【インタビュー】Aitch『Polaris』|「常に自分の気持ちに正直であり、それを優先しろ」

印象的なフックとウィットに富んだリリックを武器にUKのシーンに流星の如く現れたマンチェスター出身のラッパー・Aitch(エイチ)。“Taste (Make It Shake)”のヒットや、Ed Sheeranの“Take Me Back to London”のリミックスに参加したことで注目を集め、昨年秋にはUK全土のツアーを成功させるなど、着実にキャリアを積み上げている。

そんな新星Aitchが5月29日に3枚目の作品となる『Polaris』EPをリリース。『Polaris』制作で心掛けたこと、ロサンゼルスでの制作エピソード、地元マンチェスターの環境、最近の大きな買い物についてなど、オープンに答えてくれた。

質問・構成 : 米澤慎太朗

翻訳 : Miho Haraguchi

 

 - Aitchさんの音楽を存じない方に自己紹介をお願いします!

Aitch - 俺はラッパー。マンチェスター出身。今もマンチェスターに住んでる。好きなチームはマンチェスター・ユナイテッド。音楽を通じて色んな人たちにあって、皆から色々学んで、それを吸収した音楽を作って沢山の人たちにそれを広めたいと思って活動してる。

 - 出身のマンチェスターで一番リプレゼントしたい部分はどこですか?

Aitch - マンチェスター・ユナイテッド(笑)あとは、人だね。マンチェスターの人たちは皆親切で、良い人たちが多いんだ。イギリスに来ることがあったら、ロンドンだけじゃなくて絶対マンチェスターに来た方がいいよ。ロンドンに住めばもっとデカイ仕事ができて金が稼げると思ってる人たちが多いけど、ロンドンに住んだらそれだけ出費もすごいってことを忘れてる。同じ金で、ロンドンだと狭いワンルームにしか住めないけど、マンチェスターだと3ベッドルームに住めるしさ。マンチェスターが超田舎ってわけでもない。都市でもありながら伸び伸びした生活ができるっていうのはすごく魅力的だと思うね。刺激も多いしさ。

 - 英Gurdian紙のインタビューでも「ローカルで成功する前にロンドンに行ってしまうとお金をたくさん使うことになる」おっしゃっていました。もし今からロンドン以外の場所でラッパーを始める人にアドバイスをかけるとしたら、なんとアドバイスしますか?

Aitch - 人のアドバイスを聞くのはいいことだけど、常に自分の気持ちに正直であり、それを優先しろということ。目的を持って、それに必要な行動をすることが第一。自分は自分人は人。一部の間だけで価値のあるものに惑わされず、自分にとって意味のあるものが何かを忘れないように。あとは、才能を殺さずに一生懸命働くことだね。

 - マンチェスターの地元のエリアはどんなところですか?

Aitch - ロンドンほど都会ではないけど、すごく進歩的な街。皆働き者だし、すごく活気のある場所だよ。

 - マンチェスターにはIAMDDB、Geko、Bugzy Maloneといった個性的なアーティストもいます。Aitchさんが刺激を受けるマンチェスターのアーティストはいますか?

Aitch - Svmiっていうアーティストはすごくいい。マンチェスターには、彼みたいにマンチェスター魂を持ちながらも自分自身の音楽を作っている若い世代のアーティストがここ数年沢山出てきていて、シーンはすごく盛り上がっていると思う。

 - 親世代の音楽から何か影響・インスピレーションを受けることはありますか?

Aitch - もちろん。新世代は自由なスタイルで音楽をやってるアーティストも多いしね。何かにとらわれず自由に表現したいものを表現してるアーティストや彼らの作品は刺激的だと思う。

 - またそれ以外でも刺激を受けているミュージシャンについて教えてください。

Aitch - 沢山いるから絞れないけど、敢えて名前を挙げるとすれば50 Cent。彼からの影響はすごく大きい。彼は、ラッパーになりたいと思わせてくれたアーティストの一人だね。他にも刺激を受けているミュージシャンはいっぱいいるんだけど、なにせ多すぎて名前が出てこない(笑)そんな中でも確実に名前が出せるのが50 Centなんだ。

 - Northern Rapと称されることについてはどう思いますか?

