【インタビュー】BudaMunk × Jansport J 『BudaSport』| 究極のビートヘッズの邂逅

DJ/ビートメイカーのBudaMunkとLAを拠点にソウルフルなビートを軸に自らのプロダクションスタイルを確立しているプロデューサーのJansport Jがジョイントプロジェクト『BudaSport』をリリースした。

Jansport Jが来日した際にBudaMunkと行なったセッションを元にした本作には、両者に所縁のあるアーティストが日米から集結。自然と引き寄せられたビートヘッズな2人が作り出すドープな世界の上でここでしか聴けないコンビネーションが炸裂した強度の高い作品に仕上がっている。

自身もビートメイカーとして活動する吉田雅史が、本作について、そしてビートメイカーとしての2人の考え方や制作についてまで掘り下げる。

取材・構成 : 吉田雅史

国境を越えるJaylib?ふたりの邂逅

- 今日はよろしくお願いします。僕自身ビートメイカーでもありますので、今日はビート作りの細かい話も伺えればと思います。

Jansport J - おお、それはドープだね。インタビューありがとう、嬉しいよ。

- Sportはいま自宅ですか?

Jansport J - LAの近くの自宅だよ。いま夜8時で、ちょっとした仕事場の部屋にいるよ。

- なるほど、機材もある部屋ですね。

Jansport J - そうそう、ここに愛用のNative Instruments社のMaschineがあってさ。

- DAWは使ってないですか?

Jansport J - スタンドアローンのMaschineで全部やってるよ。

- Budaさんはいまどこに?引っ越し中と聞きましたが。

BudaMunk - そう、引っ越し中でもう少し広い部屋で音楽制作できるようになると思います。

- それは素晴らしい。まずはアルバムの基本的な話から聞かせてください。ふたりはどうやって出会ったんですか?

Jansport J - 2010年代の初頭からBudaMunkのことは知ってたんだ。僕は仲間のDibia$eとかさ、LAビートシーンの奴らを見てたから、彼らからBudaMunkのことをいつも聞かされてた。それで、2012年か2013年にDelicious Vinylの仲介で彼に会ったんだ。それ以来ずっと連絡は取ってたしリスペクトしてたけど、ついにこうして落ち着いて一緒にドープな音楽を作る機会が来たって感じだよ。

- なるほど、BudaMunkのビートを初めて聞いたときどう感じました?

Jansport J - 衝撃的だったよ。これまで沢山のソウルやスイングするリズムを聴いてきたけど、こっちじゃ黒人のプロデューサーたちがそういう音楽をやってるよね。それが日本からのプロデューサーが、トップレベルの音を出して来たんだからね。全く別の大陸の、別の国からやって来た音楽を聴くのはドープなことだし、音楽はホントに世界共通言語だよね。

- Budaさんはどうですか?

BudaMunk - 2011年のPlanet AsiaとTristateのGeneral Monksのアルバムの曲でSportのことを知って、そこからチェックするようになりました。それから2014年にJoe StylesとのEP『Soul Quest』をデリシャスヴァイナルから出したときに、ちょうどSportも『The Soul Provider』をリリースしたこともあってつながって。

- なるほど、ちょうど同じ年に同じレーベルからリリースがあったという偶然もあったと。最初にSportのビートを聞いたときどう思いました?

BudaMunk - こっちも衝撃的でしたね。とにかくドラムの鳴りがすごく良くて、ストレートなブーンバップのイケてるビートという印象でした。

- 確かに『The Soul Provider』の頃のSportのビートはソウルフルでかつアタックの効いたビートと、トリッキーなループもたくさんあってオリジナリティが凄かったですね。もちろんそういう意味では言うまでもなくBudaさんも一発であなたのビートと分かるオリジナリティを持っているわけですが、そんな二人が長い時間を経てこのタイミングでどうして共作することになったんですか?

Jansport J - 2020年にツアーで初めて日本へ行くことができて、ショウにはBudaMunkやDJのChily-Tも一緒で、実際に顔を合わせてみて、一緒に音楽を作ることができないかって思ったのは自然なことだったんだ。俺とBudaは同じゴールを向いていると思ってたからね。つまりBudaはアメリカで成功しようとしてるインターナショナルなアーティストになってるし、俺は日本でも皆に知ってもらいたいと思ってるからさ。だから日本で過ごした数週間の間になにか面白いものが作れるか試してみようっていうのは俺たち二人にとっても自然なことだったんだ。俺はJ DillaとMadlibの大ファンだから、二人のJaylibみたいなことをインターナショナルなプロジェクトとしてやってみるのはどうかって。

- なるほど、確かに個性のぶつかり合いはJaylib的ですね。国境を越えるJaylibという。Budaさんは普段からコラボレーション作品も多いですが、今回の流れはどうでしたか?

