【インタビュー】Skaai 『WE’LL DIE THIS WAY』| 矛盾を引き受けて一新する

昨年9月に発表されたSkaaiによるデビューEP『BEANIE』は事件であった。キャラクター、スキル、そのすべてで新鋭らしからぬ異彩を放ち、瞬く間にスターダムを駆け上がった彼による最新作は前作同様6曲収録のEP『WE’LL DIE THIS WAY』。前作のメインプロデューサー、uinをはじめ、Qunimune、Shin Sakiura、韓国からHYESUNG、Iamdlをプロデューサーに迎え、客演にはレーベルメイトでもあるBonberoを招聘。全国ツアーも控え、質実ともに万全の構えとなった今作なわけだが、その裏にはわたしたちが知らない大きな苦悩があったという。Skaaiが制作過程でなにを考え、音源になにを描写したか。本人に直接話を訊くほか術はないだろう。

取材・構成 : 高橋圭太

撮影 : Daiki Miura

- 今日は目下の最新EP『WE'LL DIE THIS WAY』について伺っていけたらと思うんですが、その前に前作『BEANIE』リリースから今作までの流れを聞きたいなと思っていて。まず、前作『BEANIE』を改めて振り返ってみていかがでしょう。

Skaai - みんながどう思ってるかわからないですけど、デビューEPということで、生涯歌い続ける曲たちなんだろうなっていう気はしてますね。改めて大事な作品だったなと思います。

 - リリース後にははじめてのワンマンツアー『Skaai BEANIE Tour』が敢行されましたが、ワンマンライブではどのような収穫があったと思いますか?

Skaai - ワンマンライブ自体、“まさか自分がやるとは”という気持ちでしたが、すごく新鮮な気持ちでやり終えたっすね。自分だけを観に来るお客さんしかいないから、安心感もあったし。普段のフェスやたくさん出演者がいるライブとはまた違った経験というか。それは純粋に経験できてよかったなって思います。

 - デビュー作やツアーに関して、あえて反省点を挙げるなら?

Skaai - 『BEANIE』とツアーに関してはたぶんあれが正解だったと思います。そのとき学んだことや感じたことが正解で。だから次の作品と次のツアーをどう作るかをずっと昨年以上に頭を凝らしていた気がしますね。1年間『BEANIE』のリリース期間を通してライブやフェスでのお客さんの反応を見て、次に作るならこういう曲のほうが盛り上がるだろうなって考えながら作るのは大変でしたね。

 - 前作とツアーの経験で生まれた成果が今作『WE'LL DIE THIS WAY』だったと。EPについて最初に思い描いてた構想はどんなものでしたか?

Skaai - いやぁ……だいぶ元気だったんで、前作で“Skaaiがシーンに登場したぜ”って感覚もあったし、注目度もあるんだろうなっていうのがあったから、そのテンションのままいきたかったんです。自信を持ったラップをする、シーンに対して物申すみたいな、そういうラップを集めたEPを出そうと思ってました。

 - ちなみに『BEANIE』リリース後のインタビューでは“コンセプトをがっちり決めたアルバムを作ろうと思ってます”といった話をしていて、そこから路線を変更してEP制作に至ったのには心境の変化があったんでしょうか?

Skaai - どっちみちアルバムは何年かかけるだろうなと思っていて。でもこのタイミングでEPくらいの作品を出さないといけないなと思ったんですよね。ライブが毎回おなじ曲だったらつまんないし、ここらでなにかしらまとまった作品を出して、コンセプトを維持するか塗り替えるか、どっちかしないと戦略的によくないっていうのはあったんで。

 - Skaaiさんの肌感覚でどれくらいの期間作品を出さなかったらシーンから忘れられていくかなと思います?

Skaai - 1年間出さなかったらたぶん忘れられるだろうなと、自分のその当時の感覚としては思いましたね。自分がファンなら、そのくらい間隔が空いたら“これでもう終わりなんだ”って思っちゃうというか。何年か出さずにひさしぶりのライブで盛り上がるのは、中堅クラス以上の話じゃないかなって。新人は埋もれがちなんですよ。

 - なるほど。で、EP制作に取り掛かるわけですが、今回の制作においてSkaaiさんが重要だと思うトピックはありますか?

