パソコン音楽クラブ Interviewed by tofubeats & CE$

2015年に結成されたパソコン音楽クラブは、80~90年代の音源モジュールやシンセサイザーを用い『DREAM WALK』(2018)、『Night Flow』(2019)、『Ambience』(2020)の3作品をリリースしてきた。そして昨年10月にリリースしたアルバムとしては3作目となる『See-Voice』は「水」と自分たちの内面を重ねることをテーマに、インストやゲストボーカルを迎えた14曲を収録している。

内省と外に開けた感覚を両立させている本作のアナログ盤のリリースを記念して、親交の深いtofubeatsと制作ディレクターを務めたCE$を聞き手にしたロングインタビューを敢行した。

取材 : tofubeats & CE$

撮影 : 寺沢美遊

構成 : 和田哲郎

CE$ - 『See-Voice』はあんな感じのテンションになりましたけど、まず使用機材の変化はありましたか?

tofubeats - いきなり機材(笑)

CE$ - FNMNLの質問リストを遵守してるから(笑)

tofubeats - 順番だけはうまいことやりましょうよ(笑)

CE$ - のちのち深い話はやりますから。

tofubeats - じゃあ導入で。

柴田 - これまでSC-88ProっていうRolandのPCM打ち込みの機材をメインで使っていたんですけど、Prophet-600とかD-50、M3Rとかの、いわゆる一般的にビンテージとかセミビンテージ扱いされる機材の使用量が増えました。特にアナログシンセの導入は大きかった。

西山 - そうですね。当然、機材として有名かどうかって問題もあるんですけど、単純に言うと、アナログのポリシンセを初めて使うようになって。

tofubeats - なるほど。

西山 - もともとMS-20とか、ああいうモノシンセは使ってたんですけどね。アナログってピッチが不安定だし、それだけでものすごい有機的に聞こえるなっていうのは前から分かっていて。今回やるときにPCMより、リードとかコードで使っていくことで、前よりも、フワフワした感じが出ていたんじゃないかなと思っていますね。

柴田 - 揺らぎがあるというか。ただ、機材縛りも、縛りというよりは、セル画でアニメを作るみたいな。セル画でフィルム撮影した質感ってあるじゃないですか。ノスタルジーっていうよりは、そっちの意図が強かったですね。

tofubeats - これまではPCMとか、どっちかというと90年代、平成初期のものが多かったのが、Prophetとか、いわゆるチープなものからビンテージになったのは、当初のパソコン音楽クラブのコンセプトからはちょっと変わっているよね。

柴田 - ゴージャスというか。変わっていますね。

tofubeats - 今回3枚目でProphetとかを導入するっていうのは、パソコン音楽クラブ的にわりと大きい変化だと俺は思ったんですけど、それはなんでだったんですか?

柴田 - なんででしたっけね。

西山 - アナログシンセもそうなんですけど、完全に80年代、90年代の機材でやるのをいつまで守るかっていう話は相談したんですよね。とりあえず3rdアルバムに関しては、そこの部分を守りつつ、PCMに別にこだわりがあったわけじゃないけど、様式美的に今まで自分らがやってきた流れの中を、一回広げてみようか、みたいなことを考えて。クライアントワークとかもそうなんですけど、俺らのアルバム以外やったらもう少し広げてみてもいいんじゃないかというので、サンプルを使ったり、ベースの音はプラグインを使ったりとか、そういうことを検討してきてはいて。そこの延長でもあったかなと思うんですよね。

柴田 - チープとされている機材を使うというのは最初のコンセプトにあったので。チープっていうか身近。D-50とかProphetとか、ゴージャスというかブランド物って感じなので。たぶん年取ったんじゃないっすか(笑)。

tofubeats - ソフィスティケートされた感じでいくというのは、作っていくうちにそういうチョイスになったのか、もともとコンセプトを作っている段階でそういうものを許可していこうとなったのか、どっちなん?

柴田 - 今回は、いわゆるブランドものじゃないですけど、そういうのを使ってみようというという意向はお互いあって導入したというのがでかかったです。

tofubeats - それが『See-Voice』全体のコンセプトに作用したのか、それとも『See-Voice』というコンセプトがあってそうなったのか、これはどちらなんですか?

柴田 - 『See-Voice』というコンセプトがあって、「三十代の品」みたいな、出したいなって(笑)。

一同 -(笑)

西山 - そんな話したの覚えてますね。

柴田 - 30代になるまでの品というか。ハチプロってなんか、キッズじゃないですか。わかります? キッズっていうか。

tofubeats - わかるよ、わかるよ。

西山 - もちろん使い方次第なんですけど。

tofubeats - いわゆるキッズ性みたいなものにフォーカスしていたもんね。

西山 - とってつきやすさみたいなものはあって。やっぱり年齢重ねていって、いつまでもチープさみたいなところでやっていくのはちゃうな、とは思っていて(笑)。徐々に自分たちも年齢重ねるし、成長もするので、機材とかもそれに合わせて変化していくよなと。でもそこでいきなり全部プラグインで、みたいな作品よりも、とりあえずアナログシンセ、良い機材って言われているものを買ってみようというのは、念頭にあった上で作っていたと思いますね。

tofubeats - なるほど。ここから和田さんの質問リストに行けるんですけど。そういう機材を使って今回目指した「音色」っていうのはどういうものだったか、というところ。

柴田 - 音色っていうとどの部分の話になるんですか?

tofubeats - 過去2作を踏まえて、今回目指した音色について。どういう音色にしようというふうに2人で示し合わせたのか、作業の上でこうなったらこうしようと決めたこととか、そういうのがあれば。

柴田 - 「ゆらぎ」みたいなものはテーマにありましたね。それもアナログシンセを導入したのがでかいんですけど。チューニングをこれまでしっかり合わせていることが多かったんですけど、意図的にずらそう、みたいな。けど、敢えてのローファイとかじゃなくて、きっちり宅録やる、というようなイメージをもたせたくて。「きっちり宅録やる」ってなんやねんって感じですけど、なんていったらいいんだろうこれ…

西山 - そうですね、テーマ的にも水やなっていうのがだんだん固まってきて。そういうのが見えてきた段階で一層はっきりしたんですけど、やっぱり水とかもそうですけど、ゆらゆら揺らめいてるものを表現しようとして、ピッチがかっちりしてるのは変やなって思って。宅録感みたいなのも、いろんな楽器の若干ずれてるピッチが重なる感じの音って、すごく気持ちいいなって。それを全体の音像として作りたいなって思ったというのは絶対あって。でも何曲か、その感じがいきすぎて、マスターにビブラートをかけているんで(笑)。

一同 -(笑)

柴田 - あとリバーブが大きいですね、今回は。SONYのMU-R201というハードのリバーブを使っていて。それこそリバーブのかかりがお上品なんですよ。

tofubeats - 「品」がけっこうテーマなんや。

西山 - ぼくはわかんないですけど(笑)。

tofubeats - 「品」がある一方で「ゆらぎ」なんやね。

柴田 - そこでバトっているというか(笑)。

tofubeats - 水のメタファーのことを「ゆらぎ」と言っていましたけど、今回の声、水、海とか、そういうテーマっていうのが、やっていくうちに水になったって西山くんが言っていたけど、それはどういうふうに決まっていったんですか?