Aitch - 俺は良いことだと思ってる。ラップって、ラッパーのヒストリーやストーリーが語れるものだろ?俺の声を聴いて、皆が俺がどこから来たかわかるっていうのはいいことだと思うし、俺は実際Northから出て来てるから間違ってないと思う。悪い気はしないね。

 - 前作『AitcH2O』のリリース後、「Reading + Leads」、「BRIT」などステージやファンの数もスケールアップしましたが、音楽的な部分、パーソナルな部分に変化はありましたか?

Aitch - あったと思う。経験を通して沢山学んだし、全てがベターに変化したのを実感してるよ。音楽シーンでは様々な変化があるけど、俺はあまり外の変化は気にしない。自分自身が働きまくって、その結果ついてくる変化は良い変化でしかないと思ってるんだ。サウンド自体には、まだその変化は反映されていないと思う。メインストリームっぽくもなってないし、俺はこれまでと変わらないラッパーのまま。俺のサウンドが変わるとすれば、それは俺がスタジオに入った時の自分のムードとか、感情によって生まれる変化だね。俺の周りの環境や状況が変わっても、ラップというサウンドは変わらないよ。

 - 冒頭2曲(“Safe To Say”、 “Zombie”) では、カリフォルニアに拠点を置くKenny Beatsとはどのようにつながりましたか?どのようなコラボレーションでしたか?

Aitch - マネージャーが俺たちをつなげてくれて、俺がLAに行った時に彼にあったんだ。それまで彼に会ったことはなかったんだけど、すぐ意気投合して“Zombie”をレコーディングした。そしたらそれがめちゃくちゃ楽しかったから、イギリスに帰る前にもう一回セッションをしたいと思って、もう一度スタジオに入って“Safe To Say”も作ったんだ。それをイギリスに持って帰って自分がその時点で完成させていたものと一緒に整理していたら、その2曲同士の相性がすごく良いことに気づいた。だからつなげてアルバムに加えることにしたんだ。Kennyとのセッションはマジで最高!またLAに行くのが待ちきれないね。また海外に行けるようになったら即LAに行ってKennyに会うつもり。

 - サウンド的にも前作よりもさらにバリエーションに富んでいますが、本作のビートを選ぶときに意識したことがあれば教えてください。

Aitch - 自分に正直になること。自分の本能に従ってるんだ。このプロジェクトは俺にとってパーソナルなもの。自分自身でいられるプロジェクトなんだよ。だから、作りたいと思ったものをそのまま作ってリリースしてる。あまり何かを意識することってないんだ。このプロジェクトは、俺にとって挑戦ではない。それよりも、俺のフィーリングを導かれるがままにそのままサウンドで表現しているのがこのアルバムなんだ。

 - USとUKのインタラクションが増えていますが、ご自身の目から見て、USヒップホップシーンやUSのお客さんの反応はどのように感じていますか?

Aitch - 自分が見ている限りでは、アメリカのオーディエンスは俺の音楽を気に入ってくれていると思う。特にLAでのショーでは特にそれを感じることができて嬉しかったね。でも、上の世代の人たちはちょっと違うように感じるかも。ラップってそれぞれの個性が現れるからこそ面白いと思うんだ。でも上の世代のラッパーやヒップホップファンの中には、若い世代のラップに対して否定的な人たちが結構いるのを感じる。サウンドが違うとか、やり方が違うとかさ。でも、世代によって表現するものや表現の仕方が異なるのは当たり前だし、その違いは、寧ろ楽しめるものだと俺は思うけどね。

 - 他にも『Polaris』制作時のインスピレーションがあれば教えてください。

Aitch - インスピレーションとは少し違うけど、実はコロナの状況がこの作品の制作を促してくれたんだ。制作前、ツアーで疲れすぎていて、次の作業のためのエネルギーが全然なくてさ。キツくて何もできずにいた。そうしているうちに次のツアーが始まろうとしていたんだけど、コロナでそのツアーがキャンセルになったんだ。それで休む時間とEPを作る時間ができた。余裕とエネルギーを得ることが出来たから、正直、タイミング的に言えばパーフェクトだったんだ。

 - 音楽を始めたきっかけについて教えてください。私の中ではEd Sheeranとのコラボレーションで流星のように現れたイメージだったのですが、マンチェスターで音楽を始めたきっかけを教えてください。

