【インタビュー】kZm 『DISTORTION』|葛藤がないと何も書けない
YENTOWNに所属するラッパーのkZmがリリースした2ndアルバム『DISTORTION』は、間違いなく今年上半期の日本のラップの話題作だろう。前作『DIMENSION』も十八番のダークでエネルギッシュなトラップからメロディックなフロウまでデビュー作とは思えないクオリティの作品だったが、今作ではダンスミュージックやトラップに対する考え方の変化により、サウンド面でも幅が広がっている。
さらに前作から変化した部分はゲスト陣の充実だろう。前作はYENTOWNのメンバーが中心となっていたが、今作では楽曲のテイストに合わせたラインナップとなっており、前作にも参加していたBIMや5lackに加え、下の世代のTohjiやLEXも名を連ねている。新世代への葛藤からも抜け出して傑作を作り出したkZmに話を訊いた。
取材・構成 : 和田哲郎
- まずはリリースおめでとうございます。アルバムの制作自体はいつからスタートしていたんですか?
kZm - ありがとうございます。2年前に1stの『DIMENSION』を出して、まとまった作品を出したら「こんなにもライブが増えるのか」って感じで、ライブが多くなってしまって、ほぼフィーチャリング以外は、自分の制作っていうのは1年ぐらいやってなかったのかな。それで“Yuki Nakajo”をVaVaくんと2019年の1月ぐらいに作って、「じゃあそろそろやるか」って感じでその時期に“Star Fish”も作りました。それである程度大枠が決まって、「このノリに色々追加していこう」っていう軸となるところが二つ出来たので、そこからワーって。だから1年ちょいぐらいで出来たっすね。
- “Star Fish”と“Yuki Nakajo”は楽曲のテイストとしては両極ですよね。それが軸になるというのは面白いです。
kZm - 基本的に両極端で。『DIMENSION』だったら両極端なハードな曲と静かな曲があって、今回はそれにプラスで何かを付け加えて、新しいゾーンが欲しかったんですよね。踊れるのを作りたくて。そこは上手くいったかなって。
- 例えばDaichi Yamamotoとの”Give Me Your Something”はスムースなハウスですし、ハードめな“バグり”もガバを用いたビートですね。踊れるものにしたかったのはどうしてですか?
kZm - ライブもいっぱいやってきて、ある程度お客さんに「モッシュをやってくれ」って言ったらモッシュしてくれるようになったし、「静かに聴いてくれ」って言ったらみんな聴いてくれて、っていう感じはあったんですけど、自分も含め他のヒップホップのアーティストのライブを観てもお客さんが曲を聴いて自発的に踊ってるって感触は無くて。みんな音楽は好きなのに、好きに踊ってる感じが無いのが凄くもったいないなと。お客さんが感じたままに踊れるような曲が出来たらなと思って作ったっていうのもあるし、今までハウスとかテクノとか超嫌いなジャンルで「つまんない、なんなんだ」って思ってたんですけど、DISK NAGATAKIとかと出会ったりしてから「これもしかしたら今一番カッコいいんじゃないか」みたいな。シーンとか夜遊んでる人たちを見ても、感度が高い人たちはそっちに行ってるなって感触があって、ちょっと興味が出たんですよね。そこから掘り出して、今では超聴いてるっすね。
- 普通に家でも聴く?
kZm - 家で聴いてるっすね。移動中でも、自分がその曲のPVの主役になってる感じというか、出来事がドラマチックになるというか。ハウスとかそこら辺との出会いはすごく大きかった。自分の中で革命でしたね。それまではオルタナとかイギリスのバンドとかを聴いてたりしてて、そこにもちょっと飽きてきたなっていう感触があったんで。それが去年の秋頃。
- じゃあ去年の秋頃からハマっていって、「じゃあアルバムに入れちゃおう」みたいな感じですか?
kZm - そうですね。そういう要素を入れたくなったっす。
- マネージャーさんから1年前ぐらいに「kZmが最近ライブに対する意識も変わってるし、自分のアーティストとしての意識も変わるようになってる」っていうのを聞いていて。それでこのアルバムを聴いたら、アーティストとしての意識や音楽性の幅も凄く広くなってるし、進化の証みたいなものが見えるアルバムになったと思うんですけど。しかも今回は前作よりもっとゲストの幅も広いですよね。ゲストを沢山入れようと思ってやったのか、自然にそうなったのかどちらでしょう?