柴田 - そもそも海とかはずっとテーマとしてやっていて。tofuさんのHARD OFF BEATSの時もドビュッシーの『海』とか使っていて(笑)。ずっとそういうのをテーマにしていたんですけど。これまでは同じテーマでも風景描写が多かったんですけど、今回は風景描写じゃないものをやりましょうと、最初の方に話しましたよね。

西山 - うん。そうっすね。

柴田 - 風景描写以外に俺らにほかにできることってなんだろ、って考えて、誰かへの「愛」とかはまだ早いなって話になって(笑)。ラブソング。

tofubeats - 「愛」にいく可能性もあったんや。

柴田 - あったかもしれないじゃないですか(笑)。

tofubeats - ちょっとまって、なんでアンチ風景描写で愛にいくん。

西山 - まあその、気持ちの問題。一番よくあるの愛なんで(笑)。

柴田 - やっぱり自分の考えられる範囲じゃないと音楽作れない。でも、愛について歌うのは早いし、人に歌ってもらうラブソングって、ちょっと、なんか……本音じゃないじゃないですか。何をビビってんねんみたいな(笑)。

tofubeats - 言うねえ(笑)。まあ、わかるよ、わかるよ。ピュアな心を抱いてんなっていう方に。

柴田 - それはあったので、じゃあ「心」か、みたいな。心は他人でも自分でもいいんですけど、そこだなって。それでやっぱ、何をメタファーにやれるだろうと思った時に、水かな、みたいなのが、西山くんとぱっと2人でなってきまりました(笑)。

tofubeats - あっ、心からの水なんや。

柴田 - 蒸発したりするじゃないですか。ヤバ、みたいな(笑)。

西山 - ずっと柴田くんがそれを言っていたのは覚えていて。心ってやっぱり変化するから、気体、液体、固体と変体することとぴったり合う、って、ロマンチストなんで言い出して。たしかにー、と思って。心っていう表現は広すぎるかなと思った愛もゆうて心なんですけど、要するにやりたかったのは、心の中の20代の迷いとかぎりぎり自分探しとかを人に胸張って言えるのって20代やなって、ちょっと思っていて。30なってからやってもいいけど、音楽でやるなら今しかできないかなとも思ったんですよね。自分探しで、海外行く人とかもいるけど、そういうのとは別のアプローチで、逆に自分らの中に潜ってみて、何を思っているかとかを改めて考えてみよう、という意味での心ですね。そういうのってすごく曖昧で、変わっちゃうものでもあるので、水っていうのがぴったりなんじゃないかなっていうこと…ですね、今思うと。

柴田 - あと、海とか描くと、青い海とかって青春じゃないですか、ジュブナイル感ある。そういうのを断ち切りたいみたいな。そんな歳じゃねえだろって思って(笑)

tofubeats - 「大人になる」みたいなことがテーマなんや。

西山 - そうですね。

柴田 - こういう生活をしていると、作品を作ることでしか歳とれなくなっちゃうんですよ。だから、これで俺たちは大人になろうって(笑)。

西山 - ぶっちゃけ海もうやめようっていうのはあったと思います。で、次はもう海とかしないので、絶対。ここで区切り付けましょうと。

柴田 - え、絶対?

tofubeats - これ小見出しになりますよ。「次は海はやらない」。

西山 - すぐはやらないかな(笑)。十年後とかは分からないけど、とりあえず一回区切りつけないといけないなっていうのはあったと思いますよ。

tofubeats - もう一個のテーマの「声」は?

柴田 - これは、アラサーの自分探しなんですよ。アラサーって一人じゃなくないっすか?……なんていうだろう、これ(笑)。うまくいえないんですけど。

tofubeats - ちょっと助けてあげて、相方。

西山 - 僕は柴田くんの言ってることが分からない(笑)。アラサーでも一人のやつおるしな(笑)。

一同 -(笑)

西山 - ぼくが「声」やなって思ったのは、結局自分の声みたいな。一人で、入っていくみたいな内容ではあるんですけど、そこで聞こえてくる声って自分の声やなって思って。ちょっと抽象的すぎるな。『海の上のピアニスト』っていう昔の映画があるんですけど、海の声っていう重要シーンがあって。いろんなものを失ったおじさんがガッカリしてた時に初めて海を見て、人生は無限で世の中広いんやぞって背中押してくる声を聞いて、それで船に乗って来たっていうんですけど、結構みんなそういうのあるんじゃないかなって思って。それが海じゃなくても、結局それ言っているの自分やなって。海の声とか言っているけど、その声はおじさんの中の実のおじさんが言っているなと僕は思って。自分探しとか、大人になる過程を踏もうと思うと、自分の中の声を聞かなあかんなと。それを改めて、耳を傾けようと思った時に「声」をテーマにしたほうがいいなって思ったんじゃないかな。って僕は思うんですけど、どうでしょう。 

柴田 - そうです、だから『See-Voice』のシーも「I see」の「わかる」の方で、自分の声をもういっぺん聞け、みたいな、ちょうど30手前とかで、ぼくたちも最初は音楽を本気でやるつもりではなかったので、クライアントワークとかやっているうちに、自分たちのアイデンティティってなんなんだろうって考えることが多くて。そういう時に、身に付くものもたくさんある一方で自分を見失いそうになることもあって、しかも去年はライブもできなかったので、一回自分たちの好きな音楽に正直になって、自分の声を見つめ直そう、っていうことがテーマで「声」というのがありました。

tofubeats - すごいね、これまではパソコン音楽クラブって熱海とかさ、『Night Flow』の時のインタビューで「クラブミュージックへの理解が深まってきたのでこういうのやりましょう」と言っていたけど、今回はもう本当に内面にフォーカスというか。セルフライナーに「ひたむきさの延長みたいなアルバム」って自分で書いていたけど、そういうのを制作中から意識していた。自分の声を聞こうと。

柴田 - 自分で書いてました(笑)。

西山 - (笑)。

柴田 - 正直になりすぎた、みたいな感じはあります。

西山 - 人の意見も聞きたかったんですけど、コロナのせいで直接対面で話す相手がいなくて。わざわざ「最近どうですか」とかメッセージを送っても、その瞬間しかお互いと接していないから、みんなで喋りあって生まれる共通のムードみたいなものがなかった気がするんですよね。

tofubeats - なんとなくこれがいいというふうな。

西山 - これでやっていこうというローカルのムードがないし。もちろん、流行りはずっとあると思うんですけど、そういうのじゃなくて、もっとメンタルの話で、友達と話していて、「この感じやな、今は」みたいなのって、今まではあった気がするんですけど、それを感じられなくなった。じゃあ誰としゃべるねんという時に、もう僕の場合は柴田くんしかいなかった。それって結局、パソコン音楽クラブっていう一つの人格が、何かアイデンティティーを問い直すみたいなことになるのかなって思う。だから結局自分に話を聞くしかないみたいな、そういうことだったかなと思いますね。

tofubeats - 一方で柴田くんは東京に出てきて、2人で直接会って話すことが減っていたと思うんですけど、それを踏まえて、今作、制作の変化はありましたか?

