【インタビュー】T-Groove | ファーストアルバムをリリースしたモダンディスコクリエイターに迫る

FEATURED  2017.07.05  FNMNL編集部

近年、ソウル/R&Bを扱うイギリスのエクスパンションなどのレーベルから出される作品で"T-Groove Remix"というクレジットを見かけることが増えてきた。昨年11月に発売されたSaucy Lady“Sugar High”/“I’m Ready”のリミックス・7インチは国内のDJ諸氏からの評判も上々。これらを手掛けるのがT-GrooveことYuki Takahashiという日本人ディスコ・クリエイターだと知る人は、どれくらいいるだろう?

そんな彼が今年6月、ディスコ/ブギー/Gファンクを主軸とするフランスのレーベルDiggy Downから、日本人としては初めてとなるリーダー・アルバム『Move Your Body』を発表。飛行機恐怖症で海外にも行かず、東京の自宅で日本酒や焼酎を嗜みながら音楽を作って、ヨーロッパのレーベルから世界へ飛び立ち、逆輸入の形で紹介されることになったこのT-Grooveとは一体何者なのか。

取材・構成 : 林 剛

「T-Grooveという名前は以前からあだ名みたいな感じで使っていまして、2015年1月10日に出たトム・グライド feat.シャイラ・ヴォーンの"Soul Life(T-Groove Philly Soul Mix)"でリミキサーとしてデビューしたんです。それがいきなり〈UKソウル・チャート〉で1位を獲得しまして。しかも、その曲がモチーフになったコンピ『Soul Life』がエクスパンションから出て、イギリスやヨーロッパの音楽関係者から注目されたのが始まりです」

主な使用楽器はピアノやシンセなどの鍵盤類。82年、マイケル・ジャクソンの『Thriller』(11月30日発売)が発売された3日後に青森県八戸市にて生まれた彼だが、どういうキッカケで音楽の道に進んだのだろう?

 「高校の時に流行り始めたDTMで曲を作ったりしていたんです。友達とバンドもやったんですが、自分には合わないと思って、すぐに辞めて……。もともとレコーディング・エンジニアを目指していたので音響系の専門学校に入るため、高校卒業後に上京したんです。楽器は、宅録をやりながらコンガやボンゴを独学で覚えました。キーボードをある程度弾けるようになったのは10代後半。上京して自分用のキーボードを買って、それで弾き始めたら面白くなっちゃって」

小学校6年生くらいから中古盤店に通い、ディスコとソウルばかり聴いていたという彼はリスナーとしても見識が広い。実は知る人ぞ知るディスコ研究家でもあり、〈DISCO 45・・・7インチ・シングル発掘の旅〉というカルトなブログをやっていたこともある。

 「初めて買ってもらったアルバムはマドンナの『Like A Virgin』(84年)で、特に“Angel”が大好きでした。70年代のディスコに(後追いで)開眼したのは中学1年生の時で、シックの“Dance,Dance,Dance (Yowsah,Yowsah,Yowsah)”(77年)が好きでしたね。だから自分は(マドンナの『Like A Virgin』も手掛けた)ナイル・ロジャースが好きなんだと! あとはアラベスクの“High Life”(80年)とか。カナダのハーロウっていうディスコ・グループの“Take Off”(80年)もギターのカッティングがカッコよくて、一時期あればっかり聴いてました」

とはいえ、ディスコに限らず、J-Popでも洋楽でも流行のサウンドやムーヴメントは満遍なくチェックしているという。2001年くらいから数年間は、当時流行っていたトランスやエレクトロニックなダンス・ミュージックを作っていたそうだ。

 「自分が好きなディスコ、今で言うブギーのような音楽は売り込んでも相手にされなかったんですよね。売り込む方法も分からなかったし。なので、一回音楽を辞めたんですよ。その後は趣味でレコードやCDを聴いていたんですが、2011年に友人がインディーズからJ-PopのCDを出すことになって、曲作りを頼まれまして。彼の路線はロックだったし不安だったんですけど、バラードを作ったらすんなり出来たんです。そうやってポップ性というか普遍的なメロディの作り方とかを学びました。それが2014年くらいまでですね」

ここまでならよくある話だ。が、そこからどうやって世界と繋がったのだろう?

 「当時お世話になっていたプロデューサーに自分でレーベルやったら?って言われまして。それで自費でディスコ・シングルを作ったんです。ラム・バリオン(Rum-Bullion)とソフィスティケイッド・ファンク(The Sophisticated Funk)というふたつの名義で。ただ、売り方も分からないし、鳴かず飛ばずで……。ところがそれらをSoundcloudにアップしたら、ロバート・ウィメットさん、彼はカナダのDJで、昔ジノ・ソッチョとかフランシーヌ・マッギーなんかを手掛けていたモントリオール・ディスコの超大御所なんですけど、その彼が曲を気に入ってくれて、いろんなところに売り込んでくれたんです。日本では全く反応がなかったけど、まず海外の人が飛びついたという。それが最初にお話ししたトム・グライドのリミックスに繋がったんです」

タイミングも良かったのだろう。その前後からダフト・パンク、デイム・ファンク、タキシードあたりを中心としたディスコ~ブギー・ブームが起こり、ミュージシャンがSoundcloudで楽曲を発表することも普通になってきた。

 「日本ではそれほどでもなかったけど、海外ではそういう音楽が流行り始めていて、そこに自分が上手い具合に入り込めた。今までこんなのダサくて売れないよって言われていたディスコがひっくり返って新しい音楽として受け入れられるようになったのは衝撃的でしたね」

