【インタビュー】SEEDA × 薄場 圭 『ス-パースターを唄って。』| 本気感がすごかったっすね
「月刊!スピリッツ」(小学館)で連載中の漫画『ス-パースターを唄って。』は大阪を舞台に、貧困と友情を、音楽に救いを求める人々を描いた極限の人間ドラマ。10月30日に待望の単行本1集がリリースされた。その発売を記念して、著者の薄場 圭と彼がかねてから敬愛するラッパー・SEEDAとの対談が実現した。薄場 圭にとって「学生時代からずっと、SEEDAさんはヒーローだった」という。そんな敬愛するアーティストに、薄場 圭の作品はどう映るのか?? そして、それぞれ2人の創作秘話に迫る。
取材・構成:渡辺志保
撮影:cherry chill will.
- 薄場さんが最初に漫画を描いたのはいつ頃だったんですか?
薄場 - 19歳の時でした。(描いたものを)友達が「いい感じ」と言ってくれたので、出版社を回って。そしたら今の編集の西尾さんが拾ってくれたんです。
- 今回の『スーパースターを唄って。』(※1)が初めての連載ということで。
薄場 - 思ったよりも想定通りに進まないなと感じることもあって。ストーリーは、最初と終わり、あとはその中間地点だけを決めて、最終的に自分が目指していた方向に辿り着けばいいやという気持ちで描いています。だから、細かいところを全て詰めきれているわけではないんですよ。連載するとなると、アシスタントさんを雇わなくちゃいけないんですけど、背景を描くときとか、上手く指示を出せないのでそこも難しいなと感じていますね。
※1)漫画:『スーパースターを唄って。』・・・・・・大阪を舞台に貧困と友情を、音楽に祈り捧げる人々の人生を、切実に描く。本作の主人公・大路雪人は17歳の売人。覚醒剤中毒の母親と、最愛の姉を幼少期に亡くし、天涯孤独になった彼だが、それでも信じてくれる親友・メイジがいて・・・ どうしようもない環境でも、音楽に縋り前を向く、極限の人間叙情詩。単行本1集が10月30日に発売。単行本の帯では、千原ジュニア氏、真造圭伍氏(『ひらやすみ』)、藤井健太郎氏(「水曜日のダウンタウン」演出)、渡辺志保氏(音楽ライター)、など豪華著名人も絶賛。定価/715円(税込) 発行/小学館
- 背景や細部も、すべて手描きで仕上げていると伺いました。
SEEDA - これは… すごいですね。
担当編集・西尾 - 薄場くんは、作画がフルアナログ原稿なんです。特にスピリッツで描いている20代の漫画家さんだと、最後までアナログで仕上げているのは薄場くんしかいないかもしれないですね。スピリッツの他の連載作家さんの中でも、フルアナログなのは三人くらいしかいないと思います。
SEEDA - ストーリーと画(え)を一緒に描いている人も少ないんですか?
西尾 - 少ないわけではないですけど、別々の作品も増えてきました。
SEEDA - そうした部分も、僕がこの作品にクラっている要因なのかもしれないですね。
薄場 - 一度、アシスタントさんに背景をお願いしたことがあるんですけど、「ここ、もっと汚れてるんだよな」とか「ここはこんなに綺麗じゃなくていいんだよな」と思うことが多くて。画がめちゃくちゃ上手い作家さんだと、訓練されたアシスタントさんがいいのかもしれないですけど、僕の場合は我流で描いてしまっているので、「ビルはこう描け」みたいな常識があまり通用しないんです。
- あえてアナログにこだわる理由は?
薄場 - パソコンが苦手なんですよ。あと、自分がアシスタントに入らせてもらっていた先生が、フルアナログの先生(※2)だったんです。やっぱり迫力や圧がある気がして。
(※2「週刊スピリッツ」にて『ひらやすみ』を連載中の真造圭伍氏のアシスタントを1年弱務めた。)
SEEDA - 分かる、分かる。いきなり(画がデジタルに)変わったら、「あいつ、デジタルに行ったな!」と思うことにします(笑)。
- SEEDAさんが『スーパースターを唄って。』を読んだ最初の印象はいかがでしたか?
SEEDA - 本気感がすごかったっすね。読んだあとに、「うわ、俺がラップをやる前の生活に近い」とびっくりしたんです。若くて食えなかった頃の自分をめっちゃ思い出しました。プロデューサーのメイジのノリとかも、「そういう奴、いるわ」みたいな。暴力団みたいな人たちの中に上下関係があって、ちょっとした一言がすごくリアルでグッとくるんですよね。こういう漫画を読んだことはなかったなって。
- 登場人物の細かいやりとりがとてもリアルで。登場人物はどのように固めていったのでしょうか?
