【ライブレポート】Daichi Yamamoto 「gr(l)owing season」 | 成長と目覚め。Daichi Yamamotoの輝かしい季節が到来
Daichi Yamamotoが「gr(l)owing season」と銘打ったワンマンライブを東京・恵比寿 LIQUIDROOMで4/1に開催した。同会場でのワンマンはキャリア初。チケットは早々に完売した。
取材・文 : 宮崎敬太
撮影 : Yuki Hori, Ryosuke Hoshina, Kazumasa Kawashima
開場するとフロアはすぐにファンで埋め尽くされる。スタッフが開演に向けて慌ただしく準備していると場内が暗転。バックDJのPhennel Kolianderと、トークボックスのKzyboostがステージに現れて、Daichiのモノローグ、金属音、Erykah Badu“Afro - Freestyle”をコラージュした“Prologue”がプレイされる。
1曲目は前作『WHITECUBE』のラストチューン“Testin”。フックから始まるこの曲を、今回からバンドメンバーに加わったコーラスの有坂美香とBobby Bellwood a.k.a. sauce81が歌う。ヴァースのパートでDaichiが登場。60~70年代のソウルシンガーを彷彿とさせるフレアパンツのスーツを纏い、ネクタイの上に着けた金のネックレスが照明で輝く。イメージチェンジが新しいシーズンの幕開けを感じさせる。2曲目はライブ当日配信されたばかりの新曲“EVERYDAY PEOPLE”。ドレッドヘアを切った理由、ルックスに対するコンプレックスを受け入れたDaichiの今が赤裸々に歌われる。メロディアスでエモーショナルなビートはJJJ。リリックにJJJ“HPN”からのライン「完全に想定外なLife/HPN」を潜ませ「誰のせいでもない神のせいたぶん」で踏むのがDaichiらしい。
DaichiはFNMNLの事前インタビューで「(これまで)ライブが中途半端なカラオケみたくなることに煮え切らない思いがあって」と前置きして、新編成は「一歩進んだなという感じはしてます」と話していた。その発言の意図が2曲目の段階で明らかになる。コーラス隊はヴォーカルパートの高音部と低音部を支える。しかも2人はクロスオーバーなクラブミュージックのシーンでキャリアを積んできたベテラン。Daichiが表現したいヴォーカル像とノリを完全に把握している。そこにKzyboostのトークボックスが絡むと、声ありのトラックに合わせて歌うだけでは表現しきれない、ライブならではの躍動感が生まれた。
スキット的な“Afro”を挟んで、ラップメインのナンバー“One Way”、“Simple”から、シークレットゲスト・BIMの“Celebration”へ。Daichiがゲスト参加したこの曲は、3月30日配信のEP『Because He's Kind』に収録されている。予期せぬゲストとほやほやの新曲披露に場内の温度が一気に上がる。Daichiが「兄貴」と慕うBIMのパフォーマンスは圧巻。「Daichi Yamamoto最高ーーーー」と絶叫してステージを去った。その流れのまま、Daichiが「600人の手が見たいです」と促した“Ajisai”では観客が一斉にハンズアップ。演者と観客がエネルギーを循環させ、増幅する。“Ajisai”のサンプリングネタを使ったスキット“You Are My Everything”では、Bobby Bellwood a.k.a. sauce81と有坂がフリースタイルでコーラスを表現した。
2人目のゲストにはSTUTSを招き“Cage Birds”へ。Daichiがヴォーカルを担当し、STUTSがラップする異色の楽曲。今回のライブではコーラス隊とKzyboostが加わることで、よりソウルフルにヴァージョンアップ。ライブらしいダイナミズムを感じさせた。grooveman Spotの変則的なビートの“Netsukikyu”、Kzyboostのトークボックスが響き渡るGファンクナンバー・“Wanna Ride”、複雑なベースラインに郷愁漂うメロディが沁みる“maybe”を歌い、ライブはクライマックスに向かう。
プロデューサー・KMの2ndアルバムでオープニングを飾った“MYPPL”、“Blueberry”といったダンスナンバーが続くなか人気曲“Ego”に突入する。1ヴァース目はDaichiのアカペラ。まずカホンのような音色のビートが加わり、次にハイハットのドリルビートが乗って、3人目のゲスト・JJJが登場する。ハードで緻密なラップは切れ味抜群。Daichiとのコンビネーションも抜群だ。しかも未発表の新曲も。Daichiが得意とするグライム。リリースはされるのか、楽しみは尽きない。
