【インタビュー】Baauer 『PLANET'S MAD』| 意味不明だけどかっこいいものを

2013年にリリースした"Harlem Shake"の世界的大ヒットで知られ、Travis ScottやJay-Z、Pusha Tなどとも共演、Awichのアルバムにもビートを提供したプロデューサーのBaauerが最新アルバム『Planet's Mad』を本日6/19(金)にリリース。2016年にリリースした『Aa』では豪華な客演陣をフィーチャーしていたが、今作はゲストなしで純粋に自己表現を突き詰めている。

自身がルーツと語るクロスオーバーなダンスミュージックを、世界中の音楽からの影響をもとにモダンにアップデートさせた新作について、日本を代表するプロデューサーであるMasayoshi Iimoriが質問をぶつけた。

質問作成:Masayoshi Iimori
通訳:中村明子

 - ニューアルバム発売おめでとうございます。前作『Aa』は様々なアーティストが参加し多彩な曲が収録されていたダンスミュージックのアルバムであったと思いますが、今回の『PLANET’S MAD』ではサウンドトラックのように全体に一貫した雰囲気があって、フィーチャリングも一切ありません。なぜこのような作りにしようと考えたのでしょうか?

Baauer - 作りながら段々とこういう形になってきたというか。アルバム制作中、映画のサウンドトラックのようなアルバムにするというアイデアが浮かんできて、だから君が今それを言ってくれて嬉しかったんだけど、有名ゲストをフィーチャーした曲を集めたアルバムというよりも、ひとつの世界を作り出したいという気持ちがあったんだ。映画を作るように、ストーリーを語るというか。それがこのアルバムにおける実験だったね。

 - その実験における最大のチャレンジは?

Baauer - アーティストをフィーチャーした曲を作っていた時は、僕がビートを作ってそこで彼らが歌ってくれて、それで曲が完成してたわけだよ。でも僕一人でフィーチャリングなしの場合、曲を丸ごと自分で作らなきゃいけない(笑)。自分の力で面白いものにしなきゃいけないという、それは結構大変で、というのも普段から僕が作ってるのは基本的にビートで、その上で誰かがラップするとかで。だけど今回僕が作るのはビートではなく丸ごと1曲。いつもは30秒くらいだったのに3分作るは結構なチャレンジだったよ。

 - サウンド面では、今までのあなたの曲ではサブベースが気持ちよく聞こえるようなミキシングだったように感じますが、今作では全体を通して低音は保ちつつも振動やパーカッション、環境音が強化されて音響作品のような仕上がりになっていると感じました。サウンドデザインの質感は今までとの差異を意識しましたか?

Baauer - 今指摘してくれた部分を強調したっていうのは確かにそうだったと思う。自分が他の人の音楽を聴いててすごい好きな部分でもあるから、じゃあ自分ももっとそこをやろうと。ただ意識したというよりはもっとランダムだったと思う。デタラメに、それそこに入れるのは間違ってるだろ!みたいな要素を入れる方が面白くなるというか、ある意味カッコよくなると思うんだよね。「なんでそれがそこ?」っていう、意味不明なんだけど、でも突然「かっこいいかも」と思えてくるという。偶然に任せる部分が結構大きかったけどね。計画して作れないサウンドだと思う。

 - “AETHER”はジャングルの楽曲となっています。今までもあなたはDJにおいてガラージクラシックのDouble 99の“RIP Groove”やグライムのSolo 45“Feed Em To The Lions”、Discardaの“Rhyme On”といった曲をプレイしたり、前作ではグライムMCのNovelistとコラボしています。随所に感じられるUKレイヴカルチャーからの影響はどういったものでしょうか?

Baauer - 7歳の時にロンドンに引っ越して、13歳までいた。そのあと18歳の時に1年だけ住んでたこともあって。だから人生で2度ロンドンに住んだんだけど、子供の頃は、Craig David的な音楽がラジオでかかってて、それが否応なしに僕の脳に入り込んできた。だから必ずしもジャングルというわけではなく、単にラジオ、タクシーに乗ったら普通にかかってるBBC Radio 1とかを聴いてて、それが植物の種のように僕の中に音楽への興味が植え付けられたんだよね。それで成長するにつれて君が挙げたようなジャングル、スピードガラージ、グライムだったり、いろんなUKサウンドに興味を持つようになって。それで18歳で戻ってきた時はようやくライヴとかに行けるようになって、そこで僕のそういった音楽への愛が固まった感じだね。例えば“RIP Groove”のアナログで歪んでて押し出しが強くてっていう、ああいう音には刺激を受けてると思うよ。

 - 一方で“Yehoo”や“REACHUPDONTSTOP”からはラテンやアフリカンミュージックなどのスピリットを感じます。以前『Brazil Mix』も発表したと思いますが、なぜあなたの作品にはこういった影響が色濃く表れているのでしょうか?

