【コラム】TDE周辺で活躍する5人の女性

1月29日(日本時間)に行われた第60回グラミー賞授賞式では、ヒップホップ/R&Bアーティストの躍進が印象的だった。ヒップホップ/R&Bの売上がロックのそれを上回ったことを反映してか、主要4部門のノミネーションを同ジャンルの作品やアーティストが席巻し、結果としてBruno Marsが3冠をかっさらった。最多8部門にノミネートされたJAY-Zが無冠に終わるなどして物議を醸したが、ヒップホップ/R&Bが人口に膾炙していることを印象づけるかたちとなったことは間違いない。

一方で、女性アーティストの受賞が全86部門中17部門と、きわめて少なかったことも見逃してはならない。男性だらけの受賞結果を受けて、Twitterには#GeammysSoMale というハッシュタグが登場。グラミー賞を主催するザ・レコーディング・アカデミーのニール・ポートナウ会長は「女性アーティストはステップアップする必要がある」などと発言し、これまた物議を醸した。

#GrammysSoMale になったのは、女性アーティストの「ステップアップ」不足が理由ではない。この日ステージに立った女性アーティストたちのパフォーマンスは、そう思わせてくれるに十分なものだった。ただ、結果としてこの日、女性にあまり光が当たらなかったことも事実である。しかし、この日ラップ部門を総ナメにしたKendrick Lamarが、現在の「キング」としての地位を確立した背景には、彼や所属レーベルTDE (Top Dawg Entertainment)に携わる女性の活躍があることを忘れてはならない。本稿では、TDE周辺で活躍する5人の女性について紹介したい。

Dianne Garcia

1
写真:Fashonistaより

スタイリスト。LA出身だが、子供時代の大部分をタイで過ごしている<fn>How Dianne Garcia Successfully Ditched College to Style Hip-Hop and R&B's Biggest Names - Fashionista</fn>。KendrickやSZA、ScHoolboy QといったTDE所属アーティストの、アルバムのアートワークやステージ、雑誌のカバー等におけるスタイリングを担当している。南カリフォルニアに展開するアパレル店Blendsでキャリアをスタートさせた彼女は、ニューヨークの名門=ニューヨーク州立ファッション工科大学(通称FIT)への進学を蹴り、スタイリストのアシスタントとしてのキャリアを続行<fn>Dianne Garcia Talks Styling SZA and Kendrick Lamar – WWD</fn>。その後、Kendrickの“Swimming Pools (Drank)”や“Poetic Justice”のMVを手がけるJerome Dと出会い、TDEのアーティストをスタイリングするようになる。アーティストのメッセージを反映するかのようなオーガニックなスタイリングが特長。

Charm La’Donna

2
写真:本人オフィシャルサイトより

パフォーマー/振付師。コンプトン出身。今回のグラミー授賞式におけるKendrickのパフォーマンスで、力強く和太鼓を叩いていたのが彼女。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)に進学し、大学での単位履修をこなすかたわらで、Madonnaのツアーに同行するという殺人的スケジュールをこなしていた。伝説的振付師であるFatima Robinsonに師事し、Pharrell Williamsの“Happy”やMeghan Trainorの“All About That Bass”等、数々のMVで振付を担当している<fn>Bio ― Charm La'Donna</fn>。昨年行われたKendrickの『DAMN.』ツアーでも、唯一の女性パフォーマーとして活躍。Essence誌におけるこちらのインタビューがたいへんインスパイアリングなので、ぜひ読んでほしい。

Ashley Outrageous

3
写真:本人のTwitterより

起業家/キュレーター。マイアミ出身。自称「クールなシットをキュレートして点を結ぶ5フィート2インチ(≒157cm)の巨人」。好きな音楽を友人とシェアすべく、2008年に音楽ブログを開始。その後、音楽好きが高じてシーンとの繋がりを持ち始め、TDEのデジタル・メディア部門のディレクターを務めるように<fn>Boss Babes: Meet Ashley Outrageous - Taste The Style</fn>。自身の運営するウェブサイトAO!で扱うトピックも、今では音楽のみならず、ファッションやグルメにまで領域を広げている。地元マイアミで行われた『DAMN.』ツアーの最終公演では、ステージ上のKendrickからシャウトアウトを受け、感極まったことをInstagramで明かしている。

Chelsea Blythe

画像4
写真:本人のTwitterより

Interscope RecordsのA&R。カリフォルニア州モデスト出身。KendrickやQのほか、Rae Sremmurd、Mike Will Made-It、Machine Gun Kelly、French Montanaといったアーティストとも仕事している。ソーシャル・メディアでの人気がアーティストとしての成功を左右する現代だが、彼女はアーティトのメッセージに耳を傾け、フォロワーが少なくても才能のあるアーティストを見つければサポートするよう努めているという<fn>I Am Musicology: A&R Edition: Chelsea Blythe - YouTube</fn>。Kendrickの『DAMN.』(2017年)に収録されている“FEEL.”のイントロで、彼と共に“Ain’t nobody prayin’ for me”と囁いている声の主でもある。

Alori Joh (R.I.P.)

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写真:HipHopDXより

故人ではあるが、初期のTDEを支えた存在として、このシンガーも紹介したい。カーソン出身。Ab-Soulと交際していたことでも知られる。そのSoulの“A Rebellion”やQの“PHenomenon”、Kendrickの“HiiiPoWeR”など、複数のTDE楽曲に客演していたが、2012年2月6日、コンプトンにあるラジオ塔から身を投げ、自ら命を絶ってしまった<fn>Alori Joh Dead: Singer and Kendrick Lamar Affiliate Dies at 25</fn>。25歳だった。初期のTDE作品には欠かすことのできない存在であっただけに、早すぎる死は悔やんでも悔やみきれない。Soulの最新作『Do What Thou Wilt.』(2016年)に収録されている“Evil Genius”でも彼女の声を聴くことができる。

奧田翔(おくだ・しょう)
1989年3月2日宮城県仙台市出身。会社員。Khalid『American Teen』国内盤の対訳と解説、SZA『Ctrl』国内盤の解説を担当いたしました。店頭へ急げ!

https://twitter.com/vegashokuda

http://ameblo.jp/vegashokuda/

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