【インタビュー】Koshy | 日本の音楽シーンに合わせようって気持ちがなかった
国内のヒップホップシーンにおいて2024年最大のバイラルヒットとなっている千葉雄喜の"チーム友達"、そしてその千葉雄喜も参加したMegan Thee Stallionの"MAMUSHI、さらにWatsonの1stアルバム『Soul Quake』やNENEの2ndソロアルバム『激アツ』。その全てのプロデュースを手がけているのがKoshyだ。
今回「Koshyアッツー」のプロデューサータグでもお馴染みのKoshyの初インタビューを彼が利用しているTriga Fingaが運営するスタジオで行った。今やシーンを代表する人気プロデューサーのキャリアをスタートさせるきっかけから、"チーム友達"や"MAMUSHI"の制作秘話までを聞いた。
取材・構成 : 和田哲郎
撮影 : 横山純
- 今は27歳?
Koshy - はい。
- 最初に音楽が好きになったきっかけは?
Koshy - 何個かあるんですけど、小学校の時、映画『ハンコック』の挿入歌で流れたLudacrisの"Move Bitch"がひとつ。その時ヒップホップが好きになったわけではないんですけど、初めてかっこいいと思ったヒップホップがそれでした。それと、高校生の時に友達に教えてもらったKOHHさん(現 千葉雄喜)の存在が、音楽好きになるのにデカかったっすね。
- 高校生の時に聴いたKOHHが、音楽を始めるきっかけになった?
Koshy - そうっすね。何かしらやりたいなと思ったっすね。
- 最初はDJだったんですか?
Koshy - いや、最初はAKAIのMPC TOUCHってやつを買って、それでビート作りを始めました。
- その時は周りの誰かに聞かせたりしましたか?
Koshy - クラブに行く友達が2人ぐらいしかいなかったんで、聞かせる人はいなかったんですけど、SoundCloudにあげたりしてました。もうそのアカウントはないんですけど。でもその時はビート作りに今ほどのめり込んでなかったです。「なにかやりたい」ぐらいな感じで。その中でなんとなくビートを選んだんですよ。
- 他に楽器をやったり、音楽経験はあるんですか?
Koshy - 昔、ピアノを習ってました。そんな大したもんじゃないですけど。
- 高校を卒業してクラブによく行くようになったんですか?
Koshy - はい、クラブめっちゃ行くようになりました。HARLEMが一番行ってましたね。あと中目黒のsolfaもよく行ったっすね。
- その流れでDJを?
Koshy - クラブでめっちゃ遊んでるうちにMARZYとめっちゃ仲良くなって、一緒に住むようになって。そしたら「DJやったら」みたいな感じで誘われて始めたんですよね。その時Red Bull Thre3StyleのチャンピオンのDJ SHINTAROさんとMARZYと3人で一軒家に住んでたんですけど、その家にスタジオみたいなのがついてて、クラブにあるDJ機材とかももらってたんで、いつでもDJできるような状態で。
- その時も並行してビートメイクは続けていた?
Koshy - 時々やってたくらい。毎日とかは全然やってなかったです。
- DJの方が楽しくなっていた?
Koshy - 本当にもう、超楽しかったっすね。
- 改めてビートメイクを集中してやろうとなったのは?
Koshy - やっぱコロナだったっすね。コロナ前まではもう遊び散らかしてて、ほんと毎日クラブに行ってました。でも、コロナで全く行けなくなって、家にひとりでいることが多かったんで、「うわ暇だな」って。DJもなくなって何しようってなった時に、やっぱビート本気でやってみるかと思って。そっから狂ったように作り始めて(笑)。もう、1日10個とか作ってましたね。あの時はほんとに意味がわかんなかったです。僕、1個始めたらグッて超のめり込んじゃうんですよ。「今日はここまで」って決めたらそれを達成するまで絶対やめたくない。自分の中で変な無理難題を作ってそれを達成するまでやる、とかをやっちゃいがちなんで。1ヶ月ですごい数のビートがたまってましたね。それを、クラブに行きまくってた時代に出会ったラッパー達にひたすら送りまくってました。
- 最初に反応があったラッパーは?