Skaai - そもそも曲が作れなかったんですよ。3〜4ヶ月くらい作れない状態が続いていて。音楽を聴いてインスパイアされるとかも特になかったし、とにかく大スランプが直撃していて……さらに体調をずっと崩してた。大きい体調不良がひとつ治ったら、また崩して、っていうのが最近までずっとあったんですよね。喉はずっと痛いし、熱もずっとあるし、はじめて大腸炎になったり、みたいな。そんななかでも曲は作らないといけないし、ライブもしないといけない。プレッシャーを感じながら、いろいろ考えて。仕事に対する向き合い方が間違ってんだろうな、とか。自分としてはSkaaiが戦略に飲まれていく感じがあって。自分に対して課すイメージみたいなものに、自分自身が負けてるから体調悪いんじゃないかって。

 - 大腸炎ってなにがきっかけでなるんでしょう、差し支えなければ。

Skaai - 酒っすね。溜まってたものをテキーラで流した結果、流せずに不調をきたしたんです。負のスパイラルというか。病んで、酒飲んで、そのせいで病んで、また酒飲んで……。

 - いま振り返ってみて、スランプの根源は判明した?

Skaai - 制作期間もみじかく1年もなかったので、コンセプトをあらかじめ決めたうえで作ろうと考えていたんですよ。で、最初の元気なときに考えたコンセプトが自分的にキツくなったんでしょうね、単純に楽しくないっていう。さっき話した“シーンに物申す”ってコンセプトは"SCENE!"や"PRO"を作った段階でもう言うことがなくなった。自分にはそういうことを6曲も言えるほどのパッションはなかったのかもしれない。でも時間はないし、コンセプト通りにいかなきゃ間に合わないかもって思っていたんですけど、当初の構想を捨てて、いま作りたい曲とか、体調が悪いときに作れる曲ってなんだろう、みたいなことを考えた結果が後半の曲になったんです。

 - 前作でもだいぶ強い物言いをしていたからこそ、それを超えてガツガツいくというのは大変な作業だったのかもしれないですね。

Skaai - でも、シーンには健全なビーフがもっとあるべきなんじゃないか……しかもそれをSkaaiっていうキャラクターがするのがいいんじゃないか、ってのは思ってたんですけどね。でもそのプランが崩れたときに、アーティストはもっと自由に言いたいこと言って、やりたい音楽をやるのがいちばんなんじゃないかと思い直して。

 - スランプを経てシンプルな答えに行き着いたと。では、まだ比較的元気だったころに作った楽曲から紐解いていこうかなと思います。"PRO"や"SCENE!"は前作の冒頭"BEANIE"を引き継ぐ曲として機能しています。今作でも当初はガツガツいこうと考えたのは、"BEANIE"での提言があまり届いていないかもという不安があったのかなと思ったのですがいかがでしょう。

Skaai - そうだと思います。"BEANIE"は自信がある若手くらいの感じで受け取られたのかなと思うんで。"PRO"はもっと具体的に対象がイメージできる感じで書こうと思ったんですよ。

 - 対象というのは?

Skaai - 本気で音楽してないひと。"PRO"ってタイトルなんで、アマチュアに向けて言ってるんですけど。アマチュアがちゃんと音楽に向き合ってないっていうか、ずっとおなじ音楽だけを作り続けて、ずっとおなじ内容をおなじ感じで言ってるとか、アートしてないひとたち、ずっとだれかのパクりを歌ってるひとたちに向けて。でもこれは自戒を込めて言ってる部分もあります。こういう曲を出した以上、自分も下手なことできないっていうのもあるっすね。

 - リリックにはSkaaiさんが持つ煽り特性みたいなのがめちゃくちゃ出ていると思います。“夢を見ろ明日を生きろ過去を忘れろ/まだ間に合うTO BE A TikTok PRO”なんて、夢見ても最終的にTikTokのプロにしかなれないの、だいぶ残虐じゃないですか。

