【インタビュー】ZOT on the WAVE | ビートメイカーからシーンを代表するプロデューサーへ

神奈川郊外の私鉄沿線のある駅の近くに、現在の日本のヒップホップシーンのトッププロデューサーZOT on the WAVEが拠点とするレーベルSELF MADEのスタジオは存在する。先日リリースされたSELF MADEのクルーアルバム『We Made It』のジャケット写真も撮影されたこのスタジオには、常日頃ZOT on the WAVEとkOWICHIをはじめとしたラッパーが日々出入りして曲を制作し続けているという。

栃木・宇都宮出身で元々はR&BシンガーだったZOT on the WAVEは、19歳ごろに自身が所属するボーカルグループのビートを制作するためにビートメイクを並行してスタートさせた。そしてビートメイカーとして地元で活動をしていく中で、現在も活動を共にするKOWICHIとの出会いがZOTを人気ビートメイカーの道に導いていった。仕事をしながらも睡眠時間を削って夢中でビートを作り続ける中で、"BOY FRIEND #2"のヒットによって、その名がシーンでも知られるようになったZOTは川崎に拠点を移す。シンプルながらも中毒性のある強力なビートを武器に、KOWICHIやSELF MADEの面々をはじめ、BAD HOPなどトップラッパーたちに毎月のようにヒット曲を提供し続けている。

今回のインタビューではキャリアを振り返りつつも、ZOTのビートメイクの核となる部分や、プロデューサーとしてラッパーについての考え方などをスタジオで大いに語ってもらった。

取材・構成: 和田哲郎

構成: namahoge

撮影: 横山純

- 今本当に忙しい状況だと思うんですけど。

ZOT on the WAVE - ありがたいことに。

- ビートメイクを始めた時に、自分がこういう形で成功を収めているみたいなことって、イメージされていましたか?

ZOT on the WAVE - 明確なイメージはできてなかったですけど、漠然と鍛錬をずっと続けていけば絶対いけるっしょとは思ってましたね(笑)

- もともと高校生の時に周りにラッパー、ラップを始める人がたくさんいたけど、歌やってる人がいなかったからボーカルをやったと以前TuneCoreのインタビューで言ってましたよね。なんでそこで歌をやろうと思ったんですか?

ZOT on the WAVE - もともとラップが最初っすよ。中学生の頃はラップ。おれ、もともとNew jack swingとかQuiet Stormとか、そういうR&Bがすごい好きで、並行して聴いていたんですけど。で、そっから日本のラップと日本のR&Bをディグり始める。当時はF.O.Hさんとか、JAY'EDさんとかがちょうどやっていたぐらいの時期で、日本語のR&Bもかっこいいな、みたいな感じで始めたっす。バイト代でボイトレの月謝払ってましたね。ボイトレも通わないとって宇都宮の駅前に唯一あったボイトレを見つけてそこ行って、たまたま先生がもともとブラックミュージックやってた人で、Monicaとかそういうの歌う女の先生でバイト代で月謝払ってましたね。1年くらいしてバックレたんすけど(笑)。そこが、スタートです。

- 歌は楽しかったですか?

ZOT on the WAVE - 歌自体は楽しかった。25歳くらいまでは、ビートも作りつつ、地元でライブしてたんです。でも人前でライブするのが嫌いでやめました。

- ビートメイクに対する興味はいつ頃からあったんですか?

ZOT on the WAVE - 19歳とかですね。FANTOMっていう、でーっかいシンセサイザーで始めました。最初友達と買って、R&Bのビート作れる人がいなかったので自分の制作用に。当時は3人組のコーラスグループをやっていて、誰もビート作れないから俺が作ろうって、やり始めたのがきっかけです。なにも分からなかったですけど(笑)。

- それまでは楽器の経験って。

ZOT on the WAVE - ないです。ってか今も弾けないっす。あの時代はチュートリアルなんて皆無なんで。そうすね。独学でした。

- 最初は大変じゃないですか。

ZOT on the WAVE - 当時のR&Bを耳コピしてました。ドラムキットもなければなんにもないので、とりあえずコード感をちょっとやって、下手くそでもクオンタイズ入れればなんとかなるんで、それで耳コピしていったっすね。ビートも歌も最初はどっちも並行して楽しんでました。

- それからビートメイクに本腰を入れようってスイッチしたのは?

