【インタビュー】16FLIP 『16GEMZ』| 常に最新の自分を更新していく

日本のヒップホップシーンの中で、ラッパーとしてもビートメイカー名義の16FLIPとしても作品をデリバリーし続けているアーティストといえばISSUGIの名前が浮かぶ人は多いはずだ。コロナ禍の2020年においてもBESとのダブルネームアルバム『Purple Ability』や、JJJ、5lackが参加しプロデュースはC.O.S.A.が行ったスペシャルなシングル"Bitter Dose"、様々な客演などで話題を届けてくれた。

2020年の最後にリリースされたのがISSUGIのアルバム『GEMZ』を16FLIPとしてリミックスした『16GEMZ』だ。これまでもSEEDAの名作『花と雨』をリミックスし、16FLIPとしての名前を世に知らしめた『Roots & Buds』に端を発し、BES、SHINOBI & EPICと続いたリミックスアルバムシリーズ。これまでとは違い自身の作品をリミックスするということや、今のビートメイカーとしてのスタンス、どのように自身の作品をアップデートしていくかなど、ビートメイクを軸にISSUGIのヒップホップに対しての考えを紐解いていく。

取材・構成 : 和田哲郎

撮影 : Cho Ongo

- 2020年を振り返ってみていかがでしたか?

16FLIP - 今までの世の中の感じとはどうしても変わっていたなと思うんですけど、BES & ISSUGIの『Purple Ability』を出したり16FLIP VS ISSUGI『16GEMZ』を出したり色々やっていたけど、やっぱりライブに行く機会とかは少なかったし、今までと違う時間の感覚の一年だったって感じですね。

 - 他の方にインタビューをした時、週末のイベントが無くなったことでずっと制作に集中出来るようになったと言っていて。そういうことはありましたか?

16FLIP - 俺は逆に、どこかにライブに行ったりDJしに行くってことが自分が音楽を産むサイクルだったってことに改めて気付かされたというか。ただ曲をずっと作っていても、その分自分が最高!と思える曲が沢山作れるのかって言われたら、自分はそうとは限らないなと思った部分があって。やっぱり人に会ったり、DJやったりライブをして、帰ってきて曲を作る。思い浮かぶ事があるとか。当たり前なんですけど、それが全て一個の流れだっていうのがあるなって思いました。

 - そこが思うように行かなかった。

16FLIP - そうですね。もっと遊びたいなって(笑)。でも友達が2020が最近だとISSUGIのリリース数1番多かったよと言ってました(笑)。

 - なるほど。今回は『16GEMZ』のインタビューということで、ビートメイカー(16FLIP)としての部分を中心に訊けたらと思うのですが、そもそもリミックスアルバムはオリジナルの『GEMZ』が出たときから既に構想されていたものだったんですか?

16FLIP - そこまで100%出そうとは思っていなかったんですけど、オリジナルの方が元のビートっていう意味で16FLIPが関わっている曲が少なかったんで、リミックスを出す時に全部自分でやったら面白いかなとなんとなく思っていた感じですね。

 - LAでセッションした時の音とかも結構使われているんですか?

16FLIP - LAで作ったのは自分のビートって感じで、あとは日本でリハのスタジオにバンドのメンバーと入ってる時に録音したリハ音源の中に自分で気に入っているフレーズがあって、そういうのから作ったビートもあるって感じですね。

 - そういうセッション音源からサンプリングするのはあまり無い経験だと思うんですけど、やっぱりレコードとかからサンプリングするのとは感覚的に違いますか?

16FLIP - 俺が思ったのは、自分のビートメイカーの意識の中ではセッションのフレーズは曲じゃなくてパーツって感じなんですよ。リハの時に、コードだけ決めて音を鳴らした時の3秒とか4秒なので、逆にスペシャルだなっていうか。誰もゲット出来ないものだから、そういうところに上がる。

 - “INTERLUDE”もセッションの音源ですよね?

16FLIP - そうですね。ここはリハの練習をしてる時に、家に帰ってリハ音源聴いたら、そこが超気に入っちゃって(笑)。自分の曲とかじゃなくて、「ヤベーじゃん、ここ」みたいになって。そんな風になってたのを覚えてますね。

 - リハの音源は結構長いものだったんですか?

