【インタビュー】Le Makeup『微熱』|日常へと先鋭化する

プロデューサー/シンガーのLe Makeupが1stアルバム『微熱』をセルフレーベルPure Voyageよりリリースした。Le Makeupは、2016年Wasabi Tapesからリリースした『Diegese』でデビューし、オーストリアのレーベルAshida Park、大阪の盟友Dark Jinjaからのリリースを経て、国内のダンスミュージックシーンで精力的に活動を続けている。2018年に新たなサウンドを携え、アジアのコレクティブEternal Dragonzからリリースすると、海外のインターネットラジオやクラブでも彼の曲を耳にするようになった。さらに近年は友人であり共にレーベルを主催するDoveのプロデュース、gummyboyのEPの全曲プロデュースなどの仕事を手掛け、ミュージシャンとして表現の幅を広げてきた。

自身初のフルアルバムは、セルフプロデュースの楽曲で構成された全18曲。ゲストアーティストもDove、昨年リリースされたgummyboyのEPでもタッグを組んだsteiの二名のみ。本作を何度も繰り返し聴くまでもなく、パーソナルな肌触りの歌詞と「ドリームポップ」もしくは「レフトフィールドR&B」と形容されるような懐かしさと懐の深さを感じるが、どこか掴みどころのないサウンドと共にLe Makeupは日常へと先鋭化する。どんなアーティストにとっても1stアルバムリリースというのは人生にとって大きな出来事だ。しかし、アルバムを作ろうと思い立った決意は、当の本人にとってはさらに大きな出来事だったに違いない。その決意の夏、2018年の台風が大阪を直撃してからの、微熱に浮かされ、歌を探し歩いてきたLe Makeupの2年間をオンラインインタビューで訊いた。

取材・構成: Jun Yokoyama
文中写真: Dove

 - 本作の日記や記録というテーマやコンセプトは制作スタートより先にあったんでしょうか?ご自身のアルバム全体の印象などと共に聞かせてください。

Le Makeup - 2018年、台風の日にふと、この今日の天気とか、時間、場所みたいなものをテーマにしようと思って制作をスタートさせました。2018年から自分の身の回りにあったこと、その時に思ったことの記録のようなアルバムです。実は台風が直撃した日は大阪にいなくて、夏休みに一人でバンコクに10日間くらい滞在してた時の最終日でした。その時のバンコクは雨季でじめじめしてて、肌がベタついて。その空気のイメージがすごい頭に残っています。で、いざ帰ろうとした時に大阪に台風が直撃して。帰ろうと飛行機のゲートの前まで来て五時間くらい待ったのに飛ばなくなっちゃって、滞在が伸びて、成田経由で大阪まで帰ったんですが、帰ったときには公園とかグチャグチャやし、屋根は飛び、天王寺の駅とかも結構悲惨な感じで。明らかに前と違ってて。

多分全国的にもはやそんなに記憶されてるトピックではないかもしれないけど、大阪歩いてたら未だにその時の痕跡が見える。なんか、別にそれがただ悲しいとかってわけじゃないけど、それを体験する直前に、バンコクっていう全然知らない街にいて、帰ってきたら慣れ親しんだ街がなんか変わってて「え?」みたいな。そのへんから街とか土地について考えるというか、考えを巡らせた時に出てくるものがそういう街とか土地とか気候とかに繋がるようになりました。

前々からアルバムは作りたいと思ってたけど、そのあたりで、天王寺の再開発とかで見てた街がちょっとずつ変わっていくこととか、家の前の道路が突然舗装されててめちゃくちゃ綺麗になってたとか、前の方が良かったとかではなく、変化の中で生きてる記憶を記録していくものになるんだろうなと自分の中で思って、それがこのアルバムができた最初のキッカケかなと思います。作ろうと思った日と言っても、実際は1日でバーっと思いついたとか考えたわけではないけど、その時誰かに話すためでもなく、歌にするためでもなく何となく考えてたことが今の自分を作ってるし自分にとって、とても大きな意味を持つ期間だったと思います。

 - 歌にするためでもなく、なんとなく考えてたことを記録するということは、アルバムや音を作り込むということと反対なような気がします。

Le Makeup - 関係ないかもしれませんが、実は大学の卒業論文の題材として、台湾の映画、エドワード・ヤン監督の『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』(91年)を取り扱ったんです。

