【特集】『INCUBUS CAMP “RAVE”』|出演する国内クルー/コレクティブから紐解く現行野外レイヴ

野外レイヴイベント『INCUBUS CAMP “RAVE”』が10月14日(土)に神奈川・川崎のちどり公園で開催される。

本イベントは、渋谷の不眠遊戯ライオンで隔月第3土曜日に開催されていた『INCUBUS CAMP × plug』に端を発し、今年の5月には同じく渋谷のCircus TokyoにてGoldie、Clipzを招聘して『INCUBUS CAMP × CIRCUS』が行われた。

また、6月10日にはサーキット型レイヴパーティとして、不眠遊戯ライオンとEnter Shibuyaの2店舗を周遊する「INCUBUS CAMP presents SHIBUYA RAVE」が開催。

この時から明確に“RAVE”というキーワードが使われているが、INCUBUS CAMPでは以前から、ドラムンベースやジャングル、2ステップやガラージなど、古今東西のレイヴサウンドが常に鳴っている。「Void Acoustics」が実現する最高のサウンドクオリティのもと、ここではタイムレスかつジャンルレスな喧騒が渦巻く。

10月14日のパーティは、さながらこのイベントの集大成のような内容だ。今回はメインフロアに現行UKガラージの最重要人物・Conducta、UKファンキーの先駆者・Roskaが招かれ、同パーティがこれまで紡いできた“レイヴカルチャー”が体現されている。それは海外のヘッドライナーだけでなく、国内のクルーやアーティストについても同じことが言えよう。本稿では、『INCUBUS CAMP “RAVE”』に出演する国内のDJ/プロデューサーにフォーカスする。

Conducta
Roska

文 : Yuki Kawasaki

ジャンルレスなレイヴ観を開発する『FULLHOUSE』

『FULLHOUSE』

今年9月23日、Circus Osakaの看板パーティ『FULLHOUSE』(ryota、TAKENOKO、MILEZ、SAMO、CAZBOW、kengotaki、nazanaelの7人から成る)は4周年を記念してUKからNia Archivesを迎えた。今や世界中のパーティやフェスからラブコールが止まない彼女は、この日の夜もレイヴィーな喧騒を生んでいた。満員のフロアを前に、時にヒプノティックな音像を紡ぎ、さらには自身でマイクを握ってヴォーカルを聞かせる。とめどなく流れる高速BPMに、オーディエンスは絶えず歓声を上げた。対する『FULLHOUSE』のクルーは、スピードガラージや2ステップを中心にNia Archivesに呼応し、そこには現代性と90年代への熱い眼差しの両方が感じられた。

たとえば同クルーのSAMOは『INCUBUS CAMP×LION』のレジデントDJを務めているが、彼女の選曲観からもその同時代性が感じられる。ロウハウスを中心に組んでくるかと思いきや、途中に差し込まれるアブストラクトなビート。90年代のLo-Fiなレイヴサウンドを顕現させつつ、その音世界は抽象的だ。

同じく『FULLHOUSE』に所属するMileZやryotaもまた、多ジャンルを参照しつつ、オルタナティブなレイヴ観を表現している。しかもそれは4周年を経た今突然始めたものではなく、パーティ設立当初から続けていることなのだ。ロンドンのコミュニティラジオ局Rinse FMに提供されたMileZやryotaのミックスを聴くと、それが顕著に分かる。ハウスやガラージを選曲しつつ、アフロなニュアンスにも触れる。4つ打ちに終始せずに、緩急を付けながらオーディエンスをしっかり踊らせるのだった。

また、『FULLHOUSE』はこれまでにDance SystemやYung Singh、Lady Shakaらを迎えてパーティを開催してきた。それら過去のラインナップを参照しても、彼らの方向性は一貫しているように感じられる。なお、ryotaはRinse FMでのYung Singhのショーケースにもミックスを提供している。

Rave Racersが新たに解釈するレイヴサウンド

Rave Racers

Rave Racersはラッパー、ビートメイカーのJUBEEが立ち上げたダンス・ミュージック・プロジェクトだ。これまでの日本のポップカルチャーにおいては、バンド側の見地でクラブミュージック/ダンスミュージックが解釈されるケースが多かった。たとえばサカナクションはロックバンドのスケール感でもって、万人規模のアリーナを埋める存在である。しかし彼らが鳴らすのはソリッドなバンドサウンドだけではなく、「かつての」プログレッシブ・ハウスやディープハウス、あるいはテクノも含まれる。

それに対し、クラブ側から「レイヴ」を基軸に実践しているのがRave Racersだ。2021年にリリースされたEP『Rave Racers 3rd LAP』にはAge Factoryからnerdwitchkomugichanこと西口直人が、今年3月にリリースされたアルバム『Overtake.』にはロックバンドのyonigeが参加している。

いずれもドラムンベースやハードコアが下敷きになっており、明らかに視座がダンスミュージックの側にある。そもそもジャンルレス(あるいはタイムレス)な音楽を求めているスタンスには、バンドかクラブかといった垣根はもはや存在しないのかもしれない。Age Factoryなどは最たる例だろう。

様々な解釈が交差するレイヴサウンドは、音楽シーン全体にとって重要だ。

ジャングルの伝道師たるパーティー『Tribal Connection』

DJ YAHMANとJUNGLE ROCKによって結成された『Tribal Connection』は、2009年に始動した。現在は先の2人に加え、大出泰士、Tenmus、HALUらの5人で構成されている。奇数月第2土曜には、渋谷の虎子食堂にてイベントが開催されており、そこでは夜な夜な密林のレイヴサウンドが鳴らされている。文字通りジャングルやドラムンベースが主軸のパーティだが、コンシャスなサウンドアプローチとは裏腹に、そのスタンスは実にオープンマインドだ。

