【インタビュー】Daichi Yamamotoが選ぶこれまで体験した20のベストライブ
昨年リリースした1stアルバム『Andless』でみせた多彩な音楽性と、歌とラップを自在に行き来するスキル、そして想像力をかき立てるようなリリックが注目を集めたDaichi Yamamoto。1stアルバムの勢いのままに、8月にリリースしたEP『Elephant In My Room』では、前作を手がけたgrooveman Spot、KM、QUNIMUNEなど実力者に加え5lackもフィーチャリングとプロデュースで参加している。
1曲1曲カラーは異なる楽曲が並べられつつも、Daichi Yamamotoの色を上から塗りあげる事で統一感がでた本作だが、そこにはこれまでDaichi Yamamotoが経験してきたジャンルレスな音楽体験の影響も大いにあるはずだ。そこで今回は、彼が体験してきた中でも印象に残っている20のライブを上げてもらい、その思い出を語ってもらった。どんなアーティストがピックアップされているのか、ぜひ楽しんで欲しい。
取材・構成 : 和田哲郎
- 頂いた曲のリストをざっと聴いてみたんですが、結構時代とかもバラバラな物が多く。テーマが「ライブに行ったアーティストの記憶に残った曲」とのことですが、そのライブ体験がどういう感じだったかをちょっとずつ聞けたらと思います。まず選んでもらったのがThundercatですね。
1. Thundercat
Daichi Yamamoto - トップ3に入るぐらい良いライブでしたね。イギリスにいたときの2017年に観たんですけど、ゲイクラブのHeavenってところが会場でチケットも安くて。普通に好きだったんですけど、Thundercatの新譜って、ヒップホップばかり聴いてたらちょっとドラムとかが軽く聴こえますよね。でもライブでそれを観たときに、「あ、ライブで完成するんだ」って思って。ドラムとキーボードとベースの3人だけだったんですけど、めちゃくちゃ覚えてますね。
- グルーヴ感がリリースされたものを上回っていたと。
Daichi Yamamoto - ライブの方が100倍くらい良い(笑)
- どの辺りに凄みを感じましたか?
Daichi Yamamoto - これは勝手な解釈なんですけど、面白いなと思ったのが、音源はスケッチでしかない、完成していないのかなと。ドラムのアドリブとかキーボードのアドリブとかが、その場その場で出来上がっていくような感じで、「こっちの方が完成してるな」ってものでしたね。
- 凄腕のセッションミュージシャンだからこそ、って感じですね。しかもゲイクラブでやっていたんですね。
Daichi Yamamoto - そうなんです。ライブするときも「みんなここ来たことあるかい?良いところだぜ!」って言ってましたね。
2. Daniel Caesar
Daichi Yamamoto - これもイギリスなんですけど、ラーメン屋でバイトしてて、近くに広場があったんです。そこでカナダ大使館がカナダのアーティストを呼んでフリーのイベントをやるっていうのをやってて。Daniel Caesarがカナダのアーティストだって知らなかったんですよ。バイトしてたら、終わり掛けぐらいに同僚の子の一人が「今からDaniel Caesarライブするらしい」って言ってて、「は?」みたいな(笑)「どこで?行こう」って、休憩が30分しか無いのを1時間貰えるようお願いして、ラーメン屋の服制服着たまま観に行きましたね(笑)一緒に行った女の子がDaniel Caesarが好きすぎて、バイト始まろうとしてるのにバックステージに入ろうとしてて。僕その子のこと好きやったんで、何とも言えない気持ちになりました(笑)情景込みで思い出に残ってますね
- ライブで印象的だったところなどはありますか?
