【対談】SIRUP × BIM|自分の世界観で、自分の合う速度で

今年3月、BIMが自身の大阪でのライヴで「今日はおれより歌がちょっとだけうまい友だちが来てるんで」とステージにSIRUPを呼び、初披露した楽曲“Slow Dance”。初披露時に観客から驚きと歓喜の声が上がった“Slow Dance”は、5月にリリースされたSIRUPの1stアルバム『FEEL GOOD』収録の楽曲だ。2017年から活動を開始し、R&B / SOULやヒップホップを基調としたサウンドが特長のSIRUP。THE OTOGIBANASHI’S / CreativeDrugStoreの中心人物として10代の頃から活動し、去年7月に1stソロアルバム『The Beam』をリリース以降、ソロ活動を本格化させたBIM。音楽シーンに欠かすことのできない存在の両者だが、SIRUPはKYOtaro名義での活動から12年、BIMはTHE OTOGIBANASHI’Sの活動から7年、それぞれの過去から今に至るまでの話が“Slow Dance”では描かれている。

この楽曲でのコラボをきっかけに、SIRUPとBIMは福岡・熊本にてツーマンライヴを開催。チケットは先行予約の時点で応募が殺到し、即日ソールドアウト。また、CreativeDrugStoreのHeiyuuが手がけた“Slow Dance”のミュージックビデオも公開となった。コラボをするまでになった2人の出会いは去年9月、都内某所にある焼肉屋だったという。その約1年後に同じ場所でSIRUPとBIMに、出会いの経緯、“Slow Dance”の制作、両者が考える今の音楽シーンについて自由に話してもらった。

取材・構成:宮本徹
写真:Miyu Terasawa

- お互いの存在を認識し始めたのは、いつだったのでしょうか?

SIRUP - BIMのことはオトギ(THE OTOGIBANASHI’S)のときから知ってたし、聴いてたんやけど、ソロアルバム『The Beam』で、グッときて。“Bonita”を聴いたときはBIMのリリックとVaVaくんのトラックにやられたーって思った(笑)。トラックのサンプリングをあの尺で使ってるのに、かっこ良くて、グルーヴできるのは奇跡やから。サンプリングのネクスト行ってる感じがした。

BIM - この前、VaVaくんに「BIMちゃんに“Bonita”みたいのをまた作りたいんだけど、あーいうのなかなかできねえんだ」って言われました(笑)。

BIM - おれがSIRUPくんを知ったのは“LOOP”ですね。SIRUPくんのEPを聴いてて、最初は日本人だと思ってなかったんです。けど、よく聴いたら日本語だぞって(笑)。

- お互いに気になる存在となってからは会うまでにどんな経緯がありましたか?また、そのときの会話についても。

SIRUP - インスタでお互いフォローはしていて、BIMの曲をストーリーにあげたらDMが来て。改めて会おうってなって、この焼肉屋に来たんだよね。けど、会う前日におれはイベントでライヴがあって、そこに遊びに来てたよな?

BIM - あのときイベント終わりくらいに行って「また明日っすね」みたいな会話を少しだけしましたよね。この店に来るまで、おれはSIRUPくんのこと歳下だと思ってました。オトギとか自分の活動の中にSIRUPって名前が登場してこなかったから。話したとき、過去にKYOtaro名義で活動していて、1年前にSIRUPに変えたんだよって聞いて。

