【インタビュー】MUD 『MAKE U DIRTY 2』 | ヒップホップは自分磨きの手段

3月に終演を迎えたKANDYTOWNのメンバーでもあったMUDが、ソロアルバムとしては6年ぶりとなる『MAKE U DIRTY 2』を3月にリリースした。クルーとしての活動は元より、Gottz & MUDとしての活動や、レゲエにフォーカスしたEP『Burning Sugar』を発表するなど精力的に活動してきたMUD。久々のソロアルバムは、これまでの活動を反映しつつも、ずっとチャレンジしてきたという全英語詞の"Far East"や自身の過去を綴った"Get Up"や"Yellow Monkey”などを収録し、MUDのヒップホップ観が十二分に伝わるセルフプロデュースの内容となっている。

今回のインタビューでは、本作について話を訊きながら、MUDの根本的なヒップホップ観にも迫った。

取材・構成 : 和田哲郎

撮影 : 雨宮透貴

- 制作自体はいつ頃からスタートしたんですか?

MUD - 最初に作り出した”Where My Money At”に手をつけたのが2年前ぐらいですかね。そこからちょこちょこ作って今に至るって感じです。

- 元々はもう少し早くリリースしたかった?

MUD - もっと早くリリースする予定だったんですけど、色々重なってKANDYTOWN終演後に出すっていう形にたまたまなったって感じですね。図ってはないです(笑)。

- 前作はNeetzさんと合作だったとおっしゃってて。でも今回は、セルフプロデュースのアルバムですよね。「そういう作品にしたいな」って思ったのはどうしてだったんですか?

MUD - 前作はNeetzが全曲プロデュースでKEIJUがエグゼクティブプロデューサーだったんですけど、KEIJUもNeetzも顔が売れて忙しい人間なんで。彼らに丸投げするわけにはいかないなと思って、どうせだったら全部自分で構成練って作ってみようと思ったのがきっかけですね。

 - 実際にスタートしてみてどうでしたか?

MUD - ビート集めがなかなか大変だったんですけど。でも一番やりたいようには出来ましたね。

 - 今って「アルバム」っていうフォーマットはなかなか難しいものだったりするじゃないですか。プレイリストっぽいアルバムもあるし。でも今作はちゃんと構成の意図も読み取れるというか、曲のタイプも凄くバランスよく配置されている感じがして。MUDさんの中で理想のアルバム像みたいなのってあるんですか?

MUD - 制作する期間の成長過程が詰まっていて、アーティスト自身でコンセプトが見えてくるのがアルバムの特徴かなと思ってます。今回は「Make You Dirty」っていうコンセプトで作ったという感じですかね。

 - しかも、リリックも曲ごとに結構明確にテーマ設定があるのかなと。変化している部分なのかなという気もしました。

MUD - そうですね。全部英語の曲(”Far East”)をやっているんですけど、全部英語の曲にチャレンジするようになった分、日本語に重きを置けるようになりました。今までは曲の中にできるだけ英語を盛り込んでいきたかったんですけど、日本語と英語をセパレートできたんで。今回は英語は英語、日本語は日本語って分けられたので作りやすかったんですかね。

 - 歌詞の書き方が結構変わった?

MUD - やっぱり英語で全部書いてる曲が1曲あるっていうのが自分の中で強みになってたんで。他の曲は内容重視というか、言いたいことを優先して書くようにはしてましたね。

 - ”Far East”はいつ頃にできたんですか?

MUD - 半年前くらいですかね。前からやりたかったことなので、ずっと英語で書いてたりはしたんですけど、ちゃんと形になったのがこれって感じですかね。

 - これまでも何か自分の中でしっくりこない部分っていうのがあったんですか?

MUD - 全然ダサくて「こんなの世には出せない(笑)」って感じのもありましたし、言い回しとか、昔の方が今より知らない英語が多かったので。今は一曲出来るぐらいの英語力がやっとついてきたのかなって感じですかね。

 - 英語はアメリカのラップから聴いて学んでいったんですか?