ZOT on the WAVE - 23歳くらいでスイッチしていて。FANTOMって機材で作っていたところから、俺の師匠の宇都宮のRYUUKIさんと出会って。Logicで作れ、お前は絶対PCの方がいいって言われて。そこから更にDTMにハマっちゃって。地元のヒップホップクルーとかのビートを作っていて、25才くらいにはある程度出来る状態になってた。じゃあそっちでやっていこうかなってシフトしたっていう感じでした。

- その時の宇都宮のシーンってどうでした?

ZOT on the WAVE - ウェッサイと、アンダーグラウンドではないけどブーンバップから派生しているもの、オールドスクールな人たちもいたり、メインストリームは少なかったっすね。あの時代だとYoung Moneyとか、Rick RossのMaybach Musicが、Meek Millとかとバーっと出てきた時で、でもその辺りと共鳴していたのは今も一緒にやってるERASERくらいでしたね。

- ZOTさんは新しいものを作るのに興味があった?

ZOT on the WAVE - 常にどっちも好きでしたね。ニュージャックスイングとかソウルも好きだったし、新譜もガンガン追うみたいな、ガキの頃からそういう感じだったので、ディガーでしたね。ブラックミュージック自体は小5でTLCの"No Scrubs"が一番最初ですね。当時はブラックミュージックとは認識してないけど。

- 宇都宮で活動していく中でKOWICHIさんとの出会いが大きかった。

ZOT on the WAVE - そうっすね。あれがなかったら……今なにやってんだろう。本当結婚して、田舎で普通に働いて生活していたんじゃないかと思いますよ。

- その時から自分のビートはイケるんじゃないかって思っていた?

ZOT on the WAVE - ありましたね。当時俺が思っていたのは、その時はあんまり分かっていなかったけど、どうしてもラグが生まれちゃうじゃないですか。たとえば作品がリリースされる1~2年前から制作を始めると、昔はさらに今よりクイックに制作ができなかった時代なんで、日本の新譜を聴いたら子供の自分はビート古っ!みたいに思うわけですよ。俺の方が全然カマせんなぐらいに田舎で思っていた。それでKOWICHIさんがそういうビートをチョイスする人だって分かっていたんで、狙い撃ちでいったら、超いいじゃんってなったんですよね。そっからですよね。大変だったというか(笑)。それまでは田舎で何もわかんない、ビートをただずっと作り続けてる奴って感じだったので。

- 自分は音楽を作るわけではないですけど、ずっと何か一つのことを続けるのはすごいことだなって。

ZOT on the WAVE - それっすよね。ずっと続けてきた奴が周りにいるじゃないですか。そういう奴らと話すんですけど、これイかれてるよな、マジで、ヤバくない?ってなります(笑)。この歳までどうやってんの?って。おかしいよなあ、みたいな。

- 宇都宮時代は音楽で生計立てられていたわけではないですよね。

ZOT on the WAVE - なんにも(笑)。普通ならやってる場合かなんですが、寝る暇を惜しんでやってましたね。でも徐々に、インターネット上でのバズがいける時代になったんですよね。SoundCloudにアップして、Twitterとか使えば、インターネットで田舎にいながら広がっていく時代になった。なので、これはぶっ刺せばいけるんじゃねえかみたいな、みんなそういうテンションだった気がします。

- その時を客観的に振り返るとどういうモチベーションだったんですか?

ZOT on the WAVE - たしかに、今考えると意味分かんないかもっすね、(笑)。でも、さっき言ったような「マジいけるっしょ」しかなかった。俺が一番かっこいいっしょ、っていうバイブスだけですね。

- 楽天的な方なんですか?

ZOT on the WAVE - 俺は基本的にそんなアップダウンないっすね。できない時はできないでしょうがないから、何もやらないです。その時はずっと動画見たりとか、釣り行ったりとか、どっか遊び行ったりとかを1ヶ月くらいやる。その落ちるサイクルが掴めているんで大丈夫ですね。それはずっとやり続けてきた中で分かったと思うっす。

- ほんとに、結局続けている人たちが残っている世界だなって自分も感じるんで。でも続けるためのモチベーションは人それぞれありますよね。

ZOT on the WAVE - これは俺も途中で気づいたんすけど、マジでマラソンなんで、一個のことに一喜一憂しても絶対ダメだし、プロデューサー、ビートメイカーのシーンなんて、特にそれが顕著に出る。たとえば1個スーパーヒット出したとしても、それは1ヶ月の生活費で無くなっちゃうっていうことがちょっと前は全然あった。だから一喜一憂していたら身が持たない。長いマラソンで、どこまで自分が決めた目標設定、最後のゴールまで、どれだけ自分のペースでいけるかだと思うんすよ。それを理解しないとこのゲームを続けるのはけっこうタフな作業なんで、大変って思うっすね。