SIRUP - 9月27日やったら“Synapse”のリリース日やからそうやな。ちょっと調べてみるわ…。あー惜しい、飲んだのは9月26日やわ(笑)。

BIM - だから、初対面は敬語でいくスタンスで良かったです(笑)。

SIRUP - 分かるわ、それ(笑)。歳下って思われるくらい全然違うところにおったんやけど、BIMとは飲んでてスタンスが似てるって思った。

BIM - あのとき、SIRUPくんとリアルタイムで聴いてた音楽がめっちゃ被ったんですよね。今のDreamville周りにいる人たちとか。

SIRUP - そうそう。あのとき周りでそのアーティスト聴いてる人があんまおらんかったけど、BIMとはめっちゃ被った。

BIM - 本当に音楽の話をガンガンしましたよね。

SIRUP - またBIMと今なに聴いてるタイムやりたい(笑)。おれが知ってるラッパーでBIMみたいなタイプは初めてやったかも。

BIM - おれは関西弁なことに驚きましたよ。曲には出てこないじゃないですか(笑)。あと歌がうまい友だち初めてかも。

SIRUP - あのとき、おれはKYOtaro時代の話、BIMはオトギの話とかもしてくれて。そこから、なんか作ろうくらいのテンションになったよな。

BIM - あのあとは一度だけShinくん(Shin Sakiura)と焼肉行きましたよね。SIRUPくん忙しいんで(笑)。

SIRUP - アルバムの制作期間やったから(笑)。作り終わってからの方が飲んでるよな。

BIM - アルバム制作が終わって、SIRUPくんのリリース打ち上げとか。あと、TEPPEIくんといっしょに焼肉行きましたよね。そう考えると焼肉ばっかり(笑)。

- この焼肉屋での会話が基になって“Slow Dance”は出来上がったと思うのですが、制作はどのように進みました?

SIRUP - 焼肉のあと本当にBIMと曲を作りたいな思って。それで後日、アルバムに参加してほしいってお願いしたんよね。

BIM - おれもSIRUPくんと曲作りたいなって思いました。kZmと“Dream Chaser”作ったときに、人とやるのは楽しいんだなって思えたので。それまではあまり人とやってこなかったけど、セッションしながらやるのが楽しかったんです。けど、未だに時間かかっちゃうし、誰とでもやりたいですって感じは技量的にできない。SIRUPくんと出会ったときくらいがオープンになり始めたときだったかも。

SIRUP - 焼肉行ったときのBIMとの会話をテーマにして、トラックのストックを送り合って。そのやりとりの中でBIMがRokoTenseiのビートを送ってくれて。“Girl”って仮タイトルのビートが良くて、これにしようってなった。ヴァースに関してはお互いある程度決めてたけど、そこまでカチっとしたデモは送ってなくて。最後にスタジオで、BIMのヴァースの「君のことあまり知らないしさ、昔はどんなだったとか知りたいよな」の上にうっすら、おれも歌って乗せたり。そういうセッションって良いな。逆にこれはBIM言ってくるんやろうなって思ったら、やっぱり言ってきたみたいな。

BIM - そうだ、スタジオで録ったんだ。SIRUPくんのヴァース録るとき、おれが聴きに行ったんでしたっけ?

SIRUP - 既にBIMのヴァースが入ってて。

BIM - あー、最後のブリッジだ。

SIRUP - そうそう。レコーディングでさ、完璧に決めてから挑みたい人と、かっちり決めずに挑む人っておるやん。おれは完全に後者。ちょっと残して、ここどうするみたいなのをセッションして作るのがめちゃくちゃ好き。単純に楽しいし、リアルな感じがする。だから、BIMとのセッションは本当に良かったな。

- PV撮影はどうでした?

SIRUP - PV撮影はCreativeDrugStoreのチームとものづくりできたのが嬉しかった。そっちの世界に自分が入るのは、すごいおもしろいなって。SIRUP名義でいちばんヒップホップっぽいPVかも。

BIM - たしかに。車も出てきますし。Heiyuuがめっちゃ気合い入れて頑張ってたのを見て、おれは嬉しかったですね。家で“Slow Dance”のデモを聴いたとき、PVやりたいって言ってくれて。

SIRUP - Heiyuuの中でこういうPVを撮りたいっていうのがあったよな。HeiyuuとはPVのことで、めちゃくちゃ電話して。良い意味でHeiyuuは具体的な言葉で伝えなかったけど、きっとこういうことだろうなって解釈して撮影した。“Slow Dance”のテーマでもある、今のSIRUPと回想のSIRUPの世界観にBIMがいて。二面性を描けたPVになったと思う。

BIM - おれは『The Beam』のジャケットに、自分が4人いるんですけど、その4人それぞれが違う行動しているのを撮って。服装もオトギのとき、ソロのとき、最近ぽいのとかで分けました。

- “Slow Dance”は、ふたりのキャリアの中で“いろいろあって今がある”というテーマの楽曲となっていますが、ふたりにとって今の音楽シーンはどう映っています?