MUD - そうですね。後は本当に今まで培ってきたもので、英語を聞き取れるようになってきた。字幕がついてないインタビューを観まくったり、曲聴く時も歌詞カード見ながら聴くようになりましたし。そういう意味で前よりは英語を理解できてるから、それが曲に反映されるようになってきてるのかなって感じですかね。

 - インタビューは例えば誰のインタビューでしょうか?

MUD - Capone-N-NoreagaのNoreagaの方がやってる『Rap Champs』っていうロングインタビューをずっと観たりとか。

 - 結構スラングも飛び交いますよね?

MUD - そうですね。でもやっぱり、こういう言い方するのはアレですけど、黒人の英語の方がやっぱり聞きやすいですね。

-  理解の幅が広くなりそうですよね。

MUD - そうかもしれないですね。昔から聴いてた曲が、最近になって「こんな歌だったんだ」って。学生の頃聴いてた曲も「これ銃のこと説明してる歌なんだ」って途中で気づいたりとか。

- そっちの方が自然になってるんですね。じゃあこの曲が出来たことでアルバムの軸が出来たような感じですか?

MUD - 日本語で書きやすくはなりましたね。

 - 日本語で書きやすくなったっていうのは、もう少し説明して頂くとどういうことなんですか?

MUD - やっぱり英語を曲に盛り込むことが自分の中のラップに対する姿勢の中であったので、英語と日本語半々の曲が今まで多かったと思うんですよ。その分全部英語の曲をアルバムの中に1曲入れたことで、そんなに英語を無理して使う必要がなくなったというか。

 - 制約がなくなった。

MUD - 日本語は日本語の曲、英語は英語の曲みたいな。これからもっとそうしていこうかなと。言ってしまえば英語だけの作品も作りたいなと思ってます。

 - なるほど。MUDさんの中で元々歌いたいことがあって、それを表現する時に「この場合は英語の方がいいな」みたいなこともあるんですか?

MUD - ありますね。”Far East”って曲は「日本のB-Boyの若者がどう思っているのか」っていうのを英語で書いていて。日本人の若者、東京で生まれ育ったB-Boyが何考えているかなんて外側からは見えない話じゃないですか。それを英語で伝えるのが曲を作る意味っていうか。そういう風に、外に向けた目線で書いてるってことがあるのかもしれないです。

 - しかも、それが日本にMUDっていうB-Boyでラッパーがいるっていうことの、外に対する存在証明みたいになっているということですね。”Where My Money At”が1曲目で、その次にできた曲はどれですか?

MUD - あとは本当に同時進行で作っていった感じです。それこそKANDYTOWN結成前のみんなとかは家に集まって、ラップが遊びだったので、家に集まるって言ったら曲作るって前提で集まってたので。ダベって曲作ってみたいな、そういう作り方だったんですけど。作品を出して音楽活動するようになってからは、音止めて無音でちょっと頭整理して書いたりとかもしますし、とりあえずビートの感じは頭の中に入れておいて、外で歩いてるときとかにリリックが思い浮かんだりして。最近はそういう4小節を組み合わせて作ったりしてますね。

 - なるほど。じゃあビートを流さなくても書けるようになったんですか?

MUD - そうですね。むしろ爆音でビート聴いてるのもうるさくなってきてる。USのラッパーがスタジオ行って色んなビート聴いて色んなビートに乗せて書いたりしてるのを昔見てたんで、一個のビートにこだわって書くことはあんまりしてなかったですかね。自分の中で勝手にリミックスして作っちゃうっていうか。

- なるほど。曲順で話を訊いていければと思うんですけど、2曲目の”Get Up”はDLiPのNAGMATICさんがビートで参加されてますね。

MUD - NAGMATICさんにはずっとお願いしたいっていう話をしてて、「次のアルバムだな」って思ってたんで、それでお願いしたって感じですね。

 - この曲は過去を振り返る曲になっていて、2ヴァース目は凄く具体的にどういう状況か想像がつくような内容ですよね。

MUD - スケボーの話ですよね。もう、あったことそのまんまって感じですね。

 - スケートボーダーを目指していたのはいつの話ですか?

MUD - スケボーは小4くらいから始めて、本当に高校の時の、2007年4月15日まで滑ってたっすね(笑)。

 - この日に大怪我をした?

