Juice WRLD | 青いセンチメンタリズム

“Lucid Dreams”のヒットで一躍その名が知れ渡ることとなったJuice WRLD。Stingの”Shape of My Heart”をサンプリングしたエモーショナルなビートの上で別れた恋人に対する思いを歌った同曲はビルボードチャートで9位を記録し、ゆくゆくは1位となるのではないかといった噂がまことしやかに囁かれている。

Juice WRLDはシカゴ出身のラッパーで、高校のラジオ局でフリースタイルを披露することからキャリアをスタートし、2015年からSoundCloud上に曲をアップロードするようになった。

その後も順調にキャリアを重ね、2017年に発表したEP『999』に収録された”Lucid Dream”がヒットし、Interscope Recordsと300万ドルで契約。今年の3月には1stアルバム『Goodbye & Good Riddance』をリリースした。

Juice WRLDのリリックは主にドラッグと人間関係における不安や苦悩といったテーマで占められ、いわゆるエモラップやオルタナティブラップといった名前でカテゴライズされてはいる。

彼はFall Out BoyやPanic! at the Discoといったバンド(小学生の時に同じクラスだった女の子からこういったバンドを教えてもらっていたという)や、Chief Keef、Kanye Westのような地元シカゴのラッパーから影響を受けており、特にKanyeの『808s & Heartbreak』に強くインスパイアされたことを様々なインタビューにおいて語っている。
Lil Uzi VertやXXXTentacion、Lil Peepといった同じくエモラップと呼称されるラッパーと比較すると、彼の音楽はよりカジュアルかつ青いセンチメンタリズムに満ちているような印象を受ける。そこには確かに自殺という言葉やドラッグが出てくるが、彼の場合はそこに常に恋愛というものが先行している。恋愛に敗れた結果として出てくる死は、どこか比喩的であり精神的なもののように映る。

Kanye WestやKid Cudiの系譜にありながら、例えば学校などでの憂鬱を抱えているティーンたちのようなリスナーにとってより身近に感じられるような音楽を彼は作っているように聴こえる。

The BeatlesやBilly IdolからSkrillexやThe Chainsmokersに至るまで幅広い音楽を聴いていたという彼の音楽は、ダークさや内向性と共に様々な層にとって受け入れられやすいポップさを持ち合わせている。
彼はLyrical Lemonadeのインタビューにおいて自分のようにネガティブな感情を抱いている人に曲を届けたいとしており、一種の治療のような気持ちで音楽を作っていると語っている。

Juice WRLDは現在、今年のXXL Freshmanにも選出された友人のSki Mask The Slump Godと共にミックステープの制作に取り組んでいるという。これからどのような活躍を見せていくのだろうか。(山本輝洋)

RELATED

FutureがJuice WRLDの死について「まだ心を痛めている」と語る

昨年12月に21歳の若さにして命を落としたJuice WRLD。そんな彼とコラボアルバム『WRLD ON DRUGS』をリリースしていたFutureが、インタビューにて彼の死について語っている。

Juice WRLDの未発表曲が約2000曲遺されていることが明らかに

昨年末に地元・シカゴの空港でオーバードーズを起こし帰らぬ人となったJuice WRLD。生前からレコーディングスピードの速さについても話題になっていた彼だが、遺されていた未発表曲が約2000曲にものぼることをTMZが報じている。

急逝したJuice WRLDの死因がオーバードーズによるものだったと明かされる

昨年12月に地元シカゴの空港で急逝したJuice WRLDの死因が発表された。

MOST POPULAR

【Interview】UKの鬼才The Bugが「俺の感情のピース」と語る新プロジェクト「Sirens」とは

The Bugとして知られるイギリス人アーティストKevin Martinは、これまで主にGod, Techno Animal, The Bug, King Midas Soundとして活動し、変化しながらも、他の誰にも真似できない自らの音楽を貫いてきた、UK及びヨーロッパの音楽界の重要人物である。彼が今回新プロジェクトのSirensという名のショーケースをスタートさせた。彼が「感情のピース」と表現するSirensはどういった音楽なのか、ロンドンでのライブの前日に話を聞いてみた。

【コラム】Childish Gambino - "This Is America" | アメリカからは逃げられない

Childish Gambinoの新曲"This is America"が、大きな話題になっている。『Atlanta』やこれまでもChildish Gambinoのミュージックビデオを多く手がけてきたヒロ・ムライが制作した、同曲のミュージックビデオは公開から3日ですでに3000万回再生を突破している。

WONKとThe Love ExperimentがチョイスするNYと日本の10曲

東京を拠点に活動するWONKと、NYのThe Love Experimentによる海を越えたコラボ作『BINARY』。11月にリリースされた同作を記念して、ツアーが1月8日(月・祝)にブルーノート東京、1月10日(水)にビルボードライブ大阪、そして1月11日(木)に名古屋ブルーノートにて行われる。