Koshy - BFN TOKYOTRILLですね。
- FNMNLにも2020年の11月にBFN TOKYOTRILLさんとの曲"FTCU"で連絡をもらったのを思い出して。だからそれが本当に最初の方だったんですね。それから自分がよく覚えているのは、Koshyさんが全曲提供したSANTAWORLDVIEWさんのアルバム『I'M THE ONE』でした。タイプビートもある中、一つのアルバムをひとりのプロデューサーが作るスタイルって珍しかったと思うんですけど、一枚全部を一緒にやろうというのはどういった流れで決まったんですか?
Koshy - 自然とでしたね。最初は全くそんな気なくて、ただ一曲一曲作ってったら、SANTAくんとも気があったんで、じゃあ次、次ってなっていってめちゃくちゃ曲ができたから「もう厳選してまとめちゃうか」って感じでした。
- Watsonさんの『Soul Quake』もそうですけど、ひとりのラッパーとアルバムを作るとき、どんなプロデュースワークを心がけていますか?
Koshy - SANTAくんの時はまだそこまで考えられてなかったんで、ただただ俺たちがかっこいいと思うものを、売れるか売れないかとか考えずに作った曲を出しちゃったんですけど、Watsonのやつはちょっと考えてみました。でも、Watsonっていいラッパーなんで、リリックとかは逆に手直ししたくないんですよ。個性を消すのが怖くて。どっちかっていうと出すタイミングとか、MVの順番とか、そういう方のプロデュースをやりました。ラッパーによってはリリックを手伝ったりとかもしますけど、Watsonに関してはそういうのだけですね。
- SANTAさんのアルバムで印象的だったのがデトロイトのサウンドが入っていたことで。当時、早耳の人達が聞いているくらいで、それを取り入れるのがすごく早かったなという印象がありました。Koshyさんは、最先端のものを追い続けているんじゃないかなと思っていて。
Koshy - あー、そうっすね。インスパイアを得られるようにチェックするようにしてますね。最初にやってたらカッコイイっすよね、ハハ(笑)。
- ちなみに今はビートは1日どれくらい作るんですか?
Koshy - 1日1個は作るんすけど、昨日とかはマジで何個作ったんだろう……5個くらい作ってました。なんか狂ったみたいに作ってたんですけど。
- ずっと作り続けられるってそれが既に才能だと思うんですが、スランプに陥る瞬間はありますか?
Koshy - 全然あります。
- そこからどうやって回復するんですか?
Koshy - マンネリ化したら別のタイプのビートを作ってみるとか。あとまあ、マンネリ化したとしても、同じことやり続けますね。なんか変わるように努力しながらやりますね。で、続ける。ただやり続ける。それで変わる気がしますね、どっかで。
- 根性論じゃないけど、ひたすらやり続けるしかない。
Koshy - そっすね(笑)。
- 粘り強い性格なんですかね。
Koshy - たぶん諦めもいいんですけど、好きなものには粘り強く好きになっちゃうんですよ。一個ハマるとヤバいほどやっちゃうっていうか。でも、「これ向いてないな」ってやつは結構すぐ諦めます。
- そこら辺はすぐわかる?
Koshy - 本当に心の底から楽しくなかったら、「あっこれ違うな」って。
- じゃあビートメイクはずっと楽しい。
Koshy - 苦しい時もあるけど楽しいっす。
- 苦しい時というのはできない時?
Koshy - なんかうまくいかなくて悔しいみたいな時ですね。
- 今ストックって何曲ぐらい?
Koshy - ストック……どのくらいあるんだろう?
- 数えたことない?
Koshy - ないっす。わかんないっす。でも最近マジでよく言われて改善したんすけど、ビートパック送ったら「多すぎて選べない」って言われますね。
- 使っているDAWはずっと変わらないですか?
Koshy - 最初はAKAIのMPCだったっすけど、今はずっとAbleton Liveです。
- 他にも試したり?
Koshy - Logicもちょっと使ってみたんですけど、でもこれがいいなって。周りに使っている人が多かったっていうのがデカかったかもしれないですね。
- Ableton Liveの操作は独学ですか?
