【コラム】SZA 『S.O.S.』| 孤独な大ヒット作

2023年、SZA(シザ)の勢いが止まらない。2022年12月9日にリリースされたセカンド・アルバム『SOS』が7週連続でビルボードのHot200(アルバム・チャート)の首位を独走、1月後半に1週だけTomorrow x TogetherのEP『The Name Chapter : TEMPTATION』に譲ったものの、また返り咲いて3月1日現在、またナンバー・ワン。飛びながらも10週間No.1はフィーメイル・アーティストとしては2015年のAdele『25』以来、R&Bアーティストとしてはさらに遡って2004年のUsher『Confession』の9週を抜いた。21世紀に入って初めてBillboardのアルバムチャートのトップに10週間も君臨したR&Bアルバムが、『SOS』なのだ。

SZAはどのようなシンガーなのか。

なぜ、『SOS』はこうも愛されているのか。

この2点をひもとく。セカンドのリリースから3カ月弱、SZAは大忙し。「SOS」ツアーの準備をしつつ、親友Lizzoの"Special"のリミックスに参加し、23曲ともともと収録曲数が多い『SOS』に10曲を足したデラックスヴァージョンのリリースを発表した。全33曲になれば、ダブルアルバムのボリュームだ。2017年のデビューアルバム『Cntl.』から、5年半。何度かリリース日が噂されては延期され、途中、SZAが所属しているトップ・ドッグ・エンターテイメント(TDE)にたいする不満を公にする一幕もあった。その間、制作した曲は100を超えたというから、23曲に絞るのも大変だったはず。セカンド・アルバムの収録曲の多さ、完成度の高さにはそういった背景がある。

『SOS』の全容に入る前に、彼女の基本情報から。1989年11月8日、SZAはミズーリ州のセントルイスでソラーナ・イマーニ・ロウとして生まれ、ニューヨークの隣州、ニュージャージーのメイプルウッドで育っている。お父さんはニュース専門局CNNの、お母さんが電話会社AT&Tの幹部だから、経済的に恵まれた育ちのはず。大学1年生のときに3つもカレッジを転々とし、最終的に海洋生物学者を目指した、少しおもしろい経歴をもつ。お母さんがクリスチャンで、お父さんはイスラム教徒である。ふたつの宗教への理解は、いまのSZAの歌詞世界に影響を与えている。名前の由来は、Wu-Tang ClanのRZA(リザ)同様、シュープリーム・アルファベットから。Sは救済者、もしくは主権者(savor/sovereign)で、Zはジグザグ、Aはアラーを意味する。

2011年、新人が集まるCMJミュージック・レポートで、Kendrick Lamarと来ていたショーケースでTDEのボスのひとり、トレンス“パンチ”ヘンダーソンの手に彼女のデモ・テープが渡る。TDEは、2004年に設立されたインタースコープ傘下のレーベルで、アンソニー“トップ・ドッグ”ティフスが、15歳だったKendrickと契約したのはいまとなっては伝説だ。ほかにSchoolboy Q、Ab-Soul、Jay Rockらが所属するヒップホップ・レーベルであり、R&Bの女性シンガーであるSZAと契約したときは話題になった。TDEのバックアップのもと、SZAは2012から『See.SZA.Run』、『S』、『Z』と3つのEPをリリース。このうち、『Z』はいまでもストリーミングで聴ける。この頃のサウンドは、MiguelやFrank Ocean、The Weekndのおかげで2010年代にいっきにメインストリームに浮上したオルタナティヴR&Bのカラーが強い。Little Dragonのオープニング・アクトや、Jhane Aiko、The Internetとの「Enter The Void Tour」などのライヴパフォーマンスで知名度を高め、デビューアルバム『A』に取りかかる。

SZAは少し鼻にかかった可憐な歌声と、類希な作詞能力で注目されたアーティストだ。2014年にNicki Minaj"Feeling Myself"でNicki、Beyonceと一緒にペンをとり、2016年にはRihanna『ANTI』の1曲目"Consideration"を書いている。"Consideration"はもともと、『S』、『Z』、ときて『A』となる予定を『Cntl.』と改名にしたデビューアルバム用の曲だった。スタジオで偶然、この曲を耳にしたRihannaが所望したのがきっかけ。ちなみに、Rihannaは『Cntl.』の時期にSZAがよくやっていた少し舌足らずな、ペタッとした歌い方までも取り入れている。

