【日本と韓国 : 隣国で暮らしてみて Vol.5 】Omega Sapien
2000年代後半からのKポップブームや韓国映画などをきっかけに、文化的な距離は大きく縮まった日本と韓国。もはやブームではなく1つのカルチャーとしてKポップは完全に根付き、若年層は国内よりも気軽に韓国を旅行することも多くなり、それはまた逆もしかりで、コロナ禍の前までは両国の文化的な交流は、とても盛んだった。
そしてそれはアーティストにとっても同じくで、メジャー・インディー問わずまたDJなどでも両国のアーティストがパフォーマンスをするのは、ごく自然な光景になった。FNMNLでは、さらに一歩進んで、日本から韓国に渡りキャリアを積んだアーティストや、逆に日本で生活を営んでいる韓国のアーティストに話を訊くインタビューシリーズをスタート。それぞれが隣国での生活を選んだ理由を訊く。
5回目の今回はオルタナティブ・Kポップバンドを称する韓国のユニットBalming Tigerの中心人物Omega Sapienが登場。自分自身をより色濃く打ち出したというソロアルバム『Garlic』をリリースしたばかりのOmega Sapienは、日本の大学で留学生として過ごしていた時期があり、その時に知り合った気鋭の映像作家PENNACKYによるミュージックビデオも公開されている。
様々なジャンルを貪欲に取り込み、エッジーかつユーモアを感じさせる楽曲を作り続けるOmega Sapienのルーツを探る。
取材・構成:Erinam
- この企画では韓国と日本にゆかりのあるアーティストの方々にインタビューしています。早速ですが、Omega Sapienさんも日本に住んでいたことがあると聞きました。いつからいつまでお住まいだったのですか?
Omega Sapien - (日本語で)はい、日本に2年くらい住んでいました。2017年から2019年までで、去年の2月に韓国に戻ってきました。元々学校に通っていたんですけど、Balmin Tigerに所属してから、国を行ったり来たりしていました。でもあまりに忙しくなって学校を休学しました。なので今も休学生です。
- なんで日本の学校に行こうと思ったんですか?
Omega Sapien - 僕は中国やアメリカに住んでたんですが、その間、父は日本に住んでたんです。父と母は日本で出会ってます。父は元々日本で会社員だったし、母は日本語の博士号を取ろうとしてて。なので、父とはずっと一緒に暮らせてなかったんですが、高校を卒業して、アメリカは大学の学費が物凄い高いじゃないですか。だから、アメリカでもは長く暮らしたから違う国に住んでみたい気持ちもあって。だから、日本で父と暮らせたらって気持ちもあって、日本に行きました。
- アメリカはいつからいつまで?
Omega Sapien - アメリカは2012年から2017年度まで。中学と高校。
- 日本の生活はどうでしたか?
Omega Sapien - 日本の生活は凄くよかったです。コロナのせいで今は行けないんですけど、両親は今も日本に住んでいるので早く日本に行って家族に会いたいですね。
- 日本にいた時はどこでよく遊びましたか?
Omega Sapien - 六本木?(笑)。
- あ、六本木?クラブとかですか?
Omega Sapien - クラブにも行ったし、あとは歌舞伎町も行ったし。
- なんか、夜の街ですね(笑)。
Omega Sapien - うん、夜(笑)。昼間は公園に行くのが好きでした。渋谷の公園?代々木公園とかもあるし。
- 去年はBaticaとLIQUIDROOMでライブもしてますよね。次に日本でライブしてみたいところとかありますか?
Omega Sapien - FUJI ROCKでライブしてみたいです。FUJI ROCKにROOKIE A GO-GOというプログラムがあって、応募したんですが、その年はCHAIが選ばれました。CHAIはROOKIE A GO-GOでグローバルになった感じがします。僕も、いつかライブしてみたいですね。
- 一緒にやってみたいアーティストとかもいますか?
Omega Sapien - あいみょん氏!
- あいみょんさん!?すごい意外でした。ヒップホップアーティストではなく?
Omega Sapien - はい。あいみょんさん。大好きです。(日本語)
- なんであいみょんさんが好きなんですか?
