【インタビュー】Youngmond | レゲエの大ファンのDJが語る韓国におけるレゲエ受容

こんにちは。FNMNLの「月間韓国音楽」や「今月の25曲」で韓国音楽を紹介しているstttrです。突然ですがFNMNL読者の皆さん、レゲエは好きですか?レゲエから派生したジャンルやレゲエを取り入れたポップソングをエンジョイしながらも、レゲエそのものはまともに通ってきていないという人も多いのではないでしょうか?かくいう私も、レゲエの懐の深さに魅了されつつも、レゲエが一体何なのか正直よくわかっていません。

このようなレゲエとリスナーの微妙な距離感や、レゲエの受け入れられ方がお隣の国ではどうなんだろう?ということで、韓国でDJ/音楽家としてレゲエを軸に活動しながらもあくまで自分は「レゲエの人」ではなく「レゲエの大ファン」だというYoungmondにあれこれ聞いてみました。聞き手はstttrと韓国インディーの要人パク・ダハムの二人。

取材 stttr・Park Daham

stttr - 突然ですが、レゲエというジャンルは韓国でどのように受け入れられていますか?

Youngmond - Bob Marleyの”No Woman, No Cry”、以上(笑)。

stttr - あなたのレゲエ初体験もボブ・マーリーでしたか?

Youngmond - 私のレゲエ初体験はスカパンクの第三世代ですね。カリフォルニアのスカパンクバンドの多くがレゲエをプレイしていたのを覚えています。ただ、そのあたりが特に好きだったというわけではなく、あらゆるジャンルを聞いていたうちの一つです。でもいくつかの曲は自分にとって重要です。Sublime - ”Santeria”とかですね。踊れるリズムと悲しいメロディ。このとき私は高校一年でした。

Park Daham - 韓国の多くのパンクバンドがこの曲の影響を受けています。カバーもたくさん存在します。

Youngmond - その次に出会ったのがフィッシュマンズです。本当に衝撃を受けました。この時から真剣にレゲエを聞くようになりました。フィッシュマンズのメンバーが薦めていて初めて知ったジャッキー・ミットゥ、アルトン・エリスなどは自分のベースになっています。

stttr - 韓国の若い人と話していると、フィッシュマンズをフェイバリットに挙げる人が多いことに驚かされます。フィッシュマンズがここまで広まったのには何かきっかけがあったのでしょうか?

Youngmond - その質問にははっきり答えることができますよ。インターネット以前、韓国にはいくつかのパソコン通信サービスがありました。そこで、後にAsoto UnionやWindy Cityのドラマーとして活躍するキム・バンジャン氏が音楽レビューを書いていたんですね。彼の文章は素晴らしく、とても影響力を持っていました。96年に彼は「アルバム・オブ・ザ・イヤー『空中キャンプ』」というタイトルのレビューを投稿します。誰も日本の音楽のことを知らない時代ですから、みんな「フィッシュマンズ?空中キャンプ?」といった感じでした。バンジャン氏本人も、「日本のバンドがアルバム・オブ・ザ・イヤーだって?」と書いていたほどです(笑)。しかしこの文章がきっかけでフィッシュマンズが知られるようになり、他の有力なレビュワーもフィッシュマンズのことを書き始めました。例えばMaterplan(韓国アンダーグラウンドヒップホップ第一世代の代表的なベニュー/レーベル)のイ・ジョンヒョン氏。そして私が韓国で一番のレビュワーだと思うイ・イルファン氏。彼は今はもうレビューをやっていないですが。数年後、インターネットが始まってホームページを持てるようになった頃には、皆が自分のホームページにフィッシュマンズのことを書いていましたね。

stttr - 今のホンデにあるベニューの空中キャンプもその流れでできたんですか?

Youngmond - フィッシュマンズを聞くようになった皆が、この体験を共有したいと思い始めていました。私もそうでした。パソコン通信上には「空中キャンプ」というコミュニティがありましたが、更新はされていませんでした。コミュニティの管理人にコンタクトを取ってみると、偶然にもその人は私の友人だったんです。そこで彼に頼んで、ページの管理を任せてもらうことになりました。私はそのコミュニティに文章を投稿したり、オフラインのリスニングパーティーを企画したりしました。リスニングパーティーに集まった人は多種多様でしたが、フィッシュマンズを通じてすぐに仲良くなりました。彼らと毎日のように会って酒を飲んだりイベントを開催したりして、二年の月日が経ちました。そして2002年、私は兵役に行きました。私が兵役に行っている間も彼らはさらに交流を続け、「こんなに酒に金を使うくらいなら自分たちのバーを持ったほうがいいんじゃないか」と考えるようになり(笑)、そうしてできたのがホンデの空中キャンプです。ですから私はベニューとしての空中キャンプには直接関わっていません。

stttr - インスタグラムのプロフィール欄に「レゲエのアティテュードやムードの影響を受けたあらゆるジャンルを追い求める」と書かれていますね。ご自身のことをレゲエアーティストだとお考えですか?