MUD - 大怪我っていうか捻挫なんですけど、その捻挫を一年くらい引きずったんですよ。病院行けばよかったんですけど、病院行かない人間だったんですよね。放置してて、そしたら半年くらい引きずって「全然痛いわ」と思って。スケボー乗ろうとしても乗れなくて、技やる時に足首使うんですけど、その瞬間に電撃が走るくらい痛くて、「もう無理だ」と思って。その日まで毎日滑ってたんで。

 - プロを目指してるくらいってことだったんですよね。

MUD - はい。「これが挫折か」みたいな。もうスケボーが大嫌いになって板ぶん投げたっすね。で、「こんなんやめたる」って思ってた時にBANKROLLに出会ったんですよ。「なんなの、このカッコいい人たち」ってなって。

 - それまでもヒップホップはずっと聴いてたんですか?

MUD - ずっと聴いてましたし、なんならリリックもちょっと書いてたんですけど、「ラッパーになろう」と思ってリリックを書いてたわけじゃなくて。ラッパーの仕草とかするのが好きだったんですよね。とりあえずB服着て紙とペンを持つみたいな。それがカッコよかっただけなんで。それで何も書いてないのはフェイクじゃないですか(笑)。だからリリック書いてたんですけど、ラップより全然スケボーの方が本気でやってたんで。もう怪我してからは、シフトチェンジって感じですね。

 - 高校生って、もちろん気持ちの面もまだ幼いし、それまでずっと大好きだったものを......板ぶん投げたって言ってましたけど、気持ちの整理っていうか、「じゃあ次はちょっとヒップホップやるか」みたいにスムーズに考えられたんですか?

MUD - 本当タイミングだったのかもしれないですね。「ヒップホップ好きな奴とかいるのかな」とか思いながら学校入ったら、学校にめちゃくちゃラッパーがいて。みんな休み時間にラジカセでフリースタイルとかやってて、「すげーなこの学校」って思ってて。その時に怪我して、そこからもうラップにのめり込んだんで、意外とそこはスムーズでしたね。

 - そうなんですね。このアルバムは凄くMUDさんの気持ちのタフさじゃないけど、そういう部分が前面に出てるのかなと。やっぱりこういう辛い体験をしてるからこそ折れずにやり続けられる部分もあるのかなと思いました。

MUD - ありがとうございます。でもラップするようになって、むしろスケボーやってた時よりプロスケーターの知り合いとかできましたし、続けてれば違う方向で形になるっていうのはラップを通して学んだかもしれないですね。

 - そうですよね。でもスケボーもそれまで毎日やってたということですし、やっぱり好きになるとずっと続けるみたいなところがあるんですか?

MUD - それしかないっすね。まともに続いたのって今考えるとラップだけですもんね。

 - なんで続けられてると思いますか?

MUD - まあ小っちゃい頃から聴いてたからじゃないですか。人格形成が半分以上ヒップホップで出来てるっていうか。変な話、そこら辺のアメリカ人より全然ヒップホップ聴いてるわけじゃないですか。例えばこのワンバース目の最後で「やめそうになる時最後に描くアート」って書いてるんですけど、今まで何回も「ラップなんてやめてやる」って思ったことがあって。金にならなかったし、生きるためにはやっぱり働いて金稼がなきゃ生活していけない状況で、ラップの用事が入って仕事を削らなきゃいけなくて、自分で自分の首絞めてないかとか考えたことあるんで。でもそういう時でもそういう気持ちを歌詞にしちゃうっていうか、「してしまう」っていうか。結局俺からラップ取ってもまた「ラップ嫌だ」っていう気持ちをラップにしちゃおうとしてる自分がいて(笑)。「無理なんだ」っていう意味なんですよ。なので、音楽にハマっちゃった人って多分音楽やめるとか言ったって結局やめられないんですよね。耳が聴こえなくなるまでは。

