クソみたいな現実を超えていく音楽とパーティ ― ソウル出身のプロデューサーMIIINへのインタビュー

選ばれたミュージシャンのみが参加できるプログラムRed Bull Music Academy 2016に選出されたMIIIN。韓国ソウルをベースしながらDJとして、エクスペリメンタル/ベースミュージックのプロデューサーとして活動する彼女が語る、本気で音楽をやっていこうと思ったきっかけ、現実とフィクション、ソウルの仲間、韓国の女性を取り巻くセクシズムとフェミニズム、そして「クソみたいな現実を越えていく音楽とパーティ」とは。意思と希望を端々から感じさせるMIIINへのインタビュー。

聞き手:横山 純


― それじゃあ名前と何をしてるか、どこにいるかとか基本的なことから教えてもらっていいですか?

MIIIN - 本名はJeongmin Jeon、まわりはminって。哲学と文学を大学で勉強した後、映像/広告の会社で働いてて、ソウルに住んでた。けど今はいろいろあって釜山の近くのJinjuという街で親と一緒に住んでいます。

― 今何を聴きながら答えてくれてるの?

MIIIN Ziúrの"Lilith Ft. RIN"を聴いてたよ。

― いつもどこでDJしてるの?ホームって呼べるようなクラブはありますか?

MIIIN グライム/インダストリアル、電子音楽のアーティストVisionistがCakeshopに来た時、そのサポートDJをしました。Seendosi(シンドシ)っていうクラブや小さなギャラリーなんかでもDJをしてます。けど、ホームって呼べるような場所はないかな。どちらかいうと私はインターネットのヴァーチャルスペース、もしくは自分の家のベッドがホームって感じかな。

― MIIIN自身や音楽を説明すると、、、むずかしいよね?

MIIIN うーん。むずかしい質問だなぁ。テクノロジーが人間にどんな影響を与えるとか社会をどう変えるかということに興味がある人間ですね。たぶんそれって、私がSF小節や映画、未来はこうなってるっていう理論とかが大好きっていうのもあるかも。現実世界を超えて考えを巡らすでしょ。ほら、現実のクソみたいな出来事をイマジネーションを使って壊したりどうにかしなくちゃいけないってことがあるでしょ。クソみたいな政治家とか、女性が会社で男性のように昇進できない「ガラスの天井」とか、道理のない社会の習慣とかそんなクソみたいなことをぶち壊したり、どうにかしたりしなきゃいけない時。

音楽って、私にとっては現実世界を超えた違う次元の空間って感じがする。音楽を通じて、現実や見えるもの、聴こえるもの、もちろん実体のない物語や感情なんかを表現できるでしょ。曲を作る時は、馬鹿げてるどうしようもないことを集めて、ぐって音楽という形に押し込んでるって感じでやってる。だから私は自分の作る音楽のことを"Xeno(異質な) Dark Music"って名前をつけたんだよ。

― 暗さとか寂しさというか、放り出されたような感情がMIIINのトラックの中にあると思うんだけど。どうしてそういうものをトラックの中に入れたりしてるの?

MIIIN 幸せーって感じだったり、笑顔でいなきゃいけないプレッシャーってあるでしょ?そういうの本当に嫌いだから。暗かったり、寂しい気持ちになることって避けるべきことじゃないから。人間のある一面でしょ!しかも人生においてそういう感情がネガティブな効果をもたらすとか思ってないし。

そういう感情を表現したり共有することで、私たちは意思の力みたいなものを手にするじゃない?それって本当の笑顔や幸せを与えてくれると思うし。だから私はこの世界で感謝しながら生きてるんだと思う。わたし宗教のリーダーみたいなこと言ってない?笑

― どんな人やモノから影響を受けたとかってある?

MIIIN フランスの思想家のジャン・ボードリヤール。最初はミュージシャンで私に影響を与えた人のことを考えてたんだけど、やっぱりジャン・ボードリヤールが一番自分の人生に影響を与えてるかな。10代の頃に彼の理論に触れてから、ずっと現実ってなんだろうって疑問に思って、ずっとヴァーチャル/仮想空間の存在ってなんなんだろうって考えたる。

そうやってしてたから音楽とかフィクションとか映画に興味を持つようになったんだと思う。何かを追い求めることって、現実に打ちのめされることよりも、現実的な行為だから。

― アンダーグラウンド・ダンスミュージックの世界に入り込んだのはどうして?何が魅力的と感じて、音楽はminにとってどんな意味があると思ったの?

