【インタビュー】人見太志(グローバル・ハーツ 取締役)|『パンデミックで変わる音楽業界のビハインドザシーン』Vol.1
大型音楽フェスの相次ぐ中止やライブ公演の延期など、現在世界中で巻き起こるコロナ禍の影響で、厳しい局面を迎えている音楽業界。そこでFNMNLでは、黒子に徹する人々や陰ながら音楽シーンに貢献する要の人物たちの率直な想いについて聞いた。彼らは現在の市場、あるいは今後の音楽シーンをどう見つめるのか。第一回目は、渋谷界隈のクラブシーンを牽引する「VISION」や「Contact」の運営元であるグローバル・ハーツから、取締役の人見太志氏が登場。
取材・構成 : 野村優歩
撮影 : CHO ONGO
- まずグローバル・ハーツが運営される都内の各クラブの運営状況についてお聞きしたいのですが、東京都の自粛期間が解除されてからは、どのような形で営業を再開されているのでしょうか?
人見太志(以下、人見) - 「VISION」と「Contact」は東京都の自粛要請が解除されてすぐに、「BRIDGE」と「WREP」に関しては8月から営業再開したんだけど、ただ新宿の「HEARTS」は、メディアで新宿エリアが警戒されている報道が散々されていたし、しばらく閉店していて、9月からようやく再開できたんだよね。ただし今までのようにフル稼働と言えるほどの回復は見込めない状況だったから、週末限定や平日はバー営業のみなど情勢を見つつ、様子を伺いながら営業している状況かな。
- 夜の街がまるで絶対悪のような偏向報道も多く見受けられますが、そのあたりに関してメディアの姿勢や政府の対応については率直にどんな感想をお持ちですか?
人見 - まず前提としてメディアの報道では夜の街って限定していたけど、昼間も一緒だと思っているんだよね。もちろんお酒も飲んで盛り上がってくると飛沫が飛ぶ可能性が上がるとか、密になりやすいとかは確かにあると思うんだけど、それ以上に夜の飲食店やクラブは感染予防に対して敏感だし、多くのお店が徹底しているんだよ。過酷な状況下でありながらみんな頑張っているわけだから、いたずらに風評被害を与えるような報道とか誤情報を流して欲しくないよね。本当はこのインタビューも受けようか迷ったんだけど、決断できたのは今のクラブ運営の状況を伝えたり、このインタビューを通しておこがましくも音楽業界に少しでも元気を与えることができるのであれば、意味があるのかなと思って受けたんだよね。
- ありがとうございます。ちなみに実際の肌感として現在も各クラブの営業状況はやはり厳しいのでしょうか?
人見 - もちろん来場者数は激減しているよね。特に「BRIDGE」は30代から俺ら世代までのお客さんが多かったんだけど、そうした世代やインバウンド層は特にこのコロナ以降、如実に減ったよね。ただし、その一方で「WREP」のような若者世代が集うクラブだと、客足はそこまで遠のいてはいない。国内のアーティストやDJに関しては徐々に出演機会も回復してきたように思えるけど、海外はまだまだだね。
それこそ「VISION」や「Contact」は本来海外のビッグネームなアーティストも定期的に招聘している場所でもあったので、クラブ運営としてまだまだ満足のいくパフォーマンスとは言えないよね。とはいえ国内のアーティストたちのおかげで少しづつではあるけど、来場者数も戻りつつあるので、そこは本当に感謝しています。
- 今後も予断を許さぬ状況が続いていながら各店舗にてコロナウィルスの対策として実行していることはどんなことがありますか?
人見 - 東京都が定めた条例などに基づいた感染症対策は当然徹底しながら、アーティストを始めスタッフやお客さんなど、その現場にいる人たち全てに対して可能な限りの安全策を考えているよ。もちろん限度はあるけど、俺らは東京の、特に渋谷エリアではクラブシーンを常にリードしている会社であるという自負もあるから、どこよりもそこに関してはセンシティブに考えて、セーフティーな運営を心掛けているよ。
- ドネーションや給付金の制度などの成果はいかがですか?