Daichi Yamamoto - その時はそんなに聴き込んでなかったんですよね。「すげえ」っていうファーストインプレッションでしたね。声が透き通っていて、音源そのままで。
3. Frank Ocean
Daichi Yamamoto - 3年前のイギリスのLoveboxというフェスで、4人ぐらいで行ったんですけど、一人がそのDaniel Caesarを一緒に観に行った女の子で。好きやったんですけど、全部で4人で来てて、その女の子は別の子とどっか行っちゃって。僕ともう一人の女の子で一緒に回ってたんですけど、その子が誰かにドリンクを貰って、多分何か入ってたみたいで様子がおかしくなったんですよ、凄く取り乱し始めたりして。Frank Oceanがそのタイミングで始まって、僕はFrank Oceanが観た過ぎて、「どうしよう」って(笑)ケアをするかFrank Oceanを観にいくかっていうので迷って、でもこれを逃したら一生観れないかもしれないじゃないですか。それでラリってる友達の最低限の安全は確認しつつ、Frank Oceanを観に行ったんですけど、大好きだったんで、「やっと観れた!」って。凄く思い出に残ってますね。
- 「そんなにライブは上手くない」という意見を見たことがあります。実際はどうでしたか?
Daichi Yamamoto - Daniel Caesarと比べると、「歌が上手い」という印象では無かったですね。演出がカッコ良くて。本人もライブ苦手なんじゃないかと思って(笑)あまりこっち向かなかったりして、カメラ班みたいなのがずっと追跡しながら歌ってて。
- スパイク・ジョーンズが撮っていたという。
Daichi Yamamoto - それが後ろのスクリーンに投影されていて。そういうエンターテイメントというか、アトラクションのような感じでしたね。
- でも集中出来ない状況ですよね(笑)
Daichi Yamamoto - その子がどこにいるか分からなくなって、めっちゃ罪悪感を覚えつつ探してたんですけど(笑)でも電話かかってきて、「起きたらトイレの中なんやけど、ここどこ?」って(笑)全く何も覚えてなかったみたいで。何事もなく無事で安心しました。
- 良い思い出ですね(笑)Daniel Caesarを一緒に観に行った子との恋は実ったんですか?
Daichi Yamamoto - 実らなかったです......(笑)
4. Shing02
Daichi Yamamoto - Metroで見ました。その時が、凄くヒップホップをやるきっかけになった1日で。アーティストとして好きでライブがあったらずっと行ってたんですけど、その時にお客さんに「曲作ろうぜ」って声掛けられて。今思えば、それが最初に録った曲ですね。そういう意味でも覚えてるコンサートだったんですけど。“400”が一番好きで、選びました。
- タイプは違うと思いますが、同じラッパーから見てShing02さんの良さはどんなところだと思いますか?
Daichi Yamamoto - コンセプチュアルですよね。当時の気持ちだとそれがカッコいい、正解だと思ってたんですよね。アルバムに意味がちゃんとあって、頭からケツまで全部コンセプトが詰まってて。そう言うヒップホップがあるって知らなかったので、きっかけになったアーティストですね。自分も最初は結構真似てラップしていました。意味を込めて、韻を凄く踏むというよりは、面白い言葉を使ったり。
5. Young Fathers
Daichi Yamamoto - それもイギリスですね。何かのフェスで観たんですけど、YouTubeのライブの映像が凄く良くて、それでずっと観たくて。エネルギッシュで血が沸くようなライブをするんですけど、それも僕のベスト5には入るライブですね。
- ライブはどういう構成でやるんですか?
Daichi Yamamoto - メインの3人と、その時はベースが入っていて。後、ステージ上によく分からない坊主の女の人がいて、歌ってる横でずっとポーズして止まってたりするんですよ。よく分からない感じなんですけど、暴れ回るように、汗かきながらやってて。フェスの後半だったので結構しんどくて座ってたんですけど、出てきた瞬間みんな「ウワー」ってなって。全員が叫び散らかすような感じですね。エネルギーが凄かったです。
6. Pase Rock
Daichi Yamamoto - それも京都のMetroですね。Five Deezにハマってた時期があって、友達と「Pase Rockが来る!」「マジか!」って行って。Fat Jonと二人で来てたんですけど、全然ライブしないんですよね。DJを2、3時間ぐらいずっとしてて、「お前ら、これ好きか?」って言って客が「ワーッ」って言ったら、またDJするんですよ。多分客側としては何言ってるか分からない人もいるけど「ワーッ」って言ってて、DJで盛り上がってるってPaee Rockは勘違いして、ずっとDJしてたんですよね(笑)結構3時くらいの深い時間になってから、やっとラップし始めたんですけど、その時に友達と「はよラップしてくれ」ってずっと言ってて、ラップした瞬間にみんなで「来たー!」って(笑)未だに覚えてて、めっちゃ思い出の夜ですね。多分Shing02観たときの年齢と近いんですが、そういうヒップホップをずっと聴いてましたね。
- Pase Rockは当時のオルタナティブなシーンを代表するラッパーですよね。ライブ自体は良かったんですか?
