中津川吾郎(MIN-NANO/TOXGO)インタビュー - ここにしかないお店が出来るまで - Pt.3

Pt.2から続く

- お客さんも最初は自転車屋として来る人が多かったんですよね

ゴロー - そうです、そうです。でも「最近服多くない?」ってなって、まあお店を離れていった方も少なくないですね(笑) 自分のなかではバラバラじゃないので、こういう自転車も好きだしこういう洋服も好きっていう方もたくさんいらっしゃるんで、そういう方たちは、このブランド面白いねってハマっていってくれたりもしたし、その前にスニーカーを扱っていたときもそうでしたけど、やっぱり最初はみんな、「ん?何これ?」って思うんですけど、いいのかもねって買ってくれたりとか、一目見て「これ超いいじゃん」ってピックしてくれる人もいるので、本当に自分の好きなものを置いてみて反応されることの嬉しさを段々覚えていって、どんどん自分が好きなものが増えていったって感じでした。最初はバンドっていうフィルターも若干ですがあったので、あくまでも100%自分じゃないという気持ちがあったんですけど、そういう機会が増えていって自分のままでいいんだなって自信がついていきました。それはお店をやりながら気付いていったものだと思ってます。

- 最初の頃はかなり買い付けにも行っていたんですよね。

ゴロー - そうですね、ザ並行輸入みたいな感じでConverse SkateとかJ Crewとかをやってました。あとはレコーディングでNYに3週間くらいいた時があって、結構それも自分のなかで大きかったです。通常そんなに予算のないバンドの録音の場合、最初にリズムトラックを録って、あとからギターとかをダビングしてくみたいな。その時のバンドは結構ウワモノや歌がまだ決まってないから考えながら録っていくみたいなパターンがあって、とはいえドラムは録らないと先に進まないしって事で最初の2日間くらいで終わっちゃうんですよ。その時は自分でアルバムのジャケットをやるっていうのを決めてたんで、ロケハンも兼ねてNYの街をずーっと1人でぶらぶら歩いてたんですよね。そうしたらそれまでは毎回誰かと行ってたんですけど全然1人で大丈夫だなみたいになって。

MIN=NANO

ゴロー - しかもそういう時に買い付けしたものが、帰国後お店でパンと売れたりして、なんかこっちの方が面白いかもなって。全てがゆっくりと変化しながら、今に至ったっていう印象です。本当は自転車屋としてはいけないことなんでしょうけど、こういうお店もあっていいんじゃないかっていうか。やっぱり自分の好きなものって、もちろん変わるものも変わらないものもありますし、コアな部分は変わらないにしろやっぱり変化していくものじゃないですか。僕はそこはビジネスとして割り切ってやるっていうよりは、自分の好きなモードを反映してお客さんと共有するっていうのが、楽しいなっていうのに気づいてしまったのでもう戻れないですね。

- これまでで取り扱いブランド数もかなり多いですよね。

ゴロー - 基本的にはそういうブランドを知ってからは他のお店がやってないブランドというのを中心に選んでやってきましたけど、インディペンデントなので自然消滅しちゃったりとか日本の大手が取り扱いをやるようになったから、僕は引くパターンもあったりしつつも結構ブランド数は増えました。

- 今だとそういうインディペンデントなブランドにファッション誌も注目するようになってきてますよね。

ゴロー - なんか不思議な感覚ですけどね、でも彼らが作っている洋服がかっこいいから注目されてしかるべきだと思うし。まあ、もっと他にネタあるんじゃないかと思いますけどね。ここきちゃったら次もうないよっていうか、最終地点というか、そもそも定義しづらいものなので。ニューヨークアンダーグランドとかインディペンデントなスケートカンパニーとか雑誌は何かしらカテゴライズしないとできないし、もちろんフレッシュで注目してくれるのは嬉しいんですけど、雑誌は雑誌としてまだ他にやるべきことあるんじゃないのかなって疑問は正直ありますけどね。

- 今アメリカ中心にInstagramに情報を掲載して、ショップはBigcartelとかだけってブランドも増えてるじゃないですか、そういう動きについてはどう思われますか?

ゴロー - アメリカって国土が広いし、物理的にお店で物販をするっていうのはなかなか限られたエリアでしか難しいと思うんですよね。しかもみんな気軽にスタートできるわけじゃないですか。当然誰でもできるからその中でもヒエラルキーみたいなのはあって、あいつらはイケてる。あいつらはショボいとか色々ありますけど、僕はそれ自身はすごくいいことだと想います。結局良いものは良いし、クソみたいなのはクソですし(笑)。あのフットワークの軽さとブートぎりぎりの感じだったりとか、そのスレスレのところが僕は好きなので。ただそのムーブメントも一旦収まってきている感じもするので今後彼らがどうシフトしていくかっていうのは楽しみですね。

- その象徴がDertbagだったり。

ゴロー - まあ、そうでしょうね。当時だったらDertbag、DPIとかあとFreedmindsやStary Ratsが2010年くらいで走りですよね。いわゆるHYPEBEASTの掲示板の子たちって感じで、Tyler(The Creator)とかもそうですけど。彼らはもうクラシックになっちゃって、(Dertbagの)Phillipとかも独自の路線にいってますし、変わらずマイペースにやっている人たちもいますし、そのフォロワーは山ほどいるじゃないですか。そこからまた新しい動きがあったりとか、今だったらウチでは扱っていないですけどFTP(FUCK THE POPULATION)は20歳前後くらいの子たちがやってて、DertbagとかDPIの作ったカルチャーにやられちゃってて、それをフックアップじゃないんですけどああいう形で今コラボしてたりするってのはすごい面白いなって思いますね。ちなみにFTPの子たちは普通に拳銃を持ち歩いてるという、完全に危ないですね。若くしてお金をゲットしてアガっちゃってるって感じなんで、結構プライベートもイカれてて、みんな距離を置いてるって言ってましたね(笑)

