【ライブレポート】XG 『'NEW DNA' SHOWCASE in JAPAN』| 宇宙への道の第一歩

11月26日、ぴあアリーナMMは異様な熱気に包まれていた。ついにXGが日本における初の有観客単独ライブを行なったその日、選ばれしチケットを手にした幸運なALPHAZ(XGファンの呼称)たちが、それぞれ思い思いのコーディネートで会場を彩っていたのだ。『XG ‘NEW DNA’ SHOWCASE in JAPAN』と銘打たれた今回のショウへ集まった応募数は、実に20万件以上。昼と夜で2回開催された記念すべきショーケースについて、本記事では夜の部のレポートをお届けする。

XGの単独公演がなぜこれほどまでに熱狂を呼んだかというと、デビューから現在に至るまでライブやメディアプロモーションなどにおいて海外を主戦場としてきたから、というのもあるだろう。『Head In The Clouds』のニューヨーク公演とロサンゼルス公演、『F1 Singapore Fes』や『SXSW Sydney』『Hyperound』といったシンガポール、シドニー、アブダビのフェス出演など各国で圧倒的なパフォーマンスを披露するも、日本での公演は『KCON』と『TGC 2023 A/W』のみで、どちらも短い出演時間だった。だからこそ、単独公演は貴重な機会だ。一体XGはどのような世界観で魅せるのだろうかと、事前にSNSでも様々な期待や憶測が飛び交っていた。

まず、ライブ開始前のBGMが非常に興味深い選曲だった。TLC "Waterfalls"から始まり、Blackstreet"No Diggity feat.Dr. Dre&Queen Pen"、Ginuwine"Pony"、Marques Houston"That Girl"、Mary J. Blige"Mary Jane(All Night Long)"、さらにMichael Jacksonの"Hold My Hand with Akon"、"Rock With You"を経て、Ray J "One Wish"、Lauryn Hill "Doo Wop(That Thing)"、そしてBlack Eyed Peas "Where Is The Love?"というラインナップ。見事にアメリカのソウル~R&B~ヒップホップが並ぶが、GALZ XYPHER企画をはじめとして、これまでずっとこのジャンルへの愛を宣言してきたXGだけに筋の通った選曲だ。

JURIN
MAYA

19:00、"Where Is The Love?"の音量が上がり、客席のボルテージが高まっていく。中央のステージに目隠しをした7人が登場、スモークが焚かれそれぞれに照明が当たる中、"HESONOO"が流れる。固唾を飲んで見守るALPHAZたち。円形に配置されたマイクにメンバーが散り散りになり、"X-GENE"のサイバーなイントロが鳴ると同時に割れんばかりの歓声が巻き起こった。JURINが目隠しを外し、圧倒的な高速マイクリレーの口火が切られ、次々にラップを繋げスポットライトを浴びる7人に鳥肌が立つ。毎度のことながらぴあアリーナMMの音響はすばらしく、"X-GENE"の肝である低域の音が鋭い切れ味でぐさぐさと刺さる。ついに始まってしまった――会場にALPHAZの様々な想いが錯綜しているのが伝わってくる。何とも形容しがたい、ふわふわした空気感だ。"X-GENE"がライブ初披露の曲だったというのもあるのだろう、目の前で起きている出来事に対して、まだ皆の思考が追いついていないような様子。それでもXGは、「ついてきて」と言わんばかりにスピードに乗って飛ばしまくる。

JURIA

オープニング曲が駆け抜けるように終わり、スクリーンにメンバー紹介が投影されたのちに"GRL GVNG"へ。海外での初披露時に椅子を使ったシアトリカルな演出が話題になったが、ここでも同様の舞台を見せた。吹き出す炎を前に、スクリーンもライトも真っ赤な演出でギラギラしたガール・ギャング像を提示。フォーメーション組みが難しい曲だが、キレ良く動きながら、息のあがった様子も全く見せない。圧巻のパフォーマンスが瞬時に過ぎ去り、インタビュー動画が流れる。ここで、メンバーたちから出た言葉が印象的だった。まず、「挑戦する姿勢を見せたい」「勇気と喜びを与えたい」「エクストラオーディナリーなことをやり遂げる」とストイックにトライしていく姿勢。さらに、「メンバーと一緒にいるとなんでもできるというよく分からない自信や確信が持てる」「私たちだからこそできる音楽だと思う」といった、仲間を称え鼓舞しあうフレーズ。そして、ALPHAZへの深い感謝。この日XGから発信されたメッセージは、MCでの発言も含めて、その3点に集約されていた。挑戦し続けること、ともに戦う仲間への愛、ALPHAZへの愛。これがXGのフィロソフィーだ。

HARVEY
MAYA

熱量の高いメッセージにより会場の空気が締まってきたところで、"PUPPET SHOW"が始まる。ALPHAZの歓声も統一されはじめ、清涼感のあるイントロに対しメンバーの名前のコールからの「XG!」という掛け声が威勢よく響く。衣装が変わった。シルバーのグロッシーなエナメルパンツが光を反射して多方面に輝きを振りまき、眩しい。ここでも7人全員が安定感ある歌唱を聴かせるが、中でもユニークな声を持つHARVEYのパートでは一層の歓声が上がる。この日は事前にカメラ・動画撮影OKのアナウンスがあったため、皆がキラキラときらめくメンバーを捉えようとスマートフォンをかざしていた。シャイニーな衣装がゆえに、動画や写真でも映える。

