ジューク/フットワークからテクノ最極北へ D.J.FulltonoとCRZKNYによるプロジェクト「Theater 1」インタビュー

浪速のフットワーク伝道師D.J.Fulltonoと広島在住の狂気に触れた多作なプロデューサーCRZKNYのプロジェクト「Theater 1」が待望のアルバム『fin』をリリースした。

 

今作は、フットワークをフレームワークとした無機質で催眠的な新感覚のミニマリズム、〈Kompakt〉を共同主宰する独電子界の巨匠Wolfgang Voigt (aka Mike Ink, Gas)のミニマル革新作『Studio 1』(1997)のオマージュでありながら、テクノとしてのフットワークを拡張する逸脱の実験音響作だ。

その『Studio 1』を参照とし、自らを「Theater 1」と呼び、2015年の夏から1年間に渡って毎月2曲のスプリット・シングルをリリース。今回、そのTheater 1の全リリースをまとめた全24曲のコンピレーション・アルバムが10月16日に発売された。

D.J.Fulltonoは今週ポーランドのフェスUNSOUNDに出演。レフトフィールド、もしくは最先端と呼ばれる音楽が一同に会するUNSOUNDに日本から食品まつり a.k.a. Foodmanと共に招聘されている。

リリースにあたって、FNMNLは2人にインタビューを敢行した。
「静と動」の2人が共有する微かな1点、表現を削ぎ落としながら1年掛けて探り当てたミニマルな点こそがTheater 1の哲学であり、それはジューク/フットワークのシーンだけでなく、世界の音楽ファンが共有できる普遍的なものになるのだろう。

Interview and Photography by Jun Yokoyama

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今、どこにいて、何を聴いていますか?何かを食べてたり、見てたら、それも教えてほしいです。まわりの状況を説明してください。

D.J.Fulltono - 自宅で『ドラゴンボール超』を見てました。『新・未来トランクス編』が始まってからは毎週見てます。タイムスリップとかパラレルとかに目が無いです。ダンスミュージックも同じように捉えていて、色んな時代の曲が次々にミックスされるナイトクラブもある種の多次元空間だと思います。

CRZKNY - 自宅で可愛い動物まとめサイトを見たり、LINEの返信とかをしつつ、自分の曲の仕上げ確認中です。

今回のTheater 1は今までの自分の作品や作風と比べて、どこが同じで、どこが違いますか?作り方、思想、フロアでの使われ方、シーンに対する姿勢、具体的なDTMのことなどなんでも結構です。

D.J.Fulltono - テクノにディープ・ミニマルがあるように、ジュークにもディープ・フットワークがあってもいいんじゃないかってずっと思ってたんだけど、いくら待ってもそういうアプローチの音が出てこないから、何か日本から仕掛けたいなと思ってて、ケニーが家に来た時にそのことを相談したら共感してくれて、じゃあレーベルを立ち上げようって話になったんです。

あくまでもサイドプロジェクト程度にお互いの負担にならないペースでやろうってことで、1か月に1曲づつ持ち寄るって感じで2曲入りのEPを月一で1年間出し続けてみようと。一年経ったらどうなってるんだろう?っていう小学生の自由研究みたいなノリもありましたね。

今までとは全く別のアプローチだということをあえて提示するためにお互いの名義もあえて伏せて今までのリリースとは完全に差別化しました。作風にルールを作って、「1ループでハメれる」「1曲6分以上」という制限の中でお互いが思い思いのトラックを作りました。コンセプチュアルに見せたかったので、アートワークも最初から決めてたし、曲名も曲がまだ1曲もできてないない段階から全部決まってたんです。

このプロジェクトでシーンを変えよう、みたいな意気込みは無かったこともないんだけど、それよりもっと自然に、当たり前のことのように続けることによって、何かが産まれるんじゃないかとという期待を持ってやってました。

D.J.Fulltono
D.J.Fulltono

CRZKNY - この4年間でCRZKNYとして150ほどのリリース、楽曲数でいうと450曲ほどを発表してきました。そして楽曲の大半は、攻撃性、あるいは暴力性が全面に出たものだったと思います。そして、その自分のアグレッシブさ加減に疲れてきていたのが今から1年半ほど前、ちょうどTheater 1のプロジェクトが始動する頃でした。振り返ると、Theater 1以前のCRZKNYの楽曲はいつからか「フロアでの鳴り」や「オーディエンスが求めているであろうCRZKNY像」といった、自分で作り出した表現の規制に囚われていたように思います。そういった曖昧な概念に悩んでいた頃、フルトノとTheater 1を始めることになりました。Theater 1は、双方のソロ活動の負担にならないサブプロジェクトとして活動する、制作上のルールもシンプルに「6分以上、展開を多くしない」と決めていたので、先に列挙した問題に囚われることなくTheater 1の楽曲制作をすることが出来ました。

大友克洋の『AKIRA』で、アキラの頭の中を覗いた後に覚醒した鉄雄が、科学者たちに対して力の使い方について「今までは力めばある程度は結果を出すことが出来たがそれはたかが知れている、今は自分という殻を破り「大きな流れ」を意識しコントロールすることでより大きな力を使うことが出来るようになった」、と説明するシーンがあるんですが、それはまさに、1年の間、自分がフルトノの曲の進化を通して学んだことでした。毎月送られてくるフルトノの楽曲は「ジュークの手法を用いながらも1ループのミニマリズムとポリリズムをテクノ的フォーマットとして書き出す」、「誰も聴いたことのないテクノ」でした。その進化を体験したおかげで、自分の中で今後の明確なヴィジョンや方向性が見え「流れ」を意識しコントロールする術を覚えることができるようになったんです。つまり先の例えで言えば、AKIRA=フルトノ、鉄雄=CRZだったわけです(笑

DAW上での作業自体はTheater 1以前以後も変わりません。メモリ4GBのMacbook AirでAbleton Liveというソフトを使用し、サンプルを賽の河原のように並べて曲を作る、そして1曲にかける時間は3時間以内、という4年間続けてきた作業と何も変わりはありません。ただしTheater 1以前は、2~3曲分のアイディアとネタを詰め込み組み替えて強引に1曲を仕上げていましたが、Theater 1以後は、何が必要で何が必要ないかを判断し引いていくという、引き算的な制作、最小限の要素で最大限の効果を生み出す、そういったことが出来るようになりました。フロアの鳴りも、CRZ像も意識する必要がなくなった状態で作品と向き合うことで、結果として、今までの小さな殻を打ち破り、よりCRZKNYらしい作品を作ることが可能になりました。

Theater 1での活動が終了した後にフルトノは「Theater 1はプロジェクトではなく現象だった」と表現しました。自分にとってもTheater 1は現象であり、通過儀式でした。そして「フロアで鳴らす」という概念を排除して制作をしたこと自体が、今現在に繋がるCRZKNYのシーンに対しての姿勢だといえます。

とかく人はシーンについて語りがちですが、それは一体誰のためのシーンなのか、シーンは自分にとって一体なんなのかということを、そのシーンに関わる人間が(演者であれ、オーディエンスであれ)一度冷静に考えるための問い、疑問符として、存在する、という姿勢です。

Theater 1を全然クラブのことを知らない、例えばEXILEや嵐などのポップスを聴いている一般の人に説明するなら、どうやって説明しますか?どんな方法を使っても構いません。

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