  - マーティン・スコセッシが率いるNPOがお金出して4Kリマスターした映画ですね。Amazon Prime Videoで観れますね。

Le Makeup - 今から言うことは、ぼくが思ったこととして聞いてほしいんですが、あの映画は、そこにある(あった)世界をただただそのまま映した感触があるなと思ったんです。戦後の台湾で、少年たちが喧嘩したり、人が死んだりと、映画の中では劇的なことが起こっているのに、カメラはそれをドラマチックに映し撮ることはせずに、その出来事とは別の方向を向いていたり、関係のない風景、静物を映していたりして。このアルバムもなんとなくそういう方向性をもたせたいと思ってました。自分から正解を言うのではなく、ただ単純に自分の周りの音を聴いて鳴らしただけの記録としてのアルバムにしたいという思いです。

 - フィールドレコーディングについて聞かせてください。日付が入っているインタールードが数曲あるように、普段の生活のフィールドレコーディングをサウンドに取り入れていく手法を用いていると思います。

Le Makeup - 日付がトラック名になっている曲以外にも、アルバム全編に渡ってポータブルレコーダーで録音したフィールドレコーディングの素材は使っています。ヒスノイズやバックグラウンドのノイズが少し入っているような、空気感というかザラザラした質感のサウンドがこのアルバムにはちょうどいいと思っています。

 - ポータブルレコーダーで環境音以外のものは録ったりしていますか?

Le Makeup - Doveとの曲“Story of Us”では、普通のレコーディング用のマイクではなくポータブルレコーダーで二人のボーカルを録音したりとチャレンジしています。

 - フィールドレコーディングのような、アーティストのパーソナルな雰囲気が全面に出てくるような曲はずっと作っていたのですか?

Le Makeup - 2018年の夏から本作に取り掛かっていたとはいえ、その間にアルバムではなくEPなどをリリースもしていたのですが、こういう素朴なフィールドレコーディングを使った曲はリリースできなかったんです。時間とか場所とか、自分の生活の一部が出過ぎてしまっているものだったので。作り込んだものやパッケージングされた曲、うまく言えませんが、丸く収まっているものはその時の気分でリリースすることができるけど、日々の記録的なものは、なかなかうまく楽曲としてまとめることができなかったんです。自分の性格や生活感が出すぎているものを楽曲にしてリリースできるまでには時間がかかりました。

 - フィールドレコーディングを制作に取り入れて変わったことはありますか?

Le Makeup - 出先でスマホで写真を撮るみたいな感じで録っておくのが習慣になっていました。制作に使おうとは思ってたけど、それより帰ってどんなのを録ってたかチェックするのが楽しみでもありました。アルバムに入ってるのは、環境音や話を録ってほぼそのまま使うのが多かったと思います。何気ない会話、その時の景色だったり、自分にしか見えないものを入れる必要があったというか、身の回りのことを歌ってるし、この歌を作ってる自分を形作っている空間を入れたかったからたくさん使いました。

 - 生活感みたいなものを楽曲にすることができるようになったんでしょうか?

Le Makeup - 生活感というか、自分が出てるものだったから、それを出して否定されたくなかったのかもしれません。目指してたものと書ける詞が全然違うかったりして。

 - じゃあ今は理想に近づいているという感覚はありますか?

Le Makeup - アルバムの歌詞がそういう部分で完璧かと言われるとまだまだ全然違うと思うけど、そこの差が縮まってきてから、作った曲と向き合えるようになってきました。

 - これまではプロデューサーもしくは「トラックメイカー」というイメージのほうが強かったですが、今作の歌に込める強い思いを感じます。

Le Makeup - 自分の曲には言葉と歌があることが前提になって、そこから制作をスタートさせています。自分の言葉をそのまま表現として出すには時間がかかりましたね。最後の曲のタイトル“愛のしるし”と言うのですが、今までならこんなトラック名で出すことはなかったと思います。二年でそれくらいの心境の変化があったのかと驚いています。

 - ノイマンの高いマイクを買ったという気合にもそれは現れていると思います。

Le Makeup - マイクを買ったこともチェックされていたのかという感じですが、すごく歌をがんばりましたね。これでがんばったんかって感じですが。自分は不器用な歌い方しかできないので、トラックメイカーとしての自分がボーカルに修正をいれながらという感じになってしまいますが。それでも今回は自然の自分の歌を出そうとしました。歌詞もほとんど直さずに。

 - 歌うことはもともと好きでしたか?

Le Makeup - 歌を歌うのは好きです。でも人前で歌うのは嫌いでした。

 - 歌うことが好きな曲などはありますか?