kZm - 作り方としてはフックとヴァースを作ってから、自分のペンが進まなくなったら「この曲だったら誰が合うかな」って探していく作業なんで。基本的には「誰が合うかな」っていうのをやっていったらこういう布陣になったんですよね。もちろん何曲かは「この人とやろう」って作ったものもありますし。結構後半の方にボボボって増えていって、「ちょっと多すぎかな」とも思ったんですけど、マネージャーからも「良すぎるから3rdに取っておかない?」みたいなことも言われたんですけど、それはちょっと俺の「今の全力を出す」っていう芯とズレるなと思って。ちょっとこんな盛り沢山な感じになったっすね(笑)
- しかも、ただ身内で固めるとかじゃなくて、ちゃんとその曲調に合ってる人が選ばれてるのが素晴らしいなと思って。ディレクター的な視点があるのが興味深いなと思いました。
kZm - kiLLaの時とか、俺がラップを始めて「みんなやってみようよ」って感じで誘ったんですけど、最初のうちとかみんなのイメージやビジュアルを作ったり、「こんなビデオを撮ろう」とか、そういうディレクター的な立ち位置にいて。最初の方は「俺そっちの方が合ってるのかな」とも思ったぐらい、そういうことは割と好きで。でも結局自分でやりたいってところに落ち着いて今やってるんですけど。割と自分のことを客観的に見るってところは得意っすけど、ちょっと自分の嫌な部分でもありつつ。そこで悩んだ時期はあるかもですね。
- 「嫌なところ」っていうのは?
kZm - なんですかね。やっぱりそういう視点も大事だと思うんですけど、自分がアーティストってなるとクリエイティブにバコって浸れないっていう、そういうのが嫌だと思ってた時期もあるんですけど、今は上手いこと歌詞やビートを作るときは思い切り自分の世界にディープに入って、出来たときにディープな場所からバッて上がってそれを見る感じに近いのかな。上手くバランスが取れるようになってきたかなと。
- 客観的に見れるからこそだと思いますけど、悩みみたいな部分も今回のアルバムに入ってる気がするんですよね。
kZm - なんか、変に冷静な自分が一人いる感じがしますね。それこそ前回『DIMENSION』を出してある程度自分が思っていたような反応は得られて、飯が食えるようになって。「まあ、取り敢えず俺みたいな奴は当分出てこないだろうな」って思ってたら、1年ですぐ自分がヤバいと思うようなTohjiとかLEXとかが出てきて、「こんなに次の世代が出てくるのが早いんだ」っていう実感があって。そこで、それを自分の中でどう処理するかって問題が出てきて。次の世代のことを突っぱねて認めない人が多いなって感触だったんですよね。そんな奴は話題にも上がらないし、話にも出さないし。でも突っぱねるってことはヤバいと思ってる証拠じゃないですか。「うわっ」って思ったことは自分がヤバいって思ってるってことだから、それに素直になろうと思って。Chakiさんも言ってたんですけど、ヒップホップって若者の音楽だし、正直若いってだけでそれは勝ちというか、正義だし。そういうところを認めて、線引きはもちろん大事だと思うんですけど、そこは自分にピュアになろうと思ったっすね。
- 言ってもkZmさんもまだ若いじゃないですか。だからこそより難しい部分もあると思うんですけど。“Runnin’”のkZmさんのバースはその2人についての葛藤を歌った曲なんですよね。でも、アルバムに二人が入ることに凄くびっくりしたんですよね。これは自分の中のイメージだから本当は全然違うかもしれないんですけど、kiLLaとか初期のYENTOWNはあまり周りと関わらないようなイメージだったし、そこが今回の2ndの幅広さによって良い意味で裏切られた感じがありますね。
kZm - それは単純にカッコいい人が増えたっていうのがデカいっすね。多分こんなにいなかったと思うんですよ。凄く良いことだと思います。
- パーソナルな変化とかもありましたか?BIMくんはkZmくんの存在はすごく大きいと言ってました。
kZm - ありがてえ(笑)それこそ、ライブとかにもちょっとずつ表れてると思うんですけど、「あんまりカッコつけなくていいのかな」って思ったっすね。kiLLaやめて、アルバム出す前のライブとかはMCも殆どしないし、ちょっと「kZm」ってアーティスト像に入ってた部分があるんですけど、周りとかで自分の目指してるアーティスト像に呑まれていった奴とかもいるので。結局ある程度世の中の人がカッコいいと思ってくれてるってことは、そのままの自分でカッコいいってことなんで、MCとかも正直今喋ってるようなトーンで喋ってるし、そこはやっぱり5lackとかBIMとかの感じに影響を受けたかもしれないですね。特に5lackはMCとかもカッコつけてないと思うんですよ。普段通りかと言われたらちょっと違うかもしれないですけど、そういう部分で本物を見た気がして。「俺も変にカッコつけるのはやめよう」って思ったっすね。
- そうすると、自然ともう少し年下とかに対して寛容になれるというか。
kZm - そうかもしれないですね。若いとはいえもう26なんで、大人になるってこういうことなのかなって思ってるっすね。
- じゃあもう少し具体的な曲のことを訊いていきたいんですけど、“GYAKUSOU”はKenny Beatsですよね。実際に彼のスタジオに行っていましたが、その時の思い出はありますか?