- ZOTさんの名前が一気に広がったのってKOWICHIさんの"BOY FRIEND #2"だと思うんですけど。

ZOT on the WAVE - その頃は、田舎にいてずっとビート作ってるだけだったから、東京でクラブヒットしていたのを何にも見てないんすよ(笑)。何のあれにもならなかったけど、ただ名前と音が広がって、よしぐらいでしたね。物質的な実感とかは、1個もなかったっすね。

- 川崎に引っ越すというのも、大きな決断だと思います。

ZOT on the WAVE - 27歳ですね。そこから、ハードすぎる本編が始まるみたいな感じでしたね。やっぱり勝ちにいかないとっていうマインドになりましたね。このゲームにおいてマジてっぺん取んないと、っていうぐらいの気合で出てきたっすね。当時、婚約直前だった彼女がいたんですけど、すまんって言って別れて出てきたんですよね(笑)。27で出てきたんで、30歳までいったらリミットみたいに自分で思っていたので。

- KOWICHIさんってZOTさんにとってどういう存在なんですか?

ZOT on the WAVE - ここまでくると、血繋がってないけど普通に兄ちゃんみたいな感じですね、もう。KOWICHIさんと10年弱ずーっと毎日コミュニケーションとってるんで、普通に…血縁者みたいな感じですよね(笑)。うるせえことも言われるし、俺も「なんだよ」みたいな生意気なこと言ってきたし。兄弟喧嘩みたいなバイブスですよね。だからもはや特別な感情とかないですよね。

- 自然なんですね。しかもKOWICHIさんもZOTさんと同じくずっと続けるっていう。

ZOT on the WAVE - あの人の仕事とか音楽に対する姿勢はだいぶ影響受けてますね。いい意味でも悪い意味でもめっちゃ細かいんで。そういうとこ仕事に出るよなって。根本的にそういう部分がどっからくるかって、好きっていうのが大前提じゃないですか。それだけなんですよ。それがブレちゃうと無理じゃないかなって。やっぱ周りのやつ見ていてもヒップホップや音楽を作ること自体が好きという、根本の初期衝動は変わってない。どんな位置にいる人とも仕事して、やっぱイケてんなと思うのはそういう人っすよ。それは分かりますよね。

- 他に一緒に仕事してきたアーティストで印象的だった人って誰がいますか?

ZOT on the WAVE - ちょっと考えていいですか。まあ、レコーディング自体でバッチバチくらったのはKOHHくん。リリースされてないんですけど、一緒に作ったりしたんですよね。フリースタイルでばんばん出して、もう「へええ、嘘でしょ?」みたいな感じでやってたなあ。あと、ヒップホップのゲームの中で、やっぱこいつすげえなっていうので、YZERRはキレッキレだなって。あと、俺あいつのラップすげえ好きですね。ラップかっこいい人はたくさんいるよなあ。Awichさんとやってみた時は、ボーカル超安定してるな、すげえなって思ったり。

- ZOTさんはビートのタイプもいろいろあるじゃないですか。メロディも特徴としてあると思うんですけど、自分はBAD HOPの"2018"、"Chop Stick"とかのバンギンな音も好きで。ただバリエーションはいろいろありつつも、ZOTさんのビートってちゃんとラップがノリやすくなる余白がちゃんと作られているって思っていて。ビートを作る上で、自分の中でのルールってあるんですか?

ZOT on the WAVE - 俺は最初に短いループで作るんですよ。たとえば4小節だったら、そのループだけでずっと聴けるものをまずは目指す。それって中毒性と、もっと分かりやすい言葉でいうとキャッチーさがなきゃ聴き続けられない。ダーティな曲からバンギンな曲、明るい曲まで、全部あると思うんですけどそれだけは絶対守ってます。そのループでどれだけ「やべえ」ってなれるかだけですね。難しいことは考えない。大きいことで言ったらそれしか考えないです。

- そういう作り方だったんですね。

ZOT on the WAVE - 基本的にそういうループがごろっごろパソコンの中にある。それをたくさんストックしておいて。で、来てくれた人とかに全部聞かせていって、「超いい」っってなったらそこから組んでみるんすよ。だから、フックを最初にドンと作っちゃう。そっから抜いて差してをしていく、っていうのが基本的な作り方です。

- その作り方がいいなって気づいたのはいつごろでしょう?

