【インタビュー】Kaoruko | 好きなものを一つに絞れない。多少軸からズレても別にいいじゃん

kZmが主宰するレーベル・De-void*からシンガーのKaorukoがEP『opal』をリリースした。kZmはもちろん、DJ DISK、Yohji Igarashi、TSUBAME(TOKYO HEALTH CLUB)、元neveryoungbeachの阿南智史が参加した本作の話題を中心に、Kaorukoのこれまでとこれからを聞いた。東京のリアルな夜遊びバイブスの一コマが感じられるロングインタビュー。

気になるパーティーがあったら1人でふらっと行って

- Kaorukoさんはもともとアイドルだったんだとか。

Kaoruko - はい。子供の頃はジャニーズがめっちゃ好きでした。そこからハロプロ!とか女の子のアイドルにハマって現場に行ってたら地下アイドルも好きになって。その現場でスカウトされて3年間地下アイドルをやってました。

- オタクからアイドルになることに抵抗はなかったんですか?そこって簡単に踏み越えられない感じがするというか。

Kaoruko - 誘われた時は「私オタクなんで無理です」って断りましたもん。でもかなり熱心に誘っていただいたので、断りきれなかったんです。それに実際やってみたら楽しかったし。

- 憧れてたアイドルを自分でやることは嫌ではなかった?

Kaoruko - 最初から嫌ではなかったんです。「無理」だったんです(笑)。それにアイドルになりたい気持ちも心の奥底にはありましたから。だからアイドルは続けたかったです。

- ではなぜアイドルを辞めることになったんですか?

Kaoruko - グループが解散しちゃったんです。

- なるほど。でも音楽はやりたかった?

Kaoruko - ですね。でも自分で作るというより、最初はただ歌いたかった。アイドル時代は与えられたことをこなしていて、それが楽しかった。ステージに立ったり、歌ったり、お客さんと話したり。そこからTREKKIE TRAXからリリースしてたプロデューサーと出会い、1st EP『Starting Now…』を作り、2枚目、3枚目とEPを作っていく中で少しずつ自分の音楽を意識できるようになってる感じですね。

- では最初の頃はクラブミュージックも全然知らなかった感じですか?

Kaoruko - はい、全然。でもPerfumeは昔から好きでした。曲を作ることになったから、勉強みたいな感じでそのプロデューサーの人たちにベース系のパーティとかに連れて行ってもらったんですよ。当時はお酒もタバコも未経験だったから、正直ものすごくしんどかったですね(笑)。

- 今回のEP『opal』は東京の夜遊び感を色濃く感じる作品でしたが、Kaorukoさんはどのようにクラブにハマっていったんでしょうか?

Kaoruko - 最初こそすごくしんどかったけど、私は割とどこでも1人でふらっと行ってしまうタイプなんです。最初は知り合いや友達と一緒に行ってたけど、何回か行ってるとその場にいる人とかと知り合いになって、行きやすくなりますよね。で、気になるパーティーがあったら1人でふらっと行って。そんな感じでいろんな音楽と出会って今に至る(笑)。


ひとり遊びの延長だからクラブで遊ぶのが好き

- ちなみにアイドルの中では誰が好きだったんですか?

Kaoruko - エビ中です。高校時代は現場に行くためにほとんどバイトしてました。あとはオタク友達と会ってた記憶しかない(笑)。

- 今のKaorukoさんとの落差がすごいです(笑)。

Kaoruko - 私はいろんなのが好きなんです。それこそハロプロ!やPufumeも好きだったし、東京事変も大好きでした。あと椎名林檎の“17”は10代の自分のアンセムでしたね。あの曲ってどこにも居場所がない女の子の歌なんです。学校帰りに“17”を聴いて共感しまくってました。今思うとたぶん10代の私は中二病だったんだと思います(笑)。

- 先ほどの「どこでも1人でふらっと行ってしまうタイプ」という発言とも繋がりますね。

Kaoruko - そうかも。私がクラブで遊ぶのが好きなのは、ひとり遊びの延長だから。

- しかもKaorukoさんは地元が新宿なんですよね。ぱっと行ってぱっと帰れるみたいな。

Kaoruko - そうですそうです。別に誰かと待ち合わせして行くこともないし。タイミングが合ったら会う。誰かがいたら後から合流して、喋りたい時に喋って、帰りたくなったらタイミングで帰る(笑)。

- 都会人の遊び方。

Kaoruko - こういうふうに言っちゃうとすごく浅はかな関係性と思われるかもしれないけどそういうことじゃないんですよ。ただ自由に遊んでるだけなんです。

- 仰りたいことめちゃくちゃわかります。自宅と遊び場の距離が遠いと、どうしてもその夜に対する思いや期待値が大きくなってしまう。でもKaorukoさんやkZmさんにとっての東京は本当に地元だからもっと気軽なんですよね。友達の家や地元の居酒屋、なんなら近所の公園に行くのと気持ち的にほとんど変わらないというか。

Kaoruko - ですです。とはいえ私も自分のタイミングがわかるようになったのはここ最近な気がします。

- では、kZmさんとはどんな流れで出会い、De-⁠void*に所属することになったんですか?