BudaMunk - 他のコラボレーションもそうなんですけど、今回も一緒に作品を作るのは自然な流れでしたね。Sportが日本に来るというタイミングだったので、もう自然とやるしかないなっていう感じでした。

- そうですよね、二人のようなビートのことで頭が一杯の「ビートヘッズ」がせっかく実際に会えたんだから、そりゃもう作品一緒に作るしかないと。

LAと東京をつなぐ世界言語

- それでは、実際のビート作りのプロセスはどうでしたか?この曲はBudaさんがドラムで、Sportがサンプル役で、といった役割分担はありましたか?

Jansport J - まず念頭にあったのは、グルーヴを追求するために、これまでと違うことをやってみようぜ、ってことだった。BudaにはCDのコレクションがあったから、サンプルのネタにも事欠かなかった。確かに、ときには俺がサンプルをチョップして、Budaがドラムを作って全体のピッチを落としたり、その逆にBudaのサンプルに俺がドラムを合わせたり、って感じだったよ。俺もBudaもMaschineを使ってるけど、BudaはさらにローランドのSP-404を使ってピッチを変な風に変えたりだとか、色々やってる。二人でリアルタイムにビートを作ってプレイしながら、俺もMaschineでドラムの抜き差しなんかのアレンジをやって、Budaが全体にエフェクトをかけるって感じだね。まるで科学の実験みたいだったよ。二人でグルーヴを発見したら、後はそれを追いかけるだけだった。

- 全部を一緒にリアルタイムで作ったんですか?それとも後から素材をネットでやり取りすることなんかもありましたか?

Jansport J - いや、ビート制作に関しては全部をBudaの部屋でやったよ。いま彼がいるその部屋で。

- 制作にはどれくらいかかったんですか?

BudaMunk - 一緒にビートを作ったのは、多分2〜3日くらいだよね、一日に5〜6個はビート作ったもんね。

Jansport J - そうそう、たくさん作ったよね。一緒に作業したのは全部で5日間くらいだったんじゃないかな。20分くらい作業して「オーケー、これはヤバいビートが出来た、じゃあ次行こうか」って感じで、まるでグルーヴ製造工場みたいなね。最初の日にお互いのビート作りのやり方を確認して、限られた時間の中でプロジェクトが完成できるか見極めが必要だったけど、想像以上に俺たちの作業スピードは速かった。このプロジェクトは成功するな、って思ったよ。ビートを作ること自体は簡単なんだ。そこから実際の曲にする、つまり曲をプロデュースするのにはもっと時間がかかる。

- グルーヴ製造工場とはすごい(笑)。そんなに簡単に作れるの羨ましいですが、本当にリアルタイムのセッションの形でどんどん進めていったんですね。で、最初はインストのビートを作ったわけですよね。それがどうやってラッパーたちを招いてこのようなラップアルバムになったのでしょうか?最初からそのつもりだったんですか?

Jansport J - BudaとChily-Tが日本で色々なラッパーに引き合わせてくれたんだ。ISSUGIとはその前からつながってたし、Kojoeとも一緒にビートを作ったらLafLifeの二人がその上でフリースタイルを始めたりしてさ。俺はLAに戻らなきゃいけなかったけど、Budaが日本の、俺がアメリカの思いつくアーティストをフィーチャーして、一緒にしてみようって話になったんだ。

- なるほど。それでこんな風な東京とLAの見事なコラボ作品になったわけですね。BluとISSUGI、Illa JとDaichi Yamamoto、Likeと5lack、さらにはKojoeとThurzという絶妙な組み合わせで、日本語と英語のコントラストが際立っている。ラップもビートも英語と日本語の語感で作られたヴァースとトラックのパーツが組み合わさって出来ているという意味で稀有な作品です。Sportにとって日本語のラップはどんな風に聞こえましたか?

Jansport J - ドープだよ。でも単に表面的に聴いてそう言ってるわけじゃない。自分はプロデューサーとして、彼らがなにを言わんとしてるのか聴き取ろうとしてさ、3回、4回と聴くうちに、分かってくることがある。それはラッパーたちのトーンとフロウだ。それがどんな風に聞こえて、なにを感じるのか。だから日本語の意味自体はほとんど理解できなかったとしても、フロウは理解できる。Daichiや5lackがラップしたり歌うとき、彼らがなにかを掴んでるのがわかるんだ。

- 言葉を超えて、トーンやフロウで少なくともどういうことを歌おうとしているのかは伝わるし、それがパンチラインを持ってたり、ヤバいヴァースかどうかは分かると。Budaさん、日本とアメリカのラッパーの組み合わせは、かなり意図的に構想したんですか?それとも結果的にこうなった?