ZOT on the WAVE - いつだろうな、でも昔からそうだったかもっすね。ホントにそのループだけだったら数千曲できてるんじゃねえかってくらいある。あと、ラップができる余白については、俺が作っている時に「こういうフロウだよな」っていうのをイメージできる感じで作っていくんですね。宇宙語でマンブルでフロウしながら作ってる、みたいな感じです。ラッパーが歌うのはこのキーだな、みたいなことも漠然とですけど想定していて。だから、ノれないものはあんま作んない。っていうのはあるかもっす。

- そこまで想定できているんですね。

ZOT on the WAVE - 元々ディレクションはしてたんですけど、ここ1、2年はレコーディングまでやるようになったんです。俺がメロディラインを作って、フロウ乗せちゃって、立ち会うっていうのが多かったっすけど、最近はもう自分で録って「ここは、こうした方がいい」って形でずっとやっていて。よりそうなってきたと思うっすね。ラップのことを超考えて作るようになってる。

- 総合的にということですね。

ZOT on the WAVE - プロデューサーですね。プロデューサーはそのアイディアを提示した時に向こうを納得させなきゃいけない。しかも相手もプロじゃないですか。たくさん経験を積んでいる中で、「いやこっちの方が絶対いいよ」っていうのを提示できなきゃいけない。それって一朝一夕じゃできないし、ビートメイカーとプロデューサーの違いはマジで明確だと思う。最近はビートだけでも「prod.」って書かれるっすけど、内容的には全然違うっすね。

- そこのコミュニケーションも含めてということですね。

ZOT on the WAVE - コミュ力お化けじゃないとできないっす。JIGGさんとか見ててもすげーんですよね。「いいじゃーん!」みたいにアゲるのも上手だし、的確なアドバイスもできるし。それはすごく思いますね。

- ラッパーにディレクションするときって、どういう部分が多いですか?

ZOT on the WAVE - 基本メロディラインの、たとえば「ここのメロディが上がるんじゃなくて下がる」とか「ここをこういうメロに変えたほうがいい」っていうところは、軸として一番言うんですけど。あとはラップの録った声の発声、あとエッチングって言って「ウェッ」っていう成分とかもっと入れろとか。で、最近は本当にこのスタジオができてからリリックが書けるようになっちゃった。ソングライティングまでできるようになっちゃったんで、ダブルミーニングとか、英語に逃げるなとか、そこまでやっちゃいますね。「これだと面白くない、パンチラインここにきてんじゃん、これ活かすんだとしたら…」とかまでやります。ラップとかしないっすけど、たぶんそこら辺のラッパーよりは俺の方が上手いっす(笑)。

- ビート聞いてる数も違うでしょうし(笑)。

ZOT on the WAVE - やらないのはミックス、マスタリングだけですね。

- SELF MADEのラッパーって、特にCandeeさんとかってメロディが良いし、フロウもすごい面白いと思うんですけど、それはZOTさんとのコミュニケーションがあってのこと?

ZOT on the WAVE - そうですね、OGF & ZOT on the WAVEの『DROP OUT』作り始めてから全曲そうですね。一緒にディスカッションして作るようにして。Candeeは、「お前ちょっと俺に人生預けろ」って言った唯一言ったラッパーですね。「お前は大丈夫だから、俺に任しとけ」って言ったのは彼だけですね。

- どの辺りに惹かれたんでしょう?

ZOT on the WAVE - 単純に俺がばっちりフィールできたっていうか、「やっと出てきたわ」って。プロデューサーとラッパーは二人三脚なんで、絶対。US見ていてもそうだし。本当に昔からそれは変わらない。YGとMustard、FutureとMetro Boomin…

- ゴールデンコンビですね。

ZOT on the WAVE - そうそう。それはセオリーっていうか。日本でもBLさんはすごいたくさんそれがあるけど、JIGGさんだったら今も前線でやってる人とゴールデンコンビを組んでいたりとか。KOWICHIさんと俺だったりとか。そういうコンビができると正攻法でいけるんです。Candeeに関してはそれができると思ったんです。私生活も、ほぼずっと制作してるんで一緒にいるんですけど、遊びにも行くし。コミュニケーションはとれてますよ。

