【インタビュー】PAS TASTA | サウンド・ギークは「Jポップ」を謳って拡げたい

〈PAS TASTA〉のプロジェクトが発足したのは2022年1月。メンバーであるhirihiri、Kabanagu、phritz、quoree、ウ山あまね、yuigotというトラックメイカー/SSW/ボカロPの6人は、DAW上の操作から音楽表現を探求し、DTMコミュニティやコアな音楽リスナーを中心に国境を超えて人気を集めてきたサウンド・ギークたちだ。

筆者にとって〈PAS TASTA〉は縁遠からぬどころか、メンバーのそれぞれに取材した過去がある。そのインタビュー連載のタイトルは「エッジーなエレクトロニック・サウンドを求めて」。DTM表現の新鋭を取り上げる企画である──DTMの間口が広がり、そこかしこでtipsという名の方法論がシェアされる現代において、ここでのインタビュイーらが独自のシグネチャーを獲得しえた、その才覚、あるいは困難については強調しても問題あるまい。

そんな6人組が標榜するのは「Jポップ」。今年3月にリリースされた『GOOD POP』というアルバム・タイトルもいささか皮肉じみているように思えるが、客演に参加するCwondo、ピーナッツくん、鈴木真海子、崎山蒼志、Peterparker69というラインナップからも、未知の「Jポップ」像が浮かび上がってくるようである。

さて、今回は〈PAS TASTA〉全員が揃った初のインタビューをZoomにて行った。結成までの経緯にはじまり、このプロジェクトにおける「Jポップ」観、制作のワークフロー、そして控えているワンマンライブとその先の展望まで伺った。

集結したサウンド・ギークたち

 - 本日はよろしくお願いします。

ウ山あまね -  ^_^

yuigot - ウオオオオオオオ

phritz - お願いします〜

Kabanagu -

quoree - ֊  ̫֊

 - さっそくチャット欄が盛り上がっています。まずはPAS TASTAメンバーの接点について教えてください。

ウ山あまね - 全員昔から知っていたんですけど、直接的なきっかけはオンラインコミュニティ〈FORM〉の「All Nighter」という企画です。ざっくり言うと、1日で曲を作ってそれをコンピにするっていう企画があって。

hirihiri - もともと僕とphritzくんが2020年の『All Nighter, Vol.5』で共作を出して、翌年のVol.6でさらに呼びませんかってあまねさんとKabanaguを呼んで"all night"を作って。

 - 「All Nighter」はポーター・ロビンソンが反応したこともありましたが、トラックメイカーにとっては国境を超えて注目されうる企画ですよね。一晩で作った作品をコンペティション方式で募集し、アルバムにするという。

Kabanagu - それこそお祭りみたいな感じで自分は参加しました。

phritz - 「all night」を作る時にあまねさんやKabanaguさんを誘ったのは、海外にみんなを知ってほしいって思いがあって。それが意外にも国内のネット界隈でも反響があって、あまねさんやKabanaguさんは歌も作れるし、このサウンドそのまんまでJポップとして国内に攻め込んだら、今までにないものがやれるんじゃないかな、というのが最初からぼんやりとありましたね。

 - 4人の共作"all night"がPAS TASTAの前身となったということですが、yuigotさんとquoreeさんはどのような接点で?

yuigot - 自分にとっては〈Maltine Records〉のコンピレーションアルバム『???』のリリースが大きいですね。phritzくんもhirihiriも、あまねさんは神様クラブをやっていた頃から知っていたけど、近く感じたのはそれがきっかけで。自分もそうですけど、quoreeもKabanaguも〈Maltine Records〉から出しているし、tomadさんの存在は大きいかもです。

quoree - 自分も〈Maltine Records〉から『鉛色の街』をリリースしたタイミングで皆さんから声をかけていただけるようになって。元々いた場所とは全然違う感じではあるんですけど、めちゃめちゃすごい人らがいるなっていう認識でいて、いつか喋れたらいいですよねって一人で思ってたら、いつの間にこうなっちゃっていたという。

yuigot - でも、ノリでサクッと入ってった感じじゃなかった?

