【インタビュー】MIYACHI|日本でもアメリカでも一番になりたい

MIYACHIは2017年にYouTubeで発表した“BAD & ブジ”で突如シーンに登場した。この曲はMigos“Bad and Boujee”のリミックスだが、多くの人を驚かせたのはその言語感覚だった。アメリカ人が使うカタコトの日本語。だがただのイロモノではなく、独特のユーモアがあった。そしてMIYACHIは抜群にラップがうまかった。

この曲をきっかけに、彼はさまざまな日本のラッパーに客演として参加するようになる。数々の不可思議なパンチラインを連発し、2018年にはRADWIMPSやANARCHYのアルバムに参加。そして2019年7月に待望の1stアルバム『WAKARIMASEN』を発表した。今回はアルバムの話、彼のラップスタイル、バックグラウンド、日米のヒップホップシーンについて話を訊いた。

取材・構成 : 宮崎敬太

違和感のある日本語も含めて、リリックは完全に考えて書いてる

 - MIYACHIさんの特徴は、日本人では思いつかないユーモラスな日本語の使い方です。「喋り方がワサビ」「九回裏のSASAKI」などなど。普段はフリースタイル的に作詞しているんですか?

MIYACHI - いや、完全に考えて書いてるよ。意識的に違和感ある日本語を選んでラップに組み込んでる。日本語の言葉遣いに関しては、最初から意図してたわけじゃないけど。でも、引っかかりを作りたいんですよ。こういうことって、例えばKendrick Lamarもやってる。シリアスな曲で変な言葉を使ったり。曲を書く時にいつも意識してるのはコンビネーション。シリアスとユーモア、日本語と英語。まず引っかかりを作って、よくよく聴いてみるともっと深い意味が感じられるように書いてるつもりです。

 - MIYACHIさんのラップにおける日本語の言葉遣いはどのようにして生まれたんですか?

MIYACHI - “BAD & ブジ”を出す前に、自宅でフリースタイルした動画を何本か撮ったんですよ。最初の二本は全部で英語で、三本目でカタコトの日本語でやってみた。遊びの軽いノリだったんだけど、その日本語のフリースタイルは仲間たちからも結構評判が良くて。それで“BAD&ブジ”をやってみようと思いました。だから、あの曲に関しては最初からバズを狙ってた。Migosのファンにも、アジア人にも、リアルヒップホップが好きな人にも聴いてもらいたかったから知り合いに頼んで、個人でfacebookにターゲット広告を出した。それもあってか、かなり話題になって。実はあの曲以前に何年も英語だけでラップしてたけど、それまでとは比べものにならないほどの反響だった。そこからですね。「こういう感じが求められるんだ」って。言葉がわかる日本人が面白がってくれるのはある程度想定できたけど、アメリカ人がフロウだけであんなに反応してくれたのはかなりびっくりしましたね。

あらゆるタイプの人間がいて予測不能なニューヨークに影響を受けた

- MIYACHIさんのルーツを教えてください。

MIYACHI - ニューヨークのマンハッタンというところで育ちました。父がアメリカ人で母が日本人。日本人学校に通っていたから、日本語もそこそこ話せた。あと福岡に祖母が住んでいるので、子供の頃はたまに日本に来たりもしてたんですよ。

- ヒップホップとはどのように出会ったんですか?

MIYACHI - アメリカではヒップホップが超人気ある。だから学校にもラッパーになりたいやつはたくさんいて。そこで気の合うやつらとグループを組んだり、いろんなやつらとサイファーしたりして。そうするとみんなそれぞれ徐々に個性が出てくる。僕はNotorious B.I.G.が大好きで。そしたら友達がNasの『Illmatic』を勧めてくれたんですよ。聴いた時はものすごい衝撃を受けましたね

- 過去のインタビューでは、Joey Bada$$やPro Eraが好きと話していましたね。

MIYACHI - そうだね。最近だったらFreddie Gibbsが最高。大好き。最新作でまたMadlibと一緒にやってるよね。Madlibも大好き。あとJay Dillaとかね。そういうのを教えてくれたのが、今回のアルバムに参加しているcofaxx。彼とは12歳からの付き合いなんだ。もともとドラマーだったんだけど、12歳くらいからビートメイキングを始めた。さっきも言ったけど、学校ではみんなラッパーになりたがる。でもビートまで作るやつは少ない。cofaxxからはヒップホップに関するあらゆることを教えてもらった。本当にベストフレンド。

- YouTubeの番組「Hip Hop DNA」に出演されていた時、「ニューヨークのラッパーにはプライドがある」と話していましたが、それは具体的にどういうことなんでしょうか? 気持ち的なこと? それともスキル的な部分?

