【インタビュー】Mighty Crown | 勝ち続けられる理由
7月19日、ジャマイカ最大のレゲエ・フェス、Reggae Sumfestの一環として開催されたWorld Clash 20th Celebrationと題したサウンド・クラッシュで、Mighty Crownが見事に優勝した。
World Clashは音の格闘技、サウンド・クラッシュの最高峰のイベント。レゲエは詳しくなくても、音楽好きなら「サウンド・クラッシュって、最近よく耳にするな」くらいの認識はあるだろう。ひょっとしたら、「でも、なんかわかりづらいよね」という認識も、セットであるかもしれない。日本のサウンドが、世界の舞台で優勝を飾る。これ、並大抵ではない偉業なのだ。このインタビューは、本人たちによる解説と舞台裏のエピソードで構成した。まず、お願いから。読み終わったら(途中でも、何ならこの瞬間でも)YouTubeで「Mighty Crown、World Clash、2018」で検索してください。 このインタビューは、約3時間のクラッシュ映像を見ると100倍面白い設定なので。あまり詳しくない人は、Mighty Crownの出番だけ見るのもクリックしてもOK。
取材・構成 : 池城美菜子
写真 : 横山純
- まず、基本から行きましょう。サウンド・クラッシュの定義からお願いします。
Masta Simon - 簡単にいうと音の格闘技。もっと簡単に言うと、ヒップホップで言うMCバトルとDJバ トルが合わさったもの。しゃべりと曲を使うからね。
Sami-T - いかに客の心を掴むか、場を沸かした方が勝ちだね。
- 私もよくレゲエのサウンド、という括り自体がわからない、と言われるのですが、こちらも定義してもらえますか?
Masta Simon - サウンドは、チームとかクルーのことだよね。あと、レゲエとダンスホールの関係も (理解する上で)大事かな。レゲエはダンスホールの親で、ダンスホールは息子。日本はレゲエという言葉でまとめられるけど、俺らは海外に行くとレゲエ・サウンドとはあまり言われないんだよね。 ダンスホール・レゲエ・サウンドって言われる。
Sami-T - 俺的には、Mighty Crownはエンターテイナーです、って思っている。レゲエの現場だけじゃなくてロックフェスとか、他ジャンルの中でポコって呼ばれたりするし。レゲエやダンスホールはもちろんかけるけどお客さんに合わせて歌謡曲なんかも混ぜて沸かせているね。
- 今回のWorld Clashは、Sumfestのためのスペシャル・イベントという位置づけで、Mighty Crownの他に、元Black CatのPink Panther(ピンク・パンサー)、Ricky Tropper(リッキー・チューパー)、Tony Matterhorn(トニーマタラン)と、よく来日しているビッグ・サウンドばかり集結しましたね。
Masta Simon - World Clashの歴史を築いてきた、モンスター級のチャンピオン・ サウンドだけが集 まった。毎年、秋に行われているいまのWorld Clashとは違って、Sumfestが決めたベテランだけのチャンピオンズ・リーグだったね。ジャマイカでは、最近はそれほど大きなクラッシュはやってないから、 俺たちは8年ぶりだったんだ。
Sami-T - 10年ぶりじゃない? 最後は2008年だから。
- 会場のPier-1は、サウンド・クラッシュの聖地でもあり、日本でよく知られているダンスホール・クィーン・コンテストの会場でもあります。
Masta Simon - あー、そうだね。サウンドだったら、みんなが一度は立ちたいステージだよね。
Sami-T - 日本でいうところの幕張かな。そういう規模感がある。
- Sumfestはレゲエの人気者だけでなく、過去にUsherやDestiny's Childも出演したビッグフェスですし、注目度も高かったのでは?
Masta Simon - 終わってから反響の大きさに気がついたね。ライヴストリーミングをしたこともあって、 Damian Marleyが主催するジャムロック・クルーズのサウンド・クラッシュで3連覇したときより広まるのが早かった。嬉しかったのが、レゲエ関係以外の人からも反響があったこと。(俳優の)浅野忠信だったり、LDHのダンサーSEKAIだったり、AnarchyだったりがSNSなんかで話題にしてくれたり、連絡があったり。
Sami-T - おお、なるほど、と思ったのが、(ジャマイカの)企業系の人から反応があったことかな。レッドストライプ(ビール)やヘネシーとかのお偉いさんから。今までMighty Crownを見たことなかったんだなって。
- Sumfestは企業がスポンサーについているので、今回のサウンド・クラッシュは珍しい規制があったんですよね?