トム・グライドとの仕事以降、この2年近くでこなしたアレンジ&リミックス・ワークは40曲近く。そして今回、自己名義のデビュー・アルバム『Move Your Body』が発売となった(CDはDiggy Downからのリリースだが、日本ではビクター・エンタテインメントからアナログ盤と配信でリリースが決定)。

 「Diggy Downとはオーナーのオリヴとネスが僕のリミックスを早い段階から聴いて一緒に組みたいと言ってくれていて、2015年にB.トンプソンのアルバムの曲をリミックスしたのが始まりです。その時にやったのが今回のアルバムにも入れた“All Night Long”で、これは彼のファースト・アルバム『Evolution』に入ってた同名曲のリメイクなんですよ。シックっぽくしようと思って、“Good Times”みたいなカッティング・ギターやベースを弾いてもらいました」

先行シングルの“Move Your Body”もシック路線で、この曲はT-Grooveと同じくディスコ再評価以前からディスコ道を突き進んでいたクール・ミリオンのロブ・ハードによるリミックス・ヴァージョンも用意。これでアルバムのアウトラインが決まったという。

 「イメージとしてはダフト・パンクへのオマージュです。自分がこの世界でやっていけるかもしれないと思ったのはダフト・パンクが“Get Lucky”(2013年)を出した時だったこともあって。当初の仕上がりは別モノでしたが、ドゲット・ブラザーズのグレッグ・ドゲットが、ダフト・パンクっぽい曲だからヴォコーダーを入れたら?と言ってきて。あと、ベイベー(なかしまたかお)が弾くベースのラインがあって生まれた曲でもありますね。この出来が良くて、それだったら一枚アルバム作らないかって言われたんです」

「自分のサウンドに生命力を与えてくれる右腕」というベイベーのほか、敏腕ギタリストの上條頌、J-Pop畑のソングライター/プロデューサーMARUKENなど日本の音楽仲間も参加したアルバムは〈70min of Modern Disco Music〉というサブ・タイトル通りモダンなディスコやエレガントなファンクの連続だ。『Move Your Body』というタイトルに対して、その真意を問うのは野暮かもしれない。

 「踊らにゃ損、ということです(笑)。自分は音楽に意味を求めるというのは好きじゃなくて、曲を聴いて楽しければいい、ノリが良かったら踊ればいいっていう考え方なんですよ。音楽ってファンタジーであり夢であるべきだと思っていて。だから政治的なことも持ち込みたくない。もちろんマーヴィン・ゲイの『What’s Going On』みたいな作品も大好きですけど、自分の音楽では現実からちょっと外れたところを見せたいなっていう」

フランスの女性モデルを起用したアルバム・ジャケットも含めて、78~82年くらいの雰囲気を徹底的に呼び起こそうという究め方も潔い。

 「81年頃の生音とエレクトリックな部分が共存していた部分を意識しています。ジョーイ・ネグロからはスレイヴみたいだって言われました。でも、歌とメロディ・ラインは今風にしたくて、レトロな感覚と新しさを上手く共存させたアルバムになったんじゃないかなと思ってます」

例えば日系カナダ人のギルバート・マスダ擁するプレシャス・ローズが客演した“Roller Skate”は表題通りローラー・ディスコへのオマージュとなるメロウなアーバン・ディスコだ。

 「もともとあったデモをギルバートが作詞やメロディも含めて再構築してくれたんですが、“ザ・81年”な、あの頃流行りのローラー・ディスコ系の曲に仕上がりました。あと、monolog(金坂征広)さんのフェンダー・ローズもキレキレで、モーグ・シンセも使ってますが、これふたつともヴィンテージものなんですよ。だから音が当時に帰ったようなキラキラした感じになっている。この本物感はmonologさんのおかげですね」

以前J-Pop用に作っていた音源を再構築した楽曲も含むアルバムには、「79年のアルバム(LP)のA面ラストくらいにくる曲」を想定してレーベルメイトのイノイス・スクロッギンスに歌わせた長尺ディスコ・ダンサー“Let Your Body Move”やボストンで活動するリオン・ビールの滋味深い歌が映えるアーバン・ダンサー“Do You Feel The Same?”(サックス以外全てT-Grooveの演奏)のような熟年シンガーの客演曲から、レーベルメイトであるキース・ジョンソンの息子がアイス名義でラップする“Let's Get Close”まで、幅広い世代のゲストを招いた曲が登場。トークボックスの名手であるウィンフリーがマイケル・ジャクソン風のセンシティヴな歌い方をするバラード“Why Oh Why”など2曲で参加しているのも話題だろう。さらに、盲学校に通うジョヴァン・ベンソンとサミーを招いた人類愛の歌“Family”など、これら全てを日本にいながら完成させたという事実に改めて驚かされる。そうした意味ではネットの恩恵を受けたミュージシャンと言っていいだろう。

 「作ってる音楽はレトロですけど、そのへん自分は時流に乗ってるんだと思います。こうやってインターナショナルに活動できるようになったのは、Soundcloudもそうですけど、SNSなどで世界が遠いものでなくなって世界とリンクできたおかげというか。海外からの依頼もほとんどFacebook経由。そして、出来上がった曲はFacebookで拡散されていくんです」

今後は国内外で仕事が増えていきそうだが、7/5に配信リリースされるG.RINA feat. 鎮座DOPENESS「想像未来」のEPにもT-Grooveの名前が刻まれたリミックスが収録される。今や〈T-Groove Remix〉は世界的なブランドと言って差し支えない。

 「日本人でもここまで出来るんだって、R&B系のミュージシャンやプロデューサーさんに夢を与えられたんじゃないかと思います。で、最終的には、ご褒美としてグラミー賞を獲れるくらいになれたらいいかなと(笑)」

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