Daichi Yamamoto - ライブ自体は......普通でしたね(笑)
- 流れが印象的だったと(笑)
Daichi Yamamoto - そうですね(笑)海外のアーティストの曲を生で聴けるっていうのが新鮮でしたね。その頃はYouTubeにも今ほどライブ映像が無かったので。
7. NoCanDo
Daichi Yamamoto - それもMetroで観て、Low End TheoryでRas Gとかと一緒に来てたんですけど、NoCanDoが全部フリースタイルでライブしてたんですよ。自分の持ち曲は殆どやらず。それでポカーンとして、「凄いな」って。でもめちゃくちゃ良い人でしたね。それがきっかけで、その後にLow End Theory周辺にハマって。2009年ごろですね。
- Low End Theory周辺のサウンドに影響を受けて、自分にフィードバックされた部分はありますか?
Daichi Yamamoto - そういうビートとかは好きなんで.......でも、そんなにですね。あんまり「ヒップホップだ」と思って聴いてなかったというのはありますね。クラブ音楽として、ざっくりその辺を全部聴いてました。
- Metroに来るアーティストとして。
Daichi Yamamoto - そういう聴き方になっていたと思います。
8. Anderson .Paak
Daichi Yamamoto - それもイギリスですね。アルバム『Malibu』を出す前で、めちゃくちゃチケットが安かったんです。2000円いかないぐらいで。その時は“Suede”と誰かのフィーチャリングでやってる曲ぐらいしか知らなくて、リリース前のアルバムの曲をやってたんですけど、それがめちゃくちゃかっけえと思って。ドラム叩きながらずっとラップしてて、「なんやこれは」と。それで覚えてますね。あと、写真撮ってもらいたくて、ずっと列の後ろで待ってたんです(笑)
- Anderson .Paakは、ライブのエネルギーが物凄いですよね。
Daichi Yamamoto - ちょっと引いちゃうというか(笑)「...」って。途中で踊りながら歌って、またドラムのところに戻って(笑)「なんなんだろう」って。
9. Sampha
Daichi Yamamoto - SamphaとYoung Fathersが同じフェスだったんです。Samphaも好きでずっと観たかったんですけど、落ち着いた曲が多いんで、ライブのイメージ的にFrank Oceanのように雰囲気を作る感じなのかなと思ったら、結構真逆な感じのライブだったんですよね。ステージにパーカッションとかを置いて、自分でガンガン叩きながら歌ったりして。
- それはイメージと違いますね。
Daichi Yamamoto - ステージに他にも何人かいて、全員でグルーヴを作っていくような。鉄のベルみたいなものをずっと叩いたり、インストだけの部分があったりして、そこからガッと歌ったりして。面白かったですね。音源もライブも違うんで、違う雰囲気を両方楽しめたのが印象的でしたね。さっきのラーメン屋で働いてたら、ライブ前日にSamphaが食べにきたんですよね(笑)「うわ、明日見にいく!」ってなって、写真撮って貰って(笑)。
10. Benjamin Clementine
Daichi Yamamoto - この人もイギリスで観ました。Barbican Centreっていう大きな美術館があるんですけど、そこにクラシックとかオペラをやるようなホールがあって。そこでライブをしていたんですけど、声が凄いんですよ。ホールなんですけど、マイクをどこに置いてるのか分からなくて、地声で歌ってるんじゃないかってぐらいの声量で歌ってて。声とピアノ一本だけで一時間だったんですけど、めちゃくちゃ感動しましたね。「こんなシンプルに作れるんだな」というか、最小限のミニマルな形だったのに、飽きなかったですね。
- Benjamin Clementineはイギリス出身のシンガーでホームレス生活も経験したという経歴を持っているアーティストですね。ライブはビートとかも無いものだったんですか?