ここで初めてのMC。「リキッドでワンマンをやらせてもらって。タイトルの意味を話したいと思ってるんですが、その前にどうしても言いたいことがあって。Phennel Kolianderさんは普段八百屋として働いてて、Kzyboostさんもサラリーマンなんです。そんな2人と京都でリハしてたら、Phennelさんが『40にもなって、こうやってリキッドでライブできるのめっちゃありがたい。ってか嬉しいわ、普通に』って言ったんです。それを聞いて僕、すごく嬉しくなって。これっていろんな人を元気付ける話やなと思ったんです。仕事しながら好きなことやって、こうやってみんなで楽しくできてるって。僕はすごくパワーをもらったんで、(PhennelさんとKzyboostさんに)ありがとうございますと言いたいです」と話した。
続いてライブのタイトルに言及した。「『gr(l)owing season』は『growing(成長)』と『glowing(輝く)』にかかっています。最初は髪を切って、このままでいくつもりじゃなかったんですけど、鏡を見たら『アフロ、イケてるやん』と思ったんです。僕にはアフロに悲観的なイメージがあって。笑い者にされた過去があって、どうしてもカッコいいと思えなかったんです。でもこの間、ふと『いいな』と思った。その時、自分が成長したなと思いました。それって『glowing seasonやな』って。パズルがハマったので、ライブのタイトルにしました。これは個人的な話だけど、こういう話って誰にでもあるのかなと思ったんです。だから今日、ここでシェアしたかったです。あと、このタイトルにしようと思った時、僕と同じハーフの子がSNSで『ストレートパーマをかけてコンプレックスだった髪の毛がきれいになった』みたいなのを見かけたんです。別にストパーには賛成やし、僕も髪を金にしたこともあるけど、(こういうことって)考え方ひとつで変わるやんって。それを伝えたいと思いました」
そして「僕は『Revolution Will Not Be Televised(革命はテレビで放送されない)』という言葉が好きです。革命はテレビではなく頭の中から始まるんやって。そういう曲をやりましょう」と“Paradise”をプレイする。このMCの後にスピットされた「お前がお前でいれる場所さ」というメッセージはこれまで以上に力強く響いた。メンバー紹介の後にDaichiの名を広めたグライムナンバー“Let it Be”。最後のゲスト・KID FRESINOが登場。弾けるようなラップを透き通る声で叩きつける。KID FRESINOの「どっかのClubでTimeを持て余してるはず“Daichi”」というラインから、Daichiが「そう“第一に”ルールは気にしねえってこと」とリレーしたパートは鳥肌が立つ瞬間だった。
合唱できないご時世のため、アウトロでは自身のライブ音源を使う演出をした。そのまま3月にリリースした“No Reason”でライブの幕を閉じた。最後に、オープニングのモノローグの翻訳を載せて、このレポートも締めくくる。
・-Intro- “Prologue”翻訳
歯ブラシを見て こんなことは言わないでしょう
「私ってすごい!」
でも、身嗜みの道具のアフロピックを見ると
それは潜在意識に働いて 本当に誇りを感じて
「すごい」って思うんです
アメリカでの黒人の髪型は
規制されていたように思います
昔黒人は髪をパーマ剤などで
ストレートにするものだと思われていました
健康であることより目立たないことが優先でした
私が子供の時は
それはもう ただの櫛でした
しかし より見識を深め
起源やルーツや デザインの本当の意図
なぜ拳やらそういうものが
装飾に使われているかを 理解し 啓発されたとき―
目覚めたんです
Info
「gr(l)owing season」セットリスト
-Intro- “Prologue”
01. Testin
02. EVERYDAY PEOPLE
-Skit- Afro
03. One Way
04. Simple
05. Celebration feat. BIM
06. Ajisai
-Skit- “You Are My Everything”
07. Cage Birds feat. STUTS
08. Netsukikyu
09. Wanna Ride
10. maybe
11. MYPPL
12. Blueberry
13. Ego feat. JJJ
14. 新曲 feat. JJJ
15. Paradise
16. Let it Be feat. KID FRESINO
17. No Reason