柴田 - こういうのをやりたいみたいな何かあると思うんですけど、シンクロ率がやばすぎて、人格がガッチャンコしちゃって(笑)。

tofubeats - めっちゃいい話やん。

西山 - いや怖いけど(笑)。

柴田 - 話さなくてもお互いこうやよねってポンポン出てきて、そうやねん、そうやねん、みたいなことがシンクロしすぎて。鏡の前で2人が自分らの顔見て、顔やなあ、ってずっと言ってるみたいな、そんなんになって。

tofubeats - じゃあ全然滞りもなく。

柴田 - 無いのが逆にやばくて、人に伝わりづらい内容になっているんじゃないかなって。僕らしかそのシチュエーションが理解できひんみたいな。

西山 - 僕、それがいきすぎないようにしないとなとも思って。本来2人でやってるのって、微妙に違う方向を向いてるから、出てくるものがちょっと社会的になるみたいな良さはあると思うので。やっぱりコロナ禍になって僕と柴田くんがまったく同じ方向を見るっていう感じになったのは、それもそれで1個作品出してよかったと思うんですけど、今後ずっとそれだとつまんないかもしれないし、ちょっと意識的に違う方向を見ようって。

柴田 - 正直、制作中は通話の時間もかなり長かったじゃないですか。曲数も多かったので話すことは多くて、そのおかげでシンクロ率が大変なことになって。これはこれで、あまり外に向けた作品にはならないんだろうなって。

tofubeats - インタビューでも自分たちのためだけに作った音楽みたいなこと言っていたもんね。でもその一方で、ダンスビートを抑制して作ったとも言ってたけど、自分たちのために作るとダンス的なビートがなくなったというのはどういうことですか。

柴田 - 単純に僕たちが現場に出たら、そのスイッチが入ってそういう音楽を作りたいってなると思う。なかったらあんまり思わないタイプっぽいんすよね。

tofubeats - それに気づいたってことね。

柴田 - はい。ずっと家にいて、聴いている音楽とかも、ビートもめっちゃ少なくなってきて。それが大きいかもしれない。

tofubeats - ちなみに実際どういう音楽を。

柴田 - 僕は小久保隆の『Get At The Wave』とGONTITIの『PHYSICS』と、細野晴臣の『omni Sight Seeing』ばかり聴いてて。

西山 - 「どんな音を聴いてる?」ってお互い聞いたりもするんですけど、僕も似たようなもので。ムーンライダースの鈴木慶一さんが昔やっていた水族館レーベルというレーベルがあって、そこから出していた、『陽気な若き水族館員たち』と『陽気な若き博物館員たち』っていうコンピレーションがあって。ポータブルロックとかReal Fishとか入っていて。若干シンセが入っている時があるんですけど、全然エレクトロニックミュージックじゃないんですよね。あと、打ち込みっぽいドラムなんだけど、すっげえスカスカで。でも、それをスピーカーとかで流して遠くから聴くと、なにかエアー感が入って、すごいフィットしたんですよね。コロナで家にいるときにそれ聞いて、今自分にフィットするのダンスミュージックじゃないな、みたいな。家でこういう時間過ごしている時に、四つ打ちとか、いわゆるクラブ的音楽みたいなのを聴くのって、ちょっと自分は違うなと思って。

tofubeats - 一方で、そういうニューエイジ、アンビエントみたいな影響がありつつ、歌モノが多いじゃないですか。ちゃんとポップス的なところにリーチしようみたいな、そういう意味での社会性も大いにあると思うんですよ。自分たちのためである一方、ちゃんと社会性も担保されているなという気もしていて、そこらへんのバランス感ってどういうふうに?

柴田 - それは最初からめっちゃ意識していて、これまでクライアントワークをやってきたので、音楽の作り方みたいなものが身についてくるわけじゃないですか。それを発揮しないのも違うし、かつ、今回みたいなテーマって、インストでやろうと思えばできるみたいな。でもそれはちょっとやりたくないなみたいな。

tofubeats - そこまで社会性をもたないのもどうかっていう?

西山 - 社会性もあるんですけど、たぶんインストでやった方が楽なんだって。

柴田 - むしろインストのほうが適切な表現方法だと思うんですけど、あえて、歌があったほうがいいし。

西山 - さっき言ったみたいに、テーマ的に自分探しじゃないけど、自分ってどういうものが中心にあるんだろう、コアってどこなんだろう、みたいなのを、一回改めて見直したいなっていう内容だったので、そうなると歌モノとかも、一回正直に自分から出てくるメロディーを入れてみた方がいいんじゃないかなと僕は思って。それでできあがる作品って結構中途半端になる可能性もあるなと思ってたんですけど。内省的なもので、かつ水っぽいものって、絶対全部インストの方がいい気がするんですよ(笑)。だから、それをあえてポップスっぽくするっていうのも、ある意味逆張りでやってて、社会性の担保になってたら嬉しいんですけど、そっちを意識してっていうよりは、どっちかっていうと、しっかりアンビエントとか、直球で表現することをやりたくないっていう方向だと思うんですよね。

tofubeats - ある意味で技術的な挑戦というところもあった。

柴田 - ゼロではないです。あと、やっぱりインストを作っても一人で作るわけじゃないので、「タイトルなんでなん、その理由」みたいな話に絶対なるんすよ。その時に、お互いポエミーなモードに入るんすよね。どうせ詩がかっこいいんだったら歌にしたらええやろ、って。そのもっているポエムを歌にしたほうがいいって。

tofubeats - じゃあ今回、歌モノの歌詞は、そういうポエムの中から生まれてきたの?というか、全体的に作詞についてどういう取っかかりで進めていったのでしょう。ボーカルの選定ありきであてがきなのか、ポエムがあって歌詞があってボーカルを選んだのか。

柴田 - まあ、ポエム的なメンタリティ、今日ポエミーやな、みたいな日に「水じゃね」って話をして、お互いを100%までバキらせていって、それで水について書こうって言って、締め切り決めて書くみたいな。

tofubeats - ポエムを交換して。

柴田 - それで曲にあてはめて、こういう感じに行きたいって見せあったりしていて、それのシンクロ率が半端ないっていうか、どっちがどっちの歌詞を書いたのか分からないくらい似たようなことを言っていて、ヤバ、みたいな。

