【インタビュー】林陸也 (SUGARHILL) | 若手デザイナーが切り取る今の景色
ファッションメディアからのピックアップでも注目を集めるブランドSUGARHILL。新シーズンの展示会を目前に控えた今、デザイナー林陸也に自宅のアトリエにて、SUGARHILL、そして自身のこれまでについて話を聞いた。
取材・構成 : 西原滉平
写真 : 永井樹里
- まず簡単な経歴を教えていただけますか。
林陸也 - 文化学院大学からここの学校、ニューヨークファッション工科大学(FIT)へと移り、現在は武蔵野美術大学の空間デザイン学科でファッションを勉強しています。それ以外では、FIT留学中にLANDLORDというブランドでインターンをして、今は武蔵美に通いながらFacetasmでアルバイトをさせて頂いてます。
- 最近のコレクションだと武蔵野美術大学のゼミ展で発表された、『Conquer』と題されたショーが記憶に新しいです。SUGARHILLのアパレルとかなり雰囲気が違いましたがどのようなコレクションだったのですか?
林陸也 - 自分はもともと舞台衣装の専攻でした。ニューヨークにいたときも、ドレーピングというウィメンズのドレスを作る作業もしていたので、あのようなデコラティブな服を作ること自体は初めてではなかったです。
SUGARHILLはブランドとしてやっていく上で売れなければいけないと思うし、ウエアラブルなものでありたいと思っています。でも、より直感的で、エゴを前面に出したような作品のイメージも常に頭の中にあることは事実です。
武蔵美に入ったときは、その二本の軸を、ひっくるめて一本でやっていけるようになれば良いなと思っていました。
でも、いざ入学するとすごく自由度の高い環境で、「なんでも自由にやっていいよ」という感じでした。だから、先ほど言った二本の軸をまとめたクリエイションというよりは、より直感的で、ラフデザインのような荒削りなクリエイションに学校でチャレンジして、後にそれをどんどん削ぎ落として、柔らかくして、最終的にSUGARHILLの服としてよりウエアラブルなものにまで持って行こう、という意識でゼミ展に臨みました。
- では『Conquer』のときの派手なデザインも、新しいチャレンジと言うよりはもともとSUGARHILLでのクリエイションとも共通した美意識だったということですか?
林陸也 - そうです。確かに前回のゼミ展の『Conquer』の服と、SUGARHILLの服は一見すると違った印象ですが、その背後にあるテーマやビジョンはあくまで一貫しています。
ビジョンをありのまま前面に押し出して表現する機会というのは貴重ですし、相当に力と信頼のあるメゾンなどでない限り、普通は無い機会だと思います。でも今は有難いことに、学校でその機会、場所が与えられているので、それを使わせてもらって、それを最終的にSUGARHILLにまで持っていくという感じです。
- その二本の軸に共通しているビジョンというものは、言い換えてみればSUGARHILLのコンセプトそのものになると思うのですが、 それを簡潔に言うとどのようになりますか?
林陸也 - 言葉にするのがとても下手で伝わりづらいかもしれませんが、服や音楽、その他のカルチャー、自分の身の周りのかっこいいものを全てフラットに汲み取って、リスペクトして、その上で新しい提案をしていきたいと思っています。よく「〜を再解釈した〜」という言葉を見ますが、自分の場合はどちらかというと「再提案」かもしれません。それもいいけど、今、俺だったらこうするよ!みたいな感じです。言葉にするのが下手でわかりづらく申し訳ないです。
- 今の時代こういう言い回しをすると怒られるかもしれませんが、今までのコレクションを見たり実際に話を聞いていたりすると、少し感性が女性的に思うときがあります。
林陸也 - それは最近自分でもそう思いますね…。心なしか仕草も…、この前びっくりしたとき、無意識にハッと両手を口に当てていました(笑)
SUGARHILLの服は、さっき言ったような、ワークウェアやミリタリーウェアの、無骨な要素や尖った要素を柔らかくしていく作業が、中性的な方向に寄せる作業とも言えるのかもしれません。
- 前のシーズンのテーマは「Girls」でしたが、どういうきっかけであのテーマにしたのですか?
林陸也 - 「Girls」の更に一つ前のシーズンで、ニューヨークのスケートパークで写真を撮ったのですが、実はその時にもともと写真を撮りたかったスケートクルーがいたんです。 Skate Kitchenと言う名前のニューヨークのクルーで、全員女の子なんです。彼女らを捕まえて写真を撮りたいなと思って二日間ずっとパークに張り付いていたのですが、結局撮れなかったんですよね。その未練から始まったところはあるかもしれません。
Skate Kitchenのメンバーは20歳そこそこで、女子大生もいて、本当に僕らと同じ位の年齢の女の子たち。 彼女らのファッションがとてもかっこよくて、街に出てショッピングする女の子たちとはまた違うんです。
ストリートなんだけれど、メンズライクと言うよりはナードな感じ。まさに私服、って感じの格好でスケートをしてるんだけど、集団として集まったときのかっこよさがとても印象に残っていました。
「Girls」では、色使いはその子たちのワードローブから引っ張ってきて ディテールや、その他の服のデザインは、そのタイミングで僕がかっこいいと思ったものをいろいろ集めて作りました。
とは言えシーズンテーマの名前はだいぶ大雑把につけていて、本当はもっといろいろな要素を詰めているのですが、キャッチーなネーミングのテーマにしています。
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- 次のシーズンのテーマは何でしょうか?
