【インタビュー】tofubeats 『RUN』| ただ走るしかない

tofubeatsが10/3にニューアルバム『RUN』をリリースした。昨年5月にリリースされた前作『FANTASY CLUB』で大きなテーマに誠実に向かいあったtofubeatsは、新作では誰もゲストアーティストをフィーチャーしないという選択を行っている。

では『RUN』が内省的な作品なのかといえば、焦燥感の中で孤独に動き続けている様を歌った表題曲などに代表されるかのように、この作品はエネルギーを持ったものでありどこかに向かっているものだと言えるだろう。しかしその場所とはなんだろうかとtofubeatsは同時に問いかけている。そこには何があるのか、外に行ったとしても何も起こらないかもしれない。

ではそこで立ち止まってしまうのだろうか、そうではなくtofubeatsは自身の立てた問いに向けて誠実に走った先に作品を作り上げた。その作品ができるまでについて話を訊いた。

取材・構成 : 和田哲郎

写真 : 横山純

- 今回は前作と異なりスケジュールはタイトだったという話ですが、聴いた感じでは丁寧な作りになっていると感じました。歌詞など言葉の一つ一つの繋がりが考えられているような気がしていて。それは自分の中のテクニックがあがったということですか?

tofubeats - 歌詞に関しては最初のシングルが映画とドラマのタイアップだったので、いつもの10倍20倍推敲しましたね、タイアップって歌詞が全てだったりするので。そういう所から始まっていったんで、今回は思いついたままにしておくんじゃなくて歌詞を推敲するっていうのをやったので、丁寧さは出てるような気がしますね。

- 前作も「かなり時間をかけて考えた」と言ってましたよね。前作と今作の歌詞に対する時間のかけ方にはどのような違いがありますか?

tofubeats - 前作は大テーマが一つあって、全曲がそこに向かっていく感じだったので推敲の方法が少し違ったんですけど、今回は一曲一曲それぞれをどういうものにするかみたいなのが多かったので、そういう意味でいい意味で違いもあるのかなって。あと、シンプルにしたいっていうのが今回は特にあったので、そこも違ったりするのかなという感じですね。

 - タイアップについては、制作日誌にも書いてある通り『寝ても覚めても』の方は主人公の気持ちが最初は理解出来なくて、でもそこから自分で主題歌を書かなきゃいけないっていうのは、自分の世界ではなくて他者の世界が入ってきてしまうというものですよね。これまでにそういう経験はありましたか?

tofubeats - タイアップで書き下ろしっていうのは、今までも無くはなかったんですけど、ここまでシビアでがっぷりよつなのはなくて。あと「寝ても覚めても」の濱口監督がすごく言葉を大事にされる方で、セリフを何回も読ませたりとか脚本のほかに裏設定みたいなのを台本の他にもう一冊分くらい作っているようなタイプの人なんですね。とにかく言葉が大事だという理念の人と仕事をするっていうことで、普通に意図を汲み取るというより、もう一つ進んだコミュニケーションが必要で、そこで勝手に神経を使ったっていうのはありましたね(笑)言葉自体の持ってる力というか、言わせたい内容じゃなくてどういう言い回しかを気に掛ける人だったので、自分もそれはある程度合わせていかなきゃいけないなってと。

 - 川についての本(『川はどうしてできるのか?』)を読んでいたということですが、それを読んだことが実際どういう風に役に立ちましたか?

tofubeats -「川の曲にしてください」っていうオファーだったんですけど、なんで川の曲だったんだろうっていうのが、川のことが分かってないと映画の内容と例えられないじゃないですか。それで川のことが分かっていって、自分の中で腑に落ちるというか。「海ってあまり人が介入出来ないけど、川は割と介入出来て、でも時折そうじゃない時もある」みたいなバランス感が映画と例えやすいのかな、とか、自分なりに川をもっと理解すると原作がなんで川と関係しているとみんなが思っているのかを理解する手助けになったというか。映画自体に川は出てこないですよね?映像としてしか。舞台が川沿いってだけで、川は映画の最後にしかセリフとしては出てこないんですよね。それがなんでか考えるきっかけになったっていうところですね。

 - 川っていうテーマ自体は濱口監督から言われた物だったんですよね?

tofubeats - そうですね。だから"River"っていうのは仮タイトルだったんですよ(笑)

