【インタビュー】HEAVEN『AiR』|作り続けることで生まれるムード

関西を拠点に活動するRY0N4、Lil Soft Tennis、aryyの三人からなるコレクティブHEAVEN。それぞれがソロとして精力的に活動しユースから大きな支持を集める中、満を持してHEAVENとしての1stミックステープ『AiR』がリリースされた。

ピュアな多幸感とアクチュアルな同時代性を持ちながら、同時に彼らの間に流れる空気感が色濃く反映された作品となった『AiR』。このインタビューは、そんな同作を作り上げた三人の出会いや日常、制作を続ける日々の中で感じたことについて話を訊いたものである。内省的でありながら開放的な彼らのムードには、未来に繋がるヒントが隠されているはずだ。

取材・構成:山本輝洋

撮影:寺沢美遊

「三人でとにかく曲を作ってる」

- 三人でのインタビューは初めてですよね。今回は普段の雰囲気や過ごし方だったり、それが作品にどう繋がっているのかも伺っていければと思います。まずは出会いをお訊きしたいのですが、どういうきっかけだったんでしょうか?

RY0N4 - 俺がたまたまTwitterで、Lil Soft TennisのLil Yachtyのカバー音源を見つけて。結構ライブハウスでもライブしてるみたいだったし、関西にそういう感じのノリが全く無かったから面白そうやなと思って声かけて、そのままスタジオに入ることになった。当時ロンドンにいたaryyは、Lil Soft Tennisと元々仲が良くて、aryyが帰ってきた時に紹介してくれました。その時にスタジオ入ったんですよ。そこから週に一回ぐらいはスタジオに集まってますね。

Lil Soft Tennis - 最初はピアノ生演奏のジャズカフェみたいなところで喋りましたよね。

RY0N4 - ......えっ?

aryy - そんなとこ関西に一個も無いって。東京だけやろ。

Lil Soft Tennis - 誰かピアノ弾いて歌ってましたよね。

RY0N4 - ジャズカフェ?ほんまに?GROWLYじゃない?

aryy - そんなわけない(笑)。

Lil Soft Tennis - GROWLYで会って、その後ジャズカフェ行ったじゃないですか。なんで俺が間違ってる感じに......(笑)。

 - 証言が一致しないですね(笑)。

Lil Soft Tennis - 「ジャズカフェ連れていってくれんねや」って思ったもん。大阪ですよ。

RY0N4 - 今度一回行こうよ。

Lil Soft Tennis - なんでまた行くんですか(笑)。

 - そういった感じで繋がった三人が、HEAVENという形でクルーとしてまとまったのはどういう経緯が?

RY0N4 - 別に「やろう」と思ってまとまった感じじゃないんですよね。元々俺が『HEAVEN』ってイベントを定期的にやってて、もう少しイベントだけじゃなくて曲作ったり、映像作ったり、思いついたことをやりたかった。そのためにはクルーがいいなと思って。当時、僕バンドやってたんですけど、周りのバンドマンでクルーとかやってる人はあんまりおらんくて、でもLil Soft Tennisは俺が求めてた感じのノリがあったから、そこから今に至ります。

 - 現時点でHEAVENを構成するメンバーは何人になるんでしょうか?

RY0N4 - 俺の考え方としては、一緒にやってHEAVENのノリが共有できてればその時はHEAVENのメンバーだと思ってる。だから今回『AiR』に入ってた人らもそういう感じかな。

aryy - 三人は毎週集まってるから、そこに人が入ったりした時に「ああ、HEAVENってこういう感じでやってるんや」っていうのを汲み取ってもらって曲を作ってます。

RY0N4 - 俺らだけで「これやりたい」みたいな感じじゃないですね。あと三人以外でガッツリ入ってもらったのは、Age Factoryのベースのnerdwitchkomugichanくらいかな。トラック作ってもらったりしてる。

 - 今回収録されている楽曲は、ソロの楽曲以上にこの三人の普段の空気感やバイブスがダイレクトに出ているというか、そうした部分が曲に直結しているような印象を受けました。普段三人ではどのように過ごしているんでしょうか?

aryy - Lil Soft Tennisは基本うろうろしてるっすね。

Lil Soft Tennis - aryyくんと俺は......何してるやろ。

aryy - 山とか行ってるね。やることないから(笑)。

Lil Soft Tennis - セカスト行ったり山行ったり、空気吸ったり、後は曲作ったり。結局曲作って遊ぶのが一番楽しいからな。

aryy - 集まったら最終的には曲作る感じになりますね。

RY0N4 - 「遊ぼう」ってなっても結局曲作ってるよな。

 - 一番楽しいのは曲を作ること?

