【インタビュー】Nulbarich 『Long Long Time Ago』| 想像もつかない感情を詰め込んで

Nulbarichほどのスピードで2017年を走り抜けたアクトは、他にいただろうか。昨年リリースしたデビューアルバム『Guess Who?』、そして今年EP『Who We Are』をリリースし、ワンマンライブや、数々のビッグフェスにも登場し、本日2ndEPとなる『Long Long Time Ago』をリリースした。

ボーカルのJQは「今年の集大成」と語るEPは、彼らが今年ライブなどを経験してきた中で、生まれた様々な感情が詰め込まれているという。

そしてさらに速度を増してNulbarichは来春にワンマンツアーを行うが、その前にEPのリリースのタイミングにあわせ、JQに今年1年を振り返ってもらいつつ、今回のEPや、その幅広い音楽性はどのように培われていっているのかを聞いた。

取材・構成 : 和田哲郎

- まずバンドにとって怒涛の1年だったと思いますが、今年を振り返っていかがでしたか?

JQ - そうですね。今年は、2月にワンマン2公演を初めてやらせてもらって、4月末からフェスが始まったんですけど。そのワンマンの段階から全部初めての経験だったので、ほんとにステージ上から見る景色以外はほぼ覚えていないくらい怒涛でした。でも確実に経験値だったり、自分たちが強くなっているというか、タフさは増しているなっていうのはサウンドにも表れているなと思っているので、今年の経験が今やっているツアーの音にちゃんと落とし込めてればなと思っているので。それの集大成というか、今年の経験が全て詰まったのが今回のEPになるので、どんな思いだったのかなっていうのを逆にみんなに早く聴いてもらいたいなって気持ちはあります。

- 今回のEPを聴かせていただいて、これまでの作品よりもヒップホップだったり、R&B色が、すごい落とし込まれているのかなと思ったんですけど。そこについてはいかがですか?

JQ - もちろん洋楽の流れとか時代の流れっていうのは、あるとは思うんですけど、やっぱ今年いろんなフェスだったりとか経験させてもらって、僕らとは遠いジャンルの人たちとも同じステージに立ったり、ポピュラーミュージックっていう幅広さに僕は可能性を感じた。自分たちがここで生き残るためには、ここに居続けるためにはって考えた時に、もっと可能性を広げていく必要が、音楽的にもですけどあるなって。狭めるというよりは広げていくって、トライ&エラーで全然いい気はするので、挑戦したいことが、より欲が増えた1年ではあったのでそれをうまく今回は落とし込めたのかなとは思います。

今年のライブを振り返ると、リリースされてる音源をそのままライブでやってたんですけど、それをちょっとずつ自分たちでアレンジしていったり、セクションを変更して2番でジャンル感も変えていくっていうのをやっていくなかで今回のEPに繋がる感じ、たぶん結構、そこを観ている人たちは全部繋がってみえると思うんですよ。日々僕たちがバンドのサウンドを変えてハマってってるのか、ハマってないのかっていうのをトライしている感じが。結果、落ち着いた場所が今回のEPっていうのは意外とナチュラルだと。とはいえ今年の、まあざっくり言っちゃえばヒップホップとR&B色っていうのはあると思うんですけど。

- そこと自分たちの流れがすごいうまく合致してるって感じですか?

JQ - 今マッチしてるのかなって思いますね。

- Nulbarichは単純なバンドサウンドというよりも、もともとJQさんがトラックメーカーだったっていうのもあって、トラックメーカー的な打ち込み感みたいなのも表現されてますよね。それをライブで演奏するのってやっぱり難しさみたいなのもありますよね

JQ - そうですね。いい意味で割り切ってバンドアレンジにしちゃう時と、できなさそうだからこそ、忠実に再現してかっこよくやるっていう時も。曲によってなんですけど。個人的には、まあ、バンドメンバー全員なんですけど、いい音、かっこいい音というか、ベストな音のためだったら弾かないメンバーもいたりするんで。これっていない方がかっこいいよねとか、音源に関してはそこに焦点を置いてる部分があるので、結構クリエイティブというか、かっこよければいいよねみたいなイメージではありますね。ライブになった時の爆発力というか、ライブでどう弾いてやろうって思ってるのがほとんどなので、やっぱ音源で繊細なものを表現している分、ライブでは結構爆発している部分があるかな。今年はライブが多かったんで、爆発している部分というか、ちょっとエモい部分が今回の作品には少しジャンル感として現れているのかなって気はしてますね。