quoree - phritzさんが「こんなの始めたんですよね」みたいなことを仰っていて、「楽しそうですね」って言ったら入ることに。

ウ山あまね - Twitterのリプで誘ってた気がする。

yuigot - それ見たかも。

phritz - 一応、采配には理由があって。当時のみんなの作風だとわりとハイパーポップ色が強かったように思って、でも別にハイパーポップやりたいわけでもないし、自分の中では勝手にアベンジャーズ的な何かをイメージしていて。ボカロも最近面白いし、いろんなジャンルに挑戦できるように、作風も幅広い人たちを集めたいなって個人的には思っていました。

hirihiri - quoreeくんがボカロ枠で入るのも変だけど(笑)。

yuigot - めちゃめちゃレフトフィールドのボカロ。

phritz - でも、あえてのメインストリームじゃないボカロ使いってめっちゃ面白いなと思ったんで。yuigotさんを誘った経緯も、アレンジ力に長けていて、まとめ役としてめちゃくちゃ強いだろう、みたいな思いがあって。

yuigot - あっ、ありがとうございます。独自のサウンドを確立してる人たちがすでに5人いるから、やっぱ自分は引き算に徹するのが楽しいなと思ってやっていますね。

ウ山あまね - でもyuigotもぶっ壊し能力があるから。"sunameri smoke"の爆発とか、"finger frame"のアウトロとか。

ウ山あまね

 - 〈Maltine Records〉の話題が出ましたが、せっかくtomadさんもいらっしゃるので、レーベルオーナーの立場からこのメンバーをどう見ているのか伺いたいです。

tomad - まあ、ざっくり新世代っていうか。僕と同世代でtofubeatsがいて、次にPARKGOLFやPa's Lam Systemがいて。それからパソコン音楽クラブに長谷川白紙とか。で、さらに以降、シンガーソングライター的な能力とトラックメイカー的な能力が両方ある人みたいなイメージが強いですね。

「Jポップ」と言い張って、領地を広げる

 - PAS TASTAのプロフィールには一言「Jポップ」と書かれています。どうして「Jポップ」なんですか?

phritz - あまねさんやKabanaguさんは歌モノができるし、なんとなく漠然とJポップとしてやっていこうみたいな感じですが……たぶん本当に一番最初、結成したタイミングからJポップって言葉を使っていると思います。

Kabanagu - うん、そんなもんじゃなかったかな。普通に面白いJポップやろうっていう。

yuigot - Jポップって言い張り続けて有無を言わさない、みたいな姿勢はみんなあった気がします。ハイパーポップでもなくフューチャーベースでもなく、Jポップ。

 - ハイパーポップもポップと言い張って有無を言わせない、みたいなところがありますよね。

phritz - 国内でのハイパーポップの認識ってアメリカのそれとはだいぶかけ離れてますし、自分らもハイパーポップと言われることがありますけど、毛頭そういうつもりはなくて。普通に日本語で歌ってるからJポップでいいんじゃないかなって、それぐらいで。音を割ったからハイパーポップってわけじゃないし。全然別物だって認識です。

Kabanagu - 制作の時もハイパーポップを意識することはないですね。

hirihiri - 普通に影響を受けてるだけ。普通に。

hirihiri

Kabanagu - そう、聞いてるっていうだけで。

yuigot - ルーツの一つではあるよね。ハイパーポップ代表を目指しているわけではない。

hirihiri - でも、音とか曲調とか関係なく、ハイパーポップみたいな精神性はみんなやっぱり持っているとは思う。逆張りじゃないですけど。

phritz - 特定の何かを目指しているわけじゃない。

quoree - ジャンルとか関係なく「いい曲を作りましょう」という感じでやっている感覚は、個人的にはあります。

 - 「いい曲」。

yuigot - 何が「いい曲」なのか、あんまり形が見えてないまま制作が進んで、最終的に「これ良かったよね」みたいな着地が多いかもしれないです。それでできた曲のカテゴリーをJポップって言い張ってるだけで。

ウ山あまね - もしかしたら、ラベリングされたくないからむしろJポップって言ってる部分もあるかも。一番広い括りとして。

phritz - そもそもJポップって既にめちゃくちゃ広いから、その懐の広さにあやかる感じはあるのかな。

 - Jポップと言いつつJポップではない、という捉え方なんですか?