Daichi Yamamoto - ビートも無いですね。たまにバックにバイオリンとかあった気がしますが、基本ピアノと本人だけでしたね。
- どこで知ったんですか?
Daichi Yamamoto - それが思い出せなくて(笑)ライブを観たいと思って、行った記憶はあるんですけど。どこで知ったのか分からないんですけど、何かで聴いて、声が特徴的だったので、それで検索したんだと思います。めっちゃ背が高くて、歌ってるときはエネルギッシュなんですけど、喋るときは別人ってぐらい声小さくて。喋るときだけ手にマイク持って喋るんですよ(笑)面白い人でしたね。素足にスーツで。
11. DJ KENTARO
Daichi Yamamoto - これは京大の西部講堂で、Ego-Wrappin'とかも出ていたイベントで。兄ちゃんがターンテーブリストが好きで、それで知って、観たいと思って行ったんですけど。超絶技巧すぎて結構ポカンでしたね(笑)それを凄く覚えています。 印象に残ってるのが、同じ音をフェーダーを動かして音階を変えて、楽器みたいに演奏してて。よく「ターンテーブルは楽器だ」みたいに言う人いるじゃないですか。でも、あれ観たときに納得しました。
12. Seiho
Daichi Yamamoto - これはMetroですね。Seihoさんのこと知らなくて、Shing02のライブがあったんですけど、何かのアニバーサリーだったかな。その前がSeihoさんで。僕は普通にShing02さんが観たい感じで待ってたら、2ステージになってて、後ろからバキバキの音楽がかかってて。最初は「この後にヒップホップいくの?」って思ってたんですけど、5分くらい経ったら「めっちゃカッコいいやん、誰や」ってなって、パッと振り返ったらロン毛のパツパツのズボン履いて乳首見えるような服着てるSeihoさんがいて。なんか分からんけど凄いってなって、そこから友達と踊りっぱなし。終わったら余韻が強すぎて、Shing02さんのライブあまり観れなくて(笑)すぐに名前メモってググって、帰ってチェックした音源が“I Feel Rave”でしたね。
- Seihoさんとはその後交流があったりしますか?
Daichi Yamamoto - 特に無いですね。でも、それが終わった後に話しかけに行って。なんでか分からないですけど、あまりにも好きすぎてFacebook交換して(笑)特に連絡することも無かったんですけど。
13. 中村佳穂
Daichi Yamamoto - 中村佳穂さんはめちゃくちゃライブが良いんですよね。何回でも観たくなる。生でも凄いんですけど、この間配信をやってて、あったらいつも絶対観てますね。凄く自由で、2回ぐらいライブを一緒にやらせてもらったんですけど、リハの時もある程度だけ決めて「こういう感じで」ってライブに行くんですけど、本番でそれの5倍ぐらい凄いことをしてくる(笑)
- フリが凄い、って言いますよね。
Daichi Yamamoto - でもみんながそれにちゃんと反応して、成り立っていて。誰かが「佳穂ちゃんはルールが無いから、凄く気を張って用意してる」みたいに言ってて。いつ間奏が終わって、いつサビに入るか分からない。ちょっとThundercatに似ているというか、ライブでもっと完成する、みたいな。そういう人だなと思います。あと、無条件で元気になるんですよね。
14. 桑原あい
Daichi Yamamoto - 一緒に浜離宮でライブさせて貰った時、その日の最後にピアノソロみたいなのがあって。ピアノだけなんですけど、鳥肌立って、感動しすぎて、ちょっと泣いちゃいましたね。
- 桑原さんは、『Andless』にも参加しているじゃずピアニストですよね。ライブでそういう経験になるのは珍しい?