- 別のインタビューでミックスが趣味とも言っていて、今回もミックスのこだわりもすごく感じました。バンドサウンドなんですけど、例えばDrakeのOVOレーベルとかそういう浮遊感とかのある感じになってたりとか。

JQ - バンドってひとくくりにしちゃうと可能性を狭めてしまうというか気がするんですよね。せっかくこう、バンドメンバー、僕たちって毎回違うわけじゃなくて全員いる状態で、そのなかで誰がいくかっていうスタイルなので、メンバーを公表せずに自由度の高いバンドにしているのに、いわゆる音源っていうか音色にとらわれちゃうと可能性が狭まっていくというか。じゃあギター2人いるのにギター2つ鳴ってないとか、ぶっちゃけそんなのどうでもいいというか。なんか、かっこいい方がいいでしょっていう。それをみんなの思いでやっている部分があるので。ミックスのこだわりっていうのはバンドとボーカルも含めてですけど、その人たちの全員の欲で成り立つんじゃなくて、1つの作品がかっこよくなるためのミックスっていうのを意識していますね。あと、クラブ系のサウンドだったりとか、今っぽい方が僕が好きだったりとかっていうのは、もちろんあるんですけど、逆にバンドマンって言われちゃう部分もあるとは思うんですよね。きっと僕たちの活動内容とか全部見てもらえれば、たぶんどのバンドよりもバンドだと思うんですよね。動きが。本当にライブしかやってないので。僕たちライブでしか表現する場所がない。バンドでやってるのに、俺らをバンドって言わずして誰がバンドって言うんだっていう。露出もしないし、自己表現できる場所はライブだけ。僕たちを何て呼ぶんですか?バンドっすよねっていう(笑)。僕たちは今のスタンスやスタイルにしっくりきてるんで、まあなるべくこの感じでいきたいなとは思ってますね。

- 去年の年末にも、今年よく聴いた作品とかをインタビューとかで挙げてましたよね。今回の作品を作った時によく聴いていたものとかってあったりしますか?

JQ - どうですかね。なんか、結構バラバラだったかな。

- 去年もBruno Marsが挙げられたかと思ったらThe Chainsmokersが挙がってたりとか。

JQ - 何者なんだって思われると思うんですけど、本当になんかジャンルを超えていいものっていうのが、やっぱ僕のフィルターにハマるものが多くて。

- 普遍性だったりってことなんですかね。

JQ - そのポピュラー性ってすごいことだと思うんですよね。もちろん好きなジャンルでプレイリストを固めてっていうのもあると思うんですけど、それはあくまで趣味のレベルで。自分の音楽に落とし込まれてはいたり、刺激を受けてるのはポピュラーミュージックがほとんどなので。でも、今年はでも意外とUKインディーで話題になってた系のアーティストは好きでしたね。FKJとかmura masaとか。まああのヒップホップ感とかの、ちょっとまだ早いんじゃないっていう感じの、2000年代入ったくらいのヒップホップのリバイバル感というか、あの辺も上手くUKっぽくちょっと冷たさのある感じで表現されててドンピシャなところだったので結構僕は好きで。特にmura masaとかは今年の初期はだいぶ聴いてましたね。あとはここ2、3年リリースされたものを聴き返すとか結構あったんで。Amp Fiddlerの新作とか。あと、ニューリリース系は基本的にはチェックしてますね。でもあと、武道館でご一緒させていただいたので。

- Jamiroquai。

JQ - 今年はたぶん人生で一番Jamiroquai聴いたんじゃないかな(笑)もうなんか…たぶん彼と話した時はただの少年だったと思います。ステージも、もちろん見させていただいたんですけど、本当変わらないというか。オーラも落ちてないし、カリスマ性も増したんじゃないかっていうぐらい。なんか、ああいう風になりたいなって。何十年も愛される音楽を作って、自分の母国じゃない場所であの規模のライブができるっていうのはやっぱ夢というか。ナチュラルに置かれた立場で当たり前に生きてたら、そういう流れになるよねっていう生き方だったので。やっぱこの経験をたくさんさせてもらったあとの作品はちょっとエモくなるし、ちょっと強気になっていると思うんですが、たくさんのファンも抱えるから一概にハッピーとは言えないとか、いろんな感情が1曲に入ってたりするのかなと思うと、結構感情的には複雑な曲だったり。人によってはすごく冷たく聴こえたり、人によってはその言葉に救われたりするのかなって思うと、なんか今回の楽曲たちは、タイトル通りなんですけど長く受け継がれたいというか、俺らにとっての傑作っていう意思表示でもあるので。

