【コラム】Pop Smoke | ブルックリンドリルの旗手の短くも太いキャリアを振り返る

ブルックリンドリルの旗手、Pop Smokeが殺害されてから5カ月が経つ。彼の強みは唯一無二の低音ヴォイスで紡ぐ極太のフローだ。7月3日にリリースされた彼の遺作、『Shoot For The Stars Aim For The Moon』でも、存分にその声が聴ける。50 Centがエグゼクティブプロデューサーを務めたこのアルバムと、ブルックリン・ドリルの魅力、彼の死因を綴ってみたい。

文 : 池城美菜子

シカゴ〜ロンドン〜ブルックリンへと伝染し、いまや世界で同時多発的にアーティストや曲が出ては絡み合うドリルシーン。そのなかで、2019年に“Welcome to The Party”で一気に注目を集めたのがPop Smokeだ。Youtubeで検索し、イギリスから購入したタイプビートを使用していることもニュースになった曲である。結果的に808Meloのトラックに乗って、ブルックリンにいながらUKのカラーが強い曲を当てた形になり、彼はニューヨークで頭ひとつ飛び抜けた存在になった。ヒップホップのサブジャンルであるドリルは、シカゴのCheef Keefが元祖といわれる叩きつけるようなフローを、地の底から這ってくるようなトラックに乗せる、最新型のギャングスタラップである。メロディアスで聴きやすいエモラップとは違って聴く人を選びそうなのだが、中毒性が高いせいか瞬く間に広がり、シーンに厚みが出ている急成長のジャンルだ。特徴は、イヤホンを通して聴いた途端、目の前の景色がモノクロに変わるような鬱屈した暗さ。暴力シーンが多いホラー映画のヒップホップ版と書いたら、伝わるだろうか。ビートの重さ、音数の少なさから、グライムやレゲエのダンスホールのヘヴィリスナーは一発で気に入る可能性が高い(私は完全にこのタイプだ)。

ブルックリンのシーンは、担い手もこのジャンルをはじめに支持したファン層も若いのが特徴であり、移民2世で元ギャング、もしくは現役で片足をギャングに突っ込んでいるラッパーが多い。ブルックリン周辺は、アフリカからの移民を親にもつ人気アーティストが多い、ロンドンと同じ現象であるのが興味深い。Pop Smokeも、父がパナマ人、母はジャマイカ人。ブルックリンの東、カナルシー地区で育っている。湾に面した西インド諸島からの移民が大多数を占める黒人が多く住むエリアで、レゲエのSizzlaなども住んでいた。“Welcome to The Party”のヴィデオでは、有名なジャークチキンスポットの前の駐車場にフェラーリを止めて銃を見せびらかすシーンがあり、背景と車種のギャップがすごかった。ちなみに、このヴィデオには「小道具は本物ではありません」と注意書きが入っている。

最近のヒップホップは、音やフローの地域色の薄さがよく指摘されるが、それはあくまでも音の話。地元贔屓の心情は、あいかわらず残っている。ニューヨーク・タイムズのジョン・カラマニカはPop Smokeを「A$AP Rockey以来のニューヨーク生え抜きのヘヴィウェイト級アーティスト」と持ち上げ、実際、私が昨年10月に旅行した際も、“Welcome to The Party”やDior”が街角で流れていた。トラックとフローにはっきりと特徴があり、ともすれば単一的に響くドリルミュージックで大事なのは、一発でほかと区別できる個性があること。Pop Smokeの強力な武器は、声だ。The Nortorius B.I.G.、Snoop Dogg、ダンスホールレゲエのBuju Bantonと比べられるほど低く、太く、絶妙にかすれている。その声で紡ぐ猛々しいリリックは、圧倒的な説得力と高い中毒性ある。"Welcome To The Party"のリミックスにNicki MinajやロンドンのSkeptaがパッと乗ったのは、Pop Smokeの声とフローがいかに貴重か瞬時に聞き取ったからだろう。