西山 - まあ、柴田くんのを見て文法を寄せましたけどね(笑)。

tofubeats - 夢のないこと言うなあ(笑)。

西山 - でも、結局それって、自分一人で作る作業じゃないから。ユニットでやっている以上は相手が何考えてるんだろうなっていうところが、結局、自分が考えていることなんですよ。だから柴田くんがどういうことを考えて歌詞書いたのかっていうのを読んで、そういうことを考えているんだっていうのが分かって、自分の考えることが整理されてみたいに、作るものが必然的に近寄っていくっていうのはあると思うので。それにしても最初の段階から同じようなことを言ってるなとは思ったんですけど、歌詞でいうと、僕は本当に最初言ってたテーマ通りで、3枚目って結構自分のやり方も迷うし、年齢的にもアラサーなってきて、これでいいのかなとか悩んではいて、かつコロナで人のムードもわからないし、みたいな。とりあえず1回自分らのやり方を肯定しようみたいに思って、別にそれで人が理解できない可能性もあるけど、1回それでやろうって決めて。柴田くんが書いた歌詞だと、「遠くまで泳いでいっても大丈夫だよ」みたいな内容のものだったりとか、僕だったら「流されないための船の碇」って歌詞に入れたりとか、あと位置を示す"Locator"っていうタイトルを入れたりとか、自分らの座標みたいなのがどこにあって、いろんなものをこれからしていっても、「根っこの部分ここにあるよ」みたいなのを、5年後とかに聞き直して、「せやせや」ってなったらいいなって思ったんですよね。だからそういう言葉を入れたいなって思って。めっちゃ自分用のメモみたいな感じかも(笑)。

柴田 - 横沢俊一郎さんが『絶対大丈夫』というタイトルのアルバムも出していて、良いタイトルやなあって思って。

西山 - 柴田くんが『See-Voice』を作っている時にずっと「お守りみたいな曲を作りたい」って言っていたのを覚えていて、その曲があったら大丈夫みたいな、根拠ないんですけど、何かやっていく上でお守りになる曲みたいな。それはたしかにイメージにあったなって。

tofubeats - 今回アルバムを改めて聴き直していて、全体的なコンセプトの固まり具合、っていう、海があって旅に出て、そこから最後は海鳴りとか、トリップ状態から抜けていくっていうのさ、ガッツリかなり固まってて。それが今はお守りみたいな感じとか、これがあったら大丈夫みたいな。あるいはこれから先の土台になっていくっていうイメージはかなり納得したというか。パソコン音楽クラブってコンセプトが先行しているところに割とあるけど、今回はその中でもかなり全体的には流れには気をつかった感じ?

柴田 - そうですね。あと、長尺でやりたいというのを2人で最初から言っていて、最近長尺のアルバムを出す人が周りにいないので。tofuさんとかは違いますけど。

tofubeats - 長いでおなじみの。

柴田 - ちょうどエヴァが公開されから観て、エヴァ作ろうってやついないのかって思って。長編ってみんな作んないのかって。

tofubeats - けっこう『シン・エヴァンゲリオン』の影響あるんや。

柴田 - めっちゃ長かったけどヤバいっすよね、って。

西山 - 確かに濱口竜介さんの『ドライブ・マイ・カー』もそうですけど、長尺作品に感動する年だったかも。

tofubeats - それめっちゃ面白いな。セル画でフィルムっていうのもそういうこと。

西山 - 僕はtofuさんの長尺のアルバムを作っている背中を見ているところもありますけど、やっぱり、カジュアルに曲を作れるようになったせいで、シングル曲をとりあえず出す、アルバムを作ったことはないみたいな人もすごい多いなと思っていて。それはスタイルなのでみんな好きなようにやったらいいんですけど、やっぱりアルバムでしかできないものってあるよなと思っていて。特に音楽って、映画とかに比べると、本音をいろんなものに例えてメタファーしてものすごく個人的なテーマなのに表面上はエンタメとして成立しているとか、そういうのって映画ではよく見ますけど、音楽って一曲ではなかなか難しいなと思って。アルバムでも相当難しいんですけど、でも10曲とかそれ以上あるからできる、微妙な有機性というか、そういうのってあるよなと思うので。このアルバムでそれができているというわけじゃないですが、そういうのを目指したいなとは思ってました。いや、そんな曲数いらんやろってめっちゃ思いつつ(笑)。

tofubeats - まあでも間に入っているアンビエントの曲がグッと引き立たせているのはあるでしょうね。

西山 - 単体で聴くのと全然聴こえ方が変わると思うし、そういうのに惹かれちゃうなって思います。

tofubeats - ちょっと気になる和田さんのメモで、「つかみどころのなさについて」っていうコメントがあって。

和田 - 別のインタビューとかでもつかみどころのなさっていうのを…

柴田 - これはなんとなくわかっていて。

和田 - つかみどころがないことを分かっている。

柴田 - 作り終えたあとに分かって。結局分かりやすくエンタメとして成立しているものって、登場人物がだいたい2人以上いる。このアルバムは全体が独り言なんですよ。ちょっと暗いヤツの独り言を延々聞いているみたいな内容で、いろんなボーカリストの方もいるんですけど、その人との物語じゃなくて、自分の気持ちをその人に代弁してもらう。そればっかりで、毎日独り言をしてるやつのうわ言なんか聞いてもふわっとしすぎていて、なんじゃって感じじゃないですか(笑)。

tofubeats - でもそれって結構むずくないすか。パソコン音楽クラブは二人組だし、あと、独り言を歌わせてる人を見ているのは一人称じゃないじゃないですか。三人称的な感じで歌っている人を見ているっていう、メタな存在は全然存在して。そういうバランス感っていうのはどうなんですか?

柴田 - そもそも僕とここ(西山さん)が一体化しちゃったのはでかいっすよね。『Night Flow』の時は、2人で街を歩いたりとか、なんだろう…

西山 - 大学生の友達と夜中に出歩いて、それめっちゃおもろいやんってことですよね、『Night Flow』は。それなのに2人が合体しちゃって、結局1人になっちゃった。

柴田 - 『Ambience』は、建物の中から外を見ているみたいな、そういう対人はいたんですけど、これが全部なくなって。

tofubeats - ほんとにエヴァンゲリオンみたいになってきたね。

柴田 - tomadさんに言われてびっくりしたのは、「会社とか脱サラして、軽井沢のログハウスに住んでいるおじいさんの持論を聞いてるみたい」って(笑)。

tofubeats - どういう例えなん(笑)。なんとなく言わんとしていることはわかるけど。しかも山奥なんや。海ですらない。

西山 - tofuさんに聞きたかったんですけど、これ初めて聞いて、つかみどころないなーって思いました?