Koshy - 独学と、友達と教え合い系で覚えました。あとYouTube。
- 海外ですごいプロデューサーだなと思う人は?
Koshy - めっちゃいるんですけど、特にかっこいいのは、やっぱSouthside。僕とはキャラクターのタイプは全然違うけど、もうむっちゃボスっててかっこいいですね。808 Mafiaのメンバーにチェーンあげたりとか、イケてるっすね。もちろんビートもめっちゃかっこいいっす。
- Southsideの魅力は?
Koshy - シンプルやし、僕アトランタのヒップホップが好きなんですけど、ほんとそれって感じで。無駄がない。
- トラップの完成形みたいな感じですよね。
Koshy - あと808 Mafiaのメンバーもめっちゃヤバイから、あんだけ彼についてくるのってやっぱ。
- 彼のいろんな力がすごいなって思うんですね。
Koshy - 技術以外の部分、俺も大事だと思ってるんで。そういうのを持ってる人だと思います。
- ちなみにKoshyさんの中でいいビートの基準ってなんですか?
Koshy - いいビートの基準か……自分で作ったビートに自分でフロウをハメて、「いけそう」みたいに思ったらですね。「なんかこれヤベー、俺でもラップできる」みたいなのはいいと思いますね。
- 実際にフロウをハメてみることがあるんですね。自分ではいいビートと思っても、ラッパーが意外と選んでくれないパターンってありますか。
Koshy - ほんとにそればっかり。
- (笑)。それはなぜなんですかね?
Koshy - 複雑に作って、展開も多い、音だけで聴けるようなビートの方が自分的には思い入れがあるんですよ。長い時間かけて作った曲の方が。でも意外と、ラッパーってすっげーシンプルに作ったやつの方を選ぶんで、そこなんすかね、もしかすると。
- でも、いろんなラッパーと仕事をする中で、ラッパーの性質みたいなものも徐々にわかってくるじゃないですか。そこに合わせて調整していく、みたいなことも意識しますか? わかりやすいループにしよう、とか。
Koshy - いや、基本好きに作ってるっすね。考えてる時期もあったんすけど、もう考えなくなりました。「これ売れるかも」とかはなんか違うって気づいたんですよね。
- ビートを作る時ってどこから作りますか? ドラムから?
Koshy - いや、上ネタから作ります。
- 上ネタは弾くこともあるんですか?
Koshy - 弾くこともあるし、サンプリングもあるんすけど、最近とか鍵盤もないとこも全然あるじゃないですか。電車の中で打てるとか。だからスタジオのこのキーボードで叩くか、MIDIをクリックで打っていくか、みたいな感じの方が多くなってます。
- 電車の中でも作ってるんですか?
Koshy - 新幹線とかであれば。暇な時間があればできるだけ作りたいんですよね。
- 今はもうあんまりクラブには行かない?
Koshy - クラブ行ったら、「いやもうこれビート作ってた方がいいわ」ってなっちゃうんですけど、でもビートメイカーとしての立ち位置を確立するまでは、色んなラッパーとも会えるので絶対クラブ行った方がいいと思う。
- 自分がビートメイカー・プロデューサーとしてやっていけるぞという感触がどの曲で得られたか覚えていますか?
Koshy - さっきも喋ったSANTAの『I'M THE ONE』は、なんか変わった気がしますね。自分の人生の起点、名刺になった。誰かが僕を紹介する時とかも「SANTAのアルバムやってるビートメーカーの……」みたいな紹介のされ方をしたり。本当は20曲ぐらいでアルバム出そうとしてたんですよ。曲がもっとあって、デラックス版で出そうとしてたんですけど、いろいろあってなくなって。出したいのいっぱいあったな……
- それが2022年。そこからやり方を変えたことや、マインド的に変わった部分は?
