被写体としてのメキシコ──Alex Webbのスナップ写真に見る「猥雑さ」のテクニック
カメラを手にした時、メキシコという国の、被写体としての魅力に取り憑かれる写真家は内にも外にも数多く存在する。
今年世田谷美術館で回顧展が行われたばかりのマヌエル・アルバレス・ブラボもそうであるし、先日紹介した盲目の写真家Gerardo Nigendaもメキシコが生んだ特異な写真家だ。
そして今回紹介するアメリカの写真家Alex Webbも、アメリカ生まれながらメキシコへカメラを向け続けている素晴らしい写真家の一人だ。
by Yuki Kobayashi
メキシコ・シティを中心としたラテンアメリカのヴィヴィッドなカラーに彩られながら、一見無関係な市井の人々が画面の手前や奥、左右に振り分けられつつ、なんら関係をもたずに配置されている。
その巧妙に切り取られた複雑な構図は、アンリ・カルティエ=ブレッソンのスナップのように技巧的で”決定的”な一瞬であるとともに、もっと脱-中心化された、中南米独特の雑然としたあり方を感じさせる。カメラを用いて一つの線的なストーリーを描くのではなく、「たまたまそこにいた・あった」という要素同士の連関の無さ、そしてそのことから生まれるどこかのんびりとした可笑しさが、彼の写真をいくら見ていても見飽きないものにしている。
光と影の強いコントラストで全体の画面を引き締め、情報の焦点を絞る手法は、同じマグナム所属で同年代であるロシアのGueorgui Pinkhassovなどとも共通するところ。眺めていると、フォトジャーナリズムとアートフォトの境界線などどうでもいいものに思えてくるような、強いインパクトと現実へのユーモアな視線が一貫して宿り続けている写真群だ。
52年にサンフランシスコで生まれたWebbは、ハーバード大学で歴史と文学を学びながらカーペンター視覚芸術センターで写真の技法を習得し、76年には24歳の若さでマグナム・フォトに加盟している。
また、妻であるRebbecca Norris Webとともに夫婦写真家としてタッグを組んで活動していることも知られている。すでに大ベテランの作家でありストリートスナップの一つの範とも言える存在の彼だが、日本で参照されることはあまり多くなかった。
すでに多くの写真集を出版してきたAlex Webだが、彼のメキシコの写真を集めた回顧的作品集が今年9月にApertureより発売された。
1978年から2007年のメキシコでの写真を集めたこの作品集で、モノクロからカラーフィルムへと変化してからの彼の独特の色彩感覚を存分に堪能してほしい。
<Book Info>
"Alex Webb: La Calle: Photographs from Mexico "
ハードカバー: 149ページ
出版社: Aperture (2016/9/15)
言語: 英語
ISBN-10: 1597113719
ISBN-13: 978-1597113717
発売日: 2016/9/15