【鼎談】Ed Piskor、Ghetto Hollywood & PUNPEE | アメコミとマンガ、そしてヒップホップ

PUNPEEが昨年末にリリースしたBlu-ray『SEASONS GREETINGS'18』。2018年5月に新木場スタジオコーストにて開催されたワンマンライブの模様を収録したこの作品のカバーアートを手がけたのはヒップホップの歴史をアメコミ形式でまとめあげた名作『HIPHOP家系図』でも知られるEd Piskor(エド・ピスコー)だった。そのEdはマンガなどから大きな影響を受けた日本に一ヶ月ほど滞在し、PUNPEEのアテンドなどで日本のサブカルチャーの世界を堪能した。

その期間中に現在週刊SPA!でマンガデビュー作『少年・イン・ザ・フッド』(3話まで無料公開中)を連載中のGhetto Hollywoodを交えてEd PiskorとPUNPEEとの鼎談が実現。3人が共通して影響を受けたアメコミ、マンガそしてヒップホップについて話は盛り上がった。

通訳 : 柳亨英

Ghetto Hollywood - コミックとの出会いとマンガとの出会いはそれぞれ別々だと思うんですけど、それがいつかそれぞれ教えてもらえますか?

Ed Piskor - 元々アメリカのコミックは生まれたときからで、コミックが無いことを覚えてないくらいだよ。最初に読んだのは『X-MEN』だった。最初に読んだマンガは白土三平の『カムイ伝』だった。『カムイ伝』がアメコミと同じリーフでリリースされていて、それが近所のホームセンターで売ってたんだ。トイレやハンマーを売っているのと一緒に、ホームセンターのおもちゃ売り場にコミックが置いてあった。そこに『カムイ伝』があって、それが初めて見たマンガじゃないかな。

Ghetto Hollywood - 最初に読んだ印象はどんなものでしたか?

Ed Piskor - ビニール袋に3冊くらいコミックが入ったものが売ってて、そこに『カムイ伝』と『バットマン』と、何かクソみたいなマンガが入ってて(笑)売ってる人も中身が分からないんだ。それでたまたま開けたら、もちろん表紙のインパクトもあったけど、開いて見たら刀で真っ二つに切られたり手裏剣が刺さってたり、裸の女の人が出まくってて、小学5、6年生の頃の自分には凄いインパクトだった。そこから30冊以上あるものを全部買い集めたよ。今SPAで連載している『少年・イン・ザ・フッド』って何話先まで作業してるの?

Ghetto Hollywood - 今載ってるのが13話で、まさに今描いてるのが15話ですね。月3回掲載されます。

Ed Piskor - なるほど。

Ghetto Hollywood - アメリカには週刊のマンガは存在しないんですか?

Ed Piskor - RAIJIN COMICSっていう週刊誌が一度だけアメリカで刊行されて。それはコアミックスのコミックバンチのアメリカ版で、『蒼天の拳』がメインだったんんだけど『シティハンター』や『SLAM DUNK』が連載されてて、最後の方には『BOMBER GIRL』も連載されてた。

Ghetto Hollywood - 俺、一冊持ってるな。

Ed Piskor - アメリカに出てるときはビニールに入ってて、その中に10ページの冊子が入ってて、その中に日本のカルチャーやコミケのレポートだったり、漫画家のスタジオ訪問が載っていて、それが凄く良かった。

Ghetto Hollywood - 週刊マンガって描き直しが出来ないから、日本の漫画家の先生がやってるのは即興のラップみたいなものなんですよね。そういうものにいつか挑戦してみたい気持ちはありますか?

Ed Piskor - そのことはずっと考えてて準備もしてて、ある程度準備が出来たら編集部にネームを送って翻訳しようって話をしてるところだよ。今は自分のマンガをやってるけど、それが終わったら日本でもやりたいと思ってる。それが自分のゴールなんだ。とても難しいけど、難しいほどやりがいがあるからね。

Ghetto Hollywood - アメリカのコミックアーティストでマンガのスタイルをバリバリやってる人ってほぼいないですよね。

Ed Piskor - 今『レッドルーム』っていうマンガを描いてるんだけど、それを切り抜いて日本語に訳して、同人誌にしてコミティアに出そうと思ってるんだ。知り合いにSteven Cummings(スティーブン・カミングス)っていうコミックアーティストがいるんだけど、彼も個人的に自分の作品を日本語に訳して同人誌にしてコミケやコミティアで売ってたから、やっている人はいるね。

Ghetto Hollywood - Edはデビューするときにコミックじゃなくてマンガに詳しいことは武器になりましたか?