RY0N4 - それはそうやんな。やらなあかんことあっても一生曲作ってる(笑)。「一時間でもやろう」って。

Lil Soft Tennis - 山行っても、最後は家に帰って曲作れるぐらいのタイムテーブルで考えるもんな。

aryy - 日が落ちる前に帰って(笑)。

Lil Soft Tennis - 良い曲出来たらブチ上がるからな。

ムードを共有しているからラフに作れる

 - 今回HEAVENの作品という形で『AiR』を制作することになったきっかけは?

Lil Soft Tennis - 最初は軽いミックステープのつもりだった。いつも一緒に曲は作ってるから、それを適当にリリースする形としてミックステープがいいかなと思って、でもやっていくうちにアルバムっぽいバランスを考えるようになって、いまの形になりました。

 - 制作において、三人での作業はどんな感じなんですか?

Lil Soft Tennis - RY0N4くんがイメージみたいなことを結構言うよな。俺はそんなに無いけど(笑)。そのイメージを、俺が手を動かして、みんなで曲にしていくような。

RY0N4 - なんとなくやけど、俺はミクステを作っている時に「誰かがトラックを作って誰かが歌う」っていう風にパートを分けるんじゃなくて、思いついた人がやったらいいかなって。だからイメージを言うようにしてるっすね。

 - クレジットを見ると、RY0N4さんだけの記載になっている場合もあれば、Lil Soft Tennisさんとaryyさんになっている場合もあって。その都度誰かがイニシアチブを取る形で進んでいくんでしょうか?

RY0N4 - 基本的に作るのはみんなでやってますね。最後に「これは誰かが作ったやつよな」っていうのが分かってくる感じで。俺って書いてあるけどほぼLil Soft Tennisが作った曲もある。

aryy - メインの、核になるアイデア次第ですね。

Lil Soft Tennis - 一人でクレジットされてる曲でも、絶対に全員のアイデアが入ってますね。

 - なるほど。例えば「この曲はこの人の色が強いな」と感じる曲などはあるのでしょうか?

Lil Soft Tennis - “pnks”は俺が作ったけど、RY0N4さん用みたいなところがある。

RY0N4 - “BOLT”もミクステとか考える前からaryyとLil Soft Tennisが勝手に作った状態で出来ていて。俺は全く何もしていないんで、基本aryyとLil Soft Tennisのバイブスですね。

 - みなさんはソロでも精力的に活動していて、しかもその中でお互いの作品に行き来していますが、ソロ名義の楽曲と、今回収録された楽曲を制作する上での感覚の違いはどんなものだったんでしょうか?

aryy - 自分たちの中では明確に「HEAVENのムード」があるから、「HEAVENのムードで作ろう」ってことで出来た曲はHEAVENの曲になりますね。

RY0N4 - 俺的には今回のミクステは明確なコンセプトというよりも、どうやったら三人で良いものを作れるかなみたいな感じで作ったんで、ソロとクルーの意識を切り替えなくても、一人で作ってる感じにはならなかったです。コンセプト、トラック、歌、ラップを行ったり来たりしながらラフな雰囲気で作るクルーって日本には意外と少ないんじゃないかなと思いますね。

 - 確かに、全員が歌やラップからトラックメイクまでを担当するクルーは少ないですよね。

RY0N4 - だから、遊び的な感覚に近い。バンドとかグループってよりは、ラッパーが友達と集まってタイプビートで曲作る楽しさの延長線上みたいな気持ちでやっているかもしれないです。

 - 『AiR』を通して聴いていると、前半はオルタナティブロックやエモ的な要素が強い楽曲が入っていて、中盤はノイジーかつハードなテイスト、後半はエレクトロニックで多幸感のある雰囲気の曲になるという構成になっているように感じて。それらの楽曲ごとのムードの違いが、その時々の三人の気分を反映したものなのかどうかが気になりました。