Daichi Yamamoto - そうですね。たまに「スゲー!」って時はあるんですけど、あれはやっぱり「うわぁ~」って......語彙力がちょっと追いついてないんですけど(笑)いやー、本当に感動しました。その後一日中ボーっとするというか。
- 桑原さんはどういった方ですか?
Daichi Yamamoto - 明るいですね。凄く気楽に、カジュアルに喋っていくようなタイプの人でフランク。『Andless』の曲を録ってたとき、Kojoeさんの家でピアノを録らせて貰ったんです。Kojoeさんとバイブスがめちゃくちゃマッチして盛り上がってて、凄いなと思って。高まってましたね。
15. Beenie Man
Daichi Yamamoto - Beenie Manはずっと好きだったんですけど、横浜レゲエ祭で観たんです。ジャマイカ大使館からジャマイカ国籍の人にチケットが配られるんですよ。お姉ちゃんからチケットを貰って、ジャマイカ人ばっかりいる席みたいなのがあるんですけど、そこで観て。その席周辺はジャパレゲの人とかが出てる時は、あからさまに座っててめっちゃ態度悪いんですけど(笑)、Beenie Manが出てきた瞬間全員ブチ上がって。国旗振り回して、シャツとかはだけておっぱい出てるみたいな状態でブチ上がってて。凄いなBeenie Manって思いました。ライブは遠くてアレだったんですけど、急にBeenie Manがマイク置いてタップダンスしたりしてよく分からないライブだったんですけど、客席の熱量を凄く覚えてますね。
16. Nai Palm
Daichi Yamamoto - これもMetroですね。Hiatus Kaiyoteが凄く好きだったんでフォローしてたんですけど、実際Nai Palm個人はそこまで聴いてなくて。とりあえず好きだから行こう、って感じで行ったんですけど、結構長くて2時間くらいやってましたね。ギターと歌だけでずっとやるんですけど全然飽きなくて、ボーカルもミスがゼロみたいな感じで。めっちゃ上手かったですね。ボーカルだけなら、今まで挙げた中で一番上手かったんじゃないかな。
- ソロだとそんな感じなんですね。
Daichi yamamoto - Nai Palmの友達がライブ中に隣でずっとスケッチブックに絵を描いてました。ライブ中にずっと絵を描いてて、出来上がったら途中でみんなに見せるってシステムで(笑)その時にNai Palmが喋って、また描き始めたらライブが始まる。
- 不思議な(笑)。
17. Terrnce Parker
Daichi Yamamoto - Terrence Parkerはあまり覚えてないんですよね(笑)。それもMetroだったと思うんですけど、ハウスを凄く教えてくれたRyoma SasakiっていうDJの人がいて。その人がイベントでTerrence Parkerを呼んだんです。あんまり分かってなかったんですけど、「取り敢えずハウスはこいつ聴いておいたらいいよ」って感じで呼ばれて。なんか、大人な音楽だなって印象だったんですけど。その辺でハウスにハマるきっかけにもなったんじゃないかなと思って、その後のイベントとかでRyomaさんがDJしてる時にラップしたこともあったんで。そういうきっかけになった人ですね。
- Terrence ParkerはめっちゃDJ上手いですよね。電話のヘッドホンで。
Daichi Yamamoto - それだけ凄く覚えていて、逆にそれが観たくて行ったんです(笑)Ryomaさんが「彼は電話の受話器でやるんだよ」って言ってて、「え、何それ......」って(笑)
18. Lupe Fiasco
Daichi Yamamoto - Lupeはめちゃ覚えてますね。中学校とかの時。『Touch The Sky』の後とかで、ヒップホップ好きな子らからしたら「Lupe来るの!?」って感じだったんですけど、当日Metroに行ったらお客さん10人くらいしかいなくて(笑)「え?この距離でLupe観れるの?」って感じだったんですけど、お客さんがいない中Lupeが淡々とちゃんとやってくれたのを覚えてます。人も少ないのにLupeも結構好意的で、みんなにサインしたりしてて。でも恥ずかしくて喋れなかったんで、そういうのを遠いところから見てました。
- 人数少ないと不機嫌になるアーティストもいますもんね。そんな中でジェントル。