- でもこのアルバムの中で「川」っていうのをテーマにした曲が入っているのはすごく自然にまとまっているというか。

tofubeats - それが最初にあったのでそこを目がけて作りましたし、前作も実はジャケがボートなんですよ。俺ずっと言ってるんですけど、山根さん好きになったきっかけのうちの一つが山根さんのボートの絵で、それで『POSITIVE』のブックレットでボートの絵を大きく使ってもらったりしてるんですよ。テーマと少し違ったのでジャケにはならなかったんですけど。っていうのがあって、『FANTASY CLUB』がああいうジャケになって、今回海沿いのジャケなんですけど、"River"と綺麗に繋がってラッキーなんですよね(笑)

 - ボートの絵が好きなのは何か理由があるんですか?

tofubeats - 山根さんがもともとボート部だったらしいんですけど、そんなことはつゆ知らず、『水星』のジャケをお願いした時にネットに上がってる絵を見て、そのボートの絵が一番好きだったんですよ。四人乗りくらいのボートを漕いでるのを上から俯瞰で撮ってる絵で、それが凄い好きで。山根さんって人物アップが多いイメージあるんですけど、ボートっていうモチーフが出てきて、しかも本人がやってたからだと思うんですけど、自然で凄くいいんですよ。ボート部だったことは全然知らなかったんで、それ知ったときはびっくりしましたけど(笑)自分の中で凄く収まりがいい絵というか。もともと水場とか好きなんで、そういうのもありますし。

 - 川があることによって色んな場が発生するというか、川によって誰かと誰かが隔たれることもあるし、例えばそのボートに一緒に乗ることでより親密になることもありますよね。

tofubeats - それこそ前作のブックレットにそういうこと書いてて、ボートは漕いだ方向に進むけどそうもいかない時もある、みたいなのを書いたのも思い出したりして。まさしく“River”ってそういうことか、みたいなところで出発していった感じですね。

 - “RUN”はやっぱり今作を象徴する曲だと思いますが、”RIVER”とも通底している部分がありますよね。隔てるものと近づくもの、だけど何も起こらないこともあるというか。

tofubeats - そうですね、堤防は立てておかなきゃダメだけど立てたところで決壊するかもしれない、みたいなのは全体的にあると思います。

 - “RUN”の歌詞を読むと二つの連なりになっていて、同じ状況なんだけど微妙に違うことを言っていて、対比と言っていいのかも分からないんですけど、この歌詞はかなり時間をかけたのかなと思いましたが。

tofubeats - あっ、“RUN”は結構バンッて出てきて。なんとなくフニャフニャ言ったものがあって、そこから歌詞を考え出してどっかでバンッて出てきたんですけど、それがちょっとネガティブすぎるっていうか、1番っぽいものだけが出ちゃったんで、2番をちょっと上向きに修正したんですよ。歌ってる言葉って自分に帰ってくるのであんまり暗いのもよくないなってことで、ちょっと最後にポジティブな言葉を入れといたって感じですね。最初これとは違ったはずなんですよね、最後の二行とか。

 - 結局前向きな物を出したっていうのは、それも偽りがないものですか?

tofubeats - というか、「やるしかない」みたいな方っていうか、それは前向きなのかどうなのかって感じですかね。

 - 「走る」っていう言葉も「やるしかない」方面で出てきた感じですか?

tofubeats - そうですね、この曲歌いだしからいきなり後悔じゃないですか(笑)前向きって感じでもないんですよね、難しいですけど。

 - 最初はタイトルも“RUN”にするつもりもなかったんですね。

tofubeats - そうですね、でも“RUN”が出来て「『RUN』ちゃうか」みたいな感じになって、ただシングルとアルバムで両方でっかく字を載せたらややこしいっていう話で別のタイトルを考えたんですけど、ちょっと今回はデザイナーのTAMIOさんに「すみません、アルバムも『RUN』で行かせてください」って言った感じですね。

 - トラックは最初からあのトラックだったんですか?

tofubeats - トラックは最初からバッチリあれでした。あのトラックは自分のイメージではどちらかと言うと焦燥感があるトラックって感じで。やらなきゃいけなくさせられてるというか、「やるぞ!」っていう感じというよりはそういう感じですね。

 - 主体的な選択なのかどうかってこともありますよね。

tofubeats - そこはすごいありますね。

 - 他に言葉でいうと、タイアップっていうこともあると思うんですけど、やっぱり「愛」ですよね。

tofubeats - そうなんですよね、最初の2曲はテーマが愛だったんで。“RIVER”が出来たときは「おー、えらいバラード出来たな」って思ったんですけど、“ふめつのこころ”で「アイちゃんやしなぁ...」みたいになって(笑)これはもうベタに愛って入れたくなったんですよね。レトリックとして、本人とも取れるし「愛」とも取れるし、「ベタやけどこういうベタなことやった方がいい、主題歌だし」みたいな。しかも西野七瀬さんが歌うとなったら絶対やらなきゃダメでしょってなって、で「今回Loveやな」みたいなところからですね。。他の曲はそんなに「愛」無いですよね。

