【コラム】Dominic Fike|SoundCloudシーンからポップスターへ

ラップとインディーロックがクロスオーバーしたスタイルは、今や珍しいものではなくなった。例えばBROCKHAMPTONのようなグループがヒットメーカーとなり、他にもインディーなフィールドではRoy BlairやBrevin Kimが注目を集める。UKに目を移せば、Rex Orange CountyやKing Kruleのような存在が各々の解釈でラップとインディーロックのエッセンスを取り入れ、独自のスタイルを確立している。そんな中、次なるスターとして支持を集めているのが、先月末にアルバム『What Could Possibly Go Wrong』をリリースしたDominic Fikeだ。

Dominic Fikeは1995年生まれ、フロリダを拠点に活動するシンガーソングライター、ラッパーである。ギターを弾き歌うシンガーソングライターでありながら、ハードなトラップビートに乗せたラップも自在にこなす。その音楽性も、まさに両方の音楽の折衷といったものでありつつ、最もポップな形でそれを提示していると言える。

フロリダに生まれた彼はドラッグを理由に逮捕と出所を繰り返す母親のもと育ち、10歳の頃にBlink 182やRed Hot Chili Peppersに憧れたことがきっかけでギターを演奏したという。高校生になる頃にはYouTubeに楽曲のアップを始めたが、彼のキャリアが本格的に始動したのは2017年12月、警官に暴力を振るうという事件を起こし自宅軟禁を余儀なくされていた時だった。自宅軟禁中にレコーディングした6曲を収録したEP『Don’t Forget About Me, Demos』をリリースしたところ、収録曲“3 Nights”がバイラルヒット。複数のメジャーレーベルが彼を取り合う入札合戦が起こるまでに発展し、瞬く間にその存在が全米で注目されることとなった。

フォーキーなギターのリフレイン、ポップなメロディーとスキルフルなラップが印象的な“3 Nights”。この楽曲とDominic Fike自身の人気を決定づけたのは、BROCKHAMPTONのYouTubeチャンネルからアップされた動画“THIS IS DOMINIC FIKE”だろう。“3 Nights”と彼のキャラクターを紹介するこの動画は、BROCKHAMPTONのファンを中心に大きな注目を集め、200万回以上の再生回数を記録している。

様々なジャンルやスタイルがミックスされたDominic Fikeの音楽性は、彼が育ったフロリダの音楽シーンからの影響による。フロリダといえば今やXXXTentacionやRobb Bank$といった、いわゆるSoundCloudラップシーンを大きく発展させたラッパーたちの出身地として知られているが、Dominic Fike自身もSoundCloud以降のフロリダのシーンと密接な関わりを持っていた。

Pigeons & Planesから公開されているインタビューによると、Dominic FikeはXXXTentacionを筆頭とするフロリダのアーティストを追いかけ、またライブなどで共演する機会も多くもっていたという。彼にとってフロリダのシーンは「パンクみたいな感じだった」「溜まっていたエネルギーを解放するための方法だった」とのことで、キャリア初期はいわゆるSoundCloudラップに近い楽曲を、トラップのプロデューサーたちと共に制作していたという。

ラップシーンに身を置くと同時にロックをルーツとするアーティストは今や枚挙にいとまがないが、Dominic FIkeという存在は、そのどちらにも振り切れることなく自由に行き来し、ちょうど中間に位置しているようにも思われる。例えばプロデューサーKenny Beatsとのコラボシングル“Phone Numbers”は、重厚なベースの上にエモーショナルなギターと美しいメロディを乗せ、ガールフレンドとの関係の不和を切々と歌い上げる楽曲だ。ボーカルが徐々に高速のラップにシフトしてゆく中盤の部分は、彼のスタイルにおけるロックとラップのバランス自体をちょうど体現しているようだ。

そんなDominic Fikeが先月末にリリースしたファーストアルバム『What Could possibly go Wrong』は、ラップとロックを融合したスタイルはそのままに、よりポップさを増した強力なアルバムであった。

名声を手にした苦悩と、ファンに対する不信感をブレイクビートに乗せて挑発的に歌い上げる“Cancel Me”や、一夜を共にした女性との思い出をセンチメンタルに振り返るリリックと、ポストFrank Ocean的なコーラス、中盤のダンスミュージック的な展開が印象的な“Chicken Tenders”、そして劇的なビートスイッチとコンシャスなリリックが特徴的な“Politics & Violence”まで、サウンド面で挑戦的なアプローチを見せつつ、いずれも普遍的なポップソングとしての強度を備えた楽曲が並ぶ。