Skaai - ここは書いてて楽しかったっすね。“TikTok PRO”で落としてるの、みんなちゃんとわかってほしいなぁ(笑)。

 - ほかにもオーバーキルな部分はあって、“あの手この手で論破したい/OK OK”とかも煽ってるんだけど、しっかりユーモラスというか。

Skaai - 皮肉的な言い回しが自分は好きなんだなって思うというか。“失せろ”とか“黙れ”とかじゃなくて、おもしろくディスりたいじゃないですか。あ、ここで言ってるのはディスではなくって提言なんですけどね。Skaaiにしか言えない言葉で皮肉りたいっていうか。“大根役者/バイト雇ったほうがいい”みたいなラインとか。

 - 敵に回したくないタイプですよ。

Skaai - いやいやいや、ぼくは言ってるだけなんで。“おまえもだれかに似てんじゃねえか”って言われたら、それは自分の不甲斐なさなんですけど、でも本当に、自分が正義で誰々が悪とかじゃなくて、こうあるべきだよなって。

 - ちなみに"PRO"のビートは韓国のプロデューサー、HYESUNGさんが担当ですね。前作を全曲担当してライブDJも務めるuinさん以外のプロデューサーと共作したのも今作の変化だと思うんですが、いかがでしたか。

Skaai - uinとはもう『BEANIE』やほかのシングルでもいっしょにやってるから、違うプロデューサーのビートでラップする経験をしたいなと思ったのがひとつ。あと、uinも自分の制作をがんばってほしいという気持ちがありますね。ずっと相棒でやってきて時間を取ってもらったから、ひとりでの作品にも集中してもらいたくって。基本的にはいいループがあれば全然やるぜっていう気持ちなので、今回参加してもらったHYESUNGやIamdlもちょうどいいビートがあったからやってみようっていう自然な流れで。

 - そもそもどうやってコンタクト取ったんですか?

Skaai - HYESUNGもIamdlも共通の知り合いがいて。Ochiai Mariさんっていうかたで懇意にさせてもらってるんですけど、彼女がプロデューサーを紹介してくれると。それで韓国まで行って、めっちゃいいってなったのがふたりだったんです。

 - uinさんと作るときと、制作においての勝手の違いはあるんでしょうか?

Skaai - "PRO"も"WE'LL DIE THIS WAY"もすぐできたんですよ。元々のビートがすごくよかったから、できたと思ってからあんまり発展させなかった。逆にuinとやるときは距離も近いし、おたがい意見を出し合ってもっといけるんじゃないかって思っちゃう。そういう意味では両方の仕事の仕方を試せてよかったですね。

 - "SCENE!"には客演にBonberoさんが参加していますが、参加の経緯は?

Skaai - 単純にラッパーとして好きだからですね。ぼくもuinも大好きで、レーベルもいっしょだということで誘えるんじゃないかっていう。もともとなにかいっしょにやりたいなって話はしてて、シーンのなかでも特殊なふたりなんじゃないかと思いますし、"SCENE!"というタイトルをつけてふたりでやろうっていう話をして。

 - Skaaiさんから見たBonberoさんのラッパーとしての特性ってなんでしょう?

Skaai - まず声じゃないですかね。声がとにかく素晴らしい。それに唯一無二のフロー。あと自分のラップに対してめっちゃ考えてんだろうなっていう感じが、すごく似てるんじゃないかなと。聴いてきたヒップホップも近い気がしていて。

 - 具体的には?

Skaai - DreamvilleのJ. ColeやJ.I.D、Basあたりはたぶん好きなんじゃないかな。Bonberoももしかしたらもっとオルタナティブな方向を試したいんじゃないかなと思ってたから、話してみようってなって。

 - そういったオルタナティブな意匠は前作から引き継いだニュアンスですね。全体のトラックのムードとしては今回どんなアップデートがあったと思いますか?