ウ山あまね - いや、うーん……。でも、Jポップなんじゃないですか(笑)。

hirihiri - 自分はJポップだと思ってるっすね。

Kabanagu - あと、Jポップという領域の「これありなんだ」みたいなところを拡張して、最終的に拡張したその場所もJポップになる、みたいな気持ちがあるかもしれない。

ウ山あまね - 領地を広げるみたいな。

Kabanagu - そうそう。結果的に広がってJポップになった、みたいな。自分はそういう感覚ですね。

phritz - 自分としては、自然とJポップになっているみたいなところがある(笑)。たぶんみんなの血にJポップが流れているんで。

hirihiri - みんな特別Jポップを好きだとか意識しているわけではないけど、ナチュラルに好きなところがある。

phritz

 - みなさんが共通して好きなJポップアーティストっているんですか?

Kabanagu - えー、共通してる人はいない気がするな。

ウ山あまね - 制作のリファレンスで今まで挙がった人っていましたっけ?

yuigot - tofubeatsさんの『REFLECTION』とか。

phritz - サウンドデザイン的なところで、って感じでしたけどね。

yuigot - 言い張っているものの、リファレンスにJポップが入ることはほぼないし、たぶん既存のJポップを意識する感覚はない気がしますね。

Discord、ギガファイル便、Ableton Live

phritz - でも、このグループの制作ってやっぱりサウンド先行ですよね。まず手を動かして、音作って、形になっていくっていう側面がありますし。

 - たとえば、キーになるリフのサウンドが決まればそこから進んでいくような?

yuigot - ですかね。軸になるフレーズを元にみんなが肉付けしていく。それにトラックを重ねて展開を作るような、最初のワンフレーズが出てきてはじめて輪郭が見える感覚があるのかも。

phritz - それこそ、コンセプト先行で音以外の部分を形作ってから始めてみようって話も一瞬あったんですけど、結局うまくいかなかった。やっぱり、みんなを突き動かしてるのは音なのか、みたいな。

 - トラックメイカーならではという感じがします。それぞれのソロ作品でもそのような作り方が多いんですか?

ウ山あまね - 僕は完全にPAS TASTA用の作り方がありますね。

yuigot - 自分もPAS TASTAは編集者みたいな感じでやってるんで、全然違います。

phritz - 自分の色を出す人と、PAS TASTAモードに切り替える人で分かれているのかな。hirihiriさん、quoreeさん、Kabanaguさんはわりと前者かも。

hirihiri - そうすね、だから逆に、いっぱい音が満たされていると何すればいいかわからなくなる。自分は音を足さない人なんで。

ウ山あまね - でもhirihiriスタートで曲が作られていくと、"river relief"もそうですけど、めっちゃかっこいい曲になる傾向がある。

yuigot - 軸って感じがある。

ウ山あまね - 後の人がやりやすいし、アイディアも出しやすい。

 - なるほど。ここで一旦、PAS TASTAの制作体制について教えていただきたいです。

ウ山あまね - Discordでやり取りしながら、順番にプロジェクトファイルを回していく形です。メンバー全員がAbleton Liveを使っていて、作りかけの曲も同じような環境で開けるので共有がすごく楽なんですよね。で、作った箇所を書き出してレビューし合いつつ、一周するまでパスを回して。

yuigot - ファイルを送るのはギガファイル便で。

 - プロジェクトファイルを回す順番はどのように?