 - 音楽を止めたくなることを音楽にしようとしてるっていう。

MUD - だから回っていくんですよね。

- とてもMUDさんらしい話ですね。

MUD - ありがとうございます(笑)。

 - 次が先行曲の”The Pain”で、この曲も痛みを乗り越えていくというか、痛みがあるからこそ続けられるというか、生きていけるみたいな曲だと思ったんですけど。

MUD - これは、やっぱり何かしようと思っても過去にやらかしてきた部分が付きまとってくるっていうか。自分の過去の経験で「手抜かずに最初からちゃんとやればよかったじゃん」ってことがあって。結局お金ばっか追っかけても、やるべきことをちゃんとやってないと二兎を追う者は一兎も得ずで、結局楽な方向に進んだ結果もっときつい思いしちゃうみたいな。っていう歌ですね。

 - なるほど。それもMUDさんの価値観の中で重要な凄く部分なのかっていう気がしていて。今作はフレックスするアルバムじゃないなと思ったんですよ。というよりもハングリーなアルバムだなって思って。凄くリアルさみたいなところと繋がっているのかなと思いました。次がGottzさんが参加している”Cheaters”ですね。

MUD - ”Cheaters”もさっきの話に繋がってくるんですよ。一見音楽業界のことを歌っているように聞こえるんですけど、もっと大きな括りで。やっぱりズルしてお金儲けする奴っていっぱいいて。変な話「俺お金のためにやってるから」みたいな、「別に仕事好きでやってるわけじゃないし」って言ってる奴の方がまだ素直でいいなと思ってて。「自信持ってやってます」って看板背負ってやってる奴が実は裏で手抜いたりとかしてるのを自分は現場とかで見たりしたんで。それに加担させられたこともありますし。「これ詐欺じゃん」って思いながら作業したこともあったので、そういう奴に向けての曲っすね。

 - そこら辺がもう、いわゆるリアルかフェイクかってすごくヒップホップ的な価値観だったりもするじゃないですか。そういうものに対する怒りみたいなのは昔も今も変わらずMUDさんの中に残ってるところがあるんですかね。

MUD - というか、ヒップホップとそういうのって結びつくじゃないですか。例えば太いチェーンとかカッコいいですけど、例えばそれ買うために金かき集めて買うのと、自分の好きなことで稼いだお金で買ったチェーンって全然違うし。お金が大事なのはもちろんそうなんですけど、それを稼ぐ過程も大事っていうか。その過程を大事にしとけば自ずとお金がもっと大事なものになるし、その過程で人のお金をもっと大事に考えるはずなんで。そういう意味です。

 - 結構ここまでが前半部分っていう感じなのかなと。MUDさんのラッパーとしての、人間としての価値観みたいなのが過去の経験とかに結びつけられて出てる曲たちが並べられてるのかなっていう感じがしました。

MUD - そうかもしれないです。

 - でもスキットを挟んで雰囲気が一変するというか。ちょっとダンスホールっぽい雰囲気に一気に変わってくるんですけど、元々こういう感じの構成にしたかったんですか?

MUD - いや、そんなことはなくて。このアルバムを通して考えてたのは春夏秋冬っていうか、一年通して聴けるアルバムにしたかったんで真ん中から後半にかけて夏から秋に移る感じを音色で出してるんですけど。ちょうどスキットからが5~6月みたいなイメージですかね。

 - アルバムとは別でレゲエの作品も出してるじゃないですか。改めてレゲエっていうのはどういう存在としてMUDさんの近くにあったんですか?

MUD - レゲエは親父が好きで、本当に家で毎日レゲエがかかってて。そういうところで育ったんで、自分の音楽のルーツは多分レゲエなんですよ。いつかレゲエやってみたいなってずっと思ってて。タイミングよくレゲエっぽい曲を一曲作った時に「このまま作っちゃおう」と思ってやった感じですかね。

 - ヒップホップのビートとレゲエのビートって全然聴こえ方が違うと思うんですけど、ビートによって歌いたくなる内容とかも変わってきますか?