BudaMunk -そうですね、誰と誰が合いそうかというのを見定めて、パズルをはめていく感覚で。ビートとの相性もあるし、それぞれのラッパー同士の相性も考えました。

- ラッパーたちに複数のビートを聴かせて選んでもらうのではなく、二人が主導して、決め打ちで依頼していったわけですね。

BudaMunk - そうです、そうです。

- その読みは本当に上手く行っていて、大げさかもしれないですが、ビートメイカー主導のブーンバップアルバムという意味では、まだ4月ですが今年のベストアルバムにノミネートするんじゃないかって完成度だと思います。アルバムをリリースしてのリアクションはどうですか?

Jansport J - 日本語は読めないけどインスタやツイッターでみんなが話題にしてくれてるのを見て嬉しく思ってるよ。それが望んでいたことだからね。

- 難しいかもしれませんが、このアルバムで一番好きな曲を教えてください。

Jansport J - 俺のフェイバリットはLikeと5lackをフィーチャーした"All Praise Due"だね。ビートも最高だし、Pac DivのLikeはこっちではレジェンドの一人だから、一緒にやれて良かったよ。5lackのことはずっと前から聞いてたし、さっき言ったようにメロディのあるパートも最高だった。なにより、みんながスタジオで一緒にいるような一体感がある。実際はリモートでの作業なのにさ。

BudaMunk - 俺のフェイバリットはISSUGIとBluをフィーチャーした"Old School, New Design"と、あとはIlla JとDaichiの"Spice"ですね。その2曲はみんなも気にいってくれたのでシングルカットしました。

- "Spice"もとても印象的ですよね。キャッチーなコーラスを伴ったとてもメロウな曲なのに、キックとスネアが酔っ払ったようにヨレまくってるという。

Jansport J - Illa Jはデリシャルヴァイナルのファミリーだし、前から一緒になにかやりたかったんだけど、ついにこの曲で実現したよ。

- ヨレたキックとスネアはどちらが打ったんですか?やっぱりドラムとサンプルで役割分担した感じですか?

Jansport J - 覚えてるのは・・・俺がドラムをやったんだけど、最初はスネアの音が好きじゃなかった。でもBudaがSP-404を通したりピッチをいじったり色々やったらユルいサウンドになってさ、俺もそれならオーケーって感じでさ。だからまさに二人のコンビネーションで出来たビートだね。

BudaMunk - そうですね、サンプルとドラムをSportがやって、俺がベースを入れて、ピッチをいじって出来上がった曲です。だから役割分担は曲によってバラバラで、どちらか一方がネタもドラムもほとんどやってる場合もあるし、その場合はもうひとりが臨機応変にできることをやってます。

- 僕のフェイバリットのひとつは仙人掌とMr.PUGがラップする"Make It Happen"なんです。あの曲を聴いた瞬間、頭に浮かんだのは「ドープ」という言葉です。90年代のアンダーグラウンドヒップホップのフレイヴァーがあって、特にフィルターの効いたアブストラクトなサンプルが印象的です。

Jansport J - 二人でビートを作ってからしばらくしてBudaが二人のラッパーのヴァースを乗せたヴァージョンを聴かせてくれたとき、俺も90年代の超アングラ的サウンドだって思ったよ。で、このアルバムはヤバいことになるなって(笑)。サンプルは60〜70年代のネタにフィルターをかけて作ったんだけど、あの曲から同じフィーリングを感じてくれて嬉しいよ。

BudaMunk - 特別90年代のアングラを意識したわけではないんですが、結果的にそういうビートになりましたね。ラッパーたちのヴァースは狙い通り上手くいきました。

二人のユニークネスはどこに宿る?

- もう少し制作について詳しく教えてください。機材はなにを使いましたか?BudaさんのところへMaschineを持ち込んだ感じですか?

Jansport J - そうだね、俺の多くのアイディアはMaschineを触りながら生まれたし、BudaもMaschineとSP-404を使ってね。

BudaMunk - そうですね、基本的にはまずPCでMaschineを使ってシーケンスを組みました。それをさらにSP-404を通して録音するという形ですね。で、そのときにドラムやサンプルの抜き差しをSportが担当して、俺がSP-404のエフェクトをリアルタイムでかけながらレコーディングしていくという。

- なるほど、二人でMaschineとSP-404を操作しながら録音することでセッションの醍醐味が出たわけですね。

BudaMunk - そうですね、そこはリアルタイムで色々いじりながらだったのでライヴ感が出たと思います。

- 録音のDAWはなにを?