MIIIN 2012年から実験的な音楽を作ってるけど、それはそんな真剣にやってたわけじゃなかった。時間つぶしのようなものだったり、感情を表現してみたりって感じ。ラッキーなことに2014年にロンドンのレーベルHyperdubがRinse FMの番組の中で私の曲をでかけくれて。それがきっかけでRinse FMのスタジオを訪れて。

その時にDJすることが、こうなんて言うのかな「なにか」って感じがして。わかる?「サムシング」っていう感じ。それが何なのかちゃんと説明できないけど、感じることってあるでしょ。それ以来アンダーグラウンドミュージックやDJにのめり込んでいったって感じ。DJを始めたのと同時に地元のDJミックスを"Seoul Simin"っていう名前のもとでシリーズ化し始めたり。

RBMA2016に選出されて

― カナダのモントリオールで開催されるミュージシャンのためのプログラムRed Bull Music Academy 2016の参加者に無事選ばれたって聞いた時はどう思った?

MIIIN 最高でしょ。RBMAに参加できるのって誇りに思う。けどちょっと恥ずかしいかな。自分の音楽ってものがまだ良くわかってないし、プロのミュージシャンになるってことに対してはちょっと怖さもあるかな。今までプロの音楽レッスンなんて受けたこともないし、ミュージシャンとして有名なわけでもないし。ほんとに一部の人が自分の音楽を好きって言ってくれるだけだから。けどこの発表があってから、ちょっと自信が持てたし、プロとしてやって行くぞってスイッチがオンなったような気がしてる。

― どうしてRBMAに応募しようと思ったの?

MIIIN ある尊敬してるミュージシャンがRBMAについていろいろ教えてくれて、彼がRBMAに応募してみなよって言ってくれた。それから質問項目とかをチェックしたりしたかな。なんか普通のつまらない質問みたいなものじゃなかったから。RBMAは個人のものの見方とか、人生、音楽に対する視点を聞こうとしてきたから。いいねって思って。

― SoundCloudに上げられてる最新のmixは"Ghost in the Cell"って名前がついてるけど、やっぱり攻殻機動隊から取ってきたの?アニメやマンガからの影響とかはありますか?

(今年の国際女性デーにMIIIがソウルのインターネットラジオ局Seoul Community Radioプレイした時の録音)

MIIIN (攻殻機動隊の英語のタイトル)"Ghost in the shell"からちょっと変えてみた。私たちはたくさんの細胞からできてるし、なんてったってそして私たちは携帯(Cell phone)の中で生きてるでしょ?もちろん攻殻機動隊はお気に入りのひとつで、ゴーストが機械の中に入るっていうアイディアはいいと思う。暗めのサイバーパンクの美学やエキゾティックなボーカルはもう興味を引くに決まってるでしょ。いつか人間もいつか肉体がなくなってゴーストだけになるかもしれないなんて、そんなこと誰も分からないからね。
― ソウルのDJやプロデューサーでこの人を紹介したいとういう人はいますか?

MIIIN Cong Vuだね。ソウル在住のフットワーク/ジュークのプロデューサーでDJ。韓国のフットワーク界のパイオニア。私はSeeseaとShurimp Chungっていう2人と女性だけのDJクルー"-chinda"ってのを作ったんだけど、彼はその非公式メンバーの一人でもあるんだよ。

韓国では男性優位主義であったりミソジニー(女性に対する蔑視)をいまだによく目にする。2015年にフェミニズムの波がソウルに来て、多くの韓国の女性が自分たちの権利について声を上げ初めた。私たちはその波と一緒にパーティを始めた。ずっとうまく行ってて、すごくパワフルな夜になってると思う。そのパーティはとても政治的な意味があると思う。女性が、韓国風ブロマンスの輪に加わらなくても、有名なDJの彼女にならなくてもDJが出来てる証明になってる。"-Chinda"のSeeseaとShrimp Chung、Cong Vuはこの新しいフェミニズムの流れをソウルのアンダーグラウンドシーンに吹き込むのにすごく協力的になって一緒にやってくれてるんだよ。

???????? #비친다 #nylonkorea

A photo posted by MIIIN 민 (@xeno.miiin) on


(-ChindaがNylon Koreaに取り上げられた時の写真。左からShrimp、Seesea、MIIIN)

― けど日本でも韓国でも、そういう政治的なことってシーンに持ち込もうとすると批判されたりするでしょう?