Le Makeup - カラオケで“カルアミルク”(岡村靖幸)歌ってるときは気持ちいいです。

 - 好きなシンガーや目標にしている人はいますか?

Le Makeup - 自分が目指してる像みたいなものはないですけど、もうちょっと技術的に上手くなってやろうとは思ってます。好きなシンガー...原田知世さんがめちゃくちゃ好きです。

 - 「自分の言葉」を掴んできたということですが、その経験について詳しく教えて下さい。

Le Makeup - このアルバムを通じて、楽曲をまたいで同じような言葉、それぞれに関係し合うような言葉が出てきたりするのですが、自分が歌えるかどうかで、しっくりくる言葉を選ぶことができるようになってきたという感じです。思いついた歌詞や言葉の一つ一つを取捨選択していくことで、自分が考えてたことやイメージしてた曲に近づけていけることがわかって、歌詞を書くのが好きになってきました。

 - その掴んだ瞬間みたいなものはありますか?このアルバムの方向性を一気に決める曲や歌詞というのはありましたか?

Le Makeup - ただ、その自分の言葉の感覚を掴んだという実感は"微熱"ができてからですね。このアルバムに入っているのは、それ以降、この3、4ヶ月の間に作ったものが多いですね。“微熱”や最初のトラック“Beginnings”、“Ray”の制作を通じて「この言葉やな」というものを掴んだ感触がありました。「微熱」ってワードが自分の音楽や、思ってることにしっくりきて。頭にこびりついている雨季のバンコクの汗ばむ気候とか、肌の火照りみたいな自分がイメージしてた空気感や、歌にしてた曖昧な部分、単純に悲しいとか、嬉しいとかじゃない言い切れない部分とか、自分に対して感じてた向かうところがない焦りとかそういうものにぴったりハマる言葉でした。アルバムを作ろうと思った時に抱いていたイメージと、実際の曲が繋がったと思った初めての曲でした。

 - その重要な“微熱”についてもう少し聞かせてください。歌詞ではなくトラックメイクについてなのですが、ウェイトレスなインストグライムのサウンドをリフレインにしながら、ボーカルを載せるためのスペースとリズムを上手にサウンドメイクしていると感じます。このトラックメイクこそが今までのLe Makeupと今のLe Makeupを橋渡ししているような感じを受けるのですが、トラックメイクの技術面で変わったこと、もしくは昔から自分のここは好きだからそれをどう変えた、変えなかったなどあれば教えて下さい。

Le Makeup - 意識的に変えてることはあんまりなくて、単純に技術がちょっと上がって自分がしたかった事ができるようになって来てるという感じはあります。ただ使う音とかはちょっとづつ変わってきてるかもしれないです。このアルバムではピアノ・ギター・指で弾いたバイオリン・808の音とかを軸に作ったけど、ギター以外はちょっと前まであんまり使わない音だった。

 - 歌詞や歌うことで自分らしさを出すということは大きな変化だと思いますが、具体的に自身の中でどんな心境の変化がありましたか?

Le Makeup - 歌や歌詞があることで、言葉は直接的だから景色を限定してしまうことがあるじゃないですか。けど、それが心地よいと感じ、制限の中での制作を楽しめるようになりました。今回ギターをたくさん使っているんですが、DTMのソフトとMIDIを使えばどんな音でも出せるんですが、下手なギターを自分で弾くことで自分のパーソナリティが出てしまう、それがよかったですね。その様々な制約と制作の距離感を音楽と取れるようになって来た気がします。

 - 言葉、言語、歌詞の有限性についてですが、ラップから影響を受けたようなライム感からドライブされるようなリリックもありますね。

Le Makeup - 歌詞は日本語のラップから影響はたくさん受けているのですが、性格的なところであやふやだったり、はっきりしない感じなんでまた別のものになるという感じですね。歌詞の中には、具体的に何か想像できる名詞をたくさん使ってはいるんですが、その使い方には慎重になりました。自分の中で会話を重ねて、言葉を反芻するタイプなので、自分の中で言葉がぐるぐる回ってから出てくるって感じです。自分の中では全編同じことを言っているような感じです。

 - アルバム制作を通じて変化をたくさん感じてきたと思うのですが、周りの人から受けた影響みたいなものはありますか?