tofubeats - 俺はそんなことなかったかな。

西山 - どういう掴み方しました? 逆に。

tofubeats - 今回はむしろガッチガチというか、結構きれいにストレートというか。手癖でやっているっていうわけではないけど、コロナの間にやる、まあディレクションが定まっているなって思ったかな、めっちゃ。ヨレてんなあとは全く思わなくて、けっこう固いアルバムやなと思った。

西山 - 作って、できあがって僕が不安になったことがあって、それが掴みどころのなさだと思うんですけど。作っている時に「このアルバム、ジャンルとか絞られたくないなあ」とめっちゃ思って。バンド、打ち込み、とか。アンビエント、ポップス、とか。ほんとはもっと要素ありますけど、四象限があったとした時に、例えば右にいけばいくほどポップスで、左にいけばいくほどそうじゃないのだとしたら、どこにピン打つ?このアルバムって刺す場所を迷ってほしいなと思って。ただ、そういうの迷うアルバムって、めっちゃプロモーション的には駄目だって(笑)。

tofubeats - 自分が不安になってもうたんや(笑)。

柴田 - 翻訳せなあかんもんね。

tofubeats - 急にそこで西山くんのもってる社会性がバリ出てくるってのはめっちゃ面白いけどね(笑)。

西山 - そう、めっちゃ出た。

柴田 - お互いにできた瞬間に冷静になったんすよね。

西山 - そうそう。物売るために、人に伝えるためにジャンルが果たす役割って大きいと思うんですよね。これはこういうものですとか、ジャンル以外もそうやし。それで代わりに取りこぼす細かい情報もあるんですけど、シンプルになって、人に広がりやすくなるっていうものやと思うんです。それの逆を頑張ってやろうとしたせいで、結局これって何なんですかみたいなのを、tofuさんとか相当リテラシー高いんで聴いたときにこういう音楽やなって分かると思うんですけど、オカンとかに聞かせた時にどうかっていう。

tofubeats - ただまあ、目標は完全に達成できているよね。自分で戸惑うぐらいのレベルまでいってるわけやし。

西山 - 酔っぱらって作ってるみたいな感じで、自分でこういうふうにしようって、なったと思った瞬間に、ぶわーっとシラフに戻って「これはやばい」って。

柴田 - エライことやってもうたって(笑)。

tofubeats - 今回どうしても聞きたかったんですけど、そんな作品の唯一の他者でありメンターの、seaketaさんですよ。seaketaさんという存在は注釈で説明文を入れてもらうけど。MVもやってましたし、今回は二人の言動を見るに、seaketaさんはかなり大事と思われる、パソコン音楽クラブが本当に何かわからへんけど、パソコン音楽クラブの何番目かのメンバーですよね。2人が1になってしまった今、seaketaさんにどういう役割を仮託していて、どういうサポートっていうかさ、アルバムに作用したのかって話を聞きたかったんです。

柴田 - まず、僕がフワフワしたことばっかり言っていたんです、最初に。水がどうとか。そういうふわふわした会話を普段は西山さんが翻訳したりするんですけど、もう僕らが一緒になっちゃって、ボヤけすぎて、seaketaさんに入ってもらって、「それ~なんじゃないですかね」みたいな言語化してもらうっていう役割で。

西山 - その言語化も、またあの人もフィルターがおかしいせいで、ずっとぶっとび翻訳なんですよね。

柴田 - (笑)

西山 - 翻訳先もちょっとなんか変な言葉を使ってるみたいな感じで、それによって抽象度があがっていくみたいな。

和田 - ボーカル選定にも彼のアドバイスがあったそうですね.

tofubeats - あ、そうだ。ヤバいな。メンバーやん。

柴田 - 第三のメンバーでしたね(笑)。

tofubeats - じゃあ今回は本当に曲だけ先にあって、歌詞もあった状態?

柴田 - 歌詞もほぼあって、仮歌があって、これって誰がいいかなーってみんなで話していて。それで相談する相手がseaketaかいって感じなんですけど、そういう役で入ってもらってましたね。

西山 - あと意外と、出来上がってからの方が、いてもらってよかったなって思うことがあって。もちろんMVもそうなんですけど、出来上がった後に、さっき言った通りで、これはどういう音楽なんやろうなっていうのを、すごく不思議な気持ちで聴いてて。それでseaketaに聴かせたら、このアルバムはすごいウェルカムな感じで大きな屋敷に「みんなでパーティーしよう」って招かれるんですけど、いざ入ってみると狭い暗い部屋に一人で閉じ込められて、何か独り言聞かされるみたいなものですね、って言われて。

tofubeats - (笑)。

西山 - すごい的確やなって思ったし、その感じちゃんとわかる人いるんやなって。自分が思ってた通りだったので、そこでめっちゃうれしなって、ちょっと安心したというか、完全に僕と柴田くんだけしかわからないみたいな感じだったら残念なので、少なくとも、こういうものすごくひねくれた人はわかってくれるんだなと思って心強かったですね。

柴田 - 悲しいなと思ったのが、もう一人似たような、大宮レコーズのつぶあんって人がいるんですけど、彼も無職で…

tofubeats - 彼もってseaketaも無職なんや。

柴田 - アルバム制作中に『ヨコハマ買い出し紀行』(芦奈野ひとし著)をめっちゃ読んでいて、『ヨコハマ買い出し紀行』みたいなことをやりたかったのかもしれへんとつぶあんに話したら「あ、リバーブね」って一言言われて。なんかすげーなこいつって。「リバーブね、空気やりたかったんだね」って言われて、なんでこいつこんな鋭いんやろうって(笑)。妙な鋭さを発揮されるという。

西山 - ここまで『ヨコハマ買い出し紀行』が何の説明なしにきてますけど大丈夫ですか。

tofubeats - マンガですよね。アンドロイドの美人なお姉さんがいて、海辺なんすよね。

西山 - いわゆるドラマチックな展開がないっていう中で…

柴田 - 自分を探していくという…

西山 - でもやっぱりたまにドキドキしたりとか、不安になったりとかがあるっていうのって、リバーブっていう表現。

柴田 - それでリバーブって出てくるんだお前っていう(笑)。つぶあんの鋭さにちょっとびっくりしちゃって。

tofubeats - ちょっと話戻りますけど、そういうテーマになったのってコロナの前から? コロナ禍になってから?

西山 - コロナ禍の前には、次に歌モノを作ろうっていうのが決まってたんですけど、クライアントワークもしてきたし、そういうのを取り入れた楽しいアルバムを作ろうぜみたいな感じだったんですよね。それがこんなことになってしまって。

柴田 - それこそtofuさんの『POSITIVE』みたいな曲を作ろうって(笑)。

tofubeats - やっぱりそういう自省的なところもあって、それをいい意味で読み変えようみたいなことがあったりするのかな。『ヨコハマ買い出し紀行』とかは。

西山 - 多分そうっすね。

tofubeats - 『ヨコハマ買い出し紀行』とか読んでて、こうなりたいなと思ってさ、いざそうなったらわりと大変。

柴田 - そうそうそう(笑)。

tofubeats - 逆に自分の意見で恐縮ですけど、『ヨコハマ買い出し紀行』ってちょっとディストピアっぽい感じもあるじゃない。そういうのが変にリンクしているところもありますよね。ちなみにですけど、ここまで聴いていて杉生さん、何か質問があったりします?