林陸也 - 「tender」というテーマです。一番はじめのきっかけになったのはBen Wattの『Big Up』という写真集です。ニューヨークのラッパーやイギリスのパンクキッズを写した写真集なのですが、そういう反社会的でトゲのある被写体にもかかわらず、映っているラッパーたちの表情はどこかリラックスしていて親しみやすさやがあって。実際に被写体と仲良くなり、身近な距離からじゃないと撮れないような写真だったので、そこに滲みでる、被写体のイメージと対照的なあたたかさや優しさみたいなものが印象的でシーズンテーマのきっかけになりました。
- 音楽からインスパイアされることが多いのですか?
林陸也 - 多いです、とても。そんなに詳しくないですけど。1番影響受けたというかよく聴いていたのはArctic MonkeysとかBlurとかです。最近だったらYellow Daysとか、Cosmo Pykeとかは好きですね。
- 意外とイギリスのアーティストが多いんですね。
林陸也 - そうですね、ずっとバンドが好きなんです。
- ブランドの名前も含めてヒップホップっぽい印象を受ける人が多いと思うのですが。
林陸也 - そうなのですが、そのイメージが固定されるのは脱出したくて…。ブランドを始めるタイミングにヒップホップとの出会いが多かったし、実際好きなんですが、そこまで詳しくはないです。詳しくないといつも言っています。あまりコアな質問をされるとめんどくさいので(笑)
- ゼミ展の『Conquer』は音楽の選曲も素敵でした。僕の周りでもあのショーの反響をよく聞きます。「Conquer」というテーマの意味は?
林陸也 - 実は武蔵美でいろいろ言われることもあります。「まぁ、服は作れるかもしれないけど、それだけだよね」みたいな。それに対して思うことはあるけど、それを口で言い返しても意味ないから、それをクリエーションにして言い返してやろうと思って。Conquerは日本語では「征服する、制圧する」っていう意味ですが、あのコレクションで「俺の勝ちだぞ」ってことを見せつけてやりたくて(笑) 本当にそういう単純な意味でつけたタイトルです。制圧したかったんです(笑)
僕も無意識に愚痴を言ってしまっていることもあるかもしれないけれど、悪口に悪口で対抗したくなかったので。
- 武蔵美に編入して約1年経つと思いますが、どうでしたか?
林陸也 - 今までファッションという土俵でしか勉強していなかったけれど、武蔵美ではそれ以外のもの、建築だったり写真だったり映像だったり、そういうものを学んでいる人たちがたくさんいます。そういう土俵が違う人はファッションに対してより気軽に、いろんな角度から批判をしてくれるんです。だから、そういう人たちの言葉から新しく気づくことが多くて刺激になっています。
- 学ぶ場所、働く場所も転々としている方だと思いますが、それぞれの場所でどういう経験を出来たと思いますか?
林陸也 - LANDLORDではパターンを引く力がとてもついたと思います。たくさん教えてもらったし、実際に僕がパターンを引いた製品も多かったです。
あと、海外のやり方を直接見られたかなと思います。 上下関係なくセンスが良いやつが抜けていくっていう感じですね。金があれば人も動くし、そういう現場を見ることができました。
Facetasmでは本当に社会を学びました。生産管理も企画も手伝っていますが、パリコレという大きな舞台で勝負しているブランドの、中の仕事を直接見ることができます。上下での人との付き合い方、会社の外の人との接し方など、本当に勉強できました。ブランドをやっていく上ではもちろんセンスも大事だけど、人との付き合い方だったり会社の回し方なども本当に大事だと感じます。
バイヤーさんだって僕がうざっかったら買ってくれないだろうし、時には人柄で買っていただけることもあると思います。
そういう部分で学ぶことは多いですし、大人にならなきゃいけないな、と感じさせられました。
- 現在22歳ですが、同年代で本格的に服を作ったり、デザイナーを始めたりする人も徐々に出てくるタイミングだと思います。ライバルのような存在はいますか?
林陸也 - ライバル…、よく話や名前を聞く同世代の人は何人かいますが、単純に僕がほとんど家にこもって作業をしているので、あまり実際に関わりがなくて。
しかも、いたとしてもここでは言えないですね(笑)
でもあまりそういう意識を持って周りを見ないようにはしています。川久保玲の言葉を借りると、クリエイターがクリエイターを評価してはいけないというか。同じ土俵のクリエイターを評価するべきなのは僕らじゃないし、周囲を見て右往左往するより、自分のやるべきことだけやっておこうと思っています。
- 他の同世代と比べた時の自分のアイデンティティは?