Ed Piskor - 基本的にプロでデビューした時はアングラシーンにいたから、その頃はもっと年寄りなんじゃないかと思われてて。その時はマンガの影響は作家としては無かったけど、頭の中ではずっとマンガのことを考えてたんだ。プロとしてやっていく中で、知識がもっと入ってくるとどんどん知りたくなって来た。でも僕がデビューした頃はアメリカのコミックが落ち込んでいてマンガの方を読んでいる人が多くて、全体的にマンガの影響があった頃なんだ。影響を受けたおかげでプロになったのは女性作家が多かったね。だからマンガを武器にしたということは無くて、むしろマンガの知識が色々な人にとってプラスになっていた時期にデビューしたんだ。でもそこからマンガを知りたいという欲が募って、今回の来日に繋がってる。だから僕にとってもマンガは大きかったね。少なくとも、僕がデビューする前ぐらいから大友克洋の『AKIRA』や士郎正宗の『アップルシード』や『攻殻機動隊』を読んでる人は多かったから、何らかの形でシーン全体がマンガに影響を受けていたと思う。

Ghetto Hollywood - 今回の日本滞在についても聞きたいんですが、PUNPEEとはどのようにして出会ったんですか?

PUNPEE - 最初にブルーレイのカバーを描いて欲しいってメッセージをEdに送って。でもそれが1年前で絶対にやってくれないだろうなって思ったんですけど、「日本に興味があるから是非やりたい」と言ってくれて。でも「その代わりに日本に行った時はケアしてくれ」って言われて、それで繋がりました。

Ed Piskor - PUNPEEが俺のことをどうして知ってるのか分からなかったけど、恐らく『ヒップホップ家系図』の日本語版 (PRESSPOP INCより発売)で知ったんだよね。もともと『X-MEN: Grand Design』をやってて、それが2年半続いて後半年はかかるし、21の時にデビューしてから37歳の今まで一度も休みを取ってなくて、自分へのご褒美で日本に行こうと思ってたんだ。そのタイミングとも合ったから、日本を案内してくれれば喜んでやるよ、って仕事を受けたんだ。

Ghetto Hollywood - 『ヒップホップ家系図』は14カ国で出版したと聞きましたが、それに合わせていろんな国を回りましたか?

Ed Piskor - 基本的に世界中を回ってて、海外版が出るとそこに近いブックフェアやコミコンに呼んでくれるから結構行ってた。最近まで仕事としての旅行でカンザスやノースカロライナに行ったんだけど、それでしばらく今年の大きな旅行は終わったんだ。旅行しすぎて軽い風邪が治らなくてしばらくチルアウトしてて、でも来年も日本には絶対に行くつもりだよ。

Ghetto Hollywood - このタイミングでPUNPEEとEdが会うのは、ナードでニューウェーブな新しい波が来てる感じがします。

PUNPEE - カヴァーについてなんだけど、 SP1200とか、もの凄く細かく描いてくれたね。

Ed Piskor - 楽しい仕事だったよ。「(PUNPEEは)俺と一緒じゃねーか」ってなった(笑)「描いてくれ」って頼まれたものが全部趣味が合うから、腹違いの兄弟のように感じるよ。

Ghetto Hollywood - ナードなB-BOYには世界中で会いましたか?

Ed Piskor - やっぱり、そのジャンルを極めた職人みたいな人たちはみんなある種ナードやギークなんだ。PUNPEEがラップをマスターするために凄い時間を割いて、それ一つに時間をつぎ込んでること自体がナードだからね。悪い意味じゃなくて、ポジティブな意味で。今はナードたちが世界を支配してるから、グラフィティアーティストだってトップDJだってみんなギークやナードなんだ。

Ghetto Hollywood - 20年ぐらい前はナードって凄くバカにされてたけど、10年前くらいから俺らの感覚では、Odd Futureとかが出てきたことでナードがトレンドになってる気がしてて。そういうのはアメリカでも実感としてありますか?