CE$ - 質問は別にないかな。。。

tofubeats - あれ(笑)、企画もってきたの杉生さんでしょ今回。

CE$ - いや作っている時に横で見てましたから。

tofubeats - ディレクターとしてどうでしたか?

CE$ - tofuの時と同じで僕は進行ディレクターなので、作る物に対して意見をいうことはないし、できた曲を淡々と「あ、こういう曲できたんや」みたいなのは思ってた。このアルバムを出してこの人らは次何を出すんやろうとはちょっと思ったかな。2022年の展望として、2人と話したときは、鬱屈とした音楽をもう作りたくないって言っていたから、次の違うものができるんやろうけど、さっきも言っていた内省的なものだったり、インナートリップ的なものを、一旦終わらせるためのアルバムだったんだろうなとは思う。傍から見てたら、作るのすごくしんどそうだけど、出し切った感じがすごくあった。

tofubeats - 僕が固いと思った理由もそれに近いものがありそう。整合性がめっちゃ取れてるので、余地があんまりない。カッチカチやなっていう風に思った。

西山 - 出来上がって柴田君と話して、これファーストからやってきたことをまとめたなって思ったんですよね。1枚目だして2枚目出して、ミニアルバムの『Ambience』を含めて3枚出して、今回ので4枚になって。4つは、全部地続きやったなって。1つのアーティストなんで続いていくんですけど。それにしても自分たちがコンセプト厨やったから(笑)。余計に、本でいうところの続き物みたいな、4部作みたいな感じがあるなって思って、どこかで終わらせななって思って。

tofubeats - だってパ音の2人から次は海をやらないって聞くと思わんかったよね。ちょっと俺今日ショックやったもん。今日聞きたかった質問のうちの一つに、「海に対するオブセッションってどっから来てるの?」というのもあってんけど、次に海でやらないって言われたから聞くのやめたんよ、それを。

西山 - 柴田くん的にはどう思ってるかわからないですけど、いつかはもっかい戻ってくることはあると思うんですけど。海という表現もそうなんですけど、例えばサウンド的にいうと、PCMのチープさとか、オモチャっぽさであるとか、そういう可愛げみたいなところも、僕らがずっと作ってきた音楽にあったんじゃないかなと思っていて、それが枚数重ねるごとに徐々に年齢重ねて、最初した柴田くんが言った品みたいなものもそうなんですけど、30歳手前の音楽に近づいてきていて。やっぱり僕、いつまでもチープなものでやっていくみたいな懐古趣味的なことをやり続けるのって、始めたときはゴージャスな音に対するカウンターみたいなところもちょっとあって、この音を今やるとめっちゃかっこいいなって僕は思ってたし、今もカッコいいと思っているんですけど、何かやり続けることって、どこかで惰性になる。一回まとめないとなっていうのはちょっと思ったのは覚えていて。そういう意味で、海は一旦もうやらない。

柴田 - やるかもしれないけどね(笑)。

tofubeats - 海ファースト・シーズンはこれにて完結。

西山 - そうですね。言うてすぐ海に帰ってくるかもしんないですけど(笑)。

柴田 - いきなり波の音から始まってね(笑)。

CE$ - パブリックイメージみたいなものを終わらせにかかったというのはあるんじゃないかなと思ったけど。

西山 - そうですね。やれるだけ作りきって。

CE$ - 出たあとのことはあんまり考えていないやろなって。

西山 - そこは全然考えてなかったですね。

柴田 - なんも考えていなかったです。こういうのを作っておかないと納得がいかないフェーズでもあったので。

西山 - 次いけないし、コロナももうええわ、みたいな頃じゃなかったらやれてなかったかもしれないですね。

CE$ - まあ、長く人の印象に残る作品なんじゃないかと。

tofubeats - 言ったとおり、固い作品だと思うので、時間を越えて聞いてもあんまり印象が変わらない、いい意味で。

CE$ - 良くも悪くもトレンド的な要素は何も入っていないから。

tofubeats - それが翻って、自分たちが何かでロストした時、たぶんそういうのになる作品というのはマジで言い得て妙というかね。そういうものになるんじゃないかと思いましたね。

柴田 - tofuさんはありますか、自分のそういう作品って。

tofubeats - 急に逆質問(笑)。

柴田 - 気になるなと思って(笑)。

tofubeats - これまでもずっと言っているけど、メジャーデビューシングルを作るときに、一生この曲をやるって思って作ったから、"Don't Stop The Music"を使った。めげそうなときに聴ける曲にしようっていう。だから"Don't Stop The Music"。俺は2人が言っている2人が1人になってしまうような「1」の状態をずっとやっているわけなんで。

まあインタビューはだいたい録れていると思うので余談なんですけど。2019年から次、今年出るアルバムのコンセプトを立ててて、コロナじゃないのに俺は鏡というテーマにしていて。鏡を見て気が狂った人が、最終的には自分は気が狂ってるんだというふうにわかる、というアルバムを、もうほぼできているんやけど。

CE$ - ホラー小説みたいやな(笑)。

tofubeats - 『See-Voice』を見た時に、まじで同じコンセプトすぎてけっこう感動したというか。

柴田 - 一緒ですよね。

tofubeats - そうそうそう。でも俺はちょっと違っていて、ずっと1なんよ。ずっと独り言やから、ちょっとうらやましいなと思うけどね。この2人で1になるというのは、1人の1と違って感動があるやん。俺たちシンクロしてるなって。一方で、だから意見が違う時とかもあるとおもうんやけど、今回それがあったっていうのがいいなって。2人でこれができるっていうのは、普通の2人ができることじゃないっていうか。これまでアルバムを出してきたから1になれたっていう。1になれたからこそ、次はいいやみたいな感じなんかなとも思うし。

柴田 - 完全に余談なんですけど、こないだtofuさんの家行った時に、現場とかないと曲作る気力が湧かないみたいな話をしていて、どうしようみたいな時に、tofuさんがピチカート・ファイヴ関連の過去の雑誌を買っているみたいな話があって。あれめっちゃヤバいなと思って、僕もあのあと買って、めっちゃやる気でて。

tofubeats - やる気でるよね。

柴田 - めっちゃ原動力になるっていうか…

tofubeats - めっちゃ好きな昔のアルバムが出たときの『remix』とかを買って、むちゃくちゃやる気でるんよな。TEIさんとかが熱いことを言ってる時のもの読むと、むっちゃブチあがるっていうか。この人にも若い時あったんやって。……余談やな、完全に。ちなみに和田さん、杉生さん取りこぼしは?

