tofubeatsが神戸大学で仕事やキャリアについて講義

神戸在住のプロデューサーtofubeatsが、神戸大学経営学部の1年生向けに開講される初年次セミナーにゲストスピーカーとして招聘され、小川進教授が担当するクラスで「仕事やキャリア」についての授業を行った。

撮影:取材 横山 純

tofubeats 神戸大学へ行く

今回tofubeatsを神戸大学に招いたのは、マーケティング・イノベーション研究の第一人者の小川進教授。彼はMIT(マサチューセッツ工科大学)で博士号を取得したのち、神戸大学にて教鞭をとっている。その傍ら、絵本やアニメを使ってマーケティング・イノベーションの啓発に努めている。彼が今年5月に出版した絵本『はじめてのマーケティング』は、現在Amazonのマーケティング部門で一位を獲得し、品切れが続くなど話題だ。小川教授は昨年に引き続き、tofubeatsと彼のマネージャー杉生氏を神戸大学に招き、小川ゼミの学生との昼食会、そして初年次セミナーを開催した。

tofubeatsは3時間ぶっ通しで、杉生マネージャーとの軽妙な掛け合いを交えて学生の興味と笑いを誘いつつ、過去の話から未来の話まで熱く語った。tofubeatsの事を知らない学生も多かったため、彼は丁寧に中学生の頃から始めたDTMや、インディーからメジャーへのキャリアパス、メジャーでの仕事について説明し、また、仲間がいなかった頃の話や、インターネットを通じて友人の輪や仕事の可能性が広がったストーリーを、赤裸々に語り、学生の共感を得た。

tofubeats自身のストーリーやこれまでの作品や仕事については、tofubeatsのウェブページやWIREDに彼が寄稿した記事などでも知る事ができる。また、杉生氏とtofubeatsの関係も同じくWIREDのウェブサイトでうかがい知れる。そこで本稿では音楽を仕事にする事とは、どういう事か、そしてtofubeatsと杉生マネージャーがどのようなスタンスでその職業や仕事に接しているかを中心に報じたい。

 tofubeats

- やるならトコトンやってほしいと思います。それは勉強でもいいし。麻雀でもいいし。決して流してやらずに、麻雀やるなら三日三晩寝ずにやってほしい(笑) -

大学生1年生に向けた授業という事を踏まえて、大学経験もあるtofubeatsは、大学での学びの意義を初めて実感しているというところからトークをスタートさせた。今年に入りtofubeatsはマネジメント事務所から独立し、自身で設立した事務所に所属しながら活動している。事務所設立の際、大学で学んだ会社法の授業のレジュメや教科書をひっくり返して参考したそうだ。

「自分が大変な目に合うまで、勉強が役に立つって思わなかった。だけど今、読んだ事や学んだ事って後々自分に返ってくる実感はありますね。ぼくにとっては経済の勉強や音楽研究部で過ごした時間が今になって役に立っている。『仕事になってるからいーだろって』(笑)。 だから学生の人にはやるならトコトンやってほしいと思います。それは勉強でもいいし。麻雀でもいいし。決して流してやらずに、麻雀やるなら三日三晩寝ずにやってほしい(笑)。そんな自由を買ってるのが大学時代だと思うし。大学生のうちは何やってても大学生なんだから。本気でやりたい事をやったら、それは後から返ってくるから。それを早いうちから分かっておくと就職活動の時にやりたい事が分かっていると思う。大学卒業する時に、ぼくは就職決まってたけど、いろんな事情で辞めざるを得なくなった時に『(音楽があるから)まいっか』って思えたから

tofubeats

- ぼくたちは、自分たちが何を目的にしてやっているかという事ははっきりさせている。 -

ミュージシャンを職業として活動するtofubeatsにとって、「仕事」とはどういうものなのだろうか。意外な事にtofubeatsとマネージャーの杉生は学生が思っているほど「職業ミュージシャン」にこだわりはなかった。

大学在学中のtofubeatsはリミックスなどの音楽の仕事をしながら、メジャーデビューの機会を伺っていた。しかし在学中にデビューが叶わなかったため、就職活動をして内定を獲得。その内定先へ就職しようとしていた矢先、体調を崩し、就職を取りやめた。母親には「あんたは就職むいてないって思ってたからええんちゃう」と諭され、ゆっくり音楽活動をしようと考えていたが、一転してワーナーミュージックからメジャーデビューする事になった。

そんなインターネットサクセスストーリーを地で行くtofubeatsであるが「自分たちは一生音楽で食っていけるとは思っていないし、そうしたいとも思っていない」と、言う。彼らは「自分たちはミュージシャンとして何年続けていけるかわからない」と自分たちの実力を冷静に認識しているように見えるが、そう考えるのは別の理由があった。