死後も、コロナ禍のニューヨーク全体でかかっているそうで、Black Lives Matterの抗議運動でよくかかった曲だと複数のメディアが報じている。ほかのドリルの曲同様、自分の強さや稼ぎ具合を誇示し脅しをかけているようなリリックではある。だが、Pop Smokeはニューヨーク市警(NYPD)に目をつけられ、アメリカ最大のヒップホップフェス『Rolling Loud』が昨秋、初めてニューヨークで開催された際、正式な要請があって出演が取りやめになった経緯がある。この時、同じ理由で出演できなかったのがDon QとCassanova 、Sheff G、22Gz。「地元のアーティストが出ると、揉め事が起きるリスクが高くなる」が要請の理由だが、5人中4人がブルックリンドリルのアーティストというのは警察の強い意図を感じる。ここで「NYPDはひどい!」と安易に書けないのは、ドリルのムーヴメントと、ブルックリンのギャングがつながっているのは事実だからである。現在、住んでいる友人ふたりと話したところ、カラーギャングの時代より複雑化、若年化していて、ドリルのアーティストたちと同世代のふつうに暮らしたい人たちは、店や場所ごとのターフ(シマ)を知っていて、うまく避けて生活しているそう。ただ、そういう人たちも、音楽としてのドリルは楽しんでいるわけだが。

『Shoot For The Stars Aim For The Moon』は、ビルボードのアルバムチャート1位でデビューし、翌週に同じく遺作であるJuice WRLDの『Legends Never Die』に抜かれる形になった。力説したいのは、この2枚が「遺作」との理由だけで売れているわけではないこと。アメリカのヒットチャートは、そこまで甘くない。もちろん、話題になった分だけストリーミングが増えるし、センティメンタルな感情も働いているけれど、この2つの作品は完成度が高く、それぞれが今後のヒップホップの道筋を示唆する仕上がりなのだ。ヒップホップはもとより、ファッション界から注目されていたPop Smokeにとって、とくに大きかった出会いはクィーンズ出身の50 Centだったという。彼がニューヨークのストリートをジャックした2003年、Pop Smokeはやっと歩き始めたくらいの計算になるが、太々しい態度や声の強さでお互いを重ねて見ていた、と50 本人がインタビューで話している。初めてミーティングしたとき、自分の話している間、Pop Smokeがスマホから顔を上げずにタイプしているのを見て驚いた、とも。たまりかねて何をしているのか尋ねたら、50が話している内容の要点を必死にメモしていた、というオチがあるのだが。音楽活動が落ち着いたあとも、手広くビジネスを成功させている50 Centは、中学時代から逮捕歴があるPop Smokeの憧れだったのではないか。

50 Centはマネージャーや遺族に請われて、そのまま遺作のエグゼクティブプロデューサーに名を連ねた。作業に取り掛かって、初めてふたりの名字が同じ「カーティス」であることに驚いたそう。ヴォイシングまでは終わっていた曲を、場合によっては客演を足して仕上げたのは彼の功績だ。客演のメンバーは豪華。Quavo 、Fivio Foreign 、Lil Tjayなどはミックステープ『Meet The Woo2』に引き続いての参加。DaBaby 、Lil Baby、Roddy Ricchなど、もっとも勢いがある人から、Jamie Foxxなど50 Cent人脈だと思われる人まで参加している。生前、Pop Smokeをパリコレクションに招いたデザイナーのVirgil Ablohが手がけたアートワークが「やっつけ仕事」だと炎上した際も50 Centは声を上げ、すぐに作り変えた。Pop Smokeの誕生日にデラックス・ヴァージョンをリリースし、そこでは彼がドリルのサウンドから少し離れた、ほとんど歌っている曲をレコーディングしていたことが聴き取れる。