Aitch - 音楽を始めたのは、16歳か17歳の時。最初はジョークでラップを始めたんだけど、そしたら意外と上手く出来たから、もっとやりたいって思うようになった。ラッパーになりたいとか思っていたわけじゃなくて、もっと上手くなりたいと思ってラップし続けているうちに今の状態までになったんだ。

 - ラップを始めた頃の憧れのスターがいれば教えてください。

Aitch - スターがいたというよりは、周りの友達に刺激を受けていた。ラップの魅力ってさ、皆がそれぞれ違うところだろ思うんだ。だから、特定の誰かというよりは、それぞれの個性が作り上げている一つの空間、シーンってものにより惹きつけられていたと思う。皆が自分の個性を持っていてバラエティがあるところが魅力。それはある意味、自分の個性を維持するために、誰かに憧れたり人のアドバイスを聞きすぎるのはあまりよくないってことでもある。全く違う才能をもったアーティストたちが集まるからこそ、音楽が面白くなるんだと思うんだ。

 - ラップのスキルを披露し合うような“Ei8ht Mile”のMVのような場所はありましたか?練習した場所やエピソードがあれば教えてください。

Aitch - んー…そんなにはないかな。今は皆SNSがあるから、自分のビデオを撮ってインスタとかにあげるほうが主流だと思う。 マンチェスターの北部にモストンってところがあって、俺はそこでラップを練習してた。あの場所は世界の中で最高の場所でもあり、最悪の場所でもある。誰もがお互いを知っていて、コミュニティ感が強い。団結力が強いんだ。そんな中にいたから、ラップでそのコミュニティを代表して描写するっていうのをよくやってたね。

 - 2020年3月のCapital Extraでの「自分より年下でグライムを気にかけてる人はいない」という発言は時代の変わり目を象徴しているように感じました。一方で過去にはRadar RadioのDJ Argueの番組に出演されていましたが、グライムとの関係についてお聞きしたいです。

Aitch - グライムのおかげで俺は今ラップをやってる。グライムは、UKの多くのラッパーが今ラップをしている理由なんだ。グライムの存在があるからこそ、今活躍しているラッパーが生まれたんだと思うね。

 - Youtubeでのフリースタイルが一つのブレイクスルーのきっかけ、という意味ではStormzyとの共通点もあるかと思います。Ed Sheeranの“Take Me Back To London”でもコラボレーションしていますが、Stormzyはどのような存在ですか?

Aitch - Stormzyは、俺がこれまでに音楽業界で出会った中で一番誠実な人間。彼とコラボ出来たことを光栄に思うし、またコラボするのが待ちきれないよ。彼は本当にいい人なんだ。友達として楽しい時間を過ごしながら、一緒にいることで学び成長出来る。それがStoemzy。彼と一緒に超大規模な世界ツアーをやれたら最高!

 - リリース前後で一番際立って変化・インパクトがあったのはどの曲ですか?プライベート、ファンの反応など… どんな変化がありましたか?

Aitch - 難しい質問だな…ヒット作品を作りたいとか、そういうことはEPを作っている時には考えてなかった。俺の場合、曲を作る時はあまり人の反応は気にしていないんだよ。どう受け取ってほしいとか、何を聴いてほしいとか、そういうのがないんだ。考えているのは、ただ自分の気持ちを表現するということだけ。あえて選ぶなら“AitcH20”かな。あの曲はチャート入りしたけど、あの曲のおかげで、より多くの人たちが『Polaris』に辿り着くことが出来たと思う。あの曲の成果が、『Polaris』により多くの人を導いてくれたと思う。それはあの曲がもたらしてくれた変化と言えるかもね。

 - COVID-19に伴うロックダウンによって、Aitchさんご自身のライフスタイルの変化、心境の変化はありましたか?またそうした変化の中で、ロックダウンの後も続きそうな新たな習慣はありますか?

Aitch - 毎日家で溜めていた作品を仕上げる作業をしてる。そのうちせめてイギリス国内だけでも周れるようになるといいんだけど。フェスもショーも何もできないから、変化はそこだな。常にいるっていうこと自体がライフスタイルの変化だね。あとは、もっと運動するようになった。今はただただショーをやるのが待ちきれない。それだけだよ。

 - クラブの一時的な閉鎖やフェスティバルのキャンセルも相次いでいますが、UKの音楽シーンのポジティブな変化はありそうでしょうか?ご自身の出演するベニューや地元のクラブはいかがでしょうか?