薄場 - 最初に、主人公の雪人と姉ちゃんの設定が出来てきて、雪人に自分を重ねていったんです。途中から、地元の別の友達を雪人に重ねて、「姉ちゃんが死んだら周りの人はどうなっちゃうんだろう」と想像していって、メイジというキャラクターが出来てきた。周りの友達がモデルになることが多いですね。こういう関係性を描きたい、というイメージが先にあるんです。ストーリーはその後から、ということが多い。お互いのことだけを信用している姉弟と、血は繋がっていないけど、めちゃくちゃ信用している二人の友人という関係を描きたいというところから始まって。じゃあ、どこで生まれて、どんな出来事があったのか、ということを考えていったんです。
- 雪人がラップを習う相手がフィメールラッパーのリリー、という設定もいいなと思いました。
薄場 - リリーは、雪人のクルーの中で一番かっこいい人、というイメージなんです。僕の家は女の人しかいなかったんです。おばあちゃん、お母さん、お姉ちゃん、妹。だから、かっけえ人イコール女の人、と思っていて。だから一番強くて一番かっこいい人は、あまり考えずに女の人になっていましたね。
SEEDA - 薄場さんが漫画を描く前にやりたかったことってあるんですか?同じくらいの熱量を持ってやりたかったこと、人生の中にありましたか?
薄場 - ないですね。「何かをやりたい」と思うことはあったんです。たとえば映画監督とか。でも、さっきも言った通り人に指示を出すことがあまり得意ではなくて、向いてないなと。
- ストーリーを考えて、そのあと、実際に描く作業に移ると思うんですが、作業時間のバランスはどんな感じなのでしょうか。
薄場 - 設定や物語を考えている時間の方が長いです。10時間机に向かっているとしたら、8時間は考えることに使っていて、実際に描くのは2時間くらいなんですよ。
- SEEDAさんの制作のリズムは?
SEEDA - 僕は、書きたいことが溢れている時にスタジオに行かないと作れないんですよね。だから、書きたいことがないのにスタジオに行くとぼーっとしています。あと、スタジオに自分がすごいと思う人に集まってもらって、それから曲を作っています。一人で作らず、いろんな人と一緒に作っているんです。
薄場 - そういう意味だと、僕も一人で作ってはいないですね。話しながら考えたりもするし、音楽に詳しい友達に「こういうキャラクターなんだけど、どんな曲が好きだと思う?」と相談してアドバイスをもらったり。ずっと一人でいたら描けないなと思います。
- スランプはありますか?
薄場 - いっつもスランプみたいな感じなんですけど、(出版)会社を通してしか作品が出ないから、自分が「これがいい、面白い」と思っているものも、面白いという感覚が違っていて、却下されることもあるんです。それがめちゃくちゃキツい、みたいなことはありましたけど、連載が始まってからはそういう葛藤は無くなりました。
- SEEDAさんも、かつてはメジャーレーベルから作品をリリースしていましたが、そうした葛藤を覚えたことはありますか?
SEEDA - そこは、メジャーレーベルと長続きしなかった理由ですかね(笑)。申し訳ないですけど、当時は本音を吐きまくって「あのアルバムは買わないほうがいいよ」とか言っていたので、そういうのは良くなかったですよね。薄場さんは、今はそういうのはない?いいチームでやれている?
薄場 - ないですね。自分が描きたくないものは描かないし、削りたくないところは削らない、という気持ちでやっています。でも、それが通らなかったら食っていくことも不可能だし、何が面白いのか読者からの反応も伝わってこないわけで、それがキツいです。これが理由で描けなくなった期間とかありました。
SEEDA - 『スーパースターを唄って。』は、ヒップホップの要素も含んでいるけど、ストリートの描写がめっちゃいいなと思って。
- ディテールが細かいですよね。危ういシーンも、実際にその場にいたのかな?と思うくらいで。
薄場 - 出身は大阪なんですけど、地元の空気感だったり友達に取材したり。現場の感じは、現代アート作家の友人であるギロチンドックス☆ギロチンディ(GILLOCHINDOX☆GILLOCHINDAE)がやっている音楽とアートのイベントに連れて行ってもらって、そこで実際にアーティストの人たちに会って聞いたり、という感じでした。
SEEDA - 結構、そういう友達がいるんですね。
- そもそも、薄場さんがヒップホップを聴くようになったきっかけは?