Lil Soft Tennis - 俺はそうやな。基本気分やな。

RY0N4 - そうなんや。気持ちでトラックのテイスト変わってる?「今日はちょっと激しいのやりたいな」みたいな。

Lil Soft Tennis - そうですね。気分が一番大事やから、それは凄く尊重してますね。”pnks”とかは特に気分で作った。

RY0N4 - 俺は年長やから、気分だけではやらない(笑)。

aryy - 年長って(笑)。俺らは結構気分ですね。

RY0N4 - “pnks”とかも「こんなん作ろうや」みたいに言ったけど、Lil Soft Tennisは一回パソコン触り出したらあんまり返事返ってこなくて。ほっといたら良い感じになってるから。何回もやってるから、言わんでも「これやな」みたいなことが伝わるんですよね。擬音とかで伝わる。

 - フィーリングが完全に共有されるんですね。

Lil Soft Tennis - 良い意味で空気読んだら良い曲が普通に出来るような感じですね。

RY0N4 - 『AiR』作ってる時も、後半の方クソ楽しくなかった?前半も楽しかったけど。“pnks”みたいな激しいオルタナっぽい曲は後半に出来た曲なんですよね。曲を作っていくうちに「もうちょっと色々出来んな」みたいな感じになって。

aryy - そういう意味では、“AiR”が出来たタイミングが折り返しになった。

Lil Soft Tennis - “2200s”とかも“AiR”が出来てから出来た。

RY0N4 - “2200s”とか、俺三時間ぐらい考えてたもんな。「どんなの作ろうか」って。そこが俺とLil Soft Tennisの大きな違いなんじゃない?(笑)。

Lil Soft Tennis - 推敲するの嫌いなんですよね。RY0N4くんは好きやからな。

RY0N4 - めっちゃダルそうやったっすね(笑)。

Lil Soft Tennis - なんか変な気持ちになるから人が待ってるの見るの嫌なんですよ(笑)。全然リスペクトできるからいいけど。そういう意味でいうと性格のバランスも良いと思いますよ。

 - 聴いていると三人の中でちゃんと役割があるというか。RY0N4さんが最終的なディレクション的なところを担うことも多いですか?

RY0N4 - いや、そんなことも無いと思う。「ここは絶対こうしたい」ってところは、お互いが勝手にやってくれるから。俺もあんまり責任感とかは無いし、思うことは全部言うけど、最後はそれぞれがベストな感じでやってもらえればって思っていますね。

 - 曲のムードの変化に関しては、その時期に聴いていた楽曲のムードにインスパイアされた部分もありますか?

Lil Soft Tennis - めっちゃあると思います。

 - それぞれ『AiR』の制作期間中に一番聴いていたアーティストや作品などがあれば教えて頂きたいです。

Lil Soft Tennis - 何聴いてたっけ?俺はNumber Girlずっと聴いてたけど。

RY0N4 - スーパーカーとか聴いてなかった?ART-SCHOOLとか。

Lil Soft Tennis - それは聴いてましたね。

RY0N4 - でも、本来みんなが聴いてるような音楽とプラスでそういうのも聴いてるのが『AiR』な感じかな。

Lil Soft Tennis - Gunnaの『WUNNA』も聴いてました。後は、A$AP Mobとか。Rockyの『TESTING』はめっちゃ聴いてましたね。

RY0N4 - 俺は普通に『Bedroom Rockstar Confused』聴いてた。Lil Soft Tennisの新しい曲は500回ぐらい聴きました。

aryy - お互いの曲も結構聴いてるかもしれないです(笑)。

RY0N4 - 制作中におすすめし合った曲は結構重要かも。「こういう感じでおすすめしてきたんだ」とかも考えたりしますね。「意図があっておすすめして来てるんちゃうかな」みたいな。

aryy - 「これRY0N4くん好きそう」とか。

RY0N4 - で、結局「曲作ろか」みたいな。

 - 良い流れですね(笑)。お互いの曲もよく聴かれるとのことですが、「この人のこういう部分に自分は影響を受けたな」と互いに感じることはありますか?