Omega Sapien - 日本の女性アーティストって女性らしい方が多いじゃないですか。日本には「女子力」って言葉があったり。そういう女性らしさに対する部分をニュースでみてたんですが、あいみょんさんはスカートを履いてなかったり、ボーイッシュでかっこいいですよね。勿論顔も綺麗な方ですが、行動が「Kawaii」ではないように感じました。だから他の日本のアーティストとカラーが違うように感じて、歌もすごくいいし、クールだな、と。ファンです。(笑)
- 好きな曲は?
Omega Sapien - PennackyがMVを監督した曲があるんですが(編注:“朝陽”)、それが好きです。それをきっかけにあいみょんさんを知ったんです。
- Pennackyさんといえば、“Rich & Clear”、“Armadillo”の監督を務めていますね。彼とはどのような出会いで一緒に作業するようになったのでしょうか?
Omega Sapien - PennackyとはBalming Tigerに入る前に出会いました。日本に住んでいた時、初めてMVを出して、それが“Let's Go Beam”って作品です。
Pennackyがどうやってたどり着いたのか分かんないですけど、その曲の視聴数が1000~2000回を越えた時に私に連絡をくれました。「すごくかっこいい。MVを撮らせて」って。僕もちょうどMV監督が必要な時で、夜中にその連絡をもらったんだけど、翌朝連絡を見た後にPennackyの映像見てみたらかっこいいし、MVの為にその日すぐに曲を作りました。それが“Rich & Clear”です。Balming Tigerとして初めてアップした曲が'Rich & Clear'なんだけど、歌とMVはBalming Tigerに入る前からPennackyと作ってたものだったんです。リリースタイミングとBalming Tigerに入るタイミングが同時期だったので、Balming Tigerとしてリリースしました。
- “Armadillo”のロケ地も面白いです。あれはどこですか?
Omega Sapien - あ〜、場所はどこだか分からないんだけど、Pennackyがいつも撮影するとなると変なところに連れて行ってくれるんです。料理屋に行って撮ったりとか最高です、最高。
- 最近公開された“Happycore”も彼が監督ですよね。オンラインで話し合って進行したのでしょうか?顔が合成されてますよね?代理の人が出てきて面白かったです。
Omega Sapien - コロナだから、行ったり来たりできないじゃないですか。どうやって進行するか悩んで日本で緑の短髪にできる男性を探して、顔だけDeepfakeで変えようって。
- おお、大胆な方法ですね(笑)。よく見たら顔に違和感がありますね。
Omega Sapien - そう、Deepfake(笑)。
- 他にも日本のアーティストと一緒に作業していますね。“Ah! Ego”も『Garlic』も独特なイラストのアートウォークは駕籠真太郎さんのイラストですが、これはどのような経緯で?
Omega Sapien - 駕籠真太郎さんの絵も漫画も好きで元々ファンだったんですよ。駕籠真太郎さんがFlying Lotusのアルバム『You're Dead!』のアートワークを手掛けてたじゃないですか。だから、実現するかわからないけど連絡してみました。今回のアルバムのサウンドがカオティックで何が何だか分からないような、洗練されていながらダサいような、昔っぽくもあり新しかったり、物凄く複雑なイメージだったので。有り難いことに引き受けてくださって、とても光栄でした。
- 一緒に作業するアーティストの選定や、ビジュアルメイキングの面で拘っていることはなんですか?
Omega Sapien - ビジュアルメイキングは、最初はコンセプトを決めて歌もコンセプトに合わせて作ります。他の部分もその一つの単語から作っていきます。そこに合うように作っていくのが大切だと思っています。全体的なコンセプトに合うこと。
- これが自分だけの持つ個性だと考えている部分は?
Omega Sapien - 緑の頭?(笑)。あとは、東洋というとKポップや、日本だと嵐とかが有名じゃないですか。最近Bruno Marsとも曲を作ってましたよね。イケメンで、カッコよくて、なんでもやって......。海外ではそういう東洋人のイメージが強いけど、私のような変な姿も、もっと見せようと考えています。僕のようなキャラクターを西洋では見たことあるけど東洋では見たことないと思っています。東洋文化のなかで育った私がこういうイメージであることが重要だと思います。
- Blamin Tigerとしても「オルタナティブKポップ」だと名乗っていますよね。「Kポップ」というとアイドルのイメージが強いので、Kポップと括られるのが嫌なアーティストの方もいるのかと思っていたので、自らK-POPだと名乗ることに驚きもありました。
Omega Sapien - まず、Kポップはすごく好きなんだけど、Kポップというのはジャンルじゃないじゃないですか。アイドルの歌はすごく多様なので、ヒップホップだったりバラードだったり。Kポップはジャンルではなく、「境界」だと思っています。そこに「オルタナティブ」という言葉を付けると「オルタナティブKポップ」という他では見つけることができない唯一のものになります。Kポップという表現やスペックが多様な中で、自分の楽曲もKポップであるというのもお見せしたかったんです。
- Kポップと名乗ることで、海外から見たらまた新鮮に感じるような気がしました。昨年は『KCON』という韓国のアイドルが沢山出演している合同コンサートにも出演していますよね。海外での反応はいかがでしたか?