Skaai - どんどん音数減らしていきたいっていう意識が最近はあって。シーンとして派手な曲が増えていくなかで、そこに迎合するのは違いそうだって思いましたし。派手なビートを聴いたときに“誰々が乗りそうだ”っていう感じがあるじゃないですか。“それをやっちゃうと別のラッパーでもよくない?”みたいな。なので、自分は自分だけの音を探すのがベストなんだろうなって思います。今回でいうなら、端的に『BEANIE』における"FOR ME"までの流れ……今作でいうところの"TEMPO A"までの曲に変化が表れてるんじゃないかなと思います。どちらも全6曲のなかでおなじ立ち位置なんです。加えて、1曲ごとの成熟度みたいな部分は自分の変化かなと思います。前作よりも主軸のライムスキームを強く意識してる。

 - 続く"F.N.A.P."についても訊かせてください。この曲はSkaaiさんがいつも身につけてる眼鏡がテーマになった曲ですが。

Skaai - 新しい眼鏡を買ったっていう、それだけの曲。眼鏡ってレンズ越しにものを見るから、そこを深掘りしたリリックが書けそうだと思って。新しいレンズを通して世界を見るというシンプルなテーマで、秒で書けましたね。

 - 前作の『BEANIE』ってタイトルもそうですが、Skaaiさんは自分が身にまとうアイテムで自身のキャラクター性をよりアイコニックにするという意識が連綿とありますね。

Skaai - やっぱり身にまとうものは大事にしたいなと思ってます。そもそも自分の内面や性格、顔つきとか、普通だっていう意識があって。だからキャッチーに見えるように、覚えてもらえるようにメガネのキャラクターのほうがいいんだろうなと最初は思ってたけど、次第にそれが自分としてもアイデンティティになってきて。“Skaaiだったらなにをフレックスすべきなんだろう?”って考えたときにブリンブリンでもグリルズでもないってなったら、メガネかなっていう。

 - 朝日新聞デジタル『好書好日』でのインタビューで、平野啓一郎が提唱した分人主義という考え方に影響されてるっておっしゃっていましたね。この話に接続させると、ラッパーのSkaaiとプライベートの周礼旻を切り離すアイテムとして眼鏡があるのかなとも思えて。

Skaai - それは超あります。いつも家にいるときの自分はSkaaiじゃないので。このメガネをかけて、帽子かぶって“Skaaiになる”っていう……だれしもそうだと思うんですよ。ワックスをつけたり、メイクしたりして外出するとか、そういう儀式的なものがあると思うんですけど、自分もそうで、まとうアイテムでSkaaiのスイッチを入れるというか。

 - ある種、Skaaiという人格をアクトしている。その演じるキャラクターってご自身ではどのように分析していますか。

Skaai - Skaaiのイメージってまだみんなにしっかりとは浸透してないと思うんですよ。“これをやらせるならSkaaiだよね”っていうのは自分ではまだないかなと。“ラップも歌も器用に全部やるヤツ”くらいな感じで、オルタナティブ・アーティストとしてのキャラクター付けが完璧にされてない段階。

 - ご自身ではどんなふうに見られたいんでしょう。

Skaai - これがね、自分でもまだわかってないんですよ。やりたいことがいっぱいあるからこそ、なにをどの順番でやればいいのかわかんないし、どんなふうにSkaaiを覚えてもらいたいかっていうのが、まだ見えてないところがあって。

 - では、たとえば“Skaaiとしてこれはやらなくていい”といったようなルールはなにかある?

Skaai - 適当に乗れる曲は作りたくないです。いや……あぁ、作りてえのかも……!

 - ハハハハハハ。

Skaai - 作りてえんだろうなぁ、やっぱ。ケツ振れる曲作りたいっすよね、クラブも大好きだから。クラブ大好きなSkaaiの側面もあるんですよ。これまで曲ではそういう面は出してこなかったですね。そういうチャラい部分もあるし、コンシャスな一面もあるし。後者のアーティスト性を先に表に出してしまったから、ケツ振れる曲が作れない。

 - フフフ。整合性が取れないっていう。

Skaai - 今後、そこは自由にやっていこうと思うんですけどね。

 - 決めごとが多いとまた考え込んでスランプに陥る可能性もありますし。ではラッパーではないときの周礼旻さんはどういう人間だと思いますか?