もちろん、毎回ベストは尽くしてるんですけど、この経験って中々ないと思うんですよね。もちろんフェスにたくさん出ているアーティストは一杯いらっしゃると思いますが、バンドを組んで半年後にワンマンをやって、その年にフェスにたくさん出て、Jamiroquaiの前座で武道館に立って、ワンマンと同時に年末にツアーをデビュー1年目でできたっていう、この全部が揃うことってたぶん、まあ相当運がいいとは思うんですよね。いろんなケミストリーが起きて、僕らに関わってくれている、みんなの力のおかげなんですけど。それを全て感じてるものの詰め込みが今回のなんで。僕自身も今回の曲を作るのはすごい楽しみで、だからなんか構想してたものはないというか、今回は年末にリリースしますっていうスケジュールをなんとなく組んでたんですけど、プランは何も立ててなかったんですよね。フェスが終わるまでどうなるかわからないし、なんとなく脳みそのなかでラフスケッチとかボイスメモレベルでとかっていうものはあったんですけど、ダーって曲にしていったのは最後の方だったので。

- じゃあ結構短期集中というか。

JQ - そうですね。今回は本当に構想期間を含めれば長いですけど、音に落とし込んだりレコーディングしたりっていうのは、最後の集中してた部分なので。だいぶスタッフ泣かせの状況のなかでやらせてもらっちゃってるのであれですけど、そのくらい予定調和じゃ、多分出せない感情がおそらく今年の末には訪れるであろうっていう自分の感覚というか、こんなの感じたことないし、こんな経験することなんてないから。今年、自分の中で新たな感情が芽生えないとダメだなっていう気もあったし。ただ感謝とかそういうレベルじゃないことが、自分の身に起こってるのを言葉にできたら、たぶんミュージシャンやってないので。

- それを曲にしてるっていう。

JQ - そうですね。とりあえず詰め込むっていう。曲のいいところって整えなくていいところだと思うんですよね。文法も大事だしっていう。曲って感情だったり思いだったり、とりあえず収納場所みたいな部分があって。曲を整えることによって、なんとなく整って聴こえるっていうか。だから前後の言葉とかも気にせずだし、この曲はハッピーで揃えないといけないとかそんなことはないので。どう聴こえてるのか想像つかないくらいの感情が今回の曲は入ってるので、好きに羽ばたいてくれって感じはしてます。

- JQさんは客観的にちゃんとトレンドとかも捉えつつ、自分じゃ予測できないものを落とし込んでるんですね。

JQ - もちろん今の世の中の流れっていうものはすごい気になるし、分析するのも好きです。例えば洋服とかも好きなので、やっぱり来春何が流行るとか、アパレルというかファッション業界と音楽ってすごい密にあるカルチャーですよね。音楽が先行してファッションがついていくパターンもあるし、ファッションに寄った音楽もあるし。ずっと密接な関係である分、やっぱりどっちかを追えば、どっちかは絶対補足情報として大体ついてくるものが多いので、単純に情報収集として、自分の趣味としてファッションカルチャーと音楽カルチャーっていうのは自分のインプットとしてすごい好きなので。たぶん、時代を読んでるっていうよりは見てるのが好きな自分と、じゃあ自分がアーティストとして何かを落とし込むってなった時に頭で整理できないので、それこそ曲と一緒で、とりあえずインプットしたものがごちゃ混ぜにアウトプットされてるっていう。そういう設計図が立てられないタイプなので、何を気をつけたらいいかって言ったらインプットを気をつけるしかないなっていう。組み立てができないんだったら、インプットが上手だったらとりあえず混ざってもうまいっしょっていう(笑)この前、これすげえなって思ったんだけど、コンビニでカレーチーズハンバーグドリアっていうのがあって(笑)

- 全部美味いものが(笑)

JQ - 全部美味いから、もちろん悩んだっすけど、でも絶対まずくないみたいな(笑)カロリーすごいし、バランスとか何も考えてないし、全部メインだし。でも、インプットの仕方さえ間違えてなければ美味いっていうのは保証できるじゃないですか。自分で創作料理みたいに全てを計算して、絶妙なバランスで作りましたっていう繊細なアーティストではないし、メンバー含めてそんなバンドではない。なので、やっぱり自分たちは経験で、実際に肌で触れてきたものが全て答えになってるので、日常生活のなかでのインプットの仕方とか、そのインプットするときのモチベーションとか、なるべくネガティヴに捉えないとか、インプットをどうインプットさせるかってところは自分で整えられる気がするので、なるべく間違ってない情報と自分に合ってるものを自分でインプットしていくっていう。あとは、アウトプットになった時には知らねえっていう。本当は読めたらいいですけどね。時代を読んでこの辺のなんとか年代の感じのリバイバルがこうなってくるからこう落とし込んでとか、それに合うメロディーをつけて、ちょっと作家思考的な狙いができたらいいんですけど。