最後に、日本では「ロサンゼルスの自宅で殺された」と報じられていることが多いPop Smokeが亡くなった状況について記したい。Pop Smokeの住居は最後までブルックリンであり、ロサンゼルスで強盗が入った家は、レンタルしていただけである。家主はテディ・メレンキャンプさん。金持ちの主婦を題材にした人気リアリティTV、『The Real House Wives of Beverly Hills』のキャストだ。名前でピンと来たロック・ファンもいるかもしれないが、シンガー・ソングライターのジョン・メレンキャンプの娘さんである。つまり、Pop Smoke はLAに滞在する間、ビバリーヒルズの超高級住宅を借り、そこで目をつけられて殺されたのである。先日、逮捕された5人のうち1人は釈放され、直接関与した4人の裁判はこれから始まる。恐ろしいのが、容疑者たちがそれぞれ15才、17才、18才、19才ということ。18才と19才は実名報道があり、大人として扱われる。あとのふたりは未成年であり、ほかのふたりより軽い刑罰になるはずだ。当初、ギャング絡みだと報じられていたPop Smokeの死だが、ロサンゼルスではセレブリティをターゲットにした強盗が多発していることから、その線でも調べられるそう。黒人同士の犯罪は、「ブラック・オン・ブラック・クライム」と呼ばれ、率が高い。Black Lives Matterの論点のひとつに、「犯罪率が高い=警察の力で抑えつけよう」ではなく、「犯罪の背後にある貧困と不平等に目を向けよう」というのがある。もちろん、Pop Smokeを殺めた犯人たちはきちんと法の裁きを受けるべきだが、アメリカには、銃に簡単にアクセスできる環境に住んでいる10代が存在し、それが凶悪犯罪を助長している面は理解してほしい。

2019年を全速力で駆け抜け、名声と金も急激に降ってきがために亡くなったようにも見えるPop Smoke。「星ほど高い目標を狙い、月までも狙う」という意味の『Shoot For The Stars Aim For The Moon』は、弔いの意を込めて2020年に聴いておきたいアルバムである。(池城美菜子)

Info

Pop Smoke
Shoot For The Stars Aim For The Moon (Deluxe)
Victor Victor Worldwide (VVW)/Republic Records
July 20, 2020

LISTEN: Shoot For The Stars Aim For The Moon (Deluxe)
https://popsmoke.lnk.to/SFTSAFTMDLXPR

WATCH: "The Woo feat. 50 Cent & Roddy Ricch"
https://PopSmoke.lnk.to/TheWooVideo

WEBSTORE:
https://shop.realpopsmoke.com

1.Bad Bitch from Tokyo (Intro)
2.Aim For The Moon feat. Quavo
3.For The Night feat. Lil Baby & DaBaby
4.44 BullDog
5.Gangstas
6.Yea Yea
7.Creature feat. Swae Lee
8.Snitching feat. Quavo & Future
9.Make It Rain feat. Rowdy Rebel
10.The Woo feat. 50 Cent & Roddy Ricch
11.West Coast Shit feat. Tyga & Quavo
12.Enjoy Yourself feat. Karol G
13.Mood Swings feat. Lil Tjay
14.Something Special
15.What You Know Bout Love
16.Diana feat. King Combs
17.Got It On Me
18.Tunnel Vision (Outro)
19.Dior
20. Hotel Lobby
21. Showin Off Pt.1 feat. Fivio Foreign
22. Showin Off Pt.2 feat. Fivio Foreign
23. Iced Out Audemars feat. Dafi Woo
24. Woo Year feat. Dread Woo
25. Tsunami feat. Davido
26. Backseat feat. PnB Rock
27. Imperfections (Interlude)
28. She Feelin Nice feat. Jamie Foxx
29. Paranoia feat. Gunna & Young Thug
30. Hello feat. A Boogie wit da Hoodie
31. Be Clearr
32. Yea Yea Remix feat. Queen Naija
33. Diana Remix feat. King Combs & Calboy
34. Enjoy Yourself Remix feat. Burna Boy

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