Skaai - 素朴な人間だと思います。そんなに深いことをいつも考えてるわけじゃないし、どちらかというと8割ぐらいは適当におもしろいコンテンツ見るとか、広く浅く情報収集したりとか、そういう感じ。意外と素朴な人間ですよ、周礼旻は。

 - しかし『好書好日』内でも近いことをおっしゃっていたけど、小さいころからの海外移住経験や、いろんな環境に置かれて、“自分は特別でなければならない”というある種の強迫観念を抱えているんじゃないかなと。

Skaai - どうなんでしょう。自分の家庭環境や、国籍もインターナショナルでっていうストーリーを話したときに“絶対葛藤あったでしょう?”って言われるんですけど、なかったんですよ、特段。経済的にもそこまで苦労してないし、国籍のことでも苦労してないので。逆になにか苦労話がないといけないんじゃないか、おもしろみのない人間なんじゃないかっていう葛藤は昔からあったかもしれません。ラッパーとして出てきて“Skaaiはなにかやってくれそうな雰囲気がある”って言われても、“いや、いつも通りなんだけど……”みたいなことも思うし。そういった感覚はずっとありますね。

 - それこそドイツ留学時に川に飛び込もうと思ったっていう話は、そういったアイデンテティクライシス……自分は特別なんだけど特別じゃないみたいな、引き裂かれた心情から来るものだったんでしょうし。

Skaai - 目に見えないプレッシャーにずっと自分は苛まれてきたのかなと思います。……結局、どうでもいい下ネタとかがいちばん好きなんですよ、自分は。

 - ハハハ。でもそれはそれで“Skaaiはそんなキャラじゃない”って言われるでしょうねぇ。

Skaai - 言われがちなんですよ。“本当はそういうひとだったんだね”って勝手に失望される。

 - それこそ分人主義ではないけど、“そういう側面だってもちろんあるよ”と言いたいところですけどね。

Skaai - 大谷翔平だってきっと下ネタ言うはずだっていう。付加価値が前提としてある感じですよね。そこに応えなきゃっていうのがつらいですね。こういっちゃアレですけど、全然応えられるっちゃ応えられるっていうのもよくない。

 - そういったSkaaiさんの内面的な葛藤が、今作の後半には出てきているのかなと。4曲目のタイトルトラック"WE'LL DIE THIS WAY"は直訳すると“わたしたちはこのまま死んでいく”みたいな意味ですが。

Skaai - 自分のなかでは“WE WILL DIE (If We Keep Living) THIS WAY”、字面上すこし省略されていて“このままいくとみんな死んじゃう”って意味で付けています。

 - 今作のなかでいちばん抽象的なリリックに感じたんですが、ご自身ではどういう心境で書いたのか気になっていて。

Skaai - 大スランプがあって、どんなビートを聴いてもまったくリリックが書けなかった時期の曲ですね。ひとつのラインを書くにも、書いては全部消して、の繰り返しを毎日5時間ぐらい費やしてたんで。でも、Iamdlのビートを聴いた瞬間に書けたんですよね。たぶん、いろんなことを諦めた瞬間に書けたんじゃないかなって思ってる。なにを考えて書いたのかも全然覚えてなくて、ゾーンに入った状態で“書ける!”とすら思わなかったですもん。気づいたらもう全部書き終わっていて。

 - なんのフィルターも通さず出てきた言葉だった?

Skaai - そうですね。これは字面だけじゃ絶対伝わんないだろうなって思ってます。この業界に入れてよかったっていう気持ちと、音楽で生活できてるっていう喜びと、だけどいまはその音楽に自分が苦しめられているという葛藤があって。焦りやもどかしさみたいなものが詰まってる。でもそれが自分のなかで全然整理されてなかったから、“I AM LUCKY”って言ってる次のラインでは“STICKING MY PALMS”って祈ってたりする。次の“YES I AM CONSCIOUS”っていう言葉は“大丈夫、地に足ついてる”って自分に言い聞かせてる言葉で。でも“FLATTEN BELLY”っていうのは餓死寸前みたいな、メンタル的にお腹が空いてる状態で、ラッキーなのにめっちゃ腹減ってる、みたいな自分で自分がわからない状態なんですよね。

 - その矛盾の構図は今作全体の構造にもなっていますね。前半部のようなガツガツしたいわゆるラッパー然としたマインドと、後半の内省的な心情が同居してるという意味で、全編を通して引き裂かれている感情が表されてるなと思いました。

