【脇の下こちょこちょスピンオフ Vol.9】今見るべき最強コメディ『アニマルズ』| 字幕担当者が語るその魅力
手前味噌で恐縮だが、筆者が字幕を一部担当させていただいたTVコメディ『アニマルズ』が現在Huluにて絶賛配信中である。今回はその魅力について語ってみたい。
アメリカのケーブルテレビ局HBOが制作した大人向けアニメシリーズ『アニマルズ』(ちなみに原題は『Animals.』ピリオドが付くことにご注意を。モーニング娘。にあやかったどうかは知らん)。
その主役は「ニューヨークの片隅で生き抜く、虐げられた生き物たち」だ。リア充のフリを決め込む童貞ネズミ、ミッドライフクライシス(中年の危機)に陥ったトコジラミ、禁断の恋に落ちる白鳥とガチョウ、同性愛に目覚めたハト、大型犬に反旗を翻すパピヨンなどなど、擬人化された動物たちの生き様に人間社会のペーソスや愚かさがぎっしり込められている。その“毒量”は半端ない。詳しい解説は映画評論家の小野寺系さんにお任せするとして、ここでは『アニマルズ』にまつわるトリビアを紹介しよう。
■作品の成り立ち
監督・脚本・主演(声)はフィル・マタリーズとマイク・ルチアーノのコンビ。4年前までの2人は、ニューヨークの小さな広告代理店に勤めるしがないサラリーマンだった。
「俺たち、終わっちゃったのかな?」「ファック!まだ始まっちゃいねぇよ!」「人生一度きりだぜ、YOLO!」「うわっ、それ死語やで」みたいなやり取りがあったかどうかは知らんが、ある日突然彼らは、動物を主人公にしたアニメを作ろうと決意する。きっかけは窓越しに見えた2羽のハト。このハトにアドリブで声を当ててみたら面白かったらしい。
アニメ制作に関して素人同然だったにもかかわらず、2人が作った『アニマルズ』のパイロット版は2013年のニューヨーク・テレビジョン・フェスティバルで最優秀コメディ賞を受賞。その2年半後、デュプラス兄弟をプロデューサーに迎え、HBOでのシリーズ化が決定した。本国ではシーズン1,2が終了し、シーズン3の制作が決まっている。
これをアメリカンドリームと言わずして何と言おう。アメリカもまだまだ捨てたもんじゃないね。
■台詞はほぼアドリブ
『アニマルズ』の魅力はなんといっても、フィルとマイクの間で交わされる毒に満ちた会話だ。アンニュイな雰囲気を随所に漂わせながらもテンポがよくて耳に心地よい。実はこれ、ほとんどアドリブとのこと。どうりでリアルなわけだ。台詞臭くないから、酒場で愚痴をこぼし合うサラリーマンの会話を盗み聞きしているような錯覚に陥る。
ちなみに本作品は台詞がえげつないほど多くて訳者としては非常に苦労した。1エピソード30分で字幕はなんと600枚超(字幕は○枚とカウントする)。平均的なドラマの倍以上だ。ご存知かもしれないが、字幕翻訳の単価は台詞の量ではなく作品の尺で決まる(例えば10分当たり○円のように)。つまり、台詞が多いほど作業時間が取られて時間当たりの収益が落ちるってこと。はっきり言って商売上がったりだよ!
■じわじわくるアニメーション
『アニマルズ』の絵は決してうまくはない。どちらかというと「ヘタウマ」の部類に属する。一番の特徴は、しゃべっている時もキャラクターの口が動かないこと。これが作品にいいあんばいのキモさを加えている。筆者が子供の頃、人面魚や人面犬がブームになったが、ちょうどあんな感じのキモさだ。これもフィルとマイクが狙った演出なのかと思いきや、そうではないらしい。アニメ制作の経験に乏しくて「口の動かし方が分からなかっただけ」なんだとか。
■スラングが満載
筆者は『サタデー・ナイト・ライブ』の字幕も手がけてきたから、アメリカのスラングにはそこそこ詳しいほうだ。が、『アニマルズ』には参った。筆者も聞いたことのないスラングのオンパレードなのだ。おかげで何度もUrban Dictionaryを引く羽目になった。
せっかくなので本作品の中で使われていたスラングを1つ紹介しよう。
prairie dogging(プレーリードッギング):うんこが今にも漏れそうな状態。
例文:Oh, man. I'm prairie dogging.(やべっ、マジでうんこ漏れそう)
プレーリードッグが巣穴から出たり入ったりしているところを想像すれば、事態の緊急性がお分かりいただけるであろう。ぜひ職場や学校で使ってみてほしい。
■豪華ゲスト陣
本作品には、『マスター・オブ・ゼロ』で活躍中のアジズ・アンサリや、『サタデー・ナイト・ライブ』で一世を風靡したモリー・シャノン、『ソーセージ・パーティー』で“ドゥーシュ”の声を務めたニック・クロールをはじめ、超有名コメディアンが多数ゲスト出演している(といっても日本人にはなじみがないかもだが・・・)。どのエピソードに誰が出演しているか気になる方は各自ググッてみてほしい。
アメリカンコメディというと日本では「サブカルチャー」のような扱われ方をするが、当然ながら本国では王道のエンターテイメントなわけである。お笑いが好きな人もそうでない人も、どうか肩肘張らずに楽しんでほしい。
予告編はこちら。
(文・まごおりしんぺい)
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