- ここ1、2年のZOTさんプロデュース曲のヒット率、打率がめちゃめちゃ高いですよね。

ZOT on the WAVE - ありがたいことに。

- "Crayon"とかモンスターヒットだと思うんですけど。

ZOT on the WAVE - そうですねえ、わけわかんないす。

- しかもあの曲は、『ラップスタア誕生』の中で生まれた1つの曲だったじゃないですか。ああいうヒット曲の生まれ方って新しいなって思いました。

ZOT on the WAVE - でもあの曲は、番組見てて「超かっけえ」ってなってましたよ。かっこいいなあと思っていたんですけど、その後、決勝を見に行ったんですよ。その時にFuji Taitoとけっこう久々に会って。で、「お前あれ超よかったよ、応援してるよ」っつって。結局負けちゃったけど、Twitterとか見てると反応すごかったっぽくて、Fuji Taitoが「ZOTさんに聞いてみる」って呟いてたんで、ちゃんと録り直して2バース目作ってミックスガチガチにやったら、それなりにみんなを楽しませられるんじゃないかなって意図でやりましたね。「こういうバースがいいんじゃない」とか、「録り音のキーもっとこうした方がいいんじゃね」とか何回かやり取りして、クイックにリリースしようっていう感じでリリースしましたね。

- あとYZERRさんとCandeeさんと、初めてZOT On The WAVE名義で"TEIHEN"のリリースしたじゃないですか。あれを自分の名義として出したかったっていうのは?

ZOT on the WAVE - 長い時間がかかっちゃってるんですけど、自分のアルバムを作っているんですよ。それこそ3年くらい前から作ってて。全曲フィーチャリングでラッパーがいて、しかも結構えげつないメンツなんで、クイックにやってくのが難しくて。7割くらいは録れているんですけど、”TEIHEN”はその中の1曲なんですよ。

- プロデューサー名義のアルバムは、それこそMetoro BoominとかDJ Mustardとかも出してますし、こういうアルバムがあることで、プロデューサーの存在感も大きくなりますよね。

ZOT on the WAVE - そうっすね。彼らでも、そんな短いスパンで出せてないじゃないですか。超大変なんですよね。自分の本職のワークがあるっていうのが大前提で、その中で作っていかなきゃいけない。でも名刺になるっていうか、プロデューサーが裏方じゃなくてちゃんとアーティストとして見られるという部分では、日本とアメリカではそういう違いが顕著にあると思いますね。

- その中でも、日本だとビートメイカーをやってる人たちは増えているかなと思います。若いビートメイカーに「こういうことは絶対やったほうがいい」という部分はありますか?

ZOT on the WAVE - ビートメイカーからプロデューサーにジョブチェンジする人もいるし、ビートメイカーとしてずっとやっていきたい人もいるから、自分がどうなりたいかによって変わってくるんですよね。今の時代はインターネットで海外にループを送って、それが刺さりましたっていうのが当たり前の時代じゃないですか。TRILL DYNASTYがぶっかましたんで実現してるんですけど、それってめちゃくちゃ針の穴に糸を通すようなもんで、諦めなければ絶対いけると思うんですけど、手広くすべてをやろうとすると、全てが浅くなってしまうから、一点突破することですかね。何をやるにしても完全に1個にフォーカスして何か物事をやったほうがいいとは思うっすね。これは俺にしかできないっしょ、っていうのがないとただのタイプビートメイカーになっちゃうんで。でも、「俺はタイプビートで食っていくんだ」だったらそれはそれでかっこいいと思うし。

- それはそれでプロフェッショナルですもんね。

ZOT on the WAVE - 結局椅子取りゲームなんで、どこを狙っていくか。それをブレずにやり続けるのが重要だと思います。何を狙っていってもそれぞれでいいんですけど、その中でスキルを身につけたり鍛錬していくっていうのが必要っすよね。それはすごく思います。俺もまだ自分がやりたい一点突破の途中ですし。

- ZOTさん自身今後やりたいことっていうのはありますか?

ZOT on the WAVE - 自分が別に音楽を作らなくても音楽業界の中で、自分の看板を使ったビジネスみたいのはいろいろ構想はしているんですけど。ビジネスだったりとか、若いビートメイカーとかをどうフックアップするか。

- 若いビートメイカーから相談もされますか?

ZOT on the WAVE - ありますね。ネットだと答えるのは難しいですけど、直で会える人は全然相談に乗ります。たとえばピアノ弾けるやつだったら、それは手に職すぎるから伸ばした方がいいよとか。自分ができることの中で、何をやればいいかっていうのは相談受けますね。ただ繰り返しになりますが、ビートメイカー、プロデューサーもそうだけど、超ハードだぜっていう(笑)。ただ夢はあるから俺も頑張るから頑張ろうよって感じ。あと、現場に出てこない人が圧倒的に多いじゃないですか。でもイケてるラッパーって人となりを全部見る。どういう奴がどういう音を作って、っていうのは絶対見るんから、自分がだからどうなりたいかなんですよね。

- 実際、一日作業しているときってどれくらいやってるんですか?