Koshy - 結構ウロウロしました。今はそうじゃないんですけど、若い時って影響されやすいのでスポンジみたいに吸収しちゃって。最初は好きにやっていたけど、次はプロデューサーとして売れる曲を作らなくちゃいけないってマインドになって右往左往してましたね。「日本人はどういうのが好きなんだろう」とかめっちゃ研究したし、マーケティングとか、今のサブスクの中でどういう出し方をすればいいのかとか、そういうのもすごい試行錯誤した時期もありました。でも、また戻りました。好きにやればいいんだって。
- 「売れる曲を作らなきゃ」という時期は、悩みながら作っていた?
Koshy - そうっすね。一曲一曲。今はマジひたすら作ってるんですけど、その時期は一曲入魂系で作ってました。今ほど楽しくなかった気がするっすね……だし、「売れさせるって何?」って。
- でも本当にヒップホップって今難しいですよね。もうコロナ以降の今ってあらゆるものがトレンドになって、なにが流行ってるかわからない状態という感じがあるじゃないですか。その中でマーケティングっぽい視点で「売れるビート」ってすごく難しい。その考え方から、「やっぱり好きにやってみよう」と変わったのは何がきっかけ?
Koshy - 千葉(雄喜)さんがきっかけですね。前に一回、ある先輩から「Koshyが作ってるビートがかっこいいのはわかるんだけど、これ日本じゃ売れないよ」みたいに言われたんですよ。「そうなんだ」と思ったんですけど、千葉さんとレックするようになって、俺が好きに作った、本当に好きなビート、今まで売れないって言われてたようなビートで、「やべー!」みたいな曲が千葉さんとならできるんですよ。「全然いけんじゃん!」みたいな。"チーム友達"もそうだし、"MAMUSHI"も超ハードだし、わかりやすいビートではないと思うんですよ。「やっぱ好きに作ってもいいものって生み出せんじゃん」みたいな、「日本人はこうだから」とかそんな気にしなくていいんだって。千葉さんがめっちゃでかいっすね。
- 千葉雄喜さんと一緒にやるようになったのはどういう流れだったんですか?
Koshy - Watsonの"小リッチ"のMV撮影を大阪にたまたま見に行ってて、Young CocoとかJin Doggさんが使ってるスタジオに寝泊まりさせてもらうことになって。そしたら「なんか千葉が暇してるらしいんだけど今から来てもいい?」ってJake(Jin Dogg)さんに言われて、Cocoと僕は「もちろん全然」って。そしたら千葉さんが来たんですけど、前に一度会った時のことは覚えてなかったんですよ。だから僕もはじめましてとしてもっかい挨拶して。で、最初は作ったばかりの千葉さんの曲を聴かせてもらったり、最近聴いてる曲とか雑談してたんですけど、そしたら、「俺、『チーム友達』って言葉使って曲作りたいんだよね」って千葉さんが言って、Jakeさんに確認したら「いいよ」ってなって。その後はリリック通りなんすけど、鶴橋にお好み焼き食い行って、Jakeさんとも合流して、その後みんなでまたスタジオ戻って。その場でビートをCocoと作って、完成したやつにそのまんま千葉さんがフリースタイルで「チーム友達、チーム友達…」って乗っけたって感じで。最初の出会いが"チーム友達"でした。
- そのタイミングで大阪にいなかったら"チーム友達"はできていなかったかもしれない。
Koshy - ほんとそうですね。全部運めっちゃいいっす。
- "チーム友達"はここまでのムーブメントになると思ってました?
Koshy - 思ってました。
- それはどういう部分で?
Koshy - 千葉さんの曲はもう、違いすぎますね。全部が違いすぎて「どこが」って言えない。もう全部やばいです。まあ……聞けばわかるって感じで(笑)。これから出るやつも本当にやばすぎます。
- この流れで"MAMUSHI"についても聞きたいんですけどMegan Thee Stallionがこのスタジオに来たんですか?
Koshy - はい、来ました。
- どういう流れで来ることになったんですか?
Koshy - 千葉さんが別のとこで会ってたみたいで。このスタジオの隣が千葉さんのスタジオなんですけど、ここを使うこともあって、「ちょっとMegan来るからこっちのスタジオ使っていい?」ってエンジニアの子が千葉さんに言われて。で、千葉さんから僕に電話かかってきて「Megan来るけど、来る?」って聞かれたので「行きます」って。その時代々木でレコーディングしてたんですけど、すぐここに来ましたね。王子にまさかのMegan登場。
- (笑)。
Koshy - やばかった(笑)。すげーみたいな。
- 何人くらいで来たんですか?