BudaMunk - Logicですね。

- Logic上でのプラグインはどうですか?

BudaMunk - 基本一本で録ったのをイコライジングするくらいですね。

- 今回もそうですが、Budaさんのビートにはローファイさやノイジーさが際立っていると思うんですが、どの段階でそういった音像を作ってるんですか?以前の作品と比較して、特に最近の『Text』や『Clouded』なんかはすごく音像やテクスチャーにこだわっているように聞こえるので。

BudaMunk - Maschineの段階で色々プラグインを挿して作るので、ほとんど音像は完成しています。そこから、SP-404を通すときにコンプはかけますね。実はMaschineのプラグインに関してはSportが使っているものも色々教えてもらったりしてます。

- そういうことですね。Sport、フェイバリットなエフェクト、プラグインはなんですか?

Jansport J - それはいい質問だね(笑)。俺はBudaのところにいったときに色々と教えてもらったんだけど(笑)。特にそのときに見せてもらったMaschine上で使えるReaktor 6ベースのVHSのプラグイン(注:VHS Audio Degradation Suite)はいまでは常に使ってるよ。あとはMaschine上のプラグインだとピッチシフト系はよく使うよ。最近プラグインは多く使うようになっていて、NasやBenny The Butcherなんかのプロデュースをするときは特にね。で、そのいくつかはBudaから教えてもらったものなんだよ。あとはRC-20なんかも使ってる。ただ俺は、基本的にはプラグイン“狂”ってほどではないよ。だけど時間とともに色々勉強して、他にもたとえばNI社のTransient Masterが気に入ったり、マキシマイザーやベース用のコンプレッサーを使ったりするようになった。特に『Pharaoh』の時代は色々試したよ。だからあれはラウドなサウンドになった。だけどそれぞれがどんな効果をサウンドにもたらしているか逐一理解するというより、そのプラグインを使った結果、サウンドが気に入ったものになるかどうかで判断してる。

- 使用する機材やプラグインによって自身のサウンドは大きく変わると思いますか?それともどの機材を使っても自分の特徴的なサウンドは変わらないと考えますか?たとえばMadlibなんかはFreddie GibbsのアルバムでiPadを使ってトラップ的なビートを作ったときも、どんな機材を使っても自分の音になると言っていましたが。

Jansport J - 機材が変わっても自分のサウンドは保たれると思ってるよ。だけど明らかにビートメイクの感触は変わるよね。たとえば俺は最初はFruity Loopsを使ってた。無料だったしね(笑)。だけど2012年以降、Maschineを使うようになって、それ以来ずっと使ってる。どちらでも同じようにサンプルをチョップしてるけど、Fruity Loopsと違ってマウスのクリックで打ち込むわけじゃなくてアナログ感のあるパッドを使ってるわけだよね。だから自分で打ったスネアのタイミングが遅すぎるってときに、でもこのズレは良いなとキープしたりする。そういう意味では、使えるサウンドの選択肢は違ってくるよね。だけどコアとなる部分、音楽のソウルの部分はいつも変わらないと思う。Jansport Jのサウンドは普遍的だし、それはBudaMunkも同じだよ。

- Budaさんはいかがでしょう。初期の作品と比べて、サウンドの変化はあっても、聞いた瞬間にBudaさんのビートと分かるシグネチャーとなるスタイルを持っていると思いますが。たとえば5lackのアルバム『KESHIKI』(2018)に一曲だけプロデュース曲があると聞いて、聴き進めるうちに"影道"の冒頭のエレピにサブベースが重なってきただけですぐBudaさんと分かるという。最初の10秒くらいのイントロドンで判別できる。

BudaMunk - 自分でも、サウンドは変化してきているけれど、スタイルは変わっていないと思ってます。スキルは上達しているし、サウンド自体はとにかく色々できることを試しているので、変化はしていると。

- サウンドの変化を超える「Budaスタイル」がBudaさんの作品群を貫いているということですね。なかでも衝撃的だったのは、これは以前二木信さんとのトークでも盛り上がったんですが、90年代のR&Bも沢山収録した『Training Wax』シリーズなどのMIXCDのサウンドです。自分も90年代当時聴いていた馴染みのある曲たちのはずなのに、Budaさんの手にかかると全く別の曲に聞こえてしまうという。偉大なDJは往々にして、プレイする曲を自分の色に染めてしまうということがあるかと思いますが、一体どうやっているんだ?という感じで。二木さん曰く、BudaさんはただSP-404を通しているだけだと言っていたので、信じられない思いだったんですが、本当ですか?