ゴロー - The Good Companyはどちらかというとアート寄りというか、自分たちと空気感が似ていると思います。でもそのアート寄りの子達が作ったムーブメントがすごい大きくなって、FTPみたいなニュージェネレーションな子たちも出てくるっていうか、そんな流れが興味深いです。
それと海外の子たちと話すと自分たちが思ってる以上に全然奥行きがあるっていうか、音楽やアートをバックボーンにしてるっていうのが当たり前なんですよね。アウトプットしてるものが結構シンプルだから、パッと見シンプルに思っちゃいますけどやっぱみんな薄くないというか。そこはやっぱりリスペクトするところだし面白いですよね、好きなものも似てたりするし。昔のカルチャーの話とかを普通の日本の友達みたいな感じでできるから、あれヤバいよねとかこのTシャツあれのネタじゃんとか。なので波長が合う子たちとは今も仕事を続けてますし、ちょっと合わないなって思ってきた子たちとは、もうじゃあここで一旦別々にいきましょうみたいなパターンもあります。

- それは売れる売れない関係なくって感じですか?

ゴロー - うん、どちらかというと人間性って感じですね。仕事のしやすさとかはもちろんありますし、結局はメールでの会話がほとんどですがそこでの人柄に尽きるというかですかね。もちろん不良品が多いとか、オーダーした通りに商品が入ってこないとか、そういうのもありますけど。クレームを言ったところであれだから、次から気をつけてみたいな感じで自分で飲み込んじゃうっていうのも多いです。ま、僕もよくPaypalの手数料をAddしないで払ったりすることもあるんで(笑)
「あいつら言いづらいだろうけど、書いてないからいっか」みたいな (笑)
向こうとしては、「あ、ギフトじゃねえんだ」みたいな、僕も知らないうちに無礼はしてるはずなので。まあまあそこは。

MIN-NANO

- 今だと置いてくれっていうのもすごい多いと思うんですが、どういうチョイスをしてるんですか?

ゴロー - そうですね単純に、連絡がきた時は全部どういうブランドなのかを調べます。ウェブサイト貼ってあったりとか、Instagramがあればそれもチェックしますしテイストが合いそうだったりとか既にやってるブランドの友達とかだったりするとカッコよければやりますね。基本的には見てカッコいいかカッコ悪いかです。ほとんどがカッコ悪いんですが、残念ながら9割はダサいですね。
あともう日本でどこか他ののお店が既にやっているんでウチはいいやみたいな感じで断ることも多いです。わざわざ僕がやらなくてもいいんじゃないかと。きっと彼らとしては自分の友達のブランドのストックリストのとこを見て連絡してくれるだろうし、外国人にいきなりお前の店のファンだって言われることもあるので、ちょっと嬉しいですよね。

Pt.4へ続く

RELATED

【インタビュー】tofubeats『NOBODY』|AI・民主化・J-CLUB

2024年4月26日に発表されたtofubeatsによる最新作『NOBODY』。本人の歌唱はもちろん、ゲストボーカルによる客演もゼロ、そのかわりに全編でDreamtonics社の歌声合成ソフトウェアSynthesizer Vを使用したという本作は、このように書いてみると字面上、アノマリーな作品という印象を受けるものの、作品を聴けばtofubeats流のストロングスタイルなハウス作品であるということがわかるはずだ。

【インタビュー】butaji × Flower.far “True Colors” | クィアの私たちを祝福する

私が私らしく生きるために、私たちが私たちらしく生きていくための歌。6月のプライドマンスに合わせた、シンガーソングライターのbutajiとタイのシンガーFlower.farのコラボレーションシングル“True Colors”はそんな一曲だ。

【インタビュー】Daichi Yamamoto 『Radiant』 | 自分から発光する

夕方から突然の大雨に襲われた6/9の恵比寿LIQUIDROOM。

MOST POPULAR

【Interview】UKの鬼才The Bugが「俺の感情のピース」と語る新プロジェクト「Sirens」とは

The Bugとして知られるイギリス人アーティストKevin Martinは、これまで主にGod, Techno Animal, The Bug, King Midas Soundとして活動し、変化しながらも、他の誰にも真似できない自らの音楽を貫いてきた、UK及びヨーロッパの音楽界の重要人物である。彼が今回新プロジェクトのSirensという名のショーケースをスタートさせた。彼が「感情のピース」と表現するSirensはどういった音楽なのか、ロンドンでのライブの前日に話を聞いてみた。

【コラム】Childish Gambino - "This Is America" | アメリカからは逃げられない

Childish Gambinoの新曲"This is America"が、大きな話題になっている。『Atlanta』やこれまでもChildish Gambinoのミュージックビデオを多く手がけてきたヒロ・ムライが制作した、同曲のミュージックビデオは公開から3日ですでに3000万回再生を突破している。

Floating Pointsが選ぶ日本産のベストレコードと日本のベストレコード・ショップ

Floating Pointsは昨年11月にリリースした待望のデビュー・アルバム『Elaenia』を引っ提げたワールドツアーを敢行中だ。日本でも10/7の渋谷WWW Xと翌日の朝霧JAMで、評判の高いバンドでのライブセットを披露した。