違和感を追い続けて - SeRiに聞く現代アシッド・ハウス事情とマイベストアシッドチューン -

FEATURED  2016.10.17  FNMNL編集部

1987年に誕生し、シカゴやロンドンを中心に一大ムーブメントを巻き起こしたアシッド・ハウス。93年の世界的なリバイバル期を経た今もなお、ダンスミュージックシーンの一潮流として残り続けている。移り変わりの早いダンスミュージックシーンにおいて、原型を留めたままに残っているの稀有だといえるだろう。アシッド・ハウス専門レーベルAcidWorxは、2013年の設立以来日本人アーティストを中心にDJユースな本格トラックを発表し、さまざまな著名DJのプレイリストに数多く選出。2016年9月にはアシッド界のビッグ・レジェンドであるAcid Junkiesの新作をリリースし、国内外から一際大きな注目を集めた。

今なお多くのリスナーを引き付けてやまないアシッド・ハウスの魅力とは?AcidWorx の元A&R、SeRiに話を聞いた。

取材 : 和田哲郎、Yuuki Yamane

■90年代、音楽的価値観の転換とアシッド・リバイバルの洗礼

 - まずは、簡単な自己紹介からお願いします。

SeRi - 静岡県の伊豆在住で、アシッド・ハウスを中心にテクノやハウスなどの4つ打ち系のトラックメーカーをしているSeRiです。音楽を始めたきっかけは、もともと中学時代にTM NETWORKを聞いて小室さんに憧れてシンセを買ったりして、そのあと元電気グルーヴのCMJKさんのファンになって、そこから本格的にテクノに傾倒していった感じです。

 - アシッド・ハウスを初めて聞いたのはいつですか?

SeRi - 1993年頃、いわゆるアシッド・リバイバルの時代ですね。当時は高校生でした。Hardfloorの1stアルバムが発売されたり、石野卓球さんが雑誌とかで頻繁にTB-303を紹介していた頃です。ソニーもテクノのCDを積極的にリリースしていたりして、アシッドに限らずテクノ全般が盛り上がり出したタイミングでした。

かつてはTM NETWORKにしろもう一世代上のKraftwerkにしろ、シンセを使って音楽をやるとなると相当な知識と技術、経済力が必要で、本当に選ばれた人たちの音楽っていう感じだったんですけど、90年代前半から中盤にかけて「自分の身の回りの範囲内でやれることをやればいいんだ」っていうふうに価値観が変わっていったと思うんですよね。テクノに限らずハウスにしてもヒップホップにしても、全般的にそうした時代になりつつあったんじゃないかな。

そうした時代背景の中でアシッド・リバイバルが起きて、TB-303にプレミアが付いた一方、いろんなメーカーからTB-303風のシンセ音源みたいなのが出たりしていて、僕もそういったシンセを試したりしていました。でも当時はアシッドならではのやばい感じ、何を考えているのか分からない感じをうまく作り出すことができなくて、イマイチ身にならなかったんです。しかもリバイバルの期間がすごく短くて、あがいている間にJeff Millsやsurgeonのようなハード・ミニマルの時代になってしまった。なので僕も一旦はアシッドからは離れて、ハード・ミニマルを作るほうに流れたんです。

 - そこからどうやってアシッド熱が再燃したんですか?

SeRi - 試行錯誤しながらも制作はずっと続けていて、ようやく2006年頃からネット配信、2009年頃からアナログのリリースができるようになったんです。その時はまだミニマルをやっていたんですが、自分の音楽活動がそれなりにかたちになってあらためて振り返ってみたとき、「このまま流行を追っていても終わりがないな」って気付いたんですよね。音楽の流行なんてすぐに変わっちゃうし。それで、本当にやりたいことって何だろうと考えたときに、かつてやり残していたアシッドがあったことを思い出して。「今のスキルとリリースできる環境があれば、当時できなかったことができるんじゃないか」ってことで、もう一度アシッドにチャレンジしてみようと思いました。

そんな中、2010年に僕が在籍しているElektraxというレーベルで、アシッド・ハウスのコンピレーション企画が立ち上がりまして。「Acid Injection」というシリーズなんですけど、例えばTresorなどからもリリースしているPacouやPlus Recordのシンニシムラ、アシッドメーカーの中でも大物のWoody McBrideなどが参加していて。そこに僕も加わることになって、いよいよアシッドに向き合うようになったんです。

■得体の知れない「違和感」こそが、アシッド最大の魅力

 - SeRiさんが思うアシッド・ハウスの魅力とは、何なんでしょうか?

SeRi - 正直、最初に聞いたときは「怖い音楽だな」って印象で。まともな人間が聞く音楽じゃないっていうか、とにかくぶっ飛んでるなぁって(笑)。テクノも初めの頃はUR とかOrbitalのような、メロディアスで曲の展開がある分かりやすいところから入ったので、TB-303やTR-909の音だけ、素材だけ、みたいな曲を聞いて、すごい違和感があったというか。だから当時は、すごいことはなんとなく分かるけど、全部を受け止めきれなかったんですよね。

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でも、今までの価値観と違うって意味では興味が湧いた部分もすごくあって。もっとすんなり聞き馴染んでいたら飽きるのも早かったかもしれないけど、「このわけの分からない音楽は何だろう」って自分の中に引っかかるものがあったから、逆にその魅力を知りたいと強く思ったんです。それまでのちゃんとした構造を持った音楽の文脈をばっさり断ち切られちゃったから。

 - いわゆる「アシッド感」みたいなのは、どんな手法で生み出せるものなんですか?

SeRi - さっきも言ったように、アシッドって得体の知れないサウンドっていうか、ピアノを習っていたり鍵盤を上手に弾けたりするプレーヤーには考え付かないようなフレーズこそが魅力だったりするので、ある意味狙ってできるものでもないんですよね。TB-303は決して操作性は良くないし、慣れないうちはイメージ通りの打ち込みをすることが難しいんですけど、それってたぶん鍵盤が弾けるプレーヤーにとってはすごくイライラすると思うんですよね。「自分で弾いたほうが早いのに何だこの面倒くさい機械は」って(笑)。逆に鍵盤を弾けない人がでたらめにいじっているうちに面白いフレーズが生み出されることが多々あって、「よく分かんないけど、何か楽しいぞ」ってなることもある。でも、テクノやハウスの価値観でいうとそれでOKなんですよね。

 - ある意味、方程式はないんですね。枠組みから外れていかに面白い音が出せるかが勝負っていうか。むしろきれいなメロディーを弾いちゃうとアシッドっぽくならない?

SeRi - そこなんですよ。そこはすごく言いたいところで。あらかじめ出来上がっているきれいなトラックに後からTB-303風のアシッド・ベースを足しても、やっぱりとってつけた感が出てしまうんですよね。アシッド・ハウスはリズムとTB-303がメインなので主体がぜんぜん違うというか、後から乗せたものと最初からその音前提で成り立っているものとでは、まるで魅力が違うんです。その辺の「微妙だけど致命的な違い」っていうのは確実にあると思いますね。

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