Le Makeup - Doveや他のアーティストとの共作を経て変わってきた気がします。特にDoveとの制作の時期が自分のアルバム制作とかぶっていたので、その制作プロセスがこのアルバムにも影響されている感じはあります。人と深く接することで自分のことがよくわかってくるという感覚がありました。

それまでは自分の尺度でしか物事を見てなかったというか、Doveに限った話ではないですが「こういう事を考えて生きてる人がいるんだ」とかそういう自分の中での驚きに気付くようになったというか。物事の捉え方のそれぞれの幅を認識して、人と話すことや付き合っていくことへのハードルが下がったような気がします。

ずっと一人きりで曲を制作して、それを自分で聴くという感じだったんですが、Doveと一緒に曲を作ったり、他の人の作品の制作に関わることで、他人の曲なのに自分の曲という状況が生まれて。これまでは、あんまり良くない曲だったとしても、それを自分の名前でリリースするのはオッケー、まぁ自分のことなら怠けられていたのですが、他人の曲となると責任感が生まれたというのも発見です。

 - 他のミュージシャンから影響されることも怖がらないようになったのではないかと思うのですが、このアルバム制作の伴走者のような楽曲を教えて下さい。

 - 最後にFNMNL編集部とFNMNLの読者へメッセージをお願いします。

Le Makeup - このアルバムを聴いて気が合いそうと思った人いたらぜひレーベルまで連絡してください!(PURE VOYAGE keisukeiiri@purevoyagerec.com)あとは、そこそこ良いもの出せたと思うので、ちょっとでもお金入ればなーと思ってますがどうかな?FNMNLでFrank Oceanのスキンケア記事読んでから日焼け止め塗ってます。全く塗ってなかった時を考えるとゾッとします。本当に助かりました!

 - 「日焼け止めが大事」と言ったのはFrank Oceanではなく、Frank Oceanのお母さんでしたね。 今日はありがとうございました。

Info

Le Makeup『微熱』
Label : Pure Voyage
Release date : June 26 2020
Stream : https://809.lnk.to/lmusf
Bandcamp : https://purevoyage1.bandcamp.com/album/-

Tracklist
1.Beginnings
2.Ray (album ver.)
3.車窓から
4.神様がいるなら
5.スポットライト (album ver.)
6.明日
7.Sit Down in Reflection
8.Feb21_2020
9.Story of Us(feat.Dove)
10.微熱
11.Birthmark
12.Birthmark 2
13.Body
14.この風
15.Watcher(feat.stei)
16.Marto
17.Apr20_2020
18.愛のしるし

All tracks are produced by Le Makeup

related

【インタビュー】Awich | 人ではない目線から視る

どこの誰であっても、足元が揺らいだ2020年上半期。そんな今こそfnmnlが話を聞きたいと思ったのが、この度ユニバーサルミュージックからメジャーデビューし、8月21日にEP『Partition』がリリースされるAwichだ。

【メールインタビュー】KYNE 『KYNE TOKYO 2』 | 表面的な視覚効果として描く

福岡の街を歩けば、必ずと言っていいほど見かける、KYNE(キネ)のグラフィティ。

【インタビュー】Gottz & MUD 『VERTEX』| 「やらない」はあるけど「できない」と諦めることはない

KANDYTOWNの中でも特にハイペースに活動しているGottzとMUDが、Gottz & MUD名義でアルバム『VERTEX』をリリースした。

most popular

【Interview】UKの鬼才The Bugが「俺の感情のピース」と語る新プロジェクト「Sirens」とは

The Bugとして知られるイギリス人アーティストKevin Martinは、これまで主にGod, Techno Animal, The Bug, King Midas Soundとして活動し、変化しながらも、他の誰にも真似できない自らの音楽を貫いてきた、UK及びヨーロッパの音楽界の重要人物である。彼が今回新プロジェクトのSirensという名のショーケースをスタートさせた。彼が「感情のピース」と表現するSirensはどういった音楽なのか、ロンドンでのライブの前日に話を聞いてみた。

【コラム】Childish Gambino - "This Is America" | アメリカからは逃げられない

Childish Gambinoの新曲"This is America"が、大きな話題になっている。『Atlanta』やこれまでもChildish Gambinoのミュージックビデオを多く手がけてきたヒロ・ムライが制作した、同曲のミュージックビデオは公開から3日ですでに3000万回再生を突破している。

Floating Pointsが選ぶ日本産のベストレコードと日本のベストレコード・ショップ

Floating Pointsは昨年11月にリリースした待望のデビュー・アルバム『Elaenia』を引っ提げたワールドツアーを敢行中だ。日本でも10/7の渋谷WWW Xと翌日の朝霧JAMで、評判の高いバンドでのライブセットを披露した。