Kabanagu - みんな個人名義で仕事があるから、その時々に一番動ける人が始める感じですかね。

hirihiri - 自分の場合、何もできなくなっちゃう前に手を挙げることがあるっすね。崎山さんの曲とかそう。

ウ山あまね - 個人的にhirihiriと崎山さんの絡みをすごく聞きたかったんで、その時は推しました。

yuigot - でも決め打ちでやったのはそれぐらいかな。

ウ山あまね - あと、コンペを開いたこともあったよね。"peanut phenomenon"と"finger frame"はコンペ。

 - コンペ、面白そうですね。

yuigot - みんなで8小節作って、一番票を集めた音源のプロジェクトファイルから作っていく、みたいな。たしか、両方ともあまねさんですよね。

ウ山あまね - そう。俺が採用されたから覚えてる(笑)。

yuigot - "peanut phenomenon"の時は、みんなBPMが早かったりラウドな感じだったりして、あまねさんの作品はここから進められる感があった。その後Kabanaguに回ったら、叫び声が追加されていて。

ウ山あまね - あった(笑)。

yuigot - で、その後phritzくんのターンから返ってきたら、三三七拍子が入っていたという。リアルタイムで見てて怖かった。

ウ山あまね - 楽しかったね。

yuigot - 楽しかったっす。

 - でも、全員のターンが回るまですごく時間がかかりますよね。その辺りはどうなんですか?

ウ山あまね - やっぱり最初の頃は、他の人のターンで間隔が空いちゃうから、テンションを維持するのがすごく難しかった。でも、アルバム作り始めたあたりから、一人がプロジェクトファイルを抱える時間に制限をつけようという話になって、遅くとも次の日には共有するっていうルールを作ったんですよ。それが今のところわりといい感じに働いていて。

hirihiri - 一週間抱えたまま、みたいなこともあった。そう考えると今はだいぶ慣れてきました。

ウ山あまね - ほんと最初大変だったよね。

yuigot - 爆弾ゲームみたいになってた。回転率が上がって、制作が面白くなってきた感じはします。

みん支(ささ)的共同制作

 - 全部Discordで、テキストと音源データで進行していくというスタイルで軋轢が生まれることはないですか? それぞれソロで活躍している中、自身のプロジェクトファイルを弄られることに抵抗がありそうなものですが。

Kabanagu - 自分の場合は、思いついたアイディアをとりあえず全部プロジェクトファイルに入れて、いらないやつは他のメンバーに削ってもらおうって思っているところがあって。「ここだけは残して!」って箇所があったら言うこともありますけど、基本的にあんまり気にならないかもしれないですね。

Kabanagu

yuigot - それこそ最初のスタンスだと自分が納得できるまで触っちゃうけど、今はもう、仕方ないからプロジェクトファイル上に素材置いておくので使ってくださいとか、そのレベルで渡せちゃうという理由もある。

phritz - それぞれのセンスを信頼しているから、削られたり変えられたりしても「きっとこの人たちが言うならそうなんだろう」みたいな感じで成り立っているような。

Kabanagu - たぶん、全員がそう思い合ってどうにかなっている。

yuigot - みん支(ささ)だ。

Kabanagu - みん支。

quoree - みん支(チャットより)

※みん支:「みんなで支え合う」、「みんなに支えられる」、「みんなに支えられて生きています」の意。

yuigot - それに、ミックスとマスタリングはphritzくんがやっているんですけど、phritzくんの音作りがすごすぎてどうにでもなってしまうところもある。

ウ山あまね - 「phritzさん、これどう思いますか?」みたいな感じで投げることは多いかもしれないです。phritzさんが消したんだったら、はい、従いますって(笑)。

phritz - 逆に同じことをみんなに対して思ってるんで、やっぱりみん支ですかね。

 - それぞれがソロで活動しているからこそ、お互いへのリスペクトがある。反対に、共同制作を通してソロ活動に還元されることはありますか?

ウ山あまね - 僕、制作がすごく遅くて、他の人の作曲のペース感がわかるのはいいなって。たとえばhirihiriってめちゃくちゃ早いんですよ。3時間ぐらいでデモ上げてくる。で、プロジェクトファイルを見ると、どこに時間をかけてどこを省いているのか、みたいなことがわかる。それに、このベース音どうやって作ってんのかなとか、めちゃめちゃ研究できるから助かってます。

Kabanagu - 自分の場合、アイディアはあるけどかっこよく聞ける状態まで持ってくる技術がない、みたいなことがあるんですけど、PAS TASTAではそこで留まっているアイディアをプロジェクトファイルに投げ込んで、ミックス後の鳴り方や見せ方を参考にしています。そうやって好きに試せる場所でもありますね。

yuigot - 並走して曲を作ってるから、ワークフローが見えてくるのが一番でかいかも。自分が触ったプロジェクトファイルにジャッジが入ることってなかなかないじゃないですか。FXとか、トラックの並べ方とか、デシベルの調整とかが変えられていると、自分の手癖とかエゴの領域がわかるというか。

ウ山あまね - 添削されるような感じもある。でも逆に「ここがかっこいいって思ってもらえるんだ」って自分の強みを知ることもできて。

 - それこそ、結成初期は慣れないことも多かったのではないでしょうか?