Daichi Yamamoto - そうなんですよね。だから今自分でライブをするようになって、Lupeのことをもっと好きになりましたね。「あの時凄かったな」って思い出しますね。アメリカでチャートに載るようなアーティストが10人ぐらいしかいない箱でもちゃんとライブやって、ちゃんとファンサービスして帰っていくっていう。凄い人だなと思います。
- でも、10人って不思議ですよね。全然PRされてなかったんですかね。
Daichi Yamamoto - なんでだったんですかね。本当にガラガラで、一番前に熱狂的Lupeファンみたいな女の人がいて、ずっと「Lupe~!Lupe~!」って(笑)本当に異様な空気でしたね。
- なるほど(笑)そこから自分がTwitterで反応されるということまで繋がっていく。
Daichi Yamamoto - めちゃくちゃびっくりしましたね。ああいうのがあると誰でも嬉しいんですけど、観たことない人に急に言われるより、実際にライブ観たことがあった人なので、ちょっとエモかったですね(笑)
- そうですよね、その時の記憶も蘇って。
Daichi Yamamoto - 10何年越しに「あ、認識された!」って。びっくりして。実はそのライブの話をコメント欄に書いてて、そこには何も返信は無かったんですけど、後日インターネットのラジオで僕のことを喋ってくれたみたいで。「そいつがよー、京都で観たっていうんだけど覚えてねーよ」って(笑)なんなら忘れたかったのかもしれないですね(笑)
19. Chiara Noriko
Daichi Yamamoto - 実は彼女はバイト先が一緒で、入ってきた時に僕が教えたりしてて。「音楽をやってる」って言うんで、僕もその時にはもうSoundCloudに曲を上げてて、「教えて」って言われたから交換したんですけど、聴いたら「めちゃくちゃカッコええやん!」って思って。これだけ歌えて、なんでラーメン屋でバイトしてるんだろうって。友達だからとか抜きで結構聴いてたんですけど、「ライブするから来て」って言われて行ったライブが、ジャズバーとかのフリーセッションみたいな感じで。気軽に入っていってマイク握って歌って、そこにいるドラマーの人が合わせてくれるんですけど、それが凄く思い出に残ってますね。僕からしたらイギリスに来てまだ1年、2年で、急にマイク握って日本語でラップする度胸は無かったんですけど、彼女は全然来て1年も経ってない時に歌って、みんな「おぉ」ってなって。凄いなと。新しい作品も聴きたいんですけどね。たまに今も連絡取ってますね。
20. ノッティングヒルカーニバル
Daichi Yamamoto - これだけアーティストじゃないんですけど、ずっと行きたかった。地元の子らも人が多くて喧嘩も起こるからあまり行きたくない人が多かったんですけど、でもどうしても行きたかったんです。最初友達と合流したんですけど、みんな「やっぱ嫌」って言って散り散りになって。最後は一人で回ったんですけど、凄く解放されましたね。自分の中にあったわだかまりとかが、ノッティングヒルカーニバルで全部取れた。
- ノッティングヒルカーニバルは、ロンドンの西部のノッティングヒル地区の街中にサウンドシステムが設置され、至る所でパーティーやパレードが開催されるという歴史のあるイベントですよね。
Daichi Yamamoto - どこに何があるとか書いてなくて。どこにいるのかも分からなくなるので、とりあえず音が鳴る方に行って。見たことが無い風景でしたね。すし詰めの状態でみんなめっちゃ踊ってたり、知らない奴が腰当てに行ってたり、電信柱に登ってたり、カオスでした。しかもその時に硫酸をかけられる事件がロンドンで流行ってて、誰かがデマで「ノッティングヒルに今硫酸かける奴がいる」ってツイートしたんですよね。そこにいる何万人かが、みんなそのことをちょっと頭の片隅に置いてたんですよ。で、誰かが冗談で水を投げて、当たった方が「硫酸だ!」って言ってしまった瞬間に、すし詰めの何千人が前から後振り向いて走ってきて。僕は何が起きたのか全然分かってなかったので、爆弾か何かだと思ったんですよ。ヤバいと思ったんですけど一人だし、とりあえず全力で走って逃げて。結構離れたところでただの水だったって分かって。日本で起こったら一年目で終わりの企画を、何年もこうやってやってるんだなって(笑)
- 警察も何もしない感じでしたか?