Lil Soft Tennis - あるんじゃない?

aryy - 俺は前のEPとかは、元々英語で作ってて。日本語でしっかりリリックを書くのは初めてだったので、歌詞を書く面ではこの二人の作品からの影響が一番大きいですね。一緒に作ってるのも見てたし。

RY0N4 - それで言ったら、俺がAge Factoryのリリック書いてるんですけど、それ結構聴いてた?

aryy - うん。『EVERYNIGHT』とか。

Lil Soft Tennis - RY0N4くんの歌詞は常々影響受けるし似てきてると思います(笑)。でも、普通に「歌詞あと一行考えてください」って考えてもらったりもしたし。

aryy - それ全然採用するし。

Lil Soft Tennis - 他の人の歌詞を考えるとかは普通にありますね。結果的にそれが詩的な世界観の共有にも繋がってるし、HEAVENとしての音像にも影響してると思う。

RY0N4 - Lil Soft Tennisの曲や歌詞を初めて聴いた時に、俺がHEAVENでやりたかったことのイメージを感じたんですよね。やってることがヒップホップでもないしロックでもないし、歌詞は難しいけど内省的な感じがするから。そこから始まってるから、お互いの信頼というか、イメージはいつも近いっすね。

フィーチャリングとフリースタイル

 - そうしたイメージを共有する中で、今回は客演にSATOHのLINNAさんやJUMADIBAさん、またcHinyuさん、rirugiliyangugiliさん、wood pure luvheartさんが参加されています。例えばLINNAさんとJUMADIBAさんが参加している“AQUA”はnerdwitchkomugichanさんによるメロディアスなアフロビート的なトラックが面白い楽曲だなと感じたんですが、あの曲はどのようなきっかけで制作されたんでしょうか?

Lil Soft Tennis - あの曲一番良い感じやったな。

aryy - 確かに(笑)。JUMADIBAとLINNAくんが大阪に遊びに来てて、「一旦集まって遊ぼう」みたいな感じでRY0N4くんの家に行ったんです。

RY0N4 - 基本的に集まったら俺が一言目には「曲作ろう」って言うから(笑)。「一回作ってみよう」みたいな。

aryy - 最初はLil Soft Tennisがいなくて。

Lil Soft Tennis - 『RASEN』の収録で東京行ってたんです。

RY0N4 - 「Lil Soft Tennis来たかったやろな」ってみんなで言ってたら、「今から行くっすわ!」とか言って新幹線で来て(笑)。リアルに五分ぐらいで書いて録ったやつそのまま使ってるよな。全てがめちゃくちゃ速かった。

Lil Soft Tennis - うん。速かったよね。バリ速い。

RY0N4 - あの時一番ラッパーしてたんちゃう?

Lil Soft Tennis - 今年入ってからずっとフリースタイル練習してて。練習の成果が(笑)。

 - 他にもフリースタイル的な感じで録れた曲はありますか?

Lil Soft Tennis - “AiR”もそうやし、紙に書いて練ったのは“Over”ぐらいかな。他の曲はほんまにフリースタイルやった。

RY0N4 - 俺らはトラック作りながら録り続けるから、何回も録るし、「この時良かったな」っていうものを残しておくこともあるんですよね。

aryy - 確かに。それ結構多いですね。

RY0N4 - 家で録ったやつでも、良い感じやったらそのまま使うことも全然あるし。作品を通してそのラフな感じが出てるのがデカい気がしますね。

 - なるほど。JUMADIBAさんは次の“pick up fast”にも参加していますね。

Lil Soft Tennis - “pick up fast”は、もともと自分のヴァースが出来てて。「JUMADIBAとかやってくれたら面白いかな」と思ってた時にたまたま『PURE 2000』で初めて会って、喋って「帰ったら送るわ」みたいなことで送ったら返って来ました。でも、あの時はまだそんなに仲良くないな。

RY0N4 - あの時よくJUMADIBAの話してたな。

Lil Soft Tennis - そうそう、ちょうどJUMADIBAの話してて。そしたらほんまにおったから話しかけようと思って、友達になりました。

RY0N4 - だから、“pick up fast”もかなり初期の曲ですね。

 - JUMADIBAさんも含めて、今回客演に参加している方々は『AiR』の制作にあたって呼んだわけではなくて、仲良くなる中で自然と曲を作っていったんですね。今回参加しているアーティストに共通しているポイントというか、「こういう部分があるから仲良くなれた」と感じる部分はありますか?