Koshy - やばい人数連れてきちゃった(笑)。もう本当にこっから行列で外出ちゃうぐらい人連れてきて、全員は入れないから、半分ぐらい帰ってもらいました。しかもこの建物でガチガチのセキュリティーが二人エレベーターの前に立ってました。
- 怪しすぎる(笑)。
Koshy - だから他の住人とかどう思ってたんだろうと思って。
-"MAMUSHI"もその場でできた曲ってことですか。事前にビートを送ってとかじゃなくて。
Koshy - そうそう、その場で。
- その場でビートを選んで、バースもフックもそこで完成した?
Koshy - いやなんか、千葉さんと俺のスタイルが、スタジオに着いたらまずその場でビートを作るんです。絶対にそれがスタート。ストックのビートが嫌いなのかわかんないですけど、千葉さん絶対使わないんですよね。フリースタイルで作ったビートしか。
- じゃあ、30分とか1時間でビートを仕上げなきゃいけない。
Koshy - そうなんですよ。
- プレッシャーじゃないですか。
Koshy - 時間制限はないですけど、でもまあまあ焦りますよね。Duke Deuceの時もそうだったし、ルールとかじゃないんですが絶対そうなるんですよね。あの時とか、Dukeの目の前でビート何個作ったんだろう。途中Duke寝てましたもん。
- (笑)。
Koshy - 千葉さんが「次行こう」って言うんで。口癖が「次行こう」で、それ言われたら次のビート作んないといけないんですよ。ハマるやつが来たら、もう速攻マイクのとこに歩いていって録る。
- そんなスピード感なんですね。
Koshy - Dukeの時は3つ目か4つ目でしたね。で、Meganの時は1個作ったら「そのメロディーむっちゃいいからループにして」みたいな。で、「次行こう」ってなって。それでできたのが"MAMUSHI"。
- 2個目ってことですか。
Koshy - はい。
- そういうスピーディーに作らないといけない状況にはもう慣れている?
Koshy - いつもと一緒と言ったら嘘になります。でもそんなガチガチ焦るとかはないんですよ。若干プレッシャーはあるんですけど。
- やっぱり日々作り続けてるから、そういう状態の中でもアイデアが浮かぶということなんですかね。
Koshy - そうっすね。でもMeganの時のおかげでDukeの時はもっと冷静にやれたし。まあ慣れなのかな。あの人数に見られてたのは初めてだったので、あれはなかなか……
- ここに何人くらいいたんですか?
Koshy - 確実に15人はいましたね。
- すごい状況ですね。
Koshy - こっちも自信はあるんですけど、やっぱりカルチャーの本場の人たちの首を縦に振らせないといけないじゃないですか。その緊張感みたいなやつありましたね、正直。それが強かったな。
- "MAMUSHI"のビートは、まず千葉さんがセレクトして、それをMeganに聴かせた?2人とも同時に聴いたんですか?
Koshy - いや、Meganがセレクトしました。Meganセレクトで、Meganはその場で作る気あったのかわかんないんですけど、とりあえず千葉さんがフリースタイルで乗せ始めて、みたいな。Meganはフックだけ録りましたね。バースは後日録ってました。Dukeもその場で作ってったっすね。
- 他の日本のラッパーでもそういう作り方をすることはあるんですか?
Koshy - Cocoとかはもう完全にそれでパックを作ってますね。ストックは使わないです。でもWatsonとかはストックだったり、Watson用でビート作ったり。距離感が近ければ近いほどその場でっていうのはやりやすいですよね。あと、フリースタイルで録るラッパーじゃないとできないかも。だから限られてるっすね。
- 普通のスピード感だと時間がかかっちゃうっすもんね。
Koshy - でもフリースタイルの人だったら、僕がビート作ってる間にもう完成されてる。
- "MAMUSHI"も今すごいことになっていますね。
Koshy - びっくりっす。
- それは予想してました?