16FLIP - リハは、普通にライブでやる曲とかを練習してたんですけど、その前の「この曲のコードなんだったっけ?」とかいって音を出してる時間とか、そういう感じだと思うんですよ。

 - それをずっと録ってたって感じだったんですね。

16FLIP - そうですね、残ってたって感じです。

 - ちなみに、ISSUGIさんはアルバム『EARR』は全曲自分でプロデュースしていますよね。全部ゼロから自分でプロデュースするのと、既に声があるものをリミックスするっていうのは、感覚的には違うものですよね?

16FLIP - そうですね。『EARR』はビートも全部作って、それに対して新しいリリックを書く感じだったので、どちらかというと1stの『Thursday』に1番近い感じだと思います。自分の中では、アカペラのデータが2ミックスになってる時点で俺の曲だけど、それが自分のアカペラじゃなくて他のアーティストのアカペラでも同じで。アカペラっていう1つの素材に見える部分もあるんで、それをどういう風に1番いい感じにするか、ってことを自然と考えてますね。

 - 自分の手から離れたもの、っていう感覚だと。

16FLIP - リミックスを作るってなるとビートメイカーとしての視点の方が強く入ってくるようなイメージかもしれないですね。

 - その上で、リミックスをするビートメイカーとしての視点から見て、自分のラップは客観的にどんなものですか?

16FLIP - 多分、オレより聴いてくれてる第三者の方がオレのグルーヴを感じられることもあると思うんで、、しかも客観的に見るの下手くそで。もしかしたらBuda君とか5lackの方が理解してるかも。だけど自分のビートと自分のラップの2つを組み合わせたときしか出ない感じや雰囲気っていうのは確実にあるなと思いますね。 自分のラップはどうなんだろうな......(笑)。分かんないっすね。 グルーヴを放つ側になっちゃうんで。前に、直線的だと言われた事がありますね。それでなるほどと思った。

 - これはこの作品に限らないんですが、リリースした後に自分の作品は聴きますか?

16FLIP - 全く聴かないわけじゃないんですけど、自分ではあんまり聴かないかもしれないですね。完成させるまで超聴いてるので、普段は他の人の作品の方が全然聴いてます。1曲単位とかはあるかも知れないんですけどリリースした後は、何年に一回かって感じかな、特にアルバム通してだと。今作ってる音楽の方に夢中ですね。凄く昔の自分の曲とかを聴くと、「ああ、この時こういう風にフロウしてたんだ。こういう事を考えていたんだ。」って思う点とかは結構あります。

- じゃあ、そういう意味でも違うものとして聴けるところもあるんですね。具体的に曲についても訊いていきたいんですけど、“ONE RIDDIM”はオリジナルもBudamunkさんの揺れてるビートというか。それをISSUGIさんなりに解釈して、ドラムパターンが面白い曲になっていますよね。どういう風に作っていったんですか?

16FLIP - オリジナルは元々ストックしてたBuda君のビートに演奏を重ねていってもらったんですよね。“ONE RIDDIM”は、結構リズムに癖のある曲だと捉えてもらえることが結構多くて嬉しいです。前から自分もリズムの刻み方が気に入ってたBudaビートだったので。リミックスに関してはスネアとかを置く位置がいつもとちょっと違ったりするから、それをフレッシュに感じてくれたのかもしれないですね。

- 置く位置とかは敢えてそうした感じですか?

16FLIP - “ONE RIDDIM”のオリジナルがああいう感じだったから、こっちもちょっとドラムとリズムを面白い感じにしたいと思ってたので。オリジナルもリミックスも癖のある曲に仕上げて"ONE RIDDIM"の位置づけはここだ!って感じだったぽいです、その時。

 - 『GEMZ』のオリジナルの方はトラックが全体的にキュっと締まってるというか、ミニマルな構成が多いですよね。例えば次の“NEW DISH”も、オリジナルは抑制されてるじゃないですか。それがリミックスバージョンはドンと鳴っているというか。

16FLIP - 確かに(笑)。“NEW DISH”のリミックスビートはLAで作ったもので、自分的には行った時のテンションが詰まってるので入れたくなりました。着いてその日に泊まってたところでバーっと作ったので、結構気に入ってるんですよね。

 - 前に別のインタビューでも、「大阪に行って作ると全然違う」と話していましたよね。行く場所によって影響はありますか?