 - この2曲で言ってる「愛」の感じこれまでのtofuさんの歌詞からはそんなに出てこないものですよね。

tofubeats - 本当に西野七瀬さん、唐田えりかさんの両氏がいなかったら無かったタイプの愛ですね(笑)

 - それを選択するのに躊躇は無かったですか?

tofubeats - 実際躊躇は無かったです。“RIVER”は歌詞自体は結構時間かかったんですけど曲としてはすぐにボンっと出てきて。“ふめつのこころ”は結構リライトとかがあったので割と行ったり来たりして出来た曲なんですけど。“RIVER”は特に映画の主題歌ってことがあって、自分の曲というよりは映画の曲じゃないといけないんで自然な選択って感じで、自分が歌うことに違和感はあっても曲としての違和感は全然なかったですね。

 - 今作はゲストが居ないけど、そんなに内に籠ってない感じがするのは他の人の言葉や、他の人のための曲という意識があったからですかね?

tofubeats - 今回やってて良かったのが、これまでって人に曲を書いたりすることでしか、自分の知らない自分を引き出すのは無理だと思ってたんですよ。それが映画の主題歌とかどデカいお題目が来ることによって、自分の中でそれが出来るって分かったことが大きくて。時折そういうお題目とか、関係ないところからお題を貰ってやるっていうのは、自分一人でそういうことが出来るんだなってことが分かって。それはすごい収穫でしたね。

 - 自分がこれまで出来ないって思っていた部分なのか、チャレンジしてなかったことが「出来るんだな」って気づく瞬間があるっていう感じなんですか?

tofubeats - これまでも似たようなことはしてたはずなんですよね、オファーを貰って作るとかやってたんですけど。“RIVER”が良かったのは、最初自分が歌うと思って作ってなかったんです。最終的に自分が歌うことにはなったけど、いつもと違う曲にはなったなと。それはラッキーで、人に書くつもりで作って結局自分が歌うってなって、これが出来たから“ふめつのこころ”では自分が歌うって決まってるけど西野七瀬さんも歌うしって気持ちで書いてみて、後で自分で歌うときは別で考えたらいいやって。

 - じゃあ“ふめつのこころ(SLOWDOWN)”はそうやって生まれたものですか?

tofubeats - “SLOWDOWN”は単純に“ふめつのこころ”が出来たときに「これアルバムに入れたらめっちゃ浮くやろな」ってなって、“ふめつのこころ”を作ったタイミングでアルバム用に繋げられるようなオケを作っとこうと思って、スクリューしてサンプリングしたオケだけ作ってたんですよ。歌が乗ったのはアルバムの制作中なので、ちょっと前にそこでまた歌を載せなおしてって感じです。

 - 歌の面で言うと、これまでのインタビューとかでも自分の声は苦手だと言ってましたよね。でも“DEAD WAX”だと結構自分の生の声を使ってますよね。

tofubeats - そう、生風の(笑)あれは オートチューンじゃないピッチ補正が掛かってて。普段アイドルさんとかの歌を録ったときに使う、バッチリ直るんじゃなくて、ある程度直るみたいなピッチ修正ソフトを使ってて。今回は自分一人しかボーカルがないので、全体を聴いたときに起伏が無くて。なんかちょっとギョッとする仕掛けを入れたくて、歌詞とかもちょっと狙いすぎてて嫌なんですけどまあ出来ちゃったしいいか、ってことで(笑)そういう曲を一曲小品で入れときたいなと思ったから、見たらいつも人にやってるピッチ補正を自分にやってみようと思って。もう少し生っぽく直るやつで直して、みたいなのがこれです。

 - 心境の変化が特にあった訳ではない?

tofubeats - 普通に今作をまとめたときに面白くなくて、いろどりが無いっていうか。“NEWTOWN”とかも結局アイデアとしては同じようなことで、自分のボーカルをチョップしてああいう風に使うとか、“SOMETIMES”とかもそうで。自分のボーカルだけなので、幅を持って聴かせたくて。“RUN”でディストーション掛かってるのもそうですけど、そういう所はありますかね。これも生っぽい方向性なんですけど、自分的にはいつもと違う加工をして。