MIYACHI - 全部。ヒップホップはニューヨークで生まれた音楽で、歴史的にいろんなアーティストを輩出している。だからニューヨーク出身のラッパーは絶対ダサいことができない。そういう町で育ったということが、僕自身のキャラクターや、ヒップホップに対する考え方にも大きく影響してる。

- ニューヨークはどんな町ですか?

MIYACHI - とにかくいろんな人がいる町ということだね。人種はもちろん、国籍や宗教も含めあらゆるタイプの人間がいる。どこで何が起こるかわからない。それはポジティヴなこともネガティヴなことも。僕自身、ニューヨークのそういうところにものすごく影響を受けた。

日本語と英語が両方たくさん入っててストーリーもある。それがMIYACHI。

- 今回のアルバムにはJay Parkが参加してますね。アジアを代表するラッパーの彼が参加した経緯を教えてください。

MIYACHI - “WAKARIMASEN”か“BAD & ブジ”の時かは忘れちゃったけど、彼がInstagramでDMをくれたんですよ。「カッコいいね」って。そこからなんとく繋がってて。今回のアルバムに参加している客演とトラックメイカーは、半分が友達で、半分は僕がInstagramのDMからオファーしてる。Jay Parkとは友達と言えるほど親しくないけど、オファーしたら普通に快諾してくれました。

- Jay Parkは日本語でラップしていますが、これはMIYACHIさんからお願いしたんですか?

MIYACHI - いや全然。彼自身がこのラップをしてくれたんですよ。あともう一人参加してるBryce Haseいうシンガーはまだ16歳。トラックは僕が大好きな人にお願いしてるんだけど、彼が面倒を見てるみたい。もしかしたらこれから活躍していくかも。

- “GRIND”のトラックを制作しているBig Bananaは、韓国のプロデューサーですね。彼とはどのようにつながったんですか?

MIYACHI - アメリカには韓国系が本当にたくさんいて。特にヒップホップという面では、日系とは比べものにならないほど人口が多い。だからいろいろ情報が回ってくるんですよ。そういう流れからBig Bananaの存在を知って。彼にもInstagramのDMでオファーしてます。

- 個人的にはこの曲が一番好きでした。

MIYACHI - 僕もこの曲大好きなんですよ。でも制作チーム内では結構意見が割れてて。曲の良し悪しではなく、フロウやビートのトーンが違うからこのアルバムに入れないほうがいいんじゃないかって話もあって。でも僕はこの曲がものすごく気に入ってるから、どうしても入れたかった。ラップも気に入ってるし、裏切りをテーマにした歌詞も気に入ってる。この曲はかなりMIYACHIっぽいと思うな。

- 自分ではどういう部分が「MIYACHIっぽい」と思いますか?

MIYACHI - それは“GRIND”に限ったことじゃなくて、アルバム全体に言えることなんだけど、今回の作品は自分らしさを出すということを強く意識して作りました。それはつまり日本語と英語が両方たくさん入ってるということ。どっちかじゃなくてね。日本には、これまでバイリンガルのラッパーやシンガーがたくさんいたけど、今回の『WAKARIMASEN』はその人たちの作品とは違うバランスになってると思う。そういう言語感で、しかも僕自身のストーリーもしっかり語ることができた。それが「MIYACHIっぽさ」かな。

日本のヒップホップがアメリカのクラブでかからない理由がない

- 今回こうして日本のメジャーレーベルからアルバムをリリースすることになりました。東京に来る機会も増えたと思います。

MIYACHI - 東京は最高。面白い街だと思う。とにかくいろんなことができるし、やることがたくさんある。ファッションも面白いし、若い人たちもカッコいいことをやってる。そういう社会の中で自分も活動できるのは本当に嬉しい。

- ジャケットを手掛けてるJUN INAGAWAも若いアーティストの一人ですね。

MIYACHI - うん。このジャケットは面白いよね。自分のストーリーがわかるようにしたくて、東京とアメリカを混ぜた雰囲気にしてもらった。イラストも雰囲気も含めて、すごくMIYACHIっぽく仕上がった。

- マンガやアニメは観ますか?