和田 - 2人がさっきからアラサーって言っているけど…

tofubeats - まだ26、7やろ。

CE$ - そんな年齢きにしてんの。

tofubeats - そんな焦る年やなくない? 

和田 - なにか年齢に合わせたアーティスト像っていうのがあるんですか?

tofubeats - それ誰っすか?

柴田 - 身近だと、『FANTASY CLUB』出されたのって27~8ですよね。

tofubeats - そういう記憶のしかたしてないのよ。

CE$ - 『FANTASY CLUB』は5年前。

tofubeats - そうっすね、会社作った直後だから。ショックやわ。

柴田 - Wikipediaとかで、好きなアーティストが何歳の時に何作ったかとか見るの好きなんすよね(笑)。そこに照らし合わせて、ここまでこの人ら成熟しているんやとか思うと、俺ら全然やなって。

西山 - でも、死ぬまでやろうって考えて、tofuさんとかそうかと思いますけど、音楽できるんやったら死ぬまでやるじゃないですか。ってなったら、振り返った時に、この時にこれやったなみたいなのって、けっこう意識するなーとは思って。柴田くんは僕よりも遥かにそれが強烈にあるから。たぶんそういうことなんじゃないかな。

柴田 - 生活が本当にこんな感じっていうか、西山くんも会社勤めではないので、もう恋するか、作品作るかでしか歳とれないみたいな(笑)。

tofubeats - そんなことはないやろ(笑)。乗馬とか行きなよ。陶芸とか。

柴田 - 陶芸はいきすぎじゃないっすか(笑)。それしかないなって(笑)。

tofubeats - 何歳で何かしたっていうので、柴田くん的に一番ショックだったので誰の何?

柴田 - 『FANTASY CLUB』やばいっすよ。無理やって。

tofubeats - 俺も元々それむっちゃあったんよ。okadadaさんとかによくそういう事を言って、「何いってんやお前は」って言われてたんけど、『FANTASY CLUB』を作るちょっと前に……てかそもそも『First Album (tofubeatsの1st)』も宇多田ヒカルの変遷を見て、ショックを受けすぎて、俺なんてしょせん何番煎じだよみたいなことで、そういうおもしろフォーマットにしちゃったんよ、宇多田ヒカルのパクリみたいな。だから結構その時点くらいで、自分はド天才じゃない、歴史に名を刻む人物じゃないんやっていう事実をはっきり理解したの(笑)。ファースト、セカンドくらいで。で、『FANTASY CLUB』はそこを経たからできたっていう。自分は絶対歴史に関係ないっていう。絶対に天才の枠ではないって分かったからできたっていう、それはめっちゃあった。

柴田 - 宇多田氏がでかいんすね。

tofubeats - あと、30くらいすぎると、俗世と関係なくなるやん。ちょうど境目くらいやからわかんないかもしれないけど、今は全く気にしなくなったけど、20代前半の時とかはあった。あと同世代がいっぱいいて、自分だけデビューできなかったとかそういうのもあったんで、ルサンチマンが、バンドマンへの複雑な妬みがあるからさ。よくないよ(笑)。

柴田 - はい(笑)。

西山 - 柴田くんはそういう憧れとかない人やと思うんですけど僕は結構人並みに、めちゃくちゃ伝説みたいな人ってすげえな、かっこいいなって思うんですよね。けど今となっては、僕も自分のアーカイブをどれだけ残せるかみたいな。カタログをどれだけ残せるかのほうが興味がありますね。しかもそれ、たぶん80とかになって生きてて、サブスクとかが存在している時に、SpotifyとかApple Musicとかを見て、100枚とかシングル、アルバムがあったらヤバイじゃないですか。それを見て、これ何歳の時に作ったやつやな、っていうのを見返したいなというか。見返したらめっちゃ面白いやろうなっていうのはあって。めっちゃでかい日記みたいな感じで。自分もやっぱり伝説になれる才能じゃないので(笑)。

tofubeats - やっぱり音楽をやっている以上、ちょっとだけ伝説になりたいって気持ちをみんな抱いているんやっていうことがわかったのは良かったよ、今日。

CE$ - 評価されたいって気持ちは当然みんな多少なりともあるやろうし。tofubeatsも、パソコン音楽クラブも、それを見て、聴いて、音楽を始めようという子は絶対出てきているから。良いことだと思いますよ。でもやっている本人達からしたらあまりオススメはできないっていう(笑)。

柴田 - たぶん、俺らがtofuさんから一番影響受けたのは、多作。自分でクイックMIXで延々とつなげるじゃないですか。エグいなって(笑)。

tofubeats - 自分の曲で、苦なく一時間DJできるようになったときに、むっちゃ嬉しかったもん。

柴田 - あれみて、多作のやつが一番かっこいいに変わって。めっちゃでかいっすね。

CE$ - アーティストがそれぞれ持つ側面って、アルバムだけで出し切れるのって一部分じゃないですか。他の楽曲提供だったり、リミックスとかプロデュースとかアレンジとかで出している側面もあるから。やっぱり自然と、そこに時間は必要になってくる。

tofubeats - あとさ、普通に人間って絶対怠け者やん。でも仕事を入れとけば曲をいっぱい作ることになるし、そうせんと、さすがに下手でもまあまあ上手くなるやろって。自分が怠け者やからやらせたい。

柴田 - 軸ちゃいますけど、今、暴力的なパフォーマンスより、多作のパワフルさの方が何か余計ヤバイなって。

tofubeats - 暴力的なパフォーマンスと作品数比べるのもなんか(笑)。

西山 - パワーがヤバいみたいなね。クロスロードで魂売って30で死ぬパターンの伝説の人に、中学の時とか憧れた気するんですけど、最近まったくないっすね。

CE$ - そこは中2的なね。俺も部屋にシドヴィシャスのポスターあったもん(笑)。

tofubeats - でもやっぱりさ、音楽とかやっていると、虹釜さんみたいな人がやっぱヤバいみたいなるよね。中原さんとか、永遠に週イチで出してるやんみたいなさ。あとHidenobu Itoさんとかさ。

西山 - bandcamp通知きすぎやろ、みたいな(笑)

tofubeats - 俺は最後はああいう人になりたいって思ってるから。

CE$ - 良い意味で、作るのがライフワークになっている人もいるからね。tofuもパソコンも、あんまり外部からの評価的な事を気にせず音楽を作りたい二組だと思いますよ。お金とか、有名になりたいとか、チヤホヤされたいとか、個人としては多少あっても、そこと音楽がリンクしていない人達だな、って。

tofubeats - でもまあ、お金のためにアルバム作ったら『See-Voice』なんてできんよね。

柴田 - できないっすね(笑)。

tofubeats - それは聞いていただいた方には確実に分かっていただけるかと。

CE$ - ああいうのが長く評価されて結果的に活動資金になればいいですね。

西山 - 人のことを楽しませようっていう目的で作った音楽が良くないと思ったことなくて、それのすばらしさもあるし、そういうのも全然作りたいなと僕は思っているので。一回『See-Voice』で自分らだけのためのものをやらせてもらったので、ここから切り替えるというのができるなーっというか。そういう意味でやれてよかったなって思ってるんですよね。今回のアルバム。

tofubeats - 2022年はどうなっていくんですか。パソコン音楽クラブは。

柴田 - まあ、楽しい音楽を作りたいですね。

西山 - そんな楽しくなさそうな(笑)。

tofubeats - 『See-Voice』も楽しかったよ。

柴田 - そうですか(笑)。

西山 - でも意味的に、元気出るなっていう内容ではないじゃないですか。

tofubeats - 勇気づけたいみたいなことがあるっていうこと?