BIM - 前は一点集中型だった気がする。このアーティストをみんなが好きみたいな。今だとお客さんの趣味が十人十色な感じにはなってるのかなって思います。おれはこの人が好きみたいのがバラけてる。

SIRUP - 今はすぐにリリースできるから、いろんなアーティストがいて。みんながいろんな人を好きになってる感じ。

BIM - ラップってどう録るの?とかやってない人でも分かる時代になりましたよね。技術の進歩によって、パソコン1台あればできるじゃないですか。

SIRUP - たしかに。最近やっと家で宅録できるようにして思ったんやけど、趣味でやってる学生とかでプロよりも機材を揃えてたりする人もいるやん。これからもたくさんアーティストが生まれてくるんやろうなって思う。たくさんアーティストが生まれてくる分、才能あるアーティストだけが残っていく。良い時代だけど、シビアになってる。

BIM - テクニックどうこうっていうよりも、切磋琢磨感がある気がしてます。おれがよく飲んだりする同世代のラッパーは、みんな頭が良いなって思うんです。勉強とかはできないかもしれないけど、自分のことをしっかり理解してる気がするんですよね。SIRUPくんも曲のトラックから自分のエッセンスやディレクションが入ってるじゃないですか。SIRUPくんくらい歌の上手い人って、もしかしたら世の中にいるかもしれないけど、あの曲を作れるのかってなってくる。だから、おれはSIRUPくんの歌が上手くなくても、良い曲を作るんだろうなって思うんです。もうテクニックだけの話じゃなくなってきてますよね。

SIRUP - そうあるべきよな。“Slow Dance”でも言ってるんやけど、焦ってもダメで。自分の世界観で、自分の合う速度でやっていくことが大事だと思う。

BIM - 前はたくさんリリースすることに正義があったけど、今はアルバム通しての世界観をもうちょい作り込んでる感じ。Travis ScottやA$AP RockyのPVもそうだけど、ちゃんと世界観を作るってことにもう一回戻ってるような気がします。一発のパンチが大事なのかなって。何年経ってもその曲がライヴで盛り上がるってことが。

SIRUP - おもろいよな。すぐ聴ける時代になったのに音楽の出し方はスローペースに。

BIM - 一時期のリリースラッシュよりも、ちょっとだけ遅くなってるような気がします。

SIRUP - おれも前だったら今年中にもうひとつ作品を出そうって思ってたんやけど、今は『FEEL GOOD』を浸透させることが大事なんじゃないかなって。

BIM - “Slow Dance”のMVが出たことで、SIRUPくんのアルバムもまた聴かれるだろうし、『The Beam』も聴いてもらえるだろうし。それによって周りのアーティストの作品も聴かれて。ひとつの作品が長生きするような状況になってくる。

SIRUP - もしかしたら、そういう方法をとることによって、みんなで上がっていけるってことなのかも。この音楽なんで好きなんやろうって考える時間がある方が今っぽい。

BIM - リリースラッシュ時代を経て、こういうのが好きっていう風になったけど、Travis Scottの『ASTROWORLD』とか、Netflixでドキュメンタリー映像もやって、ちゃんとアルバムのディテールを分かりやすく見せてくれる感じがあって。今は、おれがオトギを始めたときくらいのOdd Futureとかのワクワク感に近いなって思います。

