【インタビュー】VaVa | もうカッコつけないよ
“もうカッコつけないよ だってもう意味がないよ
そんなクールでもないし 騒いでいたいだけ
もうカッコつけても そろそろボロが出そうだよ
だったらきみと踊りたいし 俺は俺でいいよ“(VaVa - “Call”)
昨年6月に全曲セルフプロデュースのラップアルバム『low mind boi』を発表したラッパー/プロデューサー、VaVa。SUMMITおよびTHE OTOGIBANASHI’S(以下、OTG’S)擁するCreativeDrugStore(以下、CDS)に所属し、自曲の発表や数々の楽曲プロデュースを手掛ける彼の最新ミュージックビデオ"93’ Syndrome"が先ごろアップされた。本楽曲をはじめ、今年になって発表された楽曲はどれも新たなステップを踏む意欲作だ。はたして彼はどのようにして新しい言葉と音を獲得したのか。
取材・構成 : 高橋圭太
写真 : 横山純
- ミュージックビデオを公開したばかりの"93’ Syndrome"は、FNMNLとGRAND KIRINによるキャンペーンが初出だったので昨年の11月ごろには音源が完成していたんですよね。
VaVa - (キャンペーンが開始する)2ヶ月くらい前からやってはいたんですけど、かなり時間がかかっちゃいましたね。3曲ぐらい制作して、そのなかから最終的にこれがいちばんよくできたなって感じで。そこからミュージックビデオをしっかりしたもの撮りたいということになって、それが最近アップされた感じです。最後まで根気強く付き合っていただいた監督の新保(拓人)さんには本当に感謝してますね。
- 昨年6月に発表したアルバム『low mind boi』と"93’ Syndrome"では音楽的にもリリックの内容面でも変化を感じました。
VaVa - アルバムの制作時期はタイトル通り、テンションがローだったと思います。でもアルバム発表して、いざライブしてみると、意外と楽天的な自分がいるなと。『low mind boi』の自分も自分なんだけど、次の作品では違う自分を出していけたらなって考えてました。
- なるほど。そういったマインドの変化について、今回は順を追って振り返っていこうかなと思っているんですが。まずはアルバム発売後すぐの時期。
VaVa - えっと、アルバムのリリース後……。あぁ、8月に『AVALANCHE』(所属するレーベルSUMMIT主催によるイベント。渋谷WWW Xで開催)があったので、そこでのライブをどうするか考えてましたね。マイク持ってからはじめてのライブだったので、ちゃんとやらないとなって。実際めちゃめちゃ緊張しましたね。OTG’Sも3回目くらいのライブが『AVALANCHE』だったから、BIMもin-dもこんな感じだったんだろうなと。
- 初ライブの手応えは?
VaVa - 反応を見る余裕もないくらいでしたね。はじめてのわりにはよかったかなぁと思いましたけど、ライブ後にエゴサしたら“VaVaはスタジオラッパー”的なこと書かれてました(笑)。
- ハハハハハ。さっそく辛辣な意見が。
VaVa - 勉強します!って感じでした(笑)。ただ、ビートメイカーとしてはこれまで漠然と褒められてしかいなかったので、そういうふうに言われるのも正直嬉しかったです。これから出す音源とかライブで好きになってもらえたら嬉しいですね。
- アルバムのリリースと同時期に平井堅"魔法って言っていいかな?"のリミックスも発表されてます。こちらの制作はアルバムがひと段落ついたあたりに?
VaVa - アルバムはほぼ終わってる時期ですね。アルバムでダークなテイストのものを作ってたので、その反動でポップでメロディアスなものができたのかも。どっちかというと、自分のビートアルバム『Blue Popcorn』とか『Jonathan』の延長線にある感じかと。平井さん側からパラデータ送られてきたその日のうちには基礎ができて、制作期間は全部で3日間くらい。平井さんのアカペラを聴いてスイッチが完全に入ったので、制作ボルテージがすごい上がりましたね。自分でもこのリミックスは気に入ってます。できた瞬間から(SUMMITの担当者)増田さんと“神リミックス!”って言ってましたね(笑)。
- ハハハ。制作スピードはモチベーションが影響している感じですか?
VaVa - だいたいトラック頼まれた瞬間がボルテージのピークで。その瞬間に自分の部屋にいれば8割くらいでいいのができる。逆にそのピークのタイミングでできないとだいぶ苦戦しちゃいますね。もちろん、時間をかけて制作することもありますが。
- 提供曲でいうと、12月にはBIM"Bonita"のミュージックビデオが発表されましたね。
VaVa - ビート自体はそれこそ“93' Syndrome”ができた時期ぐらいには手元にありまして、本当は自分がラップ乗せる予定だったんですよね。でも、そのときの自分のモードだと違和感を感じるぐらいポップなビートで。でもBIMなら合うんじゃないかと思って渡したんですよ、“これで絶対ラップして!”って(笑)。そういえばこの曲も基盤は10分くらいでできましたね。
- 昨年末にはTBS系で放送されたバラエティー『人生逆転バトル カイジ』の番組テーマ曲も担当しました。
VaVa - 『カイジ』は普段のビートとかとは違って、よりテーマを重視して作ったのですごくおもしろかったです。スマホでドラクエを無音でやりながら作ってたんですよ(笑)。ゲームでお金を獲得したときに流れるBGMをイメージしながら。
- ゲームにアテレコしていくみたいな?