16FLIP - そうですね。大阪は単純に好きだし、でも大阪に限らず行く先々でちがう良い影響いつも貰ってると思います。あとオレ単純なんで、楽しくて上がってる時は良いビートが作れると思ってるんで、そのタイミングを出来るだけ大事にしたいんですよね。ネタのレコード買う時とかもどのレコード聴いてもヤバい所見つけられるモードってあるんですよね。無敵みたいな。『GEMZ』のオリジナルを作ってる最中くらいにLAに遊びに行ったんですけど、やっぱ行って良かったなと思ってるし、その後のビートにも影響してると思います。"NEW DISH"リミックスみたいな、ああいうタイプのベースラインとかグルーヴとか昔からすきだからそういう要素も入って来たのかもしれませんね。MASS-HOLEもそう言ってくれてました!

- ブギーのような開放感がある感じは、“OLD SONG”のリミックスにも凄く感じて。あれはオリジナルのスイートな感じがリミックスでより引き立てられていて、16FLIPのトラックとして新しい感じがしたんですよね。

16FLIP - ありがとうございます。あれは、GQっていうビートメイカーが福岡にいて、Isaac Hayesの曲をGQが弾き直してくれたんですよね。「ISSUGIくんこれで何か作ってくださいよ」って感じで送ってきてくれて元々ネタ自体も凄く好きな曲だし、おーやるやるって感じで作ったら気に入ったビートが出来ました。キックひたすら裏でいってバウンスさせてるんで新鮮に感じてくれたのかもしれないですね。

 - 環境面というか、作る環境の変化もあったりしますか?

16FLIP - Ableton Liveを使うようになってから、プリセットで入ってる楽器をいじるようになって、もうちょっと展開とかをつけて遊ぶのが楽しくなったというか。昔は割とループで終わりになることが多くて、もちろんそのワンループの良さは今もわかってるんですけど、解った上で色々出来る方が面白いなと思って。ドラムとかも入ってるやつをあえて使ったり、使えるものは全部使って遊ぶような感覚でやってますね。

 - Abletonにより、シンプルにやりやすくなったっていう感じですか?

16FLIP - そうですね。7INCTREEの番組が始まる頃ぐらいにAbletonを触るようになって。それでやってる内に、技術を磨ける部分もあるなと思って。MPCで磨ける技術と、Abletonで磨ける技術って全然違うと思うので。最初はMPCで本当に感覚的なもっとノリっていうか、自分のスタイルを作ってくれた基本の土台って感じで、俺の中でAbletonはもうちょっと細かい技術をつけたり、自分の中で経験値を上げていくのに凄く役立ってくれてるなと思いますね。「これに楽器を重ねたらこうなる」とか、EQとかも色々あるんで。簡単に試せて、かつミラクルも起きるっていう。

 - なるほど。SpotifyにISSUGIさんが自分でプロデュースしたビートをまとめたプレイリストがありますよね。あれを聴いていると、近作の方が緻密さとか細かい音作りが増えているなと思って。その辺りもちょっと訊いてみたかったんですよね。

16FLIP - 俺もまだ全然使いこなせてないんですけどプリセットの楽器とか、他の出来る事とか結構莫大な量なんすよ、皆もちろん知ってると思うんですけど。(笑) プリセットの音源を使ったり、逆に自分が好きなドラムブレイクを家でレコードでさがしたり、その膨大な中から自分が好きな音をチョイスして色々試してますね。あとインストも結構つくったりするようになったから、そういうタイミングで展開の楽しさとか機材と合ったのかも知れないですね。

 - プラグインも買ったりしますか?

16FLIP - オレはまだ最初に入ってるやつとか使ってる段階ですね、あとは人に教えてもらったり。友達がドラムフィルくれたり。フリーサンプルも自分は全然使ってます。あと友達と「ドラム俺が打つから上ネタやってよ」みたいなことも、昔の時代よりクイックに出来るようになってますね。

 - リモートセッションみたいな。

16FLIP - 送り合って完成させるかんじですね。曲を一個仕上げるまでのスピード感とかは凄く上がったと思います。

 - スピード感があった方が気持ちいいですよね。

16FLIP - そうですね。特にヒップホップは、音楽的にもそういうのがあった方が気持ち良いと思ってます。

 - ちなみに、よくそういうやりとりをするビートメイカーの方は誰ですか?