Lil Soft Tennis - やっぱり薄ら暗いというか......(笑)。

aryy - ちょっと影のある感じですよね。

Lil Soft Tennis - そういうトーンの歌詞が書ける人であることは共通していると思います。

RY0N4 - 今回の作品に参加してくれた人って、この作品のために選んだり声かけたわけじゃなくて、普段から仲良くしてる「この人面白いことやってるな」って人と曲を作ってたら出来上がったって感じだから、性格とかノリが合う人しかいないっすね。

 - ちなみに、まだ曲を一緒に作ったことがないアーティストの中で、これからコラボしたいと思う人はいますか?

RY0N4 - 俺は誰とでもパッと曲作れる感じじゃないんですよね。ラッパーみたいにスタジオに集まって作るスタイルじゃないから。だいたいみんな何回も会って遊んだりして、かなり時間をかけて関係を構築した上で曲を作るから、いわゆるコラボみたいなのは苦手かもしれないですね。

aryy - そういう意味では、やりたい人とはもう曲作ってるかもしれないですね。出す出さないは置いておいて。だから、あんまりこの人とやりたいみたいなのが今はないかな。今回の作品で大体一周やり終わったかな(笑)。

Lil Soft Tennis - James Ivyとかとやりたいわ。他にはJUBEEさんとか。後はE.O.Uじゃない?E.O.Uやらなあかんな。

aryy - E.O.U.は確かに。結構HEAVEN持ってるよな。元々知り合いだったわけじゃないけど、『AiR』が出来るぐらいの頃に遊んで、一通り聴いてもらったんですよ。俺らが作った『AiR』のムードを持ってる人やと思って結構感動しましたね。

ドメスティックなものを探究する

 - そのムードって、改めて言語化するとどんなものでしょうか?

Lil Soft Tennis - 「きらめき」ちゃう?(笑)。

RY0N4 - やっぱ俺らの曲の雰囲気ってあるよな。あれなんなんやろな。

Lil Soft Tennis - 迸ってる感じ?

RY0N4 - 一言だと表しづらいな。でもとにかくめっちゃナチュラルな感じですね。

aryy - 特に言語化してないのに、自然にやっててああなるのが不思議やわ。

RY0N4 - 自分たちのMVの感じとかも、海外含めて他には無い感じだと思ってて。自分らが日本に住んでて、普通に生活する中で感じてることを、DTMとかMVとかを自分らで作るって作業を通して形にしたのが『AiR』のムードだから、一つの言葉とか文じゃ表せないかも。

Lil Soft Tennis - 確かに、ドメスティックなものは凄く意識して作りましたね。めっちゃ日本の映画も観たし、日本の音楽もめちゃめちゃ聴いた。そういうムードは詰め込まれてると思います。

aryy - それも奈良っぽさみたいなところがちょっとある。

 - ちなみに、日本の映画を沢山観たとのことですが、どんな作品を観られたんでしょうか?

Lil Soft Tennis - 『仁義なき戦い』とか観たりしました(笑)。

aryy - めっちゃ面白かったわ。

RY0N4 - 何が反映されてああなったん?(笑)。

Lil Soft Tennis - 『青い春』とかも観たし。

RY0N4 - 俺はLil Soft Tennisに言われて『あの夏、いちばん静かな海。』観た。

aryy - 後は、最近岩井俊二の話してない?

Lil Soft Tennis - 岩井俊二めっちゃ観たな。

RY0N4 - 今のご時世やし、曲作ったら基本MVとか出すじゃないですか。色んな映像手段があると思うけど、俺らは日本人やし、それで出せる味が日本の映画にはあるし。そういうのは吸収したいなって気持ちで観てましたね。

Lil Soft Tennis - マジな話、90年代とか2000年代前半の日本のものはめっちゃ素晴らしいと思うけど、ほんまに問題点がめちゃくちゃ多いよな。そういうのはよく考えてて、それを超えたいなって。リバイバルもしたいけど、単に真似するんじゃなくてクリアした状態で今のものを作りたいって気持ちが強い。

 - その問題点は、みなさんにとってどんな部分でしょうか?