VaVa – そうです。“これ勝ったら200万円でしょ? めっちゃうれしいだろうなぁ!”って思いながら作ってました(笑)。
- ゲームの話題が出たので触れようと思うんですが、自身の最近の楽曲にはゲームやゲームミュージックについてのトピックが多く登場しますね。ゲームからの影響は強いと思いますか。
VaVa - 影響はありますね。前はめっちゃやってたんですけど、やりはじめるとなにもできなくなるので……。やれる時間が前よりは少なくなりましたね。
- ちなみに1日にどのくらいゲームしてます?
VaVa - 1時間くらいだと思いますよ。 いまのスマホゲームはめっちゃ簡単で、ボタン押したら勝手に進んでくれるんですよ。ただ、それを見てるだけだと時間がもったいないから、片手でゲームしながら、そのあいだにちょこちょこトラックを作ってます。ゲームの画面ばかり見ていたら課金したくなっちゃいそうで(笑)。
- ハハハ。ライフハックですね。つまり、ゲームに課金しないために音楽やってるとこがある?
VaVa - ないと言ってしまったら嘘かもしれません(笑)。それこそ昔はパズドラにめっちゃ課金してたりしてましたね。5万円くらいは余裕で課金してるはずです。
- これまで特にハマったゲームをいくつか挙げるなら?
VaVa - 『ファイナルファンタジー7』、『ドラゴンクエストモンスターズ テリーのワンダーランド』、『クロノトリガー』、『ロックマンエグゼ』、『マザー2』あたりですかね。いま挙げたゲームは音楽もいいのが多くて。
- ゲームミュージックのどんな部分に惹かれるんでしょう?
VaVa - ゲームミュージックだけじゃなく、映画音楽とかでもそうなんですけど、単純に歌詞がないのにいろんな感情を揺さぶれるってすごいなぁと。 前に友達と朝まで飲んで、することないからそのまま新宿御苑の芝生で寝てたんですよ。めっちゃ天気がいいなかで久石譲を聴いたら、もう……。そのときにメロディーの重要性に気づきましたね。その次に展開。自分はプロデューサーって意識が強いので、メロディーで感情を揺さぶれるような作曲家タイプのスキルにすごくあこがれがありますね。
- それにはやっぱり楽理的な知識も必要とされますもんね。
VaVa – すごく難しいですね。そのためにピアノも習ってはいますが、忙しくて全然行けてないですね(笑)。まさに苦戦中です。
- もともとサンプリングミュージックから入ったひとが、そういう楽理的なスキルに向かっていくのは興味深いですね。
VaVa - 海外のプロデューサー……たとえばZaytoven。彼が出た『Against The Clock』の回を観てそう思いましたね。5分くらいで曲ができちゃってたし。そういうひとたちが世界にはゴロゴロいるから自分なりにどうにか努力したいなと思いますね。
- ゲームミュージックと改めて向き合うことで、音楽家としての視野が広がった。
VaVa - 3年くらい前、まだCDSのオフィスに住んでたときはゲームとかする余裕がなくて、ずっと制作しなきゃっていうライフスタイルで。それが実家戻ったら“めっちゃ楽っ!”ってなりました(笑)。ひさしぶりに自分の好きなことできるなと思ってゲームはじめたら楽しくなっちゃって。そこからゲームの楽しさみたいな部分を、どう音楽に落とし込めるかって考えてました。とはいえ、どうしたらいいかもわかんないから、ゲームのサントラ聴いたりしてゲームミュージックのいいところが吸収できればなって。そのくらいから自分の考え方がかなり変わりました。
- ちなみにCDSのオフィス共同生活時代はどんな生活だったんですか?
VaVa - ヤバいっす。もう気が狂ったみたいなライフスタイルでした(笑)。朝起きたら速攻でパソコン向かって、メシとかもお金かかるのがイヤなのでパソコンの前から動きませんでしたね。外食すると時間とお金が無駄だし、結局胃に入れたら全部おなじって考え方でした。いまは違いますよ(笑)? 当時は単純にお金がなかったっていうのもありましたが。ほんとにずっと制作してましたね。取り憑かれたように液晶から離れられなかった。
- それはいま振り返ってみて、つらい思い出?
VaVa - そのときの苦痛は忘れたというか、いまはつらく感じてないですね。『Blue Popcorn』を出してトラックメイクがちょっとできるようになって、『Jonathan』を出してさらに、ってスキルアップできたから、やっててよかったなと思います。すごくいまに活かされてる。
- ある意味の修行期間というか。そもそも共同生活を抜けたのはどんな理由からだったんですか?
VaVa - 単純にひとりの時間が好きなタイプの人間なので、自分がやりたいことに対し100%で向き合うのがむずかしい環境だったと言えますね。それでオフィスから実家に戻った感じです。
- じゃあCDSの面々とはアルバムができるまで距離を取ってた?