Ed Piskor - 俺はコミックを始めてからクソ野郎とは付き合わないようにしてて周りにはクールな奴しかいないから、みんな人のことを気遣って考えてくれる奴しかいないんだけど、一般論として、アメリカはどこか弱みを見せるとそこにマウンティングする人が多い国だから、まだナードをバカにする風潮は強いよ。ただ、日本ではどんな人も優しくしてくれて良い人ばかりだったから、日本はそうじゃないかもね。

PUNPEE - 最初にオファーした時に「出てくるキャラクターを13人描いて欲しい」ってお願いしたら断わられちゃって。その時のことは覚えてますか?

Ed Piskor - ああ、覚えてるよ(笑)時間が無くて無理だったんだ。

PUNPEE - その時は申し訳なかったです。

Ed Piskor - いやいや、問題ないよ。良い物が出来上がったしね。Ghetto Hollywoodに質問があるんだけど、週刊連載は毎話何ページ?毎日のルーティンや作業の時間とか、アシスタントの人数を教えて欲しいんだ。

Ghetto Hollywood - 8ページです。アシスタントは一人で、月曜から木曜日までアシスタントと一緒にペン入れの作業をして、残りの金、土、日でネームを描きます。そのうち2日は遊んで1日でやりますね(笑)

Ed Piskor - じゃあ、基本的に1日2ページってこと?もう一つ訊きたかったのは、話を考えるのにどれだけ時間がかかってる?

Ghetto Hollywood - そうですね。元々ドラマとか映画にしたかったので、話自体はなんとなくあるから、マンガとしての演出を考えるだけですね。

Ed Piskor - 天才だね。アシスタントはどんな仕事をするの?

Ghetto Hollywood - 背景とモブキャラクターを描いてもらってます。アシスタントの子は元々アニメスタジオの進行の仕事をやってたので、俺がネームを渡したらその場で背景の重さを自分で判断して、4日の間に自分で振り分けるところまでやってくれるから、俺はもうネームと資料を渡してるだけです。

Ed Piskor - 遊びに行ったときも、ホワイトボードに彼女が色々書き込んでたから、多分それがそうなんじゃないかと思ってた。

Ghetto Hollywood - そうです。Edはアシスタントをつけたことは無いんですか?

Ed Piskor - 無いよ。俺は座って、自分で全部を描くのが少ないからね。あと、この辺は人が少ないから自分が信用できるほどの人はいないんだ。でも今日は、荷物を詰めるときに小さい緩衝材を詰めるシーンを延々と描いてたから、それは流石にアシスタントにやってほしかった(笑)

Ghetto Hollywood - Instaに上げてた体毛が多いデブのキャラクターの毛の書込みも偏執的でカッコよかったっす。

 

この投稿をInstagramで見る

 

Red Room...

Ed Piskor(@ed_piskor)がシェアした投稿 -

Ed Piskor - 自分で決めちゃったからやるしかないよね(笑)

Ghetto Hollywood - あのキャラクターを見たときの衝撃は、Robert Crumb(ロバート・クラム)と通じるものがありましたね。

Ed Piskor - そう言ってもらえるとありがたいよ。Ghetto Hollywoodのスタジオに行って置いてある本を見ても、言葉は違っても同じ言語で話してる人間だと思ったんだ。持ってる本やコミックにも『Klaus』やJamie Hewlett(ジェイミー・ヒューレット)があったり、アートブックも似たような物を持ってたから、通じるところがあると分かった。『LOBO』のコミックもあったしね。PUNPEEはどうやって『LOBO』の日本語版の監修をやったの?