その理由とは、彼らに言わせると「もしミュージシャンとして続ける事を目標としてしまうと、自分のしたくない仕事をしてまで続けないといけなくなってしまうから」だ。「親からは『儲からなくなったら音楽を仕事としてするのはやめなさい』と最初から言われている」と冗談交じりに語ったが、それはリアリスティックな自分たちの将来とシーンに向けた目線でもありつつ、彼ら自身の哲学であるようにも感じられた。

彼らは今年、所属事務所を出て、二人三脚でメジャーのフィールドで活動している。大きい事務所に入ればドラマやタイアップなど、さまざまな仕事も入ってきて「名声」を手に入る事ができるかもしれない。しかし、彼らは「ぼくたちは、自分たちが何を目的にしてやっているかという事ははっきりさせている」と言う。仕事として音楽をやっているけど、「いい曲を作る事」を最優先にしているという事だ。「大ヒットを意図的に飛ばせるようなチーム編成ではない。チームを大きくすると2人で押したり引いたりやりながら、じっくりと良い曲を目指すというのができなくなってしまう気がする。今の規模感のチームだったら『良い曲できたからOK』ってなるけど、ジャッジする人が多くなりすぎると、それが捻じ曲げられる可能性もある」と、語る。2人は、自分たちが音楽的に満足できる曲を制作するという事を一番に考えて、仕事をコントロールできる状態をキープする事が重要であると考えているようだ。

音楽業界全体として、90年代のようなヒットを飛ばすのが難しくなっている現在、彼らは「一位を目指す事より、自分たちが食べていく事ももちろん大事だけど、自分たちにとっては、良い音楽を作ったり、良い音楽を楽しむ事自体が一番にあって。『世間で良いとされる音楽』と自分たちの音楽とが乖離して儲からなくなったら、他の仕事して(趣味として)音楽をやればいいっていうのが、(自分たちにとって)いいんで」と仕事と音楽について語った。

tofubeats
マネージャーの杉生氏

- 地方に行ってtofubeatsのようなアーティストを探して来て -

 音楽業界に就職したいという学生から、かつてソニーミュージックの新人発掘の担当をしていた杉生マネージャーに対して「どうしたら音楽業界に就職できるか?」という質問が寄せられた。様々な方法で業界に携わった経験のある杉生マネージャーの返答は、少し学生には厳しいものであった。彼が言うには、基本的にメジャーレーベルなどの音楽業界に就職できる人は「やれる事が明確になっていて、音楽ビジネスの中で『あれをやって来て』と言われて、それが出来る人」という事だ。「予算これくらいで、HIPHOPのコンピレーションを作って。それを1万枚売って来て」というオーダーや「地方に行ってtofubeatsのようなアーティストを探して来て」など、厳しい指示が待ち受けている。それをやり切るには、多少なりに音楽業界での経験やコネクションが必要になる。だから、音楽業界はの採用はほとんどが中途採用で、それは狭き門なんだよ、と厳しい解答が学生に返された。

だからこそ杉生は、「音楽に携わりたいと思うなら、どういう形で携わりたいかを明確にするべき」と、学生に説いた。杉生はレコード店でバイヤーを経験し、自身もDJとして活動している。その経験を買われてソニーミュージックの新人育成部門に中途採用された。「自分が音楽業界の中でどのような形で関わりたいかを考えてほしい。学生のうちからでもアーティストのプロモーションやCDのコンピレーション作成、イベント開催など、個人レベルで出来る事はたくさんある。だから、あれこれ考える前に、なにかやってみては」と、アドバイスした。

tofubeatsの就職活動はどんなものだったのだろうか。tofubeatsは「早くやりたいことを決めておく事」は、大事と言う。「ぼくも就職活動して、(音楽ばかりやっていた)ぼくでも10社位は受けたいところがあったんですよね。楽器メーカーとか、お菓子メーカーとか。当時ぼくはアーティストとしてある程度名前は売れてましたけど、音楽の仕事で食っていけるほどではなかったし、メジャーデビューも出来なかった。けど、自分なりに考えて、ウェブ制作の会社に対して、音楽制作の分の手当を付けてくれるように条件などを交渉しましたよ。そして、そこに内定をもらいました」と、tofubeatsなりの就職活動の経験を話した。しかも講義の前日に就職活動の相談を受けていたtofubeatsは以下のように学生に語った。

tofubeats「友人が第一志望の企業に落ちて、すっげーへこんでたんですよね。けど、企業なんて星の数ほどあるからいいやんって励ましました。就職活動の短期間で自分の人生を考えて決めるのなんて、普通に考えて難しいはずですからね。適当に入って3年くらいでやめたらって思いますし。どうやりたいことと付き合っていくのかっていうのが大事だと思います」