2017年の6月にリリースされた『Cntl.』には、オルタナR&Bというカテゴリーからふわりと浮遊してポップやインディー・ロック寄りの曲を忍ばせた、ジャンルを跨いだ14曲が収録されていた。Travis Scottが参加した"Love Galore"は彼女がいる男性との腐れ縁を歌っているし、"The Weekend"のコーラス「My man is my man is your man, Heard it her man, too(私の男は私の彼であなたの彼だし 彼女の彼でもあるんだって)」は有名だ。これらの曲でSZAが浮気相手「側」の女性になっている、と取った人は多かった。だが、本人はこれを否定。3股をかけられた話との解釈に落ち着いた。

SZAの歌詞には恋愛相手にたいする依存、自己憐憫と自己嫌悪があふれている。人間関係の構図だけを見ると、自らを女の敵と位置づける曲が多いのだが、どこまでもあけすけで正直であるため、不思議と腹が立たない。それどころか、「こういうことあるよね」と、ついSZA側の視点に立ってしまうのだ。すぐに断言したがり、関心が続かない移り気なファスト文化全盛の昨今において、『Cntl.』が長く深く聴かれているアルバムとなっているのは、歌われる状況と感情が複雑で変わりやすいので、自分の都合で解釈を変えて感情を移入しやすいからだと思う。セカンド・アルバムが散々遅れてファンがさすがに焦れていた2022年1月、SZAは2016年までの未発表曲7曲を足した『Cntl.(Deluxe)』をリリースした。

そろそろ、本題の『SOS』の話に入ろう。『Cntl.』の話を長めに書いたのは、5年強の月日を経ているにもかかわらず、SZAの恋愛に陥るときの癖、テーマ、基本姿勢が変わらないから。強気に出るわりにはあまり自信がなく、実りのない恋愛だとわかっていてもその時の感情と欲望に流される。『SOS』は、タイトル曲から始まる。そして、そのタイトル曲は「助けて!(SOS)」のモールス信号から始まる。いま、アメリカでもっとも聴かれているのは、自分を見失いそうなほどの激情、孤独感を抱え、1時間以上「助けて!」と信号を送っているアルバムなのだ。

激しい恋愛をする人は、被害者意識を抱きがちだと思う。ファーストの延長線上にある『SOS』は、被害者意識が高じて、復讐モードがとても強い。ただし、前作と本作の間に、SZAはプロポーズをされ、受け入れた後に婚約を破棄されるというアラサー女性にとって「被害」以外の何ものでもない経験をしている。近い時期に、最愛の祖母を失ってもいる。広い海原に突き出たダイビング・ボードにひとり座っているアートワークは、1997年のイタリアで撮られたダイアナ妃の写真から着想を得ている。「彼女の深い孤独を自分に重ねた」と語るSZA。

現在、SZAは33歳。元カレを意味する「ex(boyfriend)」がひとりだけだと決めるのは危険だが、本作は元婚約者に向けている曲は多い。彼のようにはだれも自分を理解してくれないし("Nobody Gets Me")、毎回傷ついても本音を引き出してほしいし("Love Language")、ほんとうにもう手遅れなのかな?("Too Late")と嘆いてもいる。辛さを埋めるために、好きでもない男性とも寝てしまうし("Seek &Destroy"、"Low")、ほかのみんなが嫌いだから嫌われるのも構わないし、豊尻手術だって自己申告する("I Hate You"、"Conceited")。相手に依存して、利用されて、自分らしさを見失ってしまった("Used"、"Blind"、"Far")。その先に、究極の結末が待っている。

先行シングル"Shirt"のシャツに付いた血糊の理由を明かしたのが"Kill Bill"とも取れる。Taylor Swiftの「Anti- Hero」と並ぶ、2022年暮れから2023年頭の最大のヒット。前に置かれた"SOS"で、元カレの新しい彼女が自分の下位変換だと怒るSZA。その怒りは、つぎの"Kill Bill"で殺意に変わる。クエンティン・タランティーノの同名傑作映画が、日本の映画『修羅雪姫』(1973)へのオマージュであるのは広く知られている。いずれも復讐劇だ。「元カレを殺しそう/あまりいい考えではないよね(I might kill my ex / not the best idea)」と歌う、カノン進行のコーラスは耳にすっとなじむ。聴きやすいメロディに乗って、最後のコーラスで「「元カレを殺しちゃった/まずいよね(I just killed my ex / not the best idea)」という状況にまで行き着くから、恐ろしさがきわ立つのである。