Omega Sapien - とても面白かったです。『KCON』では有名なアイドルが沢山出るじゃないですか。でも、僕を知ってくれてる人やファンの人もいたんですよ、とても有り難いですね。韓国でKポップのファンというと、彼らのコンサートを見にいくのは簡単ですよね。韓国内ではコンサートを沢山やるので。でも海外のファンは同じKポップのファンといっても、アメリカではかなり熱狂的です。1年に1度だけ訪れる私のチャンス!という感じがしました。なので余計に熱狂的で面白かったんだと思います。また行きたいですね。
- 今年はライブが難しい状況ですよね。SXSW、Noiseyなど有名グローバルチャネルを通じてオンラインライブに出演していましたが、オンラインでのライブはいかがでしたか?
Omega Sapien - すごくチャレンジでした。オフライン公演は観客のエナジーと一緒になるからかっこいい姿を見せるのがより簡単に感じるけど、オンラインだとそうじゃない。素晴らしいアーティストが多いからオンラインでもカッコよく見えたりするけど、実際にやってみると照明が付いてカメラがあって終わりな訳です。それだけの環境でカッコよく見せようというのが難しいですね。でもそんな中でも少しづつカッコよく見せれるようになってきたと思います。今もオンラインライブの準備をしてて。それも面白いんじゃないかなと思ってます。でも、今はオフラインでのライブがすごく楽しみですね。オンラインでもこうしてやってはきたけど自分はオフラインなら100倍うまくやれるので。
- じゃあ、オンラインでライブを見てファンになった人は余計期待しますね。
Omega Sapien - でしょ。感動するでしょ。いつかFUJI ROCKで絶対!(笑)。
- これまで中国、アメリカ、日本と色んな国で生活してましたが、影響を受けたアーティストはいますか?その時その時で現地の音楽を聴いていたのかなども気になります。
Omega Sapien - 中国は小学校1年生の時に行ったんだけど、学校でかけてくれてた歌を沢山聴いた気がします。その時まではヒップホップもすごく好きだったけど韓国のヒップホップをよく聴いてましたね。
- 当時韓国ではどんな人が有名だったんですか?
Omega Sapien - その時はMC Sniperとか…...。でもちゃんと聴き始めたのはアメリカに行ってから。最新のトレンドのポップスも聴いて。アメリカはヒップホップの原産地だから他の国が1歩遅れるのは当然だとは思うんです。だからアメリカに住みながらトレンド感とかヒップホップへの理解度が高まったように感じます。アメリカでは、J. Cole、Vince Staples、Kendrick LamarもPharrellも好きで、その時からヒップホップが好きで、趣味ではやってたけど、日本に来た頃から自分のキャリアとして挑戦したくなって、何もないまま来て学校でMV撮れる人、曲のエンジニアができる人、全部学校で探しました。それでMVを作ってみたりして。その当時は日本でいろんなジャンルの歌を聴いてましたね。特にこの頃は電子音楽をよく聴いてたように思います。Zebra KatzやJPEGMAFIAとかですね。
- 元々周りにもラップする友達が多かったですか?
Omega Sapien - 僕は小学校の頃から趣味でラップをしてたんですけど、その頃から現在までの間に僕とラップをしてた人たちは全員辞めました。皆途中で諦めてしまって。僕だけ残って続けてます。
- やっぱり難しくて?
Omega Sapien - 難しいというよりは、結果がすぐに出ないから。結果が出なくてもずっとやっていかなきゃいけないじゃないですか。最近出会った人たちはプロフェッショナルとしてやってる人たちだから、一生懸命やってるけど、その前に出会った人達は知ってる限り皆辞めちゃいましたね。
- ソロアルバムのタイトルが『Garlic』ですが、タイトルに込めた意味は?