ZOT on the WAVE - 日によるっすけど、昨日とかは12時間くらい作業していますね。やらないといけないことが決まってるってことですけど、昨日は4、5曲やって、それを編集する作業とかを12時間くらいやっていたかな。やる時はそんくらいやるっす、十数時間って。ここ半年、1年くらいは駆け抜けてますね(笑)。一週間の休みとかはまあ取れないし、半年間連休はないですね。一日どっかで休みとって、あとは昼夜関係なく。さすがにSELF MADEのアルバムが終わった後は10日くらいいろいろ行ったりしたっすけど。そんな感じです。

- それでも好きだから。

ZOT on the WAVE - 結局出来上がったもの聞いた時にでる脳汁の中毒だと思いますよ、全員。今も長く続けている人たちってのは、全員それですよ。金とかそういうんじゃなくて。ヤバい曲メイクした瞬間がいっちばん人生で気持ちいいなって思ってる人たちの集団なんで、まあみんな頭おかしいっすよ(笑)。

ZOT on the WAVE - おれインタビュー受けんの好きなんですよ。楽しいじゃないっすか。あんまりこんな話すことないし。

-(笑)。インタビューが少ないから嫌いなのかと思ってました。

ZOT on the WAVE - めちゃくちゃ話すんですよね。なんならSELF MADEで一番うるさい。たぶんプロデューサーは寡黙でクールなやつだと思われてるんすけど、dubby bunnyも超うるさいし、おしゃべり好きですね。

- ビート作ってる時は一人だろうから、それの反動もあるんですか。

ZOT on the WAVE - いやビート作ってる時もずっと喋ってますよ。超やべえみたいな(笑)。一人で踊り狂ってるし、ループができた瞬間とか「やっべー」とか言って。それは…全員そうだと思います(笑)。

- 制作で、こういうやり方も試してみたいなってことはあるんですか?生楽器を使ったりとか。

ZOT on the WAVE - それはやったりします。それこそdubby bunnyはギターもガンガン弾けるし、NocoNocoはアナログのキーボードとかガンガン弾けるんで、そういうので作ったりはします。でもサックスがすごい好きで。スムース・ジャズとかはすごい好きで、Yo-Seaと作った曲とかは結構上手くそれを出せたんですけど、そういう「エロっ!」みたいなのを生のサックス入れてやってみたいですね。それは一個夢かな。なんならもうちょっとおっさんになったらサックスの勉強しようかなっていうのは思ったりしますね。

- それこそ最初がR&Bだったからですね。少し話は変わるんですけど自分は、今の日本のヒップホップとR&Bってすごい距離があるって思うんですよ。

ZOT on the WAVE - すごいありますよね。10年サイクルっていうけど戻ってこなすぎですよね。DOUBLEとかF.O.Hさんとか、超イケてるR&Bがあった時代がなかなか来ない。今ようやく、アメリカもトラップソウルが出てきて徐々にR&Bシーンが戻ってきてはいるじゃないですか。かといって昔みたいなボーカルグループが流行るとかではないし。

- ZOTさんがシンガーとがっつりやるっていうのを聞いてみたいですね。

ZOT on the WAVE - キャリアの中で、R&Bのビートしか入っていない、日本のシンガーをたくさん入れたR&Bコンセプトの一枚は作ろうと思っていて。

- それはめちゃめちゃよさそうですね。

ZOT on the WAVE - 癖(へき)ですよ(笑)。キャリアの中でやりたいことっていうのは結構決まっているっす。

- さっき若いビートメイカーへの話もありましたけど、ラッパーに対して何か、たとえばZOTさんが関わっていない曲を聞いた時に感じることだったり、もっとこういうものを学んだほうがいいんじゃないかとか。