Skaai - そういうことですね。前半のSkaaiと現在のSkaaiはまったく別人かもしれない。

 - 続く"TEMPO A"ですが、先ほど“前作における"FOR ME"と並ぶ曲”とおっしゃっていましたが、やはり前曲の内省さを引き継いだ曲になっています。

Skaai - 自分ではいまも正解がわかんなくて。EPを出してツアー準備してる段階でも、どういう自分になればいいのかわかんないんですよね。その不明瞭さが表れてるんだろうなと思います。ネガティブとまでは思わないんですけど、いまのグラグラした気持ちがそのまま出てて。歌詞としてはこのEP全体を説明してる曲でもあるんですけど。“レトリックごまかした ラインの数を数えた”とか、ダサい自分を素直に出してます。“うまいこと言っとけばアガるだろう”みたいなテンションで、自分に本気にならずに誤魔化した部分もいま思えば多かったんじゃないかって。自分、ヒップホップってウソついちゃいけない唯一のジャンルだと思って。正直に全部出していくっていうことがストリートだし、ダメなところも全部出すのがヒップホップじゃないのかなってすごい考えましたね。ウソついて自分を大きく見せるぐらいだったら、一新したSkaaiとして正直にものを語るようなアーティストになりたいっていう意気込みもあって。ネガティブなラインの背景にはポジティブな気持ちがどっかにあって。なので"TEMPO A"は自分としてはポジティブな曲だと思ってます。

 - "TEMPO A"というタイトルはどういう意味なんでしょう。

Skaai - これは音楽用語で“a tempo”っていう“もとのスピードに戻る”っていう意味の言葉で。それをさらに発展させて、イニシャル“A”としての役割、つまり1番目っていう役割の意味合いも付加させて付けました。

 - ご自身の理想としては、最初のころのテンポ感がベストであると。

Skaai - ファンだった時期、リスナーだった時期がいちばん音楽聴いてたし、いちばん楽しめてたんですよ。あのときのテンポというかパッションを取り戻したいなっていう。一生こんな悩みたくないし。もちろんアーティストならではの旨みもあると思うんですけど、それをしつつ、ちゃんと音楽に浸かりたい、楽しく浸かりたいっていうのがあったんです。

 - リリックを逐一解説してもらうのも野暮ですが、ここで言っている“オレも見えるネモフィラ”というのはどんな意味なんでしょう。

Skaai - ネモフィラは花ですね。花言葉で“許して”という意味だそうなので、「FORGIVE ME」につながる言葉だと思って。これは自分に向けて書いた部分。自分に花を送る、というか。

 - Skaaiさんは“許し”みたいな言葉を使うとき、いわゆるキリスト教圏的な考え方というのは意識するんでしょうか?

Skaai - 普段はないですね。この曲では端的に神にすがる思いではあった、ってことだと思うんですけど。

 - Kendrick Lamarをはじめ、USのコンシャスなラッパーは特に顕著だと思うんですが、キリスト教的な教示をリリックに忍ばせたりする例はたくさんあるじゃないですか。“許し”や“祈り”、あとは“神”もそうですが、Skaaiさんのリリックには度々そういう単語が出るなと思って。そもそも、宗教に対してご自身はどう捉えていますか。

Skaai - 神に救済を求めることで自分が健やかに生きられるなら、そうしたほうがいいと思います。自分は普段そうやって生きてないけども、そうやって生きているひとたちは全然肯定するというか。でも宗教から生まれる派閥ってすごく根深いものだと思ってて、昨今のイスラエルの話だってそうですし、戦争や争いが生まれることもあるから、そこに関しては功罪どちらもあるんじゃないかなと。でも神の存在があるからこそ自分の生活を正せるってことはあると思いますし、健康に生きることができるならそうしたほうがいいと思う。自分は昔からそういう習慣がなかったので、自分を信じるしかないというだけですね。"PRO"で言ってる“自分は神かそれ以外か/俺は前者 君は後者”というラインも、結局すべての責任は自分にかぶさってくる、悪いことしたらそれだけのことが返ってくるけど、それでもやるっていう考えからです。

 - 神が外に存在しないぶん内在化すると。それはもしかしたら文化的にも信仰の濃度が低い日本のラッパー全体の特色かもしれません。ではラストに収められた"REM"に話題を移しましょう。この曲は全編で歌われていますが、どのように作られたんでしょうか。