Kaoruko - きっかけはtokyovitaminのKenchanですね。彼は私の“MERCURY”という曲を聴いて、tokyovitaminのコンピ『vitamin yellow』に誘ってくれて。そこからちょいちょい遊ぶようになったんですよ。ある日、Kenchanが渋谷のBEATCAFEでkZmと飲んでて。kZmとはそれまでに何回かクラブとかでも会ってはいたけど、その日は3人で結構話し込んだ記憶があります。

- どんなことを話したんですか?

Kaoruko - 当時の私はTREKKIE TRAXのプロデューサーの後、別のプロデューサーと組んで一緒に制作してたんです。その人はビートメイク、ミックス、マスタリングまでできたので、その人に任せっきりだったんです。でもいろいろあって、その人と作る機会が無くなってしまい。プロデューサーはもちろん、エンジニアの友達も私にはいなかったからかなり途方に暮れてました。だからか、その時もなんとなく「これからどうすればいいかな」みたいな話になって。そしたら2人とか、BEATCAFEの加藤さんとかが「そういう時は俺らに言いな」って言ってくれて。それがめちゃくちゃ嬉しかったのはよく覚えてます。

- 夜遊びいい話ですね。

Kaoruko - うん。ほんとみなさん、あの時も今もありがとうございます……。その話の後くらいにあたりに、kZmと曲と作ろうって話していて、ちょうどDe-void*を立ち上げる時期でもあったので、そのレーベルで一緒にやることになりました

アイドル、バンド、ダンスミュージック……。好きなものがいっぱいある

- EPのタイトル『opal』の意味を教えてください。

Kaoruko - 今回の5曲って全部ジャンルがバラバラだと思うんです。私自身もアイドルが好きだったり、バンドが好きだったり、ダンスミュージックが好きだったり、好きなものがいっぱいあるんです。趣味もそうだけど、いろんなものをつまみ食いして楽しんでる。このEPにはその感覚が表現できてるなと思ったんです。そこを象徴できる言葉にしたくて。それで『opal』が思い浮かんだんです。オパールって石は角度とか光の加減によって色が変わっていろんな色に見えたりとかする。しかも綺麗。あと小文字表記にすると見た目もかわいい。あと、オパールの石言葉を調べたらめちゃくちゃ良いこと書いてあったんですよ。その超重要な言葉が何か忘れちゃった……(笑)。

- パッと調べると「純真無垢」「幸運」「忍耐」「歓喜」「希望」って出てきますね。

Kaoruko - あ、そうそう。「ピュア」と「忍耐」というあまり一緒に並ばない言葉が意味にあるのが良いと思ったんです。曖昧な記憶なんですけど、私が調べた時は「今が耐え時」みたいな言葉も出てきて。「今後良くなっていくだけ」みたいな。私は今音楽だけでご飯を食べられているわけじゃないけど、この自分が置かれた状況を捉えるとしっくりくるなと思って『opal』に即決しました。

- 5曲ともプロデューサーが違うんですね。

Kaoruko - はい。1曲目“swipe up”のDJ DISKさんはDe-⁠void*から作品をリリースしてるし、シンプルにすごく距離が近い人。あと前から一緒に曲を作りたいねと話していたんです。で、今回タイミングがあって一緒に制作しました。普段から好きな音楽の話題を共有してるので、「こんな感じがいい」みたいなリファレンスを出して作ってもらいました。

- “swipe up”のリリックを読んで、最初はラブソングだと思ったけど、同時に社会批評とも感じました。

Kaoruko - どちらかと言ったら後者です。このリリックは、一日中TikTokを見てる人が実際にいるって話を聞いて「さすがにそれはヤバいでしょ」と思って創作しました。今の世の中はあまりにも情報過多だと思う。「みんな大丈夫?」という気持ちを私なりに膨らませて歌詞にした感じです。

爆音のフロアでかわした会話のあれこれがEPに反映された

- “babyface feat. kZm”はどのように制作されたんですか?