kZm - VERDYくんの映画の主題歌を作るっていうので行かせてもらって。Kennyはめっちゃ好きなんで、本当は最初はもっと曲を練りたかったんでビートを先に送ってくれって言ったんですけど、「俺はその場のセッションでやりたい」って言われて、もちろんリリックとかも書いていかずに行って。「こんな感じのを作りたい」って言ったら本当に15分ぐらいで出来て、「じゃあリリック書こう」ってなったとき、やっぱりKennyとやるっていうのでぱっと出てきても「これじゃない、これじゃない」とか少し考えちゃって。俺の顔色にも表れてて、書き出しを20分ぐらい迷ってたらKennyに「ちょっと一回あれ見ろ」って言われて、Kennyのスタジオにある「DON'T OVER THINK SHIT」っていうネオン管を見て「お前日本人だろ?日本人でこのスタジオにいるってことは既にお前がFireだからいるわけで、ああいうことだから」って言われて。それで俺もパッと「だよね」ってなって、バーって書いて。テーマに関してはスタジオに行くときにYOUTHQUAKEのUDAIって奴が運転してて、tokyovitaminのVickとかも一緒にいたんですけど、その時にUDAIが4車線ぐらいの車線に右折で思いっきり逆走して、本当に死にかけて(笑)全然笑い話なんですけど。そのトピックが出てきてからは速かったっすね。なんで、めちゃくちゃ良い経験になりました。結構俺も頭でっかちになるところがあったんで、自分のファーストインプレッションを信じて走らせてくっていうのは凄く良い経験になりました。
- じゃあ、これまでは結構歌詞を考えがちだった?
kZm - いや、でも前回は結構内省的で、激しい曲も自分の内側を削ったような曲が多かったってこともあるんですけど、今回は割とChakiさんとビートを作ってその場で入れてくっていう制作が多かったので、スタジオで書いたのが多かったっすね。
- なるほど。続いてはLEXくんとの“27CLUB”ですが、これは二人の衝動的な部分が上手く出てるような曲になってますよね。
kZm - そうですね。この曲に関しては去年の夏に色んな人に凄く迷惑をかけた事件があって、その時は結構人に迷惑かけるようなことをやらかすっていうか、度が過ぎた部分が色々あった時期で。周りの後輩とか、Chakiさんのお世話になってる人に迷惑かけたりとか、色々あって。この勢いで行くと来年あたり死ぬなって感じがあって、もちろん自分が悪いんですけど、その時の葛藤とか周りから言われたこととか、そういう鬱屈を晴らしに行った曲で、だから凄く激しい感じになって。この曲が出来たときにヴァース2を書こうと思ったんですけど、ちょっとやり切ったなって感じがあって。「これだったら誰が合うかな」って考えたときに、LEXとやってみたいなと思って。インスタをフォローしたらメッセージが来て「曲やりましょう」って感じになってて、その時はまだ会ったことなかったんですけど、送ったらあのヴァースが速攻返ってきて。びっくりしましたね(笑)「うわー」みたいな。
- LEXくんの凄さってどういうところだと思いますか?