Omega Sapien - アルバムのサウンドがとても難解だから、タイトルまで難解な深い意味で付けたくなくて。アイコニックな単語を探してみて、「Garlic」って単語が面白いし、韓国の人達は「Garlic」よく食べるじゃないですか。「Garlic」って臭いもすごい強いし、アルバムのイメージにも合うなと。
- アルバム全体を通してのテーマはありますか?
Omega Sapien - アルバムのテーマは、2040年度のビルボードチャート?(笑)。
- 先行公開された“Serenade for Mrs.Jeon”の「Mrs.Jeon」は誰でしょうか。
Omega Sapien - “Serenade for Mrs.Jeo”の内容は、小学校1年生から中学校1年生まで中国の学校に通ってたんだけど、その頃が自分が一番人の言うことを聞かない時期だったんですよ。小学校で退学を3回受けました。小学校から大学まで行くのがすごく難しいのに、その間言うことを聞かずにいました。小学生だから自然とお母さんが代わりに学校を探したりしなきゃいけないじゃないですか。そんなお母さんにお返しをしたくて、Serenadeとしてお母さんに曲を捧げたんです。
- 韓国でのインタビューを読んだ時に、先生と生徒の間の上下関係、集団行動のようなものが韓国、中国、日本はキツイと話していたのが印象的です。様々な国にいたからこそ感じる部分というのがありますか。
Omega Sapien - まず一番大きい違いが失敗を許容しないというところにあると思います。クリエイティビティ、創造性というのは一度失敗して生まれるものなのに、東洋文化の中で生きてみるとリスクを追うようなこと、ギャンブルをしないように感じます。でも僕はリスクから始まるものだと考えています。
- 過去の記憶や経験から曲を書くことが多いですか?
Omega Sapien - 今回のアルバムは実際に自分に起きた出来事からできてます。
- だから、ジャケットも自分の顔に?
Omega Sapien - ですね。これが私のアーティストとしての名刺だと考えてます。私を知らない人たちがこれを見て、グローバルのファンたちが聞くじゃないですか。なので私の人生を詰めました。私がこんな人だ、こんな経験をした、というようなもの。
- 今回唯一のフィーチャリングでボルチモアベースで活動するAbdu Aliと作業していますが、彼とはどのようにコンタクトを?コロナ禍でどのように海外アーティストと音楽を作るのか気になります。
Omega Sapien - 僕はJPEGMAFIAから影響を沢山受けました。Abdu AliはJPEGMAFIAの友達なんですよ。そして、Abdu Aliはクイアのラッパーなんです。エナジーがすごくかっこいいです。フィーチャリングをすごくしてみたくて、アルバムをザッと聴いてみると“WWE”は元々僕のパートがあったんだけど、アルバムの中で5曲目だし、一番ここで新しい声が入ってたら面白そう!と思ったから自分の声を抜いて、Abdu Aliの声を入れました。意図したことではないですが、プロデューサーも韓国では有名なクイアのプロデューサーのNET GALAという人です。その方もLGBTコミュニティで活躍されている方です。偶然にその二人と一緒に作業することになったので面白かったし、かっこいい曲が作れたんだと思います。
- 今、ライブをするのが難しい状況とは思いますが、今回アルバムリリースを通して何か計画していることはありますか?
Omega Sapien - このアルバムは他のアルバムのように出たらすぐにバッと視聴されてバッと聞かれなくなるようなアルバムだとは思ってなくて、どちらかというとだんだん人に聴かれていくようなアルバムだと思ってます。広報計画も勿論いいですが、まず僕は面白いものを準備しててそれを少しづつ出すにつれて、人々は自然に『Garlic』も聴くようになるのがいいと思います。
- 今は休学中とのことですが、そのうち日本でも活動する予定ですか?
Omega Sapien - 日本での活動も凄くやりたいです。僕はどこでもいいです。地球が私の舞台です。
Info
日本と韓国 : 隣国で暮らしてみて
Vol.1 NOA
Vol.2 XY GENE
Vol.3 Valknee
Vol.4 Howlin' Bear
Omega Sapien - Garlic