ウ山あまね - 最初の頃は若干あったような気もするし、僕自身昔だったら「わかってねーなこいつら」って思ったかもしれないですけど……今となっては、やっぱりPAS TASTAを一つのアーティストとして見ているところがあって。大げさかもしれないですけど、個人の自己表現とは若干距離を置いているというか、PAS TASTAのアーティスト性を大事にしたいなと思ってるので、自分の音がミュートされたり変えられたりしても、それは「アーティスト性に合わなかったんだな」っていうふうに納得できるようになってきましたね。

hirihiri - 自分の音が出すぎていてもそれはPAS TASTAじゃないし、結局今まで全部いい曲になっているし、それがPAS TASTAの曲だし、って感覚があるんですかね。

phritz - やっぱりある程度エゴを捨てることもトラックメイカーとして重要なスキルだと思っていて。自分の作ったものを切られた時に得られる学びは大きいし、意見を飲み込むことでいい方向に進むことだってめちゃめちゃあるし、すごい広い意味で社会性も身につくし(笑)。

一同 - (笑)。

yuigot - 今、Kabanaguがチャットに貼った画像、「intro impact」の時のやつ(笑)。

一同 - (笑)。

ウ山あまね - こういうこともあります。

yuigot - Kabanaguがよくこのモードになることがある。

phritz - まあ、シリアスすぎないですよね。

hirihiri - 逆にそこまで言うならみたいなね。

ウ山あまね - 大事なことですよ。

phritz - あ、でもあまねさんとか時々、単純にトラックがフリーズされてなくて音が鳴ってないこともあるんで。

ウ山あまね - ああ……それはすいません、気をつけます(笑)。

どうせなら、ポップなフィールドでふざけたい

 - PAS TASTAの距離感はすごく絶妙なところがあるんだなと思いました。毎日スタジオで顔を合わせて、みたいなウェットな環境から生まれる信頼というわけではないじゃないですか。

Kabanagu - 全員が集まったのってまだ4、5回とかじゃないですか。

hirihiri - 数えるほどしかない。

ウ山あまね - "sunameri smoke"のMV撮影の時が初めてだね。

yuigot - だって全然思い出せるもんね。スー誕祭、"peanut phenomenon"のMV撮影、で、次が"zip zapper"の合宿。

Kabanagu - だからウェットな信頼っていうよりは、お互いの作品で「こいつ信頼できる」みたいなことだと思います。

yuigot - PAS TASTAって「クルー」っていう感じもあんまりしないです。個々のプロジェクトとはまた別のプロジェクトとして独立してるような。だから、PAS TASTAにどっぷりなわけでもなく、各々の人間関係の中に生きているっていう。

ウ山あまね - わりとみんないい感じに距離感を保てている。「これしかない」みたいな感じじゃない、いい意味で。それが今のところうまくいってる理由なのかなとは思いますね。まだ作品の方向性の違いで大喧嘩みたいなのは起きていない。

quoree - 自分にとって一応全員年上の方ではあるんですけど、意外と年齢差もあんまり気にしてなくて……失礼かもしれないですけど。みんなインターネットで知り合った人だからなのかもしれないです。

hirihiri - 俺もそういう感覚かも。インターネットで会った人とネットで話してるみたいな感じです。

yuigot - あくまで文字とアイコンでしかない。

ウ山あまね - どうなのそれは(笑)。

quoree

 - "peanut phenomenon"で前景化していますが、PAS TASTAにはインターネット的、ミーム的なバイブスがあるなと思います。

yuigot - ピーナッツくんというキャラクターをフィーチャーするにあたって「ミーム」をテーマにしたというのはありましたけど、とくに他の楽曲でそれを意識することはないですけどね。