Kaoruko - ビートはTSUBAMEさん。TOKYO HEALTH CLUBのメンバーで、Rave Racersにも参加してます。もともとエレクトロをやってらした方なんです。

- ROC TRAXでも活動されてましたよね。

Kaoruko - そうですそうです。TSUBAMEさんとも2〜3年前から一緒に曲をやりたいですねって話してはいたんですよ。それがようやく形になりました。TSUBAMEさんから「フィーチャリングを誰か入れてみる?」とおっしゃってくださったので、たまたまその時kZmとよく遊んでたから、まさにクラブのフロアで「こういう曲をTSUBAMEさんとやってるんだけど一緒にどうですか?」ってお願いしたら快諾してくれました。なので自然とこういう歌詞になりました(笑)。

- kZmさんのリリックには翠月 - MITSUKI -が出てきますし、「Kaorukoさんはこういう雰囲気で遊んでるんだなー」と想像してました。

Kaoruko - kZmをフィーチャリングしてる曲なのに、私は自分だけの世界みたいな歌詞なんですね。たまに「今じゃない」ってタイミングで知らない人から話し掛けられたり。その感じを歌詞にしました。基本的に人と話すのは好きなんですよ。でもタイミングって大事じゃないですか(笑)。

- Kaorukoさんは柔らかい話し方をされるけど、芯がすごくしっかりしてますね。“babyface”にはその雰囲気がよく出てると思います。「個人行動が好き」とか、「自由でいたい」とかもそうだし、なにより『opal』の命名エピソードにも通じるというか。

Kaoruko - ありがとうございます。私、言語化が下手くそすぎてなかなか言いたいことが正確に言えない(笑)。

- 僕は次の“花曇り”が一番好きでした。

Kaoruko - 実際この曲が一番聴かれてるんですよ。プレイリストに入れていただいたり。これはAge Factoryというバンドでベースを弾いてる西口さんの曲です。何曲かストックのビートを送っていただいた中からこれを選びました。すごく展開が多い曲ではあるんですけど、メロディーは作りやすかったです。聴いてるとすごくエモーショナルな気持ちになる。どうやらそういうコード進行らしくて。私は音楽理論とか全然わからないけどこういうメロディが好きなんですよ。フックもすぐ思いついたので即決でこれにしました。歌詞については意図的に身近なワード、世田線とかを入れてます。

- それはなぜ?

Kaoruko - これまでの私の曲は全部雰囲気というか抽象的な表現が多くて。kZmとか、次の“lost in heaven”のMVを撮ってくれてる映像作家の友達に「聴き手に寄り添う歌詞があったほうがもっと世界観をイメージしやすくなる」ってアドバイスをしてもらったんです。その人は自分でも物語を書いたりしてて。しょっちゅうクラブで遊ぶんですよ。ちなみにこのアドバイスも爆音のフロアでもらいました(笑)。こんこんと話し込んでたことを思い出してこの歌詞を書いたんです。

“lost in heaven”が一番のお気に入り

- 今話題に出た“lost in heaven”はYohji Igarashiさんのビートです。kZmさんやRave Racersとも近いですよね。

Kaoruko - うん。Yohjiさんもかなり近い人。これは送っていただいたストックの中からメロディが気に入って選びました。こういう悲しいメロディが好きだし、ビートもUKっぽい2ステップが大好き。「これがいいです」ってYohjiさんに言ったら、「まさかこのトラックが世に出るとは思ってなかった」って言ってました(笑)。

- 確かにYohjiさんのビートの中では比較的シンプルですよね。

Kaoruko - 私はこの曲が一番お気に入りです。歌詞はすごく弱ってる自分を書きました。メンタルや心のことってあまり言いたくないじゃないですか。弱い自分というか。でもこの曲では思い切って最初に「妄想で鬱状態」って言っちゃいました。そしたら私の中にあった弱ってる気持ちが解放できたんです。しかもこの曲って最後にファーっと壮大なことになるので、そこもネガティヴになりすぎなくていいなと思う。この曲が書けて良かった。すごく気が楽になった。

- ビートは軽快な2ステップだけど、サウンド感にはYohjiさんのEDM愛も感じられ、でも歌詞はKaorukoさんの陰鬱な内面が歌われてるバランス感がいいですよね。

Kaoruko - そうそう。そのバランスがすっごい好きなんです。

- ラストの“set me free”は雰囲気の違う曲ですね。元neveryoungbeachの阿南智史さんがギターで参加されています。

Kaoruko - これはもともとタイプビートで作ってた曲なんです。そのまま出しても良かったけど、その時たまたま阿南くんとも曲を作ろうと話していたので、声をかけて弾き直してもらいました。そしたらものすごく素晴らしい感じになって。やっぱりタイプビートの音と実際に生の奏者に弾いてもらうのとでは全然違うなってすごく勉強になりました。阿南くんは本当にすごいです。

- それはミュージシャンとしてすごく大きな経験かもしれないですね。

Kaoruko - いろんな人が関わってくれたおかげで作品のクオリティはもちろん、私自身もかなり大きく成長できた気はします。

- 個人的にはやはりKaorukoさんがチョイスするトラックのセンスの良さに脱帽しました。

Kaoruko - いやいや。作ってくれた人たちがセンス良いだけです(笑)。それに普段私はテクノとかエレクトロ とかがかかってるとこに遊びに行くことが多いし。とはいえ、最初の話に戻っちゃうけど、いろんなとこ行くんです。ヒップホップのパーティにも行くし。全部楽しい。いろんなとこに行って遊んだ結果『opal』になったという感じ。それに今の私ではがっつり歌い上げるハウスみたいに曲は作れないし。