 - やっぱり「加工」なんですね。

tofubeats - そうですね、あとは距離を取りたいみたいな。なんだろう、自分が歌ってる曲で嫌なところは自分で何度も聴きにくいってところで、“RUN”みたいにディストーション掛けちゃったりとか、これはちょっと引きの方のアプローチですけど、普段とちょっと変えてみるっていうのは、何回も聴くためにやってみたことですね。

 - これはやっぱり初めて聴いたときは「おっ」ってなりますね。

tofubeats - でもメチャメチャ直ってるんですよ。元はもっと酷い(笑)毎回アルバム作るってなったら生歌チャレンジタイムがあるんですけど、それで聴いて、身の程を思い知って、いつも通りオートチューンのセットアップに戻すっていう恒例の儀式がありまして(笑)

 - 自分の声をあんまり聴きたくないっていうのは単に下手だからみたいなところなんですか?

tofubeats - いやもう本当にそうですね、聴いてらんないっていう普通の理由(笑)自分の声もあんまり好きじゃない、自分の声が好きな人ってあんまりいないと思いますけど。人の声使った曲とかも作ったことあるんで、距離がちょっと出ないと、自分と同じ顔の犬とか可愛がれないじゃないですか(笑)

 - ナルシシズムの問題というか。

tofubeats - 自分の作った曲は結構好きで聴くんですけど、声だけはなかなか、こんだけやっててもそんなに好きにはならんというか。いい声の人を知っちゃってるっていうのもあるかもしれないですね。でも、自分が歌わないと腑に落ちない曲があるのも最近は分かるんで、そこは取捨選択というかんじですね。

 - 前回のときも、前作の歌は他の人に歌わせる物ではないから自分が歌ったと言っていて、今回それが明確になった?

tofubeats - そうですね。“RUN”とかもまさにそうですけど、頼れる人があんまり思い浮かばないのが“RUN”のテーマというか。なんで、自分でどうにかしなきゃいけないっていう所から今回いろんなアイデアが出てきてるので、今回は「ここでええか」みたいな感じですね。その中で“NEWTOWN”みたいな、自分の声の存在をもうちょっと奥に引っ込めたようなものも自分が聴きたいから作るっていう感じですね。

 - “NEWTOWN”も結構今回の中だと重要な曲なのかなっておもうんですけど、ニュータウンについての本も読んだんですよね?

tofubeats - はい、でもそれは実は“RUN”に作用してて、“NEWTOWN”はその後出来ちゃって、「こっちの方がぽいけどまあいいか」みたいな感じです。

 - “NEWTOWN”の歌詞もかなり面白いというか、「新しい」という言葉の意味が複層的な感じがして。

tofubeats - そうですね、反転してるようにも見えるというか。「新しい街」って言い方がむっちゃ古臭いっていうか、そういうのもなんかいいなと思って。ニュータウン性みたいなのが自分の中で反転したのが今回凄く面白かったので、そういうのを曲でも出来ないかなって感じでしたね。

 - 新しいもの=希望っていうのは今の時代ではそんなに通用しなくなってますよね。

tofubeats - だから中々難しいじゃないですか。かたや、僕の地元の実家のニュータウンが「関西で本当に住みたい街」3位に選ばれたんですよ。まさかの、ここに来てアゲてきて(笑)それも結構おもろいなって思ったんですよ、オカンから急に「どやっ」って感じで送られてきたんですけど。実際僕のとこも再開発が進んでて。コストコとか出来て、そういうのも面白いと思ったんですよね。なんか最近、ニュータウンに関しては凝り固まった見方があったかもなみたいなのをちょっと思って。

 - 寄合バスの話面白いですもんね。

tofubeats - めちゃめちゃいいんですよね。ああいう話ばかり書いてあって、病院が不足してたとか地上げの話とか、結構そういう闘争的な話がいっぱい書いてあって、それがあの本の面白いところだったんですよね。

 - 確かに、ニュータウンの一般的なイメージだと安全かつ最初から整備されてるってイメージですけど...