16FLIP - SCRATCH NICEは今までに色々やってますね、ドラムのシーケンスだけ作ってもらって上ネタとベースはオレがいれて完成させるパターンとか何個かありますね。BES & ISSUGIの"SoundBowy Bullet"とか。Shinobi,Epic & Budamunkの"Mystic Arts Remix"とかはSCRATCH NICEが殆どやってたやつに、おれがベースとシンセを足したりかな。Buda君とはAPPI(Jazzy Sportが主催しているイベント『APPI JAZZY SPORT』)で毎回どっちかがドラムでどっちかが上ネタていうのを延々とやってましたね。サンプルデータはDJ SHOE、弗猫建物のVANYとか。自分が掘ってないゾーンに詳しい人に教えてもらったりですね。

 - 面白いですね。今回の“再生”の歌詞にも「数学で解けた答えは通過して」って部分がありましたが、これはトラックメイクとかについてのことなのかなと思って。

16FLIP - あー有難うございます。自分にとって音楽って、矛盾してても数学的な物にしたくなくてっていう部分があって。それはビートでもラップでもなんですけど。割り切れない感じが人間ぽくないですか? 昨日間違った方法だと思っていても、今日になったら「実はこれは正解じゃん」ってなったりするものだと思うんで。自分が作ってるものは、いつも感覚的なものでありたいなと思ってます。

 - ちなみに、BESさんのリミックスアルバム『The Definition of This Word』は曲順もガラッと変えていましたが、今回は基本的に忠実ですよね。でも“再生”だけ上の方に来ているのはどうしてですか?

16FLIP - いつも1枚の流れとかDJの感覚で曲順を並べていて、『16GEMZ』に関しても「"再生 REMIX"のあのビートはここに来た方がいいかな」って感じがあってそこにしました。

 - 『GEMZ』のオリジナル楽曲以外の過去曲はほとんど抜いていますが、Sick Teamの“踊狂”は入っていますよね。

16FLIP - “踊狂”は『GEMZ』のオリジナルに入ってるものも、ラップを録り直していて5lackのフックやバースの歌い方もオリジナルと変わっている所が凄く好きで。「このペラ使ってやばいリミックス作りたいな」と思ってたので入れました。

 - 『Sick Team』バージョンと『GEMZ』バージョンの良いとこ取りって感じもあるのかなと。

16FLIP - ありがとうございます。自分も超気に入ってます。“踊狂”は、リミックスが実はめちゃくちゃいっぱいある曲なんですよね。4曲かな? 全部違う良さあって好きですね。 『SickTeam II』に入ってるCazal Organismのもカッコいいです。

 - 後半に“OLD SONG”があって、このままスイートに終わるのかなと思ったら、今回のリミックスアルバムで一番驚いたのが“MISSION”で、全然オリジナルと雰囲気が変わってるというか。バンド感も無くなっていて、しかも新しいアプローチというか。ああいう無機質な感じは今までにあまり無かったですよね。

16FLIP - あれは自分でも一番異質だと思いますね。『GEMZ』のオリジナルの方がバンドの音を取り入れていて、ソウルフルな暖かい雰囲気のまとまり方だと思うんです。それもあってリミックスのサウンドはもっと王道のヒップホップ感だしたくて、王道というかベタベタなジャケとかも含めて。わざと808ドラムとか多めに使ってバンドの演奏から離れる感じを意識しました。そういう対比で一番離れてるのが“MISSION”だと思いますね。KOJOE君のゴリゴリの存在感とも合うと思ったし、だからそういう風に言ってもらえるのは凄く嬉しいです。あれが入ってるのと入ってないのでは、そういう印象がだいぶ違うと思います。

 - しかも、あれだけトラックが変わるとラップの聴こえ方も全然違うものになるというか。やっぱりオリジナルとのラップの聴かせ方の違いも、リミックスを作るにあたって意識しますか?

16FLIP - もちろん変わったら良いなとは思いますね。逆に聴いてハマらなかったら、「このビートじゃないな」って次のビートに変えると思うんで。大体トラックを作っていて「このラップが合うぽいな」とかいつも直感で思ったりするので合わせていくんですけど、オリジナルの聴こえ方と違う1面を引き出せたら成功したって感じですね。

 - リミックスアルバムの中で、自分にとって一番気に入ってるものはどれですか?

16FLIP - どれも気に入ってますね。難しいですけど、全部同じくらいです(笑)。一曲ずつ「よし、よし」と思って作っていました。

 - 昨年だとSEEDAさんの『花と雨』をリミックスした『Roots & Buds』もデジタルで配信されましたが、これはどうしてこのタイミングだったのでしょうか?