VaVa - 全然会ってなかったですね。半年くらいはほぼ連絡も取らずに。CDS主催のイベントも自分は関わらない時期もありましたし、申し訳なかったですね。アルバムも仲間に言わずに作っていたので”low mind spaceship"のビデオが公開されて“え、なにこれ?”っていう感じだったみたいです。“VaVaくんラップしてるし、SUMMITのアカウントからアップされてるし、なんなの?”って(笑)。
VaVa - ここまでのサプライズは今後ないんじゃないですかね。あとは平井さんのリミックスに関しても同じ感じでしたね。
- いまはCDSのみんなとも円満に?
VaVa - 超円満ですね(笑)。いろいろとそういうことを経て、仲間といるのがめっちゃ楽しいです。“Bonita”のミュージックビデオ撮影でロンドンに行ったのもすごく楽しかったですね。
- なるほど。そういった経緯を聞くと、アルバムでの所信表明も内省的なカラーも必然だったように思えますね。
VaVa - そうですね。いま聴き返すとデンジャーな作品ではあります。あと正直、これまでの自分はカッコつけてたかなって。もちろん、ラッパーってカッコつけるのが本質だったりするし、カッコいいことやって成立するひとは最高だと思いますが、すこし自分らしくないなとも思いました。
- いわゆる二枚目キャラではないと。
VaVa - そうですね(笑)。自分は意外とおちゃらけてるし、そういうキャラじゃない。聴いてるひとが“VaVaがこれだったら俺もイケるわ”くらいに思ってくれたほうが、スタンスとして楽かなって。“Call”で言ってることもそういうことっすね。
- 今年に入って最初に作った曲が“Call”で、そのあとに"現実 Feelin' on my mind"がYoutubeにアップされて。
VaVa - "Call"は正月に作って、"現実~"もそのすぐあとに。どちらも1日くらいで出来ました。ヒマな日は20枚くらいアルバム聴いて、そのなかから使えそうなフレーズがあるとサンプリング用のリストに入れるって感じで。だけど、たまにヤバいフレーズとかがあるとそのまま作業しちゃうんですよ。”Bonita"も"Call"も"現実~"もそんな感じでできた曲です。
- 普段の制作風景は先日公開された『HARD-OFF BEATS』でも見ることができますね。
VaVa –もともと自分がビートメイカーになったきっかけとして『HARD-OFF BEATS』があったので、本当にうれしかったですね。でも、tofubeatsさんからオファーをいただいたときは緊張しました(笑)。2011年に最初の回を観て、そこからビート作りたいなって思ったんですよ。当時、tofubeatsさんにツイッターで使ってる機材を質問して、もらった返事に書いてあった機材全部買ってはじめたっていう。
@bababylon Ableton live suite7と内部プラグイン、MIDIキーは新品でも10000¥くらいのRoland A-500Sですね。まあなんでもいいですけどこれとオーディオインターフェースとアナログ再生環境あれば同じことはできるはずですよー
— tofubeats (@tofubeats) 2012年3月2日
- なるほど。ちなみにアルバムから現在までで制作環境として変わった点はありますか?
VaVa - オートチューンが導入されたくらいですかね。制作用に買ったんですけど、いまはライブにも使ってます。どうせやるならTravis Scottみたいにガチガチにオートチューンかけてライブしたらいいんじゃないかなって。とはいえ、オートチューンをかけてわかりにくくなる感じは求めてなくって。
どうせ使うなら最近のトラップっぽい感じとは違う方向性で使いたいなって思ってます。
- ここ最近でお気に入りのアーティストを挙げるなら?
VaVa - 最近だとKid Trunksはすごくいいなと思いました。活きがいい感じ(笑)。Ski Mask The Slump Godも表情が豊かでめっちゃ好きですね。Lil Uzi Vertの表情もかわいい感じがあっていいですね。カッコいいし、人間性を感じられる。
- 客観的に考えると、VaVaっていうラッパーのシグネチャーやセールスポイントはどんなところだと思いますか?
VaVa - どうなんでしょうか。ゲームをあまり知らないひとからしたら、ゲーム好きのラッパーって感じなんですかね。自分は自分のことをオタクだとは思っていないですけど。ただ、ゲームとか扱ってるトピックが変わってるだけに、そういう印象がつきやすい気がします。ゲーム好きなひとが曲聴いてテンション上がってくれるのはすごいうれしいですけどね。ただ、ゲームのことばかり歌ってるわけではありませんが(笑)。
- では最後に今後どんな感じで作品を発表していく予定か訊かせてもらえれば。
VaVa - とりあえず現段階だと、1曲単位で納得がいくものを作っている感じではあります。その過程で、いい曲ができればビデオもノリで作れたらなと。"Call"とかもそんな感じだったので。前まではアルバムの枠組みを先に考えて、そこに当てはめていくって形だったから、次のは1曲づついい曲作っていきたいなと。そのぶん時間はかかっちゃうんですけどね。ただ、前作よりはマインドもポジティブな感じになってきたので、次のタイトルは『positive mind boi』にしようかな(笑)。