【対談】木村太一 × Jin Dogg|映像作品『Mu』公開記念対談

YDIZZYを大胆にもキャスティングした映像作品『LOST YOUTH』で映像作家としてデビューし、その後も多くのMV作品を手がけるロンドン在住の映像作家・木村太一。彼が7月最新ショートフィルム『Mu』をBOILER ROOMの〈4:3〉から世界同時公開した。

本作品は、戦後最大の詩人と呼ばれた田村隆一や写真家の森山大道からインスピレーションを得て「都会に埋もれる欲望やネガティブな感情の中の美」というテーマで制作された。3年ぶりの新作に出演するのはラッパー・Jin Dogg、モデル・Manami Usamaru、ミュージシャン・Soushiといったそれぞれのシーンで活躍するタレントたちだ。

今回、監督・木村太一日本滞在中、偶然Jin Doggが東京でライブを行うということで二人に自由に作品について語ってもらった。

取材・構成、写真 : Jun Yokoyama

 - 映像公開おめでとうございます。今回、FNMNLの読者にとってはJin Doggが映像作品に出演するということでサプライズだったと思うのですが、今回木村監督がJin Doggをオファーした理由やJin Doggを知ったきっかけなどを教えてください。

木村太一 - かなり前から後輩の映像作家のSpikey JohnがずっとJin君を撮りたいって言ってたんです。撮りたい撮りたいって言うなんてめずらしいと思って気になっていました。それからMVや音源をチェックしていたんです。自分自身も中学校の頃ミクスチャーバンドが流行ってて、そこからヒップホップが好きになったっていう経緯もあって、Jin Doggのハードコアやラップのいいところを吸収した激しさが好きです。

ラッパーやJin Doggを本作品に起用した理由は、映像作品自体が割とクラシックな詩の話だから、ラッパーをどこかで映像の中に入れて若者にも観てもらいたいという思惑もありました。ラッパーなら誰がいいかなと考えていました。怖くて、激しい人・・・。そうだJin君じゃんって思ってオファーさせてもらいました。

 - Jin Doggさんは怖くて、激しい人なんですね(笑)

Jin Dogg - そうかなー(笑)

木村太一 - いい意味で緊張感があるってことで(笑)

 - 今回どういう役柄としてJin Doggにオファーしましたか?

木村太一 - さっきも言ったように近代の詩が前半の大きなパート担っているので、それに対して「現代の詩」ってなんだって考えたらラップだなって。男性と女性の役回りがアダムとイブという感じだから、そこにラッパーを蛇の役回りとして入れようかなって。悪い世界への誘惑というか、そういうのがJin君の役回り。

Jin Dogg - 初めてその設定を聞きました(笑)

 - Jin Doggは木村太一さんのことは知っていましたか?

Jin Dogg - 木村さんのことは『Lost Youth』で知っていました。YDIZZYが出演しているということでYouTubeで観ましたね。その時はYDIZZYも知り合いではなかったですけど映像を観て、すっげーかっこいいなって。そうしたらコンセプトというか企画書をメールで送ってもらってオファーしていただきました。こういうオファーは初めてでしたが、自分自身映像作品にもめちゃくちゃ興味があるのですぐに返事しました。

木村太一 - めっちゃファンです。「一緒に作りませんか?」みたいな感じで送りましたね。

 - Jin Doggさんは自身のMVもしっかりコンセプトがある印象ですが、自身のMVや映像にはこだわりはありますか?

Jin Dogg - そうなんです。自分も結構映像が好きで中学校の頃は映画監督になりたかったんですよ。自分のMVはほぼ全部自分で映像をディレクションしてます。もちろん編集とかはできないから編集してくれる人の横に立ってボールペン持って、「ここはこう」みたいなのを横から言っていますね。撮影中も太一さんとは映像の話なんかもよくしました。

木村太一 - 撮影中や編集中もJin君の持っている映像目線には驚かせました。Jin君がビンでカメラを殴るシーンをよく観るとビンが殴る前に壊れちゃってるんですが、普通の人は気付かない違和感みたいなものを感じ取ってその点を指摘してくれたんです。割と自分は結構適当で雰囲気OKで気にならなかったら無視しちゃう感じなんですが、Jin君はそういう細かいところの美意識を持ってるんだなって。

 - 撮影にあたって演技の指導などはされましたか?