kZm - 彼もハードなものから、両方出来る人だと思っていて。今の日本だけで言ったらフロウのデザインに関しては右に出る者がいないんじゃないかなと思って。色んな若手が出てきたっすけど、この感じだったら出来るなっていうのが殆どだったんですけど。アルバムに入ってる人全員に共通することなんですけど、全員自分には絶対出来ないことをやってるっていう。LEXのフロウとか予想もつかない、めちゃくちゃフレッシュで「若者」って感じで(笑)本当に若さって正義なんだなって。
- 次の“JOZAI”、“Anybody..”はディープなラインに入っていくというか。流れも凄く上手く出来てるなと感じるんですけど、流れは考えていた?
kZm - いや、制作中はやりたいことを全部やっていく感じなので、割とたまたまなのかなと。並べてみて聴いたら「うわ、なんか凄く良い流れだな」と思って。最初ハードにして、ガーっとやっていったらよれていって、踊れるようになっていって、ちょっと感傷的な曲になってっていう。割とたまたまなのかな。
- なるほど。“Anybody..”の小袋さんはどういう流れで?
kZm - 小袋くんに関してはそれこそDISK NAGATAKIが紹介してくれて。小袋くんの1stは俺もめちゃくちゃ聴いてたし、小袋くんも俺のことを知ってくれてて、「じゃあやろうか」みたいに自然な感じでやって。あの人はすごいっすね、本当に。Chakiさんのスタジオに来てもらったんですけど、Chakiさんと小袋くんで宇宙人の会話みたいになってたっすね(笑)本当に音楽好きなんだなっていうのが伝わってきたっす。
- “Anybody..”の歌詞は結構さらけ出してる感じがあるのかなと。
kZm - あのビートは相当変化したんですけど、最初の頃は全然書けなくて。「じゃあ、歌詞書けねえって感情を書いちゃおう」とか、悩みだったりそういう感情を描いた感じですね。
- そういう葛藤みたいなのを歌詞にするっていうのは、「カッコつけなくていい」みたいなところから来てるのかなと思うんですけど。
kZm - というか、葛藤が無いと何も書けないっす。本当に俺は辛いこととか嫌なことが無いと全然歌詞書けないんです。「ハッピーだ、わー」って感じだと、結構不安になる。ツアー中とかやっぱりみんなにキャーキャー言われたりしてハッピーじゃないですか。だからツアー中とかあんまり曲書けないかもっすね。色々と溜まっていかないと。
- それを曲として出すことでポジティブなものになっていくという。
kZm - 浄化されていくというか。まあ、多分みんなそうだと思いますけど。自分は音楽に対してはずっとそうで、1stをやってる内に気づいたっすね。「これ、あれのことじゃん」とか。結構言い回しとかは比喩とか使って分かりづらくなってますけど、さらけ出すって部分に関しては今回の方が分かりやすくなったのかなという感覚はあります。
- イントロとスキットがしっかりあるっていうのも面白いですよね。
kZm - そうっすね。『DIMENSION』の地続きって感じで考えていて。イントロは映画とか観ていて、凄く不気味な演出とかをしたいときにシュールで面白いところから切り替わることでコントラストが出来るってことを学んで。最初は聴いてる人をめちゃくちゃ裏切りたいなと思って。YouthQuakeのBOBBYにお願いして台本を書いて「こんな感じで」ってやったらぴったりハマって(笑)スキットも1stのものから続いていて、そういう物語をもうちょっと想像してもらえれば面白いかなって。「何のこと言ってるのかな」って。答えはあまり出したくないところっすね。
- “バグり”、“G.O.A.T”辺りはChakiさんのビートもめちゃくちゃカッコいいし。“バグり”はハードトランスみたいな感じですよね。
kZm - 「新しいことがやりたいね」って言ってて、四つ打ちみたいなのはやりたいってなって。でもやっぱり四つ打ちって、最初はあんまり音に歪みがないジャンルだと思って。「なんか無いっすかね?」ってChakiさんに聴いたら、Chakiさんがエレクトロやってた時に凄くダサいと思ってたジャンルがあるって言われて。「今思うとカッコいいかも」みたいなのでガバのビデオ観て、それが良い意味で超ダサくて(笑)「これやりてぇ」と思って、それが“バグり”になったっすね。“G.O.A.T”は最初キックの入れ方とか四つ打ちで作ってたんですけど、ああいう感じになって。本当に何とも言い難い感じになって面白かったっすね。
- USも日本もですけど、ちょっと前はトラップが中心にあったんですが、でも今はそこを基盤に本当に何でもありになっているというか。