BudaMunk - そうですね、基本的にはSP-404を通してるだけなんですが、EQはがっつり曲ごとにいじってます。全体で同じセッティングではなくて、一曲一曲設定は大きく変えてますね。

- なるほど、一曲ごとですか。ということはやはりBudaさんの美学に基づいてかなり具体的にサウンドを追い込むことが「Budaスタイル」を貫くことになっているということですよね。自身のユニークさという意味では、今回のコラボでなにか自分のスタイルやサウンドをキープするために気をつけた点はありますか?

Jansport J - 今回のプロジェクトでは、もっと別の見方をしてたよ。というのも、俺はBudaMunkの音楽のファンだからね(笑)。だから俺たち二人でなにをするにしても、それはお互いの世界がぶつかり合うような、新しいサウンドになるはずだと考えてた。そんなわけで俺は二人一緒のサウンドがどんなものになるのか耳を澄ませてたんだけど、面白いのは、それと同時に俺たちは自分自身の表現にも誠実だっていうことだ。つまりさ、出来上がった曲を聴けば、俺やBudaMunkのパートだとはっきり聞き分けられる部分もあるはずさ。このドラムのスイングやベースラインはBudaMunkだなとか、このヴォーカルのチョップやスネアのサウンドは俺だとかね。だから特に俺たちのファンであれば、二人の新しいサウンドを聴くと同時に二人のユニークなサウンドも聞こえるってところが面白いと思ってるよ。

- 確かに。全部が共作だと融合しつつ分離も保たれているという構造が魅力ですよね。ちなみに今作のサンプルはレコードからのサンプリングが中心ですか?

BudaMunk - レコードもありましたし、CDからもサンプリングしましたね。プラグインなんかも進化しているので両者の境界線はあまりなくなってますけど、やっぱり音質の面でレコードからサンプリングしたいと思う時はあります。なので最近は少しご無沙汰なんですがまたレコードは掘りたいですね。

- Sportは最近レコード掘ってますか?

Jansport J - こっちでもたくさん掘ってるし、ネットでも色んな音楽を探してる。いくつかのブログから、レアなオブスキュア系のアルバムを物色したりね。日本でもレコード屋に行ったし、旅行に行ったときにそこでしか買えないレコードを掘るのは大好きだよ。色々なアーティストのことを知るきっかけにもなるし、みんなにもどこかへ行ったらレコードを掘ることはオススメしたい。

- レコードやCD、ネット音源のどれからサンプリングするかで違いを感じますか?

Jansport J - イエスであり、ノーでもある。レコード屋を掘れば、レアなレコードも見つかるし、それを良い音で手に入れられる。レコードならではのプチプチノイズや、暖かみのあるサウンドだよね。でも一方で俺は、ネット上だろうがCDだろうが、どんなソースでもEQやエフェクトを駆使して自分の音にできると思ってる。それを聴いた人は、レコードからサンプリングした音のように思うかもしれない。実際はネット上で掘った音源のサンプルでもね。

- 先ほど"Make It Happen"は90年代アングラ的な意味で「ドープ」という言葉が似合うと思ったわけですが、どんなビートを「ドープ」だと定義しますか?

Jansport J - 「ドープさ」っていうのは、どんな種類の良いサウンドにも含まれていると思うよ。俺が愛してるのは、J DillaやMadlib、Pete Rock、DJ Premier、9th Wonderなんかのとてもソウルフルなビートだけど、一方で仲間のHit-Boyのビートもドープだと思うし、Tay Keith、Lex Lugarなんかのトラップのビートもそうだ。トラップであれR&Bであれ、際立ったビートメイカーたちのビートは聴けば分かるし、それらはすべてドープさ。

- そういう意味で、現在のアメリカのビートシーンをどのように見ていますか?いま仰ったように一方にはトラップの世界があり、他方にはドープなブーンバップの世界があり、ローファイヒップホップと呼ばれるムーヴメントもありますよね。

Jansport J - 基本的には良いビートがたくさんあると思ってるけど、もちろん一方でそうでもないものも多い。トラップ、ブーンバップに限らず、常に良い作品ばかりじゃないし、金のために作られる作品が売れたりする。だけどドープなのは、色々なスタイルを飛び越えるアーティストが出てきたことだね。たとえばFreddie Gibbsなんかは、Alchemistとも曲を作るし、Kenny BeatsやMurda Beatzなんかとも色々なスタイルで作品を作れる。逆にプロデューサー視点で考えれば、たとえば俺はNasとも曲を作るし、Dom Kennedyともやる。それが良い音楽でさえあれば、超ヒップホップな曲もプロデュースすれば、プレイヤー向きの曲も作る。ドープな音楽、ドープなビートはジャンルを越えるってことだよね。