MUD - しかもレゲエは結構明るく聴こえますけど、内容は暗くてダークなことを歌っていることが多いじゃないですか。社会体制批判の歌が結構多くて。だから自分も社会体制に対する歌はちょっと書きがちだったのかもしれないですね。そういう曲があの中に2曲ぐらい入ってますからね。

 - でも今作の曲はまたちょっと違う感じがありますよね。

MUD - 『MAKE U DIRTY 2』に関しては、前作のアルバムの中のタイトル曲の”MAKE U DIRTY”っていうのがあって、それはもう女の子の歌だったので。「ちょっと大人になった俺の女の子の歌」みたいな。もう単純にそれだけです(笑)。これは確かNeetzがビート持ってきて、「これで女の子の歌作ったらいいんじゃないか」みたいな。その時まだガールズソングが一曲も無くて。そういう感じで出来たんですかね。

 - やっぱりNeetzさんが作るビートって凄くキャラが出ますよね。ダンスホールっぽいんだけど、「いわゆる」っていうものじゃないし。

MUD - 綺麗ですよね。

 - 確かに洗練されてる部分がかなりありますよね。次の”Tameiki Summer”はサマーチューンですよね。

MUD - そうっすね。 Dianとは”End of Summer”って曲をMIKIのアルバムでやってたんで、「夏曲って言ったらDianかな」みたいな。あとDianはソロ活動が少ないんで、ここでピックアップしました。

 - Dianさんに「これやろうよ」って言った時のリアクションはどうだったんですか?

MUD - リアクションはもう、「やらせてください」って感じ。ただ行動が伴ってなかったっすね(笑)。これはちょっと言わなくていい話になるけど。俺はもう全部曲録り終わって、むしろDianのヴァース待ちだった。録りは全部KANDYTOWNの、自分たちのプライベートスタジオでやって。なんで本当に自分たちで作った感じです。

 - なるほど。続けてこちらも先行でリリースされた”Concrete Jungle”ですね。Mionさんはビートメーカーとしても参加してますが、元々どういう繋がりだったんですか?

MUD - 最初はKEIJUが”I Wanna be Rich”って曲を一緒にやってて、その後にKEIJUが「MUDとMionくん合うと思うからやった方がいいよ」って言ってくれて、それで自分から声かけた感じですね。

 - 本職だからっていうのもありますけど、モダンなダンスホールのテイストが凄く出ていますよね。

MUD - 自分も「この人合うと思うよ」って言われて曲聴いて、「かっけえ、この人」って思ったんで。やっぱりあんまりいないんですよ。自分が聴いて「かっけえ」って思うのってあんまり無くて、でもMionくんはそれが来たんで。しかもビートも自分で作ってるって聞いて「天才だな」って思って、速攻声かけました。

- この曲までが夏パートで、ここからまたちょっと雰囲気が変わっていく感じですよね。この後半の3曲はどういう曲にしたいなと思っていたんですか?

MUD - ”Yellow Monkey”は文字通り「俺日本人だ」って曲なんですけど、”Far East”は全部英語の歌詞じゃないですか。"Yellow Monkey”はヴァースが全部日本語縛りなんですよ。そういうトリックを入れてみたり。これはもう日本語縛りの曲って決めて作りました。

 - それはやっぱり書きやすかったですか?

MUD - うーん......。いや、日本語縛りってむずいなと思って。やっぱ自分のスタイルは日本語英語なんだなって思ったっすね。例えば「洋モン」とか、なんて言えばいいのかな、みたいな。そういう風に考えていくのが面白かったですね。

 - じゃあ普段のリリック書いていく思考とはまたちょっと違う?

MUD - 違ったっすね。

- さっき話していた働きながらラップしてた時期みたいなところが2ヴァース目で書かれてますよね。

MUD - その部分は職人の時の歌詞って感じですかね。ここが10代でこっちが20代で。

 - でもこれも、やっぱり今だからこそ振り返れるみたいなところもある?

MUD - 職人の時はKANDYTOWNがメジャーデビューした時だったんですよ。ほんと覚えてるのが、現場終わってKANDYのラジオとか作業着のまんま行ったり。後は現場からラジオ局まで行く時がめっちゃ渋滞しちゃって、生放送一時間遅刻したりとか。あの時が一番辛かったですね。ラッパーになりたいのに、「週6現場で何やってるんだろう」って思ったっすね。眠いし(笑)。

 - でもメジャーデビューもしてるっていう。

MUD - メジャーデビューしてるけど、結局作業着のまんまの俺、みたいな。あの時は結構葛藤がありました。Inter FMに作業着で行ったの俺だけじゃないっすか?(笑)。ニッカポッカで。

 - なるほど。「理想と現実の差埋まらない深み」って部分とかはまさにそういうことですよね。

MUD - そうっすね。現場で書いたヴァースとか、多分Dony(Joint)のアルバムの1stの俺のヴァースとかは現場で書いてるっすね。あとKANDYTOWNの”Scent of a Woman”も多分現場で書いてます。

 - そうだったんですね。次も先行でリリースされていた”Resetter”ですねこのプロデューサーの方は海外の?