Youngmond - そもそも自分をアーティストだとは思っていません。私は雑誌のエディターの仕事をしているのですが、作品を作る時の自分もエディターだと思っています。私の作品にあまりクリエイティビティはありません。雑誌を編集するのと同じように、フォームやルールを守りながら作品を作っています。

stttr - DJ Youngmondとしてはどういう曲をプレイしますか?

Youngmond - Reggae Not Reggae

stttr - Von Buenoさんと主催しているDJパーティーの名前にもなっているコンセプトですよね。

Youngmond - レゲエは非常にモダンな音楽だと思いますが、若い人はそれに気づいていません。私達は若い人に向けて、何がレゲエか、何がレゲエになりうるかを示したいと思っています。

stttr - 二人のレゲエ観は近いですか?

Youngmond - はい。Von Buenoも私のようにインディーロック、フィッシュマンズ、レゲエを通ってきています。それ以降、彼はベースミュージックのほうに進み、私はクラシカルなレゲエに進みましたが。

stttr - ゲストDJにはどういう人を呼んでいますか?

Youngmond - 韓国には、音楽好きでもレゲエというジャンルに精通している人はあまりいません。それよりも、レゲエを形容する際によく使われる「ダビー」「トロピカル」「ディープ」「ファニー」「オーセンティック」などの概念をよく理解しているDJを呼んでいます。

 

View this post on Instagram

 

Reggae Not Reggae 1st Anniversarry @seendosi 2018.10.20 Sat 9pm "당신은 지난 1년 동안 운 일이 있소? 한 번도 없노라 하면 그건 오히려 진정한 행복의 1년 동안은 아니었다." - 이태준 <무서록> 레게이지만 레게가 아닌 여덟 번째 밤이면서 1주년을 축하하는 밤을 갖습니다. DJs Airbear (Downtown) Jesse You (Downtown) DJ Yesyes (우주만물 음악사업부) Youngmond (우주만물 음악사업부) Dohyota (Free Collision) Leevisa (Free Collision) Quandol (Quan & Von) Von Bueno (Quan & Von) Sugar Sukyuel (7x5=45 Family) Yohei Hasegawa (7x5=45 Family) No Minros Allwoed Cash 15K at the Door #ReggaeNotReggae #레낫레

#신도시さん(@seendosi)がシェアした投稿 -

stttr - Reggae Not Reggaeというパーティーを知ったとき、真っ先に思い浮かんだのがミックスシリーズ『Strictly Rockers』でした。ご存知ですか?

Youngmond - もちろん。ほとんど聴いていますよ。自分に多大な影響を与えたミックスシリーズです。特に川辺ヒロシとクボタタケシのミックスが大好きでした。あと、青山MIXのウェブサイトに掲載されていたミックスにも影響を受けました。TSUTCHIEのミックスとか好きでしたね。本当に”Reggae Not Reggae”という感じで、いわゆるレゲエではないけれどレゲエを感じさせるというか。

stttr - 今、韓国レゲエポップのミックスを制作中だそうですが、作ろうと思ったきっかけは?

Youngmond - 楽しそうだからやってみようかと思っただけです(笑)。自分は目標を作らないと何もやらない人間なので、目標を作ってそれに挑戦するというスタイルで活動しています。ただ、軽い動機でしたが作り始めると韓国にたくさんのレゲエポップがあることを知りました。

stttr - 韓国のレゲエポップを掘っているうちに何か気づくことはありましたか?韓国のレゲエの特徴や、どうしてレゲエが韓国で受け入れられたか、とか…。

Youngmond - 韓国でレゲエが受け入れられたのは「夏があるから」じゃないでしょうか(笑)。

stttr & Park Daham - (笑)

Youngmond - プロデューサーもレゲエをきちんと理解していた人は少なくて、音やアートワークの雰囲気が夏っぽいというだけでレゲエを取り入れたケースがほとんどだと思います。

Park Daham - 80年代のレコードにたまにレゲエポップが見つかるけど、入っていてもアルバムに一曲とか…。レゲエを継続的に作っていたプロデューサーっているかな?