Daichi Yamamoto - 警察もめっちゃいて。年々武器とかに厳しくなってるんですけど、でも中には女の子と踊ってる警官とかもいる(笑)みんなそれが見たいがために警官に向けてお尻を振りにいったりして、ノリが良い警官は一緒に踊ってくれるっていう。
- 誰にも止められないエネルギーというか。普通に街中でやってるんですよね?
Daichi Yamamoto - そうです。窓ガラスが割れるんじゃないかってぐらいの、これでもかってぐらいの爆音で(笑)。その時はエリアの人はみんな窓にシールドみたいなのを貼って、トイレが無いので「トイレ一回100円」みたいな感じで来ている人に貸したりしてて。それが良い小遣い稼ぎになるみたいです。窓からジュースとかビールとか売ったり、そうやって地域みんなで楽しんでました。
- ノッティングヒルは一生に一回は行った方がいいって言いますよね。
Daichi Yamamoto - 確かに毎年行くかと言われたら「今年はいいわ」ってなるような感じのイベントですね(笑)
- 一応これで20個ですね。ありがとうございます。ここからはEPについても聞きたいんですが、前作も色々なジャンルが入り乱れた作品でしたけど、今回は、さらに一曲ずつのジャンルが限定されない感じというか。例えば“Netsukikyu”だとR&Bっぽいバイブスとレゲエっぽいバイブスが混ざってたり、さらにボーダーレスにチャレンジしてると感じました。これは意図したものですか?それとも出来上がってたらそうなっていた感じでしょうか。
Daichi Yamamoto - そうですね、出来上がったらそうなってたのと、今回はラップの書き方が結構似てたのかもしれないですね。『Andless』の時はリリック書いてからとか、曲ごとに順番が違ったりして。ビートも取り敢えず全部色んなアプローチで作ったって感じだったんですけど、今回は前回の17曲の色んなやり方を一つにまとめていくような。そういうイメージかもしれないですね。曲に対してもラップのアプローチが全部似ていたので、逆にそれが出来上がったときにちょっと心配になったんですよ。フロウとかメロディの掴み方とか、全部同じようにラップしてるんじゃないかなって。でもマサトさん( =福田雅人 Daichi YamamotoのA&Rを務める)に聞いたら「それが個人のオリジナリティになるんじゃないの?」って言われて、あまり迷わず「じゃあこれで行こう」みたいな感じになりました。
- プロデューサーは前作から引き継いでる方が多いですが、そこは元々そういう面子で行こうと?
Daichi Yamamoto - 延長でやりたいと思った人が多かったんですかね。KMさんとの曲はCMの件があったからなんですけど、QUNIMUNEさんの曲は『Andless』が終わった去年の10月頃に録ってたんですよ。ずっと放置してて、今年の3月に入ってからもう一回聴き直して、ビートとかもその時に一回ガラッとブラッシュアップしてもらって、リリックも書き換えたりして。QUNIMUNEさんに関しては、あの時のそのままのノリでもう一曲行きましょうって感じ。grooveman Spotさんもそうですね。“Escape”とか、ラップしてていつも「本当はこういうラップしたいけど、どう説明していいか分からない」みたいなビートを作ってくれるというか。凄く汲み取ってくれてるのかもしれないですけど。なので、一緒に作りたいなと。
- 逆に5lackはどういう経緯で?