西山 - 人励ましたいなとまでは思わないですけど、みんなでワッとなれたらいいなとは思っていて。ただコロナでライブできないのがどこまで続くのかわからないので、そことの乖離とかもまだまだ悩んでいるんですけど。ただ次は、『See-Voice 2』ではなくて、人の多い作品というか…

tofubeats - キャンプファイヤーみたいな。

柴田 - キャンプファイヤー(笑)。

西山 - あと僕昨日ファーストの『DREAM WALK』を聞いたんですよ、久しぶりに。すごい拙いアルバムなんですけど、音とかめっちゃ悪いし、ミックスとかも意味わかんないしって(笑)。でも、なんかめっちゃキラキラしてんなって思っちゃって。

tofubeats - ほう(笑)。

西山 - あと、あの時って、部活感みたいなのが今よりずっとあったよなって思って。パソコン音楽クラブって名前でやって、幽霊部員も含めていろんな人が参加してるみたいな。そういうノリが出てるなって。あの感じをもう一回やりたいなと思ったんです。

CE$ - tofuが『LOST DECADE』みたいなのを作りたくなったのも同じような理由かもしれないね。

tofubeats - ああ、次のがわりと『LOST DECADE』みたいなアルバムなので。

西山 - そうかもしんないですね。海とかではなくて、その成分みたいな。ファーストの。そういうところを見て、またやれたらなって。

tofubeats - 『LOST DECADE』みたいなことをやりたいんやけど、コンセプトはガリガリ『See-Voice』みたいなアルバムやから。

西山 - それもすごいですね。

柴田 - 数曲聴かせていただきましたけど。

西山 - 僕もKotetsuさんがライブでやってた曲を聴きました。本当に昔を思い出して、 神野さん(関西ソーカル主宰)もいて、なんかめちゃくちゃ楽しくなりますね。

tofubeats - 昔っぽい曲やもんね。

CE$ - まあ、基本的に音楽は楽しい方がいいっすもんね。

一同 -(笑)

tofubeats - ハードコアをやってる人が何いってんすか。

CE$ - ハードコアも楽しい側面あるから(笑)。ヒップホップもそうだけど、楽しいのが最優先であっても、それで良いというか。コンセプチュアルなものだけが音楽じゃないと思ってますから。

tofubeats - それでいうと、かなり少数派の方やと思うから。そういう意味では、コンセプトみたいなものに触れたことのない若い人とかにはある程度聞いてもらいたい作品ではあるよね。長いけど、長いからこれが面白いんだって、なかなか分かってもらうことが難しいやん。60分あることになんで意味があるのかってね。

CE$ - うん、今は一曲単位で考える事が多い状況だから、アルバム通してを聴くという行為は、昔はそんなに意識してなかったけど、今はそれが意味を持ってきている。それ自体が当然じゃなくなっているから。どっちが良いとかでも無いんだろうけど。クラブでも「一晩中ハウスで踊りきったやつにしかわからない!」みたいな、なんかそういうこと言う人いるやん。

tofubeats - ケンがあるなー(笑)。

CE$ - でも、アルバムってそれに近いっていうか、通して聞かへんかったら意味なくない?っていう部分はあると思いますよ。作る側からしたら、シャッフルで聞かれたら困りますっていう。勿論、聴き方は自由やけど、製作者は曲間の秒数とかも考えて作っているわけやから。そういう意味では、このご時世にアルバムを作って、CDやレコードを出すっていうのは意思表明だと思いますよ。

西山 - そうですね。CDはほんとうにそうです。

柴田 - 音楽めっちゃ悔しいなっていつも思うのが、ちょっと飛ばしても、何が鳴っていたかと頭で補完できるじゃないですか。映画とかって結構キツくないですか。数秒飛ばしたらストーリーがどんな接続やったやろうとか、マンガとか全然わかんなくなるっすけど。一小節とばしたとしても予想はつくじゃないですか。なんか悔しいなーって。時間芸術なのに意外と。

西山 - レコードやと飛ばしようなかったですもんね。飛ばせるけど、わざわざ針動かすのとか面倒くさいからそんなことしないっていうか。でもスクロールやったら一瞬やから。

CE$ - でも次は楽しいアルバムを作るんでしょ。

柴田 - そうっすねえ。

tofubeats - 今、次の足がかりはあるんですか?。

西山 - お互いいろいろ現場とかで聞いたりとかライブとかで作ったりとかで、アルバムとして表現してない分野めっちゃあるなって思って。

柴田 - 登場人物が多いとか。

西山 - ライブとかだと結構華やかな、みんな楽しいねみたいな、そういうのあんまやらずに、コロナのせいもあって、どんどんガチな感じに深みに入っていったので。何か一回そこをリセットしてもいいかみたいな、その部分はできるんじゃないかなとか思ってたり。あと最初の方でも言ったんですけど、機材もですね。

tofubeats - ついに。

西山 - 何か機材変えたいっていうよりは、自分らの年齢が上がっていくし、時代も変わっていくのに、ずっと同じ年代の機材だけ使ってますっていうのって、徐々に懐古趣味っぽくなってくるのも嫌と思っていて。好きなものは動かないんですけど、何かプラスアルファしていくのはアリやとは、今思っているので、自分らしさを失わないバランスみたいなのを探りたいなって思ってますね。

CE$ - もっと間口の広い音楽を作れるよね。そういう意識があるんだったら。

西山 - そうですね、そうなれたらいいなと思ってますね。柴田さんはどうなのかわからないですけど。

柴田 - (笑)。いや、KORGのTRITONも使おうと思ってます。

tofubeats - いいやんTRITON。俺は一番好きよ、シンセで。

西山 - また宇多田ヒカルの話やないですけど。

柴田 - ほんとだ(笑)。トイレにこうやっておいてね。

CE$ - 来年は紅白出るんでしょ。

西山 - (笑)。

柴田 - ……そうですね(笑)。

tofubeats - まあいい感じですかね。ありがとうございました。

Info

2022年4月23日(土)リリース
品番:PSCMLP004
形態:LP
価格:3,630円(税込)

https://pasoconongaku.lnk.to/see-voice

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