MUD - いや、もうKANDYTOWNの昔からの旧友で。BYDってクルーがあるんですけど、そのクルーの中のDJですね。DJ SHINGENって名前でやってて、ビートメーカーとしての名義がpj47なんですけど。自分たちはスノボに凄いハマってて、彼はもうスノボに恋して、長野県の山に住んでるんですよ。"Resetter”のMVがあるんですけど、あれはゲレンデじゃなくて山登って滑ってて。あそこの山が、彼が夏働いてる畑なんですよ。畑って雪が降るともう作業が終わるんですよ。雪の間はもう何もしないんですけど、彼はスノボにハマってきてるんで。この曲が人生とスノボをかけたテーマの曲なんですけど、彼の仕事出来なくなった仕事場で冬遊ぶみたいなのがめっちゃいいじゃんって感じであのビデオを撮りました。だからあそこは彼の仕事場っす。

 - MUDさんもスノボは結構行かれるんですか?

MUD - それこそ彼らと「雪降るらしいよ」「じゃあ行きます」って感じで行ったりしますね。

 - そういう趣味が曲作りに活かされるようなことはありますか?それとも逆にそういうのは考えずにやるような感じ?

MUD - 考えずにやってることも多いですけど、結果的に人生自体がヒップホップに染まっちゃってるんで、何をするにもヒップホップ的視点で見ちゃう傾向があるっていうか。でもヒップホップってそういうもんだと思うんですよね。自分の人生に落とし込むっていうか。例えばハスラーの音楽ってあるじゃないですか。彼らはラップするためにハスラーをやってるわけじゃなくてそもそもハスラーで、そっからラップを見出したわけじゃないですか。だからハスラーソングなわけで。

 - キャラを作ってるわけじゃないですよね。

MUD - そう。だからスノボとかスケボーとかもそうですけど、やってる自分にヒップホップを見出してた部分は昔からあると思う。例えば家出る前、「アイロンかけてる自分すげーヒップホップだな」みたいな。どうせならドゥーラグ巻いてアイロンかけるみたいな(笑)。ダル着で腹掻きながらアイロンかけるんじゃなくて、ヒップホップ聴きながらドゥーラグ巻いて、タバコ吸いながらアイロンかけてる俺ヒップホップ、みたいな。そういう落とし込み方ですね。ちっちゃい頃は移動手段とかみんなチャリ乗ってきてんのに、俺だけわざわざスケボーで行ったりとか。そういう見せ方は昔からしてましたね。

 - MUDさんにおいてヒップホップであることは凄く自然なことだと思うから答えづらいかもしれないですけど、MUDさんにとってのヒップホップってどういうものなんですか?

MUD - なんだろう......。自分磨きの手段じゃないですかね、多分。若い子が勘違い......別に勘違いでもないんですけど、なんかこう間違っちゃう理由は、やっぱり憧れから入るから。まぁみんなそうなんですけど、とりあえずそれを真似するっていうことがヒップホップじゃなくて、自分を表現するところから始まると思うんで。早い話、早い段階でそれに気づいた奴の勝ちだと思うし。周りのこと気になりがちですけど、結局自分との戦いっていうか。だから見た目からもうラッパー、ラッパーしてるやつがヒップホップなわけじゃなくて、ヒップホップを聴いて勇気貰いながら自分の生活の基準で、ちゃんと毎日やることやってる奴の方が俺はヒップホップだと思います。