Youngmond - パク・ソンマンとキム・ジュンギの二人がそうですね。パク・ソンマンはキム・フングクのアルバム『レゲエの神』やRoo’raのプロデューサーです。キム・ジュンギはイム・ジョンファンの”クニャンゴロッソ”という曲が有名です。この二人にしても、レゲエに打ち込んでいたのはあくまで当時だけです。パク・ソンマンは今トロットのプロデューサーになっています。あ、キム・ジュンギは2000年にレゲエポップのアルバムを出しました。宅録のチープなサウンドであまり良くはなかったです。

キム・フングク『レゲエの神』(1994)の2017年リイシュー盤。ライナーノートをYoungmondが担当している

stttr - あなたにとってK-Pop史上最高のレゲエポップを教えてください。

Youngmond - マロニエの“칵테일 사랑(カクテル愛)”。DJでプレイすると、必ずといっていいほど外国人のオーディエンスからこれはなんだと訊かれる曲です。

stttr - 2016年にFairbrother名義でフルアルバムをリリースされました。

Youngmond - 5年間を制作に費やしました。時間がかかりすぎて、最後少し急いだので粗い部分もありますが、概ね満足しています。

stttr - 2002年にコンピレーションアルバムに一曲参加していますよね。その頃と2016年のアルバムの心境の違いは?

Youngmond - その曲はバンドで作ったのですが、私が兵役中だったこともあり制作やコミュニケーションがうまくいかず、結果的にバンドは解散しました。その経験が自分のアルバムを作る動機にもなっているのですが。その後就職して音楽制作をしようとするのですが、仕事が充実していないせいか音楽もうまくいきません。2008年にエディターの仕事を始めてからもプライベートで災難があったりして音楽ができず、ようやく2011年からアルバム制作にとりかかりました。そこから5年間を制作に費やしたわけですが、完成する頃にはレゲエのことをよく理解できていましたし、精神的な余裕もありました。制作を通じて人間的に成長できたと思います。

Park Daham - 404のセヒョンと話したとき、彼はアニマルコレクティヴを聴いて、これはインディーロックの現在形だ、自分たちは韓国のインディーロックの現在形を作ろうと思ったと言っていました。Fairbrotherのアルバムはどういう意識で制作しましたか?

Youngmond - 私には音楽からもらった愛に応える責任がある、という思いでこのアルバムを作りました。自分にとって返さなければならない借りのようなものです。すべての楽器を自分で演奏し、自分で歌っているのもそれが責任だと感じたからです。 音楽性は自分が一番多くの愛をもらった時代の音楽を反映しているので、今の人からするとオールドスクールに感じるでしょうね。

Park Daham - 歌詞の事を聞かせてください。音楽はオールドスクールなのに対し、歌詞は非常に先鋭的な印象です。

Youngmond - 韓国のポップソングは伝統的に歌詞が重要視される傾向にあると思います。私も歌詞に徹底的にこだわって作りました。その点では非常に韓国的なアルバムになったと思います。

Park Daham - キム・ギヨンの映画を上映すると客席から笑いが起こります。登場人物が話すセリフが小説のようで可笑しいからです。Fairbrotherの歌詞にも似たものを感じます。

Youngmond - ルールやディシプリンを設けてロジカルに言葉を組み立てています。私はエディターですからそういうやり方が性に合っているんです。ただ、音楽に乗せると少しぎこちなくなるというのはあるかもしれません。できるだけ自然に聴こえるように努力はしていますが。

Park Daham - 新都市三周年イベントでFairbrotherの出番はSe So Neonの後だったんですが、観客の面食らったような表情をよく覚えています。

Youngmond - 観客に石を投げつけるのは好きですよ(笑)。Se So Neonの歌詞は素晴らしいと思いますが、音に合わせることを優先しているために意味が通らない部分がありますね。若いオーディエンスはさほど気にしていないでしょうが。

stttr - 具体的に歌詞にどういったルールを設けていますか?