ウ山あまね - PAS TASTA全体としてミームがテーマってわけじゃないですよね。

hirihiri - みんな好きではあるけど。

 - "zip zapper"の展開とか、めっちゃミーム的だなと。

ウ山あまね - MADの雰囲気はあるかもしれない、たしかに。

Kabanagu - でも、インターネットを意識してるわけでもなく、素で好きなことをやるとふざけちゃうっていうだけな気がする。

hirihiri - どっかでやっぱふざけたい気持ちを抑えてるから。あれで全部出たみたいな。

yuigot - ふざけ解放ユニット。

phritz - Jポップってカテゴリーで『GOOD POP』っていう名を冠したアルバムで、その最後でめちゃくちゃふざけたいな、っていういたずら心というか。インターネットやミームを意識しているわけではないですね。

 - 今回取材するにあたって、PAS TASTAを語るに重要な要素を考えたところ、やはり「インターネット的」であるところは欠かせないのではないかと自分個人としては思ったんです。「インターネット的」とはなんぞやという話もありますが……。

phritz - でも、ただのサンクラ集団に終わりたくないというか。Jポップって言い出したからには、ちゃんとメインストリームでも通用するような企画にしたいな、という思いが僕にはあって。なので、インターネット感が強すぎないようなクオリティコントロールをしてきたつもりではあるんです。もっとふざけようとすれば、たとえばミックスの部分でも過剰なものにできるとは思うんですけど、やっぱりいろんな人に聴いてほしいし、拒否反応を起こされたくない。

hirihiri - ふざけるなら、たくさんの人に聴いてもらった上でふざけた方が楽しい。

yuigot - peterparker69のインタビューで、「ポップスでやっていくことは、一番闘ってる感じがする」ということを言っていて、個人的にはめっちゃシンパシーを感じたし、狭いところで収まって満足したくないなって。その感覚が『GOOD POP』なのかもしれません。

yuigot

むしろ、オッドだからグッド

 - ちなみに、アルバム『GOOD POP』のタイトルが生まれた経緯は?

ウ山あまね - 曲ごとにタイトルを決めるためにみんなで話し合うんですけど、アルバムはhirihiriが出した案です。

hirihiri - 最初はみんな頭文字を揃える方式にしようとしていて、『Album Alphabet』みたいな案が多かったんですけど、これはダサいなって。で、『○○POP』みたいなアルバム……Charli XCXでも『Pop 2』ってありますけど、そういうのがいいかなって、でも『GOOD POP』はさすがにダサすぎるかなと思いながら言ってみたら、なんかいいねってなっちゃって。

ウ山あまね - 今チャットにKabanaguが当時のログを貼ってくれました。

 

- このタイトルでなんかしっくりきちゃう気持ち、わかります。

yuigot - 目を引くぐらいダサかったっていう。

ウ山あまね - 僕はかなり不安でしたけどね。

yuigot - アルバム制作の佳境だったので、みんなもしかしたら頭おかしくなっちゃってるかもしれなくて、一旦寝かせてから翌日考えようとなったんですけど、あまりにも「GOOD POP」が尾を引きすぎて何も出てこなくなっちゃって。逆にめっちゃ説得力ありましたけどね。それだけ中毒性のあるタイトルなんだって。

 - アルバムリリースから約1ヶ月が経ちましたが、反響はいかがですか?

ウ山あまね - 思っていたより評判があったなって個人的には思ってます。

yuigot - 自分の弟が今年大学生になったんですけど、「同級生でPAS TASTAの話してる人がいた」って話を聞いたり。完全に自分たちが想定してないところで話題に挙げてもらえているようで、めっちゃいいなって。

hirihiri - 客演に入ってもらったアーティストのリスナーに届いてほしいとは思っていたんですけど、そうじゃなさそうなところにも聞かれていてびっくりしてます。