Koshy - いや、そこは「まさか」すぎました。でも僕は海外のラッパーと曲作るのを目標にずっとやってきたんで、Meganとやれたのはすごい嬉しかった。日本で「海外の誰々と作ったことある」って人だったら意外といると思うけど、リリースするまでがやっぱり……本当にリリースできるとこまで行くのって、確率的にどうなんだろうと思ってて。だからまずリリースされるって聞いて、嬉しくて。でも、嬉しいけど、『MEGAN』の中のフィーチャリングにも他に豪華な人が入ってるし、"HISS"とかめっちゃ売れてたし、他にもヒット曲あるだろうから、まあ「アルバムの1曲」ぐらいになるのかな思ってたら、今一番聴かれていて、マジかって感じですね。しかもあのビートで。
- ビート自体は結構シンプルですもんね。
Koshy - シンプルだし、速くもないから。ハットも2ステップのリズム早めのやつとかじゃないし、ノリも玄人系なのに、それで流行るのもヤバいなって、びっくりして。
- "MAMUSHI"が出てから海外からのリアクションだったり、ビートの依頼ってありますか?
Koshy - ありますね。
- もう何人かに送ってる?
Koshy - そうっすね、近々海外のレーベルと契約するので色々進展ありそうなんでチェックしてほしいですね。
- 今の自分の状況って、客観的に振り返れるかわかんないですけど、どうですか?
Koshy - 生活で言ったらもう180度変わったっすね。
- こういう状況になると想像していました?
Koshy - 想像してました。オヤユビさん(Triga Finga)も知ってると思うけど、僕ずっと「ビルボード取りたい」とか「海外のラッパーとやりたい」って目標でずっとやってきたんで、それは想像しまくってましたね。
- 「これは日本ではウケないよ」と言われたのも、もともと海外に意識が向いてたからなんですかね。
Koshy - そうだと思うっす。そもそも日本の音楽シーンに合わせようって気持ちがなかったっす。なんならこっちの感性に近づいてきてほしいぐらい。こっちが寄せるんじゃなくて、っていう気持ちでやってましたね。今もそうですけど。
- そんな簡単に言えるものじゃないかもしれないですけど、日本でウケるビートと海外でウケるビートって、どういう差があるんですか?
Koshy - まず乗りやすさ。あとやっぱ、明るめのエモい系のやつは日本では人気ありますね。海外はドープでハードなやつでもガンガン売れるんで。こっちでハードなやつは、ちょっとチャラめなやつとかならウケる傾向があると僕は思うんですけど、向こうってもっと幅広くて。そういう違いがある気がする。
- やっぱり日本だとメロディーがわかりやすく乗ってるとか。
Koshy - 展開すごいあったり、歌っぽいやつとか、分かりやすいのが好きな感じがしますよね。
- それこそSouthsideのビートなんて、展開もなにもないですもんね。
Koshy - いや本当に。ラッパーがイケてればいい感じに融合して、そういうビートでもいけるぜっていうのを証明していきたいですよね。
- あと、Watsonさんとの制作についても聞きたいんですけど、そもそものきっかけは?
Koshy - 最初Choppa(Capone)とBene(Baby)がなんかのパーティーに呼ばれてて、知り合いだったんで遊びに行ったんですよ。その後にみんなでMADAM WOOに行ったんですけど、その時にChoppaの連れとしていたのがWatsonで。まだ売れてない時でした。でもめっちゃ礼儀正しくて、こんなに礼儀正しい子いるんだってくらい衝撃的なぐらいいい子だなって思ったんですよ。その後DMも来て、「今日はありがとうございました。もしよかったら……」みたいな。そんなんビートを送るじゃないですか。正直曲を聞いてもなかったけど、送ったっすね。そっから始まりましたね。
- その時にアルバムのビートは入っていたんですか?
Koshy - えーっと、どうだっけ。一回見ていいですか。ボツにしたやつがめっちゃあるんで。あーでも、"24/7"とか"Plan A"とか、"Fake Love"とか、その時のビートパックに入ってたっすね。
- アルバムをまるっと全部一緒にやろうとなったのはどういう流れでしたか?