ビートメイキングのリアル

- Sport、あなたのアルバムは、いまのところ2作品の日本盤が出ています。『Pharaoh』と『Soulfidelity』ですが、両者にはカラーの違いを感じます。前者はタイトなドラムが多く、リズム面のアプローチが突出しているし、後者はJ Dillaの『Donuts』を引き合いに語られることもあるように、あなたのトレードマークでもあるソウルフルなサンプル使いにフォーカスされているように聞こえます。アルバムの制作に当たっては、それぞれ異なったコンセプトやヴィジョンを持って臨んでいますか?

Jansport J - そうだね、都度インスピレーションは別々のものだね。アルバムは自分にとって重要なもので、自分が生きている人生を何かしら反映するものだと思ってる。というのも、俺にとってアルバム作品とは、記憶を封じ込めた写真のアルバムのようなものだからね。たとえば『Pharaoh』の頃を思い出してみると、さっき言ってくれたように、リズミックなアプローチが多くて、ヘヴィなドラムや、多くのトリックを使ってるよね。サンプルのチョップの仕方もそうだ。なんでかって言えば、みんなを驚かせて、印象付けたかったからだ。俺のキャリアにおいて、メンタル的にもそういう時期だったんだ。髪の毛もメチャクチャ伸ばしてたしね。だけど『Soulfidelity』のときはそれとは違う。俺はもっと年を取って賢くなって、美しさとはなにかと考えて、必要以上に複雑なアプローチをしないことを学んだ。たとえばネタを単にチョップしてリピートしたり、誰も知らないレアグルーヴを2〜3秒切り取って、あとはゆるい感じで気持ち良さに任せてビートにしたりさ。そんなわけで俺のキャリアの中でいまはもっとソウルフルなスタイルになって、レコードも作りやすくなってるよ。なぜならゆるいソウルフルなアプローチは、アーティストにスペースを与えてくれるからね。『Pharaoh』と『Soulfidelity』の間にあるそんな違いに気づいてくれて嬉しいよ。

- なるほど、今の話はビートメイカーもラッパーのように「リアリティ」をまとっているということを改めて認識させてくれました。ビートメイカーのスタイルに、そのときの状況や生活がリアルに反映されるということですよね。一方のBudaさんはこれまでにすごい作品数をリリースされてますが、毎回アルバムごとのコンセプトを持って制作してますか?

BudaMunk - 基本的には普段作っているビートを集めてアルバムの形にしますが、やっぱりコンセプトのようなものは意識しますね。特にコラボ作品のときはそうしています。たとえばTSuggsと作った『Thank And Gro』(2020)は、やはりジャズ・ピアニストとの共作ということで自分のビートもジャジーなものをイメージしました。mabanuaとのGreen Butterの『Get Mad Relax』(2012)なんかでもタイトル通りリラックスできるものを目指しましたね。他にも初期の頃はアジア風のネタやループを意識したりということはありましたけど、作っている作品の数が多くなってきたこともあるのか、最近は特にコンセプトを深く掘り下げた作品が出来ていると思います。

- そう聞くと、各作品がBudaさんが色々なテイストごとにシリーズ化してリリースしているミックスCDシリーズに通じるところがありますね。DJ視点で、イベントの出演者や客層でコンセプトを決めて対応するというような。以前『サウンド&レコーディングマガジン』のインタビューでFitz Ambro$eとの共作について話をされてましたが、Fitzとの作品もすごくコンセプチュアルですよね。BPMを80前後でどうやってグルーヴを出すか追求したりと。

BudaMunk - そうですね、まずネタは90年代のR&Bを使うという縛りがあったり、機材もMPC1000を使うという縛りがあって・・・

- 機材縛りはアツいですね(笑)

BudaMunk - Fitzが持ってるMPC1000なんですけど、当時は音が綺麗すぎると思ってたんですね。MPCだったらもっと古いモデルの方が音が良いだろうと。だけど今Maschineなんかを使ってると思うのが、PCベースだとパンチのある音は出せるけど、やっぱりMPC1000なんかとは別モノだなと。MPC1000でもすごくアナログの質感があって、今聞くと良い音なんですよね(笑)。

- それはちょっと驚きですね、というのも自分はBudaさんの最近のMaschineを使ったサウンドにもアナログ感というか、単なるデジタルとは真逆の質感を感じていたので。

Jansport J - Maschineを使うにしても、重要なのは結局誰がそれを使っているか、ということだよね。「何を」使うかじゃなくて、「誰が」使うかが重要だよ。

- 二人とも大量のビートを作りリリースして、コラボやプロデュースなどで24時間ビートメイキングと向き合ってる印象です。普段、一体どれくらいビートを作ってますか?たとえば一日や一週間で何個くらい作ってるでしょう?