今年7月8日にはなかむらみなみとTREKKIE TRAXのandrewを、9月9日には『Back To Chill』の総帥・GOTH-TRADを迎えている。グライムやダブステップなど、ジャングルと密接な関係にあるサウンドを包含しつつ、パーティの外側にも拡張してゆく。そもそもジャングルはレゲエやダブなどのサウンドシステム・カルチャーを牽引し、さらにはジャズやソウルなどを参照し、雑食性の高さでもってシーンに君臨してきた。そこには高速でとめどなく流れる音の激流があるが、ニュー/オールドスクールかといった境界はなく、ジャンルの区別もない。

DJ YAHMANやJUNGLE ROCKが目指しているのは、音楽としての「ジャングル」ではなく、精神性やスタンスの表現なのではないだろうか。

なお、『INCUBUS CAMP “RAVE”』の前週にあたる10月7日(土)、『Tribal Connection』は下北沢のLIVE HAUSで99回目が開催される。

日本国内から現行のアフリカンダンスミュージックを追求するTYO GQOM

TYO GQOM


KΣITO、mitokon、K8、DJ MORO、Hiro “BINGO” Watanabeから成るTYO GQOM。昨年2022年9月、Hiro “BINGO” Watanabeをのぞくメンバーは、ウガンダで開催される『Nyege Nyege Festival』に出演した。アフリカ由来のアンダーグラウンドミュージックにおいて最も注目されるレーベルのひとつ「Nyege Nyege Tapes」(と姉妹レーベルの「Hakuna Kulala」)が主催するフェスだが、もはやアフリカにとどまらず世界規模で重要な音楽拠点だ。それに日本のクルーが出演するとあって、界隈は大いに盛り上がっていた。SNSでは彼ら彼女らの様々なストーリーがシェアされ、そのひとつひとつに多くの人が反応していた。


2020年5月にはTYO GQOMのレーベル「USI KUVO Records」が設立され、今年の5月にはコアメンバー4人(DJ MORO、Hiro “BINGO” Watanabe、K8、KΣITO)の音源として、EP『Usi Kuvo Vol​.​1』がリリースされた。4曲すべて、まさしく“ゴム”のリズムや低音の鳴りを聞かせるが、それ以上に「ダンスミュージック」としての側面が強い。内臓を揺らすだけでなく、それぞれがクラブユースなニュアンスを持っており、フロアで聴くにはうってつけの内容に仕上がっている。


しかしゴムのニュアンスを多分に孕んでいるので、やはりサウンドシステムで聴きたい欲求も当然ながら生まれる。そこで、『INCUBUS CAMP “RAVE”』を提案したい。日本人の手によって作られたアフリカ由来の重低音が、最高品質のサウンドシステムで鳴らされる。恐らく、当日はプロデューサー本人たちも知らない魅力が新たに引き出されるはずだ。

その意味でも、『Usi Kuvo Vol​.​1』は最高のタイミングでリリースされたEPだと感じる。

東京のホットでギャルなパーティー『アマピナイト』

『アマピナイト』


また、Z世代を中心に若い世代から注目を集める、モデルのSakura、モデル/ダンサーのRina Hagai、そしてダンサー/ ヨガインストラクターのAoi Takaseの3名がオーガナイズするホットなヴァイブスアップクルー『アマピナイト』がここに加わる。自身たちを”ギャル”と称する彼女たちが、東京と大阪の2拠点でエネルギッシュなパーティーを定期的に展開している。前述の『SHIBUYA RAVE』はもちろん、『FULLHOUSE』ともコラボし、ヒップホップやR&B、アフロミュージックを中心にパーティーホストを努めている。

もちろん『TYO GQOM』に限らず、すべてのクルーにとってVoid Acousticsのサウンドシステムは重要だ。80年代後半、かつてのレイヴは非公式な会場にお手製のスピーカーを持ち寄りながら、自分たちの享楽を追求するために開催されていた。自分たちのアイデンティティのために、あるいは各々の目的のためにダンスをしていた。

オルタナティブな精神性は『INCUBUS CAMP “RAVE”』も変わらないが、ハードウェアは飛躍的に進化している。マインドはあの頃のまま、けれどもその場で鳴るサウンドは今日までアップデートされた。テクノロジーや社会は日進月歩で発展してゆくが、レイヴカルチャーはタイムレス。

Info

INCUBUS CAMP “RAVE”

Curated by Amapi Night、FULLHOUSE、MUSIC BAR LION、Rave Racers、Tribal Connection、TYO GQOM

日 時:

2023年10月14日(土)OPEN 11:00 / CLOSE 22:00

会 場:

神奈川県川崎市「ちどり公園」

料 金:

ADV 5,000円

DOOR 6,500円

出 演:

<MAIN FLOOR>

Conducta (UK)

Roska (UK)

FULLHOUSE

Rave Racers

Tribal Connection

TYO GQOM

DJ SHINTARO

SAMO

<MUSIC BAR LION FLOOR>

CYBERHACKSYSTEM

ecec

ghostwriter boyfriend

JUN INAGAWA

Kick a Show

nasthug

ISLND

WASP

チケットプレイガイド:

e-plus

https://eplus.jp/sf/detail/3953020001-P0030001

ZAIKO

https://lostandfound.zaiko.io/e/INCUBUS-CAMP-2023

楽天チケット

https://r-t.jp/incubus_camp_rave

インフォメーション:

https://lostandfound.zaiko.io/item/358916

https://www.instagram.com/incubuscamp/

https://lostandfound.co.jp/

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