16FLIP - SEEDAくんと話して「このタイミングで出そう」ってことになって。『花と雨』のレコードの2LPもリリースされるタイミングだったし「今がいいんじゃない?」っていう話になったので出させてもらった感じですね。

 - 自分も凄く嬉しかったですね。やっぱりCDはずっとレアなままだったので。

16FLIP - 俺も嬉しかったっすね。だいぶ前の作品なんですけど、思い入れもあるし。レアな価値観も崩壊させたかったです、これで初めて聴く人もいるみたいなんでデジタルでリリースできて良かったなと思っています。たくさんの人に聴いて欲しいので。

 - 今聴いても凄く良いです。もちろんオリジナルのアルバムの力もありますし、グッとくる作品で。

16FLIP - ありがとうございます。元の作品も大好きですし、あの時めっちゃ気合入れて作ってましたね。

- 再リリースにあたって聴き返しましたか?

16FLIP - はい。さっき自分の作品はあんまり聴き返さないって言いましたけど、今回Remasteringしたしバッチリ聴きかえしました。

 - 当時とはビートメイカーとしても変化してると思いますが、今から見て当時の自分はどうですか?

16FLIP - めちゃくちゃなことしてんなって思う部分もあるし(笑)、色々思います。後半に入ってる“Live And Learn”も、確かSEEDAくんの1ヴァース目があってフックに入るまでに、ちょっとBPMが取れないような空間が何小節かあるんですよ。そこをBPMとかも気にしないで、ゴリゴリにサンプル並べて調整してフック始まるまで粘るっていうのやってたんですけど。その構成が今の自分だとあまり想像出来なくて。「凄いことやってんな」って、今考えると思いますね。「この時はこういう風にドラム打ってたんだ」っていうのもあるし、良い発見もたくさんあります。

 - なるほど。ちなみに『Roots & Buds』に入ってる“Just Another Day”はKID FRESINOのアルバム『Horseman's Scheme』にも入ってたり、他のアルバムにも入ってますよね。

16FLIP - そうですね、『Smokytown Callin』っていうインスト集にも入ってます。

 - 『Smokytown Callin』のコメント集に「あれは今の自分とは全然違うものだから入れた」と書いてあって。FRESINOのアルバムに入ったのはどういう経緯だったんですか?

16FLIP - 佐々木(KID FRESINO)があのアルバムを作ってる時に、何曲か佐々木に聴いてもらって。その中に“Just Another Day”のビートが入ってたかどうかはちょっと忘れたんですけど、佐々木が「あのビートを入れたい」って言ってくれて。それであれを使った感じですね。

 - レゲエのリディムっぽい考え方というか。

16FLIP - あのビートは音の鳴りや全体の締まりが、あの時自分が作ったビートの中でも良いですね。ビートを作り始めた頃は最終的な音の鳴りまでのコントロールが出来なかったので、めっちゃバチーンって鳴る時もあればちょっとバラってなっちゃう時もあってという感じで。あれは今聴いても、ドラムとか全体の混ざり具合とか詰まり具合が上手く行ってたビートだったなと思いますね。

 - だからこそ色んな人が使っても良い感じになると。

16FLIP - かもしれないですね。

 - やっぱりビートメイクは経験や環境がどんどん変化していくものだと思いますけど、日々作っていく上で細かく覚えることや身に付くことがあるようなイメージですか?

16FLIP - そうですね。やっぱり何事もやんなくなると絶対腕ってなまるとおもうので継続的にビート作って遊ぶのが、スキルをあげるコツだと思います。あとは使ってなかった機能とか新しい手法を試すとか、そういうのが一番自分にとって向上に繋がるような気がします。

 - ISSUGIさんは少しずつ色んな作品を進めていくスタイルですよね。ビートについても、一日の中でやる時間が決まっているような感じですか?

16FLIP - いや、決まってないですね。ビートに関してはやる日もあればやらない日もあるような感じで。でも一回いいビートできるとそこから毎日作りたくなって何日も連続でやることになります。ちょっと前に自分の中で流行ってたのが、1枚のLPレコードで一曲目から最後の曲まで全部使うってことをやってて。アルバムの全曲でその曲数分のビートを作るってことをやってて、それが超楽しくなっちゃって。「このアルバムの全部の曲で作ってやる」っていう気分で(笑)。全曲をヒップホップリミックスにする感じです。

 - もちろんブレイクとかがあるやつは抜きやすいと思いますけど、「これ抜きどころないぞ」みたいなやつもありますよね。

16FLIP - あるんですけど、でも悔しくて「これでもやりたいな」みたいになって(笑)。なんか一部分取って、Abletonの中に足せる素材が凄くあるから、そこからどんどん作っていって。“MISSION”のリミックスも「一枚プロジェクト」の中から選出されたっすね。それが一回ハマると面白いんですよ。だからそういうことをやってましたね(笑)。

 - それは1日1ビートって感じで作っていったんですか?