木村太一 - さっきも言ったけどJin君には緊張感があるからね。いつものライブの感じでっていうことくらいで、そこはちゃんとオファーさせてもらいました。

都会の中で傷ついた匿名の男が雨降る路地を歩いているシーンがあるんです。撮影中にその役のJin君が「街頭の光に向かって歩いていくなんてのはどうですか」ってアイディアを出してくれて。それだったら一度フードを取ってそれを見つめるとかどうだろうとか、現場で二人でアイディア出し合ったりしました。Jin君のその姿勢がうれしかったですね。

 - トンネルでJin Doggがラップしてるシーンについても聞かせてください。

木村太一 - いろんな社会のプレッシャーの中で苦悩している男が耐えきれなく暴力的になっちゃうシーンだね。Jin君に対していろんなカメラの位置を試したり、ディレクションをしました。けど結局最初のノーディレクションのカットが一番良くて、それを使いました(笑)

Jin Dogg - カメラが円を描くように動くんで自分の位置取りみたいなのが難しかったですね。さっき話で出た、ビンでカメラを殴るのが難しくて何度もやり直しました。撮影用のビンだからちょっとでも力を入れて持つとすぐ割れちゃうんですよ。

木村太一 - このビンをカメラにぶつけてもビンが割れてるところって案外撮れなかったりするんだよね。何回目かのテイクだったか忘れたけど、気合入りすぎて殴る前に割れちゃったんだよね。最後はいろんなテイクを合わせて編集でいい感じにしました。

 - 撮影中はどんな話をされてたんですか?

木村太一 - 韓国映画の話をよくしたよね。『A Bittersweet Life』とか『オールド・ボーイ』、ハードボイルドなやつが好きだよね。キャラクターもJin君に合わせて書いたところもあるからバッチリだったよね。自分の周りでJin Doggが好きな人は、みんな暴力的なところに惹かれている人が多いみたいで(笑)

Jin Dogg - それは聞いたことありますね。ファンの方が「Jin Doggにボコボコにされたい」って言ってることを聞いたことがあります(笑)

 - Jin Doggの世界観がよく出てますよね。まるでMVのような。

Jin Dogg - 自分が思うこういうのがいいっていう作品を太一さんとは共有できている気がするから、自然とお互いがいいと思うものができましたよね。いわゆる自分のMVもリップシンクを何パターンか撮ってそれを合わせたものっていうよりも、自分が好きなドラマや映画っぽい感じになるようにお願いしたり、ディレクションしたりします。

 - 作品中のJin Doggのシーンは少ししかないですが、かなりインパクトありますよね。

木村太一 - Jin君のシーンはちょっとしかないんだけど、それまでのシーンのタメがあってこそ彼が映えるし、逆にそれの前後も映えるんだよね。あまり使いすぎないように大事なシーンだけを使いたいっていうのがありました。

Jin Dogg - もっと観たいっていうのがあるくらいがちょうどいいですよね。ライブやMV観てみようとか、音楽聴いてみようとか思ってもらえると嬉しいです。

木村太一 - Jin Doggというミュージシャンの魅力を考えたときに、たくさん見せるって言うよりかは少しだけ文脈なく出したほうが魅力が伝わるかなと思いました。ミステリアスで衝動的で暴力的な魅力というか。

 - Jin Doggさんは今作品を観てどう感じましたか?

Jin Dogg - 『LOST YOUTH』の中で「この世界はハリボテだ」っていうセリフがありましたけど、世界って表だけでもないじゃないですか。路地裏にはホームレスもシャブ中もいて。自分はその裏の世界の方を見てすぎるんだと思うんですよ。自分にとっては表の建前の世界が逆に暗い世界に見えてしまうんですよね。明るい世界が嘘に見えるんです。

Jin Dogg - けど自分は何がリアルで何がフェイクっていう分け方が嫌いで。どちらもあるやんって思うんです。言うても、それぞれのリアルしかないですからね。テレビは茶番、ネットの世界のほうがリアルっていう人もいますけど、それはそれで嘘だと思うんです。そのテレビを作ってる人、観てる人のリアルっていうのもあるわけで。テレビが全部ニセモノやとは思わんし。おれはおれやし、お前はお前っていうところは思いますけどね。その分自分は裏の世界にも光を見つけていきたいというか。そこが作品と自分がリンクした感じです。

木村太一 - 自分はそういう表面的なリアル/フェイクの議論がいやになって、精神的なリアリズムを求めて今回の作品を作ったところはあります。

 - 改めてJin Doggが出演しているシーンを観て木村さんは何を感じましたか?