次はアルバムに挑戦してみたい

- 別のインタビューでKaorukoさんが「ジャンルとか関係なく自由に自分が好きなものを素直に楽しめばいい」というニュアンスの発言をされていて個人的に素晴らしいと思ったんですよ。

Kaoruko - それは単に私が好きなものを一つに絞れないってだけです(笑)。一応好みの軸はありますけどね。でもそこから多少ズレても別にいいじゃんって感じられるようになりました。

- その軸を教えてください。

Kaoruko - 私が好きな音楽はなんて言ったらいいんだろう……? 最近はAnzというプロデューサーが好きです。あと、maruwa、それか、Paramida

- ミニマルなディープハウスですね。実はこういうのが一番好みです。

Kaoruko - 私もこういうのが一番好きなんです。でもこういう音楽がかかってるのは小箱で、しかも同世代の子が全然いないんですよね……。

- ちなみにKaorukoさんから見て東京のクラブシーンはどのように感じですか? 去年はVISIONやCONTACTの閉店が大きなトピックではありました。

Kaoruko - あー。確かに小箱中心になりましたよね。でも個人的にはすごく活気があると思います。週末なんて体一つじゃ足りないって感じですし。あっちこっちで楽しそうなパーティーやってる。それこそ翠月だと平日なのにパンパンのパーティとかあるし、私も木曜のKOARAに行ったりもするし。

- では最後に今後の目標を教えてください。

Kaoruko - 『opal』でEPも4枚目になるので次はアルバムに挑戦してみたいですね。あと個人的にはさっきも言ったけど、私の軸として好きなミニマルなディープのパーティには同世代がそんなにいないんですよ。私がライブさせてもらうのはヒップホップのイベントもあるので、そっちはエネルギッシュな若い子がいっぱいなんですね。だからいつか、そこをクロスオーバーさせる場を作ってみたいです。もちろんそれがすっごく難しいのはわかってるんです。けど、私はどっちも好きだし、楽しいと思う。何より私がそこでライブして、遊びたい。それが今のことろの目標ですね。

- 僕もそのパーティに遊びに行きたいです(笑)。kZmさんの活動スタンスにもそういう面がありますもんね。

Kaoruko - うん。まさに。実現したらみんなに遊びに来てもらいたいです!

Info

■Kaoruko - 4th EP 「opal」各種DL/配信URL

https://linkco.re/41d4rSyE









RELATED

【インタビュー】JAKOPS | XGと僕は狼

11月8日に、セカンドミニアルバム『AWE』をリリースしたXG。

【インタビュー】JUBEE 『Liberation (Deluxe Edition)』| 泥臭く自分の場所を作る

2020年代における国内ストリートカルチャーの相関図を俯瞰した時に、いま最もハブとなっている一人がJUBEEであることに疑いの余地はないだろう。

【インタビュー】PAS TASTA 『GRAND POP』 │ おれたちの戦いはこれからだ

FUJI ROCKやSUMMER SONICをはじめ大きな舞台への出演を経験した6人組は、今度の2ndアルバム『GRAND POP』にて新たな挑戦を試みたようだ

MOST POPULAR

【Interview】UKの鬼才The Bugが「俺の感情のピース」と語る新プロジェクト「Sirens」とは

The Bugとして知られるイギリス人アーティストKevin Martinは、これまで主にGod, Techno Animal, The Bug, King Midas Soundとして活動し、変化しながらも、他の誰にも真似できない自らの音楽を貫いてきた、UK及びヨーロッパの音楽界の重要人物である。彼が今回新プロジェクトのSirensという名のショーケースをスタートさせた。彼が「感情のピース」と表現するSirensはどういった音楽なのか、ロンドンでのライブの前日に話を聞いてみた。

【コラム】Childish Gambino - "This Is America" | アメリカからは逃げられない

Childish Gambinoの新曲"This is America"が、大きな話題になっている。『Atlanta』やこれまでもChildish Gambinoのミュージックビデオを多く手がけてきたヒロ・ムライが制作した、同曲のミュージックビデオは公開から3日ですでに3000万回再生を突破している。

WONKとThe Love ExperimentがチョイスするNYと日本の10曲

東京を拠点に活動するWONKと、NYのThe Love Experimentによる海を越えたコラボ作『BINARY』。11月にリリースされた同作を記念して、ツアーが1月8日(月・祝)にブルーノート東京、1月10日(水)にビルボードライブ大阪、そして1月11日(木)に名古屋ブルーノートにて行われる。