Sami-T - ファック・ユーとかのバッドワードは使っちゃいけなかった。<おい、こら、てめー>みたいな言葉は使えないから、頭脳プレイだよね。本来のサウンド・クラッシュではそういう言葉も言うし。向こうも<てめぇら、犬食ってんだろ>とかひどいこと言うけど。
- プレイできるのもダブプレート・オンリーでサウンドの名前が入るまでかけないといけないという、ルールもびっくりしました。
Masta Simon - サウンド・クラッシュにしかないものとして、ダブがあって。ダブプレートというのは 特別に歌い直した曲。たとえばショーン・ポールとかにMigthy Crownの名前を入れて歌ってもらうんだけど、ダブではない通常の曲を混ぜていいクラッシュが多い中、今回は(出場者が)チャンピオン ばかりだから(かけていいのは)ダブだけってことになったんだよね。
- そのダブも、今回のサウンド・クラッシュ当日に向けたカスタム(※そのクラッシュ専用に録ったダブのこと)のダブが多かった印象です。
Masta Simon - 多かったねー。なんかジャマイカのサウンドも今回のクラッシュではめっちゃカスタムを録っていて意外だった。
Sami-T - 俺らは、カスタム・キングだから。最近ではヨーロッパのサウンドもよくカスタムのダブを かけるけど、彼らが出てきたのは俺らの後で、いわばマイ・チルドレンだから。
Masta Simon - 昔からやっているサウンドはアンセム・チューン(テーマ曲)があるけど、Mighty Crownはないよねってよく言われるんだ。でも、俺らはカスタムがアンセムであり、毎回どう来るかわからないっていうのが強みで。
Sami-T - 最初とは言わないけれど、(大きなクラッシュで)カスタムが威力を発揮して、広めたのは俺らだと思う。うわーまじか、という反応をもらったから。<カスタムは録らない>って言っていたサウンドまでカスタムのダブを録るようになってブームになった。
- クラッシュ直前のツイートでダブを録るのに苦労している、とつぶやいていましたね。このタイミングで大丈夫かな、と思いました。
Masta Simon - ほんっとに大変で思わず愚痴った。結局、録れるかはアーティスト次第だから。
Sami-T - (ダブ録りは)平等じゃないから。俺らが勝つのは、日本の相撲や柔道でほかの国の人が勝ち続けるようなもの。ジャマイカ以外のサウンドも、みんなジャマイカ系のバックグラウンドがあるしね。ニューヨークも移民した人たちがまずやっていて、それから完全にそういう背景を持たない人たちが出るようになって、という流れがある。
Masta Simon - たとえば野球で阪神ファンをベイスターズや巨人のファンに変えるのと同じくらい大変。
Sami-T - 今回もクラッシュ中にBeenie Manがラウンドごとに来て、<俺はジャマイカ人だから、ジャマイカのサウンドを応援する。それが当たり前だ>って言われた。
- キング・オブ・ダンスホールのBeenie Man、ちょっと性格悪いですね。
Sami-T - いや、俺は逆に素直だと思った。最初、<俺はTropper応援してる>って言ってきて、 Tropperが負けたら、< Matterhorn応援するから>って言ってきて、そのMatterhornも負けちゃって(笑)。最終的に、<お前らハンパねぇ>って。
Masta Simon - でも、それが本音なんだよね。
- それぞれハイライトが違うのもサウンド・クラッシュの面白いところです。私はAlkaline連発がかっこいいと思ったのですが、自分で手応えを感じたところは。
Sami-T - 俺はBusy Signalの新曲と、1曲目のRomain Virgo。あれをかけたときの客 の反応を見て、<みんなのハートつかんじゃいました、はい! もらった>って思った(笑)。
Masta Simon - (Romainの曲は)Ed Sheeranのカヴァーだからね。みんなが知っている曲を選んで殺しネタにしてかけるのも、俺らの得意分野。いろんなタイプの客がいても、みんなが知っている曲ならワクワクするでしょ。
- 替え歌のリリックは全部用意するのでしょうか?
Masta Simon - あの曲に関しては全部書いた。
Sami-T - 場合によるけどね。アーティストにポイントだけ伝えることもあれば、何行か決めた後は アーティストのセンスで付け足してもらう場合もある。
Masta Simon - ウケるかどうか、かけてみないとわからないというのがサウンド・クラッシュの面白いところ。保証はないからさ。ただ、俺らは最強のチームがいて、打率的なものは高い。
- 決勝戦にあたるTune fi Tune で、マタランが新しめのSpiceをかけてびっくりしました。あれはアリなのでしょうか?
Masta Simon - アリでしょ。俺らとハードコアな曲でぶつかっても勝てないから、流れを変えようとしたんだと思う。ねじ伏せたけど。90年代までのクラッシュは誰が新しい曲を持っているかで競っていて、99年にKillamanjaroとやったとき、俺らがそれを変えた。
- 勝った後で、SoundCloudにAfter Math Mixを披露しています。
Sami-T - その日にかけられなかった曲を披露する意味もあるけれど、若い子たちにこういう録り方をしているんだって勉強になればいいな、と思って。
- せっかく録ったカスタムのダブを、本番でかけるチャンスがないとアーティストから文句は言われませんか?