16FLIP - そのやり方で臨むと1日2、3ビートぐらいになって、3日ぐらいで終わらせて「次のLP行くか」みたいな(笑)。

 - これまでに何枚ぐらい試したんですか?

16FLIP - 5、6枚試しましたね。地方に行ってレコードを買ってきた時に、まずそれを全曲パソコンに入れて。データになった状態からどんどん作る感じですね。

 - それは凄い......。

16FLIP - 共通項が生まれるから、それが凄く楽しくて。同じアルバムから作った10曲なんでビートも一枚のアルバムみたいに共通点があるんですよ。だから勝手に、さっきも言ったけどそのアルバムの16FLIPリミックスみたいなノリになって。その中から「もしかしたらこれはMONJUっぽいかも」って思ったらMONJU用に一曲使ったり。まとまって出したりはまだしてないんですけど、そういうのも面白いかもしれないですね。

 - 1枚の作品だとミックスやマスタリングで統一感があるし、音の鳴りの共通項は出来ますよね。

16FLIP - そうなんですよ。しかも短い日数の間に作ってる方が、その時の自分の勢いが詰めやすいのかなと思いますね。

 - やっぱり色々な作り方をすることで変にルーティン化することから逃れられるようなところもあるんですか?

16FLIP - そうですね。ルーティンもいいんですけど自分が一番良いテンションでビートメイクに臨める瞬間こそが良いの作れると思います。すでにパソコンの中に「これでビートを作りたい」っていうネタがいっぱいありすぎるんですよね。人生で使い切らないでしょっていう数が。そんなこと言ってもどんどん新しいネタって欲しいし増えていくじゃないですか。それで「やべー、どれで作ろうかな」ってなった時に、一回その考えを捨てて「最近ゲットしたあのヤバかった一枚で全部作ろう」って感じになるのかもしれないですね(笑)。

 - 既にやりたいライブラリーが異常にあるんですね。

16FLIP - そうなんですよね。良い悩みですよね(笑)。

 - しかも今ならAbletonもあるし......。サンプルを使わないこともあるんですか?

16FLIP - ありますね。それこそAbletonになってからそういうことをやるようになりました。サンプリング無しでどんなものを作れるのか試してみたりして。それも面白いですね。

- これは結構キャリアを積んだ方によく訊くことなんですが、日々常に新しいやり方に向き合えるのは何故なんですか?

16FLIP - そうですね、ヒップホップは常に最新の自分を更新してく感覚が重要だと思うので、そういう気持ちっていうか。だから止まることは無いというか、止まったら終わりなんですよね。ヒップホップで昔は良かったとかなっちゃうの、本当にさみしいし。自分の今を生み出したいって感じです。だから作り続けるし、1番最新に作った自分の曲が1番やばいと思えるのが全てで。それの繰り返しですね。

 - ちなみに、2020年はTAMUさんの『Untitled』のリミックスもリリースしていましたよね。これはどういった経緯で?

16FLIP - TAMU君が2月に亡くなってるので、2月にTAMU君のラップ出したいなとずっと思ってたんですよね。ジャケットのTAMU君が書いた絵も凄く気に入ってて、2ndアルバムの『The Joint LP』のCDの中にも入れてるんですけど、それをジャケットにしたいと思ってました。やっぱTAMUのリリック今聴いても痛快で自分に響くものがあるんですよね。

- 2019年はGeorgia Anne Muldrowとの"Love it though"もリリースされていました。

16FLIP - あれはDJ YUZEさんとKAPさんに協力していただいて「Georgiaと曲作れる」って話になって、元々好きなアーティストだったので「だったら俺やってみたいです」って話になって、そこから進めていきました。ビートを送ったら結構すぐ声乗ったのが返ってきて、そのあとDevin Morrisonにシンセ入れてもらってさらにおれがエディットしてって感じで完成させた感じですね。

 - シンガーとの曲作りはいかがでしたか?