MIIIN 本当にそう。政治的なイシューをパーティや音楽シーンに持ち込むのはちょっとややこしいよ。パーティとかライブって本当は楽しむものだし、音楽を聴いて楽しむのが一番大事なことじゃない、オーディエンスにとって。政治的なイシューが直接届いちゃうと、やっぱりオーディエンスは居心地悪かったりすると思うし、政治的なことに巻き込まれるのかなって思ったりもすると思う。まあどこにだって音楽は政治的、どんなイシューとも距離を取るべきだって言う人はいるでしょ。

けど、音楽っていうのは人生の最高のエレメントの一つだと思うわけ。だから音楽は私たちの人生や生き方とは分けられない。自分の人生のオーナーとしてよ、私たちは自分自身のために声をあげないといけない時があるし、馬鹿でクソみたいなことに対して自分たちのスピリットを曲げちゃいけないわけよ。私は声を上げることをなんとも思ってない。もし音楽がそんなそれぞれの声を集めることができて、世界に大きな声でぶつけることができたら?最高でしょ。そういうイベントで踊るしか無いでしょ。

けど、音楽に政治的なイシューを持ち込むことで心配してることがあるとすれば、それは政治を持ち込むってことはちょっと古くさいって思われがちなことかな。けど全然気にしてない。わたしのパーティとオーディエンスは前向きでゴージャスで、絶対に行きたいって思っちゃうパーティなんだから。

― 最後に日本の(これからの)リスナー、インタビューを読んでくれているみんなにメッセージをお願いします!

MIIIN 안녕하세요(アニョハセヨ)! Konichiwa! 今わたしはアルバムを作ってるよ!近いうちに日本で会えることを祈ってます!

RELATED

【インタビュー】5lack 『report』| やるべき事は自分で決める

5lackが今月6曲入りの新作『report』をリリースした。

【インタビュー】BES 『WILL OF STEEL』| 初期衝動を忘れずに

SCARSやSWANKY SWIPEのメンバーとしても知られ、常にアクティヴにヒップホップと向き合い、コンスタントに作品をリリースしてきたレジェンドラッパー、BES。

【インタビュー】CreativeDrugStore 『Wisteria』| 11年目の前哨戦

BIM、in-d、VaVa、JUBEEのMC4名、そしてDJ/プロデューサーのdoooo、ビデオディレクターのHeiyuuからなるクルー、CreativeDrugStore(以下、CDS)による、結成11周年にして初となる1stアルバム『Wisteria』がついに発表された。

MOST POPULAR

【Interview】UKの鬼才The Bugが「俺の感情のピース」と語る新プロジェクト「Sirens」とは

The Bugとして知られるイギリス人アーティストKevin Martinは、これまで主にGod, Techno Animal, The Bug, King Midas Soundとして活動し、変化しながらも、他の誰にも真似できない自らの音楽を貫いてきた、UK及びヨーロッパの音楽界の重要人物である。彼が今回新プロジェクトのSirensという名のショーケースをスタートさせた。彼が「感情のピース」と表現するSirensはどういった音楽なのか、ロンドンでのライブの前日に話を聞いてみた。

【コラム】Childish Gambino - "This Is America" | アメリカからは逃げられない

Childish Gambinoの新曲"This is America"が、大きな話題になっている。『Atlanta』やこれまでもChildish Gambinoのミュージックビデオを多く手がけてきたヒロ・ムライが制作した、同曲のミュージックビデオは公開から3日ですでに3000万回再生を突破している。

WONKとThe Love ExperimentがチョイスするNYと日本の10曲

東京を拠点に活動するWONKと、NYのThe Love Experimentによる海を越えたコラボ作『BINARY』。11月にリリースされた同作を記念して、ツアーが1月8日(月・祝)にブルーノート東京、1月10日(水)にビルボードライブ大阪、そして1月11日(木)に名古屋ブルーノートにて行われる。