Koshy - ほんと作ってくうちに、お互いに相性いいなって思ったと思うんですよ。SANTAの時と一緒っすけど、とりあえずどんどん作って、もうまとめちゃうか、みたいな感じで出したっすね。で、今、『Soul Quake 2』を作ってます。めっちゃ聴いてほしいっすね。
- Koshyさんから見て、Watsonのラッパーとしての魅力ってどういうところだと思いますか?
Koshy - ありのままってとこっすかね。なんも隠してない。嘘がないっすね、本当に。そういうラッパーが好きっすね。だしやっぱり、今のヒップホップシーンって、ラップがうまいとか、かっこいいとか、USの誰々をうまく再現できてるとか、もういっぱいいると思うんですよ。いい意味ですごい成長していて。昔はそれができていたら絶対超売れてたっしょってくらい。そんな人がいっぱいいる中で、Watsonってそういう「誰々っぽい」とかが一切ない。WatsonはWatson。そこがすごい魅力っすね。
- 10年前と比べたら全体のレベルはすごい上がってると思うし、ラッパーの数も増えてるし、プロデューサーの数も増えてると思うんですけど、そこから突き抜けるのってすごく難しいんだなと思います。
Koshy - そうなんですよね。こんなん言うのはアレですけど、子供の時から楽器すげえやってきた子だとか歌を習ってた子だとかいるわけじゃないですか。正直Watsonより歌うまい子、俺より色んな楽器を弾ける子とかも、ビート作ってたりラッパーやってたりシンガーやってたりする。けど、絶対それじゃないなにかが必要。それを持ってるっすよね。僕らは絶対に。
- それはどうやったら獲得できるものですか?
Koshy - プロデューサーとラッパーは獲得の仕方が一緒の部分もあるし、違うところもあると思うんですけど……今こういう時代になったけど、プロデューサーは、やっぱりラッパーと直接セッションすること、直接会ってコミュニケーションを取ること。ビートの共作にしても、もちろんネット上でもいいとは思うんですけど、直接会ってセッションしたり。たとえば日本人で、海外のラッパーの曲にループが使われてるプロデューサーって一人、二人じゃなくて意外といるんすよね。でも、なんていうんだろうな、それでも食えてない人がいっぱいいるっていうのは、やっぱり直接会ってないからだと思うんすよね。僕はMeganも、Dukeも、千葉さんも、Watsonも、みんな直接会って、ビートを作って、こっちも見せつけるつもりで聴かせていて……っていうのがあった上で、他のビートメーカーとの差が生まれていくと僕は思ってる。
- 関係性の部分が違う。
Koshy - そうですね。1回、2回会ったくらいで関係性は薄いかもしんないけど、やっぱ直接会っとくってことは、天と地ほど違うと思うんです。ループ使ってもらうのとは絶対違うっすね。それこそ、海外の人とやってもみんなタグ入ってないじゃないですか。別に悪いことじゃないと思うけど、直接会ってちゃんとやってれば、そういうのも起こらないと思うんですよ。だからやっぱり、プロデューサーはそれが必要な気がします。だって、僕なんて前に一切出ずに、メディアにも出てないのに今みたいになれてるのは、アーティストたちと直接関係持ってるからこそだと思うんで。そこが大事な気がします。
- NENEさんとも作ってるんですよね。(※アルバム『激アツ』が8月にリリース)
Koshy - めっちゃ自信あるっすね。NENEさんも個性がすごいありますよね、めちゃくちゃ。なんていうんだろうな……こう、個性はみ出してる感じがすごいいいっすね。ほんと好きっすね、ああいう人。
- じゃあ、最後に今後のビジョンを聞かせてください。
Koshy - やっぱり「日本人やべえっしょ」みたいなのを見せていきたいっすよね、めっちゃ。満足しないで、もっともっと海外のラッパーとやって、グラミーもゲトりたいし、プラークめっちゃ飾りたいっすよね。今回初めて1位取ったっすけど、それが当たり前みたいになれるように。それで、「日本のヒップホップシーンやばいっしょ」みたいなのを見せていく、世界に届けていくのが目標です。
- ありがとうございました。