林陸也 - イケてる物を作っている知り合いはいますし、とても刺激になりますが、量産できる体制や展示会を行うノウハウ、また、実際にお店に卸してお客さんに買って頂く、という一連の流れを既に作れているのは、学生という同年代の中だと自分の強みなのかなと思っています。
将来はこのブランドで家も車も買って家族も食わせていくし、そのためにはビジネスとして売り上げにもそれなりにストイックにやっていきたいです。
- 休みの日は何をしていますか?
林陸也 - 休みの日は最近あまりないですね…。今は一応休みを使ってSUGARHILLをやっている感じなので。
基本的に学校に行って課題をやって、学校が休みの平日はFacetasmに行ってお手伝いさせてもらって、そして土日で、溜まったSUGARHILLの仕事をやっています。今は学校が休みなので必然的にSUGARHILLの比率が高いです。
ブランドも自分がかっこいいもの見せたいという思いでやっているのだから、生活全てから吸収できるようにならないといけないし、なおさら休みと休みじゃない日の境目がなくなってきているかもしれません。
- 今まで作った服の中で1番思い入れがあるアイテムはどれでしょうか?
林陸也 - 最初に作ったつなぎです。Kid Fresino君がMVで着てくれたものです。初めはチノと黒のコーデュロイがあって、Fresino君はどっちもMVで着てくれています。
僕がそれを自分で着てパーティに遊びに行ったときに、彼に「それ着たい!」って言ってもらえてもう一度作ることになりました。そしたらそこにいた友人のフォトグラファーに、どうせやるんだったらしっかりコレクションにしろよって言われたのがSUGARHILLを始めたきっかけです。
そこから全てが始まったので、そのつなぎは思い出深いですね。
だから、いろいろ変えながら定番として作り続けていきたいです。
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- ずっと東京を拠点にブランドをやっていくつもりですか?
林陸也 - 今のところそのつもりです。海外でやるのはビザだったり税金の払い方だったり、いろいろ大変なこともあるし、その結果余計なことに考える時間が費やされる気がして。今の時代、国境や距離の差も薄くなってきていると思うので、場所にこだわるよりは、「どこでやっていても良いものは良いよね」というスタンスでいきたいです。強いて言うなら、なんとなく二子玉川にスタジオを持ちたい気持ちはあります(笑)かっこいいから(笑)
- 次のシーズンの展示会を目前に控えています。振り返ってみて、前回の「Girls」のシーズンの展示会の反響はどうでしたか?
林陸也 - 予想以上に多くの方々に買って頂けました。展示会だけのつもりでしたが、別の店でポップアップや受注会などのお誘いもいただけました。ナンバーミーというお店では、入荷の情報をお店が流したとたん問い合わせがたくさん来て、予約で売り切れるアイテムも出ました。すごく嬉しかったです。
- 「Girls」のシーズンはスタイリングも自分でやったと聞きました。
林陸也 - そうですね。あの時は全部自分でやろうという意識が強くてそうしたんですが、反省点も多かったです。
でも嬉しいこともあって、写真を撮ってくれた吉岡美樹という子のインスタのフォロワーが4倍になりました(笑)僕より増えてるじゃん、っていう(笑)
- 次の展示会に向けて意気込みはありますか?
林陸也 - まずは売り上げを上げたいですね。アイテムのクオリティがすごく上がってきているし、前回以上のレベルのコレクションを見せられる自信はあるので、実際に手にとってご覧いただければと思います。 型数も増えました。
- 最後に、ブランドとして今後の目標をお聞きしたいです。
林陸也 - 1番の目標はもちろんブランドの規模を大きくすることですが、具体的な近いビジョンとしては、半年後にバンクーバーのコレクションに出ようかなと考えています。自分はバンクーバーに住んでいたこともあり思い入れが強くて、その土地でやれたらすごく嬉しいなと思っています。バンクーバーのクールなところも僕は知っているので、そういうところも持ち帰って表現して、それでバンクーバーが注目されてかっこいいと周りの人からも思ってもらえたらすごく幸せです。
以下、コラージュを取り入れた最新の2018-2019秋冬コレクションのルックの一部。
2018-2019秋冬コレクションの展示会情報詳細は以下の通り。
誰でも入場可能となっており、会場では同時に2018春夏のアイテムの限定販売も行う予定。
Info
場所:表参道ROCKET
〒150-0001東京都渋谷区神宮前4-12-20 表参道ヒルズ同潤館
日時:3/9(金)〜3/14(水) 11:00〜21:00
※3/11(日)は11:00〜20:00
3/14(水)は11:00〜18:00