 - 常に理想の自分と対話するというか、ヒップホップを通して自分をより良くしていくみたいなことですかね。

MUD - そうっすね。やっぱり意味があるものが好きなんで。そういう普段頑張ってるやつがヒップホップ聴いてて、「なんでその曲聴いてんの」って訊いたら「歌詞が俺の普段の生活の後押しになるから聴いてる」みたいな。ヒップホップって無意味にフワッとあるものじゃない。

 - 自分に根付いてるものというか。

MUD - 例えばスケーターがベルトを靴紐にしてるのって、とりあえずスケーターが靴紐をベルトにしてるから靴紐にベルトしてるのと、意味を分かってて靴紐をベルトにしてるのじゃ訳が違うっていうか。そこが「ヒップホップ」と「ヒップホップじゃない」の違いっていうか。......分かるっすか?

 - なんとなく分かりますね。

MUD - そうなんですよ。そうすると厚みがない分しゃがみやすいんですよね。Wiz Khalifaがディッキーズに靴紐結んだりとかしてたかもしれない。服とかにも自分はヒップホップを見出しちゃうんですよ。例えば無意味なポケットとかいらなくて。「そのポッケは〇〇用のポッケだ」みたいなのを聞くと「うわ、マジヒップホップ」みたいな(笑)。そういうことなんですよ。

 - 面白いですね。特に今だと「何がヒップホップか」みたいなことって凄くネットっぽい話題にもなっちゃって、消費もされちゃうけど、MUDさんみたいにしっかり自分の中に落とし込んでる人が言うのは全然意味が違うなっていうのは感じましたね。

MUD - 本当にヒップホップが流行り始めてるじゃないですか。だからやっぱり中身をしっかり持つことが大事だっていうのをラップやってきた人が言っていかないと、考えるきっかけも与えられないっていうか。

 - 本当にそうですね。しかも、じゃあ誰かカッコいいラッパーがやってることを真似しても、それはヒップホップにならないよと。そこで自分のスタイルだったり、自分の何かっていうのを見つけないと。

MUD - そうですね。だから「憧れるのやめましょう」ってやつっすね(笑)。

- 少し逸れちゃいましたけど、それで最後に”Far East”があるんですけど、この曲も自分のスタイルを成長させるためにチャレンジした曲っていうことですか?

MUD - そうですね。これ英語で書いてあるんで英語分かんない人は分かんないと思うんですけど、結構日本のことを歌ってるんですよ。結構日本語にしたらコンプラなことを言ってて。日本人ラッパーが日本で活動してる様子みたいな感じの曲ですね。

 - 凄く今のMUDさんを表したアルバムになったんじゃないかと思うんですが、もうすでにリリースはされてるので、リリースしてみていかがでしたか?

MUD - 全然まだ実感は湧かないです。周りのリアクションが無いですね。俺ってもう作品出してて当たり前な人間なのかもしれないと思ったっす。

 - でも、自分もソロアルバム6年ぶりっていうことに結構びっくりしたんで、そういう印象はあるのかもしれません。

MUD - もうちょい停滞してても良かったかもなとか思ったんですけど、それはそれでコンスタントにやれてる証拠なのかなとも思いますね。

 - 3月のKANDYTOWN終演を受けて、一つの色々な区切りがあったと思うんですけど、これから先の展望は何か描いていたりするんですか?

MUD - ビートを10代の頃作ってて、自分のビートでデモテープ作ってたんで、これからもっかいビートメイクやり直してオールプロデュースとか、そういうことをやりたいですね。プロデューサー活動みたいな。あとは、もうここで言っておきたいんですけど『Burning Sugar』ってレゲエの作品出したんですけど、これからレゲエアーティストBurning Sugarっていう名前で、別で活動していこうと思って。

 - そうなんですね。

MUD - はい。ちょっとEminemのSlim Shadyみたいな感じで、人格変えないと本格的に出来ないなと思ったんで。だったらBurning Sugarって名前にしちゃおう、みたいな。あれ本名をもじってるんですよ。だから変な話MUDよりちょっと意味深いんで、これからレゲエはBurning Sugarで。よろしくお願いします(笑)。

 - それでプロデュースもやるって感じで、一人で三足の草鞋を履いていくんですね。

MUD - はい。レゲエはゆくゆくはバンドもやりたいなと思ってるんで。もっと広げて行けたらいいかなと思ってます。

 - ずっとラップをやってきて、一つのことをずっとやり続けて来たからこそ新しい道が見えてきたようなところもある?