tofubeats - 闘争的なものと一番遠いと思われてるっていうか(笑)先人たちの気合によるところがあるって話で。

 - 「ニュータウンの人たちが実は最初闘ってました」っていうのと、今例えば誰か若い人がすごい闘ってるとかあまり言われないですけど、でもそういう状況ってミニマルに見ればいっぱいありますよね。

tofubeats - 我々もメジャーとかで何が出来るかみたいなのありますし、そういうのはみんなあるなと思って。

 - 今回アルバムの中盤にほぼインストの楽曲が連続で入ってますけど、結構ハウスが基盤になっているとはいえそれぞれタイプが違うというか、アシッドハウスの曲はあった曲なんですよね。

tofubeats - 3年くらい前からクラブで凄く掛けてて、これは12インチとかで切りたいなと思ってたんですけど、今回曲数も足りないんで入れちゃえって(笑)

 - アシッドとかは音楽的なルーツですよね。

tofubeats - そうですね、結構ずっとDJ始めたときから好きなタイプの音楽ですね。ヒップホップから入っていて、シカゴハウスって距離感がどっちかっていうと近いクラブミュージックだと思うんですよね。そういうのですごい好きなんで。#5、#6、#7は全部303的な音が入ってる、全部違う形のアシッドハウスっていう感じですね。

 - これを中盤に置いたのはどうしてですか?

tofubeats - 今回はタイミング的に総力戦を強いられてて(笑)前回みたいにコンセプトで組み立ててってとこじゃないっていうのは勿論あったんですけど、単純に歌モノが結構パワーがあるっていうか、“ふめつのこころ”と“RIVER”が大分力あるんで「他全部インストでもいいんじゃね?」とか言ってたら“RUN”も出来ちゃって、「どうするよ」みたいな感じで。逆に自分の中で歌でずっと印象が強いっていうのはアルバムとしてちょっと嫌だなっていうのがあったんで、インストは絶対入れたくてこういう曲が入っていったんですね。あとDJですごいハウスを掛けてるのに自分のアルバムに全然ハウスが入ってないんですよね。『FANTASY CLUB』の時もそれが結構悩みで“LONELY NIGHTS”のハウスを作ったりとかもしましたけど、アルバムにもちゃんと入れたいなっていう。「なんで好きなのにこんなに入ってないんだろう」とか思いながら今回インストは四つ打ちにしようって決めて作ったのはありました。

 - 僕は”SOMETIMES”が好きで。tofuさんがプレイリストとかでUKのアフロビーツっぽいものを入れてたりするじゃないですか。そういう影響も感じるっていうか、ミニマルなメロウさというか。ボトムもポリリズムっぽい物で、その辺りからきてるのかなって思ったんですが。

tofubeats - ポリリズムは普通にどっかでやりたくて、某海外アーティストのリミックスで作った曲だったんですけど諸事情あって出ず、情報も出しちゃダメってなって、でもこのオケすごい気に入ってたんで、憎しみとともにフォルダに置いてあったんですよ(笑)で、今回インストでもいいから入れたいって思ってたんですけど、色々あってボーカルを結局載せられたので入れたっていう感じですね。これはどっちかって言うとポリリズムを作るっていうお題目で始めた曲なんですよ。リミックスなんで、「今回のリミックスはどういう感じで進めよう」ってときに「じゃあ今回ポリリズムでやってみよう」って作ったリミックスがあって、それの声とか音は外して全部自分の打ち込んだ音に差し替えて、自分のボーカル載せてっていう感じでした。

 - ポリリズム的な物への興味っていうのはどこから?

tofubeats - 昔から好きですね。「beats」っていうぐらいなんでやっぱりリズムに対しては人一倍興味があるんですけど(笑)あと単純に7拍8拍のポリリズムといえばデートコースペンタゴンロイヤルガーデンの『構造』で、あれが多分7、8のポリリズムだったと思うんですけど、あれが物凄いポップな曲として高三くらいのときに聴こえたんですよ。初めてのPerfumeの”ポリリズム”的じゃない方の、「ガチポリリズム」で、あれを高校3年生とかで聴いてカッコいいなと思ったのが記憶にあったりして、そういうのをどっかで打ち込みでやりたいなと思ってて、今回やってみたっていう感じです。

 - でもやっぱりポリリズム使ってても土着性みたいな方向に振れないのが。

tofubeats - そうですね、アフロっぽいのは自分がやらなくてもいいかなみたいなのはありましたね。

 - なるほど。イントロはUKの今のああいう感じですけど。

tofubeats - 好きは好きなんで、そういうのがちょっと出てるんだったら嬉しいですね。

 - ちなみに、UKのああいうアフロビーツとかに興味があるというか、好きなのはどういう部分ですか?