Lil Soft Tennis - 一言で言うと「グランジ」じゃない?「グランジ」より「パンク」の方が、先に進もうとしてるから今っぽいよな。

aryy - 90年代のものって「破壊」みたいなノリが多いけど、「破壊した後にどうするか」ってことはあんまり無いから。

Lil Soft Tennis - それが今一番思ってることの一つで、HEAVENのミックステープにも大きく表れてると個人的には思いますね。

 - あの時代特有の終末感みたいなものもありつつ、その単なるリバイバルに留まらず、先を見据えた表現を求めているということですね。

Lil Soft Tennis - その先みたいなものが気になるから作ってるって感じですね。探究心みたいな。

RY0N4 - その感じめちゃめちゃある。作った後も満足感とか「よっしゃ!」みたいな感じよりも「あ、こうなったんや」みたいな感覚がありました。

Lil Soft Tennis - 自分の中でどこまでがアリで、どこからがナシなのかが作ってみないと分からないから。だから完成した後が楽しかったです。

 - 出来てから初めてご自身たちでも発見した部分があったんですね。

RY0N4 - 俺らは作った後にリアレンジとかもめちゃくちゃしたから。「こうやったんやったら、この曲はもう少しこんな感じかな」ってことを結構やりましたね。

ピュアなだけじゃいられない

 - 話を過去から現在に繋げていくと、三人はいわゆるヒップホップゲーム的なところとも距離を置きつつ、ロックのシーンとも異なる中間の部分にいると仰っていましたよね。そういうところから見て、例えば今の日本のシーンはどのように見えているんでしょうか?「みんなはこうだけど、俺たちはこうしたい」みたいな部分があれば教えて頂きたいです。

Lil Soft Tennis - マジで今日思ってたのは、自分たちのシーンって、まだスケールは小さいけど明確に見えてきて。その中からフォロワーみたいな子も出てきたけど、このシーンではフォローしているだけのプレイヤーよりヘッズの方がカッコいいと思う。俺らはもう現実に生きてなくて、情報ベースで生きてるから、情報だけ摂取しようと思ったら簡単だと思うんですよ。そんな中でちゃんとフィールして現場まで観に来てくれるバイブスの人って、ヒップホップとかと比べてまだまだ少ないと思う。だからもっと俺らがカッコいいことしてるところを見せて、そこをちゃんと伝えていきたいって自分は思います。

RY0N4 - 俺は、「ロックシーンともヒップホップシーンとも違う中間」ってラベリングされる自覚はもちろんありつつ、そう思われること自体をあまり好んでない。「中間」を意識する人らもいっぱいおるけど、俺らはそうじゃないっていう意味で『AiR』を作ったところもあります。この世に無いものを作るのって凄く難しいけど、俺らは俺らの音楽をやりたいっていう気持ちがあるから、俺らに対して「ミクスチャー」とか「トラップロック」みたいな区分はいらんやろと思っちゃうんですよ。実際そういうアーティストはいっぱいいると思うんですけど、みんな自分の音楽を自分で作る時代になってきてると思う。俺はめちゃくちゃヒップホップもロックも好きなんで、当然めちゃくちゃ影響受けてるけど、だからといって「間」ではない。早くそういう感覚が理解される時代が来て欲しいですね。

 - なるほど。

Lil Soft Tennis - ほんまにそうですね。マジで、自分のことちゃんと自分でやった方がいい。一生言ってるけど。

 - Lil Soft Tennisさんは特にそれを言っている印象がありますね。曲にもそのアティチュードが表れているというか。

Lil Soft Tennis - 俺らの音楽は、自分らが培った良い意味での常識というか、自分らの体を動かせる範囲にあって。そこにある音楽とか作品が俺は美しいなと思うから、逆にそうじゃないものに対して嫌悪感を持った方がいいと思うし、そこに嫌悪感を持つことで、自ずとそういう体の感覚になっていくと思う。HEAVENのミックステープでも、自分はそういう体の感覚で歌詞を書いたし、トラックも作ったから、そういうのが伝わったら良いなと思いますね。

RY0N4 - 多分みんな思ってると思うけど、タイプビートが一般的になったり、それぞれのジャンルのHow To動画とかが出てくることによってそこに囚われちゃうというか。もちろんそれが完全に良くないわけじゃないと思うんですけど、それは「自分たちの音楽」っていう話とは逆の方に向かっていくと思うから、俺らはその感覚で音楽やっていますね。