Youngmond - すべての曲にルールを設けています。説明するのは難しいですが…。例えば1曲目は、一つの言葉しか使わない、と決めました。そして考え抜いた結果”만나자(会おう)”という歌になりました。アルバム2曲目の”Skanking”は人生を前に進むことを歌っているのですが、すべてのフレーズを否定形で書きました。これは否定によって前進することも可能だという私の信念に基づいています。

걸음을 잠깐 멈춘 건 길이 끝 나서는 아니었다
歩くのを少しやめたのは 道が終わったからではなかった

누우면 볼 수 있었고 걸으면 보이지 않았다
横になると見えたものが 歩くと見えなくなった

우리는 밤이 얼마나 길어질지 알지는 못한다
僕たちは夜がどのくらい長くなるのか知ることはできない

잠들면 꿈이 될테니 걸으며 꿈꾸는 수밖에
眠ると夢になるから 歩きながら夢を見るしかない

Skanking Oh All Day
Skanking Oh All Night
”Skanking”

Park Daham - アルバムタイトル『남편(夫)』の意味は。

Youngmond - スーザン・ソンタグがカミュを「文学の夫」と評したのに感銘を受け、自分も「音楽の夫」でありたいという思いを込めてタイトルにしました。「息子」でも「恋人」でもなく。

stttr - 今後の予定を教えてください。

Youngmond - 5月18日にReggae Not Reggae Vol.13があります。6月7日にはReggae Not Reggae in Tokyoを新宿ドゥースラーにて開催します!私個人としては、今年ミックステープとリミックスアルバムのリリースを予定しています。あと、毎年ソウルで開催されている夏フェス、『Seoul Soldout』の運営にもダハムと関わっています。

stttr - ありがとうございました。Seoul Soldout遊びに行きます!

Info

Reggae Not Reggae Vol.13
at 신도시 Seendosi
2019.5.18 Sat 9pm

with

DJ Soulscape
Mogwaa ~ Live set
Stttr (from Kyoto, Japan)
Von Bueno
Yohei Hasegawa
Youngmond

Door ₩15,000
Minors not allowed (ID Check)

#ReggaeNotReggae
#레낫레

Reggae Not Reggae in Tokyo
at 新宿ドゥースラー
2019.6.7 Fri 7pm

with

Von Bueno
Cong Vu
BS0 gang
KAZ(Reggae Shop NAT)

¥1500 w/1drink

#ReggaeNotReggae
#레낫레

RELATED

【インタビュー】PAS TASTA 『GRAND POP』 │ おれたちの戦いはこれからだ

FUJI ROCKやSUMMER SONICをはじめ大きな舞台への出演を経験した6人組は、今度の2ndアルバム『GRAND POP』にて新たな挑戦を試みたようだ

【インタビュー】LANA 『20』 | LANAがみんなの隣にいる

"TURN IT UP (feat. Candee & ZOT on the WAVE)"や"BASH BASH (feat. JP THE WAVY & Awich)"などのヒットを連発しているLANAが、自身初のアルバム『20』をリリースした。

【インタビュー】uku kasai 『Lula』 | 二つでも本当

2020年に現名義で活動をはじめたプロデューサー/シンガー・uku kasaiの2年ぶりのニューアルバム『Lula』は、UKGやハウスの作法を身につけて、これまでのベッドルーム的なニュアンスから一挙にクラブに近づいた印象がある。

MOST POPULAR

【Interview】UKの鬼才The Bugが「俺の感情のピース」と語る新プロジェクト「Sirens」とは

The Bugとして知られるイギリス人アーティストKevin Martinは、これまで主にGod, Techno Animal, The Bug, King Midas Soundとして活動し、変化しながらも、他の誰にも真似できない自らの音楽を貫いてきた、UK及びヨーロッパの音楽界の重要人物である。彼が今回新プロジェクトのSirensという名のショーケースをスタートさせた。彼が「感情のピース」と表現するSirensはどういった音楽なのか、ロンドンでのライブの前日に話を聞いてみた。

【コラム】Childish Gambino - "This Is America" | アメリカからは逃げられない

Childish Gambinoの新曲"This is America"が、大きな話題になっている。『Atlanta』やこれまでもChildish Gambinoのミュージックビデオを多く手がけてきたヒロ・ムライが制作した、同曲のミュージックビデオは公開から3日ですでに3000万回再生を突破している。

WONKとThe Love ExperimentがチョイスするNYと日本の10曲

東京を拠点に活動するWONKと、NYのThe Love Experimentによる海を越えたコラボ作『BINARY』。11月にリリースされた同作を記念して、ツアーが1月8日(月・祝)にブルーノート東京、1月10日(水)にビルボードライブ大阪、そして1月11日(木)に名古屋ブルーノートにて行われる。