Sami-T - ちょっと心が痛いよね。あー、忘れてたーっとか、時間がなかったとか、理由はいろいろだけど。(アーティストは)ムカつくでしょ、単純に。あんなに時間かけて苦労して書いたのにって。
Masta Simon - 逆に、かけて勝ったときのアーティストの反応は、すごく早い。Busy Signalなんてすぐ連絡してきて、冗談で<トロフィー半分わけろ>って。ビジーの曲は録っていたときに2日間も停電になって3日かかったから。2、3時間ビール飲みながら電気が戻るのを待って、ああ今日はダメだって。
- ジャムロック・クルーズも3連勝中ですし、最近、強すぎる感じですね。
Masta Simon - 仕込みの達人になりつつある。勝つことに貪欲なんで、俺ら。
Sami-T - やっぱり旬でいるってことは大事。今回、対戦した相手も俺らほどツアーしていないから、 (結果に)出ているかもしれない。俺らはカナダやイギリスの大きなショウに呼ばれて、必ず盛り上げているから。イギリスとか2000人とか入るし、海外の評価はすごく高い
Masta Simon - 27年やって、やっと結果が出てきた。
Sami-T - 苦労と努力を続けてやっと、結果が出た感じ。いま、食らっているのは俺らが上(の世代) になってきたこと。自分たちはずっと下だと思ってやってきたからね。いろんな国の若い奴に、Mighty Crownのカセットを聴いて育った、とか言われる。おじさんに感じちゃうからそういうのやめてくれない、って(笑)。
Masta Simon - がむしゃらにやってきたことが、見えないところで影響があったんだなって。Chronixx に、<子供の頃から聴いている>って言われたり。Masickaのダブを3月に録ったときも、周りの若い連中に、って言ってて。
- 今後の目標、展開を。
Sami-T - いろんなやつをもっと巻き込みたいね。Mighty Crownというブランドが大きくなっているから、それを使って若手育成とかプロデュースとか。
Masta Simon - 名前がでかいのは、決まったシーンだけでまだまだだね。レゲエとかダンスホール自体の認知度が低いから、広めて行きたい。Mighty Crownのアーカイヴは他にないものがあるから、ディグってもらって、嫌いな人はそれでいいし、1割でも2割でも感じるものがある人がいたらいいな、 と思ってやっている。意外と楽しかったと思ったら、それが入り口になるから、入り口を広げて行くのが大事。これからはジャンル関係なくどんどん繋がれて、面白いことをしていけばいいな、と思う。
継続は力なり。私はMighty Crownが観客を沸かせたのに、ラウンドごとのジャッジで負けの判定が出 たクラッシュも見たし、Sami-Tが虚無僧や80年代のダンスホール・ファッションで登場した瞬間にドカーンと沸かせた瞬間も見た。「経験を積んで、いまがある」という言葉には、万感の思いがあるはずだ。「で、何やってる人たちなの?」という素朴な疑問が沸いたら、SoundCloudのミックスやYouTubeでのサウンド・クラッシュの様子を、ぜひチェックしてほしい。Mighty Crownもジャマイカのダンスホールも、日本のレゲエ・シーンも現在進行形で、ずっと面白いから。
Info
【 タイトル 】
Mighty Crown Entertainment and Daikanyama Unit present
Dancehall Reggae Revival meets Steppas' Delight
PROTOJE with YAADCORE
"A MATTER OF TIME" DUBWISE TOUR JAPAN 2018"
Powered by SCREP
【 日 程 】
2018/9/16(日)
24:00 OPEN/START
【 会 場 】
代官山UNIT / UNICE
【 出 演 】
■Dancehall Reggae Revival @UNIT
Protoje with Yaadcore (from Jamaica)
Mighty Crown
Yaadcore DUBWISE Jamaica
Notorious Int'l (from Jamaica)
■Steppas' Delight Chapter 34 "Special" @UNICE
SCORCHER Hi Fi with Sound System
(STICKO & COJIE of Mighty Crown)
【チケット】
7/14(土) 一般発売開始
■前売¥3500(税込) DRINK別
■当日¥4500(税込) DRINK別
※前売りが規定の枚数に達した場合、当日券の販売はありません。
前日までにwww.mightycrown.comにてお知らせします。
※深夜イベントの為20歳未満の方の入場はできません。
会場にてIDチェック有(写真付きIDをご持参ください・・・免許証・パスポート・住民基本台帳カードなど)
※taspoは身分証として認められません。
※再入場禁止
■プレイガイド
ぴあ 0570-02-9999(Pコード:123-681)
ローソン 0570-084-003(Lコード:73958)
e+ http://eplus.jp
clubberia https://clubberia.com/ja
Resident Advisor https://jp.residentadvisor.net
■販売店
<神奈川>
RAGGA CHINA 045-651-9018
タワーレコード横浜ビブレ店 045-412-5601
<東京>
E.S.P. TRICKSTAR 03-3462-0003
代官山UNIT 店頭 03-5459-8630
diskunion 渋谷クラブミュージックショップ 03-3476-2627
diskunion 新宿クラブミュージックショップ 03-5919-2422
diskunion 下北沢クラブミュージックショップ 03-5738-2971
diskunion 吉祥寺 0422-20-8062
DISC SHOP ZERO 090-7412-5357
Dub Store Record Mart 03-3364-5251
【問】 代官山UNIT 03-5459-8630 (平日13:00〜19:00) http://www.unit-tokyo.com
主催 : Mighty Crown Entertainment / 代官山UNIT
企画制作 : Mighty Crown Entertainment
協賛 : SCREP
Mighty Crown Entertainment www.mightycrown.com