Lil Soft Tennis - そこを音楽で提示していきたいです。

 - みんなが自分の身の回りの感覚に従って、そこに由来する音楽をやっていったら良いなということでしょうか。

Lil Soft Tennis - 自分が好きな色とか、好きな食べ物とか、そういうものをちゃんと大事にするというか。そういうミックステープやったと思います。

RY0N4 - 音楽やってなくても、それが出来なかったら人生のピュアさは失われていくと思う。俺らもふと気がつくと自分の幸せのピュアさが濁る時あるし。

 - その「ピュアさ」って、今回の『AiR』においても一つのキーワードになってくるというか。ピュアなものを維持し続けたいという意志は凄く表れていると思いました。

RY0N4 - ありがとうございます。でも、同時にピュアであればいいってものでもないと思うんですよね。そのピュアさをどこに落とし込むかってことを考えた方がいいと思う。俺らが「間」のことをやってるって言われるのも、ロックのピュアでパンキッシュな部分と、ヒップホップの自分を強く見せる感じがあるからだと思うんですよ。ジャンルをミックスしてるからじゃなくて。

Lil Soft Tennis - だからこそヒップホップは馴染みがありますね。

RY0N4 - 単に「ピュアであればいい」みたいなのは絶対に違うと思う。そう思ってる人もめっちゃおると思うけど。

 - 最後に、その感覚が共通しているこの三人だからこそ、今後新たにやってみたいことなどはありますか?

RY0N4 - 俺は『AiR』出来た瞬間から次を作ろうって言ってましたね。「一人何曲作って、こんな感じに作ろや」みたいな感じで、めっちゃ具体的に言った(笑)。

 - 次のビジョンはもう具体的に見えてる?

RY0N4 - いや、出さんくてもいいから取り敢えず作りたいんですよ。俺は、正直作ってる時が楽しいだけなんですよね。それが無くなったら、別にやる意味も無いし。それで誰よりもマックス楽しい状態を維持出来たら、俺らはずっといい感じでいられると思う。「ここに向かおう」じゃなくて、「取り敢えずやろう」みたいな。それだけですね。だから、また早く曲作りたいですね。今も三人でいるし、全然曲作りたいですね。

aryy - 後は、バンドやりたい。

Lil Soft Tenni - バンドやりたいな。

RY0N4 - 普通にバンドセットでライブやりたいんですよ。それが出来たらめっちゃ理想的かもしれない。ほんまオルタナティブな感じになる気がする。パフォーマンスっていう意味でも、めっちゃラフに行き来したいですね。

Lil Soft Tennis - あとは一人一人がソロで大きくなって、集合して離散して集合するのを繰り返すような動き方がカッコいいと思います。

RY0N4 - 日常的にお互いの曲作り合うことはやると思うから、今までと変わらず作り続けたいし、この感覚を理解して、「俺らはこれ」って感じでやってくれる人が増えたらめちゃくちゃ理想的ですね。

 - ありがとうございました。

Info

◆商品情報

アーティスト:HEAVEN

タイトル:AiR

リリース日:2021年10月20日

https://linkco.re/QVqEXc8P

各種配信サービスにてリリース

◆トラックリスト

01. BOLT (HEAVEN, aryy, Lil Soft Tennis) 

02. EYE (HEAVEN, RY0N4, aryy, Lil Soft Tennis) 

03. Nebula (HEAVEN, aryy, Lil Soft Tennis, RY0N4) 

04. AQUA feat.RY0N4, JUMADIBA, LINNA FIGG,aryy, Lil Soft Tennis (HEAVEN)

05. Pick up fast feat.JUMADIBA (HEAVEN, Lil Soft Tennis)

06. 2200s (HEAVEN, Lil Soft Tennis, RY0N4)

07. pnks (HEAVEN, RY0N4,Lil Soft Tennis, aryy) 

08. #fastcloud feat.cHinyu (HEAVEN, aryy, Lil Soft Tennis)

09. Over feat.rirugiliyangugili & wood pure luvheart (HEAVEN, Lil Soft Tennis)

10. Beautiful (HEAVEN, Lil Soft Tennis, RY0N4) 

11. AiR (HEAVEN, RY0N4, Lil Soft Tennis, aryy) 

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