Skaai - めっちゃ迷って、どうしたらいいのかなって。最初はちゃんとしたフックとヴァースがある曲を作ろうと思ったんですけど、紆余曲折を経てこれがベストだと思って。Shin Sakiuraさんの家に行っていくつかループを弾いてもらって、その素材を持ち帰って考えてから作りました。この曲は完全に感情の吐露。"WE'LL DIE THIS WAY"に近いんですけど、よりエピローグ的な立ち位置かもしれない。最後の締めの曲だし、振り返ったときに“つらかったね”というか、自分を慰める曲でもあるかもしれないと思いますね。夢か現実かわかんない最中で作った曲だからタイトルも"REM"にしてるんですけど。

 - 本楽曲には“死”に関連した言葉が出てきますね。EPタイトルにおける“DEAD”にも象徴的ですが、今作における“死”はどんなニュアンスの言葉だと思っていますか?

Skaai - 当初の元気で自信満々のSkaaiから脱却して、より自由に楽しむSkaaiに戻ろうっていう意識の変化を“1回死んで生き返る”っていうコンセプトにしたということですね。リセットという意味での“死”かな。そう思うとこのEP全体が自分の音楽と仕事に対する向き合い方の変化から生まれた作品だなって。そういうことを表現するときに自分としていちばん納得できる表現が“一回死ぬ”っていうことだった。そうやってリセットしたときに、これは誤解されたくないなと思ってるんですけど、これまでSkaaiの音楽を好きで聴いてくれたひとに“わたしたちのことを見放した”って捉えてほしくないんです。そういうわけじゃないし、“Skaai”というプロジェクトを最後まで見てほしいなと思っていて。

 - あくまで内面のリセットというか。

Skaai - むしろポジティブな方向に向かうわけですから。意識が変わることによって、みんなが求めてきたようなSkaaiの曲じゃなくなるかもしれないけど、でもそれも全部楽しんでほしいっていうポジティブな気持ちなんですよね。

 - そういった変化も包み隠さずドキュメントして作品にまとめるというのも、現在のSkaaiさんらしさなのかなと思います。誤解を恐れずリアルな心情を提出するという。

Skaai - 解釈はリスナー次第なので、本当に自由に解釈してもらっていいと思うんですけど。ただ、Skaaiっていろんな解釈をされるタイプのアーティストだと自分でも思っているけど、意図してない方向にイメージされるのは本望ではないですからね。

 - そのためにもここで本作にまつわるいろいろな話を訊けてよかったですよ。さて、この原稿が上がるころにはツアーも真っ只中ということでライブに関しての話題も伺えれば。直近のライブも観させていただいて、すごくライブを楽しんでるように思うんですが、ご自身としてはいかがでしょう?

Skaai - たまに自分の曲のリリックを覚えてきてくれるお客さんがいて。それって最近なんですよ。それまでって、自分がラップするのとおなじ口の動きをしてるひとを見ることはなかったんですけど、最近はそういうお客さんが増えてきて、それを眺めてる時間が幸せです。自分の曲ってシンガロングしにくいと思うんだけど、がんばって覚えてきてくれたんだなっていう。だから"SCENE!"では制作の段階からみんなが声出せるような箇所を用意しようっていうのはイメージしたっすね。それから自分もライブしてて成長を感じる瞬間もあって。今日は全然声が枯れなかったなとか、アーティストとしての成長を個人的にでも感じられていいですね。

 - では、現時点のライブにおける課題ってどんなところだと思います?

Skaai - 完成度じゃないですか。音源にはない、音源じゃ出しきれないパワーを出すっていうところでの完成度もそうですし、ステージ全体を見たときにセットリストどう組むかって話でもあるし。あとは曲間のMCでどんなことを言うか、歌うときの表情とか、そういう細かいところ。自分はこれまで23年間あまりライブを観たことがなかったので、ほかのひとがどうライブしてるかとかも知らなくて。でも、このデビューしてからの2年間でめちゃくちゃ観るようになって、“マジでヤバいな”っていうアーティストのライブは、演奏はもちろんそうですけど、表情や汗の垂れてる感じとかに醍醐味を感じる。ライブで感じるうまみや渋みってそこなんだろうなと。そう思ったら自分は全然まだまだだなって思うし、どっかで集中の糸が切れた瞬間があると“今日はダメだったな”って思いますね。こればっかりは経験も大いにあると思うので学ばないとなって。

 - “マジでヤバいな”と思ったアーティスト、具体的に挙げるなら?