kZm - そうですね。マジでヒップホップを中心に一つになっていってるじゃないですか。多分またこのブームが弾けて、細分化される時代が来ると思うんですけど。「いい時代に生まれたな」っていうのを超感じます。トラップとかマジで俺は今聴いてなくて(笑)全部一緒に聴こえて、危機感もあるし、本当に何もいいと思わなくて。それはそれでちょっと寂しい気もするんですけど。やっぱり後輩のYOUTHQUAKEのカズホから「これがいいんだよ」って言われるんですけど、あんまりわからなくて(笑)そこのコアの部分を忘れたくはないですけど、今の現行のトラップには喰らうことはなくなりましたね。
- 次の“Give Me Your Something”もハウスですよね。これも、Daichi Yamamotoさんが凄くぴったりだなと思いました。
kZm - いや本当に、ラップしなくてよかったって思いました(笑)超ビビったっす。ラップしてたらちょっとボツになってたかもってぐらい、バッチリ嵌めてきてくれて。同い年だし何回か遊んだことあるんで。すげえ良い奴っすね。
- Daichiくんも、また違うタイプで何でも出来るというか。
kZm - そうっすね。同じシーンにいますけど真逆のところから同じところに向かってるというか。その凄く真逆から行ってる感じが面白くて。
- 次の5lackさんとの“Fuck U Tokio I Love U!”ですが、kZmさんも東京生まれでずっと東京で育ってきてる訳じゃないですか。生まれ育った街への愛憎が凄く込められてるのかなと。
kZm - 東京の渋谷で生まれて...地方行って思うんですけど、東京は本当に横の繋がりとかが弱いし、みんな素直じゃないというか、形式的になってるというか、そういう嫌なところが凄く目に付くようになってきて。「こうじゃないんだよな」みたいなイメージが最近ずっとあって。クラブとかで「うっす」みたいな、「別にお前と喋りたくねーよ」ってお互い思ってても、喋るときあるじゃないですか(笑)あれ本当に無駄な時間だなと思って、そういうのが多くなってきて、なんか東京嫌だなって思ってたんです。これはそういう曲を作ろうと思って作ってたんですけど、「これは誰が合うのかな」って思って真っ先に浮かんだのが5lackくんで。あの人も東京育ちで、色んな嫌な面を知ってる人だと思うんで。でもやっぱりフッドだしそこをRepしたいっていうのはあるんで、「今の東京を燃やして、俺らが新しく作り上げていく」っていうような曲を作りたくて。また違う視点でラップしてくれてるんで、自分的にもすごくピッタリだったっすね。
- まだ東京にいる人と、離れてる人の視点の交差の仕方が面白かったです。多分今回みんなが一番びっくりしたのは野田さんだと思うんですけど、これはどういった経緯で?
kZm - もともと中学の時にクラスメイトにRADWIMPSを勧められて。当時は今と真逆でヒップホップしか聴かないダサBボーイって感じだったんですけど、本当にしつこくお勧めされたので聴いてみたらどハマりして。あの人の音楽って結構ラップパートみたいなのもあったりして、しかもその内容が今現存するラッパーが誰も言えてないような深い、海底2万マイルみたいなことを言っていると思っていて。洋次郎くんに関しては俺の音楽観が広がるきっかけになったというか。My Chemical Romanceとかも聴いてたっすけど、そういうのにも興味が出てきて。そこから自分で音楽をやるようになって渋谷のクラブとかで夜ライブしてたら、洋次郎くんがいて「うおー」みたいな。知り合いを介して紹介してもらって、俺のライブにも来てくれるようになったし、結構な頻度で遊ぶようになって、洋次郎くんの家に行って朝9時まで飲んだりとか。距離が近くなって「やろう、やろう」って言ってたんですけど、ちょっと「俺のアルバムに呼べるのかな?」と思ってダメ元で言ってみたら快諾してくれて。洋次郎くんとは多分これからもやっていくのかなっていう感じはあります。本当に夢は叶うんだなっていうのをマジで実感して。正直今でも夢か現実か分からないぐらいフワフワしてて、本当に感動しましたね。
- 曲自体も、「ポップな」っていう言い方ってヒップホップの人はあまり好きじゃないと思うんですけど、良い意味でポップスとしての可能性があるものになったというか。いわゆるラップシーンだけとか、そういうものじゃない気がしていて。
kZm - そうですね。本当に青春の人って言い方はアレですけど、中学の時にもめちゃくちゃ聴いてたんでそれの「追憶」っていうのと、恋愛を拗らせた感じがしてて(笑)そういう空気が得意な人なんで、昔の女性との思い出とかを歌った歌なのかなって。その「追憶」と「追憶」がかかっているというか。
- この曲から後半になってくる感じですけど、メロウなものとしっかりラップするものは、ビートを聴いた時に自分の中で「これは歌の方だな」みたいな感じ?