Dominic FikeのポップセンスはRed Hot Chili PeppersやBlink 182といったバンドをルーツとするものでもあるだろうが、先述のPigeons & Planesのインタビューによると、彼は音楽制作を始めた当初にNujabesから大きな影響を受けてもいるという。Dominic FikeとNujabesの音楽に共通点や繋がりを見出すことは一見難しいようだが、近年のローファイヒップホップムーブメントやビートシーンの盛り上がり、またアニメのサウンドトラックなどをきっかけに進んだNujabesの再評価を彼も享受しているという辺りに、彼の音楽に見られるジャンルレスなサウンドと通底する「今っぽさ」を感じ取ることも出来る。フロリダのラップシーンや、母親や自身が収監されるような環境に身を置きつつもミュージックナード的な吸収の仕方で音楽性を進歩させてきたという点にも、彼の音楽に特有の世代感や同時代性が表れていると言える。

一つのジャンルに傾きすぎることなく、様々なジャンルのポップなエッセンスを吸収してきたことで彼の音楽性は構築されていったのだろう。

ちなみに、Dominic Fikeはそのルックスやファッションでも注目を集めており、昨年にはMarc Jacobsとのコラボアイテムを発売するに至った。他にもGQのカバーストーリーではEytysやNicholas Daleyなどの新鋭ブランドを身につけるなど、音楽性以外の部分でもカリスマ的な支持を得つつあるようだ。

 
 
 
 
 
この投稿をInstagramで見る
 
 
 
 
 
 
 
 
 

@dominicfike in head to toe Eytys for @gqaustralia

@ eytysがシェアした投稿 -

ジャンルの垣根が無くなり様々なアーティストが独自のバランスや自身の音楽性を追求する中、Dominic Fikeが持つ振れ幅の広さとスキルの高さ、そしてキャッチーな楽曲とカリスマ性は、現在のアメリカのポップシーンにおける一つのスタンダードを提示したと言えるかもしれない。今やロックスターとラップスターの間に違いは無く、ロックスター的なアティチュードを打ち出すラッパーも多い。あるいはその逆も然りだ。その中で、そのどちらにもカテゴライズすることが出来ないDominic Fikeという存在が、今後どのような進化を遂げていくのか期待せずにはいられない。(山本輝洋)

Info

Dominic Fike|ドミニク・ファイク 

デビューアルバム 

What Could Possibly Go Wrong | ワット・クッド・ポッシブリー・ゴー・ロング』 

購入・再生リンクはこちら 

https://lnk.to/DominFikeNewAL> 

related

Dominic Fikeが『Fortnite』のバーチャルライブシリーズ「スポットライトコンサート」に登場

今や世界で最も人気のオンラインゲームの一つである『Fortnite』。Travis Scottが大規模なライブイベント『Astronomical』を開催し世界的に大きな話題を呼んだことも記憶に新しいが、今回、『Fortmnite』のバーチャルライブシリーズ「スポットライトコンサート」にDominic FIkeが登場することが決定した。

アルバムリリースを控えたDominic Fikeがなぜかスカイダイビングに挑戦する動画を公開

インディーロックとヒップホップをユニークなバランスで融合させたスタイルで注目を集めているシンガーソングライターDominic FIke。7月31日に待望の1stアルバムのリリースを控えた彼が、プロモーションとしてスカイダイビングに挑戦する動画『DOMINIC FIKE PRESENTS: FIGHT OR FLIGHT』をYouTubeにて公開している。

most popular

【Interview】UKの鬼才The Bugが「俺の感情のピース」と語る新プロジェクト「Sirens」とは

The Bugとして知られるイギリス人アーティストKevin Martinは、これまで主にGod, Techno Animal, The Bug, King Midas Soundとして活動し、変化しながらも、他の誰にも真似できない自らの音楽を貫いてきた、UK及びヨーロッパの音楽界の重要人物である。彼が今回新プロジェクトのSirensという名のショーケースをスタートさせた。彼が「感情のピース」と表現するSirensはどういった音楽なのか、ロンドンでのライブの前日に話を聞いてみた。

【コラム】Childish Gambino - "This Is America" | アメリカからは逃げられない

Childish Gambinoの新曲"This is America"が、大きな話題になっている。『Atlanta』やこれまでもChildish Gambinoのミュージックビデオを多く手がけてきたヒロ・ムライが制作した、同曲のミュージックビデオは公開から3日ですでに3000万回再生を突破している。

Floating Pointsが選ぶ日本産のベストレコードと日本のベストレコード・ショップ

Floating Pointsは昨年11月にリリースした待望のデビュー・アルバム『Elaenia』を引っ提げたワールドツアーを敢行中だ。日本でも10/7の渋谷WWW Xと翌日の朝霧JAMで、評判の高いバンドでのライブセットを披露した。