杉生「仕事やりながら音楽やっている人の方が多いし、専業、兼業、どっちが向いているかはその人次第だから」

tofubeats「僕も結局体壊したので、就職しなかったですし。それも縁やなって思います。(…)(tofubeatsは中学の頃から)10年やってる音楽と(就職活動の期間の)3ヶ月やそこらで決めた仕事なら、(tofubeatsにとっては)10年やってた音楽の方を選ぶのがまともなのかもしれませんね(笑)」

tofubeats

神戸大学経営学部2年生の梅田(20)はtofubeatsの話を聞いて、「ミュージシャンが売れるには、tofubeatsさんのように『若さ』や『インターネット』というストーリーも重要」と分析したようだ。さらに「tofubeatsさんが、芸能界でタレントを志向するより、『音楽そのもの』に長く携わり、顔は出さなくなってもいいから、プロデュースを続けていきたいと考えているところが驚きでありユニークであると感じた」と、語ってくれた。

彼自身も神戸大学の軽音サークルに入り、キーボードを演奏している。しかし、彼はバンド活動と平行して、tofubeatsのように個人で打ち込みをメインにした曲を制作している。ゲスト両氏の話を聞いて「(軽音サークルの活動と合わせて)自分で作った曲をもっとSoundCloudなどにアップロードして、友達やリスナーの人に聞いてもらおう」と、思いを新たにした。「tofubeatsさんが活動し始めた頃と比べると、今の時代ではトラックメーカーの数も多く、飽和してしまっていて、その時より競争は難しくなっている」と、彼は冷静だ。「それもとりあえずやってみないと分からないじゃないですか」と、一歩を踏み出す勇気をtofubeatsから得た。

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小川進教授

- 普通を志向する学生たちがルートから外れて、『自分も好きな事を続けてやっていこう』と思ってもらえれば -

授業の後、小川教授に「なぜtofubeatsを神戸大学の授業に呼んだのか」という事を伺った。小川教授は「神戸大学の学生や大学生一般は、人が作った道の後を通って生きようとしてしまっている。しかしそれでは会社に入ってからもクリエイティビティが発揮できない」と、学生の未来を懸念している。大学生たちは高校の進路選択の時から「文系理系コースはこの授業を取りなさい。この偏差値ならこの大学、この学部を狙いましょう」と、自動的に何かに決められたルートを通らされて「学生が窒息させられているようだね」と、学生を取り巻く状況を分析している。

マーケティングの専門家の小川教授は、社会で、または会社などの組織の中で、イノベーションを起こすには「人と人とのケミストリー」が重要であると考える。しかし、そのケミストリーはどこでも生まれるのではなく、「その人が、どんな人からも興味を持ってもらえるような、誰も持っていないストーリーや変わった事を続けてやっている人」でないと、そのケミストリーが生まれるための「出会い」が生まれないと、小川教授は考えている。

小川教授は、大学を卒業してプロのミュージシャンとして活動するtofubeatsを日経新聞の記事で発見した。「大学に通いながら自分のやりたい事を続けて、卒業後はそれを仕事としてやっている。そして歳も学生と近い。学生たちが彼のような人に直接会って、話を聞く事で、普通を志向する学生たちがルートから外れて、『自分も好きな事を続けてやっていこう』と思ってもらえれば」と、意図を明かしてくれた。「大学生は会社の看板を欲しがるけど、看板を外したところにある個人のおもしろさを追求してほしい」と、願いを語った。

その人にしかできない、おもしろい話や能力を獲得する事は難しそうな話に聞こえるが、小川教授は「そういうものは誰しもが持っている」と、考えている。小川教授は個人的な体験を教えてくれた。教授は大学生の時、先輩が海外に行った話を聞かされた。当時はすでに海外旅行は一般的であったが、彼の身の回りにはそういう事をする人はいなかった。その話を聞いて「海外旅行は遠い話だと思っていたが、自分でも海外旅行にいけるのでは」と考え、勢いで航空券のチケットを取り、海外旅行をしたと言う。それがMITでの博士号取得にまで繋がったかどうかは分からないが、「別世界の出来事と思っていた事は、思いがけず自分でも簡単にできてしまう事で、やってみる事が大事。人の目を気にしないで、というメッセージが学生に伝われば」と、小川教授は望んでいるようだ。

「そのような意図や想いは学生には伝わったと思いますか?」という質問に対して、教授は「授業が終わってから、数人の学生がtofubeatsと杉生マネージャーに質問をぶつけて、彼らの話を真剣に聞いていたでしょ。そうやって数人に響いて変わってくれればそれは大成功。それ以外の人も後々に『そんな話を聞いたな』と一回でもふと思い出してくれればOKだと思うよ」と、明るく答えてくれた。

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