Aitch - あると思う。今の状態があるからこそ、これが解けると皆これまで以上にデビューやクラブでの音楽を楽しむようになると思うね。それが出来ないということがどんなものかというのを今経験しているからこそ、皆で一緒に音楽を楽しむことの意味や価値がより理解できるようになるんじゃないかな。周りのベニューやクラブはまだ閉まってる。早くオープンできるといいんだけど。

 - 最近の1番高い買い物はなんですか?

Aitch - 家。今住んでいる家を買ったんだ。アパートだと庭がなくてさ。俺、どうしても庭が欲しかったんだ。ガールフレンドが高所恐怖症だから、アパートに住むのが難しくて。バルコニーが無理だったからね。あとは、俺時計が大好きで時計に金を使っちゃうんだよな。数があっても意味がないってわかってるんだけど。17個くらいもってる(笑)女は靴とバッグを買いたがるだろ?で、日本ではわからないけど、UKでは男は時計とスニーカーを買いたがるんだ(笑)

 - 白人として、自分がUKラップシーンでできることは何だと思いますか?

Aitch - 個人的には、UKラップシーンに白人ラッパーがもっと増えて欲しいと思っているんだ。だから、俺みたいな白人ラッパーが活動しているのを見て、白人もラップをする、していいという意識を広められたらいいなと思う。ラップという音楽だけに限らず、人種でそれをわける必要はなく、人はそれぞれ違うんだから、黒人と白人という間での違いを見つけようとしたり、わけたりしなくてもいいと思う。ロックンロールも白人だけの音楽ではないし、白人が多い音楽である必要もない。あらゆるシーンやジャンルにおいて、そこで活動するミュージシャンがもっと幅広くなったらいいなと俺は思ってる。

 - ありがとうございました!

Aitch - ありがとう!早く来日できたらいいんだけど。その日を心待ちにしているよ!

Info

Aitch - 『Polaris』

詳細: https://carolineinternational.jp/2020/05/29/aitch/
視聴: https://caroline.lnk.to/Aitch_Polaris

related

【インタビュー】e5 × nyamura | 私たちが「わからせ」なきゃ

世界のベッドルームを一直線に接続するSoundCloud。その玉石混交の音楽のるつぼから、ヒップホップ的な自己主張とナード的な感性がないまぜになった、若く鮮烈な音楽シーン──digicoreと呼ばれている──が誕生している。

【インタビュー】Skaai × uin 『BEANIE』| オレはこれだけやってるぜ。みんなはどう?

2020年、SoundCloudでの楽曲発表を契機に、『ラップスタア誕生2021』での活躍をステップとし、人気マイクリレー企画『RASEN』への参加や大型ヒップホップフェス『POP YOURS』への出演などまさに破竹の勢いでこの2年間を疾走した新進ラッパー、Skaai。

【インタビュー】Mura Masa 『Demon Time』 | パンデミックが終わった未来に向けて

英仏海峡に浮かぶガーンジー島のベッドルームからラップトップを通じ、若くして新時代のトップ・プロデューサーの座を獲得したMura Masa。

most popular

音楽を聴いて鳥肌が立つのは特殊な脳の構造を持つ人だけが経験できるという研究結果

音楽を聴いて鳥肌が立つ、という体験をしたことがあるだろうか。もしあるならば、あなたはとてもラッキーな経験をしている。

大人になってからの音楽の好みは14歳の時に聴いた音楽で形成されている

私たちの音楽の好みは14歳の時に聴いた音楽によって形成されていると、研究により明らかになった。

Appleの重役がiTunesの音楽ダウンロードが終了することを認める

ついにその日が来てしまうのだろうか。先日発表されたアメリカレコード協会(RIAA)の2017年末の収入報告でもデジタルダウンロードの売り上げが2011年以来6年ぶりにCDやアナログレコードなどの売り上げよりも少なくなったと発表されたが、ちょうどそのタイミングでApple Musicの重役のJimmy Iovineが、iTunesストアの音楽ダウンロードが、終了する見込みであることをBBCの取材に対して認めている。