人見 - ドネーションの企画も色々と実施していて、俺の昔からの友人や普段からグローバル・ハーツのクラブを愛用してくれているクリエイターの方々と一緒にTシャツを製作して販売もさせてもらったんだよね。そういった仲間たちの存在は改めて貴重だなと感じたし、素直に嬉しかったんだよね。お陰様で随分と運営のサポートに役立ったし、協力いただいたクリエイターの皆さんには本当に感謝しかないよ。
またもちろん対象内の給付金などは申請しているけど、僕らのような業態だと正直気休め程度にしかならないよね。もちろん有難いサポートではあるんだけど、それ以上に打撃がダイレクトなので、給付金に頼るだけでは解決策にはならないのが現状。そうしたこともあって、実は何度か都議会の方々と話し合いの場を設けて、色々とディスカッションをさせてもらっているんだけど、なかなかベストな着地点を見つけていくのは難しい。
- ライブ配信などのような新しいライブシーンのあり方について可能性を探れるような取り組みについてはいかがですか?
人見 - 緊急事態宣言が発動された時期は俺らもライブのストリーミング配信などを試したりもしていて、反響もそれなりにあったんだけど、解除以降は現場にも足を運べるようになったし、最近の視聴者数は減少傾向にある状況だよね。こうした時代だからこそ新しい取り組みが求められているのは当然理解はしていて、俺も普段からなるべく現場に足を運ぶようにしているんだけど、コロナ以降改めて感じたのは、実際に各クラブで設備されている上質な音響システムで音を体感したり、気分が高揚するようなムーディな照明を浴びたり、リアルなコミュニケーションをとったり、やっぱりオンライン上では得られない価値が沢山あるんだなって再確認できたんだよね。
- 風営法などこれまでも沢山の問題を乗り越えながら、現在の渋谷のクラブシーンが存続していると思いますが、今回のような出口の見えない問題についてはどんな解決策を考えていますか?
人見 - こうした世界的なパンデミックの場合、俺らが自発的にできることって限られてくると思うんだけど、一つは会社としての体力を蓄えて、この辛い状況をなんとか耐えることなのかな。我慢の時期だと思って、訪れるべき出口がやってくるまで誠実にやっていくだけなんだろうなと。
- 環境や事情が違えど、海外のクラブや別業界のコロナ対策などの取り組みで参考にしていること、影響を受けたことなどはありますか?
人見 - 海外の方がコロナの影響は大きかったりするから、単純に比較はできないけど、正直クラブやバーはどこも悪戦苦闘しているなって印象だよね。先に話した状況や環境に応じた対応策というのが一番大切だから、参考にはしながらもやっぱり自分たちにあった正しい方法っていうのを常に探っていくしかないのかなって思っているよ。
- 音楽が鳴り続ける場所として、その文化の灯火を絶やさぬように、グローバルハーツが今後取り組んでいくべきこと、実際に取り組んでいることなどを教えてください。
人見 - 正直な話、確かにクラブやバーがなければ感染リスクが減ることは当然なんだけど、じゃあそうした場所をなくすことが正解なのかといえばそれは違うと思うんだよね。俺らがやってきたことって音楽のアーティストたちの表現機会を提供することだったり、カルチャーを繋ぐ場として価値を生み出すことだったり、したわけだから。文化の灯火って言ってくれたけど、本当にその通りで絶対に絶やしちゃいけないと思っているよ。だからって気軽にコロナ以前の頃のように大声で呼びかけはまだまだしにくかったりするけれど、しっかりとした情報を取捨選択して、体調管理や感染予防の対策を自己責任の下、徹底してもらった上で是非また遊びにきてほしいよね。そのために俺らは万全を尽くした環境を整えているので。またいつの日か昔のようにみんなで笑顔で乾杯できるように、みんなで知恵を絞りあって、助け合って、音楽と文化を渋谷の街に残していきたいよね。それにパンデミックはもちろん、付随して社会や政治に対してストレスや鬱憤を持った若者たちも多いと思うし、そうしたエネルギーが良い反動になっていく今の時代だからこそ、新しいカルチャーが生まれていくんじゃないかとも思っているからね。
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