phritz - あと、先ほど話したように国内市場でやろうという方針があったので、全然海外のことを意識していなかったんですけど、我々なりにJポップに振り切った結果、海外のJポップ好きが長いレビューを書いてくれたり、iTunesの国別のJポップランキングでも頻繁にチャートインしていたりして。

hirihiri - スウェーデンは1位になってましたね。

yuigot - 『GOOD POP』を出してからインスタでフォローしてくださった、台湾のシンガーソングライターの方のフォロー欄を見てみたら、基本的に本国のアーティストばかりの中、Jポップ枠で入っていたのが、ずっと真夜中でいいのに、米津玄師、PAS TASTA。

hirihiri - やばすぎ(笑)。

yuigot - とんでもないJポップ観になってしまっていて、めちゃくちゃぶち上がりました。

ウ山あまね - PAS TASTAっていう名前のやつらが『GOOD POP』ってアルバムを出してるのって、海外の人からしたらおもろいのかな。「こいつらなんなんだ」って思うのかも。

phritz - そういえば「変な名前の日本のバンドランキング」みたいなのに入ってましたよね。

hirihiri - Rate Your Musicの。

ウ山あまね - いやあ、名誉なことですよね。

hirihiri - 書かれているレビューが「6人もいるのに誰も反対しなかったのか」って。

一同 - (笑)。

Kabanagu - 全員ノリノリだったからね。

ウ山あまね - 血迷ってたのかな。

yuigot - PAS TASTAって名前も、リリース日だけ先に決めちゃった状況で追い込まれていた時だったんですよね。重大な決断であればあるほどハイになってる時に決めがち。

 - でも、このトボけた感じがPAS TASTAのカラーになっているように思います。『GOOD POP』のジャケットの表情とかも。

yuigot - 6人いるので、ある意味で責任の所在のなさみたいなことが現れているのかも。ソロ作だと怖くてやれないですけど。

ウ山あまね - まあ、結果的に良かったなっていうふうには思います。

美しく絡み合いたい、パスタのように

 - 5月3日にはワンマンライブ「GOOD POP FOR YOU」があります。今、準備が大変そうですね。

Kabanagu - ヤバいよ〜

yuigot - アルバムが20分ちょいしかないので頑張らざるを得ない(笑)。

ウ山あまね - それがどのようにしてライブになるのか、乞うご期待ですね。

yuigot - 我々の命の輝きを。

 - 6人揃ってのライブは初めてですよね?

Kabanagu - スー誕祭はDJセットだったし、ライブセットは初めてといっていいのかもしれない。

hirihiri - "all night"を出した時、club asiaで僕ら呼ばれて、全部"all night"のリミックスのセットをやりましたね。

ウ山あまね - まだPAS TASTAじゃない頃。

yuigot - エゴサしてると「PAS TASTAのライブってああいう感じなんじゃないか」って恐れてる人がいて。全部リミックスみたいな。すごいインパクトあったんだなって思う。

 - トラックメイカーが6人集まって、一体何をするのか気になります。

yuigot - そこがむしろ活きてくるのかなと。具体的にどうとは言わんけど。

ウ山あまね - 不安を胸に来てほしいですね。

Kabanagu - それはかわいそうすぎる(笑)。

 - ワンマン以降の予定はあるんですか?

yuigot - マジで考えてない。

Kabanagu - 何も決まってないし、一旦ちょっとゆっくりしたいかも。自分のアルバムを作りたいから。

yuigot - 俺も。

 - PAS TASTAのプロジェクトはそれぞれのソロ活動の合間を縫って、というイメージなんですか?

Kabanagu - ですかね。完全に止まるってことは絶対ないですけど。

yuigot - でも、アルバムを作っている最中からワンマンを目的にしていたところもあったので、これが終わってみてようやく見えるものがあるのかなっていう感じもします。