tofubeats - どっちかっていうとUKとかじゃなくてスペインのBad Gyalを見つけて。スペインのCanada Editorialレーベルから出してるんですよね。そこが元々インディーロックとか出してて好きで、そのプロデューサーが噛んでるみたいなので突然出て、「この音楽かっこいいんですよね」ってマネージャーに言ったら「あれアフロバッシュメントって名前でめっちゃ流行ってるから」って言われて聴くようになったっていう感じですね。あとは僕の周りにLe Makeupとかああいうの掛ける子がいて。自分より下の世代の子ああいうのめっちゃ好きなんですよね、なんでかは分かんないんですけど。それで情報も入ってくるんで、聴くようになりました。ポップでいいんですよね。

 - 変にアングラ感も無いしハイブリッド感もありますしね。

tofubeats - めちゃめちゃ垢抜けてるっていうか、そこが面白いなっていう。でもヒットチャートめっちゃ多いですよね、フランスとか。フランスのヒップホップは『FANTASY CLUB』の時に聴いてるっていう話をしてた気がするんですけど、“Afro Trap”のMHDの前のアルバムとかすごい好きだったんで。MHDってすごい早かったんですよね、「アフロビーツ」とか言ってないときに「Afro Trap」とかいう一ミリも日本では流行らなかった造語を使い続けてるところがいいなと思って(笑)

- 前作だとSolangeとかから影響を受けてたと思うんですけど、今回はそれに類する作品はあったりしますか?

tofubeats - 去年から作ってるんでこれっていうのを挙げるのは難しいんですけど、制作の後半で小西康陽さんのボックスセットが出て、それはめっちゃ当てられたというか、小西さんは歌詞をちゃんと書く人の最高位じゃないですか。影響じゃないですけど襟を正されたっていうのはありましたね。ボックスセットを買って聴きなおそうと思って、小西さんの昔の著作とかもちゃんと読まなきゃって全部買って読んで。中のコラムが面白すぎるんですよ。そういうのは歌詞を書く上では凄く影響を受けましたね。あと、パソコン音楽クラブがリリースしたのは普通に頑張らなきゃなと思ったり。

 - 小西さんって固有名詞を使うのが凄く上手い。でも現代になると使える固有名詞ってやっぱりあんまりないというか、シンボリックなものが見つけづらい。

tofubeats - そうですね、それは時代というか。そういう言葉で今は人々の気持ちが一つにならんというか、固有名を使うとハッシュタグみたいになっちゃうんで。でも逆に言うと、小西さんのを聴いて今だから何をやったらいいか凄く考えさせられたというか、『わたくしの二十世紀』ってアルバムだったりとか逆に時代性があって、本人も凄い意識的っていうか。テレビとかそういう固有名詞が特定の時代を物凄く想起させるっていう機能を分かって使うというか。「じゃあ今はどうすんねん」みたいなのを凄く考えさせられたんですよね。「まずそこまで考えて歌詞をみんな書いてんの?」というとこもですし。たまたま映画とかドラマで歌詞に対して自分がナーバスになってる時だったんで物凄く良い指針になったというか。小西さんは全部一筆書きで歌詞書くって書いてて「マジか」ってなりましたけど(笑)単純に歌詞に対するこだわりが自分の中に出てきたタイミングで再確認できたのは良かったなっていうのはありますね。

 - 逆に「二十世紀」って言ってることで「今は出来ないよ」っていうのを。

tofubeats - そうなんですよ、それを自分でもインタビューとかでおっしゃってて。「今は出来ないからそれが良い」みたいな、それはすごいありますね。

 - 確かに今は何を固有名として出したらいいのか...

tofubeats - 「Netflix」とか(笑)「Netflix & Chill」とかそういうことなんですけど。固有名自体がファストっていうか、そこは使うときは凄い意識しないといけなくて。「iPhone」とかって言葉を歌詞に使うのは俺は抵抗あるんで、それは5年後10年後聴くリスクを凄いはらんでいるというか。でも小西さんが使う「東京」とかって使えるんですよね、そのままで別にいいっていうか。「Video Kills The Radio Star」みたいな、あれもラジオとかあんまみんな聴いてないけど使える固有名詞みたいな、ああいうのは良いと思いますね。

 - ラジオはまだ現役ですけど、もうレガシーになってるというか。なんか今って、何が遺産になるのか分からないですよね。

tofubeats - 「Netflixはレガシーになるんか」みたいなのめっちゃあるじゃないですか(笑)