MUD - そうかもしれないっすね。あとは30代に入ったってのがちょっとでかいっすね。「レゲエやりたいな」ってずっと思ってたんですけど、レゲエやるには年齢がちょっと足んないなって思ってたんですよ。でも30入って、KANDYTOWNが終わって、新しいことに挑戦するいい機会だなって思ってるんで。辞めたスケボーも30でもう一回やり直そうかなと思ってますし。

 - 乗ったりしてるんですか?

MUD - 20代の頃より今の方が滑ってますね。毎日やり直せば多分戻ってくるなと思ってるんで。30代はちょっと、楽しみます。

 - ありがとうございました。他なんか話したりないこととかってありますか?

MUD - Gottzと自分の目処が立ったらGottz & MUDもまたやるんですけど、元々夏フェスに向けて作ったクルーなんで。

 - そうなんですね(笑)。

MUD - 夏フェスの皆さん、ちょっと待ってます。

 - ありがとうございました。

Info

・アーティスト: MUD

・タイトル: 「MAKE U DIRTY 2」

・発売日: 2023年3月31日(金)

・配信リンク: https://linkco.re/XyNz731f

・トラック・リスト 

1. The Cheaters / Prod. Neetz 

2. Get up / Prod. NAGMATIC

3. The Pain / Prod. Bear On The Beat

4. Cheaters (ft. Gottz) / Prod. J-ViewCycle

5. Skit - Black Friday / Prod. GREEN CRACK 

6. MAKE U DIRTY 2 / Prod. Neetz 

7. Tameiki Summer (ft. Dian) / Prod. YoungBeat’s Instrumental 

8. Concrete Jungle (ft. Mion) / Prod. YoungBeat’s Instrumental

9. Yellow Monkey / Prod. NAGMATIC

10. Resetter / Prod. pj47 

11. Far East / Prod. Neetz

RELATED

【インタビュー】5lack 『report』| やるべき事は自分で決める

5lackが今月6曲入りの新作『report』をリリースした。

DJ RYU-GがMUDやhokutoが参加した新曲"Back In The Dayz feat. MUD & mi-rai"をリリース

DJ RYU-Gが客演にMUD、mi-rai、プロデュースにhokutoを招いた"Back In The Dayz (feat. MUD & mi-rai)"が明日4/13(金)リリースされる。

【インタビュー】BES 『WILL OF STEEL』| 初期衝動を忘れずに

SCARSやSWANKY SWIPEのメンバーとしても知られ、常にアクティヴにヒップホップと向き合い、コンスタントに作品をリリースしてきたレジェンドラッパー、BES。

MOST POPULAR

【Interview】UKの鬼才The Bugが「俺の感情のピース」と語る新プロジェクト「Sirens」とは

The Bugとして知られるイギリス人アーティストKevin Martinは、これまで主にGod, Techno Animal, The Bug, King Midas Soundとして活動し、変化しながらも、他の誰にも真似できない自らの音楽を貫いてきた、UK及びヨーロッパの音楽界の重要人物である。彼が今回新プロジェクトのSirensという名のショーケースをスタートさせた。彼が「感情のピース」と表現するSirensはどういった音楽なのか、ロンドンでのライブの前日に話を聞いてみた。

【コラム】Childish Gambino - "This Is America" | アメリカからは逃げられない

Childish Gambinoの新曲"This is America"が、大きな話題になっている。『Atlanta』やこれまでもChildish Gambinoのミュージックビデオを多く手がけてきたヒロ・ムライが制作した、同曲のミュージックビデオは公開から3日ですでに3000万回再生を突破している。

WONKとThe Love ExperimentがチョイスするNYと日本の10曲

東京を拠点に活動するWONKと、NYのThe Love Experimentによる海を越えたコラボ作『BINARY』。11月にリリースされた同作を記念して、ツアーが1月8日(月・祝)にブルーノート東京、1月10日(水)にビルボードライブ大阪、そして1月11日(木)に名古屋ブルーノートにて行われる。