MIYACHI - マンガに関しては、子供の頃、祖母が住んでる福岡に行った時、少し読んだくらいかな。『巨人の星』とか。でも日本語が難しくてよくわからなかった。もう少し大人になって、日本のカルチャーを知ってからは宮崎駿の映画は観るようになったよ。

- 先日、ANARCHYさんのライヴ「ANARCHY "THE KING" TOUR SPECIAL」にも出演しました。

MIYACHI - あの日はすごかったですね。でも飛行機の時間があって、自分の出番が終わったら、すぐに空港に向かわなきゃいけなかったんですよ。本当に最後まで観たかった。とはいえ、ステージに立った5分だけでもすごいエネルギーを感じた。自分もすごい声援をもらったし、ANARCHYさんには心から感謝してます。あの人は初めて会った時から「MIYACHIのファンです」って言ってくれて。実はかなり初期からサポートしてくれてるんです。俺もいつか彼のようになりたい。

- 好きな日本のラッパーを教えてください。

MIYACHI - 実はそんなに詳しくないんだ。ちゃんと聞き始めたのは“BAD & ブジ”を出してからくらいだし。個人的にはオールドスクールなバイブスがあるラッパーがいい。ANARCHYやRYUZO、KOJOEとかね。すぐに名前は出てこないけど、カッコいいラッパーは本当にたくさんいる。

- アメリカのヒップホップシーンで活動してきたMIYACHIさんから見て、日本のヒップホップシーンがさらに大きくなるために必要なことはなんだと思いますか?

MIYACHI - でも日本のシーンもすごく大きくなってきてるよね。それは僕自身もすごく感じる。シーンを大きくするために必要なのは、単純に音楽のクオリティを高くすることだと思う。聞き手に伝わるリリックを書くこととかね。ストーリーの作り方、ライミングやフロウ、つまりラップのスキルを高めること。アメリカではトレンドに合わせて、次から次へといろんなラッパーが出てくるけど、結局その中枢にいるのはKendrickとかJ. Coleみたいな人たち。彼らがいるから、ヒップホップカルチャーは面白いし、トレンドにのっかってるようなラッパーの存在も成立している。

- アメリカのヒップホップシーンは次から次へといろんなラッパーが出てきて、新人がいきなりビルボードで1位を獲ったりするから、アメリカの人にとって、KendrickやJ. Coleみたいな人たちとトレンドに乗った新人ではどちらが重要なんだろうというのが素朴な疑問なんです。

MIYACHI - アメリカではヒップホップが超人気だけど、カルチャーへの理解度は人によってレイヤーがある。ヒップホップを心から愛している人もたくさんいる一方で、流行ってるのだけが好きな人もいる。そこは日本とそんなに変わんないと思うよ。個人的にはトレンドに乗った人たちは、結局中枢にいるラッパーたちの真似をしてるだけ。で、そういうやつらのほとんどがブームが去ると同時に消えていく。だからトレンドを作る人たちが重要なんだよね。

- 88risingの影響で、日本でも「アジア人のヒップホップ」ということを意識する人が増えてきました。

MIYACHI - 88risingはアメリカでもかなり知名度が高いよ。日本からもアメリカで活動するラッパーがもっと出てくると面白いと思う。個人的には、言葉はそこまで関係ないと思う。本当に大切なのはオリジナリティ。今のアメリカのクラブでは、ジャマイカのレゲエもかかるし、最近はブラジルの音楽も流行ってる。あと中国のHigher Brothersや韓国のBTSも。だから日本のヒップホップがかからない理由がないんだよね。

- では、最後にMIYACHIさんの目標を教えてください。

MIYACHI - 日本でもアメリカでも一番になりたい。

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