 - Twitterとかもいつ無くなるか分からないし。

tofubeats - だから「固有名詞が出てこない」というより「出せない」っていう時代性でもありますよね。

 - 「長く聴いてほしい」からこそ固有名詞を出せないってことですよね。若林さんとのこの間の対談で、一応Kanyeの新しい『Ye』とかも聴いてはいると真似しようとは思ってないと言ってましたよね。

tofubeats - 良いけどファストっぽくなっちゃうみたいな。7曲であることは今出す物として良いけどって話ですね。残すやり方じゃない、だったら『Testing』とかの方が良くない?みたいな。Kid CudiとのKIDS SEE GHOSTの一曲目とかめっちゃ良いけど、でもファストになるみたいな。結構「短いのが良い」って意見も出てたけど、俺はあんまりそうでもないんちゃうかっていうのはちょっと思ってて、ただ音楽全体が短くなってるっていう可能性もあるし、そこはちょっと難しいですけど。

 - 今回のKanyeのアルバムって本当に手癖でしか作られてないっていうか、実際一週間で7曲ぐらい作ったみたいな話もあったりして、あれは本当にKanyeにとってただのチャレンジだったというか。「注目されたから短い方がいいんだ」って論調になりかけましたけど。

tofubeats - 日本でそんなヤツ売れてないですからね。Kanyeみたいに売れてるやつ一人もいないっていうか。

 - “RUN”とかも短いけど、あっちのラップとかも本当に短いじゃないですか。

tofubeats - でも日本でああいうことやる人居ないですよね、“RUN”みたいなの。結構待ってたんですよ、ヒップホップ好きなんで。“RUN”みたいな、一分半ぐらいの曲でガーッとスピットして終わるみたいなやつ出ないかなって思ったんですけど出なかったんでやったっていう。そこはだからリスナーとしては期待外れな面もあったというか。「俺かぁ...」みたいな(笑)「思いついちゃったからやるけど」みたいなところはちょっとあります。

 - それは“SHOPPINGMALL”のときも同じようなことを言ってたような気が(笑)

tofubeats - そうですね、ヒップホップに対する期待が大きいんで(笑)「ああこれは面白い」とか、「これは思いつかへんかった」みたいなのがヒップホップから出てきたら嬉しいっていうか。

 - ヒップホップに対する距離感っていうのは個人的には前作と変わらない感じですか?

tofubeats - そうですね。あとは昔から言ってますけど、自分のやってることがそんなにJ-POPだとも思ってないというか。ヒップホップな気持ちでやるとこうなって行くみたいな感じですかね。フォーマットに飲まれてることほどヒップホップ的にダサいことはないというのは思いますね。

 - 最近聴いてたラップの作品とかは『TESTING』とかですか?

tofubeats - 『TESTING』とかも聴いてましたけど、ちょっと最近はコレっていうのが出てないんですよね。Minchanbabyの“走りの中で”は良かったけど。なんか全然最近ラップの新譜でコレっていうのが...Mitskiとかの方が全然良いみたいな。でもShawty Pimpって新譜じゃなくて再発やけど、メンフィスの95年のめっちゃローファイなラップみたいな。Derloy Edwardsのレーベルから出てたやつはめちゃくちゃ今回の制作中聴いてました。Phonk(笑)“R.I.P SCREW”は良かったっすね(笑)やっぱDJ Screw好きなんで。Playboi Cartiの新譜も良かったですね。ただアレも一週間くらい聴いたら「もうええか」みたいな(笑)今パッと聴いても良いけど流しておけるアルバムで、一曲ボンみたいな感じでもなかったですね。あと普通にVaVaくんのEPは技術の向上が凄いみたいな(笑)“Bonita”ぐらいからの、「突然売れるオケをめっちゃ作れるようになってる」みたいなのはありましたけど。

 - 前回話したときに「こういう作品作ると次が結構大変かもな」みたいなことを言ってた気がして、でも僕の印象ですけど今回みたいな作品を作ると自分としてはこの後やりやすいと思ったんですが。

tofubeats - そうですね、『RUN』まで行くともう何やってもいよいよOKになるんで。ノーゲストでフルアルバム出せて、これがちゃんとある程度世に出ればかなりOKが出るというか、本当に自由になっていくなというのはありますね。『FANTASY CLUB』の後は実際大変だったんですよね、アイデアがあんま出なくてデモ作ったりしてなくて。そこで良いタイアップを連続して頂けて、アルバムのお題がもうその二曲で出来たのでそこは本当に助かったというか、めちゃめちゃラッキーでしたね。そこから本当に何の仕事も無くてポンと「アルバムやりなさい」だったら相当キツかったと思いますけど、ちゃんと最初にテーマありきで何曲か作れたのは今回でもラッキーなことでしたね。