COCONA

次の"NEW DANCE"では会場中央のステージまで進み、ポジティブなサウンドにあわせて会場の至るところに笑顔を届ける。終盤は全員一列に並んでのダンスも見せ、今日一番のハッピーなムードに。その後のMCではCHISAの「こんばんわんこそば~!」、MAYAの「おつかれさまーてぃん」、HARVEYの「こんにちわたがし~!」といった愛くるしい挨拶を経て、メンバーのカラーに合わせたリストバンドライトを観客全員で照らし演出した。T/G/I/Fの振り付けも皆でおさらいした後にサイケデリックなエレクトロニック音が鳴り、"TGIF"のビートで、ぴあアリーナはクラブライクな雰囲気へと一気に変化。引き続き7人は会場中央のステージで踊り歌いつつ、前方スクリーンではメンバーの姿を投影しながら宇宙人のイラストレーションも飛び出す、遊び心満載のサイケデリックなVJが披露される。あっという間の30数分間、ここまでで1stミニアルバム『NEW DNA』のナンバーを一気に終えた。すぐさま、渇望感にあふれたアンコールの声が飛び出す。

「XG!XG!」の歓声をもっと引き出したいのか、声に合わせてスクリーンは動いては止まりを繰り返し、焦らしながらもアンコールへ!7人が帰ってきた。次の曲は"SHOOTING STAR"。スターやレインボーが投影されたスクリーンを背後に踊るメンバーの衣装は、デニムを使ったカジュアルなルック。ビジューにビーズにファーに、多彩なアイテムをヘアにも衣装にも全身に飾る細やかさが素敵だ。わずか数分の転換の間にここまでコンセプトに沿ったスタイリングをしてしまうXGチームの手腕に驚く。特に猫耳のヘアアレンジを施していたJURIAの背負うY2K風リュックは、そのサイジングもデコレーションも含めて最高のコーデだった。MVの世界観を作り込むアーティストは多くいるが、それをライブの衣装やヘアメイクといった微細なスタイリングのレベルまで丁寧に落とし込める例はなかなかない。"MASCARA"ではレーザービームが射す中抜群のダンスで魅せ、ますますコーデが映える。細部も含めた総合力が桁違いだ。

ここからはサプライズ。ALPHAZが準備した演出によってJURIAのバースデーを祝福したのちに、来年ワールドツアーが開催される旨が発表された。7人は韓国語と英語もまじえながら、順番にMCで想いを伝える。COCONAは「世界中にいるひとりひとりが特別で輝いている。大変なことや辛いことは、嬉しいこと楽しいこと以上にあると思うけれど絶対に大丈夫だし、自分を信じて愛してほしい」と語り、JURINは「ここまで一緒にやってきてくれたメンバー、本当にありがとう」と伝えた。最後にはプロデューサーのサイモンへの愛も贈られ、このチームの一体感が強調された。幸福感が充満する中、次にメンバーはArtists Stand Up to Cancer の"Just Stand Up!"をカヴァー。2008年にMariah Carey、Beyoncé、Mary J. Blige、Rihannaらによって歌われたチャリティソングだ。R&Bサウンドを主軸にしている姿勢はここでも貫かれる。そのままライブは、"LEFT RIGHT"でフィニッシュ。ニューシングル"WINTER WITHOUT YOU"のリリースも告知され、大きな大きな声援の中、ライブは幕を閉じた。

初のショーケースを目撃し、XGの掲げる「エクストラオーディナリー=規格外」の意味がより深く理解できた気がした。そののクオリティは、ダンスやラップ、歌といったパフォーマンスはもちろん、スタイリングや演出といった細やかな部分にも宿っていた。そして、XGの伝えようとしているメッセージは常に削ぎ落されていて、シンプルだった。仲間を信じて目標に向かいひたすら努力すること。ALPHAZはじめ、世界中に愛と勇気を届けること。そのために、最高品質のR&B/ヒップホップを作品に落とし込んでいくこと。アーティストとして、完璧なダンスとラップと歌を全うすること。しかし、それはシンプルなだけにとても難易度が高い。人はいつも何かを付け足してしまいがちだし、横道に逸れたりもしてしまう。けれども、XGの視線はまっすぐ先を見つめ、少しのブレもない。

XGが信じているのはただ一つ、「最高の表現に人は感動するはずだ」ということなのかもしれない。事実、それは最高の表現だった。一つクリアしたらまた次へ。恐らく7人は、ライブが終わった瞬間にまた次の夢へとすぐに視線を向けたはずだ。世界、さらに宇宙への道は続く。XGの夢は始まったばかりだ。(文 : つやちゃん)

Info

「XG 'NEW DNA' SHOWCASE in JAPAN」 Setlist

1. HESONOO

2. X-GENE

3. GRL GVNG

4. PUPPET SHOW

5. NEW DANCE

6. TGIF

En1. SHOOTING STAR

En2. MASCARA

En3. Just Stand Up!

En4. LEFT RIGHT

XG

New Single

‘WINTER WITHOUT YOU’ 

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