Jansport J - そうだな、今日でいえば3つビートを作ったよ。だけどこの2〜3週間、ビートを作る時間がなかったんだ。実はコラボレーションのプロジェクトに集中しててさ。Coast ContraやAJ Snowとレコードを作ってるからね。だからプロジェクトにエネルギーを注がなきゃならないし、昔のようにいつもビートを作ってるわけにもいかない。だけどビートメイキングに集中できる状況なら、1日に3つは作れる。だから1週間に5日ビートメイキングできるとすれば、1週間で15個作れるよね。理想を言えば、一年の終わりに振り返ると、365個のビートを作ったって状態に持っていきたい。そうすれば少なくとも一日に一個以上は作ったってことになるだろ?

- なるほど、平均して毎日最低一個は作っておきたいと。さらに言えば、一週間で作る15個のビートのうち、どれくらいがリリースにたどり着くものですか?

Jansport J - もちろん全部リリースできればと思ってるけど、15個のうち12〜13くらいはビートテープや誰かとのプロジェクトに使えるんじゃないかと思う。多くの場合は、それらを友人に送るだろうね。たとえばHit-Boyに送れば、俺があまり気に入ってないビートでも、もしかして彼が気に入ってドラムを追加して共作しようってことになるかもしれない。つまり俺はクリエイティヴな資産としてのビートについて学んできてるんだよ。多くのビートを作って広めて行けば、もっと多くのことができるチャンスにつながる。

BudaMunk - 俺も似たような状況で、昔はたくさん作ってましたが、最近はプロジェクトの制作に集中したり、ミックスに集中しなければならないことも多いですね。でも空いている日があれば、3〜4個は作りますね。昔は一日に10個くらい作ってましたけど(笑)、最近はひとつひとつにもう少し時間をかけてますね。

- 空いている時間さえあれば作っているというビートメイキングですが、それってBudaさんにとってどういうものでしょうか?質問の仕方も難しいんですが。自分の生活の中でどんな風に向き合っているんでしょうか。

BudaMunk - 時間があって、なにか作りたいと思うときに、自分が聴きたい音っていうのがあると思います。それをビートで再現している感覚ですね。このドラムの打ち方に、このサンプルがしっくり来るという。

- なるほど、時間があれば頭のなかでビートが鳴ってくるって、究極の「ビートヘッズ」ですよね(笑)。時間があればビートを作る。それは食事をするように自然な毎日の営みのようにも見えます。Sportにとってビートメイキングとはなんでしょうか?

Jansport J - 俺にとってビートメイキングはセラピーだね。ビートメイキングのためにここに生かされてる感覚があるよ。自分自身について考える最良の方法だし、自分のクリエイティヴィティを引き出す最良の方法がビートを作ることだね。自分自身であることの核をなす部分だ。どんな種類の感情を抱いているときも、ビートを作ればゾーンに入ることができる。

- 二人のようになりたいというビートメイカーがたくさんいると思いますが、なにかアドバイスできることはありますか?

BudaMunk - とにかく自分のスタイルを極めて行って欲しいですね。どれだけたくさん作るかが、どれだけ自分の色を発見できるかにつながると思うので、たくさん作ることも重要だと思います。自分も最初の頃はとにかくたくさん作りまくったので。

Jansport J - 日本にはたくさんのビートメイカーがいるよね。そっちへ行ったときも、彼らのパフォーマンスには驚かされたよ。そうだな、、、自分のキャリアをコントロールできるようにしてほしい。ビートメイキングを始めたばかりなら、まずは日々上達できるように毎日作り続けることだ。レジェンドたち、先輩たちのビートを研究してね。俺も最初は、彼らのようなビートを目指した。まずコピーをして、それから自分自身のスタイルを築いていく。自分が飛び込もうとしているこのカルチャーの歴史を知っておくことも重要だ。それからビートテープを作り、他のアーティストともコラボをして、自分のキャリアを築いていく。やればやるほど、自分自身のブランドが向上して、もっとドープなアーティストたちと仕事ができるようになる。アルバムを作り、一緒にショウをする。今はBandcampもあれば、Spotifyもある。プロデューサーとして、やりたいことはなんでもできる環境は整ってるよね。

- 近々また日本に来る予定はありますか?