 - じゃあこの2曲が無かったらどうなってた分からないんですね。

tofubeats - 分からないです、“RUN”も出来てなかったんじゃないですかね。その時期は『FANTASY CLUB』をちゃんと売ってこうって、このモードでしばらくやりたいなっていうところがあって。「4枚目とかそんなに急がなくていいや」って思ってたので。そこで結局映画とか色々入ってきて、一年ちょいで出たのでラッキーだったなという感じですね。切り替えられたというか。

 - ありがとうございました。

Info

・tofubeats 4th album 「RUN」
10月3日発売
WPCL-12943 税抜価格:¥2,800
※初回プレス分のみブックレット特殊仕様
※tofubeats本人によるアルバム・ライナーノーツ封入

M1. RUN
M2. skit
M3. ふめつのこころ
M4. MOONLIGHT
M5. YOU MAKE ME ACID
M6. RETURN TO SENDER
M7. BULLET TRN
M8. NEWTOWN
M9. SOMETIMES
M10. DEAD WAX
M11. RIVER
M12. ふめつのこころ SLOWDOWN

・先着購入特典決定!
以下の対象CDショップでお買い上げの方に先着で、オリジナル特典をプレゼントいたします。
在庫がなくなり次第終了となりますので、お早めにご予約・ご購入ください!
■amazon:未発表音源「RIVER (tofubeats remix)」
■TOWER RECORDS:オリジナルステッカー

<両A面シングル「RUN / RIVER」7インチレコード>
発売日:11月22日(木)恵比寿LIQUIDROOM会場にて先行発売。以降、11/28(水)全国発売
定価:1500円+税
タイトル:RUN / RIVER
品番:WPJL-10109
Side A: RUN
Side B: RIVER

<ワンマンライブ詳細>
2018年11月22日(木・祭日前)
[ tofubeats New Album「RUN」Release Party in LIQUIDROOM ]

-LIVE-
tofubeats
and Secret Guest!

-Laser&Lighting&Visual-
huez

[会場] 恵比寿LIQUIDROOM [ http://www.liquidroom.net ]
[住所] 渋谷区東3-16-6 TEL:03-5464-0800
[時間] 開場 18:00 開演 19:00
Sold Out!!

RELATED

【インタビュー】JUBEE 『Liberation (Deluxe Edition)』| 泥臭く自分の場所を作る

2020年代における国内ストリートカルチャーの相関図を俯瞰した時に、いま最もハブとなっている一人がJUBEEであることに疑いの余地はないだろう。

tofubeatsがライブやDJでプレイしていた自身の楽曲のリミックスアルバムをリリース

tofubeatsが初期作から最新EPに収録された楽曲までを幅広く網羅したリミックス集『TB DJ REMIXES』を、12/18(水)にリリースする。

【インタビュー】PAS TASTA 『GRAND POP』 │ おれたちの戦いはこれからだ

FUJI ROCKやSUMMER SONICをはじめ大きな舞台への出演を経験した6人組は、今度の2ndアルバム『GRAND POP』にて新たな挑戦を試みたようだ

MOST POPULAR

【Interview】UKの鬼才The Bugが「俺の感情のピース」と語る新プロジェクト「Sirens」とは

The Bugとして知られるイギリス人アーティストKevin Martinは、これまで主にGod, Techno Animal, The Bug, King Midas Soundとして活動し、変化しながらも、他の誰にも真似できない自らの音楽を貫いてきた、UK及びヨーロッパの音楽界の重要人物である。彼が今回新プロジェクトのSirensという名のショーケースをスタートさせた。彼が「感情のピース」と表現するSirensはどういった音楽なのか、ロンドンでのライブの前日に話を聞いてみた。

【コラム】Childish Gambino - "This Is America" | アメリカからは逃げられない

Childish Gambinoの新曲"This is America"が、大きな話題になっている。『Atlanta』やこれまでもChildish Gambinoのミュージックビデオを多く手がけてきたヒロ・ムライが制作した、同曲のミュージックビデオは公開から3日ですでに3000万回再生を突破している。

WONKとThe Love ExperimentがチョイスするNYと日本の10曲

東京を拠点に活動するWONKと、NYのThe Love Experimentによる海を越えたコラボ作『BINARY』。11月にリリースされた同作を記念して、ツアーが1月8日(月・祝)にブルーノート東京、1月10日(水)にビルボードライブ大阪、そして1月11日(木)に名古屋ブルーノートにて行われる。