Skaai - 2組いて。Liam GallagherとKassa Overall。とりあえずLiamは存在感がやばくて。正直、Oasisのファンじゃなかったけど、ライブ観てOasis信者になりました(笑)。Kassa Overallはアルバムもずっと聴いてたから好きなんだけど、ライブではそれを超えてくるというか。Tomoki Sandersをはじめ、メンバーも凄腕ですし。こないだの来日公演も途中から勉強モードになって、自分のライブにどう活かすかとか考えるけど、それすらも忘れるくらい……アンコールまで観れませんでしたね。人生ではじめて、観ていたいけど途中でフロアを出るって経験をした。“これはもうヤバいわ、自分のワンマンツアーについて考えたい”って。

 - おお、それは強烈な体験でしたね。では国内のアーティストではどなたかいますか?

Skaai - 去年、閉業前の渋谷VISIONの『STEREO WAVE』ってイベントでのKID FRESINOさんのライブですかね。自分はステージの後ろで観てたんですけど“ヤバいなぁ!”って思って。FRESINOさんの曲って英詞も多いじゃないですか。それをお客さんみんなが全部歌ってるのがすごいことだなって。そんなの自分の活動では諦めかけてたんだけど、本当に好きだったら英詞だろうが歌うんだって、そこに感動があったっすね。照明の感じもよく覚えてて、正面からFRESINOさんにライトが当たってて、自分は後ろにいるからシルエットだけ見える感じ。その光景をライブの興奮といっしょにずっと覚えてます。尊敬するアーティストのひとりですね。

 - ありがとうございます。では最後に今後どのような方向性で活動していきたいか、展望を伺いたいんですがいかがでしょう。

Skaai - 大勢で作りたいですね。ぼくはそんなにSkaai個人が爆売れしたいとかないんですよ。人類が終わるまで残るマスターピースが作れればそれでいいと思っていて。海外だとよくあると思うんですけど、コ・ライティングとか、ひとつの曲にいろんなアーティストが関わってリリースするプロジェクトみたいなことをやってみたいなっていう。楽しそうですよね。そこに限らず、これまでやってこなかったような新しい試みがあればどんどんやっていきたいと思ってます。バンドだってやってみたいし、クラブノリの曲も作りたいし、当初から言ってるように映画も作りたいし。直近では歌の側面も見せていきたいですね。歌でしか表現できない感情ってあると思っていて。そういった部分をこれまで出してこなかったので、歌をしっかりやりたいという思いはありますね。

 - これから作る曲はそういうモードになりそうだと。

Skaai - なりそう……かな。でもまだ構想段階なので。全然違うものができる可能性もあるし。

 - コンセプトに縛られてまたスランプに陥るなんてことは避けつつ。

Skaai - ほんとですね。スランプになって"PRO 2"が出たら察してください。

 - ハハハ。今回の作品とインタビューでSkaaiさんのまた新しい側面を知ることができました。ありがとうございました。

Info

Skaai DEAD TOUR

2023年11月13日 (月)
会場:大阪 BIG CAT
開場:18:30 / 開演:19:30

2023年11月14日 (火)
会場:福岡 Drum Be-1
開場:18:45 / 開演:19:30

▼オフィシャル先行
先着先行:受付期間:9月21日(木)19:00から28日(木) 23:59
受付URL:https://eplus.jp/skaai-dead/

▼一般発売
受付期間:10/5(木) 10:00~
受付URL:https://eplus.jp/skaai-dead/

前売 ¥4,000 (消費税込み / 全自由)
※ドリンク代別

Skaai - WE’LL DIE THIS WAY MJLP-101 / 定価:3,500円+税 全国のレコードストアで発売

Tracklist:

SIDE A

1. PRO
2. SCENE! - Skaai, Bonbero
3. F.N.A.P.
SIDE B

1. WE’LL DIE THIS WAY 
2. TEMPO A
3. REM

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