木村太一 - 作品中に何度も出てくる「あんたたちには何がわかるのか?」っていう字幕はよく見ると大きくなっていくんです。「あなたたちに何が分かるのか」って実は、「あなたたちにわかってほしい」っていう裏返しだと思ってて。Jin君が「こいつらあほや」って攻撃的に言いながらも、実は自分の弱さを露呈しているところや、もっと受け入れてほしいっていう叫びは今作品とシンクロしているような気がします。

 - 最後にコメントをお願いします。

木村太一 - 基本的に森山大道さんへのオマージュっていうのは観てもらっても分かると思いますが、都会を美化せずに、そのまま真っ直ぐに怖がらずに撮っているスタンスからは影響を受けています。森山大道さんの都会のドキュメンタリーの生々しい感じは、ヒップホップ的だと思っています。だからヒップホップもど真ん中のアートだと思ってます。

Jin Dogg - この作品を観たあとにどうしても観たくなった映画があって。『シン・シティ』っていう映画なんですが、都市のノワールを描いているし、登場人物が3人出てくるってのも今作と合ってる気がしますね。

今後、映像作品にももっと出たいと思っています。また、この作品中で使用した新曲のMVを今作っているので、公開されたらどんな感じになるかとか、『Mu』との違いなんかを見てもらいたいです。

INFO

Boiler Room 4:3 presents “Mu”, film by Taichi Kimura
視聴はこちらから

Taichi Kimura - Twitter : https://twitter.com/darumavision

Jin Dogg - Twitter : https://twitter.com/sadmadjake

Instagram : https://www.instagram.com/sadmadjake/

Soundcloud : https://soundcloud.com/jin_dogg

RELATED

【インタビュー】DYGL 『Cut the Collar』| 楽しい場を作るという意味でのロック

DYGLが先ごろ発表したニューEP『Cut the Collar』は、自由を謳歌するバンドの現在地をそのまま鳴らしたかのような作品だ。

【インタビュー】maya ongaku 『Electronic Phantoms』| 亡霊 / AI / シンクロニシティ

GURUGURU BRAIN/BAYON PRODUCTIONから共同リリースされたデビュー・アルバム『Approach to Anima』が幅広いリスナーの評価を受け、ヨーロッパ・ツアーを含む積極的なライブ活動で数多くの観客を魅了してきたバンド、maya ongaku

【インタビュー】Minchanbaby | 活動終了について

Minchanbabyがラッパー活動を終了した。突如SNSで発表されたその情報は驚きをもって迎えられたが、それもそのはず、近年も彼は精力的にリリースを続けていたからだ。詳細も分からないまま活動終了となってから数か月が経ったある日、突然「誰か最後に活動を振り返ってインタビューしてくれるライターさんや...

MOST POPULAR

【Interview】UKの鬼才The Bugが「俺の感情のピース」と語る新プロジェクト「Sirens」とは

The Bugとして知られるイギリス人アーティストKevin Martinは、これまで主にGod, Techno Animal, The Bug, King Midas Soundとして活動し、変化しながらも、他の誰にも真似できない自らの音楽を貫いてきた、UK及びヨーロッパの音楽界の重要人物である。彼が今回新プロジェクトのSirensという名のショーケースをスタートさせた。彼が「感情のピース」と表現するSirensはどういった音楽なのか、ロンドンでのライブの前日に話を聞いてみた。

【コラム】Childish Gambino - "This Is America" | アメリカからは逃げられない

Childish Gambinoの新曲"This is America"が、大きな話題になっている。『Atlanta』やこれまでもChildish Gambinoのミュージックビデオを多く手がけてきたヒロ・ムライが制作した、同曲のミュージックビデオは公開から3日ですでに3000万回再生を突破している。

Floating Pointsが選ぶ日本産のベストレコードと日本のベストレコード・ショップ

Floating Pointsは昨年11月にリリースした待望のデビュー・アルバム『Elaenia』を引っ提げたワールドツアーを敢行中だ。日本でも10/7の渋谷WWW Xと翌日の朝霧JAMで、評判の高いバンドでのライブセットを披露した。