ZOT on the WAVE - そこは超あるっす。まずリリック。リリックに関しては適当すぎる(笑)。いい意味での適当と悪い意味での適当があって、適当に踏んだライムって全部めくれるんで。伝えたいことは分かるけど、その言葉のチョイスはちょっとパンチ軽くない?とか。今ここ逃げたっしょとか、超分かる。とにかく日本語っていう言葉を扱う職業じゃないですか。それの面白みは俺らが重視しているところなんで、やっぱ聞いていて面白くないなって思っちゃうものが多い。あと言葉が聞き取れないのは論外ですよ。何を言ってるか分からないっていうのは本当にもったいないしダメです。言葉の響きがかっこいいのは分かるんだけど、だったらUS聞いちゃいますよね。あとは個人の主観かもしれないっすけど、その話は誰が聞いて面白いんだっていう話をしないほうがいい。やっぱりオナニーではないので。誰かが共感できたり、何か思えるところっていうのは重要なところだと思う。どうやったら伝わるか、どんな内容にしよう、その中でこういう踏み方をするとかの技術があるんで。フロウなんて二の次。フロウはかっこよくて当たり前なんで、まずはリリックに注力して欲しいですね。

- 今聞いていて、KOHHさんの言っていることが変に伝わってるのかなと思いました。KOHHさんって適当でいいとかいうけど、あれはめちゃくちゃスキルがあった上でのシンプルな言葉を使ってるじゃないですか)。

ZOT on the WAVE - バケモンじゃないですか。彼って超努力家の天才なんで。その表層の部分だけを掬っちゃだめなんだって。 彼は彼だし。ラッパーはどの口が何を言うかなんで。そう考えるとKOHHくんの影響力は偉大ですよね。ゲームチェンジしてるしリリックは面白いし、すごいなあと思いますね。SELF MADEの音楽のクオリティコントロールは俺がやってるんで、モットーとしては、マジで面白いことを言っていく、聞いていて楽しいものを作っていこうっていうのはありますね。辛気臭かったり説教臭かったり、聞いて楽しいの?っていうのはあんまり好きじゃない。やっぱ、どっか笑えるラインがちゃんと入ってること。そういうのって、一見バカみたいかもしんないけど、よくよく中身を聞いてみたら超ダブルミーニングしてたりとか。Candeeとかも気持ち悪いくらいダブルミーニングするんで。KOWICHIさんもダブルミーニング超する。でライミングは英語に逃げない。伝わらない言葉は無理に使わない。「聞いたことないぜ、その英語」、辞書見たでしょってなっちゃうじゃないすか。全部わかっちゃうんすよ。あとはレコーディング環境は別にしろ、ミックスとマスタリングにはマジで金をかけろってのも言いたいですね。

- 2ミックスでそのままリリースしてる曲もありますもんね。

ZOT on the WAVE - そこは自己投資だから。ファッションとかもいいし、やらなきゃいけないけど、そこは自分のリアルとの帳尻の中でかっこいいことやればいい。けど、自分の曲は商品として出すんだから、ミックスとマスタリングは安かろう悪かろうだから、絶対そこには金をかけろ。じゃないとクオリティ云々の話にもってけない。それに、タイプビート使うんだったら、ちゃんとステム買って、ミックスまでちゃんとやれっていうところは言いたいですね。とにかくクオリティというものを追求して欲しい。スマホで聞く分にはなんだっていいんですよ。けど、ライブってなった時に、「おい、ぶっ壊れてるぞ音」って、悪い意味で破綻しちゃってることが多いんで。

- ライブでパフォーマンスするところまで想定できてないのかもしれないですね。

ZOT on the WAVE - そうですね。でも、何になりたいの?ってなっちゃうっていうか。君たちが見ているものは表層の部分だけじゃなくて、スーパープロフェッショナルな人たちがたくさんいて成り立ってるんだよってことをちょっとでもみんなが分かってくれるといいなって思います。

- ZOTさんが一番厳しいリスナーかもしれないですね。

ZOT on the WAVE - そうっす、ラップうるせえおじさんなんで。マジですよ。だからこそ繋がりのある人としかやらないというか。あとは信用できるツテからもらったものだけですね。俺と仕事すれば必然的に超クオリティ高くなる。商品としての音楽だから、できることの中で一番の投資をしないといけない。うるせえ!って言われるかもしんないけど、そうなんだよ(笑)。ごめんな、真面目なこと言って、と。でも、聞いてる人もみんなそうなんだよっていう。

- 楽しいとかも大事ですが、それだけではない。

ZOT on the WAVE - じゃないとシーンが回っていかない。圧倒的にプロデューサー、レコーディングエンジニア、マスタリングエンジニア、ミックスエンジニアの数が少なすぎるのに出ちゃってる。現状その中で超イケてる人って、ほんとに指折り数えるくらいしかいなくて。俺らがやってるところとか、メインストリームってなると本当に数が少ないですよね。やっぱ分かってる人は、それぞれの分かってる人とやっちゃって、みんな大体仕事の取り合いになっちゃう。だから、そういう意味で日本のシーンは心配ですね。