PUNPEE - 中学生くらいのときからSimon Bisley(サイモン・ビズリー)の『LOBO』の表紙を見て「これ日本語版で読みたいな」って思ってたのを、ジュリアンパブリッシングさんという出版社さんがラッパーだった自分に「アメコミ好きだったら一緒にやりませんか?」って言われて。色々な選択肢があって、Garth Ennis(ガース・エニス)の『The Pro』とか『MANGA MAN』とか色々あった中で『LOBO』が一番反応が良くて、それでやりました。「“Bastich”っていう単語をどうやって訳したの?」って質問が来てますけど、“Bastich”っていうのは『LOBO』に出てくるスラングで、みんなに愛されてる、「良い意味でのクソ野郎」って訳しました。でも結構考えましたね。

Ghetto Hollywood - 『LOBO』はアンダーグラウンドとメジャーのどっちに属するんですか?

Ed Piskor - 20年前は人気があったけど、最近だと「どこ行った?」って感じのキャラになってる。Bisleyも最近は見ないから20代の子たちはあんまり知らないんだろうけど、俺はずっと手元に置いていて、ノスタルジーじゃなくて現役で好きだよ。俺と同じ世代のコミックファンはBisleyが大好きだけど、『LOBO』は暴れん坊でやりたい放題で、すぐ暴力を振るうキャラクターだから、「あれで良いのかな?」っていうのもあったらしい(笑)

PUNPEE - 日本のアメコミファンは、「なんで25年経って今『LOBO』が出るんだ」って結構騒いでて。

Ed Piskor - 日本はまんだらけに行って同人誌を見たら『ブースターゴールド』と『ブルービートル』のBL同人があって、「どういうこと?」って(笑)しかもゲイセックスをしてるようなBLが30冊はあったんだ。普通にDCキャラのランキングをつけたら下の方にしかいかないキャラなのに。だから、日本独特のキャラクターの受け入れられ方が興味深いよ。

Ghetto Hollywood - PUNPEEの同人誌のことは知ってるの?(笑)

PUNPEE - なんか、PSGのがあるかもしれないって誰かが言ってた...でも、もしEd PiskorとTom Scioli(トム・シオリ)の同人誌もあったらどうする?

Ed Piskor - (笑)そういうものを描くのは好きにやって欲しいな。質問があるんだけど、みんなは東京コミコンに行った?

PUNPEE - 自分は今回のコミコンでライブをして。前から何か携わりたくて。コミック好きだし、自分はラッパーでプロデューサーだから何か出来ないかなって。でも今回それが出来て、すげー楽しかった。

Ghetto Hollywood - 俺はそれを観に行ったけど遅刻しました(笑)ぴったり全部観れなかった。

PUNPEE - アーティストアレーも行けたし、友達にも会えたし、すげー楽しかったです。

Ed Piskor - ライブの録画はありますか?

PUNPEE - 多分事務所が持ってるけど、今訊いているところです。

Ghetto Hollywood - Edはずっとアンダーグラウンドコミックでは有名だったと思うんですけど、『ヒップホップ家系図』でヒップホップの歴史を描いて一気に名前が知られましたよね。あのコミックを読んだ時に俺はイコン、つまり聖典という意味で凄く宗教画的なコミックだと思ったんです。ヒップホップは俺らの世代の世界的な宗教みたいなものだと思ってるから。他のコミックで感じたことが無かったヒップホップのスーパーパワーみたいなものを感じたりはしましたか?

Ed Piskor - ずっとヒップホップのコミックを描きたいと思っていて、どうやって描けば良いかわからなくて。でもこういう歴史をちゃんとまとめた体系を作るっていうアイデアを閃いたときに、何か掴んだものを感じたんだ。これは何かあるんじゃないかと思って、完成した時にやっぱりその通りになって。もちろん評判も良かったし、自分が思っている以上に多くの人に受け入れられて、色んな人と繋がることが出来た。中でも3つの特別なことがあって、1つは沢山本を買ってもらったことで自分のために使える時間が増えたってことだ。収入によって今はこんな変なコミックを描く時間も出来てるし、もう一つは見たこともない番号からの電話が沢山かかってくるようになった。ラッパーからの電話かもしれないから、気が抜けなくて必ずどれも出るようにしてて。色んなラッパーからかかってくるから楽しかった。3つ目は、海外版が出たことで外国に呼ばれて世界中を見ることが出来て、それが当然だとは思ってなくて、たまたまこの本のおかげでこんなチャンスを貰えたから、凄くありがたいと思ってる。でも、本を作るたびにこんなことになるとは思ってないよ。あくまでもこの本のおかげだし、ヒップホップのおかげだと思ってる。これで答えになってるかな?