 - なるほど。年一回ほどワンマンライブを開いてほしいリスナーもいるかと思います。

yuigot - 死んじゃいます。

hirihiri - 毎年アルバム……。

ウ山あまね - まあ、アルバムじゃなくてもなにかしらの作品を定期的に作りたいですよ、僕は。

Kabanagu - リミックスとか編曲の依頼もやりたいですしね。

 - 話を聞いている感じだと制作ペースを上げてこのまま売れ抜けたい、みたいな感じでもなさそうな。

ウ山あまね - いや、売れたら嬉しいですよね。みんなね。

Kabanagu - それはマジ。

yuigot - 売れるに越したことない。

phritz - まあ、売れるために必死にガシガシやる、みたいなのはそれぞれソロがあるし続かないと思うので、いい感じに頑張って高いところを目指したいなと。

 - なるほど。ほかにPAS TASTAとしての展望はありますか?

phritz - 全然時期尚早ですけど海外に行きたいですね。

yuigot - あー。bo enに会いたいな。

phritz - 意外とチャンスはあるのかなと思っているので、機会があれば行けたら楽しいだろうなと。

 - それこそJポップとして国内で人気を集める未来は考えていますか? たとえばMステに出演するとか。

ウ山あまね - Mステ、出てー!!!!

一同 - (笑)。

ウ山あまね - でも、PAS TASTAのメンバーはそれぞれ別々の作風で、Jポップ的だとはいえないかもしれないサウンドを作っているじゃないですか。もしこのままPAS TASTAの認知が広がって、僕らがJポップとして受け入れられたら、いわゆるJポップを好きな層にも届いたら、僕らのサウンドに衝撃を受けてもらったら、それはすごく面白いことだなと思います。だから売れたいな、っていうか、広く知られたらいいなって。

yuigot - ソロでやっている音楽のフィールドが広がるといいなっていうのはありますよね。自分がやりたいことやる土壌を生成するのを、PAS TASTAが担っているというか。

phritz - 単純に認知度って意味でも、PAS TASTA経由で個人名義を知ってもらおうという意図は当初からの目標の一つにありました。

yuigot - あとはフジロックとかも出たいです。

ウ山あまね - フジロック出たいし、Adoさんとやりたいっていうのはみんな言ってます。

phritz - Ado、米津玄師、星野源。

 - このまま大きくなっていったら面白いだろうなと、期待しています。

phritz - 力と金がついてきたら急にみんな揉めだすかもしれない。

ウ山あまね - バランスがいつ崩れてもおかしくない。

phritz - そうならないように皆さん心がけましょう。

 - (笑)。でもお話を伺っていて、みなさんすごく和を尊ばれているなと。同じ6人組でもsix impalaって狂った方向にしか突き進まないじゃないですか。インタビューでも「他人のsh*tty ideaを受け入れなければならない」ということを言っていました。

ウ山あまね - ◯されないために◯さない、みたいな。

phritz - 僕らは美しい関係でありたい。

quoree - 美しくなりたい。

ウ山あまね - 美しく絡み合いましょう。パスタのように。

phritz - 麺支。

 - でも、six impala流にめちゃくちゃなことをしてほしいというファン心理も(笑)。

ウ山あまね - そうやって解散したいですよね、だから。

一同 - (笑)。

ウ山あまね - 「この曲がきっかけで終わりました」っていう曲を出して終わり。

yuigot - リスナーはどんな気持ちで聴けばいいんでしょうね。

ウ山あまね - 最後に殴り合いの音が入ってる。

yuigot - "zip zapper"の怖い版。「終わりでいいんじゃないですか」って。

Info

Title:GOOD POP
Artist:PAS TASTA(パス・タスタ) 

Mixing & Mastering:phritz
Art Director:Ray Masaki

2023年3月15日(水)リリース

Song list:
1. intro impact
2. sunameri smoke (ft. Cwondo)
3. peanut phenomenon (ft. ピーナッツくん) 4. finger frame (ft. 鈴木真海子)
5. river relief (ft. 崎山蒼志)
6. blanc benzo (ft. Peterparker69)
7. turtle thief
8. zip zapper

  

各種音楽配信サイトURL

https://linkco.re/msP0HmAR

【ライブ情報】

Title:GOOD POP FOR YOU

Artist:PAS TASTA(パス・タスタ) 

Date: 2023年5月3日(祝)

 Open/Start:17:15 / 18:00 ADV:¥4,000(ドリンク代別) 

Door:¥4,500(ドリンク代別)

チケット販売URL https://eplus.jp/gpfy/

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