16FLIP - 普通にファンだったんで、歌のスキルもクオリティも「やっべー」みたいな。テンション上がりました。ちょうどその時『7INC TREE』でBudaくんとDevinと自分で曲を作ってて、Devinの弾くスキルが凄いなと思ってたので、「Devinだったらさらに良い感じにしてくれそう」と思って頼みました。

 - もっとシンガーのプロデュース楽曲も聴きたいなと。

16FLIP - やりたいっすね。ラップが乗って返ってくるのと違う刺激があります。

 - やってみたいシンガーなどはいますか?

16FLIP - 誰だろうな......パッと出てこないですね。ちょっとSpotify見ていいですか?(笑)。Georgiaとはまたやってみたいですね。あの曲は俺も凄く上手く行ったと思ってるんで。Joyce Wriceともやってみたいですね。そこら辺が合うんじゃないかって、勝手に思ってます。

 - Joyce Wriceは合いそうですね。

16FLIP - 良いですよね。

 - 既に今年決まっていることはあったりしますか?

16FLIP - ソロアルバムも出したいと思ってるし、もちろんMONJUのアルバムも出したいと思ってるっすね。今年も色々やりたいことがいっぱいあります。

 - ありがとうございました。

Info

アーティスト: 16FLIP VS ISSUGI
タイトル:  16GEMZ
レーベル: P-VINE, Inc. / Dogear Records
仕様: CD/デジタル
発売日:  2020年11月25日(水)
CD品番: PCD-22429
CD税抜販売価格: 2.200円

<TRACKLIST>
1. GEMZ INTRO REMIX
2. ONE RIDDIM REMIX
3. NEW DISH REMIX
4. FIVE ELEMENTS ft. OYG, Mr.PUG, 仙人掌 REMIX
5. 再生 REMIX
6. INTERLUDE
7. 踊狂 ft. 5lack REMIX
8. OLD SONG ft. DEVIN MORRISON REMIX
9. MISSION ft. KOJOE REMIX
10. GEMZ OUTRO REMIX
*All Songs Remixed by 16FLIP

TREES SHOPで『16GEMZ』のTシャツが販売中。カラーはブラックとホワイトの2色展開だ。

16FLIP VS ISSUGI - 16GEMZ Rap Tee
color : Black , White
size : M , L , XL , 2XL
price : 4950yen

RELATED

【インタビュー】5lack 『report』| やるべき事は自分で決める

5lackが今月6曲入りの新作『report』をリリースした。

【インタビュー】BES 『WILL OF STEEL』| 初期衝動を忘れずに

SCARSやSWANKY SWIPEのメンバーとしても知られ、常にアクティヴにヒップホップと向き合い、コンスタントに作品をリリースしてきたレジェンドラッパー、BES。

Time Out Cafeの15周年パーティーが3日間開催 | Campanella、C.O.S.A.、in-d、ISSUGI、Sound's Deli、BIM、tofubeatsなどが出演

恵比寿のTime Out Cafe & Dinerの15周年を祝い『Time Out Cafe 15th Anniversary party』が、4/19(金)~4/21(日)に開催される。

MOST POPULAR

【Interview】UKの鬼才The Bugが「俺の感情のピース」と語る新プロジェクト「Sirens」とは

The Bugとして知られるイギリス人アーティストKevin Martinは、これまで主にGod, Techno Animal, The Bug, King Midas Soundとして活動し、変化しながらも、他の誰にも真似できない自らの音楽を貫いてきた、UK及びヨーロッパの音楽界の重要人物である。彼が今回新プロジェクトのSirensという名のショーケースをスタートさせた。彼が「感情のピース」と表現するSirensはどういった音楽なのか、ロンドンでのライブの前日に話を聞いてみた。

【コラム】Childish Gambino - "This Is America" | アメリカからは逃げられない

Childish Gambinoの新曲"This is America"が、大きな話題になっている。『Atlanta』やこれまでもChildish Gambinoのミュージックビデオを多く手がけてきたヒロ・ムライが制作した、同曲のミュージックビデオは公開から3日ですでに3000万回再生を突破している。

WONKとThe Love ExperimentがチョイスするNYと日本の10曲

東京を拠点に活動するWONKと、NYのThe Love Experimentによる海を越えたコラボ作『BINARY』。11月にリリースされた同作を記念して、ツアーが1月8日(月・祝)にブルーノート東京、1月10日(水)にビルボードライブ大阪、そして1月11日(木)に名古屋ブルーノートにて行われる。