Ghetto Hollywood - バッチリです。書いてあることも、ヒップホップにおける旧約聖書みたいなものじゃないですか。エゴよりも正確さを大事にしたのかなと。

Ed Piskor - エゴは入れないで、なるべく正確さを心がけてる。ジャーナリズムってものを考えるようにしてて、自分がジャーナリストだとは言わないけど、必ず色々なソースを当たって正しいことを言えるようにしてるんだ。なぜなら、生きてる本物の人間のことを描いてるから、一歩間違えれば訴訟を起こされるかもしれないからね(笑)例えばKurtis Blowも本当は変なやつだったかもしれないけど、自分はもっと変なキャラにしたかったけどやり過ぎると良くないから、自分のエゴを抑えてあくまでも自分が知ってる本当の部分だけで描くようにしたんだ。そこをきちんとやったから今の自分があって、訴訟もされてないし、色んなラッパーから怒られることもないし、世界中に行けるんだ。今の状況があるのも、正しく伝えることが出来たからだろうね。

Ghetto Hollywood - 今、日本では凄く上手いマンガ家さんがいっぱいMCバトルのマンガを描いてるんですけど、俺はマンガ家としてのキャリアが全然無いから、ヒップホップに対する姿勢や正確さは大切にしようと思っていて。今の話を聞いて、その考えは間違ってなかったんだなと思いました。

Ed Piskor - 『少年・イン・ザ・フッド』はどんなストーリーなの?

Ghetto Hollywood - 高校1年生の少年が主人公で、いつも遊びに行ってた怪しいおじさんが大麻で捕まっちゃって、偶然そのおじさんが作ったミックステープを手にするんだけど、ミックステープをきっかけに96年に起こったビギーと2パックのビーフとか、ヒップホップの歴史や人種問題とか、人生で大切なことをどんどん学んでいくストーリーです。

Ed Piskor - 英語にも翻訳して欲しいな。

Ghetto Hollywood - それは絶対にやりたいと思ってます。ヒップホップコミックを描いている人とは、世界中を周ってるときにも会ったことはありますか?

Ed Piskor - ああ、いたね。ドイツやノルウェー、台湾、色々なところにいたよ。世界中のどこに行ってもその地域のヒップホップクルーと会ったんだけど、どの国でもグラフィティの優先順位が高かったから、グラフィティベースの絵柄のコミックをやっている人が多かったね。でもアメリカだとグラフィティは今結構下の方で、どうしてもラップやDJをやってる人の方が多いから、アメリカとの違いは凄く感じた。

Ghetto Hollywood - そういう人たちをEdがユナイトしてるように思うんですが、そういう雰囲気も感じますか?

Ed Piskor - 『ヒップホップ家系図』は、そこの間に空いていた穴を埋める役割を果たしたんじゃないかな。アメコミの世界でさえ「ヒップホップのマンガ」という物が出てなかったから、俺が出すことでラップについての本がちゃんと出たんだと思う。『ヒップホップ家系図』以前にヒップホップのカルチャーを取り込んだコミックはJim Mahfood(ジム・マーフード)ぐらいしか描いていない。それもラップについて描いたわけじゃなくて、ヒップホップのカルチャーを取り入れたものだったからね。

Ghetto Hollywood - これからの「ヒップホップコミック」の可能性はどのようなものだと思いますか?

Ed Piskor - 俺が思うに、最初からヒップホップとコミックの間に繋がりはあったと思う。例えばグラフィティがあって、そこから83年、84年に『The Ren & Stimpy Show』のBob Camp(ボブ・キャンプ)がAfrika Bambaataaの“Renegades Of Funk”やNewcleusの“JAM ON REVENGE”と“Space Is The Place”のアートワークを手がけていた。Bill Sienkiewicz(ビル・シンケビッチ)もBobby Digitalのアートワークを描いていて。逆にMethod Manを始めヒップホップのアーティストもコミックを作っているし、そういうのが続くだけだと思う。俺はその中でラップのことをちゃんとやったってだけで、今後もコミックとラップの相互作用は続くと思うよ。

PUNPEE - 『ヒップホップ家系図』の続きを読みたい人はいっぱいいると思うんですけど、もしEdが信頼出来る人が「続きを描きたい」と言ったらどうしますか?