kZm - 歌い方とかはアレですけど、それは多分一瞬で判断つきますね。
- 歌のものとラップのもののリリックの書き方が違うとか、そういうことはあったりするんですか?
kZm - うーん、どうだろうな...キャリアの最初はラップだけしてたんですけど、ラップだけだと無駄に攻撃的になるというか。ラップの性質もありますけど。で、俺の伝えたいことはそれだけじゃないし、そうなってくると自然と歌が出てきたというか。「歌いたい」って思ったというより、表現の幅的に歌が手段として出てきたっていうのが...自然な流れで歌う感じになったという。
- 感情の違う部分を表現するための手段、ってことですね。“Yuki Nakajo”はアーティストであり友人について歌った曲ですよね。
kZm - はい。俺の高校からのクラスメイトで、本当に電車で一緒に学校に行く仲で。ヒップホップ一緒に聴いてて、卒業してみんな社会人とかになったりして、その中で俺とYuki Nakajoだけは自分のやりたいことをやってくってことになって。みんな年を重ねるごとに給料とかもアップしていって安定した感じでやってるっすけど、俺らは何も分からない中飛び込んでいったから、世の中の流れが変わったり旬が終わったりするかもしれないけど、やり続けるしかないってことでそいつに歌いました。「一緒に頑張ろう」って感じですかね。Yuki Nakajoの個展で流れていた曲です。
- そこから“鏡花水月”、“But She Cries”のリミックスになりますけど、BIMくんは改めてどういう存在ですか?
kZm - うーん、なんか、やっぱり同い年で、ラッパーとしてっていうか、多分音楽やってなくても友達になってたかなって思います。別に音楽の話もするし、全然色々背景とか違うんですけど、なんか気が合う。あいつ、普通に面白いっすね(笑)結構最初は仲悪かったし、お互い尖ってたっていうのもあって変な感じだったんですけど。俺がkiLLaいたときに悩んでて、CDSと俺で飲むことがあって。大人数でやってることで同じ悩みを抱えてたみたいで。そこから殻を開いてくるようになって。本当にあいつも凄いドアがあって。俺は意外とそういうのあんまり無くて、自分が開けたらあいつも徐々に開けてってくれたのかな。キャリア的には先にやってたっすけど、パイセンっていうの嫌だな(笑)すげえ良い友達っすね。
- この曲は元々一人のバージョンがあったじゃないですか。リミックス作るのももう決まってた感じですか?
kZm - いや、LAに一緒に行くタイミングがあって、BIMはちょっと遅れてきたんですけど。Heiyuuと“But She Cries”のビデオを撮って、「こんなの作ったんだよね」って聴かせて。その時あいつも同時にLAでビデオ撮ってて、それで帰ってきて、一週間に一回ぐらいはあいつと普通に飲んでたんですよ。「やっぱ“But She Cries”好きだわ」ってなってくれて、俺も「なんかちょっとBIM合うな」っていうか、自分で聴いてもちょっとSUMMITの色が出てるというか。だから「ちょっとBIMやってよ」って言ったら「むしろやりたいって言おうと思ってた」って感じでやってくれて。自然に良い感じになりました。
- 確かに、BIMくん側の作品に入ってても全然おかしくない感じがしますね。1stも“Dream Chaser”が最後の曲ですよね。今回も“TEENAGE VIBE”が最後の曲ですけど、これは狙って?
