin Martinは、これまで主にGod, Techno Animal, The Bug, King Midas Soundとして活動し、変化しながらも、他の誰にも真似できない自らの音楽を貫いてきた、UK及びヨーロッパの音楽界の重要人物である。彼が今回新プロジェクトのSirensという名のショーケースをスタートさせた。彼が「感情のピース」と表現するSirensはどういった音楽なのか、ロンドンでのライブの前日に話を聞いてみた。

【コラム】Childish Gambino - "This Is America" | アメリカからは逃げられない

Childish Gambinoの新曲"This is America"が、大きな話題になっている。『Atlanta』やこれまでもChildish Gambinoのミュージックビデオを多く手がけてきたヒロ・ムライが制作した、同曲のミュージックビデオは公開から3日ですでに3000万回再生を突破している。

Floating Pointsが選ぶ日本産のベストレコードと日本のベストレコード・ショップ

Floating Pointsは昨年11月にリリースした待望のデビュー・アルバム『Elaenia』を引っ提げたワールドツアーを敢行中だ。日本でも10/7の渋谷WWW Xと翌日の朝霧JAMで、評判の高いバンドでのライブセットを披露した。