Baauer - ブラジル、南米、あるいはアフリカ全般の音を使うのが普段からすごい好きなんだよね。全世界でパーカッションが最高なのってその辺じゃないかと思う。普段から常に新しい音楽を知りたいと思ってるし、それを曲に使ってみたいんだ。

 - あなたは今までEDCやCoachellaなどのビッグ・フェスティバルに出演してきましたが、最近はそういった舞台からは離れて活動しているようなイメージがあります。

Baauer - 正直意図的に離れたわけじゃないよ。もしブッキングされたらたぶんやると思う。単純にブッキングされなくなっただけで、それならそれでその現実を受け止めて適応するしかないっていうね。だから今回のアルバムの方向性がこうなったのも、もしあの世界で僕がもうそれほど力がなくなってるんだとしたら、じゃあ自分の独自性を追求して、そこに倍賭けしようっていうことだったんだ。

 - なるほど。意図的なものか、エクスペリメンタルな今作を発表するための布石なのかとも思いましたが。

Baauer - ああ、ね(笑)。確かにエージェントとかマネージャーは色々戦略的に考えてるけど、でもまあこれに関しては違うだろうな。EDCは一回やって二度目はなくて、別にそれはこっちに選択肢があったわけじゃないしさ。

 - 今作はトラップやフェスティバル系のプロデューサーの作品というよりは、むしろWarp RecordsやNinja Tune、Brainfeederのようなエッセンスを感じるエレクトロニックミュージックの作品になっています。この作品がリリースされた後のパフォーマンスでは今までとはスタイルの違ったDJをしたり、ライブセットを取り入れたりすることは考えていますか?

Baauer - パフォーマンスは確実に変わると思う。さっきの話もそうだけど、例えばEDCみたいなところでは、そこにいるみんなが確実に楽しめるように意識してやる。それはつまり、必ずしも自分が心から好きではないものでもやるっていうことも含まれてて、しかも徐々にそういうことが増えていって、ある時「あれ?今プレイしてる音楽は実はあんまり好きじゃないかも」ってなった。今回のアルバムを出したら、このアルバムを中心にライブを構成するつもりだし、この音楽を存分に経験してもらいたいと思ってる。

 - 自分も含めてあなたのプロダクションの専門的な技術について知りたい人も多いと思うので質問させていただきます。“PLANCK”や前作のリードシングル“GoGo!”などの楽曲では壮大さを感じさせるようなトランス系のシンセやSuper Saw系のリードシンセが使われています。これはどのようなプラグインで作っているのでしょうか?

Baauer - 実はプラグインを使うのがイマイチ好きじゃないんだよね。実際滅多に使わない。なんかいちいちノブを調整したりするのが全然好きじゃなくて……シンセでサウンドデザインするっていう、音楽制作のそこが好きって人も大勢いると思うんだけど、でも僕はそこは本当にどうでもよくて。僕は全部オーディオクリップを並べて切り貼りしてコラージュする感じで作ってるよ。

 - “HOT 44”や“GROUP”ではビッグルームなサウンドやダブステップのようなベースが使われていますが、これらはどのようにして作られているのでしょうか?

Baauer - それもさっきと一緒(笑)。いろんなところからサンプルしたオーディオクリップを切って貼ってコラージュを作る感じだよ。

 - サンプリングについての質問です。以前から“GoGo!”では古いR&Bのボーカルを使ったり、“Sow”ではバイレファンキのボイス、“Paauer”ではサイレンの音とボーカルを混ぜて使うなど、普通では考えられないようなサンプル使いが目立っていました。今作ではますますサンプリングの比率が上がり、より「変な」サウンドが多く鳴っています。このようなサンプリングのアイデアはどのようにして生まれていますか?

Baauer - 大体は気になる音が耳に入ってきた時。それはYouTubeの動画を観てる時でも、何かの番組を観てる時でも、誰かのInstagramのストーリーでも、とにかく何でも。基本的に一日中ネットだから(笑)。

 - “HOME”では他の曲から浮いたような、TOTOのようなシンセと流行りのオートチューンがかかったボーカルが聴けます。この曲がこのアルバムに入っていることが何かの皮肉でもあるようにも思えますが、どのような意図でこの曲は作られたのでしょうか?

Baauer - この曲は結構前に作ったもので、ずっといいヴォーカルを探してたんだ。そしてついにBipolar Sunshineを見つけて、すごくいい感じに仕上がって。この曲は自分としてはここでちょっと一休みという感覚なんだよね。ここまでが濃くて強烈でいろんなことが起こってて刺激が強い部分もあって、だからせめてここでほんの束の間だけでもクールダウンが必要だと思ったんだ。ちょっとリラックスしようかっていう。

 - 最後に、この『PLANET’S MAD』というタイトルとこのアルバムにはどのようなメッセージが込められているのでしょうか?

Baauer - 元々このタイトルはただのノリだったというか、つけた時はほぼ何も考えてなくて。タイトル曲のデモを作った時に、何も考えず「PLANET’S MAD」とタイプして。でも作り続けていくうちに、この言葉が際立ってきて、アルバムの名前としていいかもしれないと思えてきて。いろんな意味を持ち得るというのが一番気に入ってる部分なんだ。

 - 何も考えずにつけたわりに、今まさにPLANET’S MADな状況になってますが。

Baauer - 本当に。一番クレイジーな偶然だよね。今起こってることは本当に恐ろしいけど、このアルバムが少しでも気を紛らわしたり、逃避したりするのに役立ったらいいなと願ってる。

Info

label: Beat Records / LuckyMe
artist: Baauer
title: PLANET’S MAD
release date: 2020.06.19 FRI ON SALE

国内盤CD:BRC-640¥2,200+税
ボーナストラック追加収録/解説書封入

BEATINK.COM
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=11003

TRACKLISTING
01. PLANCK
02. PLANET'S MAD
03. MAGIC
04. YEHOO
05. PIZZAWALA
06. REACHUPDONTSTOP
07. HOT 44
08. AETHER
09. COOL ONE SEVEN ONE
10. REMINA
11. HOME
12. GROUP
+ Bonus Track

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