- でも世間的にはそれができてる人っていうイメージもあるのかなっていう。

JQ - あるのかな。インプットは好きなので。人のことはわからないですけど(笑)世の中の動きとか、そういうのは好きなんですけど。やっぱ作品ってその先にあるものじゃないですか。リリースがあってとかっていうのもあるので。インプットしてる状態よりも、先を読まなきゃいけなくなっちゃうと思うので、そう考えると狙ってできるものではないと思うから。

- そこは逆に、ある意味放り投げるくらいのほうが。

JQ - そうですね。良質なインプットさえしていれば、努力してるし、後は知らねえって(笑)。作ってるものは本当にフルスイングでグッドミュージック以外の縛りは、何もないので自信を持って育てた曲たちではあるので。もうちょい賢くなりたいですけど。

- 今年はすごいいろんな感情が出た年だったとのことですけど、来年がどういう年になるのかなんか予感されてたりしますか?

JQ - 来年はまずワンマンツアーが春先にありますね。今年のツアーと比べたら規模もワンシーズンでこんなに上げる?っていうくらいのレベルなので(笑)、たくさんの期待と、来年のツアーのそれぞれの公演のステージが見えるライブを今年中にみんなに見せて、春先のツアーの時にはさらに次のステージが見えたら。もうすごい規模ですけど、出てる時にはこのステージじゃ狭いねこいつらって思われるような成長をしてないと、みんなの期待には応えられないと思ってるので。

- すごい変化ですよね。

JQ - そうですね。無謀だと思うんですけどね。ワンシーズンで公演数もほぼ倍で、キャパも3倍以上。なんか、バズる予約でもしてるの?大丈夫?(笑)確証ないと普通これできないじゃん。

- でも実際売り切れてるわけですからね。コースト。

JQ - コーストに関しては、それは本当にありがたいですけど。一旦そこで止めておけばよくねって思ったんですけど、追加がツアーだったみたいなことになってるので。すごい面白い動きにはなってるし、自分たちもワクワクはしてるし、このワクワクしている気持ちを共有して、みんなでワクワクしたいっていう。

次のツアータイトル『ain’t on the map yet』も“まだ俺ら地図に載ってねえ”って意味だったりするので。まあ『ain’t on the map yet』っていうのは、まだ実感し切れてない部分が本当にあるし、僕たちってそれこそあまりメディアに出たりしてないし、僕以外のメンバーは特にいろんな人と話す機会がないじゃないですか。ライブしかないから。周りから聞く話と純粋に音楽だけやってるメンバーの温度差っていうか、その世界の差みたいな部分がなんとなくあるので、実感するには時間がかかると思うんで、もっともっと邁進して、確実に地に足着くまでしっかりやって、60代、70代までライブができるようなアーティストになってたいので、そう考えたらまだまだスタートの一歩二歩のレベルなので、来年は去年よりも、ていうか今年よりも、ハードな1年になることを祈って進んでいきたいなとは思っていますね。

- ありがとうございました。

Info

Long Long Time Ago_J写

2nd EP『Long Long Time Ago』
発売日:2017年12月6日(水)
品番:NCS-10174 価格:1,200円+税
<収録曲>
M1: In Your Pocket
M2: Spellbound
M3: Onliest
M4: NEW ERA (88 REMIX)

https://nulbarich.lnk.to/longlongtimeago

■ライブ情報
Nulbarich ONE MAN TOUR 2018 "ain't on the map yet" Supported by Corona Extra

2018年3月14日(水) 大阪・なんばHatch
2018年3月16日(金) 東京・新木場STUDIO COAST (追加公演) ※SOLD OUT
2018年3月17日(土) 新木場STUDIO COAST ※SOLD OUT
2018年3月28日(水) 宮城・仙台Rensa
2018年4月6日(金) 広島CLUB QUATTRO
2018年4月7日(土) 福岡イムズホール
2018年4月13日(金)名古屋ダイアモンドホール

Official HP : http://nulbarich.com/
Twitter : https://twitter.com/nulbarich
FaceBook : https://www.facebook.com/nulbarich/

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