SZAはR&Bとカテゴライズされがちだが、正確にはR&Bをベースにしつつ、ジャンルを跨いだ音楽性をもつ。本作も、中盤の"Notice Me"からポップやカントリー、ポップ・ロックの要素が強くなる。プロデューサー陣は、エンジニア出身で『SOS』全体に関わっているロブ・バイセルとカーター・ラングが、いわばSZAのチームである。"Shirt"のロドニー・ジャーキンズほか、ジョン・ヒルとDJダヒ、ベニー・ブランコといった大物から、若手のジェイ・ヴェルサーチ。サンクゴッド4コーディー、テオ・ハルムとマイケル・ウズウルまでが参加。ヒップホップのカラーも強い。Kendrick Lamarの"Count Me Out"をくり返し引用しているほか、1分23秒と短い"Smoking On My Ex Pack"ではSZAのラップが聴ける。

2010年代、自らフックが歌える人気ラッパーが増えたように、シンガーも韻を踏んだリリックを書き、必要とあればラップまで披露するアーティストが増えた。2021年、SZAとの"Kiss Me More"でグラミー賞の最優秀ポップ・パフォーマンス(グループ)賞を受賞したDoja Catは歌えるラッパーと呼ぶよりラッパー/シンガーとしたほうが正確だし、夫のJay Z仕込みの(そっくりな)フローを聴かせるBeyonceもラップがうまい。SZAも同様であるうえ、韻を踏み、ダブルミーニングを入れ込む歌詞はヒップホップファンにも訴えかける。

また、英国のダイアナ妃だけでなく肌の色を気にせずにあちこちからインスピレーションの源を探してくるのも特徴だ。本作でもっともわかりやすいサンプリングは、フィラデルフィアのソウル・デュオ、Daryl Hall & John Oatsの"She’s Gone"だろう。念のために書くと、彼らは白人だ。客演はわかりやすいTravis ScottとDon Toliverのほかは、意外なところでPhoebe Bridgersの歌声が入る。先頃、リリースが発表されたデラックス・ヴァージョンに収録される可能性が高い未収録曲に"Joni"がある。この曲でSZAは、シンガーソングライターの大先輩、Joni Mitchellの視点に立っている。

2020年代、勢いを取り戻しているR&Bにおいて、Jazmine Sullivan『Heaux Tail』(2020)、Summer Walker『Still Over It』(2021)、Ari Lennox『age/sex/location』(2022)など黒人女性の生きづらさから端を発し、性の自由をテーマにして攻めた内容の傑作が次々と生まれた。これは、BLMで軽んじられがちな黒人の人の命でも、さらに脆弱な黒人女性の立場がクローズアップされたことと無関係ではないはずだ。これらの作品は、社会構造的に弱い立場に置かれる怒り、開き直り、そして生(性)を謳歌する姿勢が、ブラックネスを煮詰めたようなR&Bとして噴出した表現であった。

SZA『SOS』にも共通する要素はある。ただし、SZAは外見のコンプレックスを呪う歌詞を歌っても、はっきりと肌色をテーマにはしない。そのうえで、Joni MitchellやHall &Oatsを引用し、チャート上でライヴァルになっているTaylor Swiftが歌ってもおかしくなさそうな曲を作り、Maroon 5に招かれて"What Lovers Do"のヴァースを歌ったりする。徹底して個人的な話をし、悲壮なまでに孤独感を募らせているのに、サウンドやテーマで多くのフィールドにリンクできてしまうのがSZAである。本人は「みんな大嫌い」と言うのだが、多くの人の奥底にある以前の恋人たちへの負の感情を、「あ、殺しちゃった」と歌ってくれるから、私たちはつい「SZA、大好き」となる。結果、『SOS』は天災、人災続きで「ふざけんな!」モードになりがちな2023年にぴたっとハマり、聴かれ続けるのだ。(池城美菜子)

Info

シザ | SZA     

最新アルバム    

『SOS』(エスオーエス)  

<デジタル配信(全23曲)>    

配信中    

https://SZAsmji.lnk.to/SOSFN

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