- まだ表層の部分での盛り上がりということですよね。

ZOT on the WAVE - 表層の部分だけが増えていっているのは間違いない現状ですし。分かんなくてしょうがないかもしんないけど、分かっておかなきゃいけないところでもある。それはエンジニアさんだけじゃなくて全部一緒で、ビデオの制作チームだったら、監督やディレクターだけじゃなくて照明さんとか。記事を書いてくれるライターさんとか。たとえばライブのショーを作ってくれる人たち。たとえばビートメイカー・プロデューサーに対しても出し。全部があってシーンというか、カルチャーが成り立つじゃないですか。そういう意味でも、若い演者の人でも、そういう部分にリスペクトできる人が増えたらと思う。そういうとこなんじゃないですかねえ。自分の楽曲のことは大事だと思うんですけどね。

-アメリカのラッパーのInstaとか見てるとどこの地域にもスタジオがある。

ZOT on the WAVE - だし、どこの場所でもどんな環境でもメディアもあるし。それで生計を立てている人たちがたくさんいるわけじゃないですか。

- それはもう根本のところが違いますよね。

ZOT on the WAVE - ただまあ、それって本当に一朝一夕じゃないから。でも今はレクチャーのしようがないというか。昔みたいに雑誌が情報源のすべてだ、っていう状況だったらエデュケーションしやすい気がする。もう無理じゃないですか。あと、さっきの歌詞の話にも通じるんですが、ソングライターはマジで重宝されるべきだと思うんすよ。

- ですよね。もちろん一人でやれる人もかっこいいと思うけど、もうちょっと分業とかも見てみたいなってUSのクレジットを見ていると思います。

ZOT on the WAVE - リリックのクオリティを高めていくことにもなるし。全部が全部、「丸投げみたいでそんなこと歌いたくない」とかじゃないから。ディスカッションして、プロはまとめることができるから。そういう職業が広がっていけば、また変わってきますよねぇ。

- 日本でヒップホップのトップライナーみたいな人っているんですか?

ZOT on the WAVE - チームの中でになっちゃうんすよね。たとえばSELF MADEだったら俺とかKOWICHIとかがトップラインを書く。でもBAD HOPだったらきっとあんだけ人数いるから出し合って。

- それは聞いたことありますね。

ZOT on the WAVE - WAVYくんのチームもそうだと思うし、チームで制作する。これができてるところとできてないところの差が結構あるんじゃないかなと思うんすよね。Awichさんもそう。Chakiさんと作って。それ超重要というか。大体そうなんじゃねみたいに思うんすけどね。チームで。

- そうですね、いいA&Rがいるかっていうのもありますし。

ZOT on the WAVE - キーマンというか。そういう人たちが重要になってくると思うんすよ。どうしてもベッドルームミュージックとして今やってる人がすごく多いから。ラッパー然りプロデューサー然りで。みんなそういう、自宅の中で完結してる。おうおう、Billie Eilishじゃねえんだからよ、みたいな(笑)。それこそもっと外に出なきゃいけないこともあるよっていう。先ほどのゴールデンコンビと同じく、ちゃんとチームを組むというか。まあ、何になりたいかっていうところで変わるけど。ソングライターとかはこれから出てくんのかなあ?

- 大きくなればそういう専業の人も出てきやすくなるんでしょうね。

ZOT on the WAVE - ヒップホップじゃないメジャーのポップスにはたくさんいると思うんですけど。ヒップホップやR&Bが日本で市民権を得た時にどうなるかっていうのは思いますよね。リスナーの母数で言うとまだ全然拡大傾向だとは思うんで。

- 若い人も多いですしね。

ZOT on the WAVE - ほんとにそれは思うんすけどね。あとTikTokすごいなって感じですよね(笑)。俺らの年代からするとわけわかんないですけどすごいなあとしか言えないです。

- いろいろ話を聞けてよかったです。プロデューサーとかラッパーに対する視点とかは、参考になる人も多いかなと思います。ありがとうございました。

ZOT on the WAVE - ああ、よかった。これを上手にまとめていただいて(笑)。

Info

KOWICHI, ZOT on the WAVE & SELF MADE

『We Made It』

https://linkco.re/EhC0PD9v?lang=ja

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