薄場 - 地元ではレゲエのほうが人気で、小学5年生くらいの時に友達が「俺はレゲエじゃなくてこっちだ」と言って、そいつのお父さんのハイエースに乗せてもらって、そこで流れていたのがヒップホップだったんです。最初にクラったのはANARCHYさんでした。『Growth』が流れていて、「すげえ言葉が強い」と思ったんです。レゲエの言葉も強かったけど、ANARCHYさんの言葉は戦いに行くぞ、っていう感じがして。その友達もシングルファーザーだったんですけど、片親の環境をイジり合っていたんですよ。ANARCHYさんの歌詞にもそういう表現があって、そういうことも全部ひっくるめて「俺らの曲やん」って衝撃を受けたんです。
- SEEDAさんとの出会いは?
薄場 - 先輩が「これだけ聴いとけ」っていうミックステープみたいなものを作ってくれて、そこに『花と雨』が入っていたんです。Tohjiさんの『Mall Tape』にSEEDAさんが参加していて、それからより過去の作品も調べて聞くようになりました。自分も姉がいるんですが、SEEDAさんの曲を聴いていると、自分と姉が置かれていた環境に似ているところがあるのかな、と感じるんです。そこからずっと聴いています。気分が落ち込んだ時とか。
SEEDA - ちょっとは力になれていてよかったです(笑)。Tohjiの曲だと、何が一番好きなんですか?
薄場 - 「ラップスタア誕生」での最初の曲とか好きですね。
SEEDA - あれはヤバかったよね。あの曲を好きって言ってる人、初めて会ったかもしれない。
薄場 - 当時、僕は高校三年生くらいの時だったんですけど、マジでクラいましたね。
SEEDA - 薄場さんのコミュニティってあるんですか?
薄場 - 家に遊びにくる友達とかはいるけど、そんな「コミュニティ」って感じではないです。何かやっている、クリエイティヴな友達は多いと思います。バイクにも乗っているんで、バイク友達とか。
- 薄場さんは、今おいくつなんですか?
薄場 - 今年、25歳なんです。
- SEEDAさんは25歳の時、どう過ごしていましたか?
SEEDA - ちょうど、『花と雨』を作った時ですね。
薄場 - 作れるかな…
SEEDA - 大丈夫、作れる作れる(笑)。薄場さんの世代は、僕の時代と違って、ヒップホップとかストリートカルチャーとかをモノにしていてかっこいいなあと思います。僕の世代は、まずはアメリカへの憧れがあって、ちょっと物真似みたいなところもあったんですよね。でも薄場さんの話を聞いていると、自分たちのモノにしている感じがある。
薄場 - 逆に、俺らはSEEDAさんたちの姿を見て「これがかっこいいんだ」と感じてやってきたので。2パックを「かっこいい」と言っている先輩たちを見てきて、そうなんだ、と思っていたから。
- 昨今のSEEDAさんの活動を見ていると、「ラップスタア誕生」の審査員だったり、若手アーティストのフィーチャリング曲にも積極的に参加したりと、若手世代のフックアップに力を入れているのかな、と感じます。
SEEDA - 常に今が一番ヤバい感じがしますよね。若い人たちが新しいものを作ってくれるから、自然と若い人のところに目が向くんです。それ以前に、年齢そのものの問題じゃない気がしているし、年配の方でもすごいものを作る方はいる。若いから注目してるわけじゃなくて、若い時にすごい才能を発揮する人がいる、っていうことは間違いない。
SEEDA - 『スーパースターを唄って。』の結末はどうなるのか、もう決まっているんですか?
薄場 - 決まってますね。ハッピーエンドにする、ということは決めています。
SEEDA - これがハッピーエンドになるんですね。
薄場 - 自分が中学生や高校生の頃、しんどい時にヒップホップにめちゃくちゃ助けられた理由は、「ここがスタートで、ここからどこかに行くんだ」というメッセージがあったからなんです。特に僕が好きだったラッパーたちはその姿勢が強かった。だから、バッドエンドではなく、ハッピーエンドを目指して話を作り始めました。そもそも、バッドエンドにしちゃうと自分の心が引っ張られてしまって、僕はそこまで強くないんですよね(笑)。
撮影協力/BAR ALBA圓 (東京都杉並区高円寺南3-59-9 営業時間 20:00-5:00(不定休))
Info
■作家名:薄場 圭
■タイトル:スーパースターを唄って。1集
■発行:小学館
■URL:https://x.gd/Knoky
■試し読み:https://bigcomics.jp/series/1de5c7e1986fe
■現在発売中の「週刊スピリッツ48号」にも「SEEDA×薄場 圭 対談」の別バージョンが掲載中。