Daichi Yamamoto - 前からやりたいって言ってて。いつもあやふやなんですけど、マサトさんから「作ってるよ」って言ってくれたんですよね。
マサト - 5lackが「イメージあるからすぐ作ってみるよ」って言ってくれて、Daichiに「電話してみたら?」って伝えた感じですね。5lackは、Daichiにとって近い存在にいる人物だけど、その分僕も簡単にはやってもらう場をセッティングしたくなくて。今回の作品をしっかり話題にした後に、5lackにはアルバムに参加してもらう予定で本来は考えていました。ただ、自然な流れだったし速度感が速かったから、今回そのまま収録させてもらいました。
- 出来たトラックはそのままという感じ?
マサト - そうですね。声入れが終わってから5lackがMIXをして、そこでさらに作り込んでくれた感じです。
Daichi Yamamoto - ほとんど出来た状態のトラックが届いて、ラップとかも結構指示があって「こういうラップして欲しくて、そこでこういうミックスするから。今こういうサビを、1フレーズで言えるようなものを作って欲しい」って。多分もう頭の中に出来上がったものがあったんだろうなって。
- 5lack氏は結構そういう感じのディレクションが多いんですか?
マサト - 以前で言うと、iriちゃんの時はそうだったかな。その時は相手側のリリックも書いた上で仮歌を入れてたし。ビートやラップ、MVもディレクションできる人ですね。Daichiにも「こういうイメージが自分の中にはあるから、聴いたことないDaichiが出るよ」って言ってやってた感じですね。
- 面白いですね。それでやってみてどうでしたか?
Daichi Yamamoto - やりやすかったんですけど、緊張があったんで「ヤバい、かまさないと」ってなって、最初一週間ぐらい全然歌詞書けなくて(笑)それを乗り越えて、取り敢えず進めたってとこだったんですけど、やりやすかったですね。一緒に作らせていただいて、勉強になりました。
- 今回のテーマに引き付けて言うと、Daichiくんが今後ライブとかが出来るような環境になったら、どういう形でライブをやってみたいですか?
Daichi Yamamoto - ライブがめちゃ苦手なんで......(笑)毎回悩みながらやってるんですけど、なんとか見つけたいなっていうのはあります。色んな人のライブのやり方があるんで、勝手な思い込みですけど多分ライブが苦手なFrank Oceanもそういうやり方で成立させたり、中村佳穂さんみたいなライブの化け物みたいな人もいたりするんで、自分に合ったような形を模索中です。
- 全然ライブが苦手な感じはしないですけど、自意識としてはそうなんですね。
Daichi Yamamoto - 苦手と思ってしまってるのも、自分の中でずっと引っかかってしまってるのかもしれないですね。
- 形式というか、具体的に「やれるんだったらこういう形がいい」みたいなのはありますか?
Daichi Yamamoto - やっぱり雰囲気作りとかは良いなと思うので、Kendrickの『To Pimp A Butterfly』が出た時にライブで後ろにネオン管みたいなのを掲げていて。そういうセットで、そういう世界の中でライブやったり、そういうのは凄くいいなと思いますね。あとは、ラップするっていう時はあれぐらい完成度高くラップさせたいなって思います。やっぱりお客さんをコントロールするとか、それをどこまで自分が出来るのかは分からないですけど。その辺も上手いことピックアップしながら出来たらなと思います。
- ありがとうございました。
Info
Daichi Yamamoto '' Elephant In My Room ''
配信はこちらから :
https://linkco.re/Pu6rqVcN
1. Splash [ Prod. KM ]
2. Netsukikyu [ Prod. grooveman Spot ]
3. Ajisai [ Prod. Flat Stanley ]
4. Blueberry [ Prod. QUNIMUNE ]
5. Radio Feat. 5lack [ Prod. 5lack ]
6. Spotless [ Prod. Daichi Yamamoto ]