kZm - 狙ってます(笑)
- しかもストリーミングサービスで聴いてると、最後の曲までってなかなか聴かれなかったりするじゃないですか。だからわざわざ一見不利なところにシングル曲っぽいものを置くのはなんでなのかなと。
kZm - 単純に1stの流れを汲んでやりたかったんで、その流れでメイン曲というか、そういうテンションを持った曲は最後にしようって決めてて。まず「誰とやろう?」って思ってて。で、やっぱりTohjiとやろうってなって。実はTohjiと俺って青春を過ごした場所が一緒で、俺の公立の中学の隣に通ってて。本当に隣で、「あの公園行ってた」みたいなのが全く一緒で。もちろんお互い認知はしてないんですけど、同じところで遊んでて。「あいつのMallの中にあそこも入ってるのか」って思うと凄いシンパシー感じて。初めて飲んだときにそういう話になったんですけど。それでやっぱり共通してる部分って、遊んでるところが一緒だったり、変に子供っぽいというか、純粋なところがちょっと似てるなと思ってて。性格的には俺と真逆だと思うんですけど、そこはDaichiくんと一緒で真逆のところから一緒のところに向かってて。好きなものとかも凄く似てるし、凄く面白い子だなと思って。彼とやるなら昔のティーンエイジの思い出を大事にしようっていうので、そういう感じになったっすね。
- ビデオも良かったですね。
kZm - そうですね。ギリギリ撮れたって感じっすけど。
- これが最後に来ることで締まってる感じがありますね。
kZm - こんなに上手く締まってくれるとは思わなかったっすね。もうちょっととっ散らかっちゃうかなと思ってたんですけど。Chakiさんのミックスのお陰なのかな。
- Tohjiくんのヴァースについてはどう思いましたか?
kZm - 「そう来るか」みたいな(笑)凄い2000年の感じがして。俺はあんまり聴いてなかったんですけどDragon Ashとか、そういうバイブスを今っぽくやってて。やっぱちょっと前とかは90年代が戻ってくる流れがあって、今は2000年代がバックしてると思うんですよ。いち早くそういう感じをやってるのが凄えなって。俺も最初聴き取れなかったっすね(笑)でも内容とかもスタジオで説明してくれて、俺と関係してくれてるラインもあって。凄い嬉しかったっすね。ありがたかったっす。
- アルバムが出てなかなかライブもいつから再開出来るか分からないですが、リリースしてから何をしてる感じですか?
kZm - 制作の最後の方も全然外に遊びに行ったりしてなくて、ずっとスタジオに行ったり家にいることが多くて。まあ、出したらちょっと色んなところ行きたいなとか思ってたんですけど。これになっちゃったんで。本当にまだインプットが足りなくて3rdにいきなり行こうって気持ちになれなくて、料理してるか犬撫でてるかって感じですね(笑)いつになるんですかね。早くライブやりたいですね。
- じゃあ、今はとりあえず3rdに向けてのインプットもしつつというか
kZm - そうですね、もちろん。最近凄く良いアイデアとか、友達との会話とかから「そういうの良いかも」っていうテーマとか出てきたりして。勘の良い人は『DIMENSION』、次元で、その次元を自ら『DISTORSION』で歪ませて、勘の良い人なら次のタイトル分かるんじゃないかなっていうのもありつつ。でも、梅雨ぐらいにはちょっとまた制作に入りたいなっていう。
- ありがとうございました。
Info
▼Album Information
kZm 2nd Album『DISTORTION』 2020年4月22日(水)CD & Digital Release
BPMT-1019 / ¥2,500 + tax
01. Intro - Distortion - (Prod. Chaki Zulu)
02. Star Fish (Prod. Chaki Zulu)
03. GYAKUSOU (Prod. Kenny Beats)
04. 27CLUB feat. LEX (Prod. SIL V3 R 100 & Chaki Zulu)
05. JOZAI (Prod. Haaga)
06. Anybody.. feat. 小袋成彬 (Prod. Chaki Zulu & 小袋成彬)
07. Skit
08. バグり feat. MonyHorse (Prod. Chaki Zulu)
09. G.O.A.T (Prod. Chaki Zulu)
10. Give Me Your Something feat. Daichi Yamamoto (Prod. DISK NAGATAKI & Chaki Zulu)
11. Fuck U Tokio I Love U! feat. 5lack (Prod. DISK NAGATAKI & Chaki Zulu)
12. 追憶 feat. Yojiro Noda (Prod. Chaki Zulu)
13. Half Me Half U (Prod. RRAREBEAR)
14. Yuki Nakajo (Prod. VaVa)
15. 鏡花水月 (Prod. U-Lee)
16. But She Cries Remix feat. BIM (Prod. Chaki Zulu)
17. TEENAGE VIBE feat. Tohji (Prod. Chaki Zulu)
ダウンロード / ストリーミング / CD購入はこちら: https://smarturl.it/kZm_DISTORTION