SIRUP - 今はとゆうか昔からかもやけど、お客さんが自分の良い意味でのアイデンティティを音楽で持ってるから、ひとりでライヴに来る人も増えたよな。誰かと来て楽しむというよりは、ひとりで来ても、そこに自分が好きな音楽をこんなに好きな人がいるんだってことに価値を感じてるというか。ネットの中での世界が自分の本質になってきて。ひとりで行ってても自分の友だちになれる人がいるっていう。

BIM - おれがオトギを始める前、現場にひとりでライヴ行ったりしてたんですが、そのあとSNSが伸びて、現場でしか友だちになれなかったのがネットでも友だちになれるみたいな感じになって。そこから、ネットがどんどん強くなっていったけど、今は現場に行った方が、手っ取り早く仲良くなれるじゃんっていう風になってる気がする。

SIRUP - 今、ライヴやイベントがめっちゃ増えてるやん。これはなんのイベントやろうって思っても、人がめっちゃ入ってたりして。

BIM - おれらのツーマンもこんなにたくさんの応募が来るんだって思いましたよね。

SIRUP - めっちゃ嬉しかったよな。本当に良い時代になっていってる気がする。これからが楽しみやわ。

Info

福岡公演
ABOUT MUSIC Presents
"SIRUP×BIM 2 MAN LIVE in FUK&KUM"
2019.10.27 SUN at FUKUOKA BEAT STATION
OPEN 17:00 / START 18:00

[LIVE]
SIRUP
BIM

●熊本公演
ABOUT MUSIC Presents
"SIRUP×BIM 2 MAN LIVE in FUK&KUM"
2019.10.28 MON at KUMAMOTO NAVARO
OPEN 18:30 / START 19:30

[LIVE]
SIRUP
BIM

RELATED

【インタビュー】DYGL 『Cut the Collar』| 楽しい場を作るという意味でのロック

DYGLが先ごろ発表したニューEP『Cut the Collar』は、自由を謳歌するバンドの現在地をそのまま鳴らしたかのような作品だ。

SIRUPが自身初の海外ヘッドラインショーをバンコクで開催

SIRUPが自身初の海外ヘッドラインショー『SIRUP LIVE in Bangkok 2024』を11/22(金)にタイ・バンコクで開催することを発表した。

【インタビュー】maya ongaku 『Electronic Phantoms』| 亡霊 / AI / シンクロニシティ

GURUGURU BRAIN/BAYON PRODUCTIONから共同リリースされたデビュー・アルバム『Approach to Anima』が幅広いリスナーの評価を受け、ヨーロッパ・ツアーを含む積極的なライブ活動で数多くの観客を魅了してきたバンド、maya ongaku

MOST POPULAR

【Interview】UKの鬼才The Bugが「俺の感情のピース」と語る新プロジェクト「Sirens」とは

The Bugとして知られるイギリス人アーティストKevin Martinは、これまで主にGod, Techno Animal, The Bug, King Midas Soundとして活動し、変化しながらも、他の誰にも真似できない自らの音楽を貫いてきた、UK及びヨーロッパの音楽界の重要人物である。彼が今回新プロジェクトのSirensという名のショーケースをスタートさせた。彼が「感情のピース」と表現するSirensはどういった音楽なのか、ロンドンでのライブの前日に話を聞いてみた。

【コラム】Childish Gambino - "This Is America" | アメリカからは逃げられない

Childish Gambinoの新曲"This is America"が、大きな話題になっている。『Atlanta』やこれまでもChildish Gambinoのミュージックビデオを多く手がけてきたヒロ・ムライが制作した、同曲のミュージックビデオは公開から3日ですでに3000万回再生を突破している。

Floating Pointsが選ぶ日本産のベストレコードと日本のベストレコード・ショップ

Floating Pointsは昨年11月にリリースした待望のデビュー・アルバム『Elaenia』を引っ提げたワールドツアーを敢行中だ。日本でも10/7の渋谷WWW Xと翌日の朝霧JAMで、評判の高いバンドでのライブセットを披露した。