Jansport J - この夏には行きたいと思ってるけど、COVID次第だよね。前回日本に行ってアメリカに戻ってきた後、すべてが封鎖されてしまったからさ。早く元に戻ることを願ってるよ。できるだけ早く日本に行きたい。日本のファンや音楽シーンからのサポートは、デリシャスヴァイナル時代から長い間にわたって、すごく励みになってる。日本は特別な場所だし、世界の広さに目を開かせてくれた。だから早く日本でBudaMunkやKojoe、5lackたちのような最高のアーティストと一緒にショーをやりたいし、反対に彼らの音楽をアメリカにも届けたいと思ってる。

- それは楽しみです。日本のCOVIDの状況も徐々に落ち着いてきているので。Budaさんは今後のリリースの予定はいかがでしょう?

BudaMunk - 次はこれだ、というのはまだ決まってないんですが、たくさんプロジェクトがありすぎて(笑)。どれから攻めて行こうかという感じです。

- 確かに、制作途中のプロジェクトをめちゃくちゃ一杯抱えてそうですね(笑)。リリースを楽しみにしています。お二人とも今日はありがとうございました。

Info

Stream/Download/Purchase:
https://p-vine.lnk.to/lC0Wwz

アーティスト:BudaMunk & Jansport J
タイトル:BudaSport
レーベル:King Tone Records / All Attraction, No Chasin’/ Jazzy Sport / P-VINE, Inc.
仕様:CD / LP(完全限定生産) / デジタル
発売日:CD・デジタル / 2022年4月20日(水)
LP / 2022年8月3日(水)
品番:CD / PCD-94110
LP / PLP-7846
定価:CD / 2.640円(税抜2.400円)
LP / 3.850円(税抜3.500円)

<TRACKLIST>
1. Intro (tonite!)
2. Old School, New Design ft. Blu & ISSUGI
3. Make it Happen ft. 仙人掌 & Mr.PUG
4. Callin’
5. Spice ft. Illa J, Devin Morrison & Daichi Yamamoto
6. Can’t Hide It
7. Susy ft. Slim Jeff & Ume
8. Pretty Eyes
9. All Praise Due ft. Like & 5lack
10. Jungles
11. 21’til ft. Kojoe & Thurz
12. PipeLine ft. LafLife
13. Whereva You At ft. Quadry & Ume
14. Tell The World
15. 未来への希望 ft. OYG & GAPPER

related

【インタビュー】thisisneverthat | 韓国と日本のカルチャークロッシング

韓国のストリートブランド・thisisneverthatが10月15日に東京・原宿に上陸した。

【インタビュー】STARKIDS | 星の子が目論む"世界征服計画"

脳天に響くデジタルでアグレッシブなビートに日英織り交ぜたリリックで「日本を征服するぜ / We bring it back(日本のポップが戻ってくる)」と宣言する"星の子"ことSTARKIDSは、パンデミック以降の音楽シーンを揺るがす多国籍ラップクルーだ。

【インタビュー】LANA | 自分の将来が楽しみで仕方ない

2020年からSoundCloudでの活動をスタートした神奈川・湘南生まれのアーティストLANA。ジャンルレスな才能を感じさせるメロディーセンスと特徴的なハスキーボイスを武器に、2022年に"FLAME (feat LEX, Saru jr.fool, taisyov)"で本格的なデビューを果たした。

most popular

【Interview】UKの鬼才The Bugが「俺の感情のピース」と語る新プロジェクト「Sirens」とは

The Bugとして知られるイギリス人アーティストKevin Martinは、これまで主にGod, Techno Animal, The Bug, King Midas Soundとして活動し、変化しながらも、他の誰にも真似できない自らの音楽を貫いてきた、UK及びヨーロッパの音楽界の重要人物である。彼が今回新プロジェクトのSirensという名のショーケースをスタートさせた。彼が「感情のピース」と表現するSirensはどういった音楽なのか、ロンドンでのライブの前日に話を聞いてみた。

【コラム】Childish Gambino - "This Is America" | アメリカからは逃げられない

Childish Gambinoの新曲"This is America"が、大きな話題になっている。『Atlanta』やこれまでもChildish Gambinoのミュージックビデオを多く手がけてきたヒロ・ムライが制作した、同曲のミュージックビデオは公開から3日ですでに3000万回再生を突破している。

Floating Pointsが選ぶ日本産のベストレコードと日本のベストレコード・ショップ

Floating Pointsは昨年11月にリリースした待望のデビュー・アルバム『Elaenia』を引っ提げたワールドツアーを敢行中だ。日本でも10/7の渋谷WWW Xと翌日の朝霧JAMで、評判の高いバンドでのライブセットを披露した。