Ed Piskor - 『ヒップホップ家系図』はライフワークだから、他の人に描かせることは無いね。でも4年半もかけて描いたから、それで一回エネルギー吸い取られてをしまったんだ。今は他のものが溜まってて、それを吐き出したいから、取り敢えずはそっちに集中してるよ。多分どこかのタイミングで5巻を描くことはあるけど、それはいつになるか分からない。でも、やるなら自分でやりたいね。

PUNPEE - 残りは20年以上の歴史がありますね。

Ed Piskor - 最低でも20年だね(笑)

Ghetto Hollywood - 話は戻るんですが、日本の人たちにEdがどれだけマンガが好きか教えたくて。最後に好きなマンガのベスト3を教えて貰えますか?

Ed Piskor - もちろん最初に出てくるのは大友克洋だよ。最近一番好きなのは浅野いにおだね。

Ghetto Hollywood - それは結構意外だな...(笑)

Ed Piskor - 松本大洋の『Sunny』も俺にとって大切な作品だ。でもフェイバリットを選ぶのは難しい。水木しげるの『コミック昭和史』も大切だし、辰巳ヨシヒロの『劇画漂流』は史上最高のコミックの一つだ。いつまでも続いて欲しい。あとは、忘れちゃいけないのが風忍だ。

Ghetto Hollywood - 辰巳ヨシヒロが出てくる時点でヤバい...ありがとうございました。

Ed Piskor - 話せて楽しかったよ。

RELATED

【インタビュー】JUBEE 『Liberation (Deluxe Edition)』| 泥臭く自分の場所を作る

2020年代における国内ストリートカルチャーの相関図を俯瞰した時に、いま最もハブとなっている一人がJUBEEであることに疑いの余地はないだろう。

【インタビュー】PAS TASTA 『GRAND POP』 │ おれたちの戦いはこれからだ

FUJI ROCKやSUMMER SONICをはじめ大きな舞台への出演を経験した6人組は、今度の2ndアルバム『GRAND POP』にて新たな挑戦を試みたようだ

【インタビュー】LANA 『20』 | LANAがみんなの隣にいる

"TURN IT UP (feat. Candee & ZOT on the WAVE)"や"BASH BASH (feat. JP THE WAVY & Awich)"などのヒットを連発しているLANAが、自身初のアルバム『20』をリリースした。

MOST POPULAR

【Interview】UKの鬼才The Bugが「俺の感情のピース」と語る新プロジェクト「Sirens」とは

The Bugとして知られるイギリス人アーティストKevin Martinは、これまで主にGod, Techno Animal, The Bug, King Midas Soundとして活動し、変化しながらも、他の誰にも真似できない自らの音楽を貫いてきた、UK及びヨーロッパの音楽界の重要人物である。彼が今回新プロジェクトのSirensという名のショーケースをスタートさせた。彼が「感情のピース」と表現するSirensはどういった音楽なのか、ロンドンでのライブの前日に話を聞いてみた。

【コラム】Childish Gambino - "This Is America" | アメリカからは逃げられない

Childish Gambinoの新曲"This is America"が、大きな話題になっている。『Atlanta』やこれまでもChildish Gambinoのミュージックビデオを多く手がけてきたヒロ・ムライが制作した、同曲のミュージックビデオは公開から3日ですでに3000万回再生を突破している。

WONKとThe Love ExperimentがチョイスするNYと日本の10曲

東京を拠点に活動するWONKと、NYのThe Love Experimentによる海を越えたコラボ作『BINARY』。11月にリリースされた同作を記念して、ツアーが1月8日(月・祝)にブルーノート東京、1月10日(